説明

モータ駆動装置

【課題】速度制御から位置制御への切替をシームレスに行い、機械伝達系に衝撃を与えないモータ駆動装置を提供する。
【解決手段】モータ駆動装置から前記上位コントローラ1への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラ1からモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量とを現在位置35に加算して前期の速度制御時指令位置37とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令28から算出される位置偏差量を位置偏差24の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段2において、前記位置偏差量を現在位置35に加算したものを位置制御時指令位置36の初期値として設定した後、前記目標位置指令21による位置制御を行うモータ駆動装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、速度制御から位置制御へのシームレスな制御切替を行うモータの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ駆動装置の制御として位置制御、速度制御、トルク制御が一般的に用いられている。制御構成としては、位置制御を行う位置ループのマイナーループとして速度制御を行う速度ループ、更に速度ループのマイナーループとしてトルク(電流)制御を行う電流(トルク)ループとするのが一般的である。速度制御から位置制御に切り替える場合、制御切替時の速度変化を低減し、機械伝達系への衝撃を緩和するため、速度制御では使用しない位置ループの内部値である位置偏差を適切な値に初期設定し、位置制御切替後の位置指令値を適切に変化させていく方法がある。
【0003】
古くは、時定数を異なえた加減速制御回路を複数備えて、加減速の途中で適切な時定数の加減速制御回路へと切替える技術などが知られている。(例えば特許文献1)。
【0004】
また、速度制御から位置制御へ切り替わる際の切替速度から位置偏差の初期値を算出するとともに、前記切替速度から算出した位置指令値を初期値とし、速度制御時における指令時定数と等しい時定数により位置指令値を変化させる技術も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−206404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そして、近年のモータ駆動装置の技術においては、位置制御時の位置指令をモータ駆動装置の内部構成の一部で生成しているため、上位コントローラから停止位置を指令される構成には適用できない。また、モータ駆動装置と上位コントローラをネットワーク通信で接続する構成の場合、前回指令位置と今回指令位置の差分である相対位置指令を送信する方法では、位置制御時の位置指令はノイズ等の影響により相対位置指令を正常に送信できず、位置ずれが生じる可能性があるため、絶対位置である目標位置指令を送信する方法がよく用いられる。
【0007】
なお、目標位置指令には、現在位置から目標位置までの動作パターンをモータ駆動装置で生成し、目標位置を不定期に更新する不定期更新型目標位置指令と、現在位置から目標位置までの動作パターンを上位コントローラで生成し、目標位置を通信周期毎に逐次更新する逐次更新型目標位置指令があるが、後者の逐次更新型目標位置指令がよく用いられる。以降、目標位置指令は逐次更新型目標位置指令を指すこととする。この場合、速度制御時は上位コントローラで指令位置を管理せず、位置制御への切替時において、モータ駆動装置から上位コントローラへ送信される指令位置(現在位置の場合もある)から次の目標位置指令を生成することが一般的である。これにより、速度制御時においてもモータ駆動装置で前期指令位置を管理して上位コントローラへ送信する必要があるが、コスト等の経済性などの理由で装置の仕様は左右されるものである。
【0008】
また、モータ駆動装置の持つ位置情報と上位コントローラの持つ位置情報には通信による遅れが存在するため、前期指令位置はこの遅れを加味した値とする必要があるが、上記同様に、コスト等の経済性などの理由で装置の仕様は左右されるものである。
【0009】
更に、上位コントローラはモータ駆動装置の持つ位置情報を元にモータ駆動装置の位置指令を演算するが、このときの上位コントローラの指令演算処理の遅れ時間が存在するため、前期指令位置はこの遅れを加味した値とする必要があるが、上記同様に、コスト等の経済性などの理由で装置の仕様は左右されるものである。
【0010】
更に、位置制御では、モータの振動を抑えるため、位置指令にFIR型や一次遅れ型などのフィルタをかける位置指令フィルタ手段が用いられることが一般的であり、モータ回転中は前記位置指令フィルタ内に位置指令が溜まっている状態にある。しかしながら、上述した技術は、速度制御から位置制御への切替時に前記位置指令フィルタの初期化処理に起因して、前記位置指令フィルタを使用した場合の制御切替時の速度指令の変化が急激になり、機械伝達系に衝撃が伝わることが考察された。
【0011】
更に、位置制御では、モータの応答性を高めるために速度フィードフォワード手段が用いられることがあるが、制御切替時における位置偏差の初期偏差量の算出に速度フィードフォワード手段による影響を配慮しなければ、制御切替時の速度指令の変化が急激になり、機械伝達系に衝撃が伝わるということも考察された。
【0012】
本発明は上記技術から考察される課題を解決するものであり、速度制御から位置制御への切替をシームレスに行うことで、機械伝達系への衝撃の回避等で従来技術よりもさらに性能向上を図ったモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、上位コントローラからネットワーク通信で送信される目標位置指令および速度制御時速度指令により、位置制御および速度制御を行い、指令位置を前記上位コントローラへ送信するモータ駆動装置において、前記目標位置指令と前回の位置制御時指令位置から位置指令と位置制御時指令位置を生成する位置指令生成手段と、前記位置指令からフィルタ後位置指令を生成する位置指令フィルタ手段と、前記フィルタ後位置指令から速度フィードフォワード指令を生成する速度フィードフォワード手段と、位置制御を行うための位置制御手段と、速度制御を行うための速度制御手段と、現在位置から速度制御時指令位置を生成する速度制御時指令位置算出手段と、前記上位コントローラからの指令により位置制御と速度制御を切り替える位置/速度制御切替手段と、位置制御時は前記位置制御時指令位置が、速度制御時は前記速度制御時指令位置が前記指令位置なるよう切替を行う指令位置切替手段とを備え、前記速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量とを現在位置に加算して前期速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段において、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置である。
【0014】
第2の発明は、第1の発明における速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラの演算処理遅れ時間の間のモータ移動量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段において、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置である。
【0015】
第3の発明は、第1の発明における速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段において、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置である。
【0016】
第4の発明は、第1の発明における速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量を前記指令フィルタ手段に溜まる位置指令の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段において、前記位置指令量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置である。
【0017】
第5の発明は、第1の発明における速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量と、前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値に、前回の前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量を前記指令フィルタ手段に溜まる位置指令の初期値とするとともに、
前記位置指令生成手段において、前記位置偏差量と前記位置指令量とを現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置である。
【0018】
第6の発明は、第2から第5の発明のモータ駆動装置における速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの送信データにモータ駆動装置のカウンタ値を追加し、同時に送信されるデータが前記上位コントローラで処理され、モータ駆動装置への指令として受信する際にもカウンタ値を追加し、そのカウンタ値の差から前記上位コントローラの演算処理遅れ時間を計測する構成を具備するモータ駆動装置である。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明のモータ駆動装置によれば、モータ駆動装置と上位コントローラ間の伝送遅れによる指令位置情報の遅れが補償でき、速度制御から位置制御への制御切替時の速度変動を低減し、機械伝達系への衝撃を回避できる。
【0020】
さらに、第2の発明のモータ駆動装置によれば、上位コントローラの演算処理遅れによる指令位置情報の遅れが補償でき、速度制御から位置制御への制御切替時の速度変動を低減し、機械伝達系への衝撃を回避できる。
【0021】
さらに、第3の発明のモータ駆動装置によれば、速度フィードフォワード手段を使用した場合においても同様に速度制御から位置制御への制御切替時の速度変動を低減し、機械伝達系への衝撃を回避できる。
【0022】
さらに、第4の発明のモータ駆動装置によれば、位置指令フィルタ手段を使用した場合においても同様に速度制御から位置制御への制御切替時の速度変動を低減し、機械伝達系への衝撃を回避できる。
【0023】
さらに、第5の発明のモータ駆動装置によれば、位置指令フィルタ手段と速度フィードフォワード手段とを使用した場合においても同様に速度制御から位置制御への制御切替時の速度変動を低減し、機械伝達系への衝撃を回避できる。
【0024】
さらに、第6の発明のモータ駆動装置によれば、上位コントローラの演算処理遅れによる指令位置情報の遅れをモータ駆動装置で計測し、補償することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1におけるモータ駆動装置の主要部ブロック図
【図2】本発明の実施例1における位置制御時のモータ駆動装置の主要部ブロック図
【図3】本発明の実施例1における速度制御時のモータ駆動装置の主要部ブロック図
【図4】本発明の実施例1における上位コントローラとモータ駆動装置間のデータの送受信、および各データの時間的な変化を表した図
【図5】本発明の実施例1における上位コントローラとモータ駆動装置間のデータの送受信及びモータ駆動装置の送信カウンタ値及び受信カウンタ値の時間的な変化を表した図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施例によって本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0027】
図1は、本発明のモータ駆動装置のブロック図であり、1はネットワーク通信で目標位置指令21および速度制御時速度指令28をモータ駆動装置に送信する上位コントローラ、2は目標位置指令21から位置指令22および位置制御時指令位置36を生成する位置指令生成手段、3は位置指令22にフィルタをかけてフィルタ後位置指令23を生成する位置指令フィルタ手段、4はフィルタ後位置指令23にフィードフォワードゲインを積算して速度フィードフォワード指令25を生成する速度フィードフォワード手段、24はフィルタ後位置指令23と位置フィードバック信号34の差分を積分した位置偏差、5は位置偏差24から位置制御時速度指令26を生成する位置制御手段、27は速度フィードフォワード指令25と位置制御時速度指令26の和である速度制御指令、11は上位コントローラ1からの指令により位置制御と速度制御を切り替える位置/速度制御切替手段、29は位置/速度制御切替手段11により位置制御時速度指令26又は速度制御時速度指令28が切り替えられた速度指令、30は速度指令29と速度フィードバック信号33の差分である速度偏差、6は速度偏差30からトルク指令31を生成する速度制御手段、7はトルク指令31からモータ駆動電流32を生成するトルク制御手段、8はモータである。そして、モータ8には位置検出器9が設けられている。35は位置フィードバック信号34を積分した現在位置である。速度制御時指令位置算出手段10は現在位置35から速度制御時指令位置37を生成する。現在の制御により位置制御時指令位置36および速度制御時指令位置37を指令位置38として上位コントローラ1へ送信する指令位置切替手段12を有する。そして、モータ駆動装置からの送信をカウントした送信カウンタ値39を有する。同じく、モータ駆動装置への受信をカウントした受信カウンタ値40を有する。
【0028】
次に、動作について説明する。図2は、位置制御時のモータ駆動装置のブロック図である。位置制御時は、上位コントローラ1から目標位置指令21がモータ駆動装置へ送信される。位置指令生成手段2は、目標位置指令21と位置制御時指令位置36の差分から位置指令22を生成し、位置制御時指令位置36を目標位置指令21で更新する。次に、位置指令フィルタ手段3は、位置指令22にフィルタ処理を行い、フィルタ後位置指令23を生成する。次に、速度フィードフォワード手段4は、フィルタ後位置指令23に速度フィードフォワードゲインを積算して速度フィードフォワード指令25を生成する。次に、フィルタ後位置指令23と位置フィードバック信号34の差分を前回の位置偏差24に加算して位置偏差24を更新する。次に、位置制御手段5は、位置偏差24に位置ループゲインを積算して位置制御時速度指令26を生成する。次に、速度フィードフォワード指令25と位置制御時速度指令の和から速度制御指令を生成する。次に、位置制御時は速度制御指令27と同値となる速度指令29と速度フィードバック信号33との差分から速度偏差30を生成する。次に、速度制御手段6は速度偏差30からトルク指令31を生成する。次に、トルク制御手段7はトルク指令31からモータ駆動電流32を生成し、モータ8へ供給する。次に、位置フィードバック信号34を前回の現在位置35に加算して現在位置35を更新する。次に、位置制御時は位置制御時指令位置36と同値となる指令位置38を上位コントローラへ送信する。
【0029】
図3は、速度制御時のモータ駆動装置のブロック図である。速度制御時は、上位コントローラ1から速度制御時速度指令28がモータ駆動装置へ送信される。速度制御時は速度制御時速度指令28と同値となる速度指令29と速度フィードバック信号33との差分から速度偏差30を生成する。次に、速度制御手段6は速度偏差30からトルク指令31を生成する。次に、トルク制御手段7はトルク指令31からモータ駆動電流32を生成し、モータ8へ供給する。次に、仮の位置偏差24を算出する。ここで、速度制御指令27が速度制御時速度指令28と等しく、フィルタ後位置指令23が速度制御時速度指令28の速度に相当する値であり、位置フィードバック信号34はフィルタ後位置指令23と等しいとして次の式1により算出する。
【0030】
【数1】

【0031】
次に、位置指令フィルタ手段3に溜まる仮の位置指令を算出する。ここで、仮の位置指令は、位置指令22とフィルタ後位置指令23が速度制御時速度指令28の速度に相当する値となるときにフィルタ内部に溜まる位置指令として算出する。次に、モータ駆動装置から上位コントローラ1へのデータ送信遅れ時間と上位コントローラ1の演算処理遅れ時間と上位コントローラ1からモータ駆動装置までのデータ送信遅れ時間の和の間にモータが移動する移動量を算出する。ここで、前記移動量は、前記遅れ時間の和と位置フィードバック信号34を積算することにより算出する。次に、位置フィードバック信号34を前回の現在位置35に加算して現在位置35を更新する。次に、速度制御時指令位置算出手段10により、現在位置35に前記仮の位置偏差と、前記仮の位置指令と、前記移動量を加算して速度制御時指令位置37を生成する。次に、速度制御時は速度制御時指令位置37と同値となる指令位置38を上位コントローラ1へ送信する。
【0032】
次に、上位コントローラ1からの指令により、モータ駆動装置が速度制御から位置制御に切り替わる際の動作について説明する。まず、位置偏差24の初期値設定を行う。ここで、速度制御指令27が前回の速度制御時速度指令28と等しく、フィルタ後位置指令23が前回の速度制御時速度指令28の速度に相当する値であり、位置フィードバック信号34はフィルタ後位置指令23と等しいとして次の式2により位置偏差24の初期値設定を行う。
【0033】
【数2】

【0034】
次に、位置指令フィルタ手段3に溜まる位置指令の初期値設定を行う。ここで、フィルタ前位置指令22とフィルタ後位置指令23が前回の速度制御時速度指令28の速度に相当する値となるときにフィルタ内部に溜まる位置指令を初期値として設定する。次に、指令位置36の初期値設定を行う。ここで、位置フィードバック信号34に前記位置偏差の初期値と、前記位置指令の初期値を加算したものを指令位置36の初期値として設定する。次に、前述した位置制御時の処理を行う。
【0035】
図4は、上位コントローラ1とモータ駆動装置間のデータの送受信、および各データの時間的な変化を表している。●印は現在位置を表しており、これにA’で表す仮の位置偏差と、B’で表す仮の位置偏差と、C’で表すモータ駆動装置から上位コントローラ1への伝送遅れ時間の間にモータが移動する量と、D’で表す上位コントローラ1の演算処理遅れ時間の間にモータが移動する量と、E’で表す上位コントローラ1からモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間にモータが移動する量とを加算した指令位置を▲印で表している。また、○印は目標位置指令を表している。
【0036】
位置制御時は、位置偏差24と位置指令フィルタ手段3に溜まった位置指令が目標位置指令21に対する現在位置35の遅れとなる。つまり、現在位置35に対し、位置偏差24と位置指令フィルタ手段3に溜まった位置指令の分だけ指令位置36は進んでいなければならない。そこで、速度制御時に位置ループ内の位置偏差24(図4ではA’)および位置指令フィルタ手段3に溜まる位置指令(図4ではB’)を仮計算し、現在位置35(図4では●印)に加算して速度制御時指令位置37を生成する。更に、モータ駆動装置から上位コントローラ1へ指令位置38が伝わるまでの時間と上位コントローラ1からモータ駆動装置へ目標位置指令21が伝わるまでの時間と上位コントローラ1の演算処理遅れ時間の和の間にモータが移動する移動量(図4ではC’とD’とE’の和)を速度制御時指令位置37に加算する(図4では▲印)。これにより、速度制御から位置制御への切り替わり時において、上位コントローラ1はモータ駆動装置から送信されてきた最新の指令位置38(図4ではIPOS[n−1])を元に目標位置指令21(図4ではTPOS[m])を生成すればよく、速度フィードフォワード手段4や位置指令フィルタ手段3を使用した場合においてもモータ駆動装置単体でシームレスな制御切替が実現できる。
【0037】
また、速度制御から位置制御への切替時に位置偏差24と位置指令フィルタ手段3内に溜まった位置指令および位置制御時指令位置36の初期値設定を行うことで、速度フィードフォワード手段4や位置指令フィルタ手段3を使用した場合においても制御切り替わり時の位置管理が正しく行え、位置ずれのない制御切替が実現できる。
【0038】
図5は、上位コントローラ1とモータ駆動装置間のデータの送受信及びモータ駆動装置の送信カウンタ値39及び受信カウンタ値40の時間的な変化を表している。
【0039】
図3の速度制御時のモータ駆動装置のブロック図において、モータ駆動装置は送信カウンタ値39(図5ではTCNT)を指令位置38と同時に上位コントローラ1へ送信する。上位コントローラ1は、送信カウンタ値39と同時に受信した他のデータと同じ演算処理を実行した後、速度制御時速度指令28と同時にモータ駆動装置へ送信し、モータ駆動装置は受信カウンタ値40(図5ではRCNT)として受信する。モータ駆動装置はTCNTとRCNTの差から、モータ駆動装置から上位コントローラ1へのデータ送信遅れ時間と上位コントローラ1からモータ駆動装置までのデータ送信遅れ時間に相当するカウンタ値を引けば、上位コントローラ1の演算処理遅れとなる。
【0040】
例えば、図5のTCNT[n−3]とRCNT[m]が同じ値の場合、RCNT[m]受信時のモータ駆動装置のカウンタ値はTCNT[n+2]となり、差は5となる。モータ駆動装置から上位コントローラ1へのデータ送信遅れ時間と上位コントローラ1からモータ駆動装置までのデータ送信遅れ時間に相当するカウンタ値はそれぞれ1と2となることから、上位コントローラ1の演算処理遅れ時間に相当するカウンタ値は2となる。
【0041】
なお、上位コントローラ1の演算処理遅れを時間に相当するカウンタ値はモータ駆動装置にパラメータとして設定してもよい。
【0042】
また、演算処理遅れ時間をモータ駆動装置の演算周期に基づくカウンタ値として説明したが、通信周期に変換してもよい。
【0043】
また、速度指令時を例に説明を行ったが、位置制御時に測定を行い、その後速度制御に切り替えてもよい。位置制御では、図2の位置制御時のモータ駆動装置のブロック図において、上位コントローラ1は、送信カウンタ値39と同時に受信した他のデータと同じ演算処理を実行した後、目標位置指令21と同時にモータ駆動装置へ送信すればよい。
【0044】
また、今回、モータ駆動装置と上位コントローラ1間の伝送遅れによる指令位置情報の遅れと上位コントローラ1の演算処理遅れを別の要素として扱っているが、モータ駆動装置から上位コントローラ1への送信データが上位コントローラ1で演算され、モータ駆動装置が上位コントローラ1からの指令として受信するまでの時間としてまとめて扱ってもよい。この場合、TCNTとRCNTの差そのものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のモータ駆動装置は、フィードバック制御で制御切替を行う装置などにも有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 上位コントローラ
2 位置指令生成手段
3 位置指令フィルタ手段
4 速度フィードフォワード手段
5 位置制御手段
6 速度制御手段
7 トルク制御手段
8 モータ
9 位置検出器
10 速度制御時指令位置算出手段
11 位置/速度制御切替手段
12 指令位置切替手段
21 目標位置指令
22 位置指令
23 フィルタ後位置指令
24 位置偏差
25 速度フィードフォワード指令
26 位置制御時速度指令
27 速度制御指令
28 速度制御時速度指令
29 速度指令
30 速度偏差
31 トルク指令
32 モータ駆動電流
33 速度フィードバック信号
34 位置フィードバック信号
35 現在位置
36 位置制御時指令位置
37 速度制御時指令位置
38 指令位置
39 送信カウンタ値
40 受信カウンタ値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上位コントローラからネットワーク通信で送信される目標位置指令および速度制御時速度指令により、位置制御および速度制御を行い、指令位置を前記上位コントローラへ送信するモータ駆動装置において、前記目標位置指令と前回の位置制御時指令位置から位置指令と位置制御時指令位置を生成する位置指令生成手段と、前記位置指令からフィルタ後位置指令を生成する位置指令フィルタ手段と、前記フィルタ後位置指令から速度フィードフォワード指令を生成する速度フィードフォワード手段と、位置制御を行うための位置制御手段と、速度制御を行うための速度制御手段と、現在位置から速度制御時指令位置を生成する速度制御時指令位置算出手段と、前記上位コントローラからの指令により位置制御と速度制御を切り替える位置/速度制御切替手段と、位置制御時は前記位置制御時指令位置が、速度制御時は前記速度制御時指令位置が前記指令位置なるよう切替を行う指令位置切替手段とを備え、前記速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量とを現在位置に加算して前期速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段において、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載のモータ駆動装置において、前記速度制御時指令位置算出手段にて、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラの演算処理遅れ時間の間のモータ移動量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時に、前回の前記速度制御時速度指令から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段にて、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1記載のモータ駆動装置において、前記速度制御時指令位置算出手段にて、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時において、前回の前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段にて、前記位置偏差量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1記載のモータ駆動装置において、前記速度制御時指令位置算出手段にて、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時にて、前回の前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量を前記指令フィルタ手段に溜まる位置指令の初期値とするとともに、前記位置指令生成手段にて、前記位置指令量を現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項5】
請求項1記載のモータ駆動装置において、前記速度制御時指令位置算出手段にて、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記上位コントローラからモータ駆動装置への伝送遅れ時間の間のモータ移動量と、前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量と、前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量とを現在位置に加算して速度制御時指令位置とし、速度制御から位置制御への切替時にて、前回の前記速度制御時速度指令および速度フィードフォワード手段から算出される位置偏差量を位置偏差の初期値に、前回の前記速度制御時速度指令から算出される前記位置指令フィルタ手段に溜まる位置指令量を前記指令フィルタ手段に溜まる位置指令の初期値とするとともに、
前記位置指令生成手段にて、前記位置偏差量と前記位置指令量とを現在位置に加算したものを位置制御時指令位置の初期値として設定した後、前記目標位置指令による位置制御を行う構成を具備するモータ駆動装置。
【請求項6】
請求項2から請求項5のいずれかに記載のモータ駆動装置において、前記速度制御時指令位置算出手段において、モータ駆動装置から前記上位コントローラへの送信データにモータ駆動装置のカウンタ値を追加し、同時に送信されるデータが前記上位コントローラで処理され、モータ駆動装置への指令として受信する際にもカウンタ値を追加し、そのカウンタ値の差から前記上位コントローラの演算処理遅れ時間を計測する構成を具備する請求項2〜5記載のモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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