説明

モータ制御装置

【課題】位置センサレスのモータ制御装置において、誤検出が低減で飢渇高精度の欠相検出手段を提供すること。
【解決手段】同期モータ3を駆動するための3相交流電圧を出力するインバータ主回路2と、同期モータの各相に流れる電流を検出する電流検出手段6を備えたモータ制御装置において、所定の指令値により同期モータを運転する同期運転モードと、位置フィードバックによる運転モードとを備え、同期運転モード中に前記電流検出手段で検出した電流値に基づいて欠相を検出する欠相検出手段10を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアコンや換気扇、ポンプなどに用いられるモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアコンや換気扇などのファンモータは、位置センサを備えており、前記位置センサの位置情報に基づき、欠相異常と判断することができる。
【0003】
また、特許文献1に、従来のモータ制御装置の欠相検出方法が開示されている。従来例では、起動から所定時間経過後に、任意の相のモータ電流の最大値を判定し、所定時間の間連続して基準値以下のときに欠相と判定している。またモータの相電流が、不平衡な場合でも欠相を誤検出しない方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−189199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
位置センサを備えたモータにおいて、1相のみの欠相の場合は、モータが回転することがあるため、位置情報では、欠相を検出できずに欠相状態のまま駆動し続けるという問題があった。仮に、欠相状態のまま、駆動し続けると、騒音の問題や3相インバータの特定出力デバイスへの負担が増加し破壊に至る怖れがある。
【0006】
また、特許文献1のモータ制御装置の場合、モータ電流の最大値の情報に基づき判定を行うため、負荷が小さい場合にモータ電流が小さくなり、誤検出しモータを停止してしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を考慮してなされたものであり、欠相の誤検出が低減でき、検出精度を向上できるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明によるモータ制御装置は、同期モータを駆動するための3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記同期モータの各相に流れる電流を検出する電流検出手段を備えたモータ制御装置において、所定の指令値により前記同期モータを運転する同期運転モードと、位置フィードバックによる運転モードとを備え、前記同期運転モード中に前記電流検出手段で検出した電流値に基づいて欠相を検出する欠相検出手段を有する。
【0009】
また、本発明によるモータ制御装置は、同期モータを駆動するための3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記モータの各相に流れる電流を検出する電流検出手段を備えたモータ制御装置において、前記3相交流電圧の指令値を演算するための電流指令値が所定値より大きい場合に、前記電流検出手段で検出した電流値に基づいて欠相を検出する欠相検出手段を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、位置センサレスのモータ制御においても確実に欠相を検出することができる。また、欠相状態にも関わらず、モータが回転した場合でも欠相を検出することができ、負荷が小さい場合にも欠相の誤検出を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施例であるモータ制御装置のブロック図。
【図2】直流電流からモータ電流を再現する方法を説明するための波形図。
【図3】モータ制御部のブロック構成図。
【図4】各運転モードへの遷移を説明するための簡略図。
【図5】モータ電流と閾値の関係を説明するための簡略図。
【図6】欠相検出手段の処理フロー図。
【図7】本発明の第2の実施例であるモータ制御装置のブロック図。
【図8】本発明の第3の実施例であるモータ制御装置のブロック図。
【図9】本発明の第4の実施例であるモータ制御装置の全体構成図。
【図10】本発明の第5の実施例における欠相検出動作条件を説明するための簡略図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本発明の第1の実施例であるモータ制御装置の全体構成を示すブロック図である。本実施例のモータ制御装置は、エアコンの室内機および室外機、換気扇または空気清浄機などに用いられるファンモータの制御装置に適用できる。
【0014】
また、圧縮機やポンプでは構造的、環境的に位置センサを付けられない場合がある。このような用途に対しても、本実施例では、確実で低コストな欠相検出手段を提供する。
【0015】
<全体構成の説明>
図1において、直流電源1は、インバータ主回路2に電力を供給する、例えば、約141[V]〜約450[V]の高電圧であり、例えば、商用電源からの交流電圧を整流・平滑するコンバータやバッテリから得られる。インバータ主回路2は、直流入力端子間に各相2個のスイッチング素子(T1〜T3とT4〜T6)をそれぞれ直列接続し、それらの直列接続点を3相交流端子とする。ここで、T1はU相上アームスイッチング素子、T2はV相上アームスイッチング素子、T3はW相上アームスイッチング素子、T4はU相下アームスイッチング素子、T5はV相下アームスイッチング素子、T6はW相下アームスイッチング素子である。スイッチング素子T1〜T6としては、IGBTやMOSFETあるいはバイポーラトランジスタなどの公知の半導体スイッチング素子が用いられる。
【0016】
各スイッチング素子T1〜T6には、それぞれ、逆並列に還流ダイオードD1〜D6が接続されている。ここで、D1はU相上アーム還流ダイオード、D2はV相上アーム還流ダイオード、D3はW相上アーム還流ダイオード、D4はU相下アーム還流ダイオード、D5はV相下アーム還流ダイオード、D6はW相下アーム還流ダイオードである。ダイオードD1〜D6としては、pn接合ダイオードやショットキーバリアダイオードなどの公知の半導体ダイオードが用いられる。また、スイッチング素子T1〜T6がダイオードD1〜D6を内蔵しても良い。
【0017】
このインバータ主回路2は、直流電源1から供給される電力と、ゲート駆動回路4からのゲート駆動信号に基づき、3相交流電圧を作り、同期モータ3へ供給する。ゲート駆動信号は、制御部5から出力された駆動信号に応じて生成される。
【0018】
同期モータ3は、インバータ主回路2から与えられる交流電力によって回転駆動され、機械的負荷200を駆動する。機械的負荷200としては、エアコン、換気扇または空気清浄機などに用いられるファン、送風機、圧縮機駆動装置やポンプなどがある。なお、本実施例においては、同期モータ3として、永久磁石モータ(PMモータ)が用いられる。
【0019】
制御部5は、例えば、マイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す)、ディジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)などにより実現できる。なお、本実施例では、マイコンが用いられている。
【0020】
<電流検出手段の説明>
図1に示すように、電流検出手段6は、インバータ直流母線のシャント抵抗7と、シャント抵抗7に流れるインバータ入力直流電流IDCを検出する電流検出回路8と、電流検出回路8で検出したインバータ入力直流電流IDCから3相交流電流(Iu,Iv,Iw)を再現するモータ電流再現演算器9によって構成される。再現した3相交流電流(Iu,Iv,Iw)は、欠相検出手段10、及びモータ制御部11へ出力される。
【0021】
インバータ入力直流電流IDCを検出する電流検出回路8は、例えば、シャント抵抗7の両端の電圧をオペアンプなどの演算増幅器で増幅する。制御部5では、入力した信号を、マイコン内蔵のA/D変換器でディジタル値に変換して使用する。
【0022】
インバータ直流母線のシャント抵抗7は、一般に、過電流保護のために備えている場合が多い。その場合は、新たに電流検出のためのシャント抵抗を付加する必要が無く、部品点数の削減や省スペース化が可能となる。また、シャント抵抗7と電流検出回路8は、後述の位置センサレスモードと欠相検出のための電流検出で兼用が可能なため、欠相検出のために特別な回路を必要としない。
【0023】
次に、電流検出回路8で検出したインバータ入力直流電流IDCから3相交流電流(Iu,Iv,Iw)を再現するモータ電流再現演算器9について図2を用いて説明する。図2には、基準三角波100、各相の電圧指令信号(101a,101b,101c)、各相のインバータ駆動信号となるPWMパルス信号(22a,22b,22c)と、各相の入力電流(102a〜102d)と、シャント抵抗7に流れるインバータ入力直流電流IDCを示す。図2を見て分かるように、インバータ入力直流電流IDCは、各相のスイッチング素子の状態に応じて変化する。図2において、各相スイッチング素子の駆動信号(22a,22b,22c)は、Highレベルの時に各相の上アームをオンしており、Lowレベルの時に各相の下アームをオンしているということを意味する。実際には、各相の上アームおよび下アームにそれぞれ独立のPWMパルス信号を与え、スイッチング動作を制御しているが、図2においては、簡易的に示している。また、図2においては、説明のためデッドタイムを設けていない図となっているが、実際には、各相の上下アームが短絡しないよう、デッドタイムを設けている。
【0024】
図2において、W相のみ下アームがオンとなっていてU相とV相の上アームがオンしている区間AおよびDでは、逆極性のW相入力電流を観測することができる。また、V相とW相の下アームがオンしていてU相のみ上アームがオンしている区間BおよびCにおいては、同極性のU相入力電流を観測することができる。
【0025】
このように、各相のスイッチング素子の状態に応じて変化するインバータ入力直流電流IDCをA〜D区間において観測し、各区間のインバータ入力直流電流IDCを組み合わせることで、3相交流のモータ電流を再現することができる。
【0026】
<モータ制御部の説明>
次に、図3を用いてモータ制御部について説明する。
【0027】
モータ制御部11は、電流検出手段6において検出したモータの各相の電流(Iu,Iv,Iw)を推定磁極位置θdcを用いて、3相軸から制御軸へ座標変換してd軸検出電流Idcおよびq軸検出電流Iqcを求める3φ/dq変換器15と、後述の位置センサレスモード時のq軸電流指令Iq*をIqcから作成するための一次遅れフィルタ16と、d軸検出電流Idcおよびq軸検出電流Iqcとd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を入力して、同期モータ3の回転子の実回転位置(実回転座標軸)と仮想回転位置(制御軸)との位置誤差(軸誤差Δθc)を演算する軸誤差演算器17と、軸誤差Δθcと軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)との差を減算器18で求め、これがゼロになるようにインバータ周波数ω1を調整するPLL制御器19と、後述の位置決めモード及び同期運転モードと位置センサレスモードとを切り替える制御切替スイッチ(20aおよび20b)と、Id*およびIq*とインバータ周波数指令値ω1*とを用いてベクトル演算を行いVd*およびVq*を出力する電圧指令演算器13と、Vd*およびVq*を制御軸から3相軸へ座標変換してモータ信号形成部に出力する3相電圧指令値(Vu*,Vv*,Vw*)を求めるdq/3φ変換器14と、インバータ周波数ω1を積分して推定磁極位置θdcを出力する積分器21とで構成される。
【0028】
モータ制御部11は、モータ制御部11の外部から入力される速度指令値(インバータ周波数指令値)ω1*が示す回転数近辺でモータが回転するように、モータに出力する3相電圧指令値を演算する。演算式について、以下で簡単に説明する。
【0029】
電圧指令演算器13で演算するVd*,Vq*は、式(1),(2)で与えられる。
Vd*=r・Id*−ω1*・Lq・Iq* ・・・・・・(1)
Vq*=r・Iq*+ω1*・Ld・Id*+ω1*・Ke ・・・・・・(2)
ここで、r:巻線抵抗、Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス、Ke:発電定数、である。
【0030】
dq/3φ変換器14では、式(3)〜(7)を用いて、Vd*,Vq*を3相電圧指令値に座標変換する。
【0031】
Vu*=V1×cosθv ・・・・・・(3)
Vv*=V1×cos(θv−2/3π) ・・・・・・(4)
Vw*=V1×cos(θv+2/3π) ・・・・・・(5)
ここで、
θv=δ+π/2+θd ・・・・・・(6)
δ=tan−1(−Vd*/Vq*) ・・・・・・(7)
軸誤差演算器17は、d軸検出電流Idcと、q軸検出電流Iqcと、電圧指令演算器13からのVd*およびVq*とを用いて軸誤差Δθcを算出する。軸誤差Δθcは、減算器18において予め設定された軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)から減算され、この減算値(差分)がPLL制御器19によって比例制御されることで検出周波数ωpllが得られる。後述の位置センサレスモードでは、この検出周波数ωpllをインバータ周波数ω1とし、これを積分器21で積分することで同期モータ3の磁極位置を推定することができる。この推定による推定磁極位置θdcはdq/3φ変換器14と3φ/dq変換器15に入力され、各ブロックの演算に用いられる。
【0032】
すなわち、本実施例におけるモータ制御部11においては、同期モータ3の回転子の実回転座標軸と制御軸との軸誤差Δθcを算出し、算出した軸誤差Δθcがゼロになるように、言い換えれば、制御軸が同期モータ3の回転子の実回転座標軸と同一になるようにインバータ周波数ω1をPLL(Phase Locked Loop)法を用いて補正し、磁極位置を推定することとしている。
【0033】
<モータ起動の基本動作の説明>
同期モータ3を起動する際の基本動作について説明する。図4は、同期モータ3が停止している状態から起動する際の各運転モードの遷移を示した簡略図である。同期モータ3の運転モードとしては、任意の相のモータ巻線に、徐々に直流電流を流して同期モータ3の回転子をある位置に固定する位置決めモードと、外部制御装置などから与えられる所定値あるいは所定パターンのd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*および周波数指令ω*にしたがって同期モータ3に印加する電圧を決定する、すなわち位置(本実施例では推定位置)フィードバックを行わない同期運転モードと、軸誤差Δθcがゼロになるようにインバータ周波数ω1を調整する、すなわち位置フィードバックによる位置センサレスモード、の3つのモードがある。
【0034】
これらの運転モードは、d軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*、インバータ周波数ω1のうちいずれかを変更、もしくは、モータ制御部11内の制御切替スイッチ(20aおよび20b)を切り替えることによって別の運転モードへ遷移する。なお、制御切替スイッチ(20aおよび20b)は、特に断りがない限り2つとも同時に切り替わる。
【0035】
位置決めモードでは、同期モータ3に直流を流すためにインバータ周波数指令値ω1*はゼロとする。
【0036】
位置決めモードが終了後、同期運転モードへ遷移する。制御切替スイッチ(20aおよび20b)はA側のままである。同期運転モードでは、d軸電流指令値Id*を一定値のままとし、インバータ周波数指令値ω1*を増加させる。ここで、q軸電流指令値Iq*はIq0*(例えば、図4のように0)に設定される。これにより、同期モータ3はインバータ周波数指令値ω1*に追従して加速する。その後、位置センサレスが可能になる周波数になった時点で加速を停止し、所定期時間一定速度にする。
【0037】
前記所定時間経過後、制御切替スイッチ(20aおよび20b)をB側にして位置センサレスモードへ遷移する。これにより、q軸電流指令値(Iq*)は、q軸検出電流Iqcを一次遅れフィルタ16に通したものへ切り替わると共に、軸誤差Δθcと軸誤差指令値Δθ*(通常はゼロ)との差がゼロになるようにPLL制御器19がインバータ周波数ω1を調整する。
【0038】
ここで、図4および上記説明は一例であり、d軸電流指令Id*、q軸電流指令Iq*、周波数指令値ω1*は負荷や用途に応じて、値や変化の仕方は異なってもよい。
【0039】
モータが停止している状態からの起動では、位置決めモードから開始する。しかしながら、ファンモータ等では、慣性が大きいためにインバータ停止後に再起動する際にモータが回転していたり、外風でモータが回転している状態から起動する場合がある。この場合、モータが停止するまで待つと起動に時間がかかる問題がある。また、外風が強い場合には、位置決めでモータを停止させるのに必要な電流が大きくなり、モータを停止できない場合がある。このため、ファンモータ等では、起動前にモータが回転している場合に、位置決めモードを用いず同期運転モードから起動する場合がある。本実施例では、同期運転モード中に欠相検出をするため、このような場合でも欠相を検出することができる。ここで、起動前の回転数や磁極位置を検出する方法としては、逆起電力から位相信号を生成する公知の方法がある(例えば、特開2005−137106号公報参照)。
【0040】
また、圧縮機のように必ずモータが停止している状態から起動する用途においても、同期運転モード中に欠相を検出することにより、位置センサレスモードに遷移する前に欠相を検出するため、早期に欠相を検出することができる。
【0041】
<欠相検出動作の説明>
欠相の検出動作について説明する。欠相検出手段は、同期運転モードにおいて、モータ各相の電流が流れていないときにその相は欠相していると判断する。本実施例では、電流検出手段6から出力される各相の電流の絶対値が所定時間Ta連続で閾値以下の場合にその相は欠相と判断する。
【0042】
ここで、各相の電流は交流量であり、図5に示すように欠相状態でなくても閾値以下となる期間があるため、欠相を検出する所定時間Taは、インバータ周期(2π/ω1*)を考慮して決める。例えば、Taは、インバータ周期に設定すればよいが、本実施例のように電流の絶対値から欠相を判断する場合は、インバータ周期の半周期に設定することができる。このため、所定の速度範囲で欠相を検出することにより、欠相検出期間中のインバータ周波数指令値ω1*を限定してTaの設定ができる。
【0043】
さらに、同期運転モードに設けられた一定速度期間中に欠相検出をすることにより、ω1*をさらに特定することができ、Taをより最適に設定できる。
【0044】
また、同期運転モードから位置センサレスモードへ切り替わる直前の所定期間中に欠相検出をすることにより、同期運転モード中で最も高いインバータ周波数で欠相を検出することになり、低いインバータ周波数で検出する場合よりもTaを短く設定することが可能となる。
【0045】
以上のように同期運転モードで欠相を検出することにより、負荷が小さい場合であっても、所定のd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*によるd軸電流Id、q軸電流Iqが流れるため、欠相と誤検出しない。
【0046】
1相でも欠相と判断された場合には、モータを正常に駆動できない可能性があるため、3相インバータの交流電圧出力を停止する。停止することで、騒音の問題や、3相インバータの特定出力デバイスへの負担が増加して破壊に至ることを防ぐことができる。
【0047】
さらに、所定時間経過後にモータ駆動を再起動することにより、欠相を誤検出した場合にも自動で運転を継続することができる。
【0048】
<ソフト処理フローの説明>
制御部5を実現したマイコン内部の処理の一例について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0049】
図6は、本実施例の欠相検出手段における欠相検出処理を実行するフローチャートを示したものである。本処理は、電流検出手段が出力する電流値が更新される周期、またはそれよりも遅い一定周期で実行される。
【0050】
まず、同期運転モードかどうかを判定する(ステップS1)。
この判断ステップS1において、同期運転モードではなかった場合には、U相,V相,W相それぞれの欠相検出用カウンタKu,Kv,Kwに0を設定する(ステップS2)。判断ステップS1において、同期運転モードだった場合には、電流検出手段から出力されるU相のモータ電流Iuの絶対値|Iu|が閾値Ijを超えているか否かが判定される(ステップS3)。
【0051】
この判断ステップS3において、|Iu|がIjを超えてない場合にはU相欠相検出用カウンタNuが1つインクリメントされ(ステップS4)、インクリメント後の値が判定値Mより小さいか否かが判定される(ステップS5)。判断ステップS3において、|Iu|がIjを超えている場合には、Nuに0を設定する(ステップS6)。
【0052】
判断ステップS5において、NuがM以上の場合は欠相と判断し、欠相検出時処理を実施する(ステップS7)。ステップS7では、運転停止や保護用の処理などを実施する。
【0053】
以上U相用の処理(ステップS3〜S6)にて、欠相と判断されなかった場合には、V相の欠相判断を実施し、V相でも欠相と判断されなかった場合には、W相の欠相判断を実施する。V相とW相の欠相判断処理(ステップS8〜S11,S12〜S15)はU相と同様であるため、説明は省略する。
【実施例2】
【0054】
本発明の第2の実施例であるモータ制御装置について図7を用いて説明する。実施例1と異なる点は、モータに流れる各相の電流(Iu,Iv,Iw)を求める電流検出手段の構成である。
【0055】
図7に示すように、電流検出手段は、モータに流れる各相の電流をホールCT等の電流センサ(22aおよび22b)を用いてモータへの配線部で検出する。3相全てセンサで検出しても良いが、本実施例では、U相,W相の電流(Iu,Iw)をセンサで検出し、検出した2相の電流値から、V相の電流値を検出電流演算器23で演算する。式(9)は、V相の電流値Ivを求める演算式である。
【0056】
Iv=−(Iu+Iw) ・・・・・・(9)
モータに流れる各相の電流を電流センサを用いてモータへの配線部で検出することにより、広い運転範囲で常時確実にモータ電流を検出することができる。
【実施例3】
【0057】
本発明の第3の実施例であるモータ制御装置について図8を用いて説明する。実施例2と異なる点は、モータに流れる各相の電流(Iu,Iv,Iw)を求める電流検出手段の構成である。
【0058】
図8に示すように、電流検出手段は、モータに流れる各相の電流をインバータ主回路の下アームスイッチング素子とインバータ直流母線との間に設けられたシャント抵抗(24a,24b)に流れる電流を電流検出回路8で検出する。電流検出回路8は、実施例1と同様に、例えば、シャント抵抗(24a,24b)の両端の電圧をそれぞれオペアンプなどの演算増幅器で増幅する。以降は実施例2と同様であるため、説明を省略する。
【0059】
以上のように、モータに流れる各相の電流を、ホールCTを使用せず、インバータ主回路の下アームスイッチング素子とインバータ直流母線との間に設けられたシャント抵抗に流れる電流から検出することにより、実施例2よりも低コストに電流検出が可能である。また、下アームのスイッチング素子がオンしていればその相の電流検出が可能であるため、実施例1よりも電流検出可能な運転領域が広い。
【実施例4】
【0060】
本発明の第4の実施例であるモータ制御装置について図9を用いて説明する。
本実施例では図9に示すように、欠相検出手段において、1相でも欠相と判断された場合には、シリアル通信やディジタル信号またはアナログ信号等により上位制御装置25へ欠相検出したことを通知する。これにより、上位制御装置25側で欠相検出したことを認識でき、適切な対応をすることが可能となる。また、モータ制御装置外部への欠相検出の通知はLED表示やディスプレイ表示等でもよく、この場合は使用者がモータが停止した原因を認識することができ、適切な対応をすることができる。
【実施例5】
【0061】
第5の実施例であるモータ制御装置について図10を用いて説明する。
本実施例では、センサレス運転モードにおいても、図10に示すようにd軸電流指令値Id*、q軸電流指令値Iq*が所定値より大きい場合に欠相検出をする。所定値と比較する電流指令はId*,Iq*に限らず、例えばId*とIq*を合成した電流指令I1*と所定値を比較してもよい。所定値は、比較する電流指令により値は同じでも異なってもよい。
【0062】
また、センサレス運転モードにおいて、Id*,Iq*が所定値を超えない状態が継続することが予想される場合には、定期的にId*へ所定値を超える電流を流すことにより、定期的に欠相検出を動作させることができる。
【0063】
以上により、センサレス運転モードで負荷が小さい場合においても誤検出しない欠相検出を可能とする。センサレス運転モードで欠相検出ができると、同期運転モード後の運転中に欠相となった場合に、次の起動を待たなくても欠相を検出することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 直流電源
2 インバータ主回路
3 同期モータ
4 ゲート駆動回路
5 制御部
6 電流検出手段
7 シャント抵抗
8 電流検出回路
9 モータ電流再現演算器
10 欠相検出手段
11 モータ制御部
12 駆動信号形成部
13 電圧指令演算器
14 dq/3φ変換器
15 3φ/dq変換器
16 一次遅れフィルタ
17 軸誤差演算器
18 減算器
19 PLL制御器
20a,20b 制御切替スイッチ
21 積分器
200 機械的負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同期モータを駆動するための3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記モータの各相に流れる電流を検出する電流検出手段を備えたモータ制御装置において、
所定の指令値による同期運転モードと、位置フィードバックによる運転モードを備え、
前記同期運転モード中に前記電流検出手段で検出した電流値に基づいて欠相を検出する欠相検出手段を有することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段は、前記同期運転モードに設けられた一定速度期間中に欠相を検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段は、前記同期運転モードから前記位置フィードバックによる運転モードへ切り替える前の所定期間中に欠相を検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項4】
同期モータを駆動するための3相交流電圧を出力する3相インバータと、前記モータの各相に流れる電流を検出する電流検出手段を備えたモータ制御装置において、
前記3相交流電圧の指令値を演算するための電流指令値が所定値より大きい場合に、前記電流検出手段で検出した電流値に基づいて欠相を検出する欠相検出手段を有することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段は、所定の速度範囲で欠相検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記電流検出手段は、インバータ直流母線のシャント抵抗に流れる電流からモータの各相に流れる電流を検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記電流検出手段は、インバータの3相のうち2相または3相の下アームスイッチング素子とインバータ直流母線負側との間に設けられたシャント抵抗に流れる電流からモータの各相に流れる電流を検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記電流検出手段は、モータの各相に流れる電流を電流センサを用いて検出することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段によって欠相と判断した場合に3相インバータの交流電圧出力を停止することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段によって欠相と判断した場合に3相インバータの交流電圧出力を停止し、所定時間経過後にモータ駆動を再起動することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のモータ制御装置において、前記欠相検出手段によって欠相と判断した場合にモータ制御装置外部へ欠相検出を通知することを特徴としたモータ制御装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のモータ制御装置を用いた送風機。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のモータ制御装置を用いた圧縮機駆動装置。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか一項に記載のモータ制御装置を用いたポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−106424(P2013−106424A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248183(P2011−248183)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】