説明

メタン発酵方法

【課題】飽和脂肪酸比率の高い脂肪を高濃度で含有する有機性廃棄物を、短時間で効率よく分解できるメタン発酵方法を提供する。
【解決手段】脂肪を含有する有機性廃棄物を、メタン発酵槽に投入してメタン発酵処理し、メタン発酵槽から発酵液を所定量ずつ取出して重力沈降手段により汚泥濃度が下方ほど高くなる汚泥沈降液を形成し、汚泥高濃度液の少なくとも一部を前記メタン発酵槽に返送し、汚泥低濃度液の少なくとも一部を系外に排出するメタン発酵方法において、汚泥高濃度液を有機性廃棄物と混合し、これらに含まれる脂肪の融点以上に加温して脂肪を分散させた後、メタン発酵槽に脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上となるように投入してメタン発酵処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物のメタン発酵処理に関し、更に詳しくは、脂肪の投入負荷量が高くても、長期にわたって安定してメタン発酵処理できるメタン発酵処理に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵処理は、有機性廃棄物を嫌気性下でメタン菌により発酵処理してメタンガスに転換するもので、有機性廃棄物をバイオガスと水とに分解して大幅に減量することができる。しかも、副産物として生成するメタンガスをエネルギーとして回収できるメリットがある。
【0003】
メタン発酵槽内にメタン菌を多量に蓄えることができれば、より高速での処理が可能となる。メタン発酵槽内にメタン菌を多量に蓄えるための手段の一つとして、メタン発酵槽から取出した発酵液を固液分離し、固液分離した分離汚泥をメタン発酵槽等に返送してメタン発酵を行う方法がある。そして、メタン発酵槽から取出した発酵液を固液分離する方法の代表例として、重力沈降法がある。
【0004】
また、メタン発酵処理効率を高めるため、有機性廃棄物を可溶化処理してメタン発酵処理することが従来より行われている。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、水に不溶な有機性固形物をスラリー化するスラリー化処理工程と、スラリー化された有機性固形物を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程と、可溶化された処理物を嫌気性微生物が含まれる汚泥の存在下でメタン発酵させる嫌気性処理工程と、嫌気性処理工程で生成した汚泥を水に可溶な有機物にする可溶化処理工程と、可溶化された処理物を前記嫌気性処理に返送する返送工程とを備えてなる有機性固形物の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−66507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、パーム油精製廃液等に含まれるパルミチン酸(融点63℃)やステアリン酸(融点69.9℃)などの飽和脂肪酸を含む脂肪は、発酵温度が約55℃である高温メタン発酵であっても溶融せずに固体状態をなしているので、槽内のメタン菌等と効率よく接触できず、脂肪が未分解のまま槽外に排出され易かった。
【0008】
このため、飽和脂肪酸比率の高い脂肪を多く含む有機性廃棄物を、投入負荷量を高めてメタン発酵処理すると、メタン発酵槽内における脂肪の分散性が低下する。特に、脂肪を飽和脂肪酸換算で0.2g/L/day以上とすると、脂肪の分散性が著しく低下するので、脂肪が未分解のままメタン発酵槽から引き抜かれ易かった。そして、未分解の脂肪を大量に含んだ発酵液を重力沈降により固液分離すると、未分解の脂肪が液面に浮上し、スカムとなって排水され易いので、排水の液性状が悪化し、その後の排水処理に手間を要するという問題があった。更には、汚泥に未分解の脂肪が付着して汚泥の沈降速度が著しく損なわれ、重力沈殿槽を大型化したり、槽内における滞留時間を長くとる必要があった。
【0009】
上記特許文献1では、ビール麦かす、食品廃棄物、植物性動物性廃棄物などの水に不溶な有機性固形物を含む固形廃棄物のメタン発酵処理効率を高めるため、これらの固形廃棄物を可溶化処理しているものの、飽和脂肪酸比率の高い脂肪を含む有機性廃棄物を、投入負荷量を高めてメタン発酵処理した場合における上記問題については何ら検討されていない。
【0010】
よって、本発明の目的は、飽和脂肪酸比率の高い脂肪を高濃度で含有する有機性廃棄物を、短時間で効率よく分解できるメタン発酵方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するにあたり、本発明のメタン発酵方法は、脂肪を含有する有機性廃棄物を、メタン発酵槽に投入してメタン発酵処理し、前記メタン発酵槽から発酵液を所定量ずつ取出して重力沈降手段により汚泥濃度が下方ほど高くなる汚泥沈降液を形成し、前記汚泥沈降液の下層側の汚泥高濃度液の少なくとも一部を前記メタン発酵槽に返送し、前記汚泥沈降液の上層側の汚泥低濃度液の少なくとも一部を系外に排出するメタン発酵方法において、
前記汚泥沈降液の下層側から取出された汚泥高濃度液を前記有機性廃棄物と混合し、これらに含まれる脂肪の融点以上に加温して脂肪を分散させた後、前記メタン発酵槽に、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上となるように投入してメタン発酵処理することを特徴とする。
【0012】
本発明のメタン発酵方法の前記有機性廃棄物は、飽和脂肪酸比率が30%以上である脂肪を固形中に20〜35質量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明のメタン発酵方法は、前記汚泥高濃度液及び前記有機性廃棄物の混合液を、70℃以上に加温した後、前記メタン発酵槽に投入することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のメタン発酵方法によれば、汚泥沈降液の下層側から取出された汚泥高濃度液を有機性廃棄物と混合し、これらに含まれる脂肪の融点以上に加温することで、脂肪が分散されて、重力沈降手段から取出された汚泥高濃度液中の汚泥に付着し、メタン発酵槽内における脂肪の分散性を高めることができる。これにより、槽内のメタン菌に脂肪が接触し易くなって有機性廃棄物の分解効率が向上する。このため、飽和脂肪酸比率が高く、融点の高い脂肪を含む有機性廃棄物を、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上となるように投入してメタン発酵処理しても、槽内のメタン菌に脂肪が効率よく接触して分解されるので、有機性廃棄物の分解効率が向上し、メタン発酵槽からは未分解の脂肪量の少ない発酵液が排出される。その結果、発酵液を重力沈降手段して固液分離するに際し、液面にスカムが形成されにくく、固液分離後の上澄液の液性状が良好となり、その後の上澄液の排水処理に要する手間を軽減できる。また、メタン発酵槽から引き抜かれる発酵液は、脂肪量が少ないので、重力沈降手段における汚泥の沈降速度が速く、重力沈降手段を大型化しなくても短時間で汚泥を沈降でき、発酵液の固液分離に要する手間を簡略化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のメタン発酵処理に用いるメタン発酵装置の概略構成図である。
【図2】発酵液の沈降特性を示す図表である。
【図3】脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量と、VS分解率との関係を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のメタン発酵処理に用いるメタン発酵装置の一実施形態について、図1を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、このメタン発酵装置は、前処理槽1と、メタン発酵槽2と、重力沈降槽3とで主に構成されている。
【0018】
前処理槽1は、加熱装置(図示しない)と攪拌装置(図示しない)とを備え、有機性廃棄物の供給源から送られてくる有機性廃棄物と、後述する重力沈降槽3から返送される汚泥濃縮液とを槽内で混合し、これらの混合物(以下、有機性廃液という)に含まれる脂肪の融点以上に加温して、脂肪を分散処理するための処理槽である。また、この前処理槽1は、後述するメタン発酵槽2への有機性廃液の流入量を安定化させるための緩衝機能も有している。上記加熱装置としては、特に限定はなく、ヒータ、加圧水蒸気、処理する有機性廃棄物自身が持つ熱量を熱交換して加熱する装置等の従来公知のものを用いることができる。また、上記攪拌装置としては、槽内の有機性廃棄物を攪拌出来るものであれば特に限定はなく、攪拌翼を備えた攪拌機等、従来公知のものを用いることができる。
【0019】
前処理槽1には、有機性廃棄物の供給源から伸びた配管L1と、重力沈降槽3の底部(側面の下部に接続してもよい)から伸びた配管L2とが連結している。
【0020】
前処理槽1の後段には、メタン発酵槽2が配置されている。前処理槽1とメタン発酵槽2は配管L3を介して連結している。
【0021】
メタン発酵槽2は、槽内に供給された有機性廃液をメタン菌等の嫌気性微生物の作用で嫌気処理し、メタンガス等のバイオガスに分解する処理槽である。メタン発酵槽2には、槽内の発酵液を攪拌する攪拌装置(図示しない)が配置されている。また、メタン発酵槽2の上部からは、バイオガス取出し用の配管L4が伸びて、ガスホルダやガス利用設備等に接続している。
【0022】
攪拌装置は、槽内の発酵液を攪拌出来るものであれば特に限定はない。例えば、攪拌翼を備えた攪拌機等が挙げられる。また、槽内の発酵液を循環する経路を形成して、槽内の発酵液に上昇流又は下降流を形成するような機構を設けたり、発生したバイオガスを循環させて吹き込みバブリングさせるガス攪拌装置を設けても良い。
【0023】
メタン発酵槽2の後段には、重力沈降槽3が配置されている。メタン発酵槽2と重力沈降槽3は配管L5を介して連結している。
【0024】
重力沈降槽3は、メタン発酵槽2から取出した発酵液中の汚泥を重力沈降して、汚泥濃度が下方ほど高くなる汚泥沈降液を形成する処理槽である。例えば、重力沈殿池が挙げられる。また、重力沈降槽3に水流傾斜板を配置することで、汚泥の沈降速度をより高めることができる。水流傾斜板を備えた重力沈降槽としては、例えば、特開平6−63321号に記載されたもの等が挙げられる。
【0025】
重力沈降槽3の側部からは、上層側の汚泥低濃度液(以下、「汚泥分離液」ともいう)を系外に排出する配管L6が接続している。また、重力沈降槽3の下部(本実施例では底部)からは、前処理槽1に接続する配管L2が伸びており、下層側の汚泥高濃度液(以下、「汚泥濃縮液」ともいう)の少なくとも一部を前処理槽1に返送できるように構成されている。
【0026】
次に、このメタン発酵装置を用いた場合を例にして、本発明のメタン発酵方法について説明する。
【0027】
本発明のメタン発酵処理に用いる有機性廃棄物は、脂肪を高濃度で含有するものであればよい。なかでも、飽和脂肪酸比率の高い脂肪は、融点が高く、常温でも固体の性状をなすものが多いので、飽和脂肪酸比率の高い脂肪を含有する有機性廃棄物が本発明のメタン発酵処理において好ましく用いられる。更には、炭素数16以上の飽和脂肪酸の融点は55℃以上であり、かかる飽和脂肪酸を含有する脂肪は、高温メタン発酵処理時でも溶解せずに固体状態を維持し易いので、炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する脂肪を含む有機性廃棄物が本発明のメタン発酵処理において特に好ましく用いられる。有機性廃棄物に含まれる主な炭素数16以上の飽和脂肪酸としては、パルチミン酸(炭素数16、融点63℃)、ステアリン酸(炭素数18、融点69.9℃)等が挙げられる。炭素数16以上の飽和脂肪酸を有する脂肪を含む有機性廃棄物としては、油脂工場などから排出される油脂排液や、アイスクリームや乳飲料等の食品残渣等が挙げられる。
【0028】
また、脂肪の飽和脂肪酸比率が高いものほど融点が高くなり、常温でも固体の性状を保ち易いので、飽和脂肪酸比率が、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上である脂肪を、好ましくは固形中に20〜35%、より好ましくは25〜30%含む有機性廃棄物が、本発明の本発明のメタン発酵処理において好ましく用いられる。
【0029】
なお、脂肪の飽和脂肪酸比率とは、脂肪構成成分である脂肪酸中の飽和脂肪酸の割合を百分率で表記した値を意味する。
【0030】
本発明では、前処理槽1に、有機性廃棄物と汚泥濃縮液とを、それぞれ配管L1、配管L2を通して供給する。そして、前処理槽1に供給された有機性廃棄物と汚泥濃縮液とを攪拌しながら、これらの混合物(有機性廃液)に含まれる脂肪の融点以上に加温する。これによって、脂肪が溶融分散し、汚泥表面に付着するのでメタン発酵槽2内における脂肪の分散性が向上し、槽内のメタン菌に脂肪が接触し易くなって有機性廃棄物全体の分解効率が向上する。この理由の詳細は定かではないが、以下によるものであると推測される。
【0031】
すなわち、有機性廃棄物をメタン発酵槽2に投入する前に、有機性廃棄物のみを加温してこれらに含まれる脂肪を可溶化しても、メタン発酵槽2における発酵温度が脂肪の融点未満であるため、メタン発酵時に脂肪が固化析出する。脂肪の投入負荷量が高い場合は、メタン発酵槽内に飽和脂肪酸比率が高くて固化し易い脂肪を大量に存在するので、析出した脂肪どうしが衝突付着を繰り返して徐々に成長していき、大きな脂肪粒となり、脂肪の分散性が低下する。そのため、メタン菌によって脂肪が分解されにくく、脂肪が未分解のまま発酵液として排出されていた。
【0032】
これに対し、本発明では、汚泥高濃度液を有機性廃棄物と混合し、これらに含まれる脂肪の融点以上に加温することで、高融点の脂肪が溶融して液状となり、汚泥高濃度液に含まれるメタン菌などの汚泥に分散付着すると考えられる。メタン菌は、加温時に死滅しても、高融点の脂肪の分散状態は保持される。このため、メタン発酵槽2での発酵温度が脂肪の融点未満であっても、脂肪がメタン菌などの汚泥に付着して槽内に分散していることから、メタン発酵槽内に飽和脂肪酸比率の高い融点の高い脂肪が大量に存在していても、槽内のメタン菌に脂肪が接触し易くなったと考えられる。その結果、有機性廃棄物全体の分解効率が向上し、メタン発酵槽からは未分解の脂肪の少ない発酵液が排出され易くなったものと考えられる。
【0033】
有機性廃液(有機性廃棄物と汚泥濃縮液との混合物)の加温温度は、有機性廃液に含まれる脂肪の融点以上となるように行えばよい。有機性廃液に含まれる脂肪の種類や、飽和脂肪酸比率により適宜調整できる。例えば、炭素数16以上の飽和脂肪酸を有する脂肪を含む有機性廃棄物の場合、有機性廃液は60℃以上に加温することが好ましく、より好ましくは、60〜80℃である。上記有機性廃液を60℃以上に加温することで、これらに含まれる脂肪を十分に溶解できる。また、加温をより高温で行うと、エネルギー的なロスが生じるので、上限は80℃とすることが好ましい。
【0034】
有機性廃液の加温時間は、有機性廃液中の脂肪が完全に溶融し、分散するまで行えばよく、設定温度に上昇した後、0.1〜24時間が好ましく、0.5〜2.0時間がより好ましい。
【0035】
有機性廃棄物と汚泥濃縮液との混合割合は、前記有機性廃棄物中の脂肪100質量部に対し、前記汚泥濃縮液の固形分が500〜1,000質量部となるようにすることが好ましく、より好ましくは600〜800質量部となるようにする。有機性廃棄物中の脂肪100質量部に対し、前記汚泥濃縮液の固形分が500質量部未満であると、脂肪の分散性が劣り、1,000質量部を超えると、発酵液中の固形物濃度が高まり、メタン発酵効率が低下する傾向にある。
【0036】
前処理槽1では、更に必要に応じて、粉砕・破砕等の処理を行ってもよい。
【0037】
上記のようにして脂肪の分散処理を行った有機性廃液は配管L3を経由してメタン発酵槽2へ、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上、好ましくは0.4〜0.8g/L/dayとなるように供給する。脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day未満でも問題なくメタン発酵処理することができるが、本発明は、高脂肪の有機性廃棄物を短時間で処理することを目的としているので、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量を0.2g/L/day以上とする。脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が、4〜0.8g/L/dayであれば、有機性廃棄物の分解効率を高めてメタン発酵できる。
【0038】
なお、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量とは、1日に、メタン発酵槽2の液容積1Lあたりに、投入される脂肪中の飽和脂肪酸量のことである。脂肪中に含まれる飽和脂肪酸量は、全脂肪酸量に、飽和脂肪酸の比率を乗じて算出することができる。
【0039】
メタン発酵槽2では、槽内の発酵液の汚泥濃度及び温度がほぼ均一になるように、図示しない攪拌手段で連続的又は間欠的に攪拌しつつ、供給した有機性廃液を所定期間滞留して、メタン菌などの嫌気性微生物の作用でメタン発酵する。そして、メタン発酵槽2に供給した有機性廃液と同量の発酵液を配管L5から引き抜き、重力沈降槽3に供給する。また、有機性廃棄物をメタン発酵した際に発生したメタンガス等のバイオガスは、配管L4から槽外に取り出し、図示しないバイオガスホルダ等に貯留する。
【0040】
重力沈降槽3では、メタン発酵槽2から取出した発酵液中のメタン菌を主体とする汚泥を重力沈降させて、汚泥濃度が下方ほど高くなる汚泥沈降液を形成させる。そして、汚泥沈降液の上層側の汚泥低濃度廃液の少なくとも一部を配管L6を通して排出すると共に、汚泥沈降液の下層側の汚泥低濃度液の少なくとも一部を、配管L2を通して前処理槽1に返送する。
【0041】
上述したように、メタン発酵槽2内の発酵液に、脂肪が分散性よく存在しているので、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上となるようにしても、槽内のメタン菌によって脂肪を効率よく分解でき、有機性廃棄物全体の分解効率を高めることができる。このため、メタン発酵槽2から引き抜かれる発酵液中には、未分解の脂肪が殆ど含まれておらず、重力沈降槽3にて、速やかに汚泥成分を沈降させて汚泥濃縮液を効率よく回収できる。更には、未分解の脂肪が殆ど含まれていないことから、重力沈降槽3の液面にスカムが生成されにくく、配管L6から排出される汚泥分離液の性状を良好であり、その後の排水処理に要する手間を軽減できる。
【実施例】
【0042】
[試験例1]
(実施例1)
図1に示したメタン発酵装置を用いてメタン発酵を行った。メタン発酵槽2は、容積5Lの槽を用いた。また、重力沈殿槽3は、容積0.5Lの槽を用いた。有機性廃棄物として、固形物濃度が約35,000mg/L、不揮発性有機物(VS)濃度が約30,000mg/Lのパーム油精製排液を用いた。このパーム油精製廃液の脂肪濃度(クロロホルム−メタノール抽出)量は、10,000mg/Lで、パルミチン酸とステアリン酸との全脂肪酸量に占める比率は40%であった。
なお、TS濃度(蒸発残留物)は、下水試験方法−2.2.9に準じて測定した。すなわち、試料液を110℃で蒸発乾固して残った固形物量を試料液体積で割って求めた。また、VS濃度は、TS濃度(発酵液(mg/l)を、110℃で蒸発乾固して残った固形物の質量を試料液体積で割って求めた値)から、発酵液を600℃±25℃加熱した残った固形物の質量を試料体積で割って求めた灰分濃度を差し引いて求めた。
前調整槽1には、1日当たり、パーム油精製廃液833mLを投入し、重力沈降槽3から汚泥濃縮液を208mL返送して、これらを混合し、70℃に加温して、70℃の状態で1日保ってから、メタン発酵槽2へ1日4分割で1,042mL投入した。この場合の脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量は、0.67g/L/dayであった。また、メタン発酵槽2から同量の発酵液を引き抜いて重力沈殿槽3に導入した。
ここで、飽和脂肪酸の投入負荷量は、次の式で算出した。
飽和脂肪酸の投入負荷量=脂肪酸濃度(10g/L)×飽和脂肪酸比率(0.40)×発酵液1Lあたりの有機性廃棄物の投入量(0.167L/day=1L/6day)
メタン発酵槽2に投入された有機性廃棄物の滞留時間6日になってから20日間経過した後のメタン発酵槽2内の発酵液のVS濃度を測定したところ、6,000mg/Lであり、VS分解率は80.0%であった。
また、重力沈降槽3に投入された発酵液の汚泥分離液と汚泥分離液との界面を目視で観察し、発酵液の沈降特性を評価した。結果を図2に示す。図2に示すように、約6時間で、発酵液を汚泥分離液と汚泥分離液とにほぼ完全に分離できた。
【0043】
(比較例1)
実施例1において、パーム油精製廃液と汚泥濃縮液との混合液を、加温を行わず、室温(20℃)で1日保ってからメタン発酵槽2に供給した以外は、実施例1と同様にしてメタン発酵処理した。
メタン発酵槽2に投入された有機性廃棄物のメタン発酵槽2における滞留時間が6日になってから20日間経過した後の発酵液のVS濃度を測定したところ、77,000mg/Lであり、VS分解率は73%であった。
また、重力沈降槽3に投入された発酵液の汚泥分離液と汚泥分離液との界面を目視で観察し、発酵液の沈降特性を評価した。結果を図2に示す。図2に示すように、実施例1に比べて汚泥の沈降速度が遅く、重力沈降槽3に投入してから8時間経過後も汚泥分離液と汚泥分離液との分離が不十分であった。
【0044】
(比較例2)
前調整槽1に、パーム油精製廃液833mLを投入し、これを70℃に加温して、70℃の状態で1日保ってから、メタン発酵槽2へ1日4分割で833mL投入し、メタン発酵槽2から同量の発酵液を引き抜いて重力沈殿槽3に導入した。
メタン発酵槽2に投入された有機性廃棄物の滞留時間6日になってから20日間経過した後のメタン発酵槽2内の発酵液のVS濃度を測定したところ、10,200mg/Lであり、VS分解率は64.0%であった。
これらの結果から、汚泥濃縮液と、飽和脂肪酸比率が高い脂肪を含む有機性廃棄物とを、70℃以上に保って混合してから、メタン発酵槽に投入してメタン発酵処理することで、脂肪の分解効率が向上してメタン発酵槽から引き抜かれる発酵液中の脂肪量が減少し、重力沈降槽において短時間で沈降することが可能となる。
【0045】
[試験例2]
実施例1において、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2〜1.0g/L/dayとなるように、メタン発酵槽への有機性廃棄物の供給量を調整してメタン発酵を行った。結果を表1,図3に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
表1,図3に示すように、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が増加するに伴い、メタン発酵槽2に投入された有機性廃棄物の滞留時間が短くなり、VS分解率が低くなる傾向にあった。
【符号の説明】
【0048】
1:前処理槽
2:メタン発酵槽
3:重力沈降槽
L1〜L6:配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪を含有する有機性廃棄物を、メタン発酵槽に投入してメタン発酵処理し、前記メタン発酵槽から発酵液を所定量ずつ取出して重力沈降手段により汚泥濃度が下方ほど高くなる汚泥沈降液を形成し、前記汚泥沈降液の下層側の汚泥高濃度液の少なくとも一部を前記メタン発酵槽に返送し、前記汚泥沈降液の上層側の汚泥低濃度液の少なくとも一部を系外に排出するメタン発酵方法において、
前記汚泥沈降液の下層側から取出された汚泥高濃度液を前記有機性廃棄物と混合し、これらに含まれる脂肪の融点以上に加温して脂肪を分散させた後、前記メタン発酵槽に、脂肪中の飽和脂肪酸の投入負荷量が0.2g/L/day以上となるように投入してメタン発酵処理することを特徴とするメタン発酵方法。
【請求項2】
前記有機性廃棄物は、飽和脂肪酸比率が30%以上である脂肪を固形中に20〜35質量%含有する、請求項1に記載のメタン発酵方法。
【請求項3】
前記汚泥高濃度液及び前記有機性廃棄物の混合液を、70℃以上に加温した後、前記メタン発酵槽に投入する、請求項1又は2に記載のメタン発酵方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−183354(P2011−183354A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54001(P2010−54001)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(510302102)ユニバーシティー オブ スマトラ ウタラ (3)
【Fターム(参考)】