説明

モータ制御装置

【課題】 上位指令装置を必要とせず、毎回同じ開始位置から所定の運転パターンに従ってモータを駆動制御することを可能としたモータ制御装置を提供する。
【解決手段】 トルク指令を出力することによりモータを駆動制御するモータ制御装置であって、指令パターン生成部112により生成された位置指令によって位置制御を開始するに際して、その開始点となる基準位置を設定し、現在位置から基準位置へ移動するための基準位置指令生成部116を備え、基準位置指令生成部116によって求められた基準位置指令に基づいて、現在位置から基準位置への移動が完了した後に、指令パターン生成部112による位置指令に切り替えて位置制御を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動範囲の制約された機械装置をモータで駆動制御して試運転調整する際に、一旦電源をオフした後、再度電源を投入して機械装置の試運転調整を続ける場合等に、設定された基準位置に復帰させるための操作機能を有するモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上位指令装置を必要とせずにモータを動作させ、制御ゲイン等の調整ができるモータ制御装置は、特許文献1に開示されている。本モータ制御装置は指令パターン生成部を備え、該指令パターン生成部はパラメータ入力装置から入力された移動距離、最高速度、加速時間、減速時間、待ち時間、正転繰り返し回数、逆転繰り返し回数のパラメータに基づいて運転パターンを生成し、連続動作させる位置指令を出力する。このため、上位指令装置なしに連続動作させることができる。
図6に特許文献1に記載のモータ制御装置のブロック構成を示す。図6において、21はパラメータ入力装置、22はモータ制御装置、23は上位指令装置である。モータ制御装置22は、上位指令装置23からのパルス列指令をモータの駆動指令として受け取り、モータ制御装置内で位置指令を生成するパルス指令処理部211、パラメータ入力装置21からの入力パラメータに基づいて運転パターンを生成し、運転パターンに基づいた位置指令を生成する指令パターン生成部212、パルス指令処理部211からの位置指令または指令パターン生成部212からの位置指令を選択する指令切替スイッチ213、指令切替スイッチ213を介して入力された位置指令に基づいて速度指令を生成する位置制御部214、位置制御部214からの速度指令に基づいてモータを駆動するためのトルク指令を生成する速度制御部215とから構成されている。上位指令装置23を使用しない場合、モータ制御装置22は、パラメータ入力装置21からの入力パラメータに基づいて生成された運転パターンに従ってモータを駆動している。
なおパラメータ入力装置21は、通常、モータ制御装置22の各種パラメータを設定するのみではなく、ジョグ運転等の動作を行う場合の指令器としての機能も有している。
【特許文献1】特開2004−23946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来のモータ制御装置では、指令パターン生成部212は指令パターンの開始位置をその時のモータ位置としており、絶対位置の管理を行っていない。そのため、例えばモータ制御装置の電源をオフした後に、再度、モータを駆動制御する場合、異なるモータ位置からの動作になり、前回と同じ位置からの繰り返し動作を行う場合には、絶対位置を管理している上位指令装置が指令パターンを出力することが必要になるという問題がある。
特にモータ駆動の動作範囲が制限されている状況では、モータを組み込んだ機械装置やシステムの試運転調整の際の操作性が低下していた。
【0004】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、上位指令装置を必要とせず、毎回同じ開始位置から所定の運転パターンに従ってモータを駆動制御することを可能としたモータ制御装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、トルク指令を出力することによりモータを駆動制御するモータ制御装置であって、入力されたパラメータに基づいて、所定パターンの位置指令を生成する指令パターン生成手段と、該指令パターン生成手段により生成された位置指令または上位指令装置からの位置指令に基づいて速度指令を生成する位置制御手段と、該位置制御手段からの速度指令に基づいてモータを駆動するためのトルク指令を生成する速度制御手段と、を備えたモータ制御装置において、
前記指令パターン生成手段により生成された位置指令によって位置制御を開始するに際して、その開始点となる基準位置を設定し、現在位置から前記基準位置へ移動するための基準位置指令生成手段を備え、該基準位置指令生成手段によって求められた基準位置指令に基づいて、前記現在位置から前記基準位置への移動が完了した後に、前記指令パターン生成手段による位置指令に切り替えて位置制御を開始するものである。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記基準位置指令生成手段は、絶対値エンコーダによって位置フィードバック制御系を構成している場合は、前記絶対値エンコーダで与えられる現在位置と設定された基準位置との差分値を求めて、基準位置指令を生成するものである。
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記基準位置指令生成手段は、インクリメンタルエンコーダによって位置フィードバック制御系を構成している場合は、先ず、制御される機械装置の原点位置に移動するための原点復帰動作を実行し、前記原点位置を0とした位置に対する相対的な位置を基準位置としてその差分値を求めて、基準位置指令を生成するものである。
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のモータ制御装置において、前記基準位置はパラメータ入力装置によって前記モータ制御装置に設定され、前記基準位置指令生成手段による位置指令によってモータを駆動しているときには、前記パラメータ入力装置は、前記基準位置指令生成手段による位置制御状態であることを示すための表示手段を有するものである。
【発明の効果】
【0006】
請求項1乃至3に記載の発明によると、機械装置を所定の基準位置へ移動した後に指令パターン生成手段による位置指令に切り替えて位置制御を開始するので、一旦電源をオフした後に、再度、指令パターンによる位置決め動作を行う場合でも、同じ開始位置からモータを駆動することが可能となる。従って、上位指令装置がなく、かつ動作範囲が制限されている状況下においても、モータを組み込んだ機械装置やシステムの運転調整の操作性を向上できる。
また、制御系のゲイン調整等を行っている場合でも、位置決め制御を電源オフ前と同一の基準位置から再開することができので、調整作業の継続性を保つことができ、調整時間の短縮を図ることができる。
【0007】
請求項4に記載の発明によると、基準位置指令生成手段によって位置指令を生成し、基準位置へモータを駆動している間は、パラメータ入力装置に特別な表示を行い、操作者に指令パターンによる位置決め動作開始位置までの移動中であることを知らせることができるので、機械装置やシステムの運転調整の操作性および安全性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。実際のモータ制御装置には様々な機能や手段が内蔵されているが、以下に示す図には本発明に関係する機能や手段のみを記載して説明する。
【実施例】
【0009】
図1は、本発明の一実施形態のモータ制御装置の構成を示すブロック図である。図1において、11はパラメータ入力装置、12はモータ制御装置、13は上位指令装置である。モータ制御装置12は、パルス指令処理部111、指令パターン生成部112、指令切替第1スイッチ113、位置制御部114、速度制御部115、基準位置指令生成部116、指令切替第2スイッチ117とから構成される。
【0010】
図1における各機能ブロックの基本的な動作は、従来例を示す図6と同一であるので、ここでは追加した機能部について説明する。
本発明が従来例と異なる部分は、指令パターンによる動作を開始する前に、パラメータによって設定された基準位置へモータを移動するための位置指令を生成する基準位置指令生成部116、および基準位置に到達後に指令パターン生成部112からの位置指令によってモータを駆動するための指令切替第2スイッチ117を追加したことである。
なおパラメータ入力装置11は、モータ制御装置12の各種パラメータを設定するのみではなく、ジョグ運転や原点復帰等の動作、さらに本発明の処理内容を実行する際の指令器としての機能も有している。
【0011】
図2は、パラメータ入力装置11によってモータ制御装置12に設定された運転パターン等のパラメータに基づいて、位置指令を生成処理する際の動作を表すフローチャートである。先ず、ステップS01において基準位置指令を生成し、指令切替第1スイッチ113をb側、指令切替第2スイッチ117をd側に設定した後、基準位置指令を位置制御部114に出力してモータを基準位置に移動する。基準位置指令の生成過程は、位置のフィードバック制御を行うための位置検出器として、絶対値エンコーダを使用している場合とインクリメンタルエンコーダを使用している場合とでは異なり、その詳細動作については別途説明する。
次にステップS02では、指令切替第2スイッチ117をc側に設定する。そして、パラメータ入力装置11から入力された運転パターン生成用パラメータに基づいて、指令パターン生成部112は、モータを動作させるための基本運転パターンを生成し、この基本運転パターンをパラメータによって設定された回数だけ繰り返して連続運転パターンを設定し、この連続運転パターンに基づいてモータを連続的に動作させるための位置指令パターン(以下、「指令パターン」と呼ぶ)を生成して位置制御部114に出力する。モータ制御装置12は生成された指令パターンに従ってモータの運転を続ける。
【0012】
操作者は、通常、指令パターンに基づいてモータを運転している間、パラメータ入力装置11から制御ゲイン等の調整作業を行う。このステップS02における動作は、従来の指令パターンによる運転処理と同様であり、指令パターンによる運転が終了したら、ステップS03で終了処理を行う。
なお、パラメータ入力装置11は、基準位置指令生成および出力処理を行うステップS01において、基準位置までのモータ駆動中は、例えば、“APPROACH” 等の特定の表示を行い、指令パターンによる運転を開始する位置へ移動中であることを操作者に伝える。
【0013】
図3は、図2のステップS01における基準位置指令生成および出力処理に関するフローチャートである。
図3において、ステップS011では、パラメータ入力装置11の特定のキー入力、例えば、“JOG/SVON”キーがオン状態であるかを判別する入力判別処理を行い、オンであればモータ通電中であると判断してステップS012へ進み、オフであればモータが非通電状態であると判断して処理を終了する。
ステップS012では、エンコーダ種別判別処理を行い、位置制御用の位置検出器として絶対値エンコーダを使用している場合は、ステップS0131へ進み、インクリメンタルエンコーダ使用時は、ステップS0141へ進む。
【0014】
位置検出器として絶対値エンコーダを使用している場合、モータ制御装置が絶対値エンコーダから時々刻々取得する位置データは、モータで駆動する機械装置のその時点の絶対位置を表すため、操作者が基準位置としたい機械位置の位置データをそのまま基準位置データとすることができる。予め機械装置の基準位置データが分かっていれば、パラメータ入力装置11によって基準位置のパラメータを設定しておくことにより、ステップ0131において、現在位置データと設定されている基準位置データの差分値を求めることにより基準位置指令を生成することができる。
しかし、基準位置を設定する場合、実際の稼働中の機械装置から直接的に行わねばならない場合もあるので、このような場合を想定した基準位置指令の生成方法を示したのが図4のフローチャートである。
図4において、先ず、ステップS01311にて基準位置のパラメータが適正値に設定されているかどうかを確認し、設定されていなければ、S01312にて基準位置の設定方法を選択し、基準位置データを取得するモードを選択するか(S01313)、予め基準位置が分かっていればステップS01314にて、パラメータ入力装置11によって直接モータ制御装置12に基準位置のパラメータを入力する。また、すでに基準位置のパラメータが適正値に設定されていれば、S01315に進む。
ステップS01313にて、基準位置のデータを取得して基準位置のパラメータを設定する方法の一例としては次のようにして行うことができる。操作者は、例えば、パラメータ入力装置11を使用する機能の1つであるジョグ運転モードにて、機械装置の可動テーブルを基準位置として設定したい位置まで移動し、その位置の絶対値エンコーダの位置データを読み取り基準位置としてモータ制御装置12に記憶する。
次に、ステップS01315において、現在位置データを絶対値エンコーダから読み込み、ステップS01316にて、現在位置データと基準位置データの差分値を求め、基準位置指令を生成する。
以上のように基準位置をパラメータ入力装置11から直接入力する場合だけでなく、基準位置のデータ取得モードをモータ制御装置に組み込んでおけば、より使い勝手を向上することができる。
【0015】
再び、図3のステップS012に戻って説明を続ける。位置検出器にインクリメンタルエンコーダを使用している場合、電源投入時にインクリメンタルエンコーダから得られる現在位置データは、機械装置がどの位置に停止していた場合でも0である。従って、操作者は電源投入後の原点復帰動作により機械装置の機械原点に一旦移動し、その機械原点の位置を0として、この0点からカウントして得られた位置データで基準位置を設定する。インクリメンタルエンコーダ使用時は作業の途中でモータ制御装置12の電源をオフした場合は、電源を再投入したときに、再度、原点復帰動作を実行する必要がある。
【0016】
先ずステップS0141において原点復帰処理を実行済みかどうか判断し、未実施であればステップS0142にて原点復帰処理により機械装置をその機械原点の位置に移動し、その位置を0に設定する。また、すでに原点復帰動作を完了していればステップS0143に進む。
ステップS0142の原点復帰処理の動作を図5のフローチャートで説明する。操作者はパラメータ入力装置11により原点復帰動作モードを選択し、先ずステップS01421にて機械原点のある方向へモータを駆動し、機械装置が機械原点に近づくと、モータ制御装置は原点付近であることを表す信号を検出する。ステップS01422にてモータ制御装置は、その後に検出するインクリメンタルエンコーダの原点信号位置に所定のオフセット位置を加えた位置に停止する。次にステップS01423においてその停止位置を機械原点位置(=0)として設定する。ステップS01424で原点復帰処理を終了し、図3のステップS0143に移る。なお、所定のオフセット位置は、各機械装置の固有の値として、予めモータ制御装置のパラメータに設定されているものである。
【0017】
この原点復帰処理以降の処理は絶対値エンコーダ使用時と基本的動作は同じである。ステップS0143においては、原点復帰動作によって求めた機械原点の位置を0としたときの現在位置データと基準位置データの差分値を求め基準位置指令を生成する。ここで使用する基準位置データは予めパラメータ入力装置11によって基準位置のパラメータとして設定しておけばよい。電源をオフし、再度、電源を投入して指令パターンによる位置決め動作を再開する場合には、再度原点復帰動作を実行する必要はあるが、新たに基準位置データを設定する必要はない。
なお、基準位置指令の生成方法を示した図4のフローチャートは、インクリメンタルエンコーダを使用している場合でも、そのまま適用でき、上述した図4の説明の中で、“絶対値エンコーダ”と記載されている部分を“インクリメンタルエンコーダ”と置き換えて読めばよい。
【0018】

次に、図3のステップS0132は、ステップS0131またはS0143で生成した基準位置指令を出力し、基準位置までモータを駆動し、移動が完了したらステップS0133にて終了して図2に示すステップS02の指令パターンによる運転処理に移る。
以上のようにして上位指令装置13がなくても、設定された基準位置に機械装置を復帰させた後に、指令パターンによる運転を継続して行うことができるで、機械装置の試運転調整を再開する際など、運転調整の操作性を向上することができる。また、モータ制御装置12の位置制御ゲインや速度制御ゲイン等の調整作業を行っている場合でも、その継続性を保つことができるので、調整時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のモータ制御装置の構成を示すブロック図
【図2】本発明の実施例の指令パターンによる位置指令生成処理フローチャート
【図3】本発明の実施例の基準位置指令生成および出力処理フローチャート
【図4】本発明の実施例の基準位置指令生成方法の詳細フローチャート
【図5】本発明の原点復帰処理フローチャート
【図6】従来のモータ制御装置の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0020】
11,21 パラメータ入力装置
12,22 モータ制御装置
13,23 上位指令装置
111,211 パルス指令処理部
112,212 指令パターン生成部
113 指令切替第1スイッチ
114,214 位置制御部
115,215 速度制御部
116 基準位置指令生成部
117 指令切替第2スイッチ
213 指令切替スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令を出力することによりモータを駆動制御するモータ制御装置であって、入力されたパラメータに基づいて、所定パターンの位置指令を生成する指令パターン生成手段と、該指令パターン生成手段により生成された位置指令または上位指令装置からの位置指令に基づいて速度指令を生成する位置制御手段と、該位置制御手段からの速度指令に基づいてモータを駆動するためのトルク指令を生成する速度制御手段と、を備えたモータ制御装置において、
前記指令パターン生成手段により生成された位置指令によって位置制御を開始するに際して、その開始点となる基準位置を設定し、現在位置から前記基準位置へ移動するための基準位置指令生成手段を備え、該基準位置指令生成手段によって求められた基準位置指令に基づいて、前記現在位置から前記基準位置への移動が完了した後に、前記指令パターン生成手段による位置指令に切り替えて位置制御を開始することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記基準位置指令生成手段は、絶対値エンコーダによって位置フィードバック制御系を構成している場合は、前記絶対値エンコーダで与えられる現在位置と設定された基準位置との差分値を求めて、基準位置指令を生成することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記基準位置指令生成手段は、インクリメンタルエンコーダによって位置フィードバック制御系を構成している場合は、先ず、制御される機械装置の原点位置に移動するための原点復帰動作を実行し、前記原点位置を0とした位置に対する相対的な位置を基準位置としてその差分値を求めて、基準位置指令を生成することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記基準位置はパラメータ入力装置によって前記モータ制御装置に設定され、前記基準位置指令生成手段による位置指令によってモータを駆動しているときには、前記パラメータ入力装置は、前記基準位置指令生成手段による位置制御状態であることを示すための表示手段を有することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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