説明

モータ駆動装置

【課題】コストの低減を図りつつ、コイル間の特性のバラツキに起因する特性の劣化を抑制する。
【解決手段】入力される駆動指令信号S1及び設定された駆動特性値に基づいて駆動信号を出力するフィルタ11と、フィルタ11からの駆動信号に応じてコイル2に供給する電流を出力するPWM駆動部12と、複数のコイル2の特性毎に予め求められたパラメータが記憶されたメモリ14と、入力される特性選択信号S2に対応するパラメータに基づいて、フィルタ11が用いる駆動特性値を変更して設定する特性設定部13とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを駆動するモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体を移動するステージ装置等においては、複数のコイルと可動子(磁石)とを近接配置し、コイルの励磁磁界により可動子を動かすムービングマグネット方式のリニアモータが用いられている。このようなリニアモータを駆動するモータ駆動装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されたものが知られている。
【0003】
このモータ駆動装置では、指令値信号とコイルに励磁電流を与えるPWMモータ駆動回路の出力に基づく帰還信号(実電流信号)とを比例積分回路に入力し、その出力信号に基づきPWMモータ駆動回路からコイルに励磁電流を供給するフィードバック制御回路が用いられている。また、省電力化を図るため、可動子の移動位置に応じて対応するコイルに通電し、推力発生に寄与しないコイルへの通電を遮断する励磁切替方式が採用されている。
【0004】
ところで、リニアモータに用いられる複数のコイルは、個体間でその特性(直流抵抗、インダクタンス等)にバラツキがあるため、励磁切替方式を採用した場合には、通電するコイル間で応答特性等にバラツキを生じる。このため、従来は、複数のコイルとして、互いにその特性が近似するものを選択して採用し、モータ駆動装置では、比例積分回路の時定数等の駆動特性値として、一つのコイルとの関係で最適化された一つの駆動特性値を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−304121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数のコイルとして、互いにその特性が近似するものを選択して用いるのでは、多数のコイルを準備してその中から特性の近いものを選択することになるため、その作業が煩雑であるとともに、特性が相違するとして採用されないコイルは結局無駄となり、コスト上昇の要因になるという問題があった。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、コストの低減を図りつつ、コイル間の特性のバラツキに起因する特性の劣化を最小限に抑制することができるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るモータ駆動装置は、複数のコイルを有する励磁切替方式のモータを駆動するモータ駆動装置であって、入力される駆動指令信号及び設定された駆動特性値に基づいて駆動信号を出力するフィルタ部と、前記フィルタ部からの駆動信号に応じて前記コイルに供給する電流を出力する駆動部と、前記コイルの特性毎に予め求められたパラメータが記憶された記憶部と、入力される特性選択信号に対応する前記記憶部に記憶されたパラメータに基づいて、前記フィルタ部が用いる駆動特性値を変更して設定する特性設定部とを備えて構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、コストの低減を図りつつ、コイル間の特性のバラツキに起因する特性の劣化を最小限に抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示す図である。
【図2】本発明の第1実施形態の要部構成を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態の要部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態のモータ駆動装置について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
まず、図1及び図2を参照して本発明の第1実施形態について説明する。このモータ駆動装置は、物体を載置して移動するステージ装置等に用いられるリニアモータを駆動するものである。本実施形態においては、駆動対象としてのリニアモータは、複数のコイルと可動子(磁石)とを近接配置し、コイルの励磁磁界により可動子を動かすムービングマグネット方式のリニアモータであり、可動子の位置に応じて励磁するコイルを切り替える励磁切替方式のリニアモータである。
【0013】
図1に示すように、モータ駆動装置1には、図外のステージ装置の制御部から駆動電流指令信号S1及び特性選択信号S2が入力される。モータ駆動装置1とリニアモータ2のコイル(コイル(1)〜コイル(N))との間には各コイル(1)〜コイル(N)のそれぞれに対応してスイッチSW(1)〜スイッチSW(N)を有する切替器3が設けられており、モータ駆動装置1からの駆動電流が切替器3を介してコイル(1)〜コイル(N)に選択的に供給されるようになっている。切替器3の各スイッチSW(1)〜スイッチ(N)の切り替えは、図外のステージ装置の制御部からのコイル選択信号S3に応じて行われる。なお、特に限定されないが、本実施形態では、特性選択信号S2としては、コイル選択信号S3と同じ信号を用いるものとする。
【0014】
モータ駆動装置1は、図2にその詳細が示されているように、入力される駆動指令信号(駆動電流指令信号S1)及び設定された駆動特性値に基づいて駆動信号を出力するフィルタ部(フィルタ11)と、フィルタ部からの駆動信号に応じてコイル(1)〜コイル(N)に供給する電流を出力する駆動部(PWM駆動部12)と、コイル(1)〜コイル(N)の特性毎に予め求められたパラメータ(フィルタパラメータ)が記憶された記憶部(フィルタパラメータメモリ14)と、入力される特性選択信号S2に対応するパラメータに基づいて、フィルタ部が用いる駆動特性値を変更して設定する特性設定部13とを備えている。さらに、モータ駆動装置1は、電流検出用抵抗Rs、差動増幅器15、A/Dコンバータ16を備えている。
【0015】
特に限定されないが、モータ駆動装置1の全部又は一部は、プログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Device:PLD)によって実現することができる。なお、マイクロコンピュータと各機能を実行するためのプログラムとで実現するようにしてもよい。
【0016】
駆動電流指令信号S1と後述する実電流信号(帰還信号)S4との差(偏差)がフィルタ11に入力される。フィルタ11は、比例積分回路に相当する演算処理部であり、後述する特性設定部13により設定された駆動特性値(積分時定数等)を用いて演算処理し、PWM駆動部12に対する駆動信号を出力する。
【0017】
PWM駆動部12は、フィルタ11からの駆動信号に応じた電圧を、上記の切替器3による切替設定に応じてモータ(コイル)2に供給する。PWM駆動部12からモータ2に供給される電流は、電流検出用抵抗Rsの両端電圧から差動増幅器15を介して検出され、A/Dコンバータ16によりデジタル信号に変換されて実電流信号S4としてフィルタ11にフィードバックされる。
【0018】
フィルタパラメータメモリ14には、モータ2が備える各コイル(1)〜コイル(N)の特性(直流抵抗、インダクタンス等)のそれぞれについて最適化された駆動特性値を求めるためのパラメータが、対応するコイル(1)〜コイル(N)を識別できる形式で予め記憶されている。なお、ここでは、これらのパラメータは、コイル(1)〜コイル(N)に対応して順次に記憶されているものとする。
【0019】
特性設定部13は、入力される特性選択信号S2(ここでは、コイル選択信号S3と同じ)を受け取ると、フィルタパラメータメモリ14から通電すべきコイルに対応するパラメータを読み出し、必要に応じて所定の演算処理を行って、フィルタ11が演算に用いるべき駆動特性値として設定する。特性設定部13は、次の特性選択信号S2を受け取ると、対応するパラメータ(ここでは、次のパラメータ)について同様に処理して、駆動特性値を変更し、以後順次同様に処理する。
【0020】
一例として、ステージをコイル(1)からコイル(N)まで一方向に移動させる場合には、図外のステージ装置の制御部からのコイル選択信号S3に従って切替器3により最初のコイル(1)が通電すべきコイルとして選択され、これと同時に特性選択信号S2(ここでは、コイル選択信号S3と同じ)が特性設定部13に送られ、特性設定部13によりコイル(1)に対応するパラメータに基づく駆動特性値が設定される。フィルタ11は、当該コイル(1)に係る駆動特性値に基づいて演算処理して、駆動信号をPWM駆動部12に送り、PWM駆動部12によりコイル(1)に通電が行われる。次のコイル(2)に切り替えられると、次のコイル(2)に対応するパラメータに基づいて駆動特性値が変更され、変更された駆動特性値を用いてコイル(2)に通電がなされ、以後同様にコイル(N)まで順次に切り替えて通電が行われることになる。
【0021】
本実施形態によると、コイル(1)〜コイル(N)の特性毎に最適化されたパラメータを予め記憶しておき、コイルが切り替えられた際に、当該コイルに対応するパラメータに基づいて駆動特性値を設定し、この駆動特性値に基づいて当該コイルに通電するようにしたので、各コイル間に特性のバラツキがある場合であっても、各コイルについて最適化された駆動特性値を用いて通電することができ、常に最適な応答特性を実現することができる。
【0022】
また、従来技術のように、複数のコイルとして互いに特性が近似するものを選択して用いる必要もないので、コストを低減することができる。
【0023】
さらに、モータ駆動装置1を、プログラマブルロジックデバイス又はマイクロコンピュータ及びプログラムで実現するようにすれば、駆動対象としてのリニアモータに用いられる複数のコイルの個体間での特性のバラツキに柔軟に対応することができる。
【0024】
また、モータ駆動装置が駆動電流指令信号に比例した電流を出力する電流駆動である場合、駆動電流指令信号でコイル特性のバラツキを補正するためには、駆動に必要な周波数帯域を超えた信号帯域が必要であり、一般に高価な演算装置、伝送装置等が必要となるが、本実施形態のモータ駆動装置では、そのような問題が生じることもない。
【0025】
次に、本発明の第2実施形態について、図3を参照して説明する。この第2実施形態は上述した第1実施形態を改良したものである。
【0026】
上述した第1実施形態では、特性設定部13により特性選択信号S2に応じてフィルタ11で用いる駆動特性値が変更される。このとき、変更前の駆動特性値から変更後の駆動特性値へ瞬時に変更を行うと、電圧が急激に変化する場合がある等、安定した駆動が損なわれる場合がある。そこで、この第2実施形態では、特性設定部13とフィルタ11の間に、フィルタパラメータ変化制限部17を追加的に設けている。他の構成は図1及び図2と同様であるので、同一の符号を付してその説明は省略する。
【0027】
フィルタパラメータ変化制限部17は、特性設定部13が特性選択信号S2に基づいて駆動特性値を変更する際に、変更前の駆動特性値と変更後の駆動特性値とを線形補間して求められる駆動特性値をフィルタ11が用いる駆動特性値として順次に設定する。換言すると、駆動特性値を変更する際に、変更前の駆動特性値から変更後の駆動特性値に瞬時に変更するのではなく、変更前の駆動特性値から少しずつ変化させて行き、最終的に変更後の駆動特性値に至るようにする。これにより、電圧の急激な変化等の問題が解消され、安定した駆動が可能となる。上述した線形補間としては、例えば直線補間を用いることができる。
【0028】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。従って、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0029】
1…モータ駆動装置、2…モータ(コイル)、3…切替器、11…フィルタ、12…PWM駆動部、13…特性設定部、14…フィルタパラメータメモリ、15…差動増幅器、16…A/Dコンバータ、17…フィルタパラメータ変化制限部、Rs…電流検出用抵抗、S1…駆動電流指令信号、S2…特性選択信号、S3…コイル選択信号、S4…実電流信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルを有する励磁切替方式のモータを駆動するモータ駆動装置であって、
入力される駆動指令信号及び設定された駆動特性値に基づいて駆動信号を出力するフィルタ部と、
前記フィルタ部からの駆動信号に応じて前記コイルに供給する電流を出力する駆動部と、
前記コイルの特性毎に予め求められたパラメータが記憶された記憶部と、
入力される特性選択信号に対応する前記記憶部に記憶されたパラメータに基づいて、前記フィルタ部が用いる駆動特性値を変更して設定する特性設定部と
を備えることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記特性設定部により駆動特性値が変更される際に、変更前の駆動特性値と変更後の駆動特性値とを線形補間して求められる駆動特性値を、前記フィルタ部が用いる駆動特性値として順次に設定する変化制限部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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