説明

メタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム

【課題】メタン発酵を利用して分散型エネルギー源を構築する分散型エネルギー供給システムを提供する。
【解決手段】一以上の発生源Dkから収集した生ごみ様廃棄物Akを混合しながら異物Bと分別し且つ粉砕して保有エネルギーεが特定された混合スラリーSとするスラリー化施設12を設け、分散したエネルギー需要地にそれぞれ混合スラリーSをメタン発酵により電力エネルギーE及び/又は熱エネルギーHに変換するエネルギー変換施設2nを設置する。各変換施設2nのエネルギー負荷予測Lnとエネルギー変換効率ηnと混合スラリーSの保有エネルギーεとに応じ各変換施設2nへのスラリー配送量Snを算出する演算装置5を設け、算出した配送量Snの混合スラリーSをスラリー化施設12から各変換施設2nへタンクローリー車等の運搬手段3により運搬する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システムに関し、とくに生ごみ様廃棄物のメタン発酵処理により副生するバイオガスのエネルギーを、分散したエネルギー需要地で利用するシステムに関する。本発明は一面において、エネルギー供給に際して二酸化炭素の発生量が少ない地球温暖化抑制技術に関する。
【0002】
ここに分散型エネルギー供給システムとは、規模の経済を活かした大規模集中型エネルギー生産施設の出力を、分散したエネルギー需要地へ配送するエネルギー供給システムではなく、エネルギー需要地の近傍に需要に応じて中小規模のエネルギー供給装置を分散設置したシステムである。本発明のエネルギー供給システムは、生ごみ処理・発電システムとして広範囲に亘る分野で利用することができる。
【背景技術】
【0003】
一般家庭の台所やホテル・レストランの厨房等から排出される生ごみ、食品工場等から排出される食品製造残さ、農業・畜産・水産施設、林業・解体施設、製紙・パルプ工場等から排出される動植物性残さ等の有機性廃棄物(以下、生ごみ様廃棄物ということがある。)は、従来は焼却処分・埋立て処分の対象とされていたが、最近ではメタン発酵処理により電力エネルギー、熱エネルギー等を回収できる資源化材(バイオマス)として注目されている。メタン発酵処理は、好気処理のような送気エネルギー(曝気エネルギー)を必要とせず、発酵時に副生するバイオガスを化石燃料の代替エネルギーとして活用できるので、省エネルギーを図ることができる。しかも、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の発生量が少ないので地球温暖化抑制技術として有効であり、ダイオキシン等の有害物質を排出しない環境上の利点もある。
【0004】
自治体等の生ごみ様廃棄物を収集する施設(生ごみ処理場等)にメタン発酵処理を適用した場合、生ごみ様廃棄物の処理量が多いので大量のバイオガスが発生する。一般にバイオガスは燃料電池、ガスエンジン等の発電機の燃料として使用するのが経済的に有利であり、バイオガス発生量が大きくなると、生ごみ処理場内での消費電力より大きい電力の発電が可能になると同時に大量の排熱が得られる。すなわち、生ごみ処理場等を電力・排熱等のエネルギー供給施設とすることができる。例えば特許文献1は、メタン発酵処理と燃料電池とを組み合わせ、発電施設としての経済性が得られる生ごみ様廃棄物のエネルギー回収システムを開示する。バイオガスの回収量を増やすためには有機物濃度の高い生ごみ様廃棄物が有利であるが、下水処理場等で発生する比較的低濃度の有機性汚泥や生活廃水等の廃棄物も、特許文献2及び3が開示するように、例えば生ごみ様廃棄物と適宜混合することによって資源化材料として利用できる。
【0005】
【特許文献1】特許第3064272号公報
【特許文献2】特開2002−326071号公報
【特許文献3】特開平5−123664号公報
【特許文献4】特開2002−239508号公報
【非特許文献1】浅野浩志「需要化サイドから見た新しいエネルギーシステムの可能性」電気学会論文誌B、Vol.124、No.1、2004年1月、3-6頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1が開示するように、最近の中小規模の発電技術やガスコージェネレーションシステム(CGS)の技術進歩により、社会全体の環境負荷を削減でき且つ経済性を向上できる技術として分散型エネルギー源が注目されている。メタン発酵を利用したエネルギー回収システムは、分散型エネルギー源としての利用が期待できる。しかし、分散型エネルギー源として利用するためには、システムで回収した電力・排熱エネルギーを有効に利用できることが重要である。生ごみ処理場等の周辺に電力・排熱を利用できるエネルギー需要地(ユーザー)があればよいが、周辺に適当な需要地がない場合はエネルギー需要地まで電力・排熱を配送する必要があり、その配送過程の経済性がエネルギー回収システムの実用性に影響を及ぼす。
【0007】
回収エネルギーの配送方法として、例えば生ごみ様廃棄物から発電した余剰電力を市販電力と系統連携し、電力事業者に売電する方法が提案されている。すなわち、メタン発酵利用のエネルギー回収システムを分散型電源として既存の集中型電源・系統と協調して運用する方法である。しかし現段階では、回収エネルギーを直接利用した場合と同等の経済性を売電によって得ることは難しい場合がある。また、電力エネルギーの配送は可能であるものの、排熱エネルギーの運搬は困難である。メタン発酵利用のエネルギー回収システムを分散型エネルギー源として利用するためには、電力だけでなく排熱を含む回収エネルギー全てを無駄なく配送できる必要がある。
【0008】
また特許文献4は、有機性廃棄物のバイオガス化装置で発生したバイオガスを濃縮又は液化したうえで充填装置により密閉容器(例えばボンベ等)に充填し、密閉容器に充填したバイオガスを近郊の企業や家庭等に配送して利用するシステムを提案している。しかし、発火性のバイオガスを搬送するためには、高度の安全条件を満たす密閉容器を用いる等の発火性ガスの取り扱い上の制約を満たす必要があり、充填装置等の設備費が嵩む問題点もある。バイオガスをパイプライン経由で配送するシステムも提案されているが、都市部等の人口密集地に新たにパイプラインに敷設することは現実的でない。更に特許文献4の方法では、バイオガス化装置の事故がシステム全体の停止に繋がる危険がある。分散型エネルギー源では、エネルギーを安全に且つ安定して配送できる必要がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、メタン発酵を利用して分散型エネルギー源を構築する分散型エネルギー供給システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、メタン発酵利用のエネルギー回収システムを分散型エネルギー源とする場合に、様々な発生源から収集した生ごみ様廃棄物の混合スラリーをいわば一種の液体燃料として利用できることに注目した。生ごみ様廃棄物の種類及び収集量は発生源毎に異なるが、それらを混合・粉砕してスラリーとすれば、各廃棄物の属性に基づき混合スラリーのエネルギー保有量を特定できる。混合スラリーから電気及び/又は熱エネルギーを回収するエネルギー変換施設を、分散したエネルギー需要地にそれぞれ設け、各変換施設のエネルギー負荷予測とエネルギー変換効率と混合スラリーの保有エネルギーとに応じて混合スラリーを各変換施設に配送すれば、電力だけでなく排熱を含む回収エネルギーを無駄なく利用することができる。また混合スラリーは、従来から広く使われている道路上運搬用のタンクローリー(lorry)車又は水路運搬用のタンカー船等を用いて、安全且つ安価に運搬することが可能である。
【0011】
図1の実施例を参照するに、本発明のメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システムは、一以上の発生源D1、D2、……、Dkから収集した生ごみ様廃棄物A1、A2、……、Akを混合しながら異物Bと分別し且つ粉砕して保有エネルギーεが特定された混合スラリーSとするスラリー化施設12、分散したエネルギー需要地にそれぞれ設置され混合スラリーSをメタン発酵により電力エネルギーE及び/又は熱エネルギーHに変換するエネルギー変換施設21、22、……、2n、各変換施設21、22、……、2nのエネルギー負荷予測L1、L2、……、Lnとエネルギー変換効率η1、η2、……、ηnと混合スラリーSの保有エネルギーεとに応じ各変換施設21、22、……、2nへのスラリー配送量S1、S2、……、Snを算出する演算装置5、及び算出した配送量S1、S2、……、Snの混合スラリーSをスラリー化施設12から各変換施設21、22、……、2nへ運搬する運搬手段3を備えてなるものである。
【0012】
好ましくは、エネルギー変換施設2の各々においてバイオガス回収後に残る発酵液Yを一括して処理する二次処理施設32を設け、運搬手段3により各変換施設2の発酵液Yを二次処理施設32に戻して一括処理する。また同図に示すように、スラリー化施設12に、混合スラリーSの一部をメタン発酵によりスラリー化施設12の需要を賄う容量の電力エネルギーE及び/又は熱エネルギーHに変換するエネルギー変換ユニット10を併設することが望ましい。
【0013】
更に好ましくは、図4に示すように、エネルギー変換施設2に、混合スラリーSを高温メタン生成菌によりバイオガスGと発酵液Yとに消化するバイオリアクター28fと、バイオガスGを電力Ef及び高温流体Hfに変換する発電手段(図示例では燃料電池)35fとを含める。また、バイオリアクター28fに、高温メタン生成菌が付着したガラス繊維又は炭素繊維製担体36を充填した反応室37と、反応室37を高温メタン生成菌の活性温度に保つ加温手段30fとを含める。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、生ごみ様廃棄物Aを保有エネルギーεが特定された混合スラリーSとし、分散したエネルギー変換施設2にそのエネルギー負荷予測Lとエネルギー変換効率ηと混合スラリーSの保有エネルギーεとに応じた量を配送するので、次の顕著な効果を奏する。
【0015】
(イ)生ごみ様廃棄物から回収した電気エネルギー及び/又は熱エネルギーを100%近く無駄なく有効に利用できる。
(ロ)生ごみ様廃棄物の異物分別及び粉砕等のスラリー化処理を一括集中して行い、エネルギー変換処理だけを分散させるので、変換施設の小型化を図り、都市部等の小さな敷地を利用して分散型エネルギー源を構築できる。
(ハ)また、エネルギー変換後に残る発酵液を変換施設から二次処理施設に戻して一括処理することができ、変換施設の一層の小型化を図ることができる。
(ニ)エネルギー変換施設は、回収した電気及び熱エネルギーの一部を用いてエネルギー自足的に運転することができ、総合エネルギー効率の高い分散型エネルギー源とすることができる。
(ホ)また、二酸化炭素排出の少ないメタン発酵により回収したエネルギーを多くの化石燃料の代替として使用できるので、地球温暖化防止に貢献できる。
(ヘ)スラリーを構成する生ごみの属性、エネルギーの回収施設の効率、回収施設でのエネルギー需要予測等の関連データを駆使する運搬演算装置を設け、スラリーの運搬を合理的に管理することができる。
(ト)スラリーは密閉型のタンクローリー車等により都市部の人口密集地でも安全に且つ安価に運搬でき、パイプライン敷設等の工事を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、複数の発生源Dkから生ごみ様廃棄物Akを収集する収集センター1にスラリー化施設12を設けた本発明の実施例を示す。各発生源Dkから収集センター1に収集した生ごみ様廃棄物Akを、スラリー化施設12において異物(ごみ容器、食器等)と分別すると共に混合・粉砕して混合スラリーSとする。但し、生ごみ様廃棄物Aの発生源Dは一箇所であってもよい。必要に応じて混合スラリーSを適当な希釈水Wで希釈するが、スラリー単位量当たりのバイオガス回収量を増やすため希釈は最小限に抑えることが望ましい。例えば、混合スラリーSに同量程度の希釈水Wを加え、有機物濃度(CODcr値)を15〜25万mg/リットル程度とする。スラリー化施設12においてスラリー化処理(異物分別及び混合・粉砕)を一括して行うことにより、スラリー化処理の効率化を図ると共に、何れかの発生源Dkの生ごみ様廃棄物Akの特性に偏らない混合スラリーSとすることができる。また、分別した異物を纏めて産業廃棄物として処理することができる。
【0017】
また図1は、分散したエネルギー需要地に、混合スラリーSをメタン発酵により電力エネルギーE及び/又は熱エネルギーHに変換する変換施設2nをそれぞれ設置することを示す。エネルギー変換施設2nの一例は、図4に示すように、混合スラリーSを高温メタン生成菌によりバイオガスGと発酵液Yとに消化するバイオリアクター28fと、バイオガスGを電力Ef及び高温流体(温水や蒸気等)Hfに変換する燃料電池・ガスエンジン等の発電手段35fとを有するものである。バイオリアクター28fのスラリー処理容量を、各変換施設2nの電力負荷及び熱負荷(変換施設及び需要地のエネルギー負荷)が賄える発電量相当のバイオガスGを生成できる大きさとし、発電手段35fによる電力Ef及び高温流体Hf(排熱等)で各変換施設2nのエネルギー負荷を賄う。各エネルギー変換施設2nをエネルギー負荷に応じた最適な特性とすることにより、分散したエネルギー需要地に過不足なくエネルギー供給し、生ごみ様廃棄物Aが有するエネルギー資源を無駄なく効率的に利用することが可能となる。
【0018】
望ましくは図4に示すように、エネルギー変換施設2nのバイオリアクター28fに、高温メタン生成菌が付着したガラス繊維又は炭素繊維製担体36を充填した反応室37と、反応室37を高温メタン生成菌の活性温度に保つ加温手段30fとを設ける。とくに炭素繊維製担体36は、例えば径の大きさが調節可能な中空筒状の担体として用いることにより閉塞を避けることができ、高温メタン生成菌を高濃度に固定化することができ、しかも耐酸性であるので、固形物の多いスラリーSの長期間の連続処理に適している。図示例のバイオリアクター28fは、スラリーSを連続的に取り入れながら所定時間滞留させて発酵液Yに消化し、各変換施設2nが必要とするエネルギー相当の量及び速度でバイオガスを生成する。
【0019】
スラリー化施設12には、各エネルギー変換施設2nのエネルギー負荷予測Ln及びエネルギー変換効率ηnと混合スラリーSの保有エネルギーεとに応じて、各変換施設2nへのスラリー配送量Snを算出する演算装置5を設ける。図2は演算装置5の一例の構成ブロック図を示す。図示例の演算装置5は、各発生源Dkの生ごみ様廃棄物Akの種類Akp及び収集量Akwを記憶し、変換施設2nにおけるエネルギー負荷予測Ln及び変換効率ηnを入力し、収集センター1から各変換施設2nへ配送すべきスラリー量Snwを算出する。属性登録手段41は、生ごみ様廃棄物Akを発生源Dkからスラリー化施設12へ受け入れる時に、生ごみ様廃棄物Akの種類Akp及び収集量Akwを登録する。負荷登録手段43は、例えば通信回線等を介して取得した各変換施設2nにおけるエネルギー負荷予測Ln及びエネルギー変換効率ηnを登録する。
【0020】
図2のスラリー特性算出手段45において、例えばスラリー化施設12でk箇所の発生源Dkから収集した生ごみ様廃棄物Akを含む混合スラリーSを調製した場合に、その混合スラリーSの単位量当たりの保有エネルギーεを、各発生源Dk毎の生ごみ様廃棄物Akの種類Akp及び収集量Akwと廃棄物種類Akp別の単位量当たりの保有エネルギーεkとから算出する。この近似的な算出式として、例えば式(1)を使うことができる。同式において、Wは混合スラリーS中への注水量を表し、ikは生ごみ様廃棄物Ak毎の異物除去後の歩留り(=異物分別後の量/異物分別前の量)を表す。歩留りikは、例えば異物分別機22(図3参照)からの異物排出量に基づき検出できる。また、種類Akp別の廃棄物単位量当たりの保有エネルギーεkは、経験によればその廃棄物Akの発生源Dk、例えば食品加工工場、ホテル、飲食店等に依存する傾向があり、例えば経験的又は実験的に求めることができる。
【0021】
[数1]
ε=ΣAkwεkk/(Akwk+W) …………………………………(1)
nw=Ln/(ηnε) ………………………………………………………(2)
【0022】
スラリー特性算出手段45において、例えば混合スラリーSの粒度、温度、pH、アルカリ度、有機物濃度、C/N比等に基づき、単位量当たりの保有エネルギーεを算出してもよい。また、混合スラリーSを経時的にスラリータンク25(図3参照)内に貯蔵する場合でも、貯蔵時の混合スラリーSの保有エネルギーε及び量を記録しておくことにより、スラリータンク内の混合スラリーSの単位量当たりの保有エネルギーεを算出することができる。本発明の1つの特徴は、スラリー化施設12において、保有エネルギーεが特定された混合スラリーSを調製することにある。
【0023】
図2の配送量算出手段47において、エネルギー変換施設2n毎のエネルギー負荷予測Ln及びエネルギー変換効率ηnと混合スラリーSの単位量当たりの保有エネルギーεとから、変換施設2n毎にエネルギー負荷予測Lnの出力を発生させるに足るスラリー配送量Snwを算出する。例えば、図4のようにバイオリアクター28fと発電手段35fとを有するエネルギー変換施設2nにおいて、エネルギー負荷の短期及び長期の予測値を持つ場合が多い。配送量算出手段47は、例えば変換施設2における翌日のエネルギー負荷予測Lnを満たすため必要なスラリー配送量Snwを算出する。この近似的な算出式として、例えば式(2)を使うことができる。
【0024】
図1のスラリー化施設12で調製された混合スラリーSは、例えば一旦スラリータンク25(図3参照)に貯蔵され、演算手段5で算出した配送量に応じて、運搬手段3により各エネルギー変換施設2nに運搬する。運搬手段3は、例えば陸上輸送ではタンクローリー車、離島間等の水上輸送ではタンカー船とすることができ、各変換施設2nに専属であることを要しない。タンクローリー車を密閉型・冷蔵型とすることにより、運搬時の悪臭や腐敗も容易に防止できる。収集センター1から各変換施設2nへのスラリー配送量Snwをエネルギー負荷の充足に必要な範囲とすることにより。単に混合スラリーSを効率よく使用できるだけでなく、無駄なスラリー運搬費を省くことができる。
【0025】
各変換施設2nでバイオガス回収後に残る発酵液Ynは、未分解の有機物を含んでいるため、そのまま廃棄することはできない。図示例では、発酵液Ynを一括して処理する二次処理施設32をスラリー化施設12に併設し、運搬手段3により各変換施設2nの発酵液Ynを二次処理施設32に戻して一括処理したのち下水道等に放流する。二次処理施設32で発生する余剰汚泥は、産業廃棄物として処理するか、堆肥又は土壌改良剤として利用することができる。但し、二次処理施設32は必ずしもスラリー化施設12と併設する必要はない。なお、スラリー化施設12から混合スラリーSの供給を受ける変換施設2nの数は単数又は複数とすることができ、特定の変換施設2nに複数のスラリー化施設12から混合スラリーSを受け入れてもよい。
【0026】
本発明は、生ごみ様廃棄物の混合スラリーをいわば一種の液体燃料として利用し、スラリーからエネルギーを回収するバイオリアクター等のエネルギー変換装置を分散型としたので、大規模集中型エネルギー生産施設に比しエネルギー需要の変化に容易に対応できる。例えば、電力エネルギーと熱エネルギーとを共に出力する変換装置とした場合、本発明では両エネルギーの出力割合を需要に応じて容易に選択可能である。また、スラリー配送量の調節によりエネルギー負荷予測の変動にも容易に対応できるので、回収エネルギーを無駄なく有効利用することができる。更に、特許文献4のようにバイオガス発生を集中型とする方法に比し、バイオリアクターの事故がシステム全体の停止に繋がるおそれが小さい。
【0027】
こうして本発明の目的である「メタン発酵を利用して分散型エネルギー源を構築できる分散型エネルギー供給システム」の提供を達成できる。
【0028】
なお、図示例のスラリー化施設12には、混合スラリーSの一部をメタン発酵により電力エネルギーE及び/又は熱エネルギーHに変換するエネルギー変換ユニット10を併設し、スラリー化施設12、演算装置5、二次処理施設32及び変換ユニット10のエネルギー需要を変換ユニット10の出力で賄っている。変換ユニット10の構成は、図4を参照して上述したエネルギー変換施設2の構成と同様のものとすることができる。変換ユニット10への混合スラリーSの配送量も、スラリー化施設12、演算装置5、二次処理施設32及び変換ユニット10のエネルギー負荷予測L及びエネルギー変換効率ηと混合スラリーSの保有エネルギーεとに応じて、演算装置5により算出することができる。
【実施例1】
【0029】
図3は、1日に生ごみ様廃棄物50トンを処理する典型的なスラリー化施設12及びエネルギー変換ユニット10を有する収集センター1の実施例のブロック図を示す。図示例のスラリー化施設12は、受け入れホッパー21、異物分別機22及びスラリータンク25を有する。一般家庭から排出される一般廃棄物又は事業系生ごみ等の生ごみ様廃棄物Aを発生源Dから収集し、受け入れホッパー21に投入する。生ごみ様廃棄物A中には性状にもよるが3〜30%程度の異物Bが含まれているのが通常であり、ホッパー21から廃棄物Aを回転風力式異物分別機22に投入して異物Bを分別する。分別された異物Bはベルトコンベア23等で移送され、最終的には産業廃棄物として処理する。異物分別後の生ごみCをポンプ24によりスラリータンク25へ送って混合する。通常の生ごみCの場合は、生ごみCと同重量の希釈水Wを給水源4からスラリータンク25へ供給し(2倍希釈)、流動性を良くすると共に塩分や油類を希釈する。生ごみCと希釈水Wとの混合物を粉砕機26に循環させることにより平均数100ミクロンの大きさに微粉砕し、約25万mg/リットルの有機物濃度(CODcr値)の混合スラリーSとしてスラリータンク25に一且貯留する。
【0030】
図示例のエネルギー変換ユニット10は、スラリー供給ポンプ27、バイオリアクター28、バイオガス精製装置33、ガスホルダー34及び燃料電池35を有する。この場合、燃料電池35が、混合スラリーSの保有エネルギーを電力エネルギーE及び熱エネルギーHに変換するコージェネレーション装置に相当する。例えば、高温メタン生成菌が付着した炭素繊維製担体36を充填した構造のバイオリアクター28と発電効率40%の燃料電池35とを用いた場合、前述のスラリータンク25に貯留した生ごみ50トン(混合スラリー100トン)から発電できる電力は22,000kWhとなる。他方、図示例の収集センター1で消費する電力は1日当たり4,500kWhであり、この必要電力から演算装置5により、エネルギー変換ユニット10への混合スラリーの配送量を1日約20トンと算出できる。これはスラリータンク25に貯留した混合スラリー100トンの約20%であり、残りの約80トン(電力に換算して17,500kWh)が各エネルギー変換施設2(図1及び図4参照)に配送できる混合スラリーSである。混合スラリー約20トンの発電時に燃料電池35から熱エネルギー3,870,000kcal(電力量の40%が廃熱となる)が出力されるので、これを後述するバイオリアクター28の加温手段30等に供給する(図3の点線矢印H参照)。
【0031】
図示例のバイオリアクター28は外付け循環路を有し、循環路上に循環ポンプ29と加温手段30とが設けられている。1日20トンの混合スラリーSをスラリータンク25からスラリー供給ポンプ27経由でバイオリアクター28に投入し、バイオリアクター28内の反応室がメタン発酵の最適温度となるように循環ポンプ29でスラリーSを循環しつつ加温手段30で加熱する。バイオリアクター28で発生するバイオガスGは、バイオガス精製装置33で不純物を取り除き、ガスホルダー34に一旦貯蔵してから燃料電池35へ供給し、上述した電力エネルギーEと熱エネルギーHとに変換されて収集センター1の駆動に利用される。また、バイオガス回収後にバイオリアクター28に残る発酵液Yは、二次処理施設32へ送って最終処理を行い、廃水Zとして下水や河川に放流する。1日20トンの混合スラリーSを処理する場合、炭素繊維担体を充填する構造のバイオリアクター28の規模は200m3の有効容積で足りる。
【実施例2】
【0032】
図4は、エネルギー変換施設2の実施例のブロック図を示す。図示例の変換施設2は、スラリータンク25f、スラリー供給ポンプ27f、バイオリアクター28f、発酵液貯蔵タンク31f、バイオガス精製装置33f、ガスホルダー34f及び燃料電池35fを有する。スラリータンク25fには、スラリー化施設12のスラリータンク25(図3参照)から運搬手段3により運搬した混合スラリーSを一且貯蔵する。バイオリアクター28fは外付け循環路を有し、循環路上に循環ポンプ29fと加温手段30fとが設けられている。スラリータンク25fの混合スラリーSをスラリーポンプ27f経由でバイオリアクター28fに投入し、バイオリアクター28f内の反応室37がメタン発酵の最適温度となるように循環ポンプ29fでスラリーSを循環しつつ加温手段30fで加熱する。バイオリアクター28fで発生したバイオガスGは、バイオガス精製装置33fで不純物を除去し、ガスホルダー34fを経由して燃料電池35fの燃料として利用する。メタンガス回収後にバイオリアクター28fに残る発酵液Yは発酵液貯留タンク31fに一旦貯留し、混合スラリーSを下ろした運搬手段3により収集センター1の貯留タンク31へ移送し、収集センター1の二次処理施設32(図3参照)で一括して処理する。
【0033】
例えば、運搬手段3により1日20トンの混合スラリーSをスラリー化施設12のスラリータンク25から配送する場合、図4の実施例で1日に発電できる電力量Eは4,500kWhとなる。エネルギー変換施設2での消費電力量は500kWh程度であるから、例えば変換施設2に併設した1日当たり3,900kWhの電力が必要な福利厚生施設40を余剰電力で十分賄うことができる。また、発電時に発生する熱エネルギーHは3,870,000kca1であり、バイオリアクター38fの加温に消費する熱量は900,000kca1であるから、余剰の熱エネルギー2,970,000kca1を福利厚生施設40の浴場や調理室、給湯施設の温水、スチーム(蒸気)として活用することができる。スラリータンク25fおよび発酵液タンク31fは、設置場所に余裕があれば複数日分の容量とすることが分散エネルギー源としては望ましい。バイオリアクター28fの形式に特に制限はないが、例えば炭素繊維製担体36を充填した固定床型を使うと200m3の容積で足りる。
【0034】
また、運搬手段3により1日40トンの混合スラリーSを配送した場合、エネルギー変換施設2で発電できる電力量が8,800kWhとなるのに対し変換施設2での消費電力は700kWh程度に止まるので、例えば変換施設2に併設したプール施設40の冷暖房用として1日当たり8,100kWhの電力を供給できる。また、発電時に発生する熱エネルギーHは7,600,000kca1となり、バイオリアクターの加温に消費する熱量は900,000kcal(この場合は、発酵液とスラリーとを熱交換して発酵液温度を回収する)であるから、余剰分の6,700,000kca1を温水プールの熱源として利用できる。この場合、炭素繊維製担体36を充填した固定床式バイオリアクター28fを使うと有効容積は400m3となる。
【0035】
エネルギー変換施設2を1日当たり1,900kWhの電力が必要な給食センター40に併設した場合は、1日10トンの混合スラリーSを配送すればよい。変換施設2において、10トンの混合スラリーSから2,200kWhの電力エネルギーEを発電することができ、変換施設2の消費電力は300kWhで十分足りる。また、発電時に1,900,000kca1の熱エネルギーHが発生し、このうち400,000kcalをバイオリアクター38fの加温に消費し、給食センター40の温水及びスチーム等の温熱用に余剰分の1,500,000kca1を活用できる。また、燃料電池35fで発生するスチームHf(熱エネルギーH)の一部を、吸収式冷凍機に活用することも可能である。
【0036】
更に、エネルギー変換施設2を1日当たり1,900kWhの電力が必要な老人養護施設40に併設した場合は、1日10トンの混合スラリーSを配送することにより、変換施設2の消費電力と老人養護施設40の消費電力を賄うことができる。発電時に発生する熱エネルギーHは、老人養護施設40の浴場や厨房等の給湯用として利用できる。1日10トンの混合スラリーSをエネルギー変換する場合、炭素繊維製担体36を充填した固定床式バイオリアクター28fを有効容積が100m3のものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明システムの一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明で用いる演算装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図1のスラリー化施設の構成の一例を示すブロック図である。
【図4】図1のエネルギー変換施設の構成の一例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
1…収集センター 2…エネルギー変換施設
3…運搬手段 4…給水源
5…演算装置 10…エネルギー変換ユニット
12…スラリー化施設 21…受け入れホッパー
22…異物分別機 23…ベルトコンベヤ
24…移送ポンプ 25、25f…スラリータンク
26…粉砕機 27、27f…スラリー供給ポンプ
28、28f…生ごみ分解装置(バイオリアクター)
29、29f…循環ポンプ 30、30f…加温手段
31、31f…発酵液貯留タンク 32…二次処理施設
33、33f…バイオガス精製装置 34、34f…ガスホルダー
35、35f…燃料電池(発電手段) 36…ガラス繊維又は炭素繊維製担体
37…反応室 40…福利厚生施設
41…属性登録手段 43…予測負荷登録手段
45…スラリー特性算出手段 47…スラリー搬送量算出手段
A…生ごみ様廃棄物 B…異物
C…生ごみ D…廃棄物発生源
Ef…電力エネルギー G…バイオガス
H…熱エネルギー Hf…高温流体(温水や蒸気等)
i…生ごみ歩留り L…エネルギー負荷予測
S…混合スラリー W…希釈水
Y…発酵液 Z…排水
η…エネルギー変換効率 ε…混合スラリーの保有エネルギー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一以上の発生源から収集した生ごみ様廃棄物を混合しながら異物分別し且つ粉砕して保有エネルギーが特定された混合スラリーとするスラリー化施設、分散したエネルギー需要地にそれぞれ設置され前記スラリーをメタン発酵により電力及び/又は熱エネルギーに変換するエネルギー変換施設、各変換施設のエネルギー負荷予測とエネルギー変換効率と前記スラリーの保有エネルギーとに応じ各変換施設へのスラリー配送量を算出する演算装置、及び前記算出した配送量のスラリーをスラリー化施設から各変換施設へ運搬する運搬手段を備えてなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項2】
請求項1のシステムにおいて、前記変換施設に、前記混合スラリーを高温メタン生成菌によりバイオガスと発酵液とに消化するバイオリアクターと、バイオガスを電力及び高温流体に変換する発電手段とを含めてなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項3】
請求項2のシステムにおいて、前記バイオリアクターに、高温メタン生成菌が付着したガラス繊維又は炭素繊維製担体を充填した反応室と、当該反応室を高温メタン生成菌の活性温度に保つ加温手段とを含めてなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項4】
請求項2又は3のシステムにおいて、前記変換施設の各々においてバイオガス回収後に残る発酵液を一括して処理する二次処理施設を設け、前記運搬手段により各変換施設の発酵液を二次処理施設に戻してなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項5】
請求項1から4の何れかのシステムにおいて、前記演算装置に、前記発生源毎の生ごみ様廃棄物の種類及び収集量と廃棄物種類別の単位量当たりの保有エネルギーとから混合スラリーの単位量当たりの保有エネルギーを算出するスラリー特性算出手段、前記変換施設毎のエネルギー負荷予測及びエネルギー変換効率を登録する登録手段、並びに前記変換施設毎の負荷予測及び変換効率と前記混合スラリーの単位量当たりの保有エネルギーとに基づき各変換施設へのスラリー配送量を求める配送量算出手段を含めてなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項6】
請求項1から5の何れかのシステムにおいて、前記スラリー化施設に、前記スラリーの一部をメタン発酵により当該スラリー化施設の需要を賄う容量の電力及び/又は熱エネルギーに変換するエネルギー変換ユニットを併設してなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。
【請求項7】
請求項1から6の何れかのシステムにおいて、前記運搬手段をタンクローリー車又はタンカー船としてなるメタン発酵利用の分散型エネルギー供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−55303(P2008−55303A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234468(P2006−234468)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】