説明

メチルクロロシランの製造方法

【課題】ミュラー・ロッショーによるメチルクロロシランの直接合成のための方法において、ジメチルジクロロシランの製造に関して改良を示す方法を提供する。
【解決手段】クロロメタンを、ケイ素、銅触媒を含有し、かつナトリウムとカリウムの全割合が10〜400ppmを有する触媒材料と反応させることによってメチルクロロシランを直接合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウム及び/又はカリウムを含有する触媒材料を用いたメチルクロロシランの直接合成のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ素とクロロメタンとを、好適な触媒及び触媒組合せ物の存在下でミュラー・ロッショー(Mueller-Rochow)による直接合成において反応させることによってメチルクロロシランを製造する方法は既に公知である。
【0003】
例えば“Catalyzed Direct Reactions of Silicon; K.M. Lewis, D.G. Rethwisch; Elsevier 1993”に記載されている。
【0004】
メチルクロロシランの直接合成では、金属のケイ素とクロロメタンとを、ジメチルジクロロシランを目的生成物として、種々の触媒と場合により促進剤との存在下に反応させる。ケイ素、触媒及び促進剤からなる混合物を触媒材料と呼称する。目下、世界的に年間で1500000トンのジメチルジクロロシランが製造されている、すなわち例えばジメチルジクロロシラン選択性/ジメチルジクロロシラン特異的な空時収量の向上又は比原料収率の向上のような製造方法における小さな改良がそれにより大きな経済効果を生む。
【0005】
DE3841417号A1は、Na含有率0〜0.5質量%とK含有率0〜0.5質量%を有する“不活性ガスで微粒化されたケイ素”が記載されている。この記載は、特に“Silicon for the Chemical Industry, Geiranger - Norway; 16 - 18 June 1992;第11〜23頁; Impurity Distribution in Silicon, A. Schei, H. Rong, A.G. Forwald”及び“Harry Morten Rong; Silicon for the Direct Process to Methylchlorosilanes; Dr. -Thesis; 1992, Norwegen”を引き合いに出しても極めて不明確である。
【0006】
“Impurity Distribution in Silicon, A. Shei, H. Rong, A.G. Forwald”において表1及び図1で、精製された原料ケイ素(例えば直接合成で使用される)の製造に際して不純物Na及びKは主に排ガス/ダストを介して工程から排出され、そして非常に僅かな程度でのみケイ素中に見られるにすぎないことが一義的に説明されている。ケイ素中のNaに関しては、<5ppmの値が明示されている。
【0007】
“Harry Morten Rong; Silicon for the Direct Process to Methlchlorosilanes; Dr.-Thesis; 1992, Norwegen”では、第55〜56頁に、通常はケイ素の製造においてアルカリ金属は排ガスと一緒に取り出されることが記載されている。
【0008】
EP470020号A1は、触媒材料中に0.05〜2質量%のLi、Na、K、Rb又はCsが存在することを記載している。
【0009】
US4661613号Aは、直接合成において0.05〜4質量%のCsを使用することを記載しており、その際、必要とするCs量の90質量%までがLi、Na、K、Rbによって置き換えられていてよい。従って、理論上のNa、Kの含有率は0〜3.6%である。具体的な例においてはセシウムが使用されている。
【0010】
WO2004/063206号では、0.01〜2質量%のセシウム、カリウム又はルビジウムが添加された殆どコークスを形成しない触媒材料が記載されている。具体的にはセシウムが添加されている。
【特許文献1】DE3841417号A1
【特許文献2】EP470020号A1
【特許文献3】US4661613号A
【特許文献4】WO2004/063206号
【非特許文献1】Catalyzed Direct Reactions of Silicon; K.M. Lewis, D.G. Rethwisch; Elsevier 1993
【非特許文献2】Silicon for the Chemical Industry, Geiranger - Norway; 16 -18 June 1992;第11〜23頁; Impurity Distribution in Silicon, A. Schei, H. Rong, A.G. Forwald
【非特許文献3】Harry Morten Rong; Silicon for the Direct Process to Methylchlorosilanes; Dr. -Thesis; 1992, Norwegen
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、ミュラー・ロッショーによるメチルクロロシランの直接合成のための方法において、ジメチルジクロロシランの製造に関して改良を示す方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の対象は、クロロメタンを、ケイ素、銅触媒を含有し、かつナトリウムとカリウムの全割合が10〜400ppmを有する触媒材料と反応させることによってメチルクロロシランを直接合成するための方法である。
【0013】
触媒材料中に10〜400ppmのナトリウムとカリウムとの全含有率があると、比ジメチルジクロロシラン生成率、つまり使用されるケイ素質量と単位時間当たりのMeSiClの生成に有利に作用することが判明した。
【0014】
有利には、触媒材料中のナトリウムとカリウムとの全含有率は少なくとも20ppmである。有利には、触媒材料中のナトリウムとカリウムとの全含有率は高くて250ppm、特に高くて100ppmである。有利には、触媒材料中のナトリウム又はカリウムの含有率は、少なくとも10ppmで高くて300ppm、有利には高くて100ppm、特に高くて50ppmである。特にカリウム含有率はナトリウムより高く、その際、ナトリウムとカリウムが存在する場合には、ナトリウム含有率は有利には少なくとも10ppmである。
【0015】
触媒材料中のナトリウムとカリウムとの含有率は、有利には好適な措置によってねらいを定めて調整される。
【0016】
ナトリウムとカリウムは、金属として、合金として、又は化合物として触媒材料に添加でき、又は有利には原料、例えばケイ素及び触媒と一緒に触媒材料中に導入してもよい。後者の場合に、原料中のナトリウムとカリウムの含有率とは無関係に触媒材料中のナトリウムとカリウムの濃度はメチルクロロシラン合成の作業パラメータを介して制御される。作業パラメータは、前記の場合に、例えば供給される新たな原料と、系から排出されるケイ素含有の固体、例えばサイクロンダスト又はフィルタダストとの比であり、これは例えば“Catalyzed Direct Reactions of Silicon; K.M. Lewis, D.G. Rethwisch; Elsevier 1993”の第18頁図3に記載されている。
【0017】
該方法は断続的に又は連続的に実施できるが、工業的な製造は連続的な実施態様だけが使用される。連続的にとは、反応したケイ素並びに、場合により反応ダストと一緒に排出される触媒及び促進剤の量を引き続き持続的に、有利には事前に混合された触媒材料として計量供給することを意味する。連続的な直接合成は、有利には流動床反応器中で実施され、そこではクロロメタンは流動化媒体及び反応物と同時に投入される。
【0018】
必要とされるケイ素は、前もって粉末に粉砕され、そして銅触媒及び促進剤と混合されて、触媒材料となる。有利には、ケイ素は、大きくて700μmの粒度で、特に有利には大きくて500μmの粒度で使用される。使用されるケイ素は、通常は>98%の純度を有する。
【0019】
連続的な直接合成の製造運行は、誘導段階から始まる。誘導段階の開始と共に、塩化メチルを加熱された触媒材料中に導入する。それに開始段階が引き続き、そこで粗製シラン生成が始まる。反応は、まずは低い選択性と反応性で進行する。引き続き、安定な製造段階に達する。ケイ素と場合により触媒と促進剤/助触媒は引き続き持続的に計量供給される。製造運行は、クロロメタンが触媒材料中にもはや導入されなくなったら終了する。
【0020】
反応器の連続的稼働の際に、製造運行において、十分に安定な製造段階後に目的生成物のジメチルジクロロシランに関する生成率が低下する。従って、その製造運転はある所定時間後に終了させねばならない。製造運転の期間は、たいていは数日から複数週だけである。反応器は、1回の製造運転の終了後に空にして、新たにケイ素、銅触媒及び促進剤/助触媒を充填し、そして再び反応条件へともたらされる。
【0021】
直接合成では、未反応のクロロメタン、気体状のメチルクロロシラン及び場合により同伴する粒子が反応器から排出される。同伴する粒子は、反応したケイ素粒、微細なケイ素粒、触媒及び促進剤/助触媒からなる。1つ以上のサイクロンを介して、所望であれば、同伴した粒子を気流によって分離し、その際、触媒材料からの大量の同伴する粒子を反応器に再び戻すことができる。引き続きシランと得られたダスト成分及び未反応のクロロメタンとを分離し、蒸留に供給する。精製された未反応のクロロメタンを再び反応器に供給してもよい。
【0022】
該方法は、有利には流動床反応器中で、好ましくは250〜360℃、特に280〜330℃の温度範囲で実施される。これに必要な費用は非常に少ないので、その方法はたいていは周囲雰囲気の圧力で、従って約0.1MPa乃至0.5MPaで実施されるが、より高い圧力を使用することもできる。
【0023】
前記方法では、例えば窒素又はアルゴンのような不活性ガスも使用できる。不活性ガスを使用しないことが好ましい。
【0024】
気流の量は、有利な実施態様では、反応器中で触媒材料とガスとからなる流動床が形成されるように選択される。未反応のクロロメタンと場合により不活性ガス及び気体状のメチルクロロシランが反応器から排出される。触媒材料の準備は、個々の成分を室温で簡易に混合することによって行われる。反応器に装入する前の触媒材料の処理は可能であるが、有利な実施態様ではそれを行わない。
【0025】
本発明による方法では、銅の形態は、有利には金属銅、銅合金、酸化銅及び塩化銅から選択される。酸化銅は、例えば酸化銅混合物の形及び酸化銅(II)の形の銅であってよい。塩化銅は、CuClの形又はCuClの形で使用してよく、その際、相応の混合物も可能である。有利な実施態様では、銅は酸化銅として及び/又はCuClとして使用される。有利には、金属銅とケイ素に対して0.3〜10質量%、特に0.5〜7質量%の銅触媒が使用され、特に有利には0.8〜5質量%が使用される。
【0026】
本発明による方法では、有利にはリン、セシウム、バリウム、スズ及びアンチモンから選択される促進剤を使用してよい。触媒材料中の促進剤の量は、有利には5〜100ppm、特に10〜80ppm、特に有利には15〜60ppmである。
【0027】
本発明による方法では、有利な実施態様において、亜鉛を助触媒として使用する。亜鉛は、有利には金属亜鉛の形で、また合金として、特に銅及び場合により他の促進剤との合金として、酸化亜鉛又はZnClとして使用される。触媒材料中の亜鉛の量は、元素に対して、0.005〜1.0質量%、特に有利には0.01〜0.5質量%、特に0.05〜0.2質量%である。
【0028】
更に、触媒材料中のナトリウムとカリウムとの全含有率が10〜400ppmである場合に、触媒材料中にZnClと組み合わせて、付加的に炭化水素生成、特にイソブタン生成を減らすことができることが判明した。低減された炭化水素生成は、より高い原料収率を意味し、MeCl循環ガスについては、MeCl/炭化水素生成での経皮削減もしくはMeCl/炭化水素生成が変化しない場合にはより高い反応性を意味する。更に、前記の組合せによって、不所望な使用できない高沸点物の割合が低減される。このことは、原料収率の更なる増加と廃棄物処理費用を低下させることに導く。
【0029】
炭化水素生成は、特に促進剤としてスズを更に使用した場合に特に低下される。
【0030】
以下の実施例では、その都度、特に示されていなければ、
a)全ての量は質量に対するものである;
b)全ての圧力は0.10MPa(絶対圧)である;
c)全ての温度は20℃である。
【実施例】
【0031】
好適な触媒の存在下でのケイ素とクロロメタンとの反応における結果は、触媒材料の組成の他にも、試験装置と試験実施の構成にも依存する。前記の後者のパラメータ両者を排除し、本発明の利点を一義的に証明できるように、以下の実施例に示される試験は以下で標準化された様式に従って行った。
【0032】
ケイ素粉末:市販のケイ素金属を粉砕し、そして70〜240μmの範囲の粒度に篩別する。
【0033】
酸化銅:US−A−5,306,328号の実施例5に従って製造する。
【0034】
全ての他の化学物質は、化学物質業者、例えばFluka Chemie GmbH(ドイツ在)で購入できる。
【0035】
試験装置:
加熱コイル/ガス整流フリット(Gasverteilerfritte)、ブライン循環式冷却を備えた蒸留ブリッジ、及び受容フラスコを有する研究室流動床反応器(内径25mmと高さ500mmを有する鉛直ガラス管)。
【0036】
標準化された様式:
銅触媒、助触媒としての0.8gの金属亜鉛、8mgのスズ粉末及び場合によりNaCl及びKClを均質混和し、120gのケイ素と混合し、反応器中に充填し、そして40l/hの窒素流で340℃において加熱する。引き続き40l/hのクロロメタンを反応器に導通させ、そして触媒材料を395℃に加熱する。2〜30分の範囲の誘導時間後にシラン生成が始まり、反応温度を360℃に下げ、そして50mlのメチルクロロシランが回収される(開始段階)。引き続き更に30mlのメチルクロロシランが回収される。この30mlのシラン生成のための時間を製造段階と呼び、その生成率(PR2)は式
【0037】
【数1】

に従って算出する。
【0038】
30mlのメチルクロロシランのシラン組成は、GC分析により質量%で測定した。
【0039】
実施例1〜9(実施例1、4、5、9は本発明によるものでない)
同等のCu触媒の場合に、触媒材料中での少なすぎるNa量と高すぎるNa量とは比ジメチルジクロロシラン生成に悪影響を及ぼすことが示される。使用されるケイ素は以下の組成を有した:0.24%のAl、0.039%のCa、0.44%のFe、0.046%のTi、<10ppmの各個々の元素Na、K、Cs、Sr、Ba。
【0040】
【表1】

【0041】
実施例10〜18(実施例10、13、14、18は本発明によるものでない):
同等のCu触媒の場合に、触媒材料中での少なすぎるK量と高すぎるK量とは比ジメチルジクロロシラン生成に悪影響を及ぼすことが示される。使用されるケイ素は以下の組成を有した:0.21%のAl、0.039%のCa、0.32%のFe、0.032%のTi、<10ppmの各個々の元素Na、K、Cs、Sr、Ba。
【0042】
【表2】

【0043】
実施例19〜28(実施例19、24、25、28は本発明によるものでない):
同等のCu触媒の場合に、触媒材料中での少なすぎるNa及びKの量と高すぎるNa及びKの量とは比ジメチルジクロロシラン生成に悪影響を及ぼすことが示される。
【0044】
使用されるケイ素は以下の組成を有した:0.21%のAl、0.039%のCa、0.32%のFe、0.032%のTi、<10ppmの各個々の元素Na、K、Cs、Sr、Ba。
【0045】
【表3】

【0046】
実施例30及び31:
ミュラー・ロッショーによるメチルクロロシランの製造のための装置であって、連続的な触媒材料供給、サイクロンシステム、ダスト排出システム並びに循環ガス返送を介した触媒材料返送を伴う流動床反応器からなる、例えば“Catalyzed Direct Reactions of Silicon; K.M. Lewis, D.G. Rethwisch; Eisevier 1993”の第8〜21頁に記載されている工業用装置において、同等の条件下に、触媒材料中26ppmのNa濃度と40ppmのK濃度で、触媒系としてCuCl/CuO混合物を使用した。促進剤としてSnを使用した。Zn助触媒を変更するが、その際、触媒材料中のZnの絶対濃度は一定に保持した。
【0047】
実施例30:助触媒としてZn金属を用いると、循環ガス系において0.5〜15質量%の範囲で炭化水素増大がもたらされた。
【0048】
実施例31:助触媒としてZnClを用いると、実施例30と比較して、炭化水素増大が約0.3〜8質量%と半分になり、その際、イソブタンに主要な影響が顕れた。循環ガス中の高められたMeCl部分圧によって、比ジメチルジクロロシランの空時収量は、実施例30に対して、5〜10%だけ高まる。同時に、生成した粗製シランにおいて、不所望な高沸点物(沸点が71℃より高い)の割合は15〜20質量%だけ減少した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロメタンを、ケイ素、銅触媒を含有し、かつナトリウムとカリウムの全割合が10〜400ppmを有する触媒材料と反応させることによってメチルクロロシランを直接合成するための方法。
【請求項2】
カリウムの含有率がナトリウムより高い、請求項1記載の方法。
【請求項3】
銅の形態が、金属銅、銅合金、酸化銅及び塩化銅から選択される、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
リン、セシウム、バリウム、スズ及びアンチモンから選択される促進剤を使用する、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
亜鉛を助触媒として使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
亜鉛をZnClの形で使用する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
触媒材料中の亜鉛の量が、元素に対して、0.01〜0.5質量%である、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
付加的な促進剤としてスズが存在する、請求項4から7までのいずれか1項記載の方法。

【公開番号】特開2006−213714(P2006−213714A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26168(P2006−26168)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】