説明

メタン含有排ガスの浄化方法、メタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法及びこれを用いた三元触媒

【課題】 メタン含有排ガスに含まれる一酸化炭素の除去を効率的に行うことができるメタン含有排ガス浄化方法を提供する。
【解決手段】 耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属と、硫黄とを担持した三元触媒に、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させるメタン含有排ガス浄化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン含有排ガス浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の内燃機関の排ガス中には、窒素酸化物や一酸化炭素、さらには炭化水素が含まれる。これらの成分は大気中にそのまま放出すると環境等の観点から問題があるので、従来、三元触媒法を用いて排ガスから上記3成分を除去して排ガスを放出していた。三元触媒法は、排ガスの空燃比を制御して排ガス中の酸化性成分と還元性成分とを釣り合わせた上で、白金やロジウムを含む触媒(三元触媒)に排ガスを通じて、窒素酸化物、一酸化炭素、および炭化水素の同時除去を図るものである。
【0003】
三元触媒を用いた排ガスの浄化方法は、ガソリン自動車の排ガス浄化に適用され、自動車排ガスからの窒素酸化物低減に多大な効果をもたらした。三元触媒法をガソリン自動車排ガスに適用した場合、空燃比λが1.000及びその近辺では、窒素酸化物、一酸化炭素、および炭化水素のいずれの成分も良好に除去できる。一方、λが1.000よりも高いリーン(燃料希薄すなわち酸素過剰)側の空燃比では、一酸化炭素や炭化水素の浄化率は高く維持されるが、窒素酸化物の除去率が低下する。他方、λが1.000よりも低いリッチ(燃料過剰すなわち酸素不足)側の空燃比では、窒素酸化物の浄化率は高いが、一酸化炭素や炭化水素の浄化率は低下する。リーン及びリッチ側に傾いた空燃比で浄化性能が低下するのは、酸化性成分と還元性成分のバランスが崩れるためである(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
そして、ガスエンジンの排ガス等の、炭化水素が主としてメタンである排ガスの浄化においても、三元触媒の適用が提案されてきた(例えば、非特許文献1、2及び特許文献1、2等参照)。ここで、ガスエンジンの排ガスのように、排ガス中の炭化水素が主としてメタンである場合、非特許文献2及び特許文献1、2(特に非特許文献2の図4及び図5)に記載されているように、ガソリン排ガスと同種の触媒や使用条件では高い浄化率が得られないことが明らかとなってきた。具体的には、炭化水素がメタンである場合、リーン側でもメタンの浄化率も低く、λ=1.000付近での窒素酸化物の浄化率も低い。これらは、メタンが炭化水素の中で最も安定性の高い炭化水素で反応性に乏しいことに起因していると考えられている。よって、窒素酸化物の浄化率を高く維持するためには、空燃比をリッチ側に移動させなければならなかった。
【0005】
このように、天然ガスの燃焼排ガス等の炭化水素の主成分がメタンであるガスに、三元触媒法を適用するには困難な点があるが、これに対して、種々の改良が提案されている。例えば、三元触媒に多く活性金属を担持させたり(例えば、特許文献3参照。)、三元触媒に通常用いられる白金、ロジウムに加えて、パラジウムを担持させ、リーン条件でのメタン分解能を向上させたりすること(例えば、特許文献4参照。)が提案されている。また、圧縮天然ガス(CNG)車の排ガス浄化には、白金/ロジウム系の触媒より、パラジウム系の触媒が有望であるとの報告もなされている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
【非特許文献1】小野嘉夫、御園生誠、諸岡良彦編、“触媒の事典”、 朝倉書店、2000年(260頁)
【非特許文献2】ハナキ−ヤスナリ他、“JSAE Review”、 17巻259〜265頁、1996年(図4及び図5)
【特許文献1】再公表公報WO96/25593(背景技術、第3図、第4図)
【特許文献2】特開平5−23592号公報(段落番号〔0005〕)
【特許文献3】特開平5−38421号公報(段落番号〔0004〕)
【特許文献4】特開平6−246159号公報(段落番号〔0004〕〜〔0006〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、これらの三元触媒及び排ガス浄化方法を採用した場合であっても、メタンの反応性が低いため、窒素酸化物の除去性能を充分に得るためには、高価な三元触媒を多量に用いる必要があるという問題点があった。あるいは、窒素酸化物の浄化性能が高いややリッチな条件に空燃比をシフトさせた場合、一酸化炭素の除去率が低く(例えば、特許文献3、図5および6参照。)、一酸化炭素の放出が増加する虞があった。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、メタン含有排ガスに含まれる一酸化炭素及び窒素酸化物の除去を効率的に行うことができるメタン含有排ガス浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するための本発明のメタン含有排ガス浄化方法の特徴手段は、請求項1に記載されているように、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属と、予め硫黄とを担持した三元触媒に、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させる点にある。尚、本明細書において、「理論空燃比」とは、空気量が理論空気量の0.985倍〜1.000倍(λ=0.985〜1.000)程度の範囲をいう。
【0010】
上記特徴手段において、請求項2に記載されているように、前記三元触媒が、前記貴金属として、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムを担持することが好ましく、
請求項3に記載されているように、前記耐火性無機酸化物が、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物であることが好ましく、
請求項4に記載されているように、前記三元触媒が、前記耐火性無機酸化物に対して質量比で0.01〜5%の硫黄を予め担持していることが好ましく、
請求項5に記載されているように、前記メタン含有排ガスと前記三元触媒とを、400〜550℃で接触させることが好ましい。
また、請求項6に記載されているように、前記メタン含有排ガスが一酸化炭素を含むガスである場合、メタンに対して一酸化炭素を優先的に除去することが好ましい。
【0011】
この目的を達成するためのメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法の特徴手段は、請求項7に記載されているように、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持したメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法であって、硫黄含有ガスに前記三元触媒を接触させ、前記三元触媒の表面に硫黄成分を付着させる点にある。
【0012】
上記特徴手段において、請求項8に記載されているように、前記硫黄含有ガスが、二酸化硫黄ガス又は硫化水素ガスであることが好ましく、
請求項9に記載されているように、前記三元触媒が、前記貴金属として、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムを担持することが好ましく、
請求項10に記載されているように、前記耐火性無機酸化物が、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物であることが好ましい。
【0013】
また、この目的を達成するための本発明の三元触媒の特徴構成は、請求項11に記載されているように、請求項7〜10の何れか1項に記載の前処理方法を実施して得られる点にある。
【発明の効果】
【0014】
発明者は鋭意検討を進めた結果、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属と、予め硫黄とを担持した三元触媒に、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させると、若干リッチな条件側に空燃比が傾いた場合(例えば、λ=0.985)であっても、前記メタン含有排ガスに含まれる窒素酸化物の浄化性能を高く保ちつつ、一酸化炭素の浄化性能が向上することを見出した(実施例を参照。)。本発明は、かかる新知見に基づいて完成したものである。従来、硫黄成分は三元触媒を被毒するので触媒と硫黄成分との接触は可及的に抑制すべきであると考えられていた。しかし、特定の組成を有する三元触媒、即ち、請求項1に記載の、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持し、更に硫黄を担持した三元触媒では、窒素酸化物の高い除去性能を発揮し、且つ、一酸化炭素の除去を効率的に行うことができる。
【0015】
そして、請求項2に記載されているように、前記貴金属の組み合わせとしては、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムが好適である。
【0016】
また、請求項3に記載されているように、前記耐火性無機酸化物として、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物が好適である。
【0017】
また、前記三元触媒が担持する硫黄が、前記耐火性無機酸化物に対して質量比で0.01%より少ないと、上述した効果が発揮できないおそれがある。他方、5%より多くても、本法を実施する際にガス中に硫黄成分が揮散して浄化後のガスに混入する虞れがある。よって、請求項4に記載されているように、前記耐火性無機酸化物に対して質量比で0.01〜5%の硫黄を予め担持していることが好ましい。
尚、本法で用いる積極的に硫黄を担持させた三元触媒の硫黄担持率の範囲は、天然ガス系都市ガスを燃料とするガスエンジンなどから排出される通常の燃焼排ガスを三元触媒に接触させて、所謂「硫黄被毒」状態となった三元触媒に比べてかなり高い。
【0018】
請求項5に記載されているように、前記メタン含有排ガスと前記三元触媒とを、400〜550℃で接触させ、前記メタン含有排ガス中の一酸化炭素、窒素酸化物およびメタンの除去反応を行うと、前記三元触媒の熱による劣化(粒成長)を抑制することができる。また、低温で運転されるガスエンジン等では排ガスの温度がこの範囲にあるので、排ガスを温度調整することなく浄化することができる。
【0019】
ここで、請求項6に記載されているように、前記メタン含有排ガスが一酸化炭素を含むガスである場合、前記三元触媒がメタンに対して一酸化炭素を優先的に除去するものであると、安全上、特に好ましい。
【0020】
或いは、請求項7に記載されているように、メタン含有排ガス浄化用三元触媒であって、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持したものに、硫黄含有ガスを接触させる前処理を施して、前記三元触媒の表面に硫黄成分を付着させることによっても、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させた場合、若干リッチな条件側に空燃比が傾いたとき(例えば、λ=0.985)であっても、前記メタン含有排ガスに含まれる窒素酸化物の浄化性能を高く保ちつつ、一酸化炭素の浄化性能を向上させることができる。本法によれば、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持した従来の三元触媒が、ガスエンジン装置に組み込まれた状態であってもオンサイトで適用可能であり、簡便に当該三元触媒の性能を向上させることができる。
【0021】
ここで、請求項8に記載されているように、前記硫黄含有ガスが、二酸化硫黄ガス又は硫化水素ガスであると、コスト面で優れているので好適である。
【0022】
また、請求項9に記載されているように、前記三元触媒が、前記貴金属として、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムを担持するものが好適である。
【0023】
また、請求項10に記載されているように、前記耐火性無機酸化物が、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物が好適である。
【0024】
そして、請求項11に記載されているように、請求項7〜10の何れか1項に記載の前処理方法を実施した結果得られる三元触媒に、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させると、若干リッチな条件側に空燃比が傾いた場合(例えば、λ=0.985)であっても、前記メタン含有排ガスに含まれる窒素酸化物の浄化性能を高く保ちつつ、一酸化炭素の浄化性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本発明に係るメタン含有排ガス浄化方法は、理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを、三元触媒に接触させるものである。前記三元触媒は、耐火性無機酸化物に白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持し、更に、予め、使用前に硫黄を担持させて構成される。
【0026】
前記耐火性無機酸化物は、担体として、後述する貴金属をその表面に高分散に担持させることができるものであれば、制限はないが、特に好ましくは、アルミナ、セリア、ジルコニアからえらなる群から選択される無機酸化物、またはこれらの混合物である。前記耐火性無機酸化物の比表面積は、あまりに低いと前記貴金属を高分散に保つことができなくなる一方、あまりに高表面積でも不安定となって使用中に焼結が進行するおそれがある。従って、上記条件を満たすため、通常、比表面積1〜200m/g、好ましくは、10〜150m/gの耐火性無機酸化物を用いるが、その組成に依存してこれらの範囲を逸脱することを許容する。
【0027】
前記三元触媒が担持する活性金属としての貴金属は、特に、イリジウム−白金、またはロジウム−白金の組み合わせが好ましい。前記貴金属の担持量は、少なすぎると三元触媒活性が低く、また多すぎると粒径が大きくなり担持量に見合った性能が得られなくなって経済性に劣る。よって、前記貴金属の担持量は、好ましくは前記耐火性無機酸化物に対して、質量比で0.1〜10%、好ましくは0.2〜5%、より好ましくは0.5〜2%とする。
【0028】
本法で使用する三元触媒は、更に、硫黄を必須成分として、予め担持する。前記三元触媒に存在する硫黄成分の化学状態は必ずしも明らかではないが、硫酸イオン、亜硫酸イオン、または硫化物イオンの形態で存在していると推測される。従って、本明細書において三元触媒の成分としての「硫黄」は「単体硫黄」のみを意味するものではなく、硫黄原子を有する化合物形態の硫黄成分をも含む。硫黄の含有量は、少なすぎると効果が発揮できないおそれがある。他方、多すぎても、本法を実施する際にガス中に硫黄成分が揮散して浄化後のガスに混入する虞れがある。よって、前記耐火性無機酸化物に対して、質量比で0.01〜5%、好ましくは0.02〜1%、より好ましくは0.1〜5%の硫黄(化合物形態で存在する場合、その化合物中の硫黄)を予め担持していることが好ましい。
【0029】
上記三元触媒の製造方法は、特に限定されず、例えば、以下の方法で調製することができる。
(1)上記2種以上の貴金属またはこれらを含む化合物と、気体ではない硫酸化合物とを、順次または同時に耐火性無機酸化物に担持させる。
(2)上記貴金属を担持する耐火性無機酸化物により構成される触媒前駆体を、硫黄含有ガスで処理し、表面に硫黄を担持した三元触媒を得る。
【0030】
(1)の方法では、例えば、上記2種以上の貴金属またはこれらを含む化合物と、硫酸化合物とを含む水溶液に、上記耐火性無機酸化物を浸漬した後、乾燥させ、これを焼成して本法で用いる三元触媒を得る。前記貴金属と硫黄成分とは同時に担持させてもよいが、別工程で逐次的に担持させてもよい。このとき、必要に応じて、次の担持までの間に、適宜乾燥や仮焼等の処理を施すことも許容する。
【0031】
前記硫酸化合物としては、焼成によって不必要な成分が消失する硫酸及び硫酸アンモニウム、或いは、硫酸の貴金属塩(例えば、硫酸ロジウム)が好適である。硫酸化合物は、効果を発揮可能な程度の量として、触媒全体に対する質量比で、硫黄として0.01〜10%、好ましくは0.05〜2%、より好ましくは0.1〜1%となるように担持させる。前記貴金属を含む化合物としては、貴金属の水溶性化合物が好適であり、例えば、塩化白金酸、塩化ロジウム、塩化イリジウム酸、テトラアンミン白金硝酸塩、硝酸ロジウム等が挙げられる。但し、必要に応じて、水溶液に代えて、アセトン等の有機溶媒にトリス(アセチルアセトナト)イリジウム等の有機金属化合物を溶解した有機溶媒系を採用することもできる。また、水に水溶性の有機溶媒を加えた混合溶媒としてもよい。
【0032】
乾燥は、大気中で行ってもよく、減圧条件下で常温〜100℃程度の温度条件で行ってもよい。焼成時に流通するガスは、通常の空気でよいが、空気あるいは酸素に窒素等の不活性ガスを適宜混合したガスを用いても良く、この他水蒸気や二酸化炭素等を添加しても良い。焼成温度は高すぎると、担持された貴金属の粒成長が進んで高い活性が得られない。逆に低すぎても焼成の効果が無く三元触媒の使用中に貴金属の粒成長が進んで安定した活性が得られないおそれがある。従って、安定して高い活性をうるためには、焼成の温度は450℃〜650℃の範囲とするのがよく、より好ましくは500℃〜600℃の範囲とするのがよい。
【0033】
(2)の方法では、上記(1)の方法と同様にして、前記耐火性無機酸化物に前記貴金属を担持させた後に、硫黄含有ガスで処理し、表面に硫黄を担持させるものである。この方法を採用する場合、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持した市販の三元触媒を前記触媒前駆体とし、これを改変して本法で使用可能な三元触媒とすることができる。言い換えれば、(2)の方法は、耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持したメタン含有排ガス浄化用三元触媒の性能を向上させるための前処理方法とも言える。
【0034】
前記硫黄含有ガスとしては、二酸化硫黄、硫化水素等の硫黄化合物ガスが好適である。また、必要に応じて、前記硫黄化合物ガスに、二酸化炭素や水蒸気等のガスを混合することを許容する。硫黄含有ガスによる処理は焼成後に施してもよいが、焼成時に流通させるガスに硫黄化合物ガスを使用または混入させ、焼成と同時に施すこともできる。最終的に、その効果を十分発揮できるように、触媒全体に対して硫黄原子として、0.01〜10質量%、好ましくは0.05〜2質量%、より好ましくは0.1〜1質量%となるように硫黄成分を担持させる。この担持量の調整は、例えば、処理時間、処理に用いるガス中の硫黄含有ガスの濃度等を調製することにより可能である。
【0035】
本法に用いる三元触媒は、その形状を、ペレット状やハニカム状等任意の形状に成型して用いても良い。例えば、コージェライト等の耐火性ハニカム上にウオッシュコートしたりして用いてもよく、このようにすることで、圧力損失を低減することができる。耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製した三元触媒に必要に応じて酸化ジルコニウムゾル等を加えてスラリー状にしてウオッシュコートしても、あらかじめを同様の方法で耐火性ハニカム上にウオッシュコートしてから上記の方法に従って貴金属及び硫黄を担持してもよい。コージェライトにウオッシュコートする場合の三元触媒のコート量は、コージェライト1リットルあたり、50〜400g、好ましくは100〜300gとする。
【0036】
本発明の三元触媒は、必要に応じて公知の他の触媒と混合併用して用いても良い。本発明の三元触媒との混合の方法は、両粉体を混合粉砕しても良く、またウオッシュコート触媒とする場合は、両粉体を混合粉砕して得た混合粉体をウオッシュコートしても良く、2またはそれ以上の層に分けて別々にあるいは混合比を変えてコートしても良い。
【0037】
上記の三元触媒に、理論空燃比にあるメタン含有排ガスを接触させ、前記メタン含有排ガス中の一酸化炭素、窒素酸化物およびメタンを除去する。前記メタン含有排ガスは、例えば、ガスエンジン等にように、メタンを含む燃料を燃焼機関で燃焼させた結果生じる排ガスである。前記メタン含有排ガスガスの空燃比が理論空燃比にある場合には、空燃比を調整する必要はない。かかる空燃比にはないメタン含有排ガスが浄化対象である場合には、公知の方法で前記メタン含有排ガスを理論空燃比となるように調整する。例えば、前記燃焼機関の燃焼器に投入されるガスの空燃比を直接制御する方法や、燃焼器から排出されたガスの酸素濃度を測定し、これに基づいて空気等の酸化性ガスまたは燃料等の還元性ガスを添加する方法が挙げられる。
【0038】
「理論空燃比」とは、通常、燃焼器に投入される燃料に対する燃焼用空気量が完全燃焼に必要な最小値(理論空気量)であることを言い、例えば、空気量が理論空気量の0.985倍〜1.000倍(λ=0.985〜1.000)程度の範囲にあることをいう。実用上、空燃比を数10ミリ秒〜数秒単位で振動させる場合においては、時間平均の空燃比が上記の範囲に入っていればよい。特殊な場合として、燃焼器の後段で空気や燃料等を添加する場合には、これらと燃焼器に投入される燃料または空気量とを合算して計算したものが上記の範囲にあればよい。燃焼用空気に、通常の空気ではなく、酸素富化空気等酸素濃度の異なるガスを用いる場合であっても、酸素含有量に応じて理論ガス量は計算できるので、同様に理論ガス量の0.985倍〜1.000倍程度とすればよい。
【0039】
簡便には、前記三元触媒に接触させるメタン含有排ガスの組成が、下記の2条件を共に充足する範囲となるように調整することで、上記空燃比に該当する。
条件1:
(〔H〕×0.5+〔CO〕×0.5) < (〔O〕+〔NO〕×0.5+〔NO〕)
条件2:
(〔H〕×0.5+〔CO〕×0.5+〔CH〕×2)
> (〔O〕+〔NO〕×0.5+〔NO〕)
ただし、〔〕内は、ガス濃度をppm(体積基準)で表したものである。
【0040】
尚、使用する触媒の量は、少なすぎると有効な酸化性能が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)として200,000h−1以下となる条件で使用するのが望ましい。他方、GHSVを低くするほど触媒量が多くなるため、触媒性能は向上するが、例えば1000h−1以下で用いるような場合には経済性の問題に加えて、触媒層での圧力損失が大きくなる問題が生じるおそれがある。従って、GHSVとして、10,000〜60,000h−1の範囲となる条件で前記三元触媒を使用する。
【0041】
本発明で使用する三元触媒は高い活性を有するが、あまりに低温では活性が下がり、所望の酸化性能が得られない虞れがあるので、触媒層温度が400℃以上に保たれるようにするのが好ましい。また600℃を超えるような温度での使用では、三元触媒の耐久性が悪化するおそれがある。また、600℃以上の温度で長時間空気を流通する等した場合には活性金属の凝集(粒成長)が促進されるため、三元触媒劣化の懸念がある。より好ましくは400〜550℃の低温運転のエンジンから排出されたガスをそのまま触媒に接触させる。
【0042】
前記メタン含有排ガスには、燃料中の硫黄分に由来して二酸化硫黄等の硫黄成分が含まれることがある。本発明で使用する三元触媒は硫黄を必須成分とするので、このような硫黄成分の混入を許容し、むしろ、触媒活性維持のため、硫黄成分を含むメタン含有排ガスが処理対象であることが好ましい。例えば、メタン含有排ガスに硫黄酸化物が10ppm程度存在していても、触媒活性にほとんど影響を与えず、0.3〜3ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合に、好ましい効果を発揮する。
【0043】
また、メタン含有排ガス中にはメタン以外の炭化水素やその他の有機成分が含まれることがある。このような場合にも、本発明の三元触媒は、不活性なメタンも利用できるほどの高い酸化活性を有するので、メタン以外の炭化水素やその他の有機成分も有効に除去でき、浄化性能を阻害されることはない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔実施例1〕
酸化ジルコニウム(日本電工(株)製、N−PC、比表面積 28m/g)を空気中800℃で6時間焼成した。この焼成酸化ジルコニウム40gに、塩化イリジウム酸(HIrCl)および塩化白金酸(HPtCl)の混合水溶液を含浸して、さらにエバポレータで蒸発乾固した後、空気中550℃で6時間焼成して、酸化ジルコニウムに対して、夫々、質量比でイリジウムを2%、白金を0.5%含有するIr−Pt/酸化ジルコニウム三元触媒前駆体を得た。この三元触媒前駆体の比表面積は16m/gであった。
【0046】
この三元触媒前駆体を打錠成型して粒径1〜2mmに整粒したものを用意し、この2mlをステンレス製反応管に充填した。触媒層温度を400〜550℃の所定の温度に保ち、表1に示す組成(理論空気量に対する空気量の比(λ)が0.985〜1.005のメタン含有排ガスを模擬している)の初期反応ガスを毎分1.5リットル(標準状態における体積;以下同様)の流量で流通して、NO,CH,COの浄化率を測定した。浄化率は、いずれも、100×(1−(出口濃度)/(入口濃度))(%)で定義され、NOについては一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO)の合計濃度を用いている。
【0047】
引き続いて、硫黄含有ガスとして二酸化硫黄ガスを含む、表2に示す組成のガスを毎分1.5リットルの流量で20時間流通して、触媒層温度500℃で前処理を行った。この後、表3に示す組成のガスを毎分1.5リットルの流量で流通して、NO,CH,COの浄化率を再び測定した。
【0048】
前処理を施し、再度浄化率を測定した後の三元触媒について硫黄含有量を測定した。具体的には、前記三元触媒を20%塩酸に投入してホットプレート上で加熱し、触媒中の硫黄分を溶出させた。溶出した硫黄分をICP発光分光分析により定量した。この結果、前記三元触媒が、触媒全体に対する質量比で0.02%の硫黄分を含むことが明らかとなった。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
結果を表4に示す。二酸化硫黄を含むガスによる前処理が施される前、λ=0.985における一酸化炭素浄化率は、400,450,500,550℃の反応温度において、夫々、82,67,57,49及び45%であり、比較的リッチ側の空燃比における一酸化炭素の浄化率が低かった。しかし、前処理を施すことによって、400〜550℃の何れの温度においても、少なくとも94%以上の浄化率を発揮した。尚、ややリーンな空燃比(λ=1.005)では、二酸化硫黄を含むガスによる前処理の影響はあまり見られなかった。
【0053】
【表4】

【0054】
尚、三元触媒反応においては、その性能評価の指標として、窒素酸化物浄化率と一酸化炭素浄化率の幾何平均がしばしば用いられる。上記三元触媒における、上記表4の実験結果を窒素酸化物浄化率と一酸化炭素浄化率の幾何平均に換算したものを、表5に示す。
【0055】
【表5】

【0056】
二酸化硫黄を含むガスによる前処理が施される前、幾何平均値は反応温度が高くなるほど低下し、λ=0.985の空燃比においては91〜67%となった。しかし、400〜550℃の何れの温度においても、前処理を施すことによって、同空燃比において少なくとも97%以上となった。
【0057】
〔実施例2〕
アルミナ(サンゴバン−ノートン社製、SA6276)を破砕して粒径1〜2mmに整粒したもの12.8gを、硝酸セリウム(Ce(NO・6HO) 3.2gを18gの純水に溶解した水溶液に含浸した。これを蒸発乾固したのち、800℃で6時間焼成してアルミナに対して10%の酸化セリウム(CeO)を担持したCeO−Al担体を得た。この6gを、テトラアンミン白金硝酸塩(Pt(NH(NO)およびペンタアンミンアクアロジウム硝酸塩(Rh(NH(HO)(NO)を溶解する水溶液に含浸して、蒸発乾固し、さらに空気中550℃で焼成して担体に対して、夫々、質量比で2%の白金と0.5%のロジウムとを担持するPt−Rh/CeO−Al三元触媒前駆体を得た。この後、前記Pt−Rh/CeO−Al三元触媒前駆体に実施例1と同様に前処理を施して、硫黄成分を担持した三元触媒を得た。
【0058】
この三元触媒前駆体及び三元触媒の性能を実施例1と同じ条件で評価し、前駆体及び三元触媒の窒素酸化物浄化率と一酸化炭素浄化率との幾何平均を算出した結果を、表6に示す。実施例2でも、リッチ側の空燃比で、反応温度が上がるほど、三元触媒前駆体の浄化性能(幾何平均値)は低下した。しかし、前処理を施した後は、触媒層温度が500℃以上で、空燃比λ=0.985〜1.000の範囲において、三元触媒の窒素酸化物浄化率と一酸化炭素浄化率との幾何平均は少なくとも95%以上となり、触媒性能が向上した。ややリーンな空燃比(λ=1.005)では、二酸化硫黄を含むガスによる前処理の影響はあまり見られなかった。
【0059】
尚、性能試験後の三元触媒の硫黄含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、硫黄含有量は触媒全体に対する質量比で0.11%であった。
【0060】
【表6】

【0061】
〔比較例1〕
実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム15gを、硝酸パラジウム(Pd(NO)水溶液に含浸し、さらにエバポレータで蒸発乾固した後、空気中550℃で6時間焼成して、酸化ジルコニウムに対してパラジウムを質量比で2%担持するPd/酸化ジルコニウム三元触媒前駆体を得た。
【0062】
この三元触媒前駆体の性能を実施例1と同じ条件で評価した。結果を表7に示す。貴金属としてパラジウムのみを有するこの三元触媒では、二酸化硫黄を含むガスによる前処理を施すことによって、λ=1.000付近での浄化性能(幾何平均)が却って低下する。従って、理論空燃比に調整したメタン含有排ガスを浄化処理するには性能が不充分である。
【0063】
【表7】

【0064】
尚、性能試験後の三元触媒の硫黄含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、硫黄含有量は触媒全体に対する質量比で0.02%であった。
【0065】
〔実施例3〕
実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム15gを、塩化イリジウム酸(HIrCl)及び塩化白金酸(HPtCl)を溶解する水溶液に含浸して、エバポレータで蒸発乾固し、さらに空気中400℃で6時間焼成し触媒前駆体を得た。硫酸アンモニウム0.62gを純水10mlに溶解した水溶液に、この触媒前駆体を浸漬し、乾燥させ、担体に対して、夫々、質量比で2%の白金と0.5%のイリジウムとを担持するPt−Ir/ジルコニア三元触媒得た。この触媒の比表面積は、16m/gであった。硫黄含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、硫黄含有量は触媒全体に対する質量比で0.11%であった。
【0066】
この三元触媒を打錠成型して粒径1〜2mmに整粒したものを用意し、この2mlをステンレス製反応管に充填した。触媒層温度を400〜550℃の所定の温度に保ち、表3に示す組成のガスを毎分1.5リットルの流量で流通して、NO,CH,COの浄化率を測定し、窒素酸化物浄化率と一酸化炭浄化率の幾何平均を求めた(表8参照。)。
【0067】
【表8】

【0068】
実施例1で使用した三元触媒と同じ貴金属を用いた実施例3の三元触媒は、実施例1と同様に、ややリッチな空燃比(λ=0.985〜0.998程度)で高い浄化性能を発揮した。
【0069】
〔実施例4〕
実施例2と同じCeO−Al担体6gを、テトラアンミン白金硝酸塩、ペンタアンミンアクアロジウム硝酸塩、及び硫酸アンモニウム(0.21g)を溶解した水溶液に含浸して、蒸発乾固し、さらに空気中550℃で焼成して、担体に対して、夫々、質量比で2%の白金と0.5%のロジウムと担持するPt−Rh/CeO−Al三元触媒を得た。この触媒の硫黄含有量を実施例1と同様の方法で測定した結果、硫黄含有量は触媒全体に対する質量比で0.88%であった。
【0070】
この三元触媒の性能を、実施例4と同じ条件で評価した(表9参照。)。
【0071】
【表9】

【0072】
実施例2で使用した三元触媒と同じ貴金属を用いた実施例4の三元触媒は、実施例2と同様に、ややリッチな空燃比(λ=0.985程度)で高い浄化性能を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、空燃比を理論空燃比に調整したメタン含有排ガスの浄化方法であり、何らかの理由で若干リッチ側に空燃比がシフトした場合であっても、窒素酸化物や一酸化炭素除去性能が高く保たれるので、経済的に有利な条件で高度のメタン含有排ガス浄化が可能となる。しかも、硫黄被毒がないので、付臭剤としての硫黄化合物を含む一般に流通する天然ガス由来の排ガス(メタン含有排ガス)をそのまま利用することができる。従って、天然ガスエンジンを利用した諸設備等においてメタン含有排ガス処理コストの低減を可能とすると共に、環境改善にも資するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属と、予め硫黄とを担持した三元触媒に、
理論空燃比に調整されたメタン含有排ガスを接触させるメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項2】
前記三元触媒が、前記貴金属として、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムを担持する請求項1に記載のメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項3】
前記耐火性無機酸化物が、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物である請求項1又は2に記載のメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項4】
前記三元触媒が、前記耐火性無機酸化物に対して質量比で0.01〜5%の硫黄を予め担持している請求項1〜3の何れか1項に記載のメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項5】
前記メタン含有排ガスと前記三元触媒とを、400〜550℃で接触させる請求項1〜4の何れか1項に記載のメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項6】
前記メタン含有排ガスが一酸化炭素を含むガスである場合、メタンに対して一酸化炭素を優先的に除去する請求項1〜5の何れか1項に記載のメタン含有排ガス浄化方法。
【請求項7】
耐火性無機酸化物に、白金、ロジウム、及びイリジウムから成る群から選ばれる少なくとも2種以上の貴金属を担持したメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法であって、
硫黄含有ガスに前記三元触媒を接触させ、前記三元触媒の表面に硫黄成分を付着させるメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法。
【請求項8】
前記硫黄含有ガスが、二酸化硫黄ガス又は硫化水素ガスである請求項7に記載のメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法。
【請求項9】
前記三元触媒が、前記貴金属として、白金及びイリジウム、又は、白金及びロジウムを担持する請求項7又は8に記載のメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法。
【請求項10】
前記耐火性無機酸化物が、アルミナ、セリア、ジルコニアから成る群から選ばれる少なくとも1種以上の酸化物である請求項7〜9の何れか1項に記載のメタン含有排ガス浄化用三元触媒の前処理方法。
【請求項11】
請求項7〜10の何れか1項に記載の前処理方法を実施して得られる三元触媒。

【公開番号】特開2006−326433(P2006−326433A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−151105(P2005−151105)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】