説明

メンテナンス装置、および液体噴射装置

【課題】ノズルの開口部からの液体の蒸発を抑制するとともに、1つのキャップでノズルを個別に吸引することができるメンテナンス装置を実現する。
【解決手段】インクを噴射する複数のノズル開口部25C,25K,25M,25Yが設けられた液体噴射ヘッド19に対して、複数のノズル開口部を囲みながら当接して液体噴射ヘッド19との間に吸引手段によって吸引される閉空間VCを形成するとともに、複数のノズル開口部のうち少なくとも1つのノズル開口部を閉塞するように液体噴射ヘッド19に当接するノズル閉塞部45C,45K,45M,45Yを閉空間内に有するキャップ40と、キャップが液体噴射ヘッド19に当接した状態で、ノズル閉塞部が前記液体噴射ヘッド19に当接した状態および液体噴射ヘッド19から離間した状態のいずれかの状態を呈するようにノズル閉塞部を移動させる移動機構と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドのメンテナンス装置、およびこのメンテナンス装置を備えた液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体噴射装置の一種として、液体噴射ヘッドのノズル形成面にノズル開口部を有するノズルからインクを用紙などの媒体に噴射して印刷を行うインクジェット式プリンターが広く知られている。
【0003】
こうしたインクジェット式プリンターでは、ノズル内に滞留したインクの水分や揮発成分が蒸発してインクの粘度が上昇することによってノズルの目詰まりが生じたり、ノズル内に気泡や金属粒子等の異物が混入したりすることがある。そして、そうした目詰まりや異物等の混入がノズルに生じると、インクの噴射方向がずれたり、適量のインクをノズルから噴射することができなくなったりする等の印刷不良を招くことになる。
【0004】
そこで、インクジェット式プリンターに備えられたメンテナンス装置において、ノズルをクリーニング処理してインクの噴射特性をメンテナンスすることが行われている。例えば、キャップの開口部を液体噴射ヘッドのノズル形成面に当接させ、キャップの内部とノズル形成面との間に形成された閉空間を、吸引ポンプを駆動することによって減圧して、目詰まりの原因となるノズル内のインクをノズル開口部からキャップ内に吸引する。そして、吸引したインクをキャップに設けられた廃液口から吸引ポンプを経由して外部に排出することが行われている。
【0005】
そして、このクリーニング処理に際して、例えば、異なる色のインクを噴射するノズルなど、インクを吸引すべきノズルが複数種類存在する場合、それらの複数種類のノズルを種類毎に個別に吸引する技術が、例えば特許文献1に提案されている。この技術は、複数(2つ)のキャップと吸引ポンプとを選択的に連通させるように切替えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−211717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の提案技術は、複数のキャップを必要とするとともに、それぞれのキャップと吸引ポンプとを選択的に連通させるように切替える切り替え機構を必要としている。このため、メンテナンス装置が大掛かりになって複雑化するという課題がある。また、インクが吸引されないノズルにおいて、キャップ内の閉空間にむけてノズル開口部からインクが蒸発してノズル内のインクが増粘するという課題もある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ノズル開口部からの液体の蒸発を抑制するとともに、1つのキャップでノズルを個別に吸引することができるメンテナンス装置を実現することを主な目的とする。さらに、このようなメンテナンス装置を備えた液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、液体を噴射する複数のノズル開口部が設けられた液体噴射ヘッドに対して、前記複数のノズル開口部を囲みながら当接して前記液体噴射ヘッドとの間に吸引手段によって吸引される閉空間を形成するとともに、前記複数のノズル開口部のうち少なくとも1つのノズル開口部を閉塞するように前記液体噴射ヘッドに当接するノズル閉塞部を前記閉空間内に有するキャップと、前記キャップが前記液体噴射ヘッドに当接した状態で、前記ノズル閉塞部が前記液体噴射ヘッドに当接した状態および前記液体噴射ヘッドから離間した状態のいずれかの状態を呈するように前記ノズル閉塞部を移動させる移動機構と、を備えた。
【0010】
上記構成によれば、液体噴射ヘッドとの間でキャップ内に閉空間を形成した状態を維持したまま、ノズル閉塞部の移動によって、ノズル開口部を、閉塞する状態と開放する状態との間で容易に切り替えることができる。この結果、1つのキャップ内で、吸引を行わないノズルについては、ノズル開口部を閉塞状態とすることでノズル開口部からの液体の蒸発を抑制するとともに、吸引を行うノズルについては、ノズル開口部を開放状態とすることでノズル内の液体を個別に吸引することを容易に行うことができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記ノズル閉塞部は前記閉空間内に複数設けられ、前記移動機構は、前記複数のノズル閉塞部を、互いに独立して移動させる。
上記構成によれば、液体噴射ヘッドにキャップが複数のノズル開口を囲うように当接して閉空間が形成された状態において、閉空間内にノズル開口部が閉塞された状態のノズルと、ノズル開口部が開放された状態のノズルとを、容易に形成することができる。従って、キャップ内において、吸引対象のノズルのノズル開口部を選択的に開放して液体を吸引することができるとともに、吸引するノズル以外のノズル開口部を閉塞することで、ノズル開口部からの液体の蒸発を抑制することができる。
【0012】
本発明のメンテナンス装置において、前記ノズル閉塞部は、前記キャップと一体で形成されている。
上記構成によれば、キャップにはノズル閉塞部との間に接合部が形成されないので、形成された閉空間の密閉性が向上する。また、ノズル閉塞部をキャップと同時に製造することができるのでメンテナンス装置の構造が複雑化することを抑制できる。
【0013】
本発明のメンテナンス装置において、前記キャップは、有底箱状をしており、前記ノズル閉塞部は、前記キャップの底部と一体で形成されており、前記底部における前記ノズル閉塞部の周囲は伸縮可能に形成されている。
【0014】
上記構成によれば、キャップが液体噴射ヘッドに密着して当接できるとともに、キャップが液体噴射ヘッドに当接した状態において、ノズル閉塞部の周囲が伸縮可能に形成されることによってノズル閉塞部を液体噴射ヘッドから離間する方向に容易に移動させることができる。
【0015】
本発明のメンテナンス装置において、前記キャップには、前記閉空間と反対側の外側に前記ノズル閉塞部の移動と連動する連動部が設けられ、前記移動機構は、前記キャップの外側に設けられた前記連動部を移動させる。
【0016】
上記構成によれば、閉空間の外側に設けられた連動部を移動させることによってノズル閉塞部を移動させることができる。従って、閉空間内にノズル閉塞部の移動機構を設けなくてもよいので、吸引される閉空間の容積の増加が抑制され、閉空間内の吸引力が維持される。
【0017】
本発明のメンテナンス装置において、前記移動機構は、回転カムと、前記連動部の一部を当該回転カムのカムフオロワーとして用いることによって、前記ノズル閉塞部を前記液体噴射ヘッドに当接した状態から離間した状態へ移動させる。
【0018】
上記構成によれば、液体噴射ヘッドにおいて各ノズル閉塞部に対応する連動部を回転カムの回転によって移動させることによってノズル閉塞部を液体噴射ヘッドから離間させ、吸引によってメンテナンスすべきノズルのノズル開口部を開放することができる。
【0019】
本発明のメンテナンス装置において、前記連動部は、前記キャップと一体で形成されている。
上記構成によれば、キャップには連動部との間に接合部が形成されないので、閉空間の密閉性が向上する。また、キャップと連動部とを同時に製造することによって、メンテナンス装置の構造が複雑化することを抑制できる。
【0020】
本発明の液体噴射装置は、媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、上記構成を有するメンテナンス装置と、を備えた。
上記構成によれば、上記メンテナンス装置の効果を有する液体噴射装置が得られる。従って、ノズルからの液体の噴射特性のメンテナンスが容易な液体噴射装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施形態のメンテナンス装置を有するプリンターの概略構成を示す斜視図。
【図2】実施形態のメンテナンス装置の概略構成を示す斜視図。
【図3】(a)は実施形態のメンテナンス装置におけるキャップの構造を示す平面図、(b)は(a)における3b−3b線矢視断面図、(c)は(a)における3c−3c線矢視断面図。
【図4】はメンテナンス装置の動作図で、(a)はノズル形成面にキャップの上部が当接した状態を示す断面図、(b)はノズル閉塞部がノズル形成面に当接した状態を示す断面図、(c)はノズル閉塞部がノズル形成面から離間した状態を示す断面図。
【図5】連動部におけるカムの配置について説明する説明図。
【図6】変形例のキャップの構成を示す断面図。
【図7】変形例のキャップの構成を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を、メンテナンス装置を備えた液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、単に「プリンター」ともいう。)において具体化した実施形態について、以下、図を参照して説明する。なお、以降の説明を容易にするため、図1に示したように、鉛直方向における重力方向を下方向、反重力方向を上方向とする。また、鉛直方向と交差する方向であって、プリンターに給送された用紙が印刷時において搬送される搬送方向を前方向、搬送方向と反対方向を後方向とする。さらに鉛直方向および搬送方向の双方と交差する方向であってキャリッジ16が往復移動する方向すなわち走査方向を、前方から見て、それぞれ右方向、左方向と呼ぶことにする。
【0023】
さて、図1に示すように、プリンター11における略矩形箱状をなすフレーム12内の下部には、その長手方向である左右方向に沿って支持台13が延設されている。また、フレーム12の後方面の下部には紙送りモーター14が設けられている。この紙送りモーター14の駆動を通じて図示しない紙送り機構により、支持台13上にその後方側から媒体の一例である用紙Pが給送されるようになっている。
【0024】
フレーム12内における支持台13の上方には、該支持台13の長手方向である左右方向に沿ってガイド軸15が架設されている。このガイド軸15にはその軸線方向において往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。詳しくは、キャリッジ16に左右方向において貫通する支持孔16aが形成されるとともに、この支持孔16aにガイド軸15が挿通されている。
【0025】
フレーム12の後壁内面において上記ガイド軸15の両端の近傍にあたる位置には、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとがそれぞれ回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジモーター18の出力軸が連結されるとともに、駆動プーリー17aと従動プーリー17bとの間には一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が巻き掛けられている。上記プリンター11は、キャリッジモーター18を駆動することにより、タイミングベルト17を介してキャリッジ16をガイド軸15によってガイドしつつ左右方向において往復移動させることの可能な構造になっている。
【0026】
上記キャリッジ16の下面には液体噴射ヘッド19が設けられている。この液体噴射ヘッド19にはインク噴射用のノズルが複数設けられている。また、液体噴射ヘッド19の下方端にはノズル形成面19aが設けられている。このノズル形成面19aには、左右方向に複数(ここでは4つ)の列を形成するとともに、それぞれの列において前後方向に並ぶように配列された複数のノズル開口部25C,25M,25Y,25K(図2参照)が形成されている。
【0027】
一方、キャリッジ16には液体噴射ヘッド19に対してインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。本実施形態のプリンター11では、インクカートリッジ20は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、黒(K)の各色インクを液体噴射ヘッドに供給するようになっている。そして、ノズル形成面19aに配列形成されたそれぞれのノズル開口部25C,25M,25Y,25Kから、それぞれの色インクが噴射されるようになっている。
【0028】
そして、プリンター11では、液体噴射ヘッド19において例えば圧電素子を有する圧力室(不図示)が設けられている。この圧力室において圧電素子が駆動されることにより、インクカートリッジ20内のインクが液体噴射ヘッド19内に供給されるとともに、液体噴射ヘッド19の各ノズルから支持台13上に給送された用紙Pに噴射されることによって印刷が行われる構成となっている。
【0029】
また、フレーム12の内部における上記支持台13よりも右側の領域、すなわち印刷時において使用されない領域(ホームポジション領域)には、液体噴射ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンス装置100が設けられている。プリンター11では、液体噴射ヘッド19をホームポジション領域に移動させるとともに上記メンテナンス装置100を動作させることによって液体噴射ヘッド19(ノズル)をクリーニングすることが行われる。このクリーニングによってノズルからのインクの噴射特性をメンテナンスするようになっている。
【0030】
次に、メンテナンス装置100の構成について、その概要を、図2を参照して説明する。図2に示すように、メンテナンス装置100は、キャップ40と、このキャップ40を液体噴射ヘッド19に対して接近および離間するように上下方向において移動させる昇降装置28とを備えている。また、メンテナンス装置100には、ノズル形成面19aに付着した不要なインクを払拭するワイパー21(図1参照)のほか、キャップ40が液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接して形成される閉空間VC内のインクを吸引する吸引手段としての吸引ポンプ22が備えられる。すなわち、キャップ40におけるキャップ本体41の側壁に突設された排出口42から、排出チューブ24を介して、キャップ40内に形成される閉空間VC内のインクが吸引ポンプ22によって吸引され、廃インクタンク23(図1参照)に排出されるようになっている。また、ノズルから強制的に噴射されたインクを受容する液体受容容器なども必要に応じて備えられる。
【0031】
さて、キャップ40は、前後左右に側壁を有する有底箱状のキャップ本体41を有し、その下側の底部41b(図3(b)(c)参照)には、この底部41bから下方に向けて突設するとともに、左右方向に貫通する四角孔51を有する4つの矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kが設けられている。この四角孔51内には、モーター30によって回転する回転軸31に固定された回転カム35C,35M,35Y,35K(回転カム35M,35Y,35Kについては図3(b)参照)がそれぞれ配設されている。なお、モーター30および回転カム35C,35M,35Y,35Kは、キャップ40と共に昇降装置28によって上昇および降下するようになっている。
【0032】
4つの矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kが有する四角孔51は、上下両側に枠部53,52が、左右両側に枠部54が形成されている。本実施形態では、四角孔51を形成するこれらの枠部のうち、ノズル形成面から離れる方向に形成された下側の枠部52は回転カム35C,35M,35Y,35Kが回転したときそれぞれ上下方向において当接するように、その孔形状が設定されている。
【0033】
一方、キャップ本体41の箱形状内には、ノズル形成面19aに設けられた各色インクを噴射するノズル開口部25C,25M,25Y,25Kと上下方向において対峙する位置に、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kが、それぞれ底部41bと一体で形成されるとともに、底部41bから上方に立設して形成されている。すなわち、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは、キャップ40の上昇に伴って、それぞれの上面44が各ノズル列におけるノズル開口部25C,25M,25Y,25Kと当接して、これらを閉塞するようになっている。なお、本実施形態では、上面44は、前後左右方向に延設されたほぼ平坦な面となっている。
【0034】
また、キャップ本体41は、箱形状の開口端となる上端部41aが液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)との当接部になり、液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接したとき、各ノズル列のノズル開口部25C,25M,25Y,25Kを内側に囲むようになっている。また、キャップ本体41の側壁には、その上端部41a側において上下方向に伸縮性を有する蛇腹形状部47が、四角環状に形成されている。そして、上端部41aはノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの各上面44よりも上方に位置しており、上面44が液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接した状態において、この蛇腹形状部47が収縮するようになっている。
【0035】
このキャップ40について、図3(a)(b)(c)を参照してその構造を更に詳しく説明する。図3(a)(b)(c)に示すように、キャップ40は、箱形状の底部41bにおけるノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの周囲が伸縮可能に形成されている。すなわち、底部41bにおいてノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kをそれぞれ前後左右方向において取り囲むように蛇腹形状部48が形成されている。この蛇腹形状部48が伸縮することによって、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは、キャップ本体41において、それぞれ独立して相対的に上下方向に移動できるようになっている。
【0036】
このノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kに対して、矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kは、上下方向から見たとき、底部41bにおいてそれぞれがほぼ重なるように形成されている。従って、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは、矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kの移動と連動して上下方向にそれぞれ移動するようになっている。換言すれば、矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kは、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの連動部として機能する。
【0037】
本実施形態では、矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kおよびノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kがキャップ本体41と一体で形成されている。そして、蛇腹形状部47,48が伸縮性を有するように可撓性を有する弾性材料(例えばゴム材料やエラストマー、あるいは軟質性の樹脂材料など)によって形成されている。
【0038】
次に、このように形成されたキャップ40を有するメンテナンス装置100における作用について、図4(a),(b),(c)を参照して説明する。なお、本実施形態では、各矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kおよび、これと連動する各ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは、それぞれ同じ動作を行うようになっている。従って、ここでは、代表して矩形枠形状部55Kとノズル閉塞部45Kについての動作を説明することによって、メンテナンス装置100における作用を説明する。
【0039】
図4(a)に示すように、キャップ40は昇降装置28によって上昇し、まずその上端部41aが液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接する。このとき、ノズル閉塞部45Kの上面44は、ノズル形成面19aから離間した状態にある。また、回転カム35Kは四角孔51において下側の枠部52と当接(接触)した状態になっている。
【0040】
そして、更にキャップ40が上昇すると、図4(b)に示すように、キャップ本体41に形成された蛇腹形状部47が圧縮され、ノズル閉塞部45Kがノズル形成面19aに当接してノズル列を形成する複数のノズル開口部25Kを塞ぐように密着する。すなわち、キャップ本体41と液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)とによって閉空間VCが形成されるとともに、ノズル開口部25Kはノズル閉塞部45Kによって閉塞される。なお、本実施形態では、ノズル閉塞部45Kは蛇腹形状部48の弾性力によってノズル形成面19aとの当接状態が維持されるようになっている。
【0041】
次に、ノズル開口部25Kからインクを吸引する場合、図4(c)に示すように、回転カム35Kを枠部52と係合する方向(図4(c)では反時計方向)に回転させる。この回転カム35Kの回転によって下側の枠部52の一部を回転カム35Kに対するカムフォロアーとして用いられることで押し下げられ、矩形枠形状部55Kが下方向に移動する。この結果、矩形枠形状部55Kと連動してノズル閉塞部45Kが下方向に移動する。従って、回転カム35Kと、この回転カム35Kのカムフォロアーとして用いられる矩形枠形状部55K(詳しくは、その一部である枠部52)とによって、移動機構50が構成されている。
【0042】
この下方向への移動によって、ノズル閉塞部45Kの上面44はノズル形成面19aから離れてノズル開口部25Kが開放された状態になる。この状態で閉空間VCを吸引することによって、ノズル開口部25Kからノズル内のインクを吸引することができる。もとより、回転カム35Kが例えば更に回転して枠部52との係合が解除されると、蛇腹形状部48の弾性復元力によって矩形枠形状部55Kが上方に移動して元の位置に戻るとともに、ノズル形成面19aに当接してノズル開口部25Kを閉塞した状態となる。
【0043】
このように、メンテナンス装置100では、閉空間VCにおいて、各ノズル開口部25C,25M,25Y,25Kが閉塞状態もしくは開放状態のいずれかの状態になるように、移動機構50によってノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kがそれぞれ移動するようになっている。
【0044】
一例として、本実施形態のメンテナンス装置100では、移動機構50を構成する回転カム35C,35M,35Y,35Kについて、それぞれのカム形状や回転軸31における回転角度の相互差異などが調節設定されている。この設定によって、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを、個別に、ノズル形成面19aと当接した状態もしくはノズル形成面19aから離間した状態のいずれかの状態にするようになっている。
【0045】
ちなみに、本実施形態では、図5に示したように、回転カム35C,35M,35Y,35Kは、同形状のカムが相互に90度ずつ同じ回転方向に順次ずれて回転軸31に固定されている。この結果、矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kは、回転軸31が図5において反時計方向(矢印)に回転すると、一つずつ順番に回転カム35C,35M,35Y,35Kが枠部52と係合して図中白抜き矢印で示したように押し下げられる。この結果、例えば4つのノズル列のうち1つのノズル列のノズル開口部25Kのみが開放され、他のノズル列のノズル開口部25C,25M,25Yは閉塞された状態を維持するように動作する。
【0046】
上記説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)液体噴射ヘッド19のノズル形成面19aとの間でキャップ40内に閉空間VCを形成した状態を維持したまま、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの移動によって、ノズル開口部25C,25M,25Y,25Kを、閉塞する状態と開放する状態との間で容易に切り替えることができる。この結果、1つのキャップ内で、吸引を行わないノズルについては、ノズル開口部を閉塞状態とすることでノズル開口部からの液体の蒸発を抑制するとともに、吸引を行うノズルについては、ノズル開口部を開放状態とすることでノズル内の液体を個別に吸引することを容易に行うことができる。
【0047】
(2)液体噴射ヘッド19のノズル形成面19aがキャップ40で覆われて閉空間VCが形成された状態において、閉空間VC内にノズル開口部が閉塞された状態のノズルと、ノズル開口部が開放された状態のノズルとを、容易に形成することができる。従って、キャップ内において、吸引対象のノズルのノズル開口部を選択的に開放して液体を吸引することができるとともに、吸引するノズル以外のノズル開口部を閉塞することで、ノズル開口部からの液体の蒸発を抑制することができる。
【0048】
(3)キャップ40にはノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kとの間に接合部が形成されないので、形成された閉空間VCの密閉性が向上する。また、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kをキャップ40と同時に製造することができるのでメンテナンス装置100の構造が複雑化するのを抑制できる。
【0049】
(4)キャップ40が液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に密着して当接できる。そして、このキャップ40が密着して当接した状態において、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの周囲が伸縮可能に形成されることによって、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kをノズル形成面19aから離間する方向に容易に移動させることができる。
【0050】
(5)閉空間VCの外側に設けられた連動部として機能する矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kを移動させることによってノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを移動させることができる。従って、閉空間VC内にノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kの移動機構50を設けなくてもよいので、吸引される閉空間VCの容積の増加が抑制され、閉空間VC内の吸引力が維持される。
【0051】
(6)液体噴射ヘッド19のノズル形成面19aにおいて各ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kに対応する矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kを回転カム35C,35M,35Y,35Kの回転によってそれぞれ移動させることができる。これによってノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kをノズル形成面19aから離間させ、吸引によってメンテナンスすべきノズル開口部25C,25M,25Y,25Kを開放することができる。
【0052】
(7)キャップ40には矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kとの間に接合部が形成されないので、閉空間VCの密閉性が向上する。また、キャップ40と矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kとを同時に製造することによって、メンテナンス装置100の構造が複雑化することを抑制できる。
【0053】
なお、上記実施形態は以下のような別の実施形態に変更してもよい。
・上記実施形態において、連動部として機能する矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kをキャップ本体41とは別体で形成したキャップ40Aとしてもよい。この変形例について、矩形枠形状部55Kに対して適用した一例を、図6を参照して説明する。もとより、本変形例は、他の矩形枠形状部55C,55M,55Yに対しても適用できる。
【0054】
図6に示すように、本変形例のキャップ40Aは、矩形枠形状部55Kが、キャップ本体41と別体で形成されている。矩形枠形状部55Kは硬質材料(例えば金属材料や硬質樹脂材料など)の平板で形成されている。そして、上下方向における枠部59と枠部58、左右方向における枠部57とによって囲まれた四角孔51が、矩形枠形状部55Kにおいて下側に配設されるとともに、上側は枠部59の上端側59aが、ノズル閉塞部45Kaにおいて底部41bから上方向に設けられた凹部49に挿入されて固定されている。従って、回転カム35Kが回転すると、枠部58が押し下げられて矩形枠形状部55Kが下側に移動し、矩形枠形状部55Kと固定状態にあるノズル閉塞部45Kaが連動して下側に移動してノズル形成面19aから離間するように動作する。
【0055】
本変形によれば、矩形枠形状部55K(枠部58)は、硬質材料で形成されているので、回転カム35Kとの係合時において変形が抑制される。従って、ノズル閉塞部45Kを確実に下方に移動させて、ノズル開口部25Kを開放させることができる。また、ノズル閉塞部45Kの前後左右方向における変形も抑制されるので、ノズル開口部25Kを確実に閉塞できる確率が高くなる。
【0056】
・上記実施形態において、メンテナンス装置100に設けられた移動機構50は、各ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを、回転カム35C,35M,35Y,35Kの回転によって矩形枠形状部55C,55M,55Y,55Kを移動させる構成に限らない。例えば、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kのそれぞれを直接上下移動させる移動機構としてもよい。
【0057】
例えば、図7に示すように、本変形例の移動機構50Bは、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを例えば油圧や空気圧、あるいはボールねじなどで動作するアクチュエーター60C,60M,60Y,60Kを用い、移動体61を上下移動させる。従って、キャップ40Bは、移動体61の上部側がそれぞれ挿入されて固定されたノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kがキャップ本体41と一体で形成されている。
【0058】
本変形例の移動機構50Bによれば、ノズル開口部25C,25M,25Y,25Kを任意の組み合わせで開放して、ノズルからインクを吸引することが容易にできる。また、それぞれのノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは、移動体61の上下移動によってノズル形成面19aに対して上昇および降下させることができるので、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを確実にノズル形成面19aに対して当接および離間させることができる。
【0059】
・上記実施形態において、キャップ40が液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接した状態を維持しながら、回転カム35C,35M,35Y,35Kの回転によってノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kをノズル形成面19aに当接させてノズル開口部を開放状態から閉塞状態にするようにしてもよい。例えば、図4(a)に示した状態をキャップ40が液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に当接して閉空間VCが形成された状態とするとともに、この状態において回転カム35Kと矩形枠形状部55Kの上方の枠部53とを係合させてノズル閉塞部45Kを上方に移動させるようにしてもよい。
【0060】
こうすれば、ノズル開口部25Kの閉塞状態において、ノズル閉塞部45Kが、蛇腹形状部48の弾性力の低下などによってノズル形成面19aとの当接状態が維持できずに離間するという虞がないので、ノズル開口部25Kの閉塞状態を安定して維持することができる。なお、本変形例において、ノズル閉塞部45Kをノズル形成面19aから離間させる場合に、上記実施形態と同様に、回転カム35Kと矩形枠形状部55Kの下方の枠部52とを係合させてノズル閉塞部45Kを下方に移動させるようにしても、勿論よい。
【0061】
・上記実施形態において、キャップ40の外側に連動部を設けることなく、キャップ40の内側に設けられたノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを、直接移動させてノズル形成面19aに対して当接および離間させるようにしてもよい。例えば、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kに四角孔51をそれぞれ設け、設けた各四角孔51に回転カム35C,35M,35Y,35Kをそれぞれ挿入して回転させることによって、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを上下方向に移動させるようにしても差し支えない。なお、このとき、キャップ40の側壁に回転軸31を貫通させる場合は、回転軸31と側壁との間において密閉性を有するように貫通させるようにすればよい。
【0062】
・上記実施形態において、キャップ40は全体が弾性材料で形成されていなくてもよい。例えば、2色成形などの製造方法によって、蛇腹形状部47,48が弾性材料で形成され、その他の部分がそれよりも硬い硬質材料で形成されていてもよい。こうすれば、カムフォロアーとなる枠部52の変形が抑制されるので、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを安定して移動させることができる。またキャップ40は液体噴射ヘッド19(ノズル形成面19a)に対して弾性を有して当接するので、閉空間VCの密封状態が安定する。
【0063】
・上記実施形態において、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kはキャップ本体41と別体であってもよい。この場合、箱形状のキャップ本体41の底部41bにおいて、接着などによって固定するようにすればよい。
【0064】
・上記実施形態において、ノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kは必ずしも独立して移動しなくてもよい。例えば、全部(ここでは4つ)が一緒に移動するようにしてもよい。あるいは、1つだけ独立して移動するようにしてもよい。要は、閉空間VCにおいてインクを吸引したいノズルのノズル開口部のみ開放するようにノズル閉塞部45C,45M,45Y,45Kを移動させるようにすればよい。
【0065】
・上記実施形態において、ノズル閉塞部は必ずしも4つに限らない。1つであってもよいし、更に多数であってもよい。また、ノズル閉塞部はノズル列において一部(例えば中央部)のノズルを閉塞するようになっていてもよい。
【0066】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式のプリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具体化してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置がある。あるいは、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサー等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0067】
11…液体噴射装置としてのプリンター、19…液体噴射ヘッド、19a…ノズル形成面、25C,25K,25M,25Y…ノズル開口部、35C,35K,35M,35Y…回転カム、40,40A,40B…キャップ、41b…底部、45C,45K,45M,45Y,45Ka…ノズル閉塞部、50,50B…移動機構、100…メンテナンス装置、VC…閉空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズル開口部が設けられた液体噴射ヘッドに対して、前記複数のノズル開口部を囲みながら当接して前記液体噴射ヘッドとの間に吸引手段によって吸引される閉空間を形成するとともに、前記複数のノズル開口部のうち少なくとも1つのノズル開口部を閉塞するように前記液体噴射ヘッドに当接するノズル閉塞部を前記閉空間内に有するキャップと、
前記キャップが前記液体噴射ヘッドに当接した状態で、前記ノズル閉塞部が前記液体噴射ヘッドに当接した状態および前記液体噴射ヘッドから離間した状態のいずれかの状態を呈するように前記ノズル閉塞部を移動させる移動機構と、
を備えたメンテナンス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のメンテナンス装置において、
前記ノズル閉塞部は前記閉空間内に複数設けられ、
前記移動機構は、前記複数のノズル閉塞部を、互いに独立して移動させることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のメンテナンス装置において、
前記ノズル閉塞部は、前記キャップと一体で形成されていることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項4】
請求項3に記載のメンテナンス装置において、
前記キャップは、有底箱状をしており、
前記ノズル閉塞部は、前記キャップの底部と一体で形成されており、
前記底部における前記ノズル閉塞部の周囲は伸縮可能に形成されていることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか一項に記載のメンテナンス装置において、
前記キャップには、前記閉空間と反対側の外側に前記ノズル閉塞部の移動と連動する連動部が設けられ、
前記移動機構は、前記キャップの外側に設けられた前記連動部を移動させることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項6】
請求項5に記載のメンテナンス装置において、
前記移動機構は、回転カムと、前記連動部の一部を当該回転カムのカムフオロワーとして用いることによって、前記ノズル閉塞部を前記液体噴射ヘッドに当接した状態から離間した状態へ移動させることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載のメンテナンス装置において、
前記連動部は、前記キャップと一体で形成されていることを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項8】
媒体に液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
請求項1ないし7のいずれか一項に記載のメンテナンス装置と、
を備えたことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−196805(P2012−196805A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61183(P2011−61183)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】