説明

メッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法

【課題】メッキ洗浄排水から水と金属とを効率的に回収する。
【解決手段】メッキ洗浄排水を酸化剤の存在下にpH3〜6に調整して、液中の2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化して鉄水酸化物を析出させる鉄不溶化工程と、該鉄不溶化工程の処理水を精密濾過膜、限外濾過膜又は濾過器で固液分離する固液分離工程と、該固液分離工程で分離された分離水を逆浸透膜分離処理し、透過水を処理水として系外へ取り出す逆浸透膜分離工程と、該逆浸透膜分離工程の濃縮水にアルカリを添加して、酸不溶性の粒子を種晶とする晶析法により、液中の金属を炭酸塩として析出させる晶析工程とを有するメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメッキ洗浄排水から水と有価金属とを効率的に回収する方法に係り、特に、電気メッキ工程の洗浄排水から、水とニッケル、亜鉛等の有価金属との両方を効率的に回収してその再利用を可能とすると共に、排水処理によるスラッジ発生量を削減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メッキ工場から排出されるメッキ洗浄排水は、一般にpHが2〜3であり、2価鉄の他に、ニッケル、亜鉛、クロム、銅などの有価金属を含む場合が多いため、これを回収して再利用することが望まれる。
【0003】
従来、メッキ洗浄排水の処理方法としては、一般的には、中和凝集沈殿法(水酸化物沈殿法)が採用されている。この方法は、排水のpHをアルカリ性とし、金属イオンを水酸化物として沈殿させて分離除去するものである。この方法で、ニッケルや亜鉛といった有価金属を回収する場合、これらを鉄と分離して回収するためには、pH条件を変えて凝集沈殿する方法が採られる。すなわち、pH3〜6でFe2+を酸化剤等の存在下でFe3+に酸化した後、水酸化物として沈殿除去し、その後、pH7〜10でニッケル、亜鉛を沈殿分離する方法である。さらに水を回収する場合には、ニッケル、亜鉛を沈殿分離した後、回収水の要求水質に合わせて、さらに砂濾過、限外濾過等の固液分離、または逆浸透(RO)膜処理を行う。
【0004】
その他、金属含有排水の処理法として、硫化物沈殿法、イオン交換法、キレート樹脂法、膜分離法などがある。
【0005】
硫化物沈殿法は、硫化ソーダ添加により金属を硫化物として沈殿させる方法である。この方法では、水酸化物沈殿法に比べて金属硫化物の溶解度積が低いことから、廃水処理の観点からは、より低濃度に金属類を処理することができる。
【0006】
イオン交換法は、排水中の金属イオンをイオン交換樹脂に吸着させて除去するものであり、イオン交換樹脂の吸着容量の範囲内で使用すれば、確実に金属イオンを除去することが可能である。
【0007】
キレート樹脂法は特定の金属に対して選択性を有するキレート樹脂を使用して金属を吸着除去するものである。イオン交換樹脂と同様、確実に金属イオンを除去することが可能であるが、キレート樹脂は金属に対して選択性を有し、吸着除去できる金属が特定される。
【0008】
膜分離法はRO膜を使用して金属イオンを除去するものであり、良好な処理水質が得られる。
【0009】
しかし、いずれの方法も、金属含有排水から水と有価金属との両方を回収する場合にはそれぞれ以下のような課題がある。
【0010】
(1)中和凝集沈殿法
水酸化物は、フロックが微細で、沈殿池での分離性が不安定であるため、安定運転のためには高分子凝集剤などの沈殿補助剤が必要である。また、水酸化物スラッジは含水率70〜80%程度であり、発生した大量のスラッジの処理が問題となる。
また、この方法で、鉄とニッケルや亜鉛とを分離回収するためには、中和時のpHを2段階にする必要があるため、沈殿池を2段階に設けることとなり、大きな設置スペースが必要である。
更に、水回収のために、後段でRO膜処理を行う場合、中和処理によりイオンが増加するため、RO膜へのイオン負荷が増加してしまう。
【0011】
(2)硫化物沈殿法
硫化物は溶解度積が低く、金属イオン濃度を低下させることができるが、硫化物の沈殿物は微細であるため、沈殿分離性が悪い。また、硫化物は酸性条件で硫化水素を発生するため、安全性の問題がある。
【0012】
(3)イオン交換法
イオン交換樹脂は殆どすべてのイオンを吸着するため、排水処理では金属イオン以外のイオン吸着量が大きく、金属イオン除去を目的とした場合には効率が悪い。また、その分、再生薬剤を多く必要とし、しかも、再生液中にはこれらのイオンが混合された状態で含まれるため、有価金属の回収が困難である。
【0013】
(4)キレート樹脂法
イオン交換樹脂に比べて金属イオンに対する選択性は高いが、共存イオンの挙動に注意が必要である。また、再生には通常、硫酸や塩酸を使用するが、再生液中に酸が多く残留するとともに、回収液の金属イオン濃度は高々2〜3重量%程度と再利用するには濃度が低い。
【0014】
(5)膜分離法
RO膜の使用により良好な処理水質を得ることができるが、RO濃縮水側に濃縮される金属イオンは排水中の10倍程度にしかならないため、RO膜単独では金属回収に適さない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2002−192168号公報
【特許文献2】特開2004−107780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は上記従来の問題点を解決し、メッキ洗浄排水から水と金属とを効率的に回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明(請求項1)のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法は、メッキ洗浄排水から水及び金属を回収する方法において、メッキ洗浄排水を酸化剤の存在下にpH3〜6に調整して、液中の2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化すると共に鉄水酸化物を析出させる鉄不溶化工程と、該鉄不溶化工程の処理水を精密濾過膜、限外濾過膜又は濾過器で固液分離する固液分離工程と、該固液分離工程で分離された分離水を逆浸透膜分離処理し、透過水を処理水として系外へ取り出す逆浸透膜分離工程と、該逆浸透膜分離工程の濃縮水にアルカリを添加して、酸不溶性の粒子を種晶とする晶析法により、液中の金属を炭酸塩として析出させる晶析工程とを有することを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項2)のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法は、請求項1において、前記晶析工程において、種晶上に析出した金属炭酸塩を酸に溶解させて金属塩溶液を得る金属回収工程を有することを特徴とする。
【0019】
本発明(請求項3)のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法は、請求項2において、前記金属回収工程で得られた金属塩溶液をメッキ液として再利用することを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項4)のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記晶析工程の処理水を前記鉄不溶化工程に返送して処理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、メッキ洗浄排水から水と金属とを効率的に回収することができる。
【0022】
即ち、まず、鉄不溶化工程で、鉄を鉄水酸化物(Fe(OH))として析出させ、これを固液分離工程において分離除去する。この固液分離は、精密濾過(MF)膜、限外濾過(UF)膜又は濾過器で行うため、固液分離性に優れる。鉄析出工程ではpH3〜6に調整することから、鉄水酸化物は析出するが、ニッケル、亜鉛等の金属イオンは溶存している。従って、固液分離工程では、この溶存金属イオンを含んだ分離水が得られる。
【0023】
本発明においては、この固液分離水をまずRO膜分離処理して濃縮する。RO膜透過水は純水並みの良好な水質を有し、処理水として系外へ取り出してメッキ洗浄用水として再利用するか、或いは他のユースポイントで利用することができる。
【0024】
RO濃縮水中に濃縮されたニッケル、亜鉛等の金属イオンは、続く晶析処理により、種晶上に金属炭酸塩として析出する。晶析法によれば、金属を金属炭酸塩の、脱水性の良い粒子として回収することができ、中和沈殿法のような沈殿池や脱水設備を省略することができる。
なお、ニッケルや亜鉛は、水酸化物として不溶化することもできるが、水酸化物は不溶化する際、水分を包含し、含水率の高いフロックを生成するため、晶析法には適さない。
【0025】
この晶析法の種晶としては、酸不溶性の粒子を用いることにより、種晶上に析出した金属炭酸塩を酸に溶解させて、容易に金属塩溶液として回収することができ(請求項2)、この金属塩溶液は、メッキ液として再利用することができ(請求項3)、回収した種晶も晶析工程に再利用することができる。
【0026】
一方、晶析工程の処理水中には、回収目的の金属イオン及び不溶化しても種晶上に捕捉されなかった微細な金属が残留しているため、この処理水は鉄不溶化工程に返送して再度処理を行うことが好ましく、これにより金属回収率と水回収率を高めることができる(請求項4)。
【0027】
以上より、本発明によれば、メッキ洗浄排水から、水と有価金属とを効率的に回収することができる。また、鉄析出工程、固液分離工程、RO膜分離工程及び晶析工程の一連の組み合わせにより、処理排水量と排出金属量を削減することができることから、最終的なスラッジ発生量を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法の実施の形態を示す系統図である。
【図2】晶析装置の構成を示す系統図である。
【図3】酸接触装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明のメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法の実施の形態を示す系統図であり、図2は晶析装置の構成を示す系統図、図3は酸接触装置の構成を示す系統図である。
【0031】
本発明においては、まず、原水であるメッキ洗浄排水を凝集・酸化槽1に導入して、酸化剤(図1では次亜塩素酸ソーダ(NaClO))、pH調整剤(図1ではアルカリ剤としての苛性ソーダ(NaOH))、凝集剤(図1では塩化第二鉄(FeCl))を添加して、pH3〜6で、液中の2価鉄(Fe2+)を3価鉄(Fe3+)に酸化して鉄水酸化物(Fe(OH))を析出させる。
【0032】
この鉄不溶化工程において、酸化剤としては、NaClOの他、過酸化水素や過マンガン酸カリウム、塩素、オゾン等を用いることができる。酸化剤の添加量は、液中のFe2+をFe3+に酸化するための当量以上であれば良い。
【0033】
メッキ洗浄排水は通常pH2程度の酸性であるが、Fe(OH)の析出のためにはpH3以上であることが必要とされることから、pH調整剤としてNaOH等のアルカリを添加してpH調整する。ただし、排水中の濃度によるが、pHが7を超えると液中のニッケルや亜鉛が析出するため、pHは3〜7、特に5〜6に調整する。
【0034】
この鉄不溶化工程において、凝集剤の添加は必須ではないが、Fe(OH)フロックの沈降性を高めるために、FeCl等の凝集剤を添加しても良い。FeCl等の凝集剤の添加で、不溶化した粒子の沈降性を向上させて、後段の沈殿槽2での沈降分離効率を上げると共に、フロック径を大きくすることで、後段のUF膜装置3での濾過性も向上させることができる。また、凝集剤の添加は、メッキ洗浄排水中の有機物を凝集させて、後段のRO膜装置6の負荷を低減すると共に、RO膜の汚染を防止するためにも好ましい。FeClの添加量は通常10〜200mg/L、好ましくは100〜150mg/L程度とする。
【0035】
凝集・酸化槽1でFe(OH)のフロックを析出させた液は、次いでMF膜、UF膜又は濾過器(例えば砂濾過器)で固液分離するが、図1の方法では、それに先立ち沈殿槽2で固液分離した後、MF膜装置(MF膜分離装置)3で膜濾過する。この沈殿槽2は必須ではないが、予め沈殿槽2でFe(OH)の粗大フロックを沈降分離することにより、後段のUF膜装置3等の負荷が軽減され、逆洗頻度の低減、高フラックスを図ることができる。
【0036】
沈殿槽2の分離汚泥は系外へ排出され、分離液はポンプPにより、UF膜装置3に導入され、膜濾過される。このUF膜装置3は定期的に逆洗され、捕集されたFe(OH)スラッジは逆洗排水と共に系外へ排出される。
【0037】
UF膜装置3の濾過水は、UF処理水槽4を経て調整槽5に導入され、調整槽5内で水質調整される。即ち、UF膜装置3の濾過水をRO膜装置(RO膜分離装置)6で処理するに先立ち、RO膜保護のためにUF膜濾過水に重亜硫酸ソーダ(NaHSO)、亜硫酸ソーダ(NaSO)等の還元剤を添加するか、活性炭と接触させて残留する酸化剤を除去すると共に、RO膜装置6における濃縮でニッケル、亜鉛等の金属の水酸化物が析出しないように、必要に応じてpH調整剤を添加してRO膜装置6に供給される水(RO供給水)のpHが4〜6、好ましくは4〜5となるように調整する。
【0038】
UF膜濾過水への還元剤の添加量は、通常残留する酸化剤の当量以上、5〜20mg/L好ましくは10〜15mg/L過剰とする。
【0039】
調整槽5で水質調整された水は、ポンプPによりRO膜装置6に導入され、透過水(RO透過水)と濃縮水(RO濃縮水)とに膜分離処理される。濃縮水の一部はRO濃縮水槽7に送給され、残部は循環処理される。
【0040】
このRO膜装置6での処理は、濃縮倍率5〜10倍、水回収率80〜90%で行うことが、運転上のトラブルを生じることなく、金属イオンを高度に濃縮して水回収率を高める上で好ましい。
【0041】
RO膜装置6で得られるRO透過水は、純水と同程度の良好な水質を有するものであるため、これをメッキ洗浄用水として再利用することができる。また、このRO透過水は、他のユースポイントで使用することもできる。
【0042】
RO濃縮水中の金属イオンは、メッキ洗浄排水中の金属イオン濃度の5〜10倍に濃縮されており、このRO濃縮水は、RO濃縮水槽7を経て晶析装置8に導入されて晶析処理される。
【0043】
晶析装置8としては、金属炭酸塩の析出を促進することができるものであれば良く、特に制限はないが、例えば、図2に示すような晶析反応塔10内に種晶を充填し、塔下部より晶析原水のRO濃縮水を通水し、塔内に種晶の流動床を形成させる塔型反応器を好適に用いることができる。
【0044】
図2の装置において、晶析原水は、配管11よりポンプPにより反応塔10の下部から通水され、処理水は配管12より流出して処理水槽15に投入される。塔上部からは処理水の一部が循環配管14及び循環ポンプPにより塔下部に循環されて処理される。
【0045】
晶析反応塔13の上部からは炭酸ソーダ(NaCO)又は、重炭酸ソーダ(NaHCO)と苛性ソーダ(NaOH)との混合液等の炭酸アルカリが注入され、塔内で流動する種晶上に、炭酸ソーダと金属イオンとの反応で、例えば以下に代表される反応に従って、金属の炭酸塩が析出する。
Ni2++NaCO→NiCO(析出)+2Na
Zn2++NaCO→ZnCO(析出)+2Na
【0046】
なお、この金属炭酸塩の析出は、晶析原水のpHを7〜10、好ましくは8〜9に上げて行う必要がある。従って、晶析塔反応塔10に注入する炭酸アルカリは、金属炭酸塩の形成に必要な量であって、かつ晶析塔内の液pHがこのようなpHとなる量とする。このpHが7未満では炭酸塩が析出せず、10を超えると亜鉛は再溶解してしまう。
【0047】
このように晶析工程では、pHを上げる必要があるが、本発明では、晶析工程に先立ち、RO膜分離処理して濃縮することにより晶析処理対象水量を低減するため、pH調整に必要な薬品量の削減を図ることができる。
【0048】
本発明において、種晶としては、後段の金属回収工程における酸処理で溶解しない酸不溶性の粒子を使用する。酸不溶性の粒子としては、砂(シリカサンド)、アンスラサイト等が使用できる。種晶の粒径は0.1〜1mm、特に0.2〜0.4mm程度が適している。
【0049】
晶析処理によって晶析原水中の金属イオンは金属炭酸塩として不溶化し、種晶表面に析出していく。金属炭酸塩の析出により種晶粒子は成長し、粒径0.3〜1.5mmに増大する。増大した粒子は晶析装置から引き抜き、金属回収工程に送給する。
【0050】
晶析装置8の処理水は晶析処理水槽9(図2の処理水槽15)に導入される。
【0051】
晶析法では、操作条件によっても異なるが、金属イオンの回収率が70〜90%、一般的には80%程度となることが多い。このため、この晶析処理水は、その一部を鉄不溶化工程に返送し、原水のメッキ洗浄排水と共に循環処理することが好ましい。これにより、1回の晶析処理で回収できなかった金属イオンを繰り返し晶析処理することができ、全体の金属回収率を上げることができる。
【0052】
本発明においては、この循環処理する晶析処理水の割合は、10〜80%とし、全体の水回収率70〜90%、金属回収率80〜95%程度で処理を行うことが好ましい。
【0053】
晶析装置8において、酸不溶性の種晶を核としてニッケル、亜鉛等の金属炭酸塩が付着した粒子に、硫酸、塩酸等の酸を接触させると、ニッケル、亜鉛等の金属炭酸塩は再溶解し、金属の硫酸塩又は塩化物塩の高濃度溶液が得られる。電気メッキ洗浄排水の処理においては、このようにして得られる高濃度金属硫酸塩水溶液を、そのままメッキ浴で再利用することが可能である。また、このように回収した粒子を酸と接触させて金属炭酸塩を溶解させた後は、酸不溶性の種晶粒子が残るが、この種晶粒子は再度晶析装置で種晶として利用することができる。このように種晶粒子を再利用することにより、晶析装置内の粒径管理が容易となる。
【0054】
従って、晶析装置8からは定期的に、表面に金属炭酸塩が析出した種晶粒子を引き抜いて、酸で処理して金属塩溶液と種晶とをそれぞれ回収する。
【0055】
晶析装置8から引き抜いた粒子(種晶表面に金属炭酸塩が析出した粒子)と酸を接触させる装置としては、両者を効率的に接触させることができるものであれば良く、特に制限はないが、例えば、図3に示すような酸接触装置を用いることができる。
【0056】
この酸接触装置は、晶析装置8からの引き抜き粒子が投入される酸接触塔20を有し、この塔内下部には、粒子は通過せず、水分のみが通過し得る集水板(多孔板またはメッシュ)が設けられている。晶析装置8からの引き抜き粒子の処理に当ってはバルブV、Vを開、その他のバルブを閉として、配管21より引き抜き粒子を酸接触塔20内に投入し、水分を配管23,24より抜き出す。この水分は、晶析処理水槽9に戻される。次いで、バルブV,Vを開、その他のバルブを閉として、ポンプPにより硫酸等の酸を配管25,23を経て酸接触塔20の下部から通水し、酸と粒子とを接触させることにより、種晶表面の金属炭酸塩を溶解させる。金属炭酸塩が溶解して金属イオンを含む溶液は、配管26を経て系外へ排出される。この金属塩溶液としては、通常金属イオンの5〜15重量%程度の高濃度溶液が得られることから、この金属塩溶液はメッキ液として好適に再利用することができる。
【0057】
種晶表面の金属炭酸塩を溶解させた後は、バルブV,Vを開、他のバルブを閉として、ポンプ(図示せず)により配管24,23を経て、水を高流速で酸接触塔20の下部から通水して、種晶をバルブVを経て晶析装置8に返送して再利用する。
【0058】
なお、種晶上の金属炭酸塩の溶解に用いる酸としては50〜98重量%程度の高濃度硫酸水溶液又は20〜35重量%の塩酸水溶液が好ましい。
【0059】
従来の水酸化物沈殿法においても、金属イオンを不溶化し、これを酸で再溶解させて、メッキ浴で再利用することは可能であるが、本発明のように晶析処理を行うことにより、沈殿池や脱水機が不要となる。しかも、比較的粒径の大きい水切り性の良い粒子を得ることができるため、図3のような酸接触装置を使用することが可能となり、容易に水切り、再溶解の操作を行って、高濃度の金属塩溶液を回収することができる。
【0060】
以上のようにして、本発明によれば、排水量、排出金属量を削減して、系全体のスラッジ発生量を大幅に削減した上で、メッキ洗浄排水から効率的に水と有価金属とを回収することができる。
【実施例】
【0061】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0062】
(実施例1)
図1に示す方法でメッキ洗浄排水からの水と金属の回収を行った。
【0063】
まず、メッキ洗浄排水に、凝集・酸化槽1にて次亜塩素酸ソーダ5mg/Lを添加し、廃液中に含まれるFe2+をFe3+に酸化し、また、苛性ソーダを用いてpH5に調整し、Fe3+を鉄水酸化物Fe(OH)として不溶化するとともに、不溶化したFe(OH)の粒子径を大きくするために塩化第二鉄(FeCl)を100mg/L添加して凝集処理した。
【0064】
凝集・酸化槽1の処理液は沈殿槽2に導入して、生成したフロックの大半を沈降分離した後、沈殿槽2の分離液をUF膜装置3で膜濾過した。このUF膜装置3は定期的に逆洗した。
【0065】
UF膜装置3の濾過水は、UF処理水槽4を経て調整槽5に導入し、重亜硫酸ソーダ15mg/Lを添加して残留塩素を除去した後、RO膜装置6へ供給し(RO供給水)、RO透過水を回収するとともに、RO濃縮水をRO濃縮水槽7を経て晶析装置8に送給して晶析処理した。このRO膜装置6の水回収率は80%とした。
【0066】
晶析装置8は、図2に示すような晶析反応塔10に粒径0.2mm程度の砂を充填したものであり、晶析反応塔10の下部よりRO濃縮水を通液して砂の流動床を形成させるとともに、流動床内に炭酸ナトリウム(NaCO)を添加して、流動床内のpHを9に調整した。この晶析装置8からの晶析処理水は晶析処理水槽9に受けた。
【0067】
この処理における各工程毎の水質を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1より次のことが明らかである。
【0070】
鉄不溶化処理により、鉄は不溶化され、RO供給水の段階で検出されないレベルまで除去された。また、ニッケル、亜鉛はRO膜装置6まで殆ど不溶化されることはなく、溶解状態であった。RO濃縮水側へ溶解状態のまま濃縮されたニッケル、亜鉛は、晶析処理によって約80%が除去された(金属回収率80%)。このとき、種晶として投入した砂表面にニッケル、亜鉛が析出し、種晶粒子径の増加が見られた。
【0071】
UF逆洗排水、晶析処理水が排水として排出されるため、全体として水回収率は75%となった。
【0072】
(実施例2)
実施例1において、晶析処理により0.3〜0.4mm程度に粒径が増大した種晶を、図3に示す酸接触塔20に導き、10分間水切りを行った後、塔下部から50重量%硫酸水溶液を注入した。水切りした段階での粒子の含水率は10重量%であった。塔下部から硫酸を注入することにより、種晶表面に付着したニッケル、亜鉛が溶解し、塔上部よりニッケル、亜鉛の硫酸塩溶液が得られた。この溶液のニッケル、亜鉛濃度はそれぞれ1.5重量%、17重量%であった。この結果は、原水中のメッキ洗浄排水のニッケル、亜鉛がそれぞれ600倍、577倍に濃縮されたことになる。
【0073】
(実施例3)
実施例1において、晶析処理水の90%を凝集・酸化槽1の入口側に返送し、メッキ洗浄排水と共に処理したこと以外は同様に行った。本例において、晶析処理での1パスの金属回収率は80%と変わらないが、晶析処理水を返送して再度処理することで、繰り返し晶析処理されることになり、全体の金属回収率は98%まで上昇した。また、水回収率は92%まで向上した。
【符号の説明】
【0074】
1 凝集・酸化槽
2 沈殿槽
3 UF膜装置
4 UF処理水槽
5 調整槽
6 RO膜装置
7 RO濃縮水槽
8 晶析装置
9 晶析処理水槽
10 晶析反応塔
20 酸接触塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ洗浄排水から水及び金属を回収する方法において、
メッキ洗浄排水を酸化剤の存在下にpH3〜6に調整して、液中の2価鉄イオンを3価鉄イオンに酸化すると共に鉄水酸化物を析出させる鉄不溶化工程と、
該鉄不溶化工程の処理水を精密濾過膜、限外濾過膜又は濾過器で固液分離する固液分離工程と、
該固液分離工程で分離された分離水を逆浸透膜分離処理し、透過水を処理水として系外へ取り出す逆浸透膜分離工程と、
該逆浸透膜分離工程の濃縮水にアルカリを添加して、酸不溶性の粒子を種晶とする晶析法により、液中の金属を炭酸塩として析出させる晶析工程と
を有することを特徴とするメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法。
【請求項2】
請求項1において、前記晶析工程において、種晶上に析出した金属炭酸塩を酸に溶解させて金属塩溶液を得る金属回収工程を有することを特徴とするメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法。
【請求項3】
請求項2において、前記金属回収工程で得られた金属塩溶液をメッキ液として再利用することを特徴とするメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記晶析工程の処理水を前記鉄不溶化工程に返送して処理することを特徴とするメッキ洗浄排水からの水及び金属の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−284593(P2010−284593A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−140335(P2009−140335)
【出願日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】