説明

モータ制御装置

【課題】モータの後段回路がシンプルで低コストな回路である場合でも、モータの動作中に温度等の周辺環境が変化したものとしても、モータの電流信号に含まれるリプル成分を正確に抽出できるようにする。
【解決手段】モータ制御装置1が、駆動されると電流信号に周期的なリプルを発生させるモータ2と、モータの前記電流信号からリプル成分を抽出して、そのリプル成分をパルス化したパルス信号を出力する抽出回路3と、パルス信号を入力するとともに、モータ2を制御する制御部4と、を備える。制御部4が、抽出回路3から入力したパルス信号に基づいてモータ2を定速制御する定速制御処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シート、電動ドアミラー、パワーウィンドウ等には可動部が設けられ、可動部がモータによって駆動される。可動部の位置及び速度を制御装置によって正確に制御するためには、動作中のモータの回転量を検出する必要がある。モータの回転量を検出するべく、センサが用いられる。つまり、センサ(例えば、ホール素子、エンコーダ、リードスイッチセンサ)がモータ等に設けられ、動作中のモータの回転に同期した信号がセンサによって出力され、センサの出力信号が検出回路(例えば、コンパレータやAD変換器)を介して制御装置に入力される。
【0003】
ところが、センサを用いると、コストアップの要因になってしまう。そこで、センサを用いずに、モータの電流信号を利用して、モータの後段回路によってモータの回転位置を検出する技術が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。モータが動作している際には、モータの電流信号には直流成分、低周波成分及び高周波ノイズ等が含まれており、更に、モータの回転に同期した脈動(以下、リプル(ripple)という。)成分も含まれている。特許文献1、特許文献2に記載の技術では、モータの電流信号をモータの後段回路によって処理することによってリプル成分を抽出する。具体的には、後段回路のフィルタによってモータの電流信号のうち直流成分、低周波成分及び高周波ノイズが除去され、リプル成分が通過され、通過されたリプル成分がAD変換器によってパルス信号又はデジタル信号に変換される。モータの電流信号の各成分の周波数が環境変化によって変動するため、後段回路のフィルタには、カットオフ周波数を可変することができるスイッチト・キャパシタ・フィルタを用いる。具体的には、スイッチト・キャパシタ・フィルタを通過した信号が演算回路にフィードバックされ、演算回路がフィードバック信号からカットオフ周波数を演算して、スイッチト・キャパシタ・フィルタのカットオフ周波数を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−9585号公報
【特許文献2】特開2008−283762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、スイッチト・キャパシタ・フィルタのカットオフ周波数が変動すると、スイッチト・キャパシタ・フィルタの減衰率特性も変動する。そのため、リプル成分を適切に抽出するべく、スイッチト・キャパシタ・フィルタの後段の回路、例えば増幅器やA/D変換器のゲインも変動させる必要があり、コストアップを招いてしまう。
また。スイッチト・キャパシタ・フィルタは高価であり、スイッチト・キャパシタ・フィルタを用いる更なるコストアップを招いてしまう。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、モータの後段回路がシンプルで低コストな回路である場合でも、モータの動作中に温度等の周辺環境が変化したものとしても、モータの電流信号に含まれるリプル成分を正確に抽出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するための請求項1に係る発明によれば、
モータ制御装置が、駆動されると電流信号に周期的なリプルを発生させるモータと、前記モータの前記電流信号からリプル成分を抽出して、そのリプル成分をパルス化したパルス信号を出力する抽出回路と、前記パルス信号を入力するとともに、前記モータを制御する制御部と、を備え、前記制御部が、前記抽出回路から入力したパルス信号に基づいて前記モータを定速制御する定速制御処理を実行する。
【0007】
請求項2に係る発明によれば、請求項1において、
前記制御部が実行する前記定速制御処理が、前記パルス信号のパルス周期を計時する第一処理と、前記第一処理で計時したパルス周期を第一閾値及びその第一閾値を上回る第二閾値と比較する第二処理と、前記第二処理で比較した結果、前記第一処理で計時したパルス周期が前記第一閾値未満である場合に、前記モータの設定速度を減速し、前記第一処理で計時したパルス周期が前記第二閾値を超える場合に、前記モータの設定速度を増速する第三処理と、を含む。
【0008】
請求項3に係る発明によれば、請求項1において、
前記制御部が実行する前記定速制御処理が、前記パルス信号のパルス周期を計時することで前記モータの回転速度を算出する第一処理と、前記第一処理で算出した回転速度を第一閾値及びその第一閾値を下回る第二閾値と比較する第二処理と、前記第二処理で比較した結果、前記第一処理で算出した回転速度が前記第一閾値を超える場合に、前記モータの設定速度を減速し、前記第一処理で算出した回転速度が前記第二閾値未満である場合に、前記モータの設定速度を増速する第三処理と、を含む。
【0009】
請求項4に係る発明によれば、請求項1から3の何れか一項において、
前記抽出回路が、前記モータの前記電流信号のうちリプル成分を通過させるバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタによって通過されたリプル成分をパルス化して、そのパルス信号を前記制御部に出力する波形整形部と、を有する。
【0010】
請求項5に係る発明によれば、請求項1から4の何れか一項において、
前記モータ制御装置が、前記制御部によって設定された設定速度に応じた電圧を前記モータに印加するモータドライバを更に備える。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、制御部がモータの回転速度を一定に制御するため、モータの電流信号の各成分の周波数や振幅が変動しにくい。そのため、抽出回路が低コストで簡略な構成の回路であっても、リプル成分が抽出回路によって正確に抽出される。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、モータの回転速度が第一閾値の逆数と第二閾値の逆数の間の範囲内に収まり、モータの回転速度が一定に制御される。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、モータの回転速度が第一閾値と第二閾値の間の範囲内に収まり、モータの回転速度が一定に制御される。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、制御部がモータの回転速度を一定に制御するため、モータの電流信号の各成分の周波数が変動しにくい。そのため、フィルタの周波数特性が可変ではなく固定であっても、モータの電流信号のうちリプル成分がフィルタによって減衰されず、リプル成分がフィルタによって確実に通過され、リプル成分以外の他の成分がフィルタによって除去される。フィルタの周波数特性が固定であれば、フィルタの回路構成を簡略にすることができるとともに、フィルタのコストの削減を図ることができる。
また、モータの電流信号の各成分の振幅も変動しにくいため、フィルタの後段の回路のゲインが可変ではなく固定であっても、リプル成分が波形整形部によって確実にパルス信
号に変換される。よって、フィルタの後段の回路例えば波形整形部の回路構成を簡略にすることができるとともに、フィルタの後段の回路のコストの削減を図ることができる。
【0015】
請求項5に係る発明によれば、モータの動作中にモータに電圧が印加された状態であるから、リプル成分が途切れることがなく発生する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を適用した実施形態に係るモータ制御装置を示したブロック図である。
【図2】モータの電流信号の波形を示したタイミングチャートである。
【図3】モータの電流信号の波形を示したタイミングチャートである。
【図4】モータの動作中にパルス信号のパルス周期を計時する処理の流れを示したフローチャートである。
【図5】モータの動作中にモータの設定速度を更新する処理の流れを示したフローチャートである。
【図6】本発明を適用した変形例に係るモータ制御装置を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
図1は、モータ制御装置1のブロック図である。
モータ制御装置1は、モータ2、抽出回路3、制御部4、記憶部5及びモータドライバ6等を備える。
【0019】
モータ2は、直流モータである。電流がモータ2に流れると、モータ2が回転するとともに、モータ2が周期的なリプル(ripple)を電流に発生させる。モータ2の電流信号について図2及び図3を参照して説明する。図2は、モータ2が駆動される際にモータ2に流れる電流のレベルの変化を示したチャートである。図3は、図2に示されたA部における時間及び電流のスケールを大きくして示したチャートである。
【0020】
図2において、時刻T1はモータ2が起動したタイミングであり、時刻T2はモータ2が安定的に動作し始めるタイミングである。時刻T3は、モータ2によって駆動される可動部がストッパ等に当接して、モータ2の動力を可動部に伝える伝動機構が拘束され始めるタイミングである。時刻T4は、モータ2が停止するタイミングである。
図2及び図3に示すように、モータ2の電流信号は直流成分、リプル成分及び一又は複数の周波成分(交流成分)を含み、周波成分及びリプル成分が直流成分に重畳している。モータ2の電流信号のうち、電流のレベルが急激に変化した高周波成分はノイズである(例えば、符号n参照)。なお、図3は、高周波ノイズ成分がないものとして図示されている。
【0021】
時刻T1から時刻T2までの期間P1では、リプル成分r1と、リプル成分r1よりも周波数が低い低周波成分とが直流成分に重畳している。期間P1のうちモータ2の起動直後では、慣性力の影響により低周波成分の電流レベルが大きく、その後、低周波成分の電流レベルが時間の経過に伴って緩やかに減少する。また、モータ2の起動直後では、低周波成分よりも周波数が高いリプル成分r1の振幅が大きく、その後、リプル成分r1の周波数が時間の経過に伴って漸増するとともに、リプル成分r1の振幅が時間の経過に伴って漸減する。
時刻T2から時刻T3までの期間P2では、リプル成分r2と、リプル成分r2よりも
周波数が低い低周波成分とが直流成分に重畳し、直流成分がほぼ一定で安定し、低周波成分の周波数及び振幅が安定し、リプル成分r2の周波数及び振幅が安定している。リプル成分r2の周波数が低周波成分の周波数よりも高くなるのは、モータ2に内蔵された複数のコイルが巻き線抵抗に差を有するためである。
時刻T3から時刻T4までの期間P3では、モータの電流信号のうち低周波成分の周波数が低くなり、低周波成分の電流レベルが時間の経過とともに漸増する。期間P3では、モータの電流信号のうちリプル成分r3の周波数が時間の経過に伴って漸減し、リプル成分r3の振幅が時間の経過に伴って漸増する。
【0022】
抽出回路3は、以上のようなモータ2の電流信号からリプル成分を抽出して、リプル成分をパルス化し、リプル成分がパルス化されてなるパルス信号を制御部4に出力する。抽出回路3について具体的に説明する。
【0023】
図1に示すように、抽出回路3は、電流電圧変換器10、フィルタ21、増幅器60及び波形整形部70を備える。
【0024】
電流電圧変換器10は、モータ2の電流信号を入力する。電流電圧変換器10は、入力したモータ2の電流信号を電圧信号に変換する。具体的には、電流電圧変換器10が抵抗器11を有し、抵抗器11がグランドとモータ2の間に接続され、モータ2の電流信号が抵抗器11とモータ2の間における電圧信号に変換される。電流電圧変換器10は、変換した電圧信号をフィルタに出力する。なお、電流電圧変換器10は、オペアンプを用いたもの(例えば、負帰還型電流電圧変換器)でもよい。
【0025】
フィルタ21は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号(電流電圧変換器10の出力信号)を入力する。フィルタ21は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうちリプル成分を通過させる。フィルタ21は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうちリプル成分の周波数よりも高い周波数の高周波成分(例えば、高周波ノイズ)を減衰させて、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号から高周波成分を除去する。フィルタ21は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうちリプル成分の周波数よりも低い周波数の低周波成分を減衰させて、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号から低周波成分を除去する。フィルタ21は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号から直流成分を除去する。フィルタ21は、高周波成分、低周波成分及び直流成分を除去した出力信号を増幅器60に出力する。フィルタ21の出力信号には、リプル成分が主に含まれる。
【0026】
フィルタ21はバンドパスフィルタであり、そのバンドパスフィルタの中心周波数がリプル成分の周波数に設定されている。例えば、フィルタ21は、オペアンプを用いた多重帰還型バンドパスフィルタ、複数の抵抗器及び複数のキャパシタを用いたバンドパスフィルタである。なお、コスト削減の観点から、フィルタ21は低カットオフ周波数(フィルタ21のハイパスフィルタ部のカットオフ周波数)及び高カットオフ周波数(フィルタ21のローパスフィルタ部のカットオフ周波数)が固定であるバンドパスフィルタであることが好ましい。
【0027】
増幅器60は、フィルタ21によって出力された出力信号(主にリプル成分)を入力する。増幅器60は、フィルタ21の出力信号を増幅して、それを波形整形部70に出力する。増幅器60は、例えば負帰還型増幅器である。なお、増幅器60はゲイン固定型の増幅器であることが好ましい。
【0028】
波形整形部70は、フィルタ21によって出力された出力信号を増幅器60を介して入力する。波形整形部70がフィルタ21によって出力された出力信号(増幅器60の出力
信号)の波形を矩形波に整形するから、フィルタ21・増幅器60の出力信号に含まれるリプル成分が波形整形部70によってパルス化される。具体的には、波形整形部70がコンパレータを有し、該コンパレータが、フィルタ21によって出力された出力信号(増幅器60の出力信号)を基準電圧と比較することによって、フィルタ21によって出力された出力信号(増幅器60の出力信号)をパルス信号に変換する。波形整形部70は、矩形波に整形されたパルス信号を制御部4に出力する。制御部4は、波形整形部70によって出力されたパルス信号を入力する。
【0029】
モータドライバ6は、制御部4からの指令に従ってモータ2を駆動する。
モータドライバ6は、制御部4から起動指令を受けたらモータ2を起動させる。
モータドライバ6は、モータ2の回転向きを変更する正転・逆転可変型モータドライバである。モータドライバ6は、モータ2の回転向きに関する指令を制御部4から受けたら、モータ2の回転向きをその指令に従った向きにする。
また、モータドライバ6は、モータ2の回転速度を制御する速度可変型のモータドライバである。モータドライバ6は、制御部4から受けた設定速度指令に従ってその設定速度でモータ2を駆動する。具体的には、モータドライバ6は、モータ2の印加電圧を制御することでモータ2の回転速度を制御する電圧制御型のモータドライバである。なお、モータドライバ6が、モータドライバ6がモータ2に出力するパルス信号のデューティー比を変調してモータ2の回転速度を制御するPWM制御型のモータドライバでもよい。
モータドライバ6は、制御部4から停止指令を受けたら、モータ2を停止する。
【0030】
制御部4は、CPU4a及びRAM4b等を有するコンピュータである。CPU4aは、数値計算、情報処理、機器制御等の各種処理を行う。RAM4bは、一時記憶領域としての作業領域をCPU4aに提供する。
【0031】
記憶部5は、制御部4に接続されている。記憶部5は、不揮発性メモリ、ハードディスクといった読み書き可能な記憶媒体である。記憶部5は、一つの記憶媒体からなるものでもよいし、複数の記憶媒体を組み合わせたものでもよい。記憶部5が複数の記憶媒体を組み合わせたものである場合、何れかの記憶媒体がROMであってもよい。
【0032】
記憶部5には、制御部4にとって読み取り可能なプログラム5Zが格納されている。制御部4は、プログラム5Zを読み込んでそのプログラム5Zに従った処理を行ったり、そのプログラム5Zによって各種機能を実現したりする。なお、記憶部5が複数の記憶媒体を組み合わせたものである場合、プログラム5Zが記憶部5のROMに格納されていてもよい。
【0033】
プログラム5Zに基づく制御部4の処理の流れについて説明するとともに、制御部4の処理に伴うモータ制御装置1の動作について説明する。
【0034】
所定の条件が満たされると、制御部4がモータ2を起動させる。具体的には、制御部4が起動指令をモータドライバ6に出力するとともに、モータドライバ6によって駆動されるモータ2の回転速度を初期回転速度に設定する。モータドライバ6は、起動指令を受けるとモータ2に電圧を印加するとともに、モータ2に対する印加電圧を初期回転速度に対応する値に設定する。所定の条件が満たされるとは、例えば、ユーザが起動スイッチをオンにすること、起動センサがオンになること、制御部4によって実行されている処理(例えば、シーケンス処理)で所定の条件が満たされること等である。なお、モータドライバ6がPWM制御型のモータドライバである場合には、モータドライバ6がモータ2に出力するパルス信号のデューティー比を初期回転速に対応する値に設定する。
【0035】
モータ2の動作中では、抽出回路3がモータ2の電流信号からリプル成分を抽出して、
リプル成分をパルス化する。そして、抽出回路3は、リプル成分がパルス化されてなるパルス信号を制御部4に出力する。具体的には、電流電圧変換器10がモータ2の電流信号を電圧信号に変換し、フィルタ21が電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうちリプル成分を通過させ、増幅器60がフィルタ21によって通過されたリプル成分を増幅し、波形整形部70が増幅器60によって増幅されたリプル成分をパルス信号に変換して、そのパルス信号を制御部4に出力する。
【0036】
モータ2の動作中、制御部4が抽出回路3によって出力されるパルス信号のパルス数を計数する。具体的には、制御部4は、抽出回路3によって出力されるパルス信号のパルスを入力するごとに計数値に1を加算することによって計数値を更新する。計数値が、パルス数である。
また、制御部4は、抽出回路3によって出力されるパルス信号のパルスを入力するごとにパルス数(計数値)に基づいてモータ2の回転量を算出する。例えば、制御部4が、計数したパルス数(計数値)に所定の定数を乗ずることで、その積をモータ2の回転量として算出する。
また、抽出回路3によって出力されるパルス信号のパルスを入力するごとにパルス数(計数値)に基づいてモータ2の回転位置を算出する。例えば、制御部4は、計数したパルス数(計数値)に所定の定数を乗ずることで得られた積を所定値に対して加算し、又は減算することで、その和又は差をモータ2の回転位置として算出する。ここでいう所定値とは、モータ2が動作する前のモータ2の初期の回転位置を示すものであり、具体的には、モータ2が所定の原点位置から初期の回転位置まで回転した場合のモータ2の回転量である。
【0037】
モータ2が起動すると、制御部4が抽出回路3から入力したパルス信号に基づいてモータ2を定速制御するので、モータ2が一定の目標速度で回転する。具体的には、モータ2の動作中、制御部4が図4〜図5に示す処理を行うことで、モータ2を定速制御する。
【0038】
モータ2の動作中において、制御部4は、パルス信号のパルスごとにパルス信号のパルス周期を計時する(図4参照)。具体的には、制御部4が、図4に示すような処理を実行することによってパルスの立ち上がりから次のパルスの立ち上がりまでのパルス周期をパルスごとに順次計時する。
【0039】
まず、制御部4は、計時時間をゼロにリセットする(ステップS11)。次に、制御部4は、計時を開始するとともに、抽出回路3の出力パルス信号のパルスが立ち上がるまで計時を継続する(ステップS12、ステップS13:No)。その後、制御部4が抽出回路3の出力パルス信号のパルスの立ち上がりを検出したら(ステップS13:Yes)、制御部4が計時を終了する(ステップS14)。次に、制御部4は計時時間を再びゼロにリセットする(ステップS11)。制御部4は、以上のステップS11〜ステップS14の処理を繰り返すことによって、パルス信号のパルスごとにパルス信号のパルス周期を算出する。なお、制御部4が、算出したパルス周期をRAMや記憶部5に順次記憶することで、算出したパルス周期のデータ列を構築してもよい。
【0040】
制御部4が計時したパルス周期の逆数が、モータ2の回転速度を示す。従って、制御部4がパルスごとにパルス周期を計時する処理(ステップS11〜ステップS14)は、パルスごとにモータ2の回転速度を算出する処理に相当する。
【0041】
制御部4は、パルス周期の計時を終了する毎に(ステップS14の度に)、モータドライバ6によって駆動されるモータ2の設定速度を更新する。具体的には、制御部4が、パルス周期の計時を終了する毎に、図5に示す設定速度更新処理を実行する。
【0042】
図5に示すように、まず、制御部4は、図4のステップS14で計時を終了したパルス周期を取得する(ステップS21)。次に、制御部4は、計時したパルス周期が所定の範囲内に含まれるか否か判定する(ステップS22、ステップS23)。具体的には、制御部4が、計時したパルス周期を第一閾値T_minと比較するとともに(ステップS22)、計時したパルス周期を第二閾値T_maxと比較する(ステップS23)。
【0043】
第一閾値T_minは、第二閾値T_maxを下回る値である(第一閾値T_min<第二閾値T_max)。ここで、モータ2の回転速度を一定の目標速度に定速制御するには、第一閾値T_minはその目標速度の逆数を下回る値に設定され、第二閾値T_maxはその目標速度の逆数を上回る値に設定される。
【0044】
なお、制御部4が計時したパルス周期を第一閾値T_minと比較する処理は、制御部4が算出した回転速度を第一閾値V_maxと比較する処理に相当し、制御部4が計時したパルス周期を第二閾値T_maxと比較する処理は、制御部4が算出した回転速度を第二閾値V_minと比較する処理に相当する。第一閾値V_maxは第一閾値T_minの逆数であり、第二閾値V_minが第二閾値T_maxの逆数であり、第一閾値V_maxが第二閾値V_minを上回る値である(第一閾値V_max>第二閾値V_min)。
【0045】
比較の結果、計時したパルス周期が第一閾値T_min未満である(算出した回転速度が第一閾値V_maxを超える)と制御部4が判定した場合(ステップS22:Yes)、制御部4がモータ2の設定速度を減速する(ステップS24)。具体的には、制御部4が現在のモータ2の設定速度から減分を減算することでその設定速度を更新する。ここで、減分は一定値であってもよいし、更新前の設定速度に応じた値であってもよい。そして、制御部4が更新後の設定速度をモータドライバ6に設定し、モータドライバ6がその設定速度でモータ2を駆動する。つまり、モータドライバ6が電圧制御型のモータドライバである場合には、モータドライバ6がモータ2に対する印加電圧を更新後の設定速度に応じた値に変更する。モータドライバ6がPWM制御型のモータドライバである場合には、モータドライバ6がモータ2に出力するパルス信号のデューティー比を更新後の設定速度に応じた値に変更する。
【0046】
一方、比較の結果、計時したパルス周期が第二閾値T_maxを超える(算出した回転速度が第二閾値V_min未満である)と制御部4が判定した場合(ステップS22:No、ステップS23:Yes)、制御部4がモータ2の設定速度を増速する(ステップS25)。具体的には、制御部4が現在のモータ2の設定速度に増分を加算することでその設定速度を更新する。ここで、増分は一定値であってもよいし、更新前の設定速度に応じた値であってもよい。そして、制御部4が更新後の設定速度をモータドライバ6に設定し、モータドライバ6がその設定速度でモータ2を駆動する。つまり、モータドライバ6が電圧制御型のモータドライバである場合には、モータドライバ6がモータ2に対する印加電圧を更新後の設定速度に応じた値に変更する。モータドライバ6がPWM制御型のモータドライバである場合には、モータドライバ6がモータ2に出力するパルス信号のデューティー比を更新後の設定速度に応じた値に変更する。
【0047】
比較の結果、計時したパルス周期が第一閾値T_min以上第二閾値T_max以下である(算出した回転速度が第二閾値V_min以上第一閾値V_max以下である)と制御部4が判定した場合(ステップS22:No、ステップS23:No)、制御部4がモータ2の設定速度を更新せずに、図5に示す処理を終了する。
【0048】
制御部4が、抽出回路3によって出力されたパルス信号のパルスごとに図4及び図5に示す処理を行うことによって、モータ2の回転速度が目標の速度で一定になる。
【0049】
以上に述べたことがモータ制御装置1の動作の説明である。図1に示されたモータ制御装置1は、例えば車両用シート装置に用いられる。その車両用シート装置は、図1に示されたモータ制御装置1と、図6に示されたシート本体90を備え、シート本体90の可動部がモータ2によって駆動される。
【0050】
シート本体90の可動部の数とモータ2の数が同数であることが好ましく、モータ2の数が複数である場合、モータドライバ6及び抽出回路3がモータ2ごとに設けられ、制御部4及び記憶部5が全てのモータ2に共通している。なお、モータ2の数が複数である場合、モータドライバ6及び抽出回路3の数がそれぞれ1であってもよい。その場合、リレー回路が設けられ、リレー回路が制御部4からの指令に従って複数のモータ2のうちの何れか一つを選択する。そして、そのリレー回路が選択したモータ2を抽出回路3及びモータドライバ6に接続するとともに、他を抽出回路3及びモータドライバ6から遮断する。
【0051】
シート本体90について具体的に説明する。シート本体90はレール91、シートボトム92、バックレスト93、ヘッドレスト94、アームレスト95及びレッグレスト96等を備える。
【0052】
シートボトム92がレール91の上に搭載され、シートボトム92がレール91よって前後方向に移動可能に設けられており、モータ2がシートボトム92を前後方向に駆動する。シートボトム92の前部が昇降可能に設けられ、別のモータ2がシートボトム92の前部を上下方向に駆動する。シートボトム92の後部が昇降可能に設けられ、別のモータ2がシートボトム92の後部を上下方向に駆動する。バックレスト93がリクライニング機構によってシートボトム92の後端部に回転可能に連結され、別のモータ2がバックレスト93をシートボトム92に対して起伏させる。ヘッドレスト94がバックレスト93の上端部に昇降可能・回転可能に連結され、別のモータ2がヘッドレスト94を上下方向に駆動し、更に別のモータ2がヘッドレスト94を前後に起伏させる。アームレスト95がバックレスト93の側面に回転可能に連結され、別のモータ2がアームレスト95を水平状態から垂直状態に及びその逆に駆動する。レッグレスト96がシートボトム92の前端部に回転可能に連結され、別のモータ2がレッグレスト96を跳ね上げ状態から垂下状態に又はその逆に駆動する。
【0053】
本発明の実施の形態は、以下のような効果を奏する。
(1) 制御部4がモータ2の回転速度を一定に制御するため、モータ2の電流信号の各成分(低周波成分、リプル成分、高周波ノイズ成分等)の周波数が変動しにくい。そのため、フィルタ21の周波数特性が可変ではなく固定であっても、モータ2の電流信号のうちリプル成分がフィルタ21によって減衰されず、リプル成分がフィルタ21によって確実に通過され、リプル成分以外の成分がフィルタ21によって除去される。フィルタ21の周波数特性が固定であるから、フィルタ21の回路構成を簡略にすることができるとともに、フィルタ21のコストの削減を図ることができる。
(2) 制御部4がモータ2の回転速度を一定に制御するため、モータ2の電流信号の各成分(低周波成分、リプル成分、高周波ノイズ成分等)の振幅が変動しにくい。そのため、増幅器60や波形整形部70のゲインが可変ではなく固定であっても、リプル成分が波形整形部70によって確実にパルス信号に変換される。よって、増幅器60や波形整形部70の回路構成を簡略にすることができるとともに、増幅器60や波形整形部70のコストの削減を図ることができる。
(3) モータドライバ6が電圧制御型のモータドライバであれば、モータ2の動作中にモータ2に電圧が印加された状態であるから、リプル成分が途切れることがなく発生する。そのため、パルス信号のパルス数を計数することで、モータ2の回転量を正確に算出することができるとともに、モータ2の定速制御を正確に行える。
【0054】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。
【0055】
〔変形例1〕
抽出回路3は一例であり、上述の実施形態の回路に限るものではない。例えば、図6に示すように、フィルタ21の代わりに、ハイパスフィルタ20、バンドパスフィルタ30、フィルタ40及び差動増幅器50を用いてもよい。
【0056】
ハイパスフィルタ20は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号を入力する。ハイパスフィルタ20は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうち高周波成分を通過させ、低周波成分を減衰させる。つまり、ハイパスフィルタ20は、電流電圧変換器10によって変換された電圧信号のうち直流成分を除去する。ハイパスフィルタ20は、低周波成分が減衰した信号をバンドパスフィルタ30に出力する。なお、ハイパスフィルタ20は、リプル成分も通過させる。
【0057】
バンドパスフィルタ30は、ハイパスフィルタ20の出力信号を入力する。バンドパスフィルタ30はハイパスフィルタ20の出力信号のうち所定周波数帯域の成分を通過させ、その所定周波数帯域外の成分を減衰させる。つまり、バンドパスフィルタ30は、ハイパスフィルタ20の出力信号のうち高周波ノイズ成分を除去するとともに、ハイパスフィルタ20によって除去しきれなかった低周波成分を除去する。バンドパスフィルタ30は、所定周波数帯域外の成分を減衰させた信号をフィルタ40及び差動増幅器50に出力する。なお、バンドパスフィルタ30は、リプル成分も通過させる。
【0058】
フィルタ40は、バンドパスフィルタ30の出力信号を入力する。フィルタ40はローパスフィルタ、ハイパスフィルタ又はバンドパスフィルタである。フィルタ40がローパスフィルタである場合、フィルタ40のカットオフ周波数がリプル成分の周波数よりも低く設定されている。フィルタ40がハイパスフィルタである場合、フィルタ40のカットオフ周波数がリプル成分の周波数よりも高く設定されている。フィルタ40がバンドパスフィルタである場合、フィルタ40の高カットオフ周波数(フィルタ40のローパスフィルタ部のカットオフ周波数)がリプル成分の周波数よりも低く設定されているか、又はフィルタ40の低カットオフ周波数(フィルタ40のハイパスフィルタ部のカットオフ周波数)がリプル成分の周波数よりも高く設定されている。そのため、フィルタ40は、リプル成分を減衰させる。フィルタ40は、リプル成分を減衰させた信号を差動増幅器50に出力する。
【0059】
差動増幅器50は、バンドパスフィルタ30の出力信号を介して入力するとともに、フィルタ40の出力信号を入力する。差動増幅器50は、入力したフィルタ40の出力信号と、バンドパスフィルタ30の出力信号の差分を取って、その差分を増幅する。差動増幅器50は、その差分を表す差分信号を増幅器60に出力する。フィルタ40によってリプル成分が減衰されたから、差動増幅器50によって出力される差分信号はリプル成分を含む信号である。
【0060】
〔変形例2〕
モータ制御装置1が電動ドアミラー装置に組み込まれ、電動ドアミラー装置の可動部(例えば、ドアに対してミラーハウジングの格納及び展開をする格納機構、ミラーハウジングに対してミラーを上下に振るチルト機構、ミラーハウジングに対してミラーを左右に振るパン機構)がモータ制御装置1のモータ2によって駆動されてもよい。モータ制御装置1がパワーウィンドウ装置に組み込まれ、パワーウィンドウ装置の可動部(例えば、ウィ
ンドウレギュレター)がモータ2によって駆動されてもよい。
【0061】
【符号の説明】
【0062】
1 モータ制御装置
2 モータ
3 抽出回路
4 制御部
5 記憶部
21 フィルタ
60 増幅器
70 波形整形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動されると電流信号に周期的なリプルを発生させるモータと、
前記モータの前記電流信号からリプル成分を抽出して、そのリプル成分をパルス化したパルス信号を出力する抽出回路と、
前記パルス信号を入力するとともに、前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部が、前記抽出回路から入力したパルス信号に基づいて前記モータを定速制御する定速制御処理を実行する、モータ制御装置。
【請求項2】
前記制御部が実行する前記定速制御処理が、
前記パルス信号のパルス周期を計時する第一処理と、
前記第一処理で計時したパルス周期を第一閾値及びその第一閾値を上回る第二閾値と比較する第二処理と、
前記第二処理で比較した結果、前記第一処理で計時したパルス周期が前記第一閾値未満である場合に、前記モータの設定速度を減速し、前記第一処理で計時したパルス周期が前記第二閾値を超える場合に、前記モータの設定速度を増速する第三処理と、を含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
記制御部が実行する前記定速制御処理が、
前記パルス信号のパルス周期を計時することで前記モータの回転速度を算出する第一処理と、
前記第一処理で算出した回転速度を第一閾値及びその第一閾値を下回る第二閾値と比較する第二処理と、
前記第二処理で比較した結果、前記第一処理で算出した回転速度が前記第一閾値を超える場合に、前記モータの設定速度を減速し、前記第一処理で算出した回転速度が前記第二閾値未満である場合に、前記モータの設定速度を増速する第三処理と、を含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記抽出回路が、
前記モータの前記電流信号のうちリプル成分を通過させるバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタによって通過されたリプル成分をパルス化して、そのパルス信号を前記制御部に出力する波形整形部と、を有する、請求項1から3の何れか一項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記制御部によって設定された設定速度に応じた電圧を前記モータに印加するモータドライバを更に備える、請求項1から4の何れか一項に記載のモータ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−205378(P2012−205378A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−67059(P2011−67059)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】