説明

メンテナンス装置、液体噴射装置、メンテナンス方法

【課題】液体が付着する部材の腐食を抑制しつつノズルのメンテナンスを行うことができるメンテナンス装置、液体噴射装置、メンテナンス方法を提供する。
【解決手段】酸性もしくはアルカリ性のインクを噴射するノズル22が形成されたノズル形成面19aを有する記録ヘッド19にノズル22を囲うように当接してインクを受容可能なキャップ24と、キャップ24に受容されたインクを中和させる石灰石29と、キャップ24内に受容されて中和されたインクを廃インクタンク35へ排出するメンテナンスポンプ36と、メンテナンスポンプ36を制御する制御部38とを備え、制御部38は、キャップ24内にインクが満たされるように受容されてからインクを中和させるための待機時間が経過した後、メンテナンスポンプ36を制御してキャップ24内のインクを排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス装置、液体噴射装置、メンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体をターゲットに対して噴射させる液体噴射装置として、インクジェット式プリンターが広く知られている。このプリンターは、記録ヘッド(液体噴射ヘッド)に供給されるインク(液体)を記録ヘッドに形成されたノズルから噴射することによりターゲットとしての記録媒体に印刷(画像形成)を施すようになっている。
【0003】
そして、こうしたプリンターにおいて、近時は、例えば特許文献1に記載されるように、酸性もしくはアルカリ性のインクを用いて印刷を行うものがある。しかし、酸性もしくはアルカリ性のインクを用いる場合には、クリーニングなどに伴って排出されたインクによってノズル形成面などが腐食されてしまったり、廃液タンクの交換作業が制約されてしまうという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1のプリンターでは、画像を定着させるための処理液をインクと共に排出し、インクと処理液を廃液タンク内において混合させることによってインクを中和させると共に、インクの流動性を低下させて廃液タンクの交換を容易にしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−66471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のプリンターの場合は、画像を定着させるための処理液を用いてインクを中和させているため、処理液とインクの混合物は増粘して流動性が低下する。すなわち、廃液タンク以外の場所でインクと処理液を混合させると、増粘したインクを廃液タンクへ流動させることができないため、インクと処理液は廃液タンク内において混合させる必要があった。
【0007】
したがって、クリーニングに伴って排出された液体をキャップを用いて受容する場合には、キャップやノズル形成面、さらにノズル形成面に付着したインクを拭き取るためのワイパー(払拭手段)などが、付着したインクによって腐食されてしまうという虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体が付着する部材の腐食を抑制しつつノズルのメンテナンスを行うことができるメンテナンス装置、液体噴射装置、メンテナンス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のメンテナンス装置は、酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うように当接して前記液体を受容可能なキャップと、該キャップに受容された前記液体を中和させる中和手段と、前記キャップ内に受容されて中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出手段と、該排出手段を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記キャップ内に前記液体が満たされるように受容されてから該液体を中和させるための中和時間が経過した後、前記排出手段を制御して前記キャップ内の前記液体を排出する。
【0010】
この構成によれば、酸性もしくはアルカリ性の液体をキャップ内で中和させることができるため、ノズルから排出された液体に晒されるキャップ及びノズル形成面には、中和された液体が付着することになる。したがって、液体が付着する部材の腐食を抑制しつつノズルのメンテナンスを行うことができる。
【0011】
本発明のメンテナンス装置において、前記キャップは、酸性の液体を受容し、前記中和手段は、前記キャップ内に収容された炭酸カルシウムを主成分とする固体である。
例えば、酸性の液体とアルカリ性の液体とを混合させて中和させる場合には、混合させる液体の量に応じて酸性もしくはアルカリ性を示すため、pHセンサーなどを用いて中和を確認する必要がある。その点、この構成によれば、酸性の液体が炭酸カルシウムを主成分とする固体と反応して中和されると中和反応が終了するため、反応した液体はアルカリ化せずに中性となる。したがって、pHセンサーを用いることなく液体を中和させることができるため、部品点数の増加を抑制することができる。
【0012】
本発明のメンテナンス装置は、前記ノズル形成面を払拭する払拭手段をさらに備える。
この構成によれば、ノズル形成面には中和された液体が付着するため、ノズル形成面を払拭する払拭手段の腐食を抑制しつつノズルのメンテナンスを行うことができる。
【0013】
本発明の液体噴射装置は、ノズル形成面に形成されたノズルから酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射する液体噴射ヘッドと、該液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うように当接して前記液体を受容可能なキャップと、該キャップに受容された前記液体を中和させる中和手段と、前記キャップ内に受容されて中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出手段と、該排出手段を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記キャップ内に前記液体が満たされるように受容されてから該液体を中和させるための中和時間が経過した後、前記排出手段を制御して前記キャップ内の前記液体を排出する。
【0014】
この構成によれば、上記メンテナンス装置に係る発明と同様の作用効果を奏し得る。
本発明のメンテナンス方法は、酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うようにキャップを当接させる当接段階と、前記ノズルから排出された前記液体を前記キャップ内に満たされるように受容する受容段階と、前記キャップ内に受容された前記液体を中和させると共に該液体を中和させるための中和時間が経過するまで待機する中和段階と、該中和段階において中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出段階とを備える。
【0015】
この構成によれば、上記メンテナンス装置に係る発明と同様の作用効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態のプリンターの斜視図。
【図2】メンテナンス装置を示す模式断面図。
【図3】クリーニング処理及びワイピング処理のフローチャート。
【図4】クリーニング処理時のキャップの模式断面図。
【図5】ワイピング処理時のキャップの模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をインクジェット式プリンターに具体化した一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」をいう場合は、特に説明がない限り、図1を基準とした場合の「前後方向」、「上下方向」及び「左右方向」と一致するものとする。また、この場合における「前後方向」は記録用紙の給送方向である副走査方向に相当すると共に、「上下方向」は鉛直方向に相当し、「左右方向」は記録ヘッドが搭載されたキャリッジの移動方向である主走査方向に相当する。
【0018】
図1に示すように、液体噴射装置としてのインクジェット式プリンター11は、略矩形箱状をなすフレーム12を備えている。フレーム12内における印刷領域の下部には、その長手方向である左右方向に沿って支持台13が延設されている。支持台13上には、フレーム12の背面下部に設けられた紙送りモーター14の駆動に基づき、図示しない紙送り機構により記録用紙Pが後方側から給送されるようになっている。
【0019】
フレーム12内における支持台13の上方には、該支持台13の長手方向に沿ってガイド軸15が架設されている。ガイド軸15には、該ガイド軸15の軸線方向(左右方向)に沿って往復移動可能にキャリッジ16が支持されている。すなわち、キャリッジ16には左右方向に貫通するように支持孔16aが形成されており、該支持孔16aにガイド軸15が挿通されることにより、キャリッジ16はガイド軸15に対して左右方向への往復移動可能に支持されている。
【0020】
フレーム12の後壁内面におけるガイド軸15の両端部と対応する位置には、駆動プーリー17a及び従動プーリー17bが回転自在に支持されている。駆動プーリー17aにはキャリッジ16を往復移動させる際の駆動源となるキャリッジモーター18の出力軸が連結されている。そして、これら一対のプーリー17a,17b間には、一部がキャリッジ16に連結された無端状のタイミングベルト17が掛装されている。従って、キャリッジ16は、ガイド軸15にガイドされながら、キャリッジモーター18の駆動力により無端状のタイミングベルト17を介して左右方向に移動可能になっている。
【0021】
キャリッジ16の下面側には液体噴射ヘッドとしての記録ヘッド19が設けられている。そして、記録ヘッド19の下面には該記録ヘッド19に備えられた複数のノズル22が開口するノズル形成面19aを有する金属製のノズルプレート19bが設けられている(図2参照)。一方、キャリッジ16上には、記録ヘッド19に対して液体としてのインクを供給するためのインクカートリッジ20が着脱可能に装着されている。なお、本実施形態におけるインクカートリッジ20には酸性のインクが収容されている。
【0022】
そして、インクカートリッジ20内のインクは、記録ヘッド19に備えられた圧電素子(図示略)の駆動により、インクカートリッジ20から記録ヘッド19へと供給され、該記録ヘッド19の各ノズル22(図2参照)から支持台13上に給送された記録用紙Pに噴射されて印刷が行われるようになっている。
【0023】
なお、フレーム12内の右端部に位置する記録用紙Pと対応しないホームポジション領域(非印刷領域)には、非印刷時に記録ヘッド19のクリーニング等のメンテナンスを行うためのメンテナンス装置23が設けられている。
【0024】
次に、メンテナンス装置23について詳述する。
図2に示すように、メンテナンス装置23は、有底四角箱状をなすキャップ24と、該キャップ24を昇降するための昇降装置25と、キャップ24と共に上下動する払拭手段としてのワイパー26とを備えている。なお、ワイパー26は、上下方向においてキャップ24の側壁24aよりも大きくなるようにゴムなどの弾性部材によって形成され、ノズル形成面19aに当接して弾性変形するようになっている。ただし、ワイパー26は、酸性のインクが付着すると腐食(劣化)する虞がある材料でも用いることができる。
【0025】
また、キャップ24内には、記録ヘッド19の各ノズル22から排出されたインクの一部を吸収して保持する吸収材28と、炭酸カルシウムを主成分とする固体である中和手段としての石灰石29と、金網30とが積層状態で収容されている。さらにノズル形成面19aに当接するキャップ24の側壁24aには、ノズル形成面19aに当接して密封された状態のキャップ24(図4参照)内を大気開放可能な大気開放弁31が設けられている。
【0026】
また、キャップ24の底壁24bからは、突部32が下方に向かって突設されると共に、その突部32には、排出路32aが上下方向に貫通するように形成されている。そして、突部32には、可撓性を有する排出チューブ34の基端側(上流側)が接続される一方、該排出チューブ34の他端側(下流側)は直方体状をなす廃液タンクとしての廃インクタンク35内に挿入されている。
【0027】
キャップ24と廃インクタンク35との間における排出チューブ34の中間部には、排出手段としてのメンテナンスポンプ36が設けられている。なお、メンテナンスポンプ36は、チューブポンプであって、キャップ24側から廃インクタンク35側へ向かってキャップ24内を吸引することによりキャップ24内のインクを排出する。
【0028】
また、プリンター11は、プリンター11の稼働状態を制御する制御部38を備えている。なお、制御部38は、タイマー39を内蔵している。そして、制御部38は、ユーザーによって図示しない操作部が操作されると、その操作による入力に基づきキャリッジモーター18、昇降装置25、大気開放弁31、メンテナンスポンプ36を制御してクリーニング処理及びワイピング処理を実行する。
【0029】
次に、メンテナンス装置23の作用について図3のフローチャートに基づいて説明する。
さて、クリーニング処理が開始されると、制御部38は、ステップS101において、キャリッジモーター18を駆動し、キャリッジ16をホームポジション領域へ移動させる。そして、制御部38は、記録ヘッド19のノズル形成面19aとキャップ24とが対向するようにキャリッジモーター18の駆動を停止させる。なお、このときメンテナンス装置23は、図2に示すようにキャップ24及びワイパー26がノズル形成面19aと非接触となるように、下方の退避位置に位置している。
【0030】
そして、次にステップS102において、制御部38は、図4に示すように、昇降装置25を駆動し、退避位置に位置するキャップ24を、退避位置よりも上方の当接位置に移動させる(当接段階)。すると、キャップ24の側壁24aがノズル形成面19aに当接し、各ノズル22を囲んだ状態となると共に、ワイパー26は記録ヘッド19とずれた位置に位置するため、ノズル形成面19aとワイパー26は非接触状態に維持される。
【0031】
さらに、ステップS103において、制御部38は、メンテナンスポンプ36を吸引駆動し、キャップ24内を吸引して該キャップ24内に負圧を発生させる。すると、インクが蒸発して増粘している場合や、気泡が混入している場合であっても、キャップ24内に発生した負圧により各ノズル22から増粘したインクが気泡等と共に吸引される。このとき、キャップ24内がインクで満たされ、インクがノズル形成面19aに付着する状態となるように吸引される(受容段階)。
【0032】
ステップS104において、制御部38は、タイマー39の出力結果に基づいてメンテナンスポンプ36の吸引駆動を停止してから中和時間としての待機時間T(例えば10秒)が経過したか否かを判断する。なお、待機時間Tとは、キャップ24に受容された酸性のインクを、キャップ24内に収容された石灰石29と中和させるための時間である。
【0033】
具体的には、待機時間Tは、キャップ24のサイズや形状、キャップ24に受容されるインクの量や濃度、石灰石29の量や表面積の大きさなどに応じて変化し、実験的に算出されて予め設定された時間である。例えば、受容されるインクの量が多く、石灰石29の表面積が小さい(石灰石29とインクの接触面積が少ない)場合ほど、中和するのに時間を要するため待機時間Tも長く設定される。ただし、酸性のインクと石灰石29とを用いる中和反応は、インクが中和されると終了(反応停止)する。そのため、待機時間Tは、実際に中和反応に要する時間よりも長く設定することが好ましい。
【0034】
そして、この待機時間Tが経過していない間は、制御部38は、キャップ24にインクを受容した状態で待機し(ステップS104:NO)(中和段階)、待機時間Tが経過するとステップS105へ移行する(ステップS104:YES)。
【0035】
次のステップS105において、制御部38は、大気開放弁31を開弁制御し、キャップ24内を大気開放する。さらに、制御部38は、ステップS106において、メンテナンスポンプ36を吸引駆動する。すると、キャップ24内には、大気開放弁31を介して空気が供給されると共に、キャップ24内に受容されていたインクが排出チューブ34を介して廃インクタンク35へ排出される(排出段階)。なお、キャップ24内にはインクが残存するものの、残存するインクは中和されているため、クリーニング処理後におけるキャップ24、吸収材28、金網30の腐食(劣化)が抑制される。
【0036】
続いて、ステップS107において、制御部38は、ワイピング処理を実行する。具体的には、図5に示すように、まず制御部38は、昇降装置25を駆動し、当接位置に位置するキャップ24を退避位置と当接位置との間となるワイピング位置へ移動させる。なお、ワイピング位置とは、キャップ24がノズル形成面19aから離間すると共に、ワイパー26が記録ヘッド19の移動軌跡上に位置するような位置である。
【0037】
そのため、キャップ24がワイピング位置に位置した状態で制御部38がキャリッジモーター18を駆動して記録ヘッド19を印刷領域へ移動させると、ワイパー26がノズル形成面19aに当接して弾性変形する。すなわち、ノズル形成面19aとワイパー26とが摺接することにより、クリーニング処理に伴ってノズル形成面19aに付着したインクがワイパー26によって払拭される。なお、このとき払拭されるインクは、キャップ24内において中和されたインクであるため、ノズル形成面19a及びワイパー26の腐食(劣化)が抑制される。
【0038】
上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)酸性もしくはアルカリ性のインクをキャップ24内で中和させることができるため、ノズル22から排出されたインクに晒されるキャップ24及びノズル形成面19aには、中和されたインクが付着することになる。したがって、インクが付着する部材の腐食を抑制しつつノズル22のメンテナンスを行うことができる。
【0039】
(2)例えば、酸性のインクとアルカリ性の液体とを混合させて中和させる場合には、混合させる液体の量に応じて酸性もしくはアルカリ性を示すため、pHセンサーなどを用いて中和を確認する必要がある。その点、酸性のインクが石灰石29と反応して中和されると中和反応が終了するため、反応した後のインクはアルカリ化せずに中性となる。したがって、pHセンサーを用いることなくインクを中和させることができるため、部品点数の増加を抑制することができる。
【0040】
(3)ノズル形成面19aには中和されたインクが付着するため、ノズル形成面19aを払拭するワイパー26の腐食を抑制しつつノズル22のメンテナンスを行うことができる。
【0041】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態において、大気開放弁31を設けずに当接位置に位置するキャップ24をワイピング位置に移動させることにより、キャップ24をノズル形成面19aから離間させて大気開放するようにしてもよい。
【0042】
・上記実施形態において、ワイパー26を設けない構成としてもよい。また、ワイパー26(払拭手段)を吸液性のあるスポンジや布などの吸収部材によって構成し、ノズル形成面19aに付着したインクを吸収するように払拭してもよい。
【0043】
・石灰石29は、インクとの反応に伴って減少する。そのため、石灰石29の減少を考慮し、待機時間Tを時間の経過に合わせて変化させるようにしてもよい。また、プリンター11の使用開始もしくは石灰石29の交換(追加)時からのクリーニング処理回数に応じて待機時間Tを変更するようにしてもよい。すなわち、プリンター11の使用開始もしくは石灰石29の交換時からの時間の経過が長く、クリーニング処理回数が増加するほど待機時間Tを長くしてもよい。
【0044】
・上記実施形態において、酸性のインクを中和させる中和手段として、酸性のインクと反応する金属(例えばマグネシウム、ナトリウム、リチウム)や、化合物(例えば水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム)などをキャップ24内に収容してもよい。また、炭酸カルシウムを主成分とする固体としては、石灰岩、大理石、セメント、方解石、貝殻、白亜(泥質の石灰岩)、チョーク(白墨)、胡粉(炭酸カルシウムの粉末)などを用いることができる。なお、中和手段としては複数の材料を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
・上記実施形態において、アルカリ性のインクを収容したインクカートリッジ20をキャリッジ16に装着し、ノズル22からアルカリ性のインクを噴射するようにしてもよい。なお、この場合には、中和手段としてミョウバンやホウ酸といったアルカリ性のインクと中和反応する固体をキャップ24に収容することにより、ノズル形成面19a、キャップ24、ワイパー26の腐食(劣化)を抑制することができる。なお、中和手段としては複数の材料を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
・例えば、カラーインク(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ホワイトなど)やメタルインクなど複数種類のインクを用いて印刷を行うプリンターでは、酸性のインクとアルカリ性のインクとを併用することがある。そのため、酸性とアルカリ性の双方のインクを1つのノズル形成面19aに形成された複数のノズル22から噴射する場合には、キャップ24内に酸性のインクと中和反応する固体と、アルカリ性のインクと中和反応する固体とを収容してもよい。また、酸性とアルカリ性の何れの液体とも反応する両性元素(例えば、アルミニウム、亜鉛、スズ)を収容することにより、酸性のインクとアルカリ性のインクの双方のインクを中和させることができる。
【0047】
また、各インクもしくは酸性とアルカリ性のインクをそれぞれ別に受容可能なように、キャップ内にノズルと対応した仕切りを設けるようにしてもよい。また、複数の記録ヘッド19を有する場合には、各記録ヘッド19に対応するようにキャップ24を設けるようにしてもよい。そして、酸性のインクを受容するキャップ24内には酸性のインクと中和反応する固体を収容すると共に、アルカリ性のインクを受容するキャップ24内には、アルカリ性のインクと中和反応する固体を収容するようにしてもよい。
【0048】
・上記実施形態において、キャップ24は、吸収材28及び金網30を設けない構成としてもよく、また吸収材28及び金網30の一方のみを設ける構成としてもよい。例えば、吸収材28に凹部を形成して石灰石29をはめ込むようにしてもよい。なお、吸収材28、石灰石29、金網30を積層する順序は変更してもよい。例えば、排出路32aよりも目の細かな金網30の上に石灰石29を設けることにより、石灰石29が排出チューブ34に詰まるのを抑制することができる。また、石灰石29は、キャップ24の側壁24aに沿って設けるようにしてもよい。
【0049】
・上記実施形態において、ノズル形成面19aに酸性のインクと中和反応する液体(例えば、水酸化ナトリウム水溶液)を供給する供給口(中和手段)を形成してもよい。そして、この場合には、キャップ24内に石灰石29を設けない構成としてもよい。すなわち、キャップ24がノズル形成面19aに当接してキャップ24内が吸引されると、キャップ24内には酸性のインクと共に該酸性のインクと中和反応する液体が供給されるため、酸性のインクは中和される。
【0050】
なお、このときキャップ24内には、pHセンサー(水素イオン指数センサー)を設けると共に、酸性のインクと中和反応する液体を供給口から個別に供給可能な供給手段(例えば、圧電素子や加圧ポンプ)を備えることが好ましい。すなわち、液体同士を中和反応させる場合には、液体の多寡によって反応後の液体が酸性もしくはアルカリ性を示す。そのため、pHセンサーが酸性を示す場合には、酸性のインクと中和反応する液体を供給し、pHセンサーがアルカリ性を示す場合には、酸性のインクを供給することにより、キャップ24内に受容させる液体を中性にすることができる。
【0051】
また、同様にノズル22からアルカリ性のインクを噴射する場合には、ノズル形成面19aに形成された供給口(中和手段)からアルカリ性のインクと中和反応する液体(例えば、酢酸溶液)を供給するようにしてもよい。
【0052】
そして、酸性もしくはアルカリ性のインクと中和反応する液体を供給する供給口(中和手段)は、キャップ24が当接位置に位置した状態でキャップ24内に液体を供給することができればよく、キャップ24に形成してもよい。また、酸性もしくはアルカリ性のインクと中和反応する液体を収容したカートリッジをインクカートリッジ20と共にキャリッジ16に搭載し、インクを噴射するノズル22と同様に形成されたノズルから噴射させるようにしてもよい。
【0053】
・上記実施形態において、インクが付着されて印刷が施されるターゲットとしては、用紙、プラスチックフィルム、シール、金属箔、ガラス板、板材、布など、液体を受容可能な任意の素材及び形状のものを採用することができる。
【0054】
・上記実施形態では、インクジェット式のプリンター11に設けられたメンテナンス装置23に具体化したが、本発明はそれ以外の装置で使用されるノズルのメンテナンスを行うメンテナンス装置にも適用することができる。
【0055】
・上記実施形態では、液体噴射装置をインクジェット式プリンター11に具体化したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置を採用してもよい。微小量の液滴を吐出させる液体噴射ヘッド等を備える各種の液体噴射装置に流用可能である。なお、液滴とは、上記液体噴射装置から吐出される液体の状態をいい、粒状、涙状、糸状に尾を引くものも含むものとする。また、ここでいう液体とは、液体噴射装置が噴射させることができるような材料であればよい。例えば、物質が液相であるときの状態のものであればよく、粘性の高い又は低い液状体、ゾル、ゲル水、その他の無機溶剤、有機溶剤、溶液、液状樹脂、液状金属(金属融液)のような流状態、また物質の一状態としての液体のみならず、顔料や金属粒子などの固形物からなる機能材料の粒子が溶媒に溶解、分散又は混合されたものなどを含む。また、液体の代表的な例としては上記実施形態で説明したようなインクや液晶等が挙げられる。ここで、インクとは一般的な水性インク及び油性インク並びにジェルインク、ホットメルトインク等の各種液体組成物を包含するものとする。液体噴射装置の具体例としては、例えば液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、面発光ディスプレイ、カラーフィルタの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を分散又は溶解のかたちで含む液体を噴射する液体噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置、捺染装置やマイクロディスペンサ等であってもよい。さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置を採用してもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11…プリンター(液体噴射装置)、19…記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、19a…ノズル形成面、22…ノズル、23…メンテナンス装置、24…キャップ、26…ワイパー(払拭手段)、29…石灰石(中和手段)、35…廃インクタンク(廃液タンク)、36…メンテナンスポンプ(排出手段)、38…制御部、T…待機時間(中和時間)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うように当接して前記液体を受容可能なキャップと、
該キャップに受容された前記液体を中和させる中和手段と、
前記キャップ内に受容されて中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出手段と、
該排出手段を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記キャップ内に前記液体が満たされるように受容されてから該液体を中和させるための中和時間が経過した後、前記排出手段を制御して前記キャップ内の前記液体を排出することを特徴とするメンテナンス装置。
【請求項2】
前記キャップは、酸性の液体を受容し、
前記中和手段は、前記キャップ内に収容された炭酸カルシウムを主成分とする固体であることを特徴とする請求項1に記載のメンテナンス装置。
【請求項3】
前記ノズル形成面を払拭する払拭手段をさらに備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のメンテナンス装置。
【請求項4】
ノズル形成面に形成されたノズルから酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
該液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うように当接して前記液体を受容可能なキャップと、
該キャップに受容された前記液体を中和させる中和手段と、
前記キャップ内に受容されて中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出手段と、
該排出手段を制御する制御部と
を備え、
前記制御部は、前記キャップ内に前記液体が満たされるように受容されてから該液体を中和させるための中和時間が経過した後、前記排出手段を制御して前記キャップ内の前記液体を排出することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項5】
酸性もしくはアルカリ性の液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面を有する液体噴射ヘッドに前記ノズルを囲うようにキャップを当接させる当接段階と、
前記ノズルから排出された前記液体を前記キャップ内に満たされるように受容する受容段階と、
前記キャップ内に受容された前記液体を中和させると共に該液体を中和させるための中和時間が経過するまで待機する中和段階と、
該中和段階において中和された前記液体を廃液タンクへ排出する排出段階と
を備えることを特徴とするメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−81705(P2012−81705A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−231803(P2010−231803)
【出願日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】