説明

メンブレンスイッチ

【課題】構造が簡単であって製造コストが安価であり且つ故障の少ないメンブレンスイッチおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム1の片面にカーボンインキ層が形成された上部基板層およびフィルム1の片面にカーボンインキ層が形成された下部基板層より構成され、これら上部基板層と下部基板層とは、カーボンインキ層の面が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わされたメンブレンスイッチであって、上部基板層のフィルムおよび下部基板層のフィルムとは連続した一枚のフィルム1で構成され、その一枚のフィルム1が折り曲げられた線を対象軸として重ね合わされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンブレンスイッチに関する。さらに詳しくは、構造が簡単で製造コストが安価でかつ故障の少ないメンブレンスイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メンブレンスイッチは指またはペンでフィルム表示面を押圧することにより、その位置を感知し情報を伝達する簡便な機器として広く利用されている。そのメンブレンスイッチは、導電性膜を片面に有する2枚の基板を、導電性膜が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わせ、押圧した箇所を電気的に感知する構造となっている。導電性膜の材料としては、価格の点からカーボンインキが使用されている。
【0003】
カーボンインキを導電性膜として使用したメンブレンスイッチは、大略以下の如き方法で作製されている。カーボンインキを基板の片面に塗布した2枚の基板を別個に作成し、2つの基板を貼り合わせることによって作製されている。すなわち、上部基板(例えばフィルム)の片面にカーボンインキを塗布し、その両端部に一対の電極ライン(例えば銀ライン)を塗設し、その一対の電極ラインのそれぞれから導電するための導電ラインを塗設し、可撓性回路端子(FPC:フレキシブル・プリント・サーキット)を取り付けて上部基板層を作る。一方別途に下部基板(例えばフィルム)の片面にもカーボンインキを塗布し、その両端部に一対の電極ライン(銀ライン)を塗設し、その一対の電極ラインのそれぞれから導電するための導電ラインを塗設し、下部基板層を作る。この際上部基板層および下部基板層のそれぞれの一対の電極ラインは、上下の端部または左右の端部となるような位置に塗設される。
FPCと上下電極はヒートシールして接続する。
かくして得られた上部基板層と下部基板層は、必要により型抜きし、両基板層をカーボンインキ層が互いに向い合うようにして貼り合わせる。貼り合わせの前には上部基板層および下部基板層の周囲端部に接着剤を塗布し、またカーボンインキ層の一方または両方にスペーサーを貼着しておくことが必要である。
【0004】
前述した従来のメンブレンスイッチの作成方法は、その工程や得られた製品に関し次の如き改良すべき問題点がある。
(i)上部基板層および下部基板層をそれぞれ別個に作成することが必要である。
(ii)可撓性回路端子(FPC)を一方の基板層に正確に貼り付けることが要求される。
(iii)上部基板層と下部基板層を貼り付ける際に、それぞれの一対の電極ラインや導電ラインが正確な位置に配位されるように精密さが高度に要求される。
(IV)可撓性回路端子(FPC)と導電ラインの接続部が堅牢に接着されにくく、その回路端子の故障が多い。
(V)組立てるための工程が多く且つ貼り合わせに高度な精密性が要求されることから、製品の生産スピードが上がらず、コストアップの要因になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者は、工程が簡単で且つ上部基板層と下部基板層との貼り合わせに、煩雑で精密な位置決めが要求されず、しかも可撓性回路端子(FPC)の接触不良などの故障が少ないメンブレンスイッチおよびその製造方法について研究を進めた。
その結果、一枚のフィルムの表面に中心線を設け、その中心線を対象軸として左右に上部基板と下部基板を設定し、上部基板と下部基板の共通した面にカーボンインキを塗布してカーボンインキ層を形成させ、それぞれのカーボンインキ層に一対の電極ラインおよび導電ラインを、対象軸を折り曲げて上部基板と下部基板とを貼り合わせた時に、正確に位置付けられるように予め配置すれば、フィルムを中心線の対象軸を内側に折り曲げるのみで、簡単にメンブレンスイッチが作成されることが見出され、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記メンブレンスイッチが提供される。
(1)
フィルムの片面にカーボンインキ層が形成された上部基板層(A)およびフィルムの片面にカーボンインキ層が形成された下部基板層(B)より構成され、これら上部基板層(A)と下部基板層(B)とは、カーボンインキ層の面が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わされたメンブレンスイッチであって、上部基板層(A)のカーボンインキ層(a面)の上下端部または左右端部には、電位差を検知するための一対の電極ラインおよび導電ラインが塗設され、また下部基板層(B)のカーボンインキ層(b面)の左右端部または上下端部には電位差を検知するための一対の電極ラインおよび導電ラインが塗設されたメンブレンスイッチであって、上部基板層のフィルムおよび下部基板層のフィルムとは連続した一枚のフィルムで構成され、その一枚のフィルムが折り曲げられた線を対象軸として重ね合わされていることを特徴とするメンブレンスイッチ。
(2)
フィルムが折り曲げられた線の対象軸は、フィルムにミシン線または半切線が施されている前記(1)に記載のメンブレンスイッチ。
(3)
フィルムの中心線を交差する導電ラインは、中心線近辺においてそのラインが補強されているかまたは複線化されたラインである前記(1)に記載のメンブレンスイッチ。
【0007】
また本発明によれば、下記(1)〜(7)の要件よりなるメンブレンスイッチの製造方法が提供される。
(1)
一枚の透明フィルムであって、折り曲げるべき中心線に沿ってミシン線または半切線が施された透明フィルムを準備し、このフィルムの中心線を対象軸として内側に折り曲げた場合互いに向い合う一方の面をa面と称し、また他方の面をb面と称し、
(2)
a面およびb面には、それぞれカーボンインキ層が塗布され、
(3)
a面のカーボンインキ層および/またはb面のカーボンインキ層の面上に、スペーサーが貼着され、
(4)
a面の上下端部または左右端部には、電位を検知するための一対の電極ラインを塗設し、またb面の左右端部または上下端部には、電位を検知するための一対の電極ラインを塗設し、
(5)
a面もしくはb面の端部には、検知した電位を取り出すための回路端子(FPC)を貼り付け、
(6)
a面の一対の電極ラインおよびb面の一対の電極ラインを回路端子(FPC)へ電気的に接続する導電ラインをそれぞれの面上に塗設し、
(7)
a面およびb面のそれぞれの周囲に接着剤を塗布して中心線を対象軸として内側に折り曲げて、a面およびb面を貼り合わせる
ことを特徴とするメンブレンスイッチの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造が簡単で且つ短い工程で作製することができ、しかも回路端子の故障の少ないメンブレンスイッチおよびその製造方法が提供できる。すなわち、上部基板層と下部基板層との貼り合わせ工程が簡単で且つ精密であり、回路端子の接続部が正確にしかも堅牢であって、故障が少ないメンブレンスイッチが得られ、その製造コストも安価であるので、工業的に価値あるメンブレンスイッチが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のメンブレンスイッチの折り曲げて貼り合わせる前の平面図を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のメンブレンスイッチおよびその製造方法を図面を用いて、以下具体的に説明する。図1は本発明のメンブレンスイッチを折り曲げて貼り合わせる前の平面図を示したものである。
本発明のメンブレンスイッチは、一枚の透明フィルム1により構成される。この透明フィルム1は、透明でありしかも剛性を有するフィルムであればよい。フィルム1を形成する高分子材料としては、ポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン―2,6―ナフタレート)、ポリカーボネート(例えばビスフェノールAを2価フェノール成分とするポリカーボネート)、アクリル樹脂(例えばポリメチルメタクリレート)、ポリシクロオレフィン(例えばポリシクロベンタジェン)およびポリオレフィン(例えばポリエチレン、ポリプロピレン)などが挙げられるが、これらの中でポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン―2,6―ナフタレート(PEN)の如きポリエステルおよびポリカーボネートが好ましく、殊にポリエチレンテレフタレート(PET)がフィルム特性並びに価格の点で最も優れている。
透明フィルムは延伸されていることが好ましく、特に二軸延伸されたものがより適当である。
【0011】
透明フィルム1の厚みは、高分子材料の種類によって好適な範囲は変わるが、一般的には50μm〜300μm、好ましくは75μm〜250μm、特に好ましくは100μm〜200μmの範囲である。
本発明のメンブレンスイッチは一枚の透明フィルム1を基板として、そのフィルム1には中心線2(X−X´の一点鎖線にて示されている)を設定し、その中心線2を対象軸として折り曲げられる構造を有している。図1では中心線2(X−X´線)を対象軸として図面上内側に折り曲げることができるように、フィルム1の中心線2にはフィルム表面にミシン線または半切線が施されている。
ここで説明を簡単にするために、図1のフィルム1における中心線2の下側の表面をa面、上側の表面をb面と称する。フィルム1を内側に折り曲げて貼り合わせた場合、a面とb面とは向い合うように構成される。
フィルム1のa面にはその上下端部または左右端部に一対の電極ラインが塗設される。図1ではa面の左右端部に一対の電極ライン(3−aおよび3−b)が設けられている。またa面における2つの電極ライン(3−aおよび3−b)とその上端部または下端部をそれぞれ結ぶ点線より構成される領域にはカーボンインキ層が形成されている。このカーボンインキ層はa面の前記領域全体に均等に形成され、導電性層を形成している。
【0012】
電極ライン3−aおよび3−bは、メンブレンスイッチを指で押圧した時に、その位置を2つの電極ライン3−aおよび3−b間の距離を電圧の差異により感知する。電極ライン3−aおよび3−bは銀ペーストが通常使用される。
一方フィルム1のb面にもその上下端部または左右端部に一対の電極ラインが塗設されている。図1では、b面の上下端部に一対の電極ライン(4−aおよび4−b)が設けられている。a面とb面では、貼り合わせた場合、それぞれの一対の電極ラインが押圧位置を横軸と縦軸の関係として押圧位置を感知できるように四角形の4辺を形成するように配置される。従ってa面とb面では、一方の一対の電極ラインが上下端部に配置され他方の一対の電極ラインが左右端部になるように配置される。
図1のb面にも、カーボンインキ層が形成されている。すなわち、b面の2つの電極ライン(4−aと4−b)と、そのそれぞれの右端部または左端部を結ぶ点線より構成される領域には、カーボンインキ層が形成され、このカーボンインキ層はb面のこの領域全体に均等に塗布されることにより導電性層を形成している。
【0013】
図1における4つの電極ラインには、それぞれの電位を回路端子(フレキシブル・プリント・サーキット;FPC)7に導くための導電ラインが塗設されている。図1に示された導電ラインの配置の例について説明する。電極ライン3−aには回路端子7に導くための導電ライン5−aが塗設され、電極ライン3−aと導電ライン5−aとは電気的に接続されている。一方電極ライン3−bは導電ライン5−bと電気的に接続され、導電ライン5−bは回路端子7へ導かれている。一方b面における電極ライン4−aには導電ライン6−aに電気的に接続され、回路端子7へ導かれさらに電極ライン4−bには、導電ライン6−bが電気的に接続され回路端子7へ導かれている。
本発明の好ましい態様において、回路端子7は4つの導電ライン(5−a、5−b、6−aおよび6−b)が1つの束として平面にて設置することができるので、メンブレンスイッチの組立て工程において、電気的な接触不良という不具合を極力回避することができる。
【0014】
本発明のメンブレンスイッチは、一枚のフィルム1のa面とb面が中心線2を軸として内側に折り曲げられ、貼り合わされる構造であり、その折り曲げ部分に存在する2本の導電ライン(図1では導電ライン5−aおよび5−b)が折り曲げ部分において電気的に接触不良を起こし易くなる。この折り曲げ部分における中心線に交差する導電ラインの接触不良は、中心線を交差する近辺において、導電ラインを補強することによって改善することが可能となる。導電ラインの補強は、具体的には、(1)導電ラインの巾や厚みを増大する方法、(2)導電ラインを複線化する方法、或いは(3)図1の補強ライン8に示すように梯子状ラインとする方法によって実施すればよい。これらの方法の中で;(3)の梯子状ラインとする方法がより効果的である。
a面およびb面におけるカーボンインキ層が形成されている領域には、両面を貼り合わせる前に、両面が一定の均一な空隙が形成されるようにカーボンインキ層の面にドットスペーサーを貼着しておくことが必要である。ドットスペーサーの貼着は、カーボンインキ層の塗布時であってもよく、また両面を貼り合わせる前でもよい。図1には、a面(またはb面)におけるドットスペーサーは図面上省略されている。
【0015】
a面およびb面にカーボンインキ層、ドットスペーサー、電極ライン、導電ラインおよび回路端子の塗布や塗設が終了した後に、中心線2を対象軸として内側にフィルム1を折り曲げて貼り合わせることによりメンブレンスイッチが作成される。このフィルムの貼り合わせは、a面およびb面の周囲端部が接着するように接着剤または両面接着テープを使用すればよい。
本発明に使用するフィルム1は電極ライン、導電性ライン或いはカーボンインキ層領域が中心線を対象軸として予めその位置や領域を正確に配置しておくことができるので、貼り合わせ時に煩わしい位置決めを必要としない。また貼り合わせ時に発生し易い導電ラインの接触不良も極めて少なくなる。さらに回路端子7の設置や組込みも簡単であり故障も少ないという利点もある。
【符号の説明】
【0016】
1 透明フィルム
2 中心線
3−a 電極ライン
3−b 電極ライン
4−a 電極ライン
4−b 電極ライン
5−a 導電ライン
5−b 導電ライン
6−a 導電ライン
6−b 導電ライン
7 回路端子(FPC)
8 補強ライン




【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの片面にカーボンインキ層が形成された上部基板層(A)およびフィルムの片面にカーボンインキ層が形成された下部基板層(B)より構成され、これら上部基板層(A)と下部基板層(B)とは、カーボンインキ層の面が互いに向い合うようにスペーサーを介して貼り合わされたメンブレンスイッチであって、かつ上部基板層(A)のカーボンインキ層(a面)の上下端部または左右端部には電位を検知するための一対の電極ラインおよび導電ラインが塗設され、また下部基板層(B)のカーボンインキ層(b面)の左右端部または上下端部には電位を検知するための一対の電極ラインおよび導電ラインが塗設されたメンブレンスイッチであって、上部基板層のフィルムおよび下部基板層のフィルムとは連続した一枚のフィルムで構成され、その一枚のフィルムが折り曲げられた線を対象軸として重ね合わされていることを特徴とするメンブレンスイッチ。

【請求項2】
フィルムが折り曲げられた線の対象軸は、フィルムにミシン線または半切線が施されている請求項1記載のメンブレンスイッチ。

【請求項3】
フィルムの中心線を交差する導電ラインは、中心線近辺においてそのラインが補強されているかまたは複線化されたラインである請求項1記載のメンブレンスイッチ。

【請求項4】
(1)
一枚の透明フィルムであって、折り曲げるべき中心線に沿ってミシン線または半切線が施された透明フィルムを準備し、このフィルムの中心線を対象軸として内側に折り曲げた場合、互いに向い合う一方の面をa面と称し、また他方の面をb面と称し、
(2)
a面およびb面にはそれぞれカーボンインキ層が塗布され、
(3)
a面のカーボンインキ層および/またはb面のカーボンインキ層の面上にスペーサーが貼着され、
(4)
a面の上下端部または左右端部には、電位を検知するための一対の電極ラインを塗設し、またb面の左右端部または上下端部には、電位を検知するための一対の電極ラインを塗設し、
(5)
a面もしくはb面の端部には、検知した電位を取り出すための回路端子(FPC)を貼り付け、
(6)
a面の一対の電極ラインおよびb面の一対の電極ラインを回路端子(FPC)へ電気的に接続する導電ラインをそれぞれの面上に塗設し、
(7)
a面およびb面のそれぞれの周囲に接着剤を塗布して中心線を対象軸として内側に折り曲げて、a面およびb面を貼り合わせる
ことを特徴とするメンブレンスイッチの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−238587(P2010−238587A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86433(P2009−86433)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(504203354)株式会社タッチパネル研究所 (41)
【Fターム(参考)】