説明

モータ駆動制御装置及び方法

【課題】高価な光学式エンコーダを用いることなくモータ転流駆動用の磁気センサを利用しより多くの位相検出を行う。
【解決手段】複数相のコイルを有するモータの回転子の回転位置に応じた信号レベルを有する複数のセンサ信号に基づいて位相情報信号を発生してモータを駆動制御するモータ駆動制御装置において、センサ信号を所定の複数のしきい値レベルと比較して位相を検出し、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力し、検出された位相を所定の複数の位相区間に分け、所定の複数の位相区間において複数のセンサ信号又はそれに対応する複数の信号の中から一つを選択し、分割された複数の位相区間において選択されたセンサ信号又はそれに対応する信号の信号レベルが回転子の所定の位相に応じた所定のしきい値レベルに到達したことを検出することにより、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの回転子の位相を検出する位相検出装置、及びそれを利用してモータを回転駆動するモータ駆動制御装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを回転位置制御する場合、回転子の回転角度を検出する必要がある。一般に回転軸にロータリーエンコーダを接続して、回転角度に応じて変化する1/4周期の位相差を有する2相パルス信号を出力し、そのエッジ検出と2相のハイ/ロー状態から相対的な回転角度を検出することができる。
【0003】
光学式エンコーダは、外周部に光学窓となるスリットを等間隔に設けた円盤と、円盤のスリットピッチの1/4間隔で配置された2個のフォトインタラプタにより構成され、前記2つのフォトインタラプタの出力信号を2値化することにより、2相パルス信号を得ることができる。
【0004】
また、特許文献1に記載のモータ駆動制御装置においては、光学式エンコーダを用いることなくモータの多くの位相(位置)情報を得て、モータを駆動している。すなわち、このインバータ装置はブラシレスモータの回転子が電気角60°に相当する回転変化が起こるたびにホールセンサエッジを出力し、そのエッジ間隔の時間を計測しその時間の1/32に相当する周期パルス信号を発生させている。つまり、60°を32等分した位相情報を得ていることになる。
【0005】
さらに、特許文献2に記載のモータ駆動制御装置においてはアブソリュート方式のロータリーエンコーダを用いることなくモータの多くの位相(位置)情報を得て、モータを駆動している。すなわち、前述の電気角60°間隔におけるホールセンサ信号とホールセンサ信号よりも小さい角度変動でパルスを発生するFG信号又は光学式エンコーダを用い各々の計数処理により、より細かな位相情報を得てモータを駆動させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のモータ駆動制御装置においては、ホールセンサエッジ間隔において回転子の回転速度が変化すると回転子の回転位置変化の推定値と実際の回転変化とに誤差が生じ、正確な位相情報を得ることができない。
【0007】
また、特許文献2に記載のモータ駆動制御装置では、ホールセンサエッジ間隔よりも細かな間隔のFG信号を用いるためホールセンサエッジ間隔における回転速度変化にはある程度対応できるが、その構成を実現するためにセンサ信号、FG信号それぞれの計数処理装置やシステムクロック生成手段、FG信号発電機又はインクリメント方式の光学式エンコーダ、FG信号増幅器など装置規模の増大を招き駆動装置のコスト増が懸念される
【0008】
本発明の目的は以上の問題点を解決し、ロータリーエンコーダやFG信号発生器を用いることなく、安価で装置規模が小さく小型化可能であり、センサ信号変化間隔よりも多くの位相情報を出力することができるモータ駆動制御装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明に係るモータ駆動制御装置は、複数相のコイルを有するモータの回転子の回転位置に応じた信号レベルを有する複数のセンサ信号に基づいて位相情報信号を発生してモータを駆動制御するモータ駆動制御装置において、
前記センサ信号を所定の複数のしきい値レベルと比較して位相を検出し、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力する第1の位相検出手段と、
前記第1の位相検出手段で検出された位相を所定の複数の位相区間に分ける位相分割手段と、
前記所定の複数の位相区間において前記複数のセンサ信号又はそれに対応する複数の信号の中から一つを選択する信号選択手段と、
前記分割された複数の位相区間において前記センサ信号選択手段により選択された前記センサ信号又はそれに対応する信号の信号レベルが前記回転子の所定の位相に応じた所定のしきい値レベルに到達したことを検出することにより、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力する第2の位相検出手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明に係るモータ駆動制御方法は、複数相のコイルを有するモータの回転子の回転位置に応じた信号レベルを有する複数のセンサ信号に基づいて位相情報信号を発生してモータを駆動制御するモータ駆動制御方法において、
前記センサ信号を所定の複数のしきい値レベルと比較して位相を検出し、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力するステップと、
前記検出された位相を所定の複数の位相区間に分けるステップと、
前記所定の複数の位相区間において前記複数のセンサ信号又はそれに対応する複数の信号の中から一つを選択するステップと、
前記分割された複数の位相区間において前記選択された前記センサ信号又はそれに対応する信号の信号レベルが前記回転子の所定の位相に応じた所定のしきい値レベルに到達したことを検出することにより、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
従って、本発明によれば、モータの回転子付近に配置された複数の磁気センサから概略ある程度正確な回転子の位相を検出できる。そして、例えば検出した位相情報はモータコントローラへ位相・位置情報として1相以上のデジタル信号として出力することでモータを駆動制御できる。さらに、モータ駆動制御装置を集積化することで高価なロータリー光学エンコーダを用いることなく、安価で装置規模が小さく小型化可能な磁気センサ変化間隔よりも細かな位相検出手段を有するモータ駆動制御装置が実現可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態1に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2a】図1のモータ駆動制御装置の第1の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートである。
【図2b】図1のモータ駆動制御装置の第2の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートである。
【図2c】図1のモータ駆動制御装置の第3の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートである。
【図3a】図1の第2の位相検出回路30の実施例1に係る位相検出回路30−1の構成を示す回路図である。
【図3b】図1の第2の位相検出回路30の実施例2に係る位相検出回路30−2の構成を示す回路図である。
【図4】図1の第2の位相検出回路30の動作を示す各信号のタイミングチャートである。
【図5】本発明の実施形態2に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施形態3に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】図6のモータ駆動部70の構成を示す回路図である。
【図8】図7のモータ駆動部70の動作を示す各信号のタイミングチャートである。る。
【図9】本発明の実施形態4に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施形態5に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図11】本発明の実施形態7に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。
【図12】図1の第1の位相検出回路10への入力信号に対する比較結果信号を示す表である。
【図13】図1の信号選択回路21の第1の信号選択条件を示す表である。
【図14】図1の信号選択回路21からの選択信号Xの電気角と振幅割合との関係を示す表である。
【図15】図1の信号選択回路21の第2の信号選択条件を示す表である。
【図16】図1の信号選択回路21の第3の信号選択条件を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同様の構成要素については同一の符号を付している。
【0014】
実施形態1.
図1は本発明の実施形態1に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。図1において、本実施形態に係るモータ駆動制御装置は、モータM1の回転子の周囲にその回転角の検出のために設けられた磁気センサ(以下、センサという。)S1〜S3(U相,V相,W相)からの各差動センサ信号(U1,U1−;V1,V1−;W1,W1−)に基づいて、モータM1の位相情報を検出して出力する装置であり、第1の位相検出回路10と、位相分割回路20と、信号選択回路21と、第2の位相検出回路30と、合成回路40とを備えて構成される。
【0015】
図1において、センサS1〜S3(U相,V相,W相)からの各差動センサ信号(U1,U1−;V1,V1−;W1,W1−)はそれぞれ第1の位相検出回路10及び信号選択回路21に入力される。図12は図1の第1の位相検出回路10への入力信号に対する比較結果信号を示す表である。第1の位相検出回路10は3個の比較器11,12,13を備えて構成され、各比較器11,12,13はそれぞれ図12に示すように、入力される各差動センサ信号の振幅を比較して、ハイ(Hi)レベル又はロー(Low)レベルを有する比較結果信号U2,V2,W2を発生して位相分割回路20及び合成回路40に出力する。ここで、第1の位相検出回路10からの比較結果信号U2,V2,W2は、所定の位相を有する第1の位相情報信号phAとなる。
【0016】
また、位相分割回路20は、比較結果信号U2,V2,W2に基づいて、所定の位相区間を持った区間に分割された信号選択信号を発生して信号選択回路21に出力する。ここで、信号選択回路21には、前述の差動センサ信号(U1,U1−;V1,V1−;W1,W1−)も入力されており、位相分割回路20からの信号選択信号に基づき、以下に詳述するように適切な信号を選択して選択信号Xとして第2の位相検出回路30に出力する。
【0017】
さらに、第2の位相検出回路30は、主として、複数N−1個の電圧源32−1〜32−(N−1)と、複数N個の位相検出器31−1〜31−Nを備えて構成され、選択信号Xを、複数N−1個の電圧源32−1〜32−(N−1)により生成された複数のしきい値レベルと比較することで、モータM1が所定の角度を回転したことを知り得る位相情報信号phCとして合成回路40に出力する。次いで、合成回路40は、当該位相情報信号phCと、上述の第1の位相情報信号phAとを合成して、合成後の第2の位相情報信号phBを出力する。前述の所定のしきい値レベルとは、回転角度センサS1,S2,S3の信号振幅に応じたレベルを指し、予め設定されているものとする。
【0018】
図2aは図1のモータ駆動制御装置の第1の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートであり、図2bは図1のモータ駆動制御装置の第2の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートであり、図2cは図1のモータ駆動制御装置の第3の信号選択条件の動作状態を示す各信号のタイミングチャートである。図2a〜図2cにおいて、センサS1,S2,S3からの差動センサ信号の非反転信号U1,V1,W1を正弦波(これに代えて、正弦波に実質的に同一な、準じた波形であってもよい。)で表しており、センサS1〜S3を電気角120°間隔で配置されており、差動センサ信号の反転信号U1−,V1−,W1−はそれぞれの正弦波の逆相をなすように構成されている。
【0019】
第1の位相検出回路10を用いれば、差動センサ信号(U1,U1−;V1,V1−;W1,W1−)のそれぞれゼロクロス点で値が切り換わる比較結果信号U2,V2,W2信号を得る。第1の位相情報信号phAは比較結果信号U2,V2,W2のエッジで切り換わる合成波形を示している。比較結果信号U2,V2,W2の所定のエッジ、もしくは第1の位相情報信号phAの立ち上がりエッジ区間で、前記位相分割回路20により所定の位相分割を行っており、その所定の位相分割区間において、例えば図2aの第1の動作状態では、図13の表に従い選択信号を選択して切り換える。ここで、図13は図1の信号選択回路21の第1の信号選択条件を示す表である。
【0020】
各選択信号Xを図2aの下段の太線で示す。各選択信号Xは正弦波位相−60°〜60°の直線性の高い120°区間に分割される。すなわち、分割された位相区間は電気角120°に相当する。さらに、図2a中の選択信号Xに水平方向の点線が示されているが、これは前述の所定のしきい値レベルであり、選択信号Xが所定のしきい値レベルに達した際にパルスエッジを出力するようにしている。例えば、選択信号Xの電気角−60°から60°の間を12°毎に10分割にする場合、振幅と電気角の関係は図14の表のとおりとなる。ここで、図14は図1の信号選択回路21からの選択信号Xの電気角と振幅割合との関係を示す表である。ただし、差動センサ信号のコモンレベルを0とし、電気角90°の振幅を1としている。図14に従い、選択信号Xの正弦波振幅に対しての各割合で所定レベルを決定する。なお、電気角−60°、0°、60°は各差動センサ信号のゼロクロス点が利用できるため必ずしも第2の位相検出回路30に必要ではない。
【0021】
図3aは図1の第2の位相検出回路30の実施例1に係る位相検出回路30−1の構成を示す回路図である。図3aにおいて、位相検出回路30−1は、3つの電圧源43,44,45と、互いに直列に接続された複数2N個の抵抗47−N〜47−1,48−1〜48−Nと、複数2N個の比較器41−N〜41−1,42−1〜42−Nとを備えて構成され、選択信号Xの信号振幅を複数のしきい値レベルと比較して位相検出信号phC(ph(N)−〜ph(1)−,ph(1)+〜ph(N)+)を発生して出力する。図3aにおいて、電圧源44の電圧V1レベルは正弦波の振幅中心(コモン)レベルであり、電圧源45,43の電圧V2レベル、電圧V0レベルはそれぞれ正弦波振幅上限及び下限レベルに対応したレベルとなっている。電圧V1レベルを中心に電気角に応じた振幅割合間隔で分圧されたレベルと選択信号Xが比較される。選択信号Xが単調増加、又は単調減少することで、順番に位相検出信号phCが切り換わって出力される。
【0022】
以上説明したように、本実施形態によれば、選択信号Xを電気角に応じた所定の振幅しきい値レベルに達するたびに出力される位相検出信号phCを用いることによりセンサ・ゼロクロス点で得られる位相情報信号phC以上の位相データを得ることが可能となる。図14では電気角12°毎の位相情報を得る手段を提供しており、あくまで一例である。その他の例としては、電気角6°毎の振幅割合に区切れば位相情報信号phCは12°毎の倍の位相情報を得ることになるし、3°毎に区切れば4倍の位相情報信号phCを得ることが可能である。
【0023】
図2aでは、選択信号Xは正弦波の−60°から60°の区間であり、信号選択の切り替えは60°となっており、次の信号は−60°から始まるため不連続となる。第2の位相検出回路30においては、出力された位相情報信号phCを一旦リセットする等の処理の際、位相情報信号phCの出力にノイズが走り位相の誤情報を防ぐための信号処理が必要となる。
【0024】
以上の問題点を避けるため、図2bでは選択される信号Xが選択信号切り替え時に連続となるよう信号選択回路21の構成を変更している。一例を挙げると、信号選択回路21は、図15に従って入力信号を選択的に切り替える。図15は図1の信号選択回路21の第2の信号選択条件を示す表である。図15において、n=1,2,3,…である。すなわち、奇数回又は偶数回に分けて選択信号Xを選択的に切り替えることで、図2bの選択信号Xのように選択信号Xの切り替わり時に連続した信号として第2の位相検出回路30に入力することができる。つまり、第2の位相検出回路30においては出力信号である位相検出信号のリセットは必要なく、グレイコードにおける信号出力が可能となる。なお、奇数又は偶数を見分けるためには前述の位相分割回路20に簡単なカウンタ装置を備えるだけでよい。
【0025】
さらに、図2cでは、さらに分割区間を電気角60°毎に分割し選択信号を切り替えた場合のタイミングチャートを示している。選択する信号の切り替えの一例を図16に示す。図16は図1の信号選択回路21の第3の信号選択条件を示す表である。図16に示すように適切な信号を選択することで、図2cの選択信号Xのように信号振幅は、図2a及び図2bの半分(正弦波振幅中心以上の振幅のみ)となる。
【0026】
図3bは図1の第2の位相検出回路30の実施例2に係る位相検出回路30−2の構成を示す回路図である。実施例2に係る位相検出回路30−2は、実施例1に係る図3aの位相検出回路30−1に比較して、電圧源44及び比較器42−1よりも下側の回路を削除したことを特徴とする。当該実施例2によれば、図3bに図示したように、第2の位相検出回路30−2における所定のしきい値レベル数が半分となっても、実施例1に係る位相検出回路30−1と同様の作用効果が得られ、モータ駆動制御装置の装置規模が縮小できる。
【0027】
次いで、第2の位相検出回路30からの位相情報信号phCと第1の位相検出回路10の位相情報信号phAとを合成して2相のデジタル信号である第2の位相情報信号phBを発生して出力する合成回路40の一例について以下に説明する。
【0028】
図4は図1の第2の位相検出回路30の動作を示す各信号のタイミングチャートである。図4では、図2cの選択信号Xと、電気角60°区間を10等分するように、9個の所定しきい値レベルLV(1)〜LV(9)を有する第2の位相検出回路30からの位相情報信号phBをそれぞれph(1)〜ph(9)とした場合を示している。合成回路40からの第2の位相情報信号phBは、2種類の出力デジタル信号OUT1,OUT2からなる。ここで、出力デジタル信号OUT1は、位相情報信号ph(1),ph(3),ph(5),ph(7),ph(9)をそれらの立ち上がりエッジに基づき合成して構成され、出力デジタル信号OUT2は、位相情報信号ph(2),ph(4),ph(6),ph(8),U2,V2,W2をそれらの立ち上がりエッジに基づき合成して構成される。これにより、光学エンコーダを備えなくとも、周期1/4位相差を有するエンコーダ信号(第2の位相情報信号phB)を簡単に得ることができる。
【0029】
以上の実施形態においては、2つの出力デジタル信号OUT1,OUT2を発生しているが、本発明はこれに限らず、必要な位相情報信号を含む少なくとも1つ又は1相の出力デジタル信号を発生して出力してもよい。
【0030】
以上の実施形態において、第2の位相検出回路30は、位相分割回路20において分割された各々の位相区間で共通で使用されているので、1つの回路で動作でき、回路サイズを小さくできる。
【0031】
実施形態2.
図5は本発明の実施形態2に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施形態2に係るモータ駆動制御装置は、図5に示すように、実施形態1に係るモータ駆動制御装置と比較して、センサS1,S2,S3(U相、V相、W相)からの差動センサ信号の振幅を調整しかつ増幅する信号増幅回路50を備えたことを特徴としている。それ以外の構成は実施形態1と同様であり、その説明を省略する。ここで、信号増幅回路50は、3個の差動増幅器51,52,53を備えて構成される。
【0032】
図5において、信号増幅回路50の役割について以下説明する。センサS1,S2,S3(U相、V相、W相)からの差動センサ信号はコモンレベルや振幅レベルが均一ではないことが多い。また、その振幅レベルは電気的に非常に小さいレベルであることも多い。それらのレベルが均一で振幅が大きければ大きいほど第2の位相検出回路30から所定の回転角を狙った出力信号が実際の回転子の回転角に近い値を示すことになる。つまり、センサS1,S2,S3からの差動センサ信号が均一でなかった場合において、信号増幅回路50においてコモンレベルの調整、振幅レベルの調整及び増幅することが目的である。
【0033】
以上の実施形態において、第1の位相検出回路10は信号増幅回路50により増幅・調整された差動センサ信号を用いて位相検出を行っているが、本発明はこれに限らず、例えばセンサU,V,Wの信号をそのまま比較してもよい。また、信号増幅回路50からの出力信号は差動センサ信号からのシングルエンド信号でもよいし、調整・増幅後の信号を差動で出力してもよい。センサ信号の増幅の有無に関わらず図2a,図2b,図2cと同様の位相情報を得ることは可能である。
【0034】
実施形態3.
図6は本発明の実施形態3に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施形態3に係るモータ駆動制御装置は、図6に示すように、実施形態2に係るモータ駆動制御装置に比較して、(1)モータM1の回転子を回転駆動させるために駆動電流を複数のモータコイルに選択的に流すためのモータ駆動部70と、(2)第2の位相情報信号phBに基づいてPWM信号を発生してモータ駆動部70に出力するモータコントローラ60を備えたことを特徴としている。それ以外の構成は実施形態2と同様であり、その説明を省略する。
【0035】
図7は図6のモータ駆動部70の構成を示す回路図である。図7において、モータ駆動部70は、プリドライバ80と、ドライバ90とを備えて構成される。例えばブラシレスDCモータであるモータM1を駆動するための3相コイルを、U相、V相、W相とし、それぞれのコイルはモータM1内でY結線されている。ここで、メインドライバ90は、それぞれのコイルの他端には電源側に接続されたハイサイドスイッチ素子91,93,95と、接地側に接続されたローサイドスイッチ92,94,96とを備えて構成される。さらに、各相のスイッチ素子91〜96を駆動するためのスイッチ制御信号UH,UL,VH,VL,WH,WLが前段のプリドライバ80より出力される。プリドライバ80は、駆動相コントローラ81と3個の駆動増幅器82,83,84とを備えて構成される。前記スイッチ制御信号UH,UL,VH,VL,WH,WLは対をなしており、駆動相コントローラ81は、PWMデューティサイクルで同期整流動作する相、ローサイドのみオンする相、ハイ/ロー共にオフする相のいずれかの状態に振り分けるために設けられ、モータコントローラ60によって決定されたデューティサイクルのPWM信号に従って、同期整流相を駆動する。ここで、前述の各相を各状態、すなわちPWM同期整流駆動、ローサイドオン、両サイドオフの状態に振り分けるためにモータM1の回転子付近に配置された位置情報取得のための磁気センサS1〜S3からのセンサ信号に基づいて生成された位相情報信号U2,V2,W2の信号論理によって定めることによってモータM1を回転駆動している。
【0036】
図8は図7のモータ駆動部70の動作を示す各信号のタイミングチャートである。図8では、各相のセンサ信号の信号論理における各状態切り換え例を示しており、ブラシレスDCモータを駆動する方法として一般的な駆動方法である。
【0037】
モータコントローラ60は回転しているモータM1のできるだけ正確な位相・位置情報に基づいて、前述のPWM信号の然るべきデューティサイクルを制御し、PWM信号をモータ駆動部70に出力する。なお、モータコントローラ60を設けず、PWM信号の代わりに駆動制御電圧をモータ駆動部70に入力し、モータ駆動部70内においては入力された駆動制御電圧を一定のフレーム周期を有する三角波によって比較してPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0038】
図6におけるモータ駆動制御装置において、特徴的なことは、ブラシレスモータ駆動に必要な相切り換え用のセンサS1,S2,S3を、実施形態1、2で説明した複数の位相情報を持つセンサと共通で使用していることにある。さらに、第1の位相検出回路10をも共通化していることにある。つまり、従来あるセンサ信号を利用しているため多数の位相情報を得るために追加センサなしに実現することができる。
【0039】
実施形態4.
図9は本発明の実施形態4に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施形態4に係るモータ駆動制御装置は、図9に示すように、実施形態2に係るモータ駆動制御装置と比較して、振幅検出回路100を備えたことを特徴とする。それ以外の構成は実施形態2と同様であり、その説明を省略する。振幅検出回路100は、例えば各センサS1,S2,S3毎に設けたサンプルホールド回路101,102,103と、増幅率演算回路104とを備えて構成され、検出された振幅により所定の振幅となるようにセンサ信号の増幅率を演算し信号増幅回路50にフォードバックする。
【0040】
前述したように、各々のセンサ信号はコモンレベルや振幅レベルが均一でないことが多く、本実施形態は、そのコモンレベルと振幅レベルを調整する手段を具備したモータ駆動制御装置であり、その調整例を以下に記載する。
【0041】
振幅検出回路100は、例えばピークホールド回路101〜103を用いて各センサ信号の振幅のピーク値を検出し、もしくは所定の電気角(例えばセンサクロス点など)における振幅をサンプルホールドしその値からピーク値を換算するピークレベル換算手段を用いてピークレベルを推定する。次いで、増幅率演算回路104は、検出された信号振幅のピークレベル又はピークレベル推定値が所定の振幅レベルとなるように演算し、あるいはアップダウンカウンタを用いて増幅手段にフィードバックし振幅レベル調整することで各々のセンサS1〜S3が所定の振幅レベルを出力することが可能となり、より回転子の実際の回転角に近い位相情報を得ることが可能となる。
【0042】
実施形態5.
図10は本発明の実施形態5に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施形態5に係るモータ駆動制御装置は、図10に示すように、実施形態2に係るモータ駆動制御装置に比較して、振幅検出回路110を備え、それにより検出された信号レベルを第2の位相検出回路30の電圧源32−1〜32−(N−1)の基準しきい値レベルを変更することを特徴としている。それ以外の構成は実施形態2と同様であり、その説明を省略する。振幅検出回路110は、サンプルホールド回路111,112,113と、基準電圧調整回路114とを備えて構成される。ここで、各々のセンサS1,S2,S3の振幅レベルが異なることを第2の位相検出回路30への選択信号X毎に当該基準しきい値レベルを変更することは該当センサ振幅レベルを調整することと等価であり、本実施形態においてもより回転子の実際の回転角に近い位相情報を得ることが可能となる。
【0043】
以上の実施形態5において、振幅検出回路110と第2の位相検出回路30とを1つの回路で構成してもよい。
【0044】
実施形態6.
本発明の実施形態6に係るモータ駆動制御装置は、その構成を図示しないが、第2の位相検出回路30が図3a又は図3bで示したような比較器群(41−1〜41−N、42−1〜42−N)であることを利用して振幅レベルを調整する方法も有効となる。例えば、比較器群の比較器個数が16個であった場合、第2の位相検出回路30が4ビットの簡易的な並列比較(フラッシュ)型ADコンバータとみなされ各相のピーク振幅レベルを検出又は予想することが可能となる。例えば、ある期間においてある選択信号が位相情報信号ph(n)を超えなかった場合、該選択信号Xのピーク振幅は位相情報信号ph(n−1)以上で位相情報信号ph(n)以下と結論付けることが可能である。その結果を持って前述の基準電圧調整又は増幅率調整又はその両方を調整するようにすることで、装置全体の規模を小さくすることが可能である。
【0045】
以上の実施形態4〜6の構成を持つモータ駆動制御装置において、振幅増幅率調整又は基準電圧調整は、モータM1の初回回転時に実施してもよいし、リアルタイムでモニタしながら実施してもよい。また、信号増幅回路50の増幅率変更及び第2の位相検出回路30の基準電圧調整はセンサ信号ゼロクロス点で実施することが最良である。
【0046】
実施形態7.
図11は本発明の実施形態7に係るモータ駆動制御装置の構成を示すブロック図である。実施形態7に係るモータ駆動制御装置は、図6の実施形態3に係るモータ駆動制御装置において、モータM1、センサS1〜S3、モータコントローラ60を除いた回路を半導体集積回路(以下、半導体LSIという。)120として集積したことを特徴としている。モータ駆動部70は一般に元々半導体集積回路にて集積されており、そこに複数の位相検出回路10,30をオンチップすることで、従来装置からの規模増大はほぼなく、且つ、光学エンコーダがなくなる分装置の小型化が可能となる。
【0047】
なお、半導体LSI(半導体装置)として集積する例としては、図11の装置に限られず、例えば複数位相検出回路10,30のみを集積してもよいし、図11の構成に加えてモータコントローラ60も集積してもよい。駆動相コイルを駆動する図7で示されるモータ駆動部70は発熱源となるため場合によってはモータ駆動部70のみ集積回路から切り離してもよい。さらに、実施形態4〜6で示されている振幅検出回路100,112や第2の位相検出回路30を同時に集積化してもよい。
【0048】
上述してセンサS1〜S3は、モータM1の回転子(ロータ)を検出する磁気センサであり、一般的にホール素子が使用される。また、回転子が回転することで発生する磁束密度は正弦波である場合が多く、すなわち、磁気センサからの信号も正弦波である場合が多い。ただし、回転子が回転する際に発生し固定されている磁気センサにて受ける磁束密度が必ずしも綺麗な正弦波ではなく歪んだ正弦波である場合がある。また、センシングする磁束密度が磁気センサの許容値を超えるために起こる磁気飽和により、磁気センサ出力が飽和し台形波に近い出力となる場合もある。しかしながら、電気角−60°〜60°区間において正弦波又はそれに近い波形の信号であれば、本発明においては正確な複数の位相検出が可能である。
【0049】
以上の実施形態において、前記センサ信号は、モータ電流駆動装置の複数相のコイルの転流電流切り換え用センサからのセンサ信号と兼用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明によれば、モータの回転子付近に配置された複数の磁気センサから概略ある程度正確な回転子の位相を検出できる。そして、例えば検出した位相情報はモータコントローラへ位相・位置情報として1相以上のデジタル信号として出力することでモータを駆動制御できる。さらに、モータ駆動制御装置を集積化することで高価なロータリー光学エンコーダを用いることなく、安価で装置規模が小さく小型化可能な磁気センサ変化間隔よりも細かな位相検出手段を有するモータ駆動制御装置が実現可能となる。
【符号の説明】
【0051】
10…第1の位相検出回路、
11,12,13…位相検出器、
20…位相分割回路、
21…信号選択回路、
30…第2の位相検出回路、
31−1〜31−N…位相検出器、
32−1〜32−(N−1)…電圧源、
40…信号合成回路、
41−1〜41−N,42〜42−N…比較器、
43,44,45…電圧源、
47−1〜47−N,48−1〜48−N…抵抗、
50…信号増幅回路、
51,52,53…差動増幅器、
60…モータコントローラ、
70…モータ駆動部、
80…プリドライバ、
81…駆動相コントローラ、
82,83,84…駆動増幅器、
90…メインドライバ、
91〜96…スイッチ素子、
100…振幅検出回路、
101〜103…サンプルホールド回路、
104…増幅率演算回路、
110…振幅検出回路、
111〜113…サンプルホールド回路、
114…基準電圧調整回路、
120…半導体LSI、
M1…モータ、
S1,S2,S3…磁気センサ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0052】
【特許文献1】特許第3500328号公報
【特許文献2】特開2011−41417号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数相のコイルを有するモータの回転子の回転位置に応じた信号レベルを有する複数のセンサ信号に基づいて位相情報信号を発生してモータを駆動制御するモータ駆動制御装置において、
前記センサ信号を所定の複数のしきい値レベルと比較して位相を検出し、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力する第1の位相検出手段と、
前記第1の位相検出手段で検出された位相を所定の複数の位相区間に分ける位相分割手段と、
前記所定の複数の位相区間において前記複数のセンサ信号又はそれに対応する複数の信号の中から一つを選択する信号選択手段と、
前記分割された複数の位相区間において前記センサ信号選択手段により選択された前記センサ信号又はそれに対応する信号の信号レベルが前記回転子の所定の位相に応じた所定のしきい値レベルに到達したことを検出することにより、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力する第2の位相検出手段とを備えたことを特徴とするモータ駆動制御装置。
【請求項2】
前記センサ信号は、モータ電流駆動装置の複数相のコイルの転流電流切り換え用センサからのセンサ信号と兼用することを特徴とする請求項1記載のモータ駆動制御装置。
【請求項3】
前記各位相情報信号を合成することにより、少なくとも1相のデジタル信号を生成する合成手段をさらに備え、
前記デジタル信号をモータ駆動制御信号として用いることを特徴とする請求項1又は2記載のモータ駆動制御装置。
【請求項4】
前記第2の位相検出手段は、前記位相分割手段において分割された各々の位相区間で共通で使用されることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項5】
前記センサ信号のピークレベルを検出し又は推定してその結果信号を出力する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段からの結果信号に応じて前記センサ信号の信号レベルを調節する第1の調節手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項6】
前記センサ信号のピークレベルを検出し又は推定してその結果信号を出力する振幅検出手段と、
前記振幅検出手段からの結果信号に応じて前記第2の位相検出手段のしきい値レベルを調節する第2の調節手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項7】
分割された前記位相区間はモータの電気角で120度間隔であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項8】
分割された前記位相区間はモータの電気角で60度間隔であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項9】
前記センサ信号は、正弦波又はそれに準じた波形であることを特徴とする請求項1〜8のうちのいずれか1つに記載のモータ駆動制御装置。
【請求項10】
複数相のコイルを有するモータの回転子の回転位置に応じた信号レベルを有する複数のセンサ信号に基づいて位相情報信号を発生してモータを駆動制御するモータ駆動制御方法において、
前記センサ信号を所定の複数のしきい値レベルと比較して位相を検出し、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力するステップと、
前記検出された位相を所定の複数の位相区間に分けるステップと、
前記所定の複数の位相区間において前記複数のセンサ信号又はそれに対応する複数の信号の中から一つを選択するステップと、
前記分割された複数の位相区間において前記選択された前記センサ信号又はそれに対応する信号の信号レベルが前記回転子の所定の位相に応じた所定のしきい値レベルに到達したことを検出することにより、当該検出した位相を示す位相情報信号を出力するステップとを含むことを特徴とするモータ駆動制御方法。

【図1】
image rotate

【図2a】
image rotate

【図2b】
image rotate

【図2c】
image rotate

【図3a】
image rotate

【図3b】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate