説明

モリブデン化合物とジアルキルジチオリン酸亜鉛とを含む潤滑油組成物

【課題】摩擦低減の改善をもたらす潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】主要量の基油、少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物およびジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物を含む潤滑油組成物を提供する、ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200乃至500ppmである。潤滑油組成物は更に少なくとも一種の添加剤を含むことができる。潤滑油組成物の製造方法及び使用方法についても記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基油、油溶性モリブデン化合物とジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物とを含む潤滑油組成物を提供する。この潤滑油組成物の製造方法および使用方法についても記載する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関を潤滑に運転するために使用される潤滑油組成物は、潤滑粘度の基油またはそのような油の混合物、および油の性能特性を改善するために用いられる添加剤を含有している。例えば、清浄性を改善したり、エンジン摩耗を少なくさせたり、熱や酸化に対する安定性を付与したり、油消費を低減したり、腐食を防止したり、分散剤として作用したり、摩擦損失を低くするために、添加剤が使用される。添加剤によっては分散剤・粘度調整剤のような複数の利益をもたらす。別の添加剤は、潤滑油の一特性を改善しながら同時に他の特性に悪影響を及ぼす。従って、総合的に最適な性能を有する潤滑油とするためには、入手可能な種々の添加剤の影響全てを明らかにして理解し、そして注意して潤滑油の添加剤含量の均衡を図る必要がある。
【0003】
多数の特許文献及び論文(例えば、特許文献1乃至8)に、油溶性モリブデン化合物が潤滑油添加剤として有用であると提案されている。とりわけ、モリブデン化合物、特にはモリブデンジチオカルバメート化合物の油への添加は、境界摩擦特性の改善を油にもたらし、そして台上試験で、そのようなモリブデン化合物を含む油の摩擦係数が一般に、有機摩擦緩和剤を含む油の摩擦係数よりも低いことが実証されている。このような摩擦係数の減少は、結果として耐摩耗性の改善をもたらし、そしてガソリン又はディーゼルエンジンにおいて、短期及び長期両方の燃料経済性(すなわち、燃料経済維持性)を含む燃料経済性を高めるのに寄与することができる。耐摩耗効果をもたらせるためには、一般にモリブデン約350ppm乃至最大2000ppmを導入する量で、モリブデン化合物を添加して燃料経済効果を得るが、そのようなモリブデン化合物は、従来の金属を含まない(無灰)有機摩擦緩和剤に比べて高価である。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4164473号明細書
【特許文献2】米国特許第4176073号明細書
【特許文献3】米国特許第4176074号明細書
【特許文献4】米国特許第4192757号明細書
【特許文献5】米国特許第4248720号明細書
【特許文献6】米国特許第4201683号明細書
【特許文献7】米国特許第4289635号明細書
【特許文献8】米国特許第4479883号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、燃料経済利益の改善をもたらし、非常に優れた摩耗防護特性を示し、原価の比較的安い潤滑油組成物を見い出すことが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明で提供するのは、摩擦低減の改善をもたらす潤滑油組成物である。潤滑油組成物は下記の成分を含む:
i)主要量の基油、
ii)少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物、および
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、
ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200ppm乃至500ppmである。
【0007】
ある態様では、基油は、潤滑油組成物のうちの質量で約40%、50%、60%又は約70%より多い量で存在する。
【0008】
ある態様では、本明細書に開示する潤滑油組成物は更に、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、染料、マーカーおよびそれらの組合せからなる群より選ばれた少なくとも一種の添加剤を含む。
【0009】
また、本発明で提供するのは、潤滑油組成物の製造方法である。一つの態様では、製造方法は下記の成分を混合する工程を含む:
i)主要量の基油、
ii)少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物、および
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、
ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200乃至500ppmである。ある態様では、本明細書に記載するように、用いるモリブデン化合物とジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物は、プロトタイプGF−5潤滑油組成物で相乗作用を示し、結果として低い摩擦係数をもたらす。
【0010】
また、本発明で提供するのは、本発明で提供する潤滑油組成物を用いてモーターエンジンを潤滑に運転する方法である。一つの態様では、この方法は、本発明で提供する潤滑油組成物を用いてエンジンを作動させる工程を含んでいる。
【0011】
その他の態様については以下の記載により一部は明らかになろうし、また一部は明示される。
【発明の効果】
【0012】
ある態様では本発明で提供する潤滑油組成物は、モーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)として、ガソリン又はディーゼルエンジンに使用するのに適している。一つの態様では本発明で提供する潤滑油組成物は、熱いエンジン部分を冷やしたり、エンジンにさびや堆積物が無いようにしておいたり、燃焼ガスの漏出に備えてリングや弁を封じるのに使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[定義]
本明細書に開示する発明の内容の理解を容易にするために、本明細書で使用する多数の用語、略語または他の省略表現について、以下に定義する。定義されない用語、略語または省略表現は如何なるものであれ、本出願の提出と同時代にある当該分野の熟練者が使用している通常の意味を有する。
【0014】
「主要量」の基油は、基油の量が潤滑油組成物のうちの少なくとも40質量%であることを意味する。ある態様では「主要量」の基油は、潤滑油組成物の50質量%より多い、60質量%より多い、70質量%より多い、80質量%より多い、又は90質量%より多い量の基油を意味する。
【0015】
「硫酸灰分」は、潤滑油中の金属含有添加剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、モリブデン、亜鉛等)の量を意味し、一般にASTM D874によって測定でき、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0016】
組成物がある化合物を「実質的に含まない」とは、組成物が化合物を組成物の全質量に基づき20質量%未満、10質量%未満、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、1質量%未満、0.5質量%未満、0.1質量%未満、又は0.01質量%未満で含むことを意味する。
【0017】
組成物がある化合物を「含まない」とは、組成物が化合物を組成物の全質量に基づき0.001質量%乃至0質量%で含むことを意味する。
【0018】
以下の記述において開示する数値は全て、それに関連して「約」又は「およそ」なる語彙を用いているか否かにかかわらず、おおよその値である。数値は1パーセント、2パーセント、5パーセント、又はときには10乃至20パーセントも変わることがある。下限RLと上限RUで数値範囲を開示するときは常に、該範囲内の如何なる数値も明確に開示している。特に、次の範囲内の数値を明確に開示している:R=RL+k*(RU−RL)、ただし、kは1パーセント乃至100パーセントの範囲で1パーセントずつ増加する変数である、すなわち、kは1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、・・・50パーセント、51パーセント、52パーセント、・・・95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、又は100パーセントである。さらに、上に定義したように二つの数値Rで定義した如何なる数値範囲も明確に開示している。
【0019】
本発明で提供するのは、下記の成分を含む潤滑油組成物である:
i)主要量の基油、
ii)少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物、および
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、
ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも約10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき200ppm乃至500ppmである。
【0020】
ある態様では組成物のリン分は、約200乃至500ppmである。別の態様では組成物のリン分は、約250乃至400ppm、約300乃至400ppmである。ある態様では組成物のSAE粘度は5W−20である。
【0021】
i)潤滑粘度の基油
開示する潤滑油組成物は一般に、少なくとも一種の潤滑粘度の油を含有している。当該分野の熟練者に知られている任意の基油を、開示する潤滑粘度の油として使用することができる。潤滑油組成物を製造するのに適した基油については、モーティア(Mortier)、外著、「潤滑剤の化学と技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、ロンドン、スプリンガー(Springer)、第1章及び第2章(1996年)、およびA.シケリア、Jr.(A.Sequeria,Jr.)著、「潤滑油基油とろう処理(Lubricant Base Oil and Wax Processing)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Decker)、第6章(1994年)、およびD.V.ブロック(D.V.Brock)著、ルブリケーション・エンジニアリング(Lubrication Engineering)、第43巻、p.184−5(1987年)に記載されていて、それらも全て参照内容として本明細書の記載とする。一般に潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約50乃至約99.5質量%であってよい。ある態様では潤滑油組成物中の基油の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約75乃至約99質量%、約80乃至約98.5質量%、又は約80乃至約98質量%である。ある態様では本発明で提供する潤滑油組成物中の基油の量は、組成物の全質量で約45%、50%、52%、54%、56%、58%、60%、62%、64%、66%、68%、70%、75%、80%、85%、又は約90%である。
【0022】
ある態様では基油は、任意の天然または合成の潤滑基油留分であるか、あるいは潤滑基油留分を含有している。合成油の制限的でない例としては、エチレンなど少なくとも一種のアルファ−オレフィンの重合により、あるいはフィッシャー・トロプシュ法などの一酸化炭素ガスと水素ガスを用いる炭化水素合成法により製造された、ポリアルファオレフィン類又はPAOsなどの油を挙げることができる。ある態様では、基油は、一種以上の重質留分を基油の全質量に基づき約10質量%未満で含んでいる。重質留分は、粘度が100℃で少なくとも約20cStの潤滑油留分を意味する。ある態様では、重質留分の粘度は、100℃で少なくとも約25cSt又は少なくとも約30cStである。更なる態様では、基油中の一種以上の重質留分の量は、基油の全質量に基づき約10質量%未満、約5質量%未満、約2.5質量%未満、約1質量%未満、又は約0.1質量%未満である。さらに別の態様では、基油は重質留分を含まない。
【0023】
ある態様では、潤滑油組成物は、潤滑粘度の基油を主要量で含有している。態様によっては基油の100℃での動粘度は、約2センチストークス(cSt)乃至約20cSt、約4センチストークス(cSt)乃至約16cSt、又は約5cSt乃至約13cStである。開示する基油又は潤滑油組成物の動粘度は、ASTM D445によって測定することができ、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0024】
別の態様では、基油は、基材油または基材油のブレンドであるか、あるいはそれを含有している。更なる態様では基材油は、蒸留、溶剤精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化および再精製を含むが、それらに限定されない各種の異なる方法を用いて製造される。ある態様では基材油は再精製基材油を含んでいる。更なる態様では再精製基材油は、製造、汚染もしくは以前の使用によって混入した物質を実質的に含まない。
【0025】
ある態様では、基油は、米国石油協会(API)公報1509、第14版、1996年12月(すなわち、客車用モーター油及びディーゼルエンジン油のためのAPI基油互換性ガイドライン)に規定されているI−V種のうちの一種以上の基材油を一種類以上含有していて、それも参照内容として本明細書の記載とする。APIガイドラインは、基材油を各種の異なる方法を用いて製造することができる潤滑剤成分として規定している。I、II、III種基材油は鉱油であり、各々特定範囲の量の飽和度と硫黄分と粘度指数を有する。IV種基材油はポリアルファオレフィン類(PAO)である。V種基材油には、I、II、III又はIV種に含まれないその他全ての基材油が含まれる。
【0026】
下記第1表に、I、II、III、IV及びV種基材油の飽和度レベル、硫黄レベルおよび粘度指数を記載する。
【0027】
第 1 表
────────────────────────────────────
種 飽和度(ASTM 硫黄(ASTM 粘度指数(ASTM D
D2007で決定) D2270で決定) 4294、ASTM D 4297又はASTM D3120で決定)
────────────────────────────────────
I 飽和度90%未満 硫黄0.03%以上 80以上、120未満
II 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 80以上、120未満
III 飽和度90%以上 硫黄0.03%以下 120以上
IV ポリアルファオレフィン類(PAO)と規定
V I、II、III又はIV種に含まれないその他全ての基材油
────────────────────────────────────
【0028】
ある態様では、基油は、I、II、III、IV、V種又はそれらの組合せの基材油を一種類以上含んでいる。別の態様では基油は、II、III、IV種又はそれらの組合せの基材油を一種類以上含んでいる。更なる態様では、基油は、II、III、IV種又はそれらの組合せの基材油を一種類以上含み、かつ基油の動粘度は100℃で、約2.5センチストークス(cSt)乃至約20cSt、約4cSt乃至約20cSt、又は約5cSt乃至約16cStである。
【0029】
基油は、潤滑粘度の天然油、潤滑粘度の合成油およびそれらの混合物からなる群より選ぶことができる。ある態様では、基油として、合成ろうや粗ろうの異性化により得られた基材油、並びに原油の芳香族及び極性成分を(溶剤抽出よりはむしろ)水素化分解することにより生成した水素化分解基材油を挙げることができる。別の態様では、潤滑粘度の基油として、天然油、例えば動物油、植物油、鉱油(例えば、液体石油、およびパラフィン型、ナフテン型又は混合パラフィン・ナフテン型の溶剤処理又は酸処理鉱油)、石炭または頁岩から誘導された油、およびそれらの組合せを挙げることができる。動物油の制限的でない例としては、骨油、ラノリン、魚油、ラード油、イルカ油、アザラシ油、サメ肝油、牛脂油、および鯨油が挙げられる。植物油の制限的でない例としては、ヒマシ油、オリーブ油、ピーナッツ油、ナタネ油、トウモロコシ油、ゴマ油、綿実油、大豆油、ヒマワリ油、べに花油、大麻油、アマニ油、キリ油、オイチシカ油、ホホバ油、およびメドウフォーム油が挙げられる。そのような油は部分的に水素化されていても、あるいは完全に水素化されていてもよい。
【0030】
ある態様では、潤滑粘度の合成油として、炭化水素油およびハロ置換炭化水素油、例えば重合及び共重合オレフィン類、アルキルベンゼン類、ポリフェニル類、アルキル化ジフェニルエーテル類、アルキル化ジフェニルスルフィド類、並びにそれらの誘導体、およびそれらの類似物及び同族体等を挙げることができる。別の態様では、合成油として、アルキレンオキシド重合体、真の共重合体、共重合体、および末端ヒドロキシル基がエステル化やエーテル化等により変性していてもよいそれらの誘導体を挙げることができる。更なる態様では合成油として、ジカルボン酸と各種アルコールのエステル類が挙げられる。ある態様では、合成油として、C5−C12モノカルボン酸とポリオールとポリオールエーテルとから製造されたエステル類が挙げられる。更なる態様では、合成油として、リン酸トリアルキルエステル油、例えばトリ−n−ブチルホスフェートおよびトリ−イソ−ブチルホスフェートが挙げられる。
【0031】
ある態様では、潤滑粘度の合成油として、ケイ素系の油(例えば、ポリアルキル、ポリアリール、ポリアルコキシ、ポリアリールオキシ−シロキサン油及びシリケート油)が挙げられる。別の態様では、合成油として、リン含有酸の液体エステル類、高分子量テトラヒドロフラン類、およびポリアルファオレフィン類等が挙げられる。
【0032】
ろうの水素異性化から誘導された基油も、単独で、あるいは前記天然及び/又は合成基油と組み合わせて使用することができる。そのようなろう異性化油は、天然又は合成ろうまたはそれらの混合物を水素異性化触媒を用いて水素異性化することにより生成する。
【0033】
更なる態様では、基油は、ポリ−アルファ−オレフィン(PAO)を含有している。一般にポリ−アルファ−オレフィン類は、炭素原子数約2−約30、約4−約20、又は約6−約16のアルファ−オレフィンから誘導することができる。好適なポリ−アルファ−オレフィン類の制限的でない例としては、オクテン、デセンおよびそれらの混合物等から誘導されたものが挙げられる。これらポリ−アルファ−オレフィン類の粘度は、100℃で約2乃至約15、約3乃至約12、又は約4乃至約8センチストークスであってよい。場合によっては、ポリ−アルファ−オレフィン類を鉱油など他の基油と一緒に使用することもできる。
【0034】
更なる態様では、基油は、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体を含有していて、ポリアルキレングリコールの末端ヒドロキシル基はエステル化やエーテル化、アセチル化等により変性していてもよい。好適なポリアルキレングリコール類の制限的でない例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプロピレングリコール、およびそれらの組合せが挙げられる。好適なポリアルキレングリコール誘導体の制限的でない例としては、ポリアルキレングリコールのエーテル類(例えば、ポリイソプロピレングリコールのメチルエーテル、ポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、ポリアルキレングリコールのモノ及びポリカルボン酸エステル類、およびそれらの組合せが挙げられる。場合によっては、ポリアルキレングリコールまたはポリアルキレングリコール誘導体を、ポリ−アルファ−オレフィン類や鉱油など他の基油と一緒に使用することもできる。
【0035】
更なる態様では、基油は、ジカルボン酸(例えば、フタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸二量体、マロン酸、アルキルマロン酸、およびアルケニルマロン酸等)と、各種アルコール(例えば、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、およびプロピレングリコール等)とのエステル類の何れかを含んでいる。これらエステル類の制限的でない例としては、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、およびリノール酸二量体の2−エチルヘキシルジエステル等を挙げることができる。
【0036】
更なる態様では、基油は、フィッシャー・トロプシュ法により製造された炭化水素を含んでいる。フィッシャー・トロプシュ法では、水素と一酸化炭素を含むガスからフィッシャー・トロプシュ触媒を用いて炭化水素が製造される。これらの炭化水素は、基油として使用できるためには更なる処理を要することがある。例えば、当該分野の熟練者に知られている方法を用いて炭化水素を脱ろう、水素異性化および/または水素化分解してもよい。
【0037】
更なる態様では、基油は、未精製油、精製油、再精製油またはそれらの混合物を含んでいる。未精製油は、天然原料または合成原料からそれ以上の精製処理無しに直接得られたものである。未精製油の制限的でない例としては、レトルト操作により直接得られた頁岩油、一次蒸留により直接得られた石油、およびエステル化法により直接得られてそれ以上の処理無しに使用できるエステル油を挙げることができる。精製油は、一つ以上の性状を改善するために一以上の精製法で更に処理されていることを除いては、未精製油と同じものである。溶剤抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、ろ過およびパーコレートなど、多数のそのような精製法が当該分野の熟練者に知られている。再精製油は、精製油を得るために用いたのと同様の方法を精製油に適用することにより得られる。そのような再精製油は、再生又は再処理油としても知られていて、しばしば使用された添加剤や油分解生成物の除去を目的とする方法により追加処理される。
【0038】
ii)油溶性モリブデン化合物
本発明で提供する潤滑油組成物には、任意の好適な油溶性モリブデン化合物を用いることができる。典型的なそのような油溶性モリブデン化合物としては、これらに限定されるものではないが、ジチオカルバメート類、ジチオホスフェート類、ジチオホスフィネート類、キサンテート類、チオキサンテート類および硫化物等、およびそれらの混合物を挙げることができる。ある態様ではモリブデン化合物は、モリブデンのジチオカルバメート、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテート及びアルキルチオキサンテートである。
【0039】
モリブデン化合物は、一核でも、二核でも、三核でもあるいは四核でもよい。ある態様では化合物は二核又は三核モリブデン化合物である。一つの態様ではモリブデン化合物はオルガノ−モリブデン化合物である。別の態様ではモリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート(MoDTC)類、モリブデンジチオホスフェート類、モリブデンジチオホスフィネート類、モリブデンキサンテート類、モリブデンチオキサンテート類、硫化モリブデン類およびそれらの混合物からなる群より選ばれる。別の態様ではモリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメートまたは三核オルガノ−モリブデン化合物として存在する。一つの態様では油溶性モリブデン化合物は、モリブデンジチオカルバメート、モリブデン・コハク酸イミド錯体およびそれらの混合物から選ばれる。
【0040】
ある態様ではモリブデン化合物は、酸性モリブデン化合物であってもよい。これらの化合物は、ASTM試験D−664又はD−2896滴定法で測定できる塩基性窒素化合物と反応し、一般に六価である。そのような化合物の例としては、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウムおよび他のアルカリ金属モリブデン酸塩、および他のモリブデン塩、例えばモリブデン酸水素ナトリウム、MoOCl4、MoO2Br2、Mo23Cl6、三酸化モリブデン、または同様の酸性モリブデン化合物を挙げることができる。あるいは本発明の組成物は、例えば米国特許第4263152号、第4285822号、第4283295号、第4272387号、第4265773号、第4261843号、第4259195号、第4259194号及び第6562765号の各明細書および国際公開第94/06897号パンフレットに記載されている、塩基性窒素化合物のモリブデン/硫黄錯体を含んでいる。
【0041】
本発明に用いられるオキシモリブデン化合物を製造するのに使用される塩基性窒素化合物は、少なくとも1個の塩基性窒素を有し、態様によっては油溶性である。そのような組成物の代表的な例としては、コハク酸イミド類、カルボン酸アミド類、炭化水素モノアミン類、炭化水素ポリアミン類、マンニッヒ塩基類、ホスホルアミド類、チオホスホルアミド類、ホスホンアミド類、分散型粘度指数向上剤、およびそれらの混合物がある。窒素含有組成物は何れも、組成物が塩基性窒素を含有し続ける限り、当該分野で公知の方法を使用して、例えばホウ素で後処理してもよい。これらの後処理は、特にコハク酸イミド類およびマンニッヒ塩基組成物に適用できる。
【0042】
上記のモリブデン錯体を製造するのに使用することができるモノ及びポリコハク酸イミド類は、多数の文献に開示され、当該分野でもよく知られている。ある典型的なコハク酸イミド類および関連物質については、米国特許第3219666号、第3172892号及び第3272746号の各明細書に記載されていて、それらの開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。「コハク酸イミド」には、多数のアミド、イミド、および生成しうるアミジン種も含まれると当該分野では理解されている。しかし、主生成物はコハク酸イミドであり、この用語は一般に、アルケニル置換コハク酸又は無水物と窒素含有化合物との反応の生成物を意味するとみなされている。ある態様では、本発明に使用されるコハク酸イミド類は、市販のコハク酸イミド類、例えば、炭化水素基が炭素原子約24−約350個を含む炭化水素コハク酸無水物とエチレンアミンから製造されたものであり、該エチレンアミンは、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミンおよびテトラエチレンペンタアミンで特徴づけられる。一つの態様では、コハク酸イミド類として、炭素原子数70−128のポリイソブテニルコハク酸無水物と、テトラエチレンペンタアミンまたはトリエチレンテトラアミンまたはそれらの混合物とから製造されたコハク酸イミド類が挙げられる。
【0043】
また、コハク酸イミド類には、炭化水素コハク酸又は無水物と、2個以上の第二級アミノ基に加えて少なくとも1個の第三級アミノ窒素を含むポリ第二級アミンとのコオリゴマー類も含まれる。ある態様では、コオリゴマーの平均分子量は、1500から50000の間にある。一つの態様では、本発明の組成物に使用されるモリブデン化合物を、ポリイソブテニルコハク酸無水物とエチレンジピペラジンを反応させることにより製造する。
【0044】
ある態様では、カルボン酸アミド組成物も、本発明に用いられるオキシモリブデン化合物を製造するのに適した出発物質である。代表的なそのような化合物としては、米国特許第3405064号明細書に開示されているものがあり、その開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。これらの組成物は、主脂肪鎖中の脂肪族炭素原子数が少なくとも12−約350であり、所望により、分子を油溶性にするのに充分な脂肪族側基を持つカルボン酸又はその無水物又はエステルを、アミンまたはエチレンアミンなどの炭化水素ポリアミンと反応させて、モノ又はポリカルボン酸アミドとすることにより製造することができる。一つの態様では、(1)式:R’COOH(ただし、R’はC12-20アルキルである)を有するカルボン酸、またはこの酸とポリイソブテニル基が炭素原子72−128個を含むポリイソブテニルカルボン酸との混合物、および(2)エチレンアミン、特にはトリエチレンテトラアミンまたはテトラエチレンペンタアミンまたはそれらの混合物、からアミドを製造する。
【0045】
モリブデン化合物を製造するのに使用することができる別の部類の化合物は、炭化水素モノアミン類および炭化水素ポリアミン類であり、例えば米国特許第3574576号明細書に開示されているものがあり、その開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。炭化水素基、例えばアルキル、または一つ又は二つの部位に不飽和があるオレフィンは通常、炭素原子9−350個、好ましくは20−200個を含んでいる。典型的なそのような炭化水素ポリアミン類としては、例えば、ポリ塩化イソブテニルと、ポリアルキレンポリアミン、例えばエチレンアミン、具体的にはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタアミン、2−アミノエチルピペラジン、1,3−プロピレンジアミンおよび1,2−プロピレンジアミン等とを反応させることにより誘導されたものがある。
【0046】
塩基性窒素を供給するのに使用できる別の部類の化合物としては、マンニッヒ塩基組成物がある。これらの組成物は、フェノールまたはC9-200アルキルフェノールと、アルデヒド、例えばホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド前駆体と、アミン化合物とから製造される。アミンはモノアミンでもポリアミンでもよく、そして代表的な組成物は、アルキルアミン、例えばメチルアミンまたはエチレンアミン、具体的にはジエチレントリアミンまたはテトラエチレンペンタアミン等から製造される。フェノール系物質は硫化していてもよいが、好ましくはドデシルフェノールまたはC80-100アルキルフェノールである。使用することができる代表的なマンニッヒ塩基は、米国特許第4157309号及び第3649229号、第3368972号及び第3539663号の各明細書に開示されていて、それらの開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0047】
本発明で提供する潤滑油組成物に用いられるオキシモリブデン錯体を製造するのに使用できる別の部類の組成物は、ホスホルアミド類およびホスホンアミド類であり、例えば米国特許第3909430号及び第3968157号の各明細書に開示されているものがあり、それらの開示内容も参照内容として本明細書の記載とする。これらの組成物は、少なくとも1個のP−N結合を持つリン化合物を生成させることにより製造することができる。例えば、酸塩化リンと炭化水素ジオールをモノアミンの存在下で反応させることにより、あるいは酸塩化リンと二官能価第二級アミンおよび一官能価アミンとを反応させることにより、製造することができる。チオホスホルアミド類は、炭素原子2−450個以上を含む不飽和炭化水素化合物、例えばポリエチレン、ポリイソブチレン、ポリプロピレン、エチレン、1−ヘキセン、1,3−ヘキサジエン、イソブチレンおよび4−メチル−1−ペンテン等を、五硫化リンおよび前に明示した窒素含有化合物、特にはアルキルアミン、アルキルジアミン、アルキルポリアミン、またはアルキレンアミン、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミンおよびテトラエチレンペンタアミン等と反応させることにより製造することができる。
【0048】
本発明で提供する組成物に使用できる更なるモリブデン化合物は、下記式を有するオルガノ−モリブデン化合物である。
Mo(ROCS24、および
Mo(RSCS24
【0049】
式中、Rは、一般に炭素原子数1−30、一つの態様では炭素原子数2−12のアルキル、アリール、アラルキルおよびアルコキシアルキルからなる群より選ばれる有機基であり、別の態様では炭素原子数2−12のアルキルである。
【0050】
一つの態様ではモリブデン化合物は、下記式で表されるモリブデンのジチオカルバメート類である。
【0051】
【化1】

【0052】
式中、R1、R2、R3およびR4は各々独立に、炭素数4−18の直鎖又は分枝鎖アルキル基または直鎖又は分枝鎖アルケニル基であり、そしてX1、X2、X3およびX4は各々独立に、酸素原子または硫黄原子であって、X1からX4までで酸素原子又は原子群の数と硫黄原子又は原子群の数との比は1/3乃至3/1である。一つの態様ではR1、R2、R3およびR4は各々アルキルである。一つの態様ではアルキルは、ブチル、2−エチルヘキシル、イソトリデシルまたはステアリルである。一つのモリブデンジチオカルバメートでR1、R2、R3及びR4基は、互いに同じでも異なっていてもよい。さらに、異なるR1、R2、R3及びR4基を持つ二種以上のモリブデンジチオカルバメートを、混合状態で使用してもよい。
【0053】
一つの態様では、本発明の潤滑油組成物に使用できるオルガノ−モリブデン化合物は、式:Mo3knz(ただし、Lは、化合物を油に可溶性又は分散性とするのに充分な数の炭素原子を持つ有機基を含む、独立に選ばれた配位子であり、nは1乃至4であり、kは4から7まで変わり、Qは、水、アミン、アルコール、ホスフィンおよびエーテルのような中性電子供与化合物の群から選ばれ、そしてzは0乃至5の範囲にあって非化学量論値を含まない)を有するものを含む、三核モリブデン化合物およびそれらの混合物である。ある態様では、全配位子の有機基中に、炭素原子は総数で少なくとも21個存在し、例えば少なくとも25個、少なくとも30個、又は少なくとも35個の炭素原子が存在する。
【0054】
配位子は独立に、下記の基およびそれらの混合物の群から選ばれる。
【0055】
【化2】

【0056】
ただし、X、X1、X2およびYは独立に、酸素および硫黄の群から選ばれ、そしてR1、R2およびRは各々独立に、水素および有機基から選ばれ、同じであっても異なっていてもよい。一つの態様では有機基は、(例えば、配位子の残部に結合した炭素原子が第一級または第二級である)アルキル基、アリール基、置換アリール基およびエーテル基などの炭化水素基である。一つの態様では、各配位子は同じ炭化水素基を有する。
【0057】
「炭化水素基」は、配位子の残部に直接結合した炭素原子を持つ置換基を意味し、主として炭化水素の性質であり、典型的な置換基としては次のようなものが挙げられる。
【0058】
1)炭化水素置換基、すなわち、脂肪族(例えば、アルキルまたはアルケニル)、脂環式(例えば、シクロアルキルまたはシクロアルケニル)置換基、および芳香族、脂肪族及び脂環式置換芳香核等、並びに環が配位子の別の部分を通って完結している環状置換基(すなわち、任意の二つの指示した置換基が一緒に脂環式基を形成してもよい)。
【0059】
2)置換炭化水素置換基、すなわち、非炭化水素基を含むが置換基の主として炭化水素の性質を変えないもの。当該分野の熟練者であれば、好適な基(例えば、ハロ、特にはクロロおよびフルオロ、アミノ、アルコキシ、メルカプト、アルキルメルカプト、ニトロ、ニトロソおよびスルホキシ等)を認識している。
【0060】
3)ヘテロ置換基、すなわち、主として炭化水素の性質でありながら、炭素以外の原子をその他は炭素原子からなる鎖又は環に含む置換基。
【0061】
ある態様では、配位子の有機基は、化合物を油に可溶性又は分散性とするのに充分な数の炭素原子を持っている。例えば、各基の炭素原子の数は一般に、約1から約100、約1から約30、又は約4から約20の範囲にある。ある態様では、配位子として、ジアルキルジチオホスフェート、アルキルキサンテートおよびジアルキルジチオカルバメートが挙げられる。一つの態様では、配位子はジアルキルジチオカルバメートである。上記官能基のうちの二種以上を含む有機配位子も、中心の一つ以上に結合することで配位子として働くことができる。当該分野の熟練者であれば、本発明で提供する化合物の生成には、中心電荷に釣り合う適切な電荷を持つ配位子の選択が必要であることが分かるであろう。
【0062】
式:Mo3knzを有する化合物は、陽イオン中心が陰イオン配位子で囲まれていて、次のような構造で表され、+4の正味電荷を持っている。
【0063】
【化3】

【0064】
従って、これらの中心を可溶化するためには、配位子全部の総電荷は−4でなければならない。一つの態様では、4個の一陰イオン配位子が存在する。如何なる理論にもとらわれることを望まなければ、二つ以上の三核中心が一つ以上の配位子によって結合または相互連結することができて、配位子は多座であってよいと考えられる。これには、単一の中心に複数で連結している多座配位子の場合も含まれる。中心(群)の硫黄は、酸素および/またはセレンで置き換えることができると思われる。
【0065】
油溶性又は分散性の三核モリブデン化合物は、適当な液体(群)/溶媒(群)中で、(NH42Mo313・n(H2O)(ただし、nは0から2の間で変わり、非化学量論値も含む)などのモリブデン源を、テトラアルキルチウラムジスルフィドなどの好適な配位子源と反応させることにより製造することができる。別の油溶性又は分散性三核モリブデン化合物は、適当な溶媒(群)中で、(NH42Mo313・n(H2O)などのモリブデン源と、テトラアルキルチウラムジスルフィド、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェートなどの配位子源と、シアニドイオン、スルフィットイオンまたは置換ホスフィンなどの硫黄引抜剤との反応過程で生成させることができる。あるいは、[M’]2[Mo376](ただし、M’は対イオンであり、そしてAはCl、BrまたはIなどのハロゲンである)などのハロゲン化三核モリブデン・硫黄塩を、適当な液体(群)/溶媒(群)中で、ジアルキルジチオカルバメートまたはジアルキルジチオホスフェートなどの配位子源と反応させて、油溶性又は分散性三核モリブデン化合物とすることもできる。適当な液体/溶媒は例えば水性であっても有機系であってもよい。
【0066】
化合物の油溶性又は分散性は、配位子の有機基の炭素原子の数によって影響されることがある。本発明の化合物では、総数で少なくとも21個の炭素原子が配位子の有機基中に存在すべきである。ある態様では、選んだ配位子源は、化合物を潤滑油組成物に可溶性または分散性とするのに充分な数の炭素原子をその有機基に含んでいる。
【0067】
本明細書で使用する「油溶性」又は「分散性」とは、必ずしも化合物または添加剤が油にあらゆる比率で溶ける、溶解できる、混合できる、あるいはけん濁できることを意味するものではない。ただし、このことは、例えば油が用いられる環境でそれらの意図した効果を及ぼせるほど充分な程度には、油に溶けるまたは安定して分散できることを意味する。また、所望により、他の添加剤の追加混合によって、特定の添加剤の高レベルでの混合が可能になることもある。
【0068】
本発明が提供する潤滑油組成物は、モリブデン化合物をモリブデン含量で少なくとも約10ppmの濃度で含有している。ある態様ではモリブデン化合物の濃度は、モリブデン含量で約10ppm乃至約10000ppmである。ある態様ではモリブデン化合物の濃度は、モリブデン含量で約50乃至1500ppm、又は約250乃至1200ppmである。一つの態様ではモリブデン化合物の濃度は、モリブデン含量で約10ppm、50ppm、100ppm、250ppm、500ppm、750ppm、又は1000ppmである。
【0069】
モリブデンの量は、ASTM D5185に記載されている方法を使用して、誘導結合高周波プラズマ(ICP)発光分光法により決定することができる。
【0070】
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物
本発明で提供する潤滑油組成物は更に、ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物を含有している。ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物のアルキル基は例えば、炭素原子3−30個を含む分枝した又は分枝していないアルキルである。別の態様ではアルキル基の炭素原子数は3−8である。アルキル基の例としては、直鎖の又は分枝したエチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、メチルペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基を挙げることができる。
【0071】
これらのジアルキルジチオリン酸亜鉛塩は、公知技術に従ってまず、通常は一種以上のアルコールまたはフェノールをP25と反応させることで、二炭化水素ジチオリン酸(DDPA)を生成させ、次いで生成したDDPAを亜鉛化合物で中和することにより製造することができる。例えば、第一級及び第二級アルコールの混合物を反応させることにより、ジチオリン酸を製造してもよい。あるいは、一つのジチオリン酸の炭化水素基は全く第二級の性質であるが、残りのジチオリン酸の炭化水素基は全く第一級の性質であるような、複数のジチオリン酸を製造することもできる。亜鉛塩を製造するには、任意の塩基性又は中性亜鉛化合物を使用することが可能であるが、酸化物、水酸化物および炭酸塩が最も頻繁に用いられる。市販の添加剤は、中和反応で塩基性亜鉛化合物を過剰に使用しているために、しばしば余分な亜鉛を含んでいる。
【0072】
一つの態様では、下記式を有するジアルキルジチオリン酸(DDPA)から、油溶性のジアルキルジチオリン酸亜鉛を生成させることができる。
【0073】
【化4】

【0074】
ジアルキルジチオリン酸が誘導されるヒドロキシルアルキル化合物は一般に、式:ROHまたはR’OH(ただし、RまたはR’は、アルキルまたは置換アルキル、一つの態様では炭素原子3−30個を含む分枝又は非分枝アルキルである)で表すことができる。別の態様ではRまたはR’は、炭素原子3−8個を含む分枝又は非分枝アルキルである。アルキル基の例としては、直鎖の又は分枝したエチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基を挙げることができる。
【0075】
ある態様では、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物または前者の二種以上の混合物から、ジアルキルジチオリン酸を製造する。一つの態様では、単一の第一級アルコールからジアルキルジチオリン酸亜鉛を誘導する。一つの態様では単一第一級アルコールは、2−エチルヘキサノールである。一つの態様では、一種以上の第二級アルキルアルコールからジアルキルジチオリン酸亜鉛を誘導する。一つの態様では、第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物である。
【0076】
亜鉛塩は、二炭化水素ジチオリン酸から亜鉛化合物と反応させることにより製造することができる。ある態様では塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用する。別の態様では、亜鉛の酸化物、水酸化物又は炭酸塩を使用する。
【0077】
ジアルキルジチオリン酸の生成工程に使用される五硫化リン反応体は、P23、P43、P47又はP49のうちの一種以上をある量含んでいることがある。組成物それ自体が少量の遊離硫黄を含んでいることもある。ある態様では五硫化リン反応体は、P23、P43、P47及びP49の何れも実質的に含まない。ある態様では五硫化リン反応体は遊離硫黄を実質的に含まない。
【0078】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200乃至500ppmである。ある態様ではジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、約200乃至400ppmである。一つの態様ではジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、約200、250、300、350、400、450、500ppmである。一つの態様ではジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、約250ppmである。
【0079】
以下の添加剤成分は、本発明に好ましく用いることができる成分の一部の例である。これら添加剤の例は、本発明を説明するために記載するのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【0080】
1)金属清浄剤
態様によっては、本発明で提供する潤滑油組成物は、添加剤または添加剤成分として少なくとも一種の中性又は過塩基性金属清浄剤を含有している。ある態様では潤滑油組成物の金属清浄剤は、油中で酸性生成物の中和剤として作用する。ある態様では金属清浄剤は、エンジン表面の堆積物の形成を防ぐ。使用した酸の性質によっては、清浄剤が追加の機能、例えば酸化防止性を有することもある。ある態様では潤滑油組成物は、過塩基性清浄剤かまたは中性及び過塩基性清浄剤の混合物からなる金属清浄剤を含有している。「過塩基性」は、使用した特定金属と特定有機酸の化学量論が要求する量よりも過剰に金属含量を有する添加剤を、定義することを意図している。過剰な金属は、水酸化物または炭酸塩など、金属塩の覆いで取り囲まれた無機塩基の粒子の形で存在する。覆いは、液体油性ビヒクル中で粒子を分散状態で維持するように働く。過剰な金属の量は普通は、有機酸の当量に対する過剰金属の全当量の比として表され、一般に0.1乃至30である。
【0081】
好適な金属清浄剤の制限的でない例としては、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルフェネート類、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、ホウ酸化スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物を挙げることができる。好適な金属清浄剤の他の制限的でない例としては、金属スルホネート類、フェネート類、サリチレート類、ホスホネート類、チオホスホネート類、およびそれらの組合せが挙げられる。金属は、スルホネート、フェネート、サリチレート又はホスホネート清浄剤を製造するのに適した任意の金属であってよい。好適な金属の制限的でない例としては、アルカリ金属、アルカリ金属および遷移金属が挙げられる。ある態様では金属は、Ca、Mg、Ba、K、NaまたはLi等である。潤滑油組成物に用いることができる典型的な金属清浄剤としては、過塩基性カルシウムフェネートが挙げられる。
【0082】
一般に金属清浄添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき10000ppm未満、1000ppm未満、100ppm未満、又は10ppm未満であってよい。ある態様では金属清浄剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき、約0.001質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%である。好適な清浄剤は、モーティア(Mortier)、外著、「潤滑剤の化学と技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、ロンドン、スプリンガー(Springer)、第3章、p.75−85(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック(Leslie R.Rudnick)著、「潤滑油添加剤:化学と用途(Lubricant Additives: Chemistry and Applications)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、第4章、p.113−136(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0083】
2)耐摩耗及び/又は極圧剤
ある態様では開示する潤滑油組成物は更に、耐摩耗又は極圧剤を含有することができる。摩耗は、可動部分が接触している全ての装置で生じる。つまり、普通は三つの条件がエンジン内で摩耗を引き起こす:(1)面と面の接触、(2)面と異物との接触、および(3)腐食性物質による浸食。面と面の接触の結果生じる摩耗は摩擦または凝着摩耗であり、異物との接触の結果生じる摩耗はアブレシブ摩耗であり、そして腐食性物質との接触の結果生じる摩耗は腐食摩耗である。疲れ摩耗は、表面が接触しているだけでなく長期間繰返しの応力がかかる装置では普通にある追加型の摩耗である。アブレシブ摩耗は、有効なろ過機構を取り付けて有害な破壊屑を取り除くことにより防ぐことができる。腐食摩耗は、さもないと金属面を攻撃しうる反応性種を中和する添加剤を使用することにより処理することができる。凝着摩耗の抑制には、耐摩耗及び極圧(EP)剤と呼ばれる添加剤を使用することが必要である。
【0084】
最適な速度及び荷重条件において、装置の金属面を潤滑膜によって有効に分離すべきである。荷重の増加、速度の減少、さもなければそのような最適条件からの逸脱が、金属と金属の接触を促す。この接触は一般に摩擦熱によって接触域の温度増加を引き起こし、次いで温度増加は潤滑油粘度の減少、ひいてはその膜形成能力の減少を招く。ある態様では耐摩耗性添加剤とEP剤は、似たようなメカニズムで防護をもたらす。ある態様ではEP添加剤には、耐摩耗性添加剤よりも高い活性化温度と荷重が必要である。
【0085】
如何なる理論にもとらわれることはないが、耐摩耗及び/又はEP添加剤は、熱分解によって、また金属面と反応する生成物を生成させることによって、固体保護層を形成して機能すると考えられる。この固体金属膜は表面の粗さを埋めて有効な膜形成を容易にし、それにより摩擦を低減して融着や表面摩耗を防ぐ。
【0086】
殆どの耐摩耗及び極圧剤は、硫黄、塩素、リン、ホウ素またはそれらの組合せを含んでいる。凝着摩耗を防ぐ化合物の部類としては例えば、アルキル及びアリールジスルフィド及びポリスルフィド類、ジチオカルバメート類、塩素化炭化水素類、およびリン化合物、例えばアルキル亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類およびアルケニルホスホン酸エステル類を挙げることができる。
【0087】
本発明で提供する潤滑油組成物に含有させることができる典型的な耐摩耗性添加剤としては、ジチオリン酸塩の金属(例えばPbおよびSb等)塩類、ジチオカルバメートの金属(例えばPbおよびSb等)塩類、脂肪酸の金属(例えばPbおよびSb等)塩類、ホウ素化合物、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、ジシクロペンタジエンとチオリン酸の反応生成物、およびそれらの組合せを挙げることができる。耐摩耗性添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な耐摩耗性添加剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0088】
一つの態様では全潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874によって測定したときに、5質量%未満、4質量%未満、3質量%未満、2質量%未満、又は1質量%未満である。
【0089】
一つの態様では潤滑油組成物に使用されるEP剤として、アルキル及びアリールジスルフィド及びポリスルフィド類、ジチオカルバメート類、塩素化炭化水素類、亜リン酸水素ジアルキル類、およびアルキルリン酸の塩を挙げることができる。これらEP剤の製造方法は当該分野で知られている。例えば、ポリスルフィドは、オレフィンから硫黄か、またはハロゲン化硫黄と反応させた後、脱ハロゲン化水素をすることにより合成される。ジアルキルジチオカルバメートは、ジチオカルバミン酸(ジアルキルアミンと二硫化炭素を低温で反応させて製造することができる)を、酸化アンチモンなどの塩基で中和することにより、あるいはアルキルアクリレートなどの活性化オレフィンに塩基を加えることにより製造される。
【0090】
ある態様では、潤滑油組成物は一種以上のEP剤を含んでいる。一つの態様では、一種より多いEP剤の使用が相乗作用をもたらす。例えば、硫黄含有EP剤と塩素含有EP剤の間で相乗作用を観察することができる。本発明で提供する典型的な潤滑油組成物は、次の物質から選ばれた一種以上のEP剤を含んでいる:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(第一級アルキル型及び第二級アルキル型)、硫化油、ジフェニルスルフィド、メチルトリクロロステアレート、塩素化ナフタレン、フルオロアルキルポリシロキサン、およびナフテン酸鉛。
【0091】
3)さび止め添加剤(さび止め剤)
さびに対する防護は潤滑剤を配合する際の重要な考慮事項である。防護無しでは、さびは最終的に金属の損失を引き起こし、それにより装置の保全性を低下させ、結果としてエンジンの性能低下をもたらす。さらに、腐食は、急速に摩耗しうる新鮮な金属を露出させるが、液体中に放出されて酸化促進剤として作用しうる金属イオンによって延々と続くことになる。
【0092】
開示する潤滑油組成物は任意に、金属面の腐食を防ぐことができるさび止め添加剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意のさび止め添加剤を潤滑油組成物に使用することができる。さび止め添加剤自体が金属面に付着して浸透できない保護膜を形成するが、保護膜は金属面に物理的または化学的に吸着することができる。つまり、添加剤がその極性末端で金属面と相互作用し、その非極性末端で潤滑油と会合したときに膜形成が起こる。好適なさび止め添加剤としては例えば、各種の非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、具体的にはポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。好適なさび止め添加剤としては更に、別の化合物、例えばモノカルボン酸類(例えば、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸等)、油溶性のポリカルボン酸類(例えば、タル油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸等から生成したもの)、アルケニル基が炭素原子10個以上を含むアルケニルコハク酸類(例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸等)、分子量が600乃至3000ダルトンの範囲にある長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸類、およびそれらの組合せを挙げることができる。さび止め剤のそれ以上の例としては、金属石鹸、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルが挙げられる。
【0093】
4)抗乳化剤
開示する潤滑油組成物は任意に、水や蒸気にさらされる潤滑油組成物の油−水分離を促進することができる抗乳化剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の抗乳化剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な抗乳化剤の制限的でない例としては、陰イオン界面活性剤(例えば、アルキルナフタレンスルホネート類、およびアルキルベンゼンスルホネート類等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドの重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体等)、油溶性酸のエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では本発明に使用できる抗乳化剤として、プロピレンオキシドまたはエチレンオキシドと、例えばグリセロール、フェノール、ホルムアルデヒド樹脂、シロキサン、ポリアミンおよびポリオールなどの開始剤とのブロック共重合体が挙げられる。ある態様では重合体は、エチレンオキシドを約20乃至約50%含んでいる。これらの物質は、水−油界面に集中して低粘度帯を作り出し、それにより液滴凝集および重力押し相分離を促す。低分子量物質、例えばジアルキルナフタレンスルホン酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩も、一定の用途では有用である。抗乳化剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な抗乳化剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0094】
5)摩擦緩和剤
本明細書に開示する潤滑油組成物は任意に、可動部分間の摩擦を小さくすることができる摩擦緩和剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の摩擦緩和剤を潤滑油組成物に使用することができる。摩擦緩和剤は一般に、極性末端基と非極性線状炭化水素鎖を持つ長鎖の分子である。極性末端基は金属面に物理的に吸着するか、あるいは金属面と化学的に反応し、一方、炭化水素鎖は潤滑油中に延びている。鎖は互いに、また潤滑油と会合して強い潤滑膜を形成する。
【0095】
好適な摩擦緩和剤の制限的でない例としては、脂肪カルボン酸類、脂肪カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸化エステル、アミドおよび金属塩等)、モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸類、モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミドおよび金属塩等)、モノ、ジ又はトリアルキル置換アミン類、モノ又はジアルキル置換アミド類、およびそれらの組合せを挙げることができる。
【0096】
一つの態様では、摩擦緩和剤は、炭素原子13−18個を含む飽和脂肪酸である。摩擦緩和剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な摩擦緩和剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.183−187(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第6章及び第7章、p.171−222(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0097】
6)流動点降下剤
本明細書に開示する潤滑油組成物は任意に、潤滑油組成物の流動点を下げることができる流動点降下剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の流動点降下剤を潤滑油組成物に使用することができる。ある態様では、流動点降下剤は、次の中から選ばれた一つ以上の構造的特徴を有する:(1)重合体構造、(2)ろう質及び非ろう質成分、(3)長い側基を持つ短い主鎖からなる櫛形構造、および(4)広い分子量分布。好適な流動点降下剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、アルキルフマレート重合体、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、アルキル化ナフタレン類、スチレンエステル類、オリゴマー化アルキルフェノール類、フタル酸エステル類、エチレン・酢酸ビニル共重合体、およびそれらの組合せを挙げることができる。一つの態様では、流動点降下剤は、テトラ(長鎖)アルキルシリケート類、フェニルトリステアリルオキシシラン、およびペンタエリトリトールテトラステアレートから選ばれる。ある態様では、流動点降下剤は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、またはポリアルキルスチレン等を含んでいる。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な流動点降下剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.187−189(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第11章、p.329−354(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0098】
7)消泡剤
本明細書に開示する潤滑油組成物は任意に、油の泡を破壊することができる消泡剤又は泡消し剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の消泡剤又は泡消し剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な消泡剤の制限的でない例としては、シリコーン油又はポリジメチルシロキサン類、フルオロシリコーン類、アルコキシル化脂肪酸類、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール類)、分枝ポリビニルエーテル類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ポリアルコキシアミン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では消泡剤は、グリセロールモノステアレート、ポリグリコールパルミテート、トリアルキルモノチオホスフェート、スルホン化リシノール酸のエステル、ベンゾイルアセトン、メチルサリチレート、グリセロールモノオレエート、またはグリセロールジオレエートを含んでいる。消泡剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な消泡剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0099】
8)金属不活性化剤
ある態様では、潤滑油組成物は、少なくとも一種の金属不活性化剤を含有している。好適な金属不活性化剤の制限的でない例としては、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、およびメルカプトベンズイミダゾール類を挙げることができる。
【0100】
9)分散剤
本明細書に開示する潤滑油組成物は任意に、粒子をコロイド状態でけん濁しておくことでスラッジやワニス、他の堆積物を防ぐことができる分散剤を含有することができる。ある態様では、分散剤は、次の中から選ばれた一つ以上の手段によってこれらの機能を果たす:(1)極性混入物をそのミセル内に可溶化すること、(2)それら粒子の集合および油からの分離を防ぐために、コロイド分散液を安定化すること、(3)そのような生成物を、たとえ生成しても、バルク潤滑油に懸濁すること、(4)ススを変性させてその集合および油増粘を最小限にすること、および(5)望ましくない物質の表面/界面エネルギーを下げて、表面に付着する傾向を減少させること。望ましくない物質は一般に、潤滑油の酸化崩壊、カルボン酸など化学的に反応性の種とエンジンの金属面との反応、あるいは例えば極圧剤など熱的に不安定な潤滑油添加剤の分解の結果として生成する。
【0101】
ある態様では、分散剤分子は、次の三つの明白な構造的特徴を含んでいる:(1)炭化水素基、(2)極性基、および(3)連結基又は結合。ある態様では、炭化水素基は、高分子の性質を持ち、分子量が約2000ダルトン以上、一つの態様では約3000ダルトン以上、別の態様では約5000ダルトン以上、更に別の態様では約8000ダルトン以上である。ポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリアルファオレフィン類およびそれらの混合物など種々のオレフィン類を用いて、好適な高分子分散剤を製造することができる。ある態様では、高分子分散剤はポリイソブチレン誘導分散剤である。一般に、それら分散剤のポリイソブチレンの数平均分子量は、約500から約3000ダルトン、ある態様では、約800から約2000ダルトン、更なる態様では、約1000から約2000ダルトンの範囲にある。ある態様では分散剤の極性基は窒素または酸素から誘導される。窒素系分散剤は一般にアミン類から誘導される。窒素系分散剤が誘導されるアミン類はしばしば、ポリアルキレンポリアミン類、例えばジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラアミンである。アミン誘導分散剤は窒素又はアミン分散剤とも呼ばれ、一方、アルコールから誘導されたものは酸素又はエステル分散剤とも呼ばれる。酸素系分散剤は一般に中性であり、一方、アミン系分散剤は一般に塩基性である。
【0102】
好適な分散剤の制限的でない例としては、アルケニルコハク酸イミド類、他の有機化合物で変性したアルケニルコハク酸イミド類、エチレンカーボネート又はホウ酸による後処理で変性したアルケニルコハク酸イミド類、コハク酸アミド類、コハク酸エステル類、コハク酸エステル−アミド類、ペンタエリトリトール類、フェネート−サリチレート類及びそれらの後処理類似物、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属のホウ酸塩類、水和アルカリ金属ホウ酸塩の分散物、アルカリ土類金属ホウ酸塩の分散物、ポリアミド無灰分散剤、ベンジルアミン類、マンニッヒ型分散剤、リン含有分散剤、およびそれらの組合せを挙げることができる。分散剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約7質量%、又は約0.1質量%乃至約4質量%で変えることができる。好適な分散剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第3章、p.86−90(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第5章、p.137−170(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0103】
10)酸化防止剤
任意に、本明細書に開示する潤滑油組成物は更に、基油の酸化を低減または防止することができる追加の酸化防止剤を含有することができる。当該分野の熟練者が知っている任意の酸化防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。組成物に使用できる酸化防止剤の例としては、これらに限定されるものではないが、フェノール型(フェノール系)酸化防止剤、例えば4,4’−メチレン−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’5−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−1−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−10−ブチルベンジル)−スルフィド、およびビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)を挙げることができる。ジフェニルアミン型酸化防止剤としては、これらに限定されるものではないが、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、およびアルキル化アルファ−ナフチルアミン、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、および硫化フェノール系酸化防止剤等)、リン系酸化防止剤(例えば、亜リン酸エステル等)、ジチオリン酸亜鉛、油溶性銅化合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。他の型の酸化防止剤としては、金属ジチオカルバメート(例えば、亜鉛ジチオカルバメート)、および15−メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)が挙げられる。酸化防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な酸化防止剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第1章、p.1−28(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0104】
11)多機能添加剤
本明細書に記載した又は記載していない様々な添加剤が、本発明で提供する潤滑油組成物に複数の効果をもたらすことができる。従って、例えば、単一の添加剤が分散剤としてもまた酸化防止剤としても作用することがある。多機能添加剤は当該分野でよく知られている。他の好適な多機能添加剤としては例えば、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、アミン・モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物を挙げることができる。
【0105】
12)粘度指数向上剤
ある態様では、潤滑油組成物は、少なくとも一種の粘度指数向上剤を含有している。好適な粘度指数向上剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、水和スチレン・イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0106】
[潤滑油組成物の製造方法]
本明細書に開示する潤滑油組成物は、当該分野の熟練者に知られている任意の潤滑油製造方法により製造することができる。ある態様では、基油を油溶性モリブデン化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛および任意に添加剤とブレンドまたは混合する。ある態様では、油溶性モリブデン化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を予備混合した後に基油を加える。別の態様では、油溶性モリブデン化合物とジアルキルジチオリン酸亜鉛を基油に別個に加えてもよいし、あるいは同時に加えてもよい。ある態様では、油溶性モリブデン化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛および任意の添加剤を基油に別個に一回以上の添加で加えるが、添加は任意の順序であってよい。別の態様では、エステル基材油と添加剤を基油に同時に加える。ある態様では、油溶性モリブデン化合物、ジアルキルジチオリン酸亜鉛および任意の添加剤を予備混合し、そして予備混合物を粘度指数向上剤と一緒に基油に加える。
【0107】
成分をブレンド、混合または可溶化するのに、当該分野の熟練者に知られている任意の混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、ミキサ(例えば、遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサ)、ホモジナイザ(例えば、ガウリン・ホモジナイザおよびラニー・ホモジナイザ)、微粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミルおよびサンドミル)、もしくは当該分野で知られている他の任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合または可溶化を行うことができる。
【0108】
[潤滑油組成物の用途]
ある態様では、本発明で提供する潤滑油組成物は、モーター油(すなわち、エンジン油またはクランクケース油)として、ガソリン又はディーゼルエンジンに使用するのに適している。
【0109】
一つの態様では、本発明で提供する潤滑油組成物は、熱いエンジン部分を冷やしたり、エンジンにさびや堆積物が無いようにしておいたり、燃焼ガスの漏出に備えてリングや弁を封じるのに使用される。モーター油組成物は、基油、油溶性モリブデン化合物およびジアルキルジチオリン酸亜鉛を含有している。任意に、モーター油組成物は更に一種以上の他の添加剤を含んでいてもよい。ある態様では、モーター油組成物は更に、流動点降下剤、清浄剤、分散剤、耐摩耗性添加剤、酸化防止剤、摩擦緩和剤、さび止め添加剤またはそれらの組合せを含んでいる。
【0110】
以下の実施例は、本発明で提供する潤滑油組成物の態様を例示するために提示するのであって、発明の内容を提示する特定の態様に限定しようとするものではない。特に指示しない限り、部およびパーセントは全て質量による。数値は全ておおよそである。数値範囲を記している場合に、記載した範囲外の態様であってもなお、特許請求した発明内容の範囲内に含まれると解釈すべきである。各実施例で記述した特定の詳細を、特許請求した発明内容の必然的な特徴であると解釈すべきではない。
【実施例】
【0111】
[実施例1]
潤滑油組成物を製造して、高周波往復リグ(HFRR)試験(ASTM D6079)にて、境界潤滑特性を評価するために使用した。組成物は、SAE 5W−20完成油とするために、主要量の潤滑粘度の基油および下記の添加剤を含有していた。
(1)モリブデンジチオカルバメート、モリブデン含量で700ppm
(2)ホウ酸化ビスコハク酸イミド分散剤、1質量%
(3)エチレンカーボネート後処理ビスコハク酸イミド、4質量%
(4)TBN17のカルシウムスルホネート清浄剤、カルシウム含量で164ppm
(5)TBN148のカルシウムサリチレート、カルシウム含量で2220ppm
(6)アルキル化ジフェニルアミン、1質量%
(7)ヒンダードフェノール、0.2質量%
(8)流動点降下剤、0.2質量%
(9)非分散型エチレン・プロピレン共重合体濃縮物、4.8質量%
(10)消泡剤、ケイ素含量で5ppm
(11)残りは希釈油であった。希釈油は1種又は2種基油であってよい。だが、当該分野の熟練者に知られている任意の希釈油を用いることが可能である。
【0112】
[実施例2]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で250ppm添加したこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき250ppmのリンを含んでいた。
【0113】
4及びC6第二級アルコールの混合物を用いて、ジアルキルジチオリン酸亜鉛を合成する。得られたジアルキルジチオリン酸亜鉛は、ビス(O,O’−ジ−(2−ブチル/4−メチル−2−ペンチル)ジチオリン酸亜鉛である。
【0114】
[実施例3]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で500ppm添加したこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき500ppmのリンを含んでいた。
【0115】
[実施例4]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で750ppm添加したこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき750ppmのリンを含んでいた。
【0116】
[実施例5]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で1000ppm添加したこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき1000ppmのリンを含んでいた。
【0117】
[実施例6]
モリブデンジチオカルバメートの代わりに、オキシモリブデン・コハク酸イミド錯体をモリブデン含量で700ppm用いたこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。
【0118】
[実施例7]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で250ppm添加したこと以外は、実施例6の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき250ppmのリンを含んでいた。
【0119】
[実施例8]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で500ppm添加したこと以外は、実施例6の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき500ppmのリンを含んでいた。
【0120】
[実施例9]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で750ppm添加したこと以外は、実施例6の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき750ppmのリンを含んでいた。
【0121】
[実施例10]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で1000ppm添加したこと以外は、実施例6の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき1000ppmのリンを含んでいた。
【0122】
[実施例11]
モリブデンジチオカルバメートの量をモリブデン含量で150ppmに減らし、そしてオキシモリブデン・コハク酸イミド錯体をモリブデン含量で550ppm添加したこと以外は、実施例1の配合に従って潤滑油を製造した。
【0123】
[実施例12]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で250ppm添加したこと以外は、実施例11の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき250ppmのリンを含んでいた。
【0124】
[実施例13]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で500ppm添加したこと以外は、実施例11の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき500ppmのリンを含んでいた。
【0125】
[実施例14]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で750ppm添加したこと以外は、実施例11の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき750ppmのリンを含んでいた。
【0126】
[実施例15]
ジアルキルジチオリン酸亜鉛をリン分で1000ppm添加したこと以外は、実施例10の配合に従って潤滑油を製造した。組成物は、潤滑油組成物の全質量に基づき1000ppmのリンを含んでいた。
【0127】
[試験法]
高周波往復リグ(HFRR)試験(ASTM D6079)は、境界潤滑特性を評価するように設計されている。この方法では、2mLの試料をHFRRの試験溜めに入れて標準温度に調節する。試料温度が安定したら、完全に試料中にある試験ディスクに非回転鋼球が接触するまで、鋼球を保持する振動器アームを下げる。鋼球をディスクにこすらせる。
【0128】
実施例1−15の組成物を120℃の油溜め温度を使用して試験し、1000gの荷重を掛けた。1mmストローク、周波数20Hzで60分間、鋼球をディスクにこすらせた。
【0129】
実施例1−15の試料を用いてこの試験を実施したが、第2表にその結果を示す。第1図には、これらの結果のグラフによる記述が見られる。
【0130】
第 2 表
────────────────────────────────────
最後10分間
P分4 全平均 の平均
実施例 Mo源 (ppm) 摩擦係数 摩擦係数
────────────────────────────────────
1 MoDTC1 0 0.10 0.068
2 MoDTC1 250 0.079 0.053
3 MoDTC1 500 0.083 0.069
4 MoDTC1 750 0.077 0.071
5 MoDTC1 1000 0.078 0.076
6 Mo・コハ2 0 0.16 0.16
7 Mo・コハ2 250 0.065 0.050
8 Mo・コハ2 500 0.080 0.058
9 Mo・コハ2 750 0.080 0.064
10 Mo・コハ2 1000 0.086 0.073
11 混合3 0 0.17 0.16
12 混合3 250 0.052 0.052
13 混合3 500 0.083 0.065
14 混合3 750 0.074 0.060
15 混合3 1000 0.076 0.066
────────────────────────────────────
1モリブデンジチオカルバメートを含む潤滑油組成物の全モリブデン含量は、700ppmであった。
2モリブデン・コハク酸イミド錯体を含む潤滑油組成物の全モリブデン含量は、700ppmであった。
3潤滑油組成物は、Mo150ppmのMoDTCとMo550ppmのモリブデン・コハク酸イミド錯体の混合物を含んだ。潤滑油組成物の全モリブデン含量は、700ppmであった(MoDTCからのMo150ppmと、モリブデン・コハク酸イミド錯体からのMo550ppm)。
4実施例1−15で用いたジアルキルジチオリン酸亜鉛のリン分(ppm)。
【0131】
全平均摩擦係数の測定に加えて、最後10分間の平均摩擦係数も求めた。金属面に低摩擦膜ができるまでに試験の開始からおよそ15分かかるから、この係数は有益である。データセットは両方とも、リンレベルが250ppmで摩擦係数が最小になることを示している。
【0132】
本発明で提供する潤滑油組成物について限られた数の実施態様で説明したが、一つの実施態様の特殊な特徴が特許請求した発明内容の他の実施態様にもあると考えるべきではない。単一の実施態様が特許請求した発明内容の全ての態様を代表しているわけではない。ある実施態様では、本明細書に記していない多数の工程が方法に含まれていることがある。別の実施態様では、本明細書に挙げていない工程は方法に含まれないか、あるいは実質的に含まれない。記載した実施態様からの変形や変更が存在する。ここに開示する組成物の製造方法を多数の工程を用いて説明していることに留意されたい。これらの工程は任意の順序で実施することができる。一以上の工程を省略したりあるいは一緒にしてもよいが、それでも実質的に同じ結果を達成できる。添付した特許請求の範囲は、特許請求の範囲内に含まれるそのような変形や変更全てを包含することを意図している。
【0133】
この明細書に記した全ての公報及び特許出願明細書は、各々個々の公報又は特許出願明細書を参照内容として記載すると明確かつ別個に示唆したのと同じ程度にまで、参照内容として本明細書の記載とする。上記の発明について理解を明瞭にするために説明と実施例によってある程度詳しく記載したが、添付した特許請求の範囲の真意又は範囲から逸脱することなく一定の変換や変更を本発明に成しうることは、当該分野の熟練者であれば本発明の教示に照して容易に明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】第1図は、本明細書に記載した潤滑油組成物のリン分に対する、高周波数往復リグ試験(HFRR)による摩擦のプロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む潤滑油組成物:
i)主要量の基油、
ii)少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物、および
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、
ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくともモリブデン10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200ppm乃至500ppmである。
【請求項2】
油溶性モリブデン化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオホスフィネート、モリブデンキサンテート、モリブデンチオキサンテート、硫化モリブデンおよびそれらの混合物から選ばれる請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
油溶性モリブデン化合物が、モリブデンジチオカルバメート、モリブデン・コハク酸イミド錯体およびそれらの混合物から選ばれる請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量が、潤滑油組成物の全質量に基づきモリブデン約10乃至10000ppmである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量が、潤滑油組成物の全質量に基づきモリブデン約50乃至1500ppmである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量が、潤滑油組成物の全質量に基づきモリブデン約250乃至1200ppmである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、炭素原子数3−30の直鎖又は分枝アルキル基を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛が、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、メチルペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシルおよびオクタデシルから選ばれたアルキルを含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約200、250、300、350、400、450又は500ppmである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約250ppmである請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
さらに、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤およびそれらの組合せからなる群より選ばれた少なくとも一種の添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
下記の成分を混合する工程を含む、潤滑油組成物の製造方法:
i)主要量の基油、
ii)少なくとも一種の油溶性モリブデン化合物、および
iii)ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、
ただし、モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量は、潤滑油組成物の全質量に基づき少なくとも10ppmであり、そしてジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約200乃至500ppmである。
【請求項13】
モーターエンジンを潤滑に運転する方法であって、請求項1に記載の潤滑油組成物を用いてエンジンを作動させる工程を含む方法。
【請求項14】
モリブデン化合物から誘導されるモリブデン含量が、潤滑油組成物の全質量に基づき10乃至10000ppmである請求項15に記載の方法。
【請求項15】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約200、250、300、350、400、450又は500ppmである請求項15に記載の方法。
【請求項16】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物から誘導されるリン分が、潤滑油組成物の全質量に基づき約250ppmである請求項15に記載の方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−149890(P2009−149890A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324545(P2008−324545)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【出願人】(391050525)シェブロンジャパン株式会社 (26)
【Fターム(参考)】