説明

モータの制御装置

【課題】2相変調方式でモータを制御する場合にモータの3相電流を推定可能な領域を増加できるモータの制御装置を得る。
【解決手段】直流電源とインバータとの間に接続された1つのシャント抵抗を用いて母線電流を検出する検出部と、前記検出部により検出された母線電流に基づいて、2相変調方式による3相のPWM信号を生成して前記インバータへ供給する制御部とを備え、第1のキャリア信号と第2のキャリア信号とを用いて、第1の相のPWM信号と、第2の相のPWM信号と、第3の相のPWM信号を発生し、前記検出部により検出された母線電流から第1の相の電流、第2の相の電流、及び第3の相の電流を推定する推定部と、前記推定部により推定された前記第1の相の電流、前記第2の相の電流、及び前記第3の相の電流を用いて、前記第1の相の電圧指令値、前記第2の相の電圧指令値、及び前記第3の相の電圧指令値を生成する生成部とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日のブラシレスDCモータの制御を精度良く行うには、ロータ(回転子)位置に対応した3相電流を正確に把握する必要がある。各相に流れる電流が把握できれば、モータの回転位置を推定したり、モータの回転速度を制御したりすることができる。
【0003】
一般に、回路のあるノードを流れる電流の電流値を求める場合、二つの方法が挙げられる。1つ目の方法は、電流センサを用いる方法である。この方法では、電流検出用のトランスを備えたカレントトランス(CT)や、ホール素子を備えた電流センサなどを用いて、電流を検出する。2つ目の方法は、シャント抵抗を用いる方法である。あらかじめ求めたいノードにシャント抵抗を接続しておき、そのシャント抵抗の両端における電圧値を測定し、その電圧値と抵抗値とから電流値を求めることが行われている。
【0004】
3相(U相、V相、W相)モータの回転動作制御を行うモータの制御装置では、3相電流を検出するために、各相にシャント抵抗を設けることがある。この構成では、3つのシャント抵抗や検出回路が必要となるので、制御装置の回路構成が大きくなり、コストが増大する傾向にある。
【0005】
それに対して、特許文献1には、インバータ装置において、3相の電流の合計電流値である母線電流値に応じた電圧を1つのシャント抵抗のみで検出することが記載されている。具体的には、各相ごとに所定の位相差をもつ三角基準波に基づいて各相のスイッチング素子の動作を制御するPWM制御信号を各相ごとに生成して、各相のONタイミングをずらし、シャント抵抗により各相の合計電流値である母線電流値を2回検出する。これにより、特許文献1によれば、2回の検出による2つの電圧値に基づいて各相に流れる電流値を算出しているので、1つのシャント抵抗により各相の電流値を算出でき、インバータ装置の回路構成を小型化できるため、コストを低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−208413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された技術では、3相(U相、V相、W相)のPWM制御信号が常に変調状態にある3相変調方式でモータの動作制御を行うことが前提となっている。すなわち、特許文献1には、2相変調方式でモータの動作制御を行うことに関連した記載が一切なく、そのため、2相変調方式でモータを制御する場合にモータの3相電流を推定可能な領域をどのようにして増やすのかについても一切記載がない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、2相変調方式でモータを制御する場合にモータの3相電流を推定可能な領域を増加できるモータの制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるモータの制御装置は、直流電源から供給された直流電力を3相の交流電力に変換してモータへ供給するインバータと、前記直流電源と前記インバータとの間に接続された1つのシャント抵抗を用いて母線電流を検出する検出部と、前記検出された母線電流に基づいて、2相変調方式による3相のPWM信号を生成して前記インバータへ供給する制御部とを備え、前記制御部は、3相のうち前記2相変調方式による変調状態にある第1の相の電圧指令値と、第1のキャリア信号とを比較して、前記第1の相のPWM信号を発生する第1の比較部と、3相のうち前記2相変調方式による変調状態にある第2の相の電圧指令値と、前記第1のキャリア信号に対して位相差を有する第2のキャリア信号とを比較して、前記第2の相のPWM信号を発生する第2の比較部と、前記発生された前記第1の相のPWM信号と、前記発生された前記第2の相のPWM信号と、前記2相変調方式による変調状態にない第3の相のPWM信号とに基づいて、前記検出部により検出された母線電流から前記第1の相の電流、前記第2の相の電流、及び前記第3の相の電流を推定する推定部と、前記推定部により推定された前記第1の相の電流、前記第2の相の電流、及び前記第3の相の電流を用いて、前記第1の相の電圧指令値、前記第2の相の電圧指令値、及び前記第3の相の電圧指令値を生成する生成部とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明にかかるモータの制御装置は、上記の発明において、前記第1のキャリア信号と前記第2のキャリア信号との位相差は、120度より大きく180度以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明にかかるモータの制御装置は、2相変調方式でモータを制御する場合にモータの3相電流を推定可能な領域を増加できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施形態にかかるモータの制御装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、実施形態における駆動信号生成部の構成を示す図である。
【図3】図3は、実施形態における2相変調方式を示す波形図である。
【図4】図4は、実施形態におけるモータの制御装置の動作を示す波形図である。
【図5】図5は、比較例におけるモータの制御装置の動作を示す波形図である。
【図6】図6は、比較例におけるモータの制御装置の動作を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明にかかるモータの制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
実施形態にかかるモータMの制御装置100について、図1、図3、及び図4を用いて説明する。図1は、モータMの制御装置100の構成を示す図である。図3は、2相変調方式を示す波形図である。図4は、モータMの制御装置100の動作を示す波形図である。
【0015】
制御装置100は、モータMを制御するにあたり、1つのシャント抵抗Rsを用いて母線電流を検出し、その検出した母線電流に応じて、2相変調方式を用いたPWM変調による制御信号を生成しモータMを制御する。具体的には、制御装置100は、インバータ10、検出回路(検出部)20、及び制御部30を備える。
【0016】
インバータ10は、直流電源EDCから供給された直流電力を3相(U相、V相、W相)の交流電力に変換する。インバータ10は、変換された3相(U相、V相、W相)の交流電力をモータMへ出力することにより、モータMを駆動する。
【0017】
具体的には、インバータ10は、上アームのスイッチング素子Up、Vp、Wp及び下アームのスイッチング素子Un、Vn、Wnを有する。インバータ10では、各スイッチング素子Up〜Wnをオン・オフすることにより、直流電源EDCから供給された直流電力を3相(U相、V相、W相)の交流電力に変換する。なお、各スイッチング素子Up〜Wnの両端には、さらに還流ダイオードUpd〜Wndが接続されている。
【0018】
検出回路20は、1つのシャント抵抗Rsを用いて母線電流を検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCとインバータ10との間に接続されている。シャント抵抗Rsは、例えば、直流電源EDCにおけるN側の端子とインバータ10との間のDCラインであるNラインL上に挿入されている。なお、シャント抵抗Rsは、例えば、直流電源EDCにおけるP側の端子とインバータ10との間のDCラインであるPラインL上に挿入されていてもよい。
【0019】
1つのシャント抵抗Rsには、インバータ10におけるU相電流、V相電流、W相電流の合計である母線電流が流れる。このとき、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。検出回路20は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流値を検出し、検出結果を制御部30へ出力する。
【0020】
制御部30は、検出回路20により検出された母線電流に基づいて、2相変調方式による3相のPWM信号をインバータ10へ出力する。
【0021】
2相変調方式は、3相(U相、V相、W相)のうちの2相を変調し残りの1相のスイッチングを停止するようなPWM変調の方式である。例えば、図3に示す位相領域PHR1では、U相の電圧指令値Vu*とV相の電圧指令値Vv*とがそれぞれキャリア信号と比較されて、U相、V相のPWM変調波が生成され、W相のPWM変調波は生成されない。すなわち、位相領域PHR1では、U相及びV相が変調状態にあり、W相が変調状態にない。例えば、位相領域PHR2では、V相の電圧指令値Vv*とW相の電圧指令値Vw*とがそれぞれキャリア信号と比較されて、V相、W相のPWM変調波が生成され、U相のPWM変調波は生成されない。すなわち、位相領域PHR2では、V相及びW相が変調状態にあり、U相が変調状態にない。例えば、位相領域PHR3では、U相の電圧指令値Vu*とW相の電圧指令値Vw*とがそれぞれキャリア信号と比較されて、U相、W相のPWM変調波が生成され、V相のPWM変調波は生成されない。すなわち、位相領域PHR3では、U相及びW相が変調状態にあり、V相が変調状態にない。
【0022】
具体的には、制御部30は、AD変換器31、相電流再現器(推定部)32、ドライブ制御部33、出力電圧算出部(生成部)34、及び駆動信号生成部35を有する。
【0023】
AD変換器31は、母線電流値を示す信号を検出回路20から受ける。AD変換器31は、母線電流値を示す信号(アナログ信号)をAD変換して母線電流値を示す信号(デジタル信号)を生成する。AD変換器31は、母線電流値を示すデータを相電流再現器32へ出力する。
【0024】
また、AD変換器31は、3相(U相、V相、W相)のPWM信号を駆動信号生成部35から受ける。AD変換器31は、3相(U相、V相、W相)のPWM信号(アナログ信号)をそれぞれAD変換して3相(U相、V相、W相)のPWM信号(デジタル信号)を生成する。このAD変換処理は、サンプリング処理を含む。AD変換器31は、3相(U相、V相、W相)のPWM信号(デジタル信号)を相電流再現器32へ出力する。
【0025】
相電流再現器32は、母線電流値を示す信号と3相(U相、V相、W相)のPWM信号とをAD変換器31から受ける。相電流再現器32は、3相(U相、V相、W相)のPWM信号に基づいて3相(U相、V相、W相)のうちどの相の電流が母線電流として現れているかを特定し、母線電流値をその特定された相の電流値とする。すなわち、相電流再現器32は、3相(U相、V相、W相)のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相のPWM信号を特定し、その相のPWM信号に対応した相の電流が母線電流として現れているものとする。そして、相電流再現器32は、その特定された相の電流値を上記の検出された母線電流値に略等しいものとして推定する。
【0026】
例えば、図4に示す期間TP1、TP3、TP5、TP7では、PWM信号のオン・オフ状態が他の2相と異なる1相がW相である。そこで、インバータ10からモータMに向かう向きを電流の正の向きとするとき、相電流再現器32は、W相の電流(Iu+Iv+Iw=0より、−Iw=−Iu−Iv)が母線電流として現れていると特定する。そして、相電流再現器32は、W相の電流(−Iw)の大きさを母線電流値に略等しいものとして推定する。
【0027】
例えば、図4に示す期間TP2、TP6では、PWM信号のオン・オフ状態が他の2相と異なる1相がU相である。そこで、相電流再現器32は、U相の電流Iuが母線電流として現れていると特定する。そして、相電流再現器32は、U相の電流Iuの大きさを母線電流値に略等しいものとして推定する。
【0028】
例えば、図4に示す期間TP4、TP8では、PWM信号のオン・オフ状態が他の2相と異なる1相がV相である。そこで、相電流再現器32は、V相の電流Ivが母線電流として現れていると特定する。そして、相電流再現器32は、V相の電流Ivの大きさを母線電流値に略等しいものとして推定する。
【0029】
相電流再現器32は、推定された相の電流値をドライブ制御部33へ出力する。
【0030】
ドライブ制御部33は、推定された相の電流値を相電流再現器32から受ける。すなわち、ドライブ制御部33は、3相の電流値を相電流再現器32から受ける。ドライブ制御部33は、3相の電流値に基づいて、出力電圧を決定するための制御信号を生成して出力電圧算出部34へ出力する。
【0031】
出力電圧算出部34は、制御信号をドライブ制御部33から受ける。出力電圧算出部34は、3相の電流値や外部から入力されるモータの目標回転数に基づいて生成された制御信号に従って、3相(U相、V相、W相)の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を生成する。すなわち、出力電圧算出部34は、上記の推定された3相(U相、V相、W相)の電流値に基づいて、3相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を生成する。出力電圧算出部34は、生成した3相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を駆動信号生成部35へ出力する。
【0032】
駆動信号生成部35は、3相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*を出力電圧算出部34から受ける。駆動信号生成部35は、3相の電圧指令値Vu*、Vv*、Vw*に応じて、3相のPWM信号を発生させてインバータ10へ出力する。すなわち、駆動信号生成部35は、Up駆動信号、Un駆動信号、Vp駆動信号、Vn駆動信号、Wp駆動信号、Wn駆動信号を発生させて、それぞれ、インバータ10におけるスイッチング素子Up、Un、Vp、Vn、Wp、Wnのゲートへ供給する。これにより、インバータ10の各スイッチング素子Up〜Wnは、制御部30の制御に応じたオン・オフのパターンで動作する。
【0033】
次に、駆動信号生成部35の詳細について図2及び図4を用いて説明する。図2は、駆動信号生成部35の内部構成を示す図である。
【0034】
駆動信号生成部35は、上記の2相変調方式による変調状態にある2相に対応した2つのキャリア信号を用いてPWM変調を行う。また、2つのキャリア信号には、互いに位相差を持たせる。具体的には、駆動信号生成部35は、キャリア発生器351、キャリア発生器352、キャリア割り当て処理器353、比較器(第1の比較部)354、比較器(第2の比較部)355、及び駆動信号割り当て処理器356を有する。
【0035】
キャリア発生器351は、第1のキャリア信号CS1を発生する。第1のキャリア信号CS1は、後述の第2のキャリア信号CS2との間で例えば180度の位相差を有する。第1のキャリア信号CS1は、例えば、図4に示すような三角波である。キャリア発生器351は、発生した第1のキャリア信号CS1を比較器354へ供給する。
【0036】
キャリア発生器352は、第2のキャリア信号CS2を発生する。第2のキャリア信号CS2は、第1のキャリア信号CS1との間で例えば180度の位相差を有する。第2のキャリア信号CS2は、例えば、図4に示すような三角波である。キャリア発生器352は、発生した第2のキャリア信号CS2を比較器355へ供給する。
【0037】
キャリア割り当て処理器353は、3相(U相、V相、W相)のうち変調状態にある2相をそれぞれ第1の変調相及び第2の変調相とし、変調状態にない残りの1相を固定相とする。例えば、キャリア割り当て処理器353は、変調状態にある2相のうちの1相をU相>V相>W相の優先度で第1の変調相へ割り当て、変調状態にある残りの1相を第2の変調相へ割り当てる。キャリア割り当て処理器353は、第1の変調相の電圧指令値を比較器354へ出力し、第2の変調相の電圧指令値を比較器355へ出力し、固定相の電圧指令値をゼロとして駆動信号割り当て処理器356へ出力する。
【0038】
例えば、U相及びV相が変調状態にありW相が変調状態にない位相領域PHR1(図3参照)において、キャリア割り当て処理器353は、U相及びV相をそれぞれ第1の変調相及び第2の変調相とし、W相を固定相とする。そして、キャリア割り当て処理器353は、U相の電圧指令値Vu*を比較器354へ出力し、V相の電圧指令値Vv*を比較器355へ出力し、W相の電圧指令値Ww*をゼロとして駆動信号割り当て処理器356へ出力する。
【0039】
比較器354は、第1のキャリア信号CS1をキャリア発生器351から受け、第1の変調相の電圧指令値をキャリア割り当て処理器353から受ける。比較器354は、第1の変調相の電圧指令値と第1のキャリア信号CS1とを比較して、その比較結果に応じて第1の変調相のPWM信号を発生して駆動信号割り当て処理器356へ出力する。
【0040】
例えば、U相及びV相が変調状態にありW相が変調状態にない位相領域PHR1(図3参照)において、比較器354は、U相の電圧指令値Vu*と第1のキャリア信号CS1とを比較する。例えば、図4に示すように、比較器354は、第1のキャリア信号CS1がU相の電圧指令値Vu*より大きい場合(期間TP4、TP8)にU相のPWM信号をoffレベルにし、第1のキャリア信号CS1がU相の電圧指令値Vu*より小さい場合(期間TP1〜TP3、TP5〜TP7)にU相のPWM信号をonレベルにする。
【0041】
比較器355は、第2のキャリア信号CS2をキャリア発生器352から受け、第2の変調相の電圧指令値をキャリア割り当て処理器353から受ける。比較器355は、第2の変調相の電圧指令値と第2のキャリア信号CS2とを比較して、その比較結果に応じて第2の変調相のPWM信号を発生して駆動信号割り当て処理器356へ出力する。
【0042】
例えば、U相及びV相が変調状態にありW相が変調状態にない位相領域PHR1(図3参照)において、比較器354は、V相の電圧指令値Vv*と第2のキャリア信号CS2とを比較する。例えば、図4に示すように、比較器355は、第2のキャリア信号CS2がV相の電圧指令値Vv*より大きい場合(期間TP2、TP6)にV相のPWM信号をoffレベルにし、第2のキャリア信号CS2がV相の電圧指令値Vv*より小さい場合(期間TP1、TP3〜TP5、TP7、TP8)にV相のPWM信号をonレベルにする。
【0043】
駆動信号割り当て処理器356は、キャリア割り当て処理器353で割り当てた情報に応じて第1の変調相、第2の変調相、固定相のPWM波形を3相の各駆動信号へ割り当てる。すなわち、駆動信号割り当て処理器356は、第1の変調相のPWM信号を比較器354から受け、第1の変調相のPWM信号に応じて第1の変調相の駆動信号を生成してインバータ10における第1の変調相のスイッチング素子へ出力する。駆動信号割り当て処理器356は、第2の変調相のPWM信号を比較器355から受け、第2の変調相のPWM信号に応じて第2の変調相の駆動信号を生成してインバータ10における第2の変調相のスイッチング素子へ出力する。駆動信号割り当て処理器356は、固定相のPWM信号をキャリア割り当て処理器353から受け、固定相のPWM信号に応じて第2の変調相の駆動信号を生成してインバータ10における固定相のスイッチング素子へ出力する。
【0044】
例えば、U相及びV相が変調状態にありW相が変調状態にない位相領域PHR1(図3参照)において、駆動信号割り当て処理器356は、U相のPWM信号をUp駆動信号とし、U相のPWM信号に対してon/offレベルを反転させたものをUn駆動信号とし、Up駆動信号及びUn駆動信号をそれぞれインバータ10におけるスイッチング素子Up、Unへ供給する。駆動信号割り当て処理器356は、V相のPWM信号をVp駆動信号とし、V相のPWM信号に対してon/offレベルを反転させたものをVn駆動信号とし、Vp駆動信号及びVn駆動信号をそれぞれインバータ10におけるスイッチング素子Vp、Vnへ供給する。駆動信号割り当て処理器356は、ゼロ(offレベル)に固定されたW相のPWM信号をWp駆動信号とし、onレベルに固定されたものをWn駆動信号とし、Wp駆動信号及びWn駆動信号をそれぞれインバータ10におけるスイッチング素子Wp、Wnへ供給する。
【0045】
ここで、仮に、図5及び図6に示すように、駆動信号生成部35が1つのキャリア信号を用いてPWM変調を行う場合について考える。この場合、変調状態にある2相の電圧指令値の振幅が近い位相領域CR1、CR2、CR3、CR4、CR5等(図3参照)において、1相の電流しか検出できない。
【0046】
例えば、図3に示すように、位相領域CR1における位相点Aでは、U相の電圧指令値Vu*の振幅とV相の電圧指令値Vv*の振幅とが略等しくなっている。この場合、図5に示すように、1つのキャリア信号CSがU相の電圧指令値Vu*より小さくなるタイミングとV相の電圧指令値Vv*より小さくなるタイミングとがほぼ一致しており、その後、1つのキャリア信号CSがU相の電圧指令値Vu*より大きくなるタイミングとV相の電圧指令値Vv*より大きくなるタイミングとがほぼ一致している。これにより、U相のPWM信号がonレベルにある期間とV相のPWM信号がonレベルにある期間とがほぼ一致している。これにより、相電流再現器32は、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてW相しか特定できないので、W相の電流しか推定できない。
【0047】
例えば、図3に示すように、位相領域CR1における位相点Bでは、U相の電圧指令値Vu*の振幅とV相の電圧指令値Vv*の振幅とが非常に近くなっている。この場合、図6に示すように、1つのキャリア信号CSがU相の電圧指令値Vu*より小さくなるタイミングとV相の電圧指令値Vv*より小さくなるタイミングとが近接している。これにより、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてU相が特定されるべき期間TP101、TP103が、サンプリング期間に対して短すぎるために、例えばAD変換器31によりサンプリングできずAD変換ができない傾向にある。また、1つのキャリア信号CSがU相の電圧指令値Vu*より大きくなるタイミングとV相の電圧指令値Vv*より大きくなるタイミングとが近接している。これにより、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてU相が特定されるべき期間TP102、TP104が、サンプリング期間に対して短すぎるために、例えばAD変換器31によりサンプリングできずAD変換ができない傾向にある。そのため、相電流再現器32によるU相の電流の推定も困難になり、W相の電流しか推定できない傾向にある。
【0048】
それに対して、実施形態では、駆動信号生成部35は、2相変調方式による変調状態にある2相に対応した2つのキャリア信号を用いてPWM変調を行う。また、2つのキャリア信号には、互いに位相差を持たせる。これにより、2相変調方式による変調状態にある2相の電圧指令値の振幅が近い位相領域においても、変調状態にある2相のPWM信号がonレベルにある期間をずらすことが容易である(図4参照)。したがって、2相変調方式でモータを制御する場合にモータの3相電流を推定可能な領域を増加できる。
【0049】
また、実施形態では、2つのキャリア信号を用いてPWM変調を行うための構成として、駆動信号生成部35が、2つのキャリア発生器351、352を有するとともに、2つの比較器354、355を有する。すなわち、実施形態の構成は、1つのキャリア信号を用いてPWM変調を行う場合に比べて、わずかな構成要素の増加で実現できる。このため、コストの増加も抑制できる。
【0050】
また、実施形態では、2つのキャリア信号CS1、CS2の位相差が180度である。これにより、2相変調方式による変調状態にある2相の電圧指令値の振幅が近い位相領域においても、変調状態にある2相のPWM信号がonレベルにある期間を大幅にずらすことが容易である。
【0051】
例えば、図3に示すように、位相領域CR1における位相点Aでは、U相の電圧指令値Vu*の振幅とV相の電圧指令値Vv*の振幅とが略等しくなっている。この場合でも、図4に示すように、第1のキャリア信号CS1がU相の電圧指令値Vu*より小さくなるタイミングと第2のキャリア信号CS2がV相の電圧指令値Vv*より小さくなるタイミングとが大幅にずれている。これにより、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてU相が特定されるべき期間TP2、TP6が、サンプリング期間に対して十分な長さを有している。同様に、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてV相が特定されるべき期間TP4、TP8が、サンプリング期間に対して十分な長さを有している。同様に、3相のPWM信号のうちオン・オフ状態が他の2相と異なる1相としてW相が特定されるべき期間TP1、TP3、TP5、TP7が、サンプリング期間に対して十分な長さを有している。このため、相電流再現器32による3相の電流の推定を確実に行うことができる。
【0052】
また、実施形態では、検出回路20が1つのシャント抵抗Rsを用いて母線電流を検出し、相電流再現器32が検出回路20により検出された母線電流から各相の電流を推定する。これにより、インバータ10の各相にシャント抵抗Rsを設けて各相の電流を検出する場合に比べて、インバータ10を構成する回路全体を小型化することが可能となり、その分コストも削減できる。
【0053】
なお、上記の実施形態では、第1のキャリア信号CS1と第2のキャリア信号CS2との位相差が180度である場合について例示したが、第1のキャリア信号CS1と第2のキャリア信号CS2との位相差は、120度より大きく180度以下であっても良い。この場合でも、3相変調方式では実現できない大きな位相差を第1のキャリア信号CS1と第2のキャリア信号CS2との間に持たせることができる。
【0054】
すなわち、3相変調方式で複数相のキャリア信号を用いようとすれば、3相変調方式による変調状態にある3相に対応した3つのキャリア信号を用いてPWM変調を行うことになる。この場合、3つのキャリア信号の間で大きな位相差を持たせようと思っても、120度より大きい位相差を実現できない。
【0055】
それに対して、本変形例では、2相変調方式による変調状態にある2相に対応した2つのキャリア信号を用いてPWM変調を行うので、2つのキャリア信号の位相差を120度より大きく180度以下にできる。これにより、上記のように、2相変調方式による変調状態にある2相の電圧指令値の振幅が近い位相領域においても、変調状態にある2相のPWM信号がonレベルにある期間を大幅にずらすことが容易である。これにより、3相電流を推定可能な領域を大幅に増加できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
以上のように、本発明にかかるモータの制御装置は、2相変調方式に有用である。
【符号の説明】
【0057】
10 インバータ
20 検出回路
30 制御部
31 AD変換器
32 相電流再現器
33 ドライブ制御部
34 出力電圧算出部
35 駆動信号生成部
100 制御装置
351 キャリア発生器
352 キャリア発生器
353 キャリア割り当て処理器
354 比較器
355 比較器
356 駆動信号割り当て処理器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給された直流電力を3相の交流電力に変換してモータへ供給するインバータと、
前記直流電源と前記インバータとの間に接続された1つのシャント抵抗を用いて母線電流を検出する検出部と、
前記検出された母線電流に基づいて、2相変調方式による3相のPWM信号を生成して前記インバータへ供給する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
3相のうち前記2相変調方式による変調状態にある第1の相の電圧指令値と、第1のキャリア信号とを比較して、前記第1の相のPWM信号を発生する第1の比較部と、
3相のうち前記2相変調方式による変調状態にある第2の相の電圧指令値と、前記第1のキャリア信号に対して位相差を有する第2のキャリア信号とを比較して、前記第2の相のPWM信号を発生する第2の比較部と、
前記発生された前記第1の相のPWM信号と、前記発生された前記第2の相のPWM信号と、前記2相変調方式による変調状態にない第3の相のPWM信号とに基づいて、前記検出された母線電流から前記第1の相の電流、前記第2の相の電流、及び前記第3の相の電流を推定する推定部と、
前記推定された前記第1の相の電流、前記第2の相の電流、及び前記第3の相の電流を用いて、前記第1の相の電圧指令値、前記第2の相の電圧指令値、及び前記第3の相の電圧指令値を生成する生成部と、
を有する
ことを特徴とするモータの制御装置。
【請求項2】
前記第1のキャリア信号と前記第2のキャリア信号との位相差は、120度より大きく180度以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のモータの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−205370(P2012−205370A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66733(P2011−66733)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000006611)株式会社富士通ゼネラル (1,266)
【Fターム(参考)】