説明

ユビキチンタンパク質に基づく人工結合タンパク質の生成

本発明は、“ユビキチン様タンパク質”のスーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みを有するタンパク質、及び、その断片又は融合タンパク質の修飾タンパク質に関する。前記修飾の結果、前記タンパク質は、以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有する。本発明は、また、前記タンパク質の製造及び利用の方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、“ユビキチン様タンパク質”のタンパク質スーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みモチーフ(フォールディングモチーフ)を有するタンパク質、及び、その断片又は融合タンパク質の修飾タンパク質であって、前記修飾の結果として以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を示すタンパク質に関し、並びに、これらのタンパク質の調製方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキチンは、小型、単量体、細胞質性のタンパク質であって、配列が高度に保存され、原生動物から脊椎動物まで既知の全ての真核生物に存在するタンパク質である。前記生命体において、ユビキチンは、細胞のタンパク質の制御分解の調節において重要な役割を果たす。この目的のために、分解に向かうことになっているタンパク質は、酵素のカスケードの通過の間にユビキチン又はポリユビキチン鎖に共有結合され、この標識のために選択的に分解される。最近の結果によれば、ユビキチン又はユビキチンによるタンパク質の標識は、別の細胞プロセス、例えば、いくつかのタンパク質のインポートやその遺伝子制御などにおいても同様に重要な役割を果たす(Marx, 2002;非特許文献1)。
【0003】
その生理的機能の解明に加えて、そもそも、その構造的及びタンパク質化学的特性のために、ユビキチンは、研究対象となっている。ユビキチンのポリペプチド鎖は、76アミノ酸からなり、並外れてコンパクトなα/β構造に折り畳まれて(フォールドされて)いる(Vijay-Kumar, 1987;非特許文献2)。そのペプチド鎖の87%のほとんどは、水素結合により、二次構造要素の形成に関与している。顕著な二次構造としては、3回転半のαへリックス、及び、4つの鎖からなる逆平行のβシートが挙げられる。これらの要素の特徴的な配置―タンパク質表面に露出した逆平行βシート、その裏側にαへリックスが包まれ、前記αヘリックスが前記βシート上に垂直に横たわる―は、一般的に、いわゆるユビキチン様折り畳みモチーフとみなされる。それ故、ユビキチンは、タンパク質スーパーファミリー(“ユビキチン様タンパク質”)又は、タンパク質ファミリー(“ユビキチン関連タンパク質”)の名称の起源となっている(Murzin et al., 1995;非特許文献3)。これらのタンパク質ファミリーは、例えば、SUMO‐1(Muller et al., 2001;非特許文献4)、FAU(Michiels et al., 1993;非特許文献5)、NEDD‐8(Kumar et al., 1993;非特許文献6)、UBL‐1(Jones and Candino, 1993;非特許文献7)及びGDX(Filippi et al., 1990;非特許文献8)などのような、前記モチーフ及び一次配列におけるユビキチンに対する高度の同一性を有するタンパク質を含む。その他の構造的特徴は、前記αへリックスと前記βシート間のタンパク質内部における際立った疎水領域である。
【0004】
その小さなサイズのため、ユビキチンの人工的な調製は、化学合成によっても、バイオテクノロジー手法によっても、同様に実施できる。その有利な折り畳み特性に起因して、ユビキチンは、遺伝子工学により、微生物、例えば、大腸菌などを使用して比較的大量にその細胞質又はペリプラズム空間に産生されうる。ペリプラズムにおける優勢な酸化条件のため、後者の戦略は、一般的に、分泌タンパク質の産生に用いられる。簡単で効率的なバクテリア調製のため、ユビキチンは、産生に問題のある他の異種タンパク質の調製のための融合パートナーとして使用されうる。ユビキチンへの融合を用いて、改善された溶解度及びそれによる改善された収率が達成されうる。このアプローチは、本発明において、ユビキチンを普遍的人工結合タンパク質として提供するために実施され、ユビキチンのタンパク質化学的特性の全く新規な利用を可能とする。
【0005】
天然の機能が人工的な用途―例えば、バイオテクノロジー、生物学的分析、又は、医学など―に利用されるこれらのタンパク質の中で、抗体(即ち、免疫グロブリン)は、主要な機能を果たす。任意に考えうる物質のほとんどに対して特異的に非共有結合する抗体の能力は、抗体を、リガンド、受容体若しくはその他の標的分子の認識、結合又は分離が必要な生物科学的用途のほとんど全てにとって、最も重要なツールとする。近年発達した大腸菌における抗体断片の機能的生合成方法は、免疫グロブリンの利用可能性をさらに拡大させたが、同時に、その困難性及び限界を示した。
【0006】
従来のタンパク質化学的方法によって主に得ることができたFab‐及びFv‐断片(Skerra and Pluckthun, 1988;非特許文献9)に加えて、遺伝子工学的手法を用いて、免疫グロブリンの分子構造(Dubel and Kontermann, 2001に概説;非特許文献10)、特に、一本鎖Fv断片(scFv)(Bird et al., 1988;非特許文献11)、ジスルフィド架橋Fv断片(dsFv)(Brinkmann et al., 1993;非特許文献12)並びに、二価(Carter et al., 1992;非特許文献13)及び二重特異性抗体断片(例えば、diabody(二重特異性抗体)、Holliger et al., 1993;非特許文献14)に起因した異なる人工的なコンストラクト(作成物)を開発することができた。診断及び治療における使用のため、二機能を有するタンパク質を、組換えIg断片のエフェクター分子への遺伝学的融合により得ることができる。このようにして、その他と共通して、アルカリホスファターゼ(Muller et al., 1999;非特許文献15)及び緑蛍光タンパク質(GFP;Griep et al., 1999;非特許文献16)への融合物を得ることができる。抗体断片の放射性同位体又は細胞毒性物質への融合物(免疫毒素複合体;Reiter and Pastan, 1998;非特許文献17)は、がん治療に対して潜在的に非常に重要である。この場合、それぞれのIg断片の腫瘍細胞特異的表面タンパク質への選択的結合が、部位特異的な治療応用(腫瘍ターゲティング)に利用される。
【0007】
大腸菌における抗体断片の調製法は、診断及び治療に対して十分な質及び量の提供ができるのみならず、それらのタンパク質及びその免疫化学的特性の簡単かつ迅速な修飾ができる。バクテリア宿主の容易な取り扱い性は、標準的な分子生物学的手法を用いたベクターにコードされる異種タンパク質遺伝子の直接的な改変を可能にする。標的抗体工学(Kontermann and Dubel, 2001;非特許文献18)を用いることにより、抗体断片は、例えば、結合親和性又は宿主適合性などについて最適化されうる。また、最も異なる標的物質、例えば、低分子量構造物若しくはタンパク質などに対して向けられた特異的な抗体又はその断片は、それぞれ、人工的に、即ち、免疫系から離れて、調製することができる。そのような進化した方法により、抗体断片の合成ライブラリを、ランダム変異を導入して調製し、その範囲内でヒトのレパートリーに近づけることができる(Knappik et al., 2000;非特許文献19)。例えば、ファージディスプレイ又はリボソームディスプレイ(Winter, 1998, Hoogenboom et al., 1998; Hanes et al., 2000;非特許文献20〜22)などのような戦略を適切に選択して用いることにより、望ましい結合特性を有する機能的Ig断片を成功裏に単離される。このようにして、例えば、古典的な免疫期間に毒性効果又は単なる弱い免疫反応を誘起するような抗原に対する結合タンパク質も得ることができる。
【0008】
上述したような抗体工学により提供される成果及び実現性にもかかわらず、いくつかの不利点が、抗体の実用を制限しうる。すなわち、それらを十分量供給することが問題となる。機能的抗体の産生は、真核細胞培養系、すなわち、並外れてコストが集中される方法で実施されるからである。さらに、そのサイズに起因する抗体分子の低組織透過性、及び、血清中の長期滞留時間(遅い血中クリアランス)は、それぞれ、多くの治療の適用を妨害する。より小型の抗体断片、例えば、scFv又はFab断片(上記参照)などは、バクテリアで、それ故基本的には低コストで、調製することができる。しかしながら、この組換え産物の収率は、望ましくない折り畳み特性及びいくつかのジスルフィド結合の形成の必要性が原因で、望ましいレベルよりも低い。さらに、組換え抗体断片は、しばしば、安定性を欠き、親抗体に比べて低い結合活性を示す。
【0009】
そのような制限を回避するため、抗体結合の原理、つまり、保存されたタンパク質骨格上に位置する超可変表面露出領域を用いた結合を他のタンパク質に付与する試みがなされている(Skerra, 2000;非特許文献23)。これは、本質的な可変ループが、人工的な結合特性を生むために変化されることを意味する。この目的のため、通常、天然型の結合タンパク質、例えば、リポカリン(Beste et al., 1999;非特許文献24)又は、フィブロネクチンIII型ドメイン(Koide et al., 1998;非特許文献25)などのようなものが、抗体と同じような方法で、可動性“ループ”構造から結合部位が形成される開始点として使用される。そして、その可動性“ループ”構造の修飾は、天然型のものとは異なるリガンドの認識を可能とする。
【0010】
あるいは、WO01/04144(特許文献1)によれば、それ自体は結合部位を欠いたβシート構造タンパク質において、結合部位をそのタンパク質表面に人工的に作り出すことができる。これを用いて、新規に作り出された人工結合部位(下記参照)、例えば、γ‐クリスタリン(眼レンズの構造タンパク質)のバリエーションであって、予め定められた物質と定量化できるほどの親和性及び特異性で相互作用するものを得ることができる。既に存在する結合部位、及び上記で見本として述べたような可動性“ループ”構造から形成された結合部位の修飾と対照的に、これらは、WO01/04144(特許文献1)において表面βシート上に新規に生成されたものである。しかしながら、WO01/04144(特許文献1)は、単に、新規結合特性の生成のための比較的大きなタンパク質の改変を述べているに過ぎない。そのサイズに起因して、WO01/04144(特許文献1)に記載のタンパク質は、いくばくかの努力のみを必要とする方法によって遺伝子工学レベルで修飾されうる。さらに、これまでのところ、開示されたタンパク質において、全アミノ酸に対するパーセンテージの単位で比較的少ない割合のみが修飾されている。これは、そのタンパク質の全体的な構造を維持するためである。それ故、タンパク質表面の比較的小さな領域のみしか、それ以前に存在しなかった結合特性の生成のために利用できない。さらに、WO01/04144(特許文献1)は、小型の低分子量分子に対する結合特性の生成を実験レベルで開示しているのみで、より大きな分子、例えば、タンパク質などのようなものに対しては開示していない。
【特許文献1】国際公開第01/04144号パンフレット
【非特許文献1】Marx, J. (2002) Ubiquitin lives up to its name. Science 297, 1792-1794.
【非特許文献2】Vijay-Kumar, S., Bugg, C.E., and Cook, W.J. (1987) Structure of ubiquitin refined at 1.8 A resolution. J. Mol. Biol. 194, 531-544.
【非特許文献3】Murzin A.G., Brenner S.E., Hubbard T., and Chothia C. (1995). SCOP: a structural classification of proteins database for the investigation of sequences and structures. J. Mol. Biol. 247, 536-540.
【非特許文献4】Muller, S., Hoege, C., Pyrowolakis, G., and Jentsch, S. (2001) SUMO, ubiquitin's mysterious cousin. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2, 202-210.
【非特許文献5】Michiels, L., Van der Rauwelaert, E., Van Hasselt, F., Kas, K., and Merregaert, J. (1993) Fau cDNA encodes a ubiquitin-like-S30 fusion protein and is expressed as an antisense sequence in the Finkel-Biskis-Reilly murine sarcoma virus. Oncogene 8, 2537-2546.
【非特許文献6】Kumar, S., Yoshida, Y., and Noda, M. (1993) Cloning of a cDNA which encodes a novel ubiquitin-like protein. Biochem. Biophys. Res. Comniun. 195, 393-399.
【非特許文献7】Jones, D. and Candido, E.P. (1993) Novel ubiquitin-like ribosome protein fusion genes from the nematodes Caenorhabditis elegans and Caenorhabditis briggsae. J. Biol. Chem. 268, 19545-195451.
【非特許文献8】Filippi, M., Tribioli, C., and Toniolo, D. (1990) Linkage and sequence conservation of the X-linked genes DX253 (P3) and DXS254E (GdX) in mouse and man. Genomics 7, 453-457.
【非特許文献9】Skerra, A. (2000) Engineered protein scaffolds for molecular recognition. J. Mol. Recognit. 13, 167-187.
【非特許文献10】Dubel, S. and Kontermann, R.E. (2001) Recombinant Antibodies. In: Kontermann, R. and Dubel, S. (Hrsg.) "Antibody Engineering. "Springer Verlag, Heidelberg.
【非特許文献11】Bird, R.E., Hardman, K.D., Jacobson, J.W., Johnson, S., Kaufman, R., Lee, S.M., Pope, H.S., Riordan, G.S., and Whitlow, M.( 1988) Single-chain antigen-binding proteins. Science 242, 423-426.
【非特許文献12】Brinkmann, U., Reiter, Y., Jung, S.H., Lee, B., and Pastan, I. (1993) A recombinant immunotoxin containing a disulfide-stabilized Fv-fragment. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90, 7538-7542.
【非特許文献13】Carter P, Kelley RF, Rodrigues ML, Snedecor B, Covarrubias M, Velligan MD, Wong WL, Rowland AM, Kotts CE, Carver ME, and et al (1992) High level Escherichia coli expression and production of a bivalent humanized antibody fragment. Biotechnology 10, 163-167.
【非特許文献14】Holliger, P., Prospero, T., and Winter, G. (1993) "Diabodies": small bivalent and bispecific antibodies. Proc. Natl. Sci. USA 90, 6444-6448.
【非特許文献15】Muller, B.H., Chevrier, D., Boulain, J.-C., and Guesdon, J.-L. (1999) Recombinant single-chain Fv antibody fragment-alkaline phosphatase conjugate for one-step immunodetection in molecular hybridization. J. Immunol. Methods 227, 177-185.
【非特許文献16】Griep, R.A., van Twisk, C., van der Wolf, J.M., and Schots, A. (1999) Fluobodies: green fluorescent single-chain Fv fusion proteins. J. Immunol. Methods 230, 121-130.
【非特許文献17】Reiter, Y. and Pastan, I. (1998) Recombinant Fv immunotoxins and Fv fragments as novel agents for cancer therapy and diagnosis. Trends Biotechnol. 16, 513-520.
【非特許文献18】Dubel, S. and Kontermann, R.E. (2001) Recombinant Antibodies. In: Kontermann, R. and Dubel, S. (Hrsg.) "Antibody Engineering. "Springer Verlag, Heidelberg.
【非特許文献19】Knappik, A., Ge, S., Honegger, A., Pack, P., Fischer, M., Wellnhofer, G., Hoess, A., Wolle, J., Pluckthun, A., and Virnekas, B. (2000) Fully synthetic human combinatorial antibody libraries (HuCAL) based on modular consensus frameworks and CDRs randomized with trinucleotides. J. Mol. Biol., 296, 57-86.
【非特許文献20】Winter, G. (1998) Synthetic human antibodies and a strategy for protein engineering. FEBS Lett. 430, 92-94.
【非特許文献21】Hoogenboom, H.R., de Bruine, A.P., Hufton, S.E., Hoet, R.M., Arends, J.W., and Roovers, R.C. (1998) Antibody phage display technology and its applications. Immunotechnology 4, 1-20.
【非特許文献22】Hanes, J., Schaffitzel, C., Knappik, A., and Pluckthun, A. (2000) Picomolar affinity antibodies from a fully synthetic naive library selected and evolved by ribosome display. Nature Biotechnology 18, 1287-1292.
【非特許文献23】Skerra, A. (2000) Engineered protein scaffolds for molecular recognition. J. Mol. Recognit. 13, 167-187.
【非特許文献24】Beste, G., Schmidt, F.S., Stibora, T., and Skerra, A. (1999) Small antibody-like proteins with predescribed Ligand specificities derived from the lipocalin fold. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 96, 1898-1903.
【非特許文献25】Koide, A., Bailey, C.W., Huang, X., and Koide, S. (1998) The fibronectin type III domain as a scaffold for novel binding proteins. J. Mol. Biol. 284, 1141-1151.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
それ故、本発明は、選択された結合パートナーに対して以前は存在しなかった新規な結合親和性を示し、上述した不利点を示さないタンパク質の提供を目的とする。本発明は、また、抗体の代替分子であって、上述した抗体の不利点を示さない代替分子の生成を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、この目的は、請求項1に記載の修飾タンパク質であって、大部分は開始タンパク質、例えば、ユビキチンなどのタンパク質構造に基づき、その表面に人工的に生成された結合部位を有するタンパク質を提供することで達成される。
【0013】
特に、本発明は、“ユビキチン様タンパク質”のスーパーファミリーのタンパク質、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフをそれぞれ有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、前記タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域であってβシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む領域における1つ以上のアミノ酸の修飾に起因して以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を示し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフが保持されているタンパク質を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上述のとおり、本発明は、置換、挿入、欠失、化学修飾又はこれらの組み合わせにより修飾され、“ユビキチン様タンパク質”のタンパク質スーパーファミリーのタンパク質、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、この修飾に起因して以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を示し、下記方法により得ることができるタンパク質に関する。
a)修飾するタンパク質を選択し;
b)結合パートナーを決定し;
c)βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む前記タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域におけるアミノ酸を選択し;
d)前記選択アミノ酸を、置換、挿入、欠失、及び/又は、化学修飾により修飾し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフを保持し;
e)前記修飾タンパク質を、工程b)で決定した前記結合パートナーと接触させ、
f)工程b)で予め定めた前記結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質を検出する。
【0015】
さらに、本発明は、それぞれ、上述したユビキチンに基づく修飾タンパク質の調製方法、及び、これらの修飾タンパク質の使用方法を提供することを目的とする。
【0016】
したがって、本発明は、さらに、“ユビキチン様タンパク質”のスーパーファミリーのタンパク質、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフをそれぞれ有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、1つ以上のアミノ酸の修飾に起因して予め定められた結合パートナーに対する以前は存在しなかった結合親和性を示し、下記方法により得ることができるタンパク質の調製方法を開示する。
a)修飾するタンパク質を選択する工程。
b)結合パートナーを決定する工程。
c)βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む前記タンパク質の表面露出領域におけるアミノ酸を選択する工程。
d)前記選択アミノ酸を、好ましくは、置換、挿入、欠失、及び/又は、化学修飾により修飾し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフを保持する工程。
e)前記修飾タンパク質を、工程b)で決定した前記結合パートナーと接触させる工程。
f)工程b)で予め定めた前記結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質を検出する工程。
【0017】
このように、本発明は、それぞれ、タンパク質又はポリペプチドの修飾により調製され、それぞれ、本願において定義するユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質又はポリペプチドを提供する。これらは、“ユビキチン様タンパク質”タンパク質スーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みモチーフを有する全てのタンパク質、及び、これらのタンパク質の断片又は融合タンパク質を含むタンパク質であって、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するという条件付きのタンパク質である。これらのタンパク質又はポリペプチドから開始して、この開始タンパク質又はポリペプチドの1つ以上のアミノ酸が修飾される。前記修飾は、特に、アミノ酸の置換を含み、また、同様に、1つ以上のアミノ酸の挿入及び欠失、並びに、アミノ酸の化学修飾を含む。これらの修飾は、修飾されるタンパク質の少なくとも1つの表面露出領域において実行される。少なくとも1つのアミノ酸の前記修飾は、βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖を含み、前記βシート鎖は、前記タンパク質の表面に局在する必要がある。結合パートナー又はリガンドが、前記修飾タンパク質に測定しうる親和性で結合できるように接近可能とするためである。本発明のその他の実施態様として、βシート領域のβシート鎖の改変に加えて、非βシート領域も同様に修飾される。前記領域は、表面露出であることが好ましい。前記予め定めた結合パートナーに対する結合親和性に影響を与え、好ましくは、結合親和性を増大させ、ひいては、特異性を向上させるためである。
【0018】
当該技術分野の当業者は、1つ以上のアミノ酸の修飾のためのそれ自体公知のさまざまな技術を利用できる。これらは以下により詳細に記載する。加えて、Ausuebel et al., 1994及び Sambrook et al., 1989の刊行物を参照できる。
【0019】
ユビキチンの非表面露出コア領域におけるアミノ酸修飾は、既に公知である(Finucane et al., Biochemistry, vol. 38, No. 36, 1999 又は Lazar et al., Protein Science (1997), 6: 1167-1178)。その中でなされた改変は、結合に関与しない位置に対して行われており、疎水性コア内という位置に起因して、溶媒又は予定される結合パートナーに接近できない。
【0020】
以下において、“以前に存在しなかった結合特性”、及び、新規に生成された人工結合部位の用語の意味を、それぞれ、本発明に照らして説明する。これらの用語は、その修飾タンパク質が、以前は前記修飾領域において予め定められた結合パートナー又はユビキチンの天然の結合パートナーに対して結合特性を示さないことを意味する。本発明のその他の実施態様において、修飾されるタンパク質は、予め定められる結合パートナーに対して結合親和性を示さないものが選択される。前記結合パートナーは、また、リガンドとして定義できるが、本発明により修飾されたタンパク質に対して測定可能な親和性を有する。本発明において、定量化できる結合特性、すなわち、前記パートナーが結合する親和性の存在のための最低限の値は、形成される複合体の解離定数KD=10-5M又はそれ未満である。10-5M及びそれ未満の値は、定量化できる結合親和性とみなすことができる。用途に依存して、10-6M〜10-12Mの値が好ましく、例えば、クロマトグラフィーの用途であれば、10-7M〜10-11Mの値がより好ましく、又は、例えば、診断若しくは治療の用途であれば、10-9M〜10-12Mの値がより好ましい。さらに好ましい結合親和性は、10-7M〜10-10Mの範囲であって、好ましくは、〜10-11Mの範囲である。結合親和性の測定方法は、それ自体公知であり、以下のページでさらに述べる。
【0021】
本発明において、修飾は、アミノ酸の置換、挿入、欠失、又は、化学修飾を意味することを意図される。
【0022】
本発明において、修飾されるタンパク質として、“ユビキチン様タンパク質”スーパーファミリーのタンパク質を使用できる。本発明において、このスーパーファミリーは、Murzin et al. (1995)においてリスト化される下位集団を含む。これらは、例えば、“ユビキチン関連タンパク質”、“UBXドメイン”、“GABARAP様”、“RAS結合ドメイン”などのタンパク質ファミリーを含む。好ましくは、“ユビキチン関連タンパク質”のタンパク質ファミリーのタンパク質が使用される。本発明において、これらのタンパク質は、同様に、ユビキチン様折り畳みモチーフを含む。これらの例としては、SUMO‐1、FAU、NEDD‐8、UBL‐1、及び、GDX、並びに、Rub1、APG8、ISG15、URM1、HUB1、elonginB、PLIC2(N末ドメイン)、ヒトparkin(N末ドメイン)などが挙げられる。
【0023】
本発明において使用できるユビキチン様タンパク質スーパーファミリーに由来するタンパク質は、広範囲に特徴付けされている。単なる例示として、次のインターネットサイトを参照できる:http://bip.weizmann.ac.il/scop/index.html。このサイトによれば、ユビキチン様タンパク質のファミリーは、ユビキチン関連タンパク質のファミリーが属するスーパーファミリーとして定義される。このスーパーファミリーの全てのメンバーは、主に、逆平行様式に配置されたβシートにより特徴付けされ、α及びβのセグメントに細分される。その折り畳みは、β‐グラスプ(Grasp)として定義され、ひいては、ユビキチン様として定義される。そのコア領域は、次のように定義される:β(2)‐α‐β(2)。ここで、数字は、鎖の数を示し、そして、βシートを形成する鎖の総計を示す。混合したβシートの配置は、2143であって、前記シートを上から見て左から右に見た場合(アミノ末端が底部で、カルボキシ末端が上部)の鎖の位置を意味する。それ故、ユビキチン様タンパク質のメンバーの特徴は、前記タンパク質の1つの表面に露出した逆平行βシートであって、その裏側にαへリックスが包まれ、前記αへリックスが前記βシートの上に垂直に横たわる。このユビキチン様折り畳みモチーフは、本発明において使用され修飾されうるタンパク質の特徴であって、前記ファミリーのメンバーと他のタンパク質とを明確に区別することができる。この定義を考慮すると、PLIC‐2のユビキチン様N末端ドメイン及びparkinのユビキチン様ドメインも同様に、本発明に含まれる。
【0024】
当該技術分野の当業者は、配列比較、いわゆるアライメントを用いて、又は、構造的考察により、そのタンパク質がユビキチン様タンパク質のタンパク質スーパーファミリーのメンバーか否かについて、予め判断することができる。当然ながら、最後の証拠は、いつも構造解析から得られる。例えば、X線結晶学又は多次元核磁気共鳴分光学による構造解析が挙げられる。最近では、遺伝学的アルゴリズムを使用した構造解析もまた、よい予測を与えうる。
【0025】
ユビキチンスーパーファミリーについてのさらなる情報は、例えば、Larsen et al., 2002の刊行物に見ることができる。加えて、Buchberger et al., 2001の刊行物を参照できる。Buchbergerは、典型的なβグラスプの折り畳みを、β‐β‐α‐β‐β‐α‐βの構成の二次構造、即ち、21534の配置の“混合シート”を形成する5本のβ鎖が配置されたユビキチン様タンパク質の特徴として表現する。この点において、UBXは、その一次配列において、例えば、ユビキチンと有意な相同性は有さない(Buchberger et al., 2001)。しかし、この事実にもかかわらず、UBXは、その三次元構造が、例えば、ユビキチンのそれと同一であるため、ユビキチン様タンパク質として分類されることを指摘しなければならない。この点において、ユビキチンの48及び49の位置のアミノ酸は、しばしば余分なβ鎖とみなされる(Vijay-Kumar, 1987)。この第5の鎖は、構造において前記ヘリックスの後ろ側に位置し、21534の配置を“混合シート”に与えているが、しかしながら、2アミノ酸のみからなり、2アミノ酸のこの鎖をβシート鎖ということができるかどうかは、実際疑問に思われうる。しかしながら、上記で説明したとおり、Buchberger et al., 2001によれば、21534の配置を有するタンパク質も同様に問題なくユビキチン様タンパク質のスーパーファミリーに分類することができる。本発明において、より詳細は上記に記載した2143の定義は、ユビキチンにおけるβ鎖の配置として選択される。
【0026】
上述したファミリー及びスーパーファミリーのタンパク質は、通常、高度に保存されている。現在の知識によれば、例えば、ユビキチンは、全ての哺乳類で同一のアミノ酸配列を有する。酵母のユビキチンは、この配列と3つのアミノ酸のみ異なる。ヒトユビキチン又は哺乳類のユビキチンは、それぞれ、76アミノ酸からなり、初めの方に記述した前記構造を有する。
【0027】
本発明において、修飾されるタンパク質は、修飾される開始タンパク質、例えば、ヒトユビキチンに対して、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%若しくは50%、さらに好ましくは少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は、少なくとも95%のそのアミノ酸配列における同一性を有するタンパク質であって、どのような場合であっても、前記タンパク質は、上記で詳細に定義したとおりのユビキチン様折り畳みモチーフを有する。
【0028】
本発明において、上述のタンパク質の断片も、それらが上述したユビキチン様折り畳みモチーフを有する限り含まれ、上述のタンパク質の他のタンパク質への融合物も同様である。そのような断片及び融合タンパク質の場合、本発明の枠組みにおいて言及されるアミノ酸の位置は、常に、ヒトユビキチンにおけるそれぞれの位置を参照する。融合パートナーの例としては、(レポーター)酵素、毒素、又は、その他の結合タンパク質などが挙げられる。さらに、例えば、ビオチン、ジゴキシゲニン、蛍光及び/又は発光物質などのような低分子量物質への化学的結合も実施できる。
【0029】
融合タンパク質の場合、既に融合されたタンパク質を本発明に従って修飾できる。しかしながら、修飾又は選択の後にセグメントを融合することも、同様に本発明に含まれる。どちらの場合であっても、当該技術分野の当業者に公知の方法により実施できる。
【0030】
本発明において、修飾タンパク質の調製のために選択されるタンパク質は、ヒトユビキチン又はその他に由来するユビキチン、例えば、その他の哺乳類のユビキチンが好ましい。それ故、以下においては、特に、ヒトユビキチンを例示的に使用して本発明について記載する。ヒトユビキチンの修飾は、以下で、突然変異タンパク質(mutein)として参照され、予め定められた結合パートナーに対して以前は存在しなかった結合親和性を示すタンパク質を得るためのいくつかの実施例を用いて説明する。哺乳類のユビキチンとしては、哺乳類の分野の中でも、特に、げっ歯類、家畜及び農業動物のユビキチンを使用できる。本発明により調製されたタンパク質の使用分野が既知の場合、即ち、本発明の修飾タンパク質が、例えば、ヒトの疾病治療のための医薬組成物として使用される場合、ヒトタンパク質を修飾される開始タンパク質として使用することが好ましい。このことは、対応する使用分野でも適用される。以下に示される説明は、単に例としてヒトユビキチンに基づいていることに留意すべきである。この明細書の詳細な説明及び示される実施例に基づいて、当該技術分野の当業者は、本発明に従い、ユビキチン特異的折り畳みモチーフを有するタンパク質をさらに修飾できる。それ故、本発明は、ヒトユビキチン又は一般的なユビキチンに限定されない。しかしながら、この点についての指示及び説明は、本発明の特に好ましい例示的な実施態様とみなされる。
【0031】
上述のとおり、ヒト及び哺乳類のユビキチンは、それぞれ、76アミノ酸を有している。逆平行βシートの形成に寄与する4つのβ鎖のアミノ酸は、本発明において、また、PDBデータベース(http://www.rcsb.org/pdb/index.html)の構造1UBQに一致して、次の位置のアミノ酸である。
【0032】
第1鎖(アミノ末端):2〜7; 第2のβシート鎖:12〜16; 第3鎖:41〜45; 第4鎖(カルボキシ末端):66〜71。前記鎖の位置は、前記シートを上から見て(アミノ末端が底部で、カルボキシ末端が上部)、左から右に見た場合、第2鎖、第1鎖、第4鎖、第3鎖であって、第1鎖と第4鎖の間のポリペプチド鎖がαヘリックスを形成する。
【0033】
修飾されるアミノ酸の選択と修飾:
対応する構造データ、例えば、Protein Data Bank(商標)(Berman et al., 2000; http://www.rcsb.org/pdb)から自由に入手できる構造データに基づき、開始タンパク質、例えば、ユビキチンタンパク質骨格におけるアミノ酸の位置であって、その側鎖が表面に露出している、即ち、溶媒又は予定される結合パートナーの方に向いているアミノ酸の位置は、コンピューター解析を用いて突き止めることができる。さらに、開始タンパク質、例えば、ユビキチンのアミノ酸であって、そのランダムな置換がタンパク質骨格の安定性にマイナスの効果を与えないか、与えてもわずかであると推定されるアミノ酸も、コンピューター解析により同定できる。この情報は、各単一アミノ酸の結合部位の要素としての適合性についての第一の指標とすることができ、また、その次に実験的検証を必要とする。本発明の好ましい実施態様においては、例えば、ヒトユビキチンの第2、4、6、62、63、64、65及び66番目の位置のアミノ酸が、その表面露出及びランダム置換に対する全体的構造の許容度に起因して、選択された。前述の位置は、それぞれ、アミノ末端の第1βシート鎖の始まり部分(位置2、4、6)、及び、ループ部分(位置62、63)、又は、カルボキシ末端の第4βシート鎖の始まり部分(位置64、65、66)で、互いに空間的に近接して局在し、それらのアミノ酸側鎖でユビキチン表面上に隣接する領域を形成する(図1)。解析される領域のランダムアミノ酸置換(“ランダム化”)によって、―抗体の抗原結合部位と同様の様式で―その他の点では無傷なユビキチンのタンパク質構造上に超可変表面露出領域を生成できる。
【0034】
ProSAIIソフトウエア(“Protein Structure Analysis”、Proceryon Biosciences、ザルツブルグ)を使用して、例えば、104のバリエーションのタンパク質安定性を、ユビキチン(WT)及び“対照エピトープ”残基が置換されたバリエーション(ランダム化された位置は、第24、28、31、32、35、37、38、39番目)からランダムに得られた同数のサンプルと比較して測定することができた。この場合、前記結合部位の領域がランダムに置換されてインシリコで生成されたバリエーションの約19%が、少なくとも、ユビキチン(WT)と同程度の安定を示す。一方、約90%が、前記“対照エピトープ”を有するものに比べてより安定である(図2)。このコンピューターに基づく結果は、適したアミノ酸の選択の基礎として使用できる。
【0035】
好ましい実施態様によれば、―入手可能なヒトユビキチンの構造データから開始して―結合部位が生成される領域の8アミノ酸の位置が、まず、選択された。この領域の一次配列のランダムな改変(ランダム変異導入)及びそれに続く特異的選択により、予め定められたハプテン若しくは抗原、又は、予め定められた結合パートナー全般に対して、それぞれ、望ましい結合活性を示すバリエーションを得ることができる。このようにして得られた修飾タンパク質に新規な結合特性が与えられるけれども、これらは、構造及びタンパク質化学的性質において開始タンパク質と高度に同一のままである。それ故、それらは、予め定めたリガンドに対する高い親和性及び特異性とともに、例えば、小さなサイズ、高い安定性、コスト効率が高い調製、及び、容易な修飾などのような利点も提供する。この点において、人工結合タンパク質の生成のための骨格構造としてのユビキチンの適合性は、予測することはできなかった。なぜなら、1)広範囲のアミノ酸置換に対する骨格の許容度は、ユビキチンの小さなサイズのために予測できなかったからであり、2)強固で柔軟性がないと見られているβシートを含む人工結合部位の機能性は、前には可能であるとは見られていなかったからである。
【0036】
本発明において、抗原は、抗体に結合される物質を参照する。抗原の用語は、ハプテン、ペプチド、タンパク質、糖、DNAなどを含む。Roche Lexikon Medizin(4th edition; http://www.gesundheit.de/roche)から、抗原及びハプテンについて次の定義を得ることができ、本発明においても使用される。
【0037】
抗原(AG):免疫系により異種(“非自己”)であると認識されるあらゆるものの称号。ほとんどの場合、免疫反応を引き起こし、免疫に至る(=“免疫原”);アレルギー(=“アレルゲン”)及びアトピー(=“アトピゲン”)の場合、それぞれ、この免疫反応が拡大する。AGは、体液性(抗原抗体反応)及び/又は細胞性防御反応(免疫、下記参照)を誘導する。AGが免疫系により許容される場合(免疫寛容)、“免疫寛容原”ともいう。主に、免疫反応に関与する化学的に同定可能な機能性(決定基)を有する複合体やより大きな分子量の物質(タンパク粒、多糖、ヌクレオチド、及び多くの合成化合物)は、抗原として有効である。分類としては、1)完全AG、ほとんどの場合より大きな分子量であり、それ自身で免疫反応を誘導できるものとして、及び、2)低分子量ハプテン(=half antigen)、より大きなキャリア分子と結合した後でのみ免疫原として作用するものとして、分類される。例えば、異種‐、アロ‐又は同系‐、自系AG;自己‐、ヘテロ‐、移植‐、抗腫瘍ウイルスAGなどと呼ばれる。
【0038】
ハプテン:抗原(AG)の特異性に関与し、又は、その構造(決定基)に起因して抗体と特異的に結合できる簡単な、低分子量化合物であるが、完全AGと対照的にアレルギーを生じることはできない。キャリアと呼ばれるタンパク粒と結合した後に完全な抗原(抗原)となる。
【0039】
本発明を使用すれば、例えば、腫瘍マーカーなどのような非免疫原性物質に対し結合パートナーとして結合特性を有するユビキチンのバリエーションを同様に生成できることに留意すべきである。
【0040】
本発明の好ましい実施態様において、修飾、好ましくは、置換は、一次配列において直接隣接する少なくとも2又はそれ以上のアミノ酸について部分的に行う。ここで、互いに前記直接隣接するアミノ酸は、三次構造において、そのタンパク質のβシート鎖の少なくとも一部分に位置することがより好ましい。一般的に、タンパク質におけるどのアミノ酸の置換も、そのタンパク質の安定性の低下を伴う。単一置換は、たいてい、隣接するアミノ酸の影響に起因して広範囲に不安定化することなく許容されうる。しかしながら、全体の領域、即ち、例えば、いくつかの隣接アミノ酸からなる構造全体が変化した場合、直接的に隣接するアミノ酸に起因する安定化の効果はもはや期待できない。それ故に、これまでの従来技術においては、互いに直接隣接しないアミノ酸のみがユビキチンにおいて修飾された。直接隣接するアミノ酸の修飾によるこのような広範囲にわたるタンパク質の改変の後に、前記タンパク質の安定性が実質的に低下しないことは驚愕すべきことであった。ユビキチン又はユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質における2つの直接的に隣接するアミノ酸がタンパク質の安定性及び構造にマイナスの影響を与えることなく置換できるという事実単独でも、驚愕すべきことであり、予期することができなかったことである。
【0041】
特に、比較的小さなユビキチンの場合、直接隣接したアミノ酸の修飾は、なおさら、互いに直接隣接していないアミノ酸の場合よりも遺伝子工学によりこのタイプの修飾を施すことが一層容易になるという利点を有する。それ故、この実施態様において、大多数の修飾タンパク質の簡易化された生成が、タンパク質レベル及びDNAレベルにおいて提供されうる。
【0042】
直接隣接したアミノ酸の置換数は、好ましくは、2〜10であり、より好ましくは、2〜8の一次配列において互いに直接隣接したアミノ酸であり、さらに好ましくは、3〜7又は4〜6の一次配列において互いに直接隣接したアミノ酸である。
【0043】
一次配列において互いに直接隣接したアミノ酸が置換された場合、これらのアミノ酸の部分がβシート鎖領域に及ぶことができる。βシート鎖領域にわたるこの部分は、2以上のアミノ酸長、好ましくは、2又は3つのアミノ酸長を有することができる。それ故、直接隣接したアミノ酸の領域は、βシート鎖領域の始まりの部分又は終わりの部分であって、好ましくは、約2〜3のアミノ酸の長さを有する。
【0044】
さらに好ましい実施態様において、5以上の直接隣接したアミノ酸が修飾、好ましくは、置換される。ここで、2以上、好ましくは、2又は3の直接隣接したアミノ酸が、βシート鎖領域の始まりの部分又は終わりの部分を形成する。この場合、好ましくは、8、9又は10のアミノ酸、特に好ましくは、8アミノ酸が、直接隣接した修飾アミノ酸の総数の上限とみなすことができる。
【0045】
ユビキチンのβシート鎖における直接隣接したアミノ酸の修飾の場合であって、これらのアミノ酸がβシート鎖の始まり又は終わりである場合、一般的に、これらのアミノ酸は、全て表面に露出している。この場合、全てのアミノ酸が、新規な結合特性の生成に関与していると推測することができる。
【0046】
本発明の好ましい実施態様において、これらのアミノ酸は、新規な結合特性を有する領域であって、タンパク質の表面上の隣接する領域を形成する領域を生成するために修飾される。このようにして、以前は存在しなかった結合特性を有する隣接する領域を生成することができる。本発明において、“隣接する領域”は、次の事項を参照する:それらの側鎖のチャージ、空間構造及び疎水性/親水性に起因して、アミノ酸が類似する様式でそれらの環境と相互作用する。前記環境は、溶媒、一般には水、又は、例えば、空間的にアミノ酸に近い他の分子がなりうる。タンパク質についての構造情報及びそれぞれのソフトウエアを用いて、前記タンパク質の表面を特徴付けできる。例えば、タンパク質の原子と溶媒との間の界面領域は、このようにして、どのようにこの界面領域が構成され、その表面領域が溶媒に接近できるのかについて、又は、どのようにチャージが表面上に配置されているかについての情報を含み、視覚化できる。隣接する領域は、例えば、適切なソフトウエアを使用したこのタイプの視覚化により、明らかにすることができる。このような方法は、当該技術分野の当業者に公知である。本発明によれば、基本的に、表面露出領域全体を、新規結合特性の生成のため修飾される表面上の隣接する領域として使用することができる。好ましくは、この目的のために、修飾は、さらに、αヘリックス領域を含むことができる。
【0047】
タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域であって、βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖が含む領域のアミノ酸を修飾することが重要である。βシート構造は、本質的にシート状であり、ほぼ完全に伸長していることにより定義される。連続したポリペプチド鎖のセグメントから形成されるαヘリックスと対照的に、βシートは、ポリペプチド鎖の異なる領域から形成されうる。このようにして、一次構造では空間的に一層遠くに離れた領域が、互いに近接することができる。β鎖は、一般的に、5〜10アミノ酸長であって、ほぼ完全に伸長した立体構造である。β鎖は、互いに近接しており、一方の鎖のC=O基と他方の鎖のNH基との間で、また、逆の場合も同じに、水素結合が形成される。βシートは、いくつかの鎖から形成され、シート状の構造を有することができ、Cα原子の位置が、シート状平面の上と下の間を行ったり来たりする。アミノ酸側鎖は、このパターンに従い、従って、二者択一的に、上の方向又は下の方向を指す。β鎖の方向に依存して、シートは、平行シート及び逆平行シートに分類される。本発明においては、両方ともに、変異され請求されたタンパク質の調製に使用される。
【0048】
βシート構造の突然変異生成のため、タンパク質において表面に近いβシート領域が選択される。表面露出アミノ酸は、入手可能なX線結晶学構造により同定することができる。結晶構造が入手できない場合には、コンピューター解析を用いて、入手可能な一次構造(www.embl heidelberg.de/predictprotein/predictprotein.html)により表面露出βシート領域及び各アミノ酸位置の接近性を予測し、又は、3dタンパク質構造をモデル化し(www.expasy.ch/swissmo/SWISS-MODEL.html)、こうして潜在的な表面露出アミノ酸についての情報を得る試みをすることができる。
【0049】
しかしながら、βシートにおける突然変異生成を実施して、突然変異させるアミノ酸位置の時間のかかる事前選択を省くことも可能である。βシート構造をコードするDNA領域を、DNA環境から単離し、ランダム突然変異を導入し、その後、以前にそれらが除去されたタンパク質をコードするDNAに再び組み込む。この後に、望ましい結合特性を有する変異体の選択工程が続く。
【0050】
本発明のその他の実施態様において、表面に近いβシート領域は、既に上記で詳しく述べたとおり選択でき、これらの選択された領域内の突然変異導入するアミノ酸位置を同定できる。このように選択されたアミノ酸位置は、その後、部位特異的突然変異生成によりDNAレベルで突然変異を導入する。即ち、特定のアミノ酸をコードするコドンを、予め選択されたその他の特異的なアミノ酸をコードするコドンに置換する。この置換は、ランダム突然変異生成により実施してもよい。この場合、置換されるアミノ酸位置は確定されるが、新規でまだ決定されないアミノ酸をコードするコドンは確定されない。
【0051】
表面露出アミノ酸は、周囲の溶媒に接近可能である。タンパク質のアミノ酸の接近性が、モデルトリペプチドGly‐X‐Glyのアミノ酸の接近性と比較して、8%を超える場合、そのアミノ酸は、表面露出と呼ばれる。これらのタンパク質領域又は各アミノ酸位置もまた、それぞれ、本発明により選択される予定される結合パートナーに対する好ましい結合部位である。加えて、Connolly et al., 1983及びShrake et al., 1973を参照でき、その完全な開示は、参照することにより本願に含まれる。
【0052】
新規に生成された人工結合部位の領域のアミノ酸置換によりその親タンパク質及び互いに異なるユビキチンタンパク質骨格のバリエーションは、それぞれの配列セグメントの標的突然変異導入により生成できる。この場合、例えば、極性、チャージ、溶解度、疎水性若しくは親水性などのような特定の特性を有するアミノ酸は、それぞれ、その他の特性を有するアミノ酸と入れ替え又は置換できる。置換に加えて、“突然変異生成”の用語は、また、挿入及び欠失を含む。タンパク質レベルでの修飾は、当該技術分野の当業者に公知の方法に従い、アミノ酸側鎖の化学変換により実施できる。
【0053】
それぞれの配列セグメントの突然変異生成の開始点として、例えば、ユビキチン様タンパク質のcDNAが機能を果たす。前記cDNAは、当該技術分野の当業者に公知の方法により調製され、改変され、増幅されうる。比較的狭い範囲の一次配列(約1〜3アミノ酸)におけるユビキチンの部位特異的改変には、市販の試薬及び方法が自由に使用できる(“Quick Change”、Stratagene;“Mutagene Phagemid in vitro Mutagenesis Kit”、BioRad)。より広範な領域の部位特異的突然変異生成には、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の特異的な実施形態が、当該技術分野の当業者に利用可能である。この目的のために、所望の位置に縮退した塩基対組成を有する合成オリゴデオキシヌクレオチドの混合物が、例えば、突然変異の導入に使用できる。これは、例えば、イノシンなどのような、ゲノムDNAでは自然発生しない塩基対アナログを使用しても、同様に、達成することができる。
【0054】
βシート領域の1つ以上のβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域の突然変異生成の開始点として、例えば、ユビキチン様タンパク質のcDNA又は同様のゲノムDNAがなりうる。さらに、前記タンパク質をコードする遺伝子は、また、合成的に調製しうる。
【0055】
それ自体公知のさまざまな突然変異生成方法が利用可能であり、それらは、部位特異的突然変異導入法、ランダム突然変異導入法、PCR突然変異導入法、又は、これらに類似の方法である。
【0056】
本発明の好ましい実施態様において、突然変異を起こすアミノ酸位置は、予め定められる。修飾されるアミノ酸の選択は、修飾されるタンパク質に依存して、及び/又は、選択された結合パートナーに依存して行われる。この場合、一般的に、さまざまな変異体のライブラリが確立され、それ自体公知の方法を使用してスクリーニングされる。当然、修飾されるアミノ酸の事前選択は、修飾されるタンパク質について十分な構造情報が入手できる場合には、特に容易に実施できる。しかしながら、そのような構造情報がなくても、ランダム突然変異生成及びそれに続く選択を採用する方法を使用し、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質を変化させ、予め定められたリガンド又は結合パートナーそれぞれに対する結合親和性を取り入れることが可能である。
【0057】
例えば、PCR、化学的突然変異生成、又は、バクテリアの突然変異誘発株の使用により標的突然変異生成及びより長い配列セグメントの突然変異生成を行う方法は、同様に、従来公知技術に属し、本発明において使用できる。
【0058】
本発明の一実施態様において、突然変異生成は、アミノ酸コドンNNKを有するDNAオリゴヌクレオチドのアセンブリにより実施される。しかしながら、その他のコドン(トリプレット)も同様に使用できると理解される。
【0059】
突然変異は、βシート構造が維持されるように実施される。一般的に、突然変異生成は、タンパク質の表面に露出する安定したβシート領域の外側で行われる。それは、部位特異的及びランダム突然の両方の突然変異生成を含む。比較的狭い範囲の一次配列(約3〜5アミノ酸)を含む部位特異的突然変異生成は、Stratagene(QuickChage)又はBio‐Rad(Mutagen phagemid in vitro mutagenesis kit)の市販のキットで生成できる(US-A-5,789,166; US-A-4,873,192参照)。
【0060】
より広い領域に部位特異的突然変異を生成する場合には、DNAカセットを調製する必要がある。ここで、突然変異を起こす領域は、突然変異させる位置及び変化していない位置を含むオリゴヌクレオチドのアセンブリにより得ることができる(Nord et al., 1997; McConell and Hoess, 1995)。ランダム突然変異生成は、突然変異誘発株におけるDNAの増殖により、又は、PCR増幅(エラープローンPCR)により導入できる(例えば、Pannekoek et al., 1993)。この目的のため、エラー率が増大したポリメラーゼが使用される。導入される突然変異度を向上させるため、又は、異なる突然変異を組み合わせるため、PCR断片の突然変異を、DNAシャフリングにより組み合わせることができる(Stemmer, 1994)。これらの突然変異生成戦略と酵素の概説は、Kuchner and Arnold (1997)の概説中に提供される。このランダム突然変異を選択したDNA領域において実施するために、突然変異生成に使用するDNAカセットもまた作成する必要がある。
【0061】
本発明の1つの実施例において、ユビキチンの第2、4、6、62、63、64、65及び66番目の位置のアミノ酸のランダム置換は、PCRにより特に容易に行うことができる。なぜなら、前述の位置は、タンパク質のアミノ末端又はカルボキシ末端の近傍に局在しているからである。従って、操作されるコドンは対応するcDNA鎖の5'及び3'末端である。このように、変異原性PCR反応に使用する第一のオリゴデオキシヌクレオチドは、―突然変異される第2、4及び6番目の位置のコドンは別にして―ユビキチンのアミノ末端のコード鎖と配列が一致する。従って、第二のオリゴデオキシヌクレオチドは、―突然変異される第62、63、64、65及び66番目の位置のコドンは別にして―カルボキシ末端のポリペプチド配列の非コード鎖と少なくとも部分的に一致する。両方のオリゴデオキシヌクレオチドにより、ユビキチンタンパク質骨格をコードするDNA配列を鋳型として使用して、ポリメラーゼ連鎖反応を実施できる。
【0062】
さらに、得られた増幅産物を、例えば、制限酵素認識配列を導入する側面オリゴデオキシヌクレオチドを使用したその他のポリメラーゼ連鎖反応に加えることができる。適切な制限酵素で加水分解した後、得られた合成DNA分子は、例えば、しかるべく調製されたクローニング若しくは発現ベクターの核酸配列にライゲーション、即ち、連結することができる。そのような方法や系は、当該技術分野の当業者に公知である。これらの系は、例えば、Novagen (Madison, WI)、IBA (Gottingen)又は、New England Biolabs (Beverly, MA)から市販される。本発明においては、後に続く予め定められたハプテン若しくは抗原に対する結合特性を有するユビキチンバリエーションを単離する選択方法で使用するのに適したベクター系に、得られた遺伝子カセットを導入することが好ましい。
【0063】
本発明の好ましい実施態様において、修飾されていないユビキチンにおいて、ユビキチンの天然型の結合パートナーへの結合に関与する領域に属さないアミノ酸のみが、新規な結合特性の生成のために修飾される。このことによって確実に、既に存在するユビキチンの結合特性は改変されない。
【0064】
修飾のための領域は、基本的に、それらが予定される結合パートナーに接近可能かどうか、及び、タンパク質の全体的な構造が修飾を許容できると推測されるかどうかに関して選択される。
【0065】
本発明において、タンパク質、好ましくは哺乳類のユビキチン中のβ鎖に存在するアミノ酸の少なくとも15%、好ましくは少なくとも20%、さらに好ましくは少なくとも25%が、以前は存在しなかった結合特性を生成するために修飾され、好ましくは、置換される。最大で好ましくは約40%のβ鎖に存在するアミノ酸、より好ましくは最大で約35%、さらにより好ましくは30%が、修飾され、好ましくは置換される。
【0066】
本発明の実施例において、例えば、β鎖に存在する24アミノ酸のうち6個が修飾され、予め定められた結合パートナーに対する結合特性を生成した。より多数のアミノ酸を修飾のために選択することにより、結合親和性を有するタンパク質のより大きなライブラリを生成でき、これらの修飾タンパク質のいずれかが、予め定められた結合パートナーに対する定量化可能な及び/又は高い結合親和性を示す可能性を向上できる。
【0067】
さらに、β鎖の修飾に加え、タンパク質のその他の表面露出領域の修飾もまた、実施できる。好ましくは、例えば、ループ領域における修飾である。β鎖における修飾領域に加え、これらの修飾領域も、新規に生成される結合に関与しうる。
【0068】
本発明のその他の好ましい実施態様において、ユビキチン、好ましくは哺乳類又はヒトのユビキチンの表面露出アミノ酸のうち、少なくとも6個、好ましくは少なくとも8個を修飾することができ、前記修飾としては、置換が好ましい。これらの少なくとも6個の表面露出修飾アミノ酸は、その後、予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有する領域を形成する。この点において、前記表面露出アミノ酸のうち、少なくとも4個、好ましくは少なくとも6個、さらに好ましくは少なくとも8個が、βシート領域内であること、即ち、βシート鎖内又はいくつかのβ鎖に分布していることが、特に好ましい。少なくとも5個の修飾された、好ましくは置換されたアミノ酸が一次配列において互いに直接隣接することがさらに好ましい。
【0069】
本発明のその他の好ましい実施態様において、タンパク質の4つのβ鎖のうち、少なくとも2つ、好ましくは正確に2つのβ鎖におけるアミノ酸が修飾され、新規な結合特性を生成する。前記4つのβ鎖のうち3又は4つにおける修飾も同様に、選択された結合パートナーに対する以前は存在しなかった結合特性の生成のために好ましい。
【0070】
アミノ末端及びカルボキシ末端鎖におけるアミノ酸を修飾、好ましくは置換して、新規な結合特性を生成することが、特に好ましい。この点において、さらに、カルボキシ末端βシート鎖に隣接するループにおけるアミノ酸を修飾、好ましくは置換することが、さらに好ましい。
【0071】
哺乳類ユビキチン、好ましくはヒトユビキチンの下記位置:第2、4、6、62、63、64、65、66番目における修飾、好ましくは置換が、特に好ましい。これらのアミノ酸は、ユビキチンの表面上において隣接する表面露出領域を形成する。そして、このことが、結合パートナーに対する以前は存在しなかった結合親和性を有する修飾タンパク質の生成に対して特に適していることがわかった。
【0072】
本発明において、新規な結合特性の生成のためのアミノ酸置換は、任意の所望のアミノ酸で行うことができる。即ち、新規な結合特性の生成のために修飾が行われる場合には、そのアミノ酸が、置換されるアミノ酸と同様の化学的特性又は側鎖を有していることに配慮する必要はなく、所望する任意のアミノ酸をこの目的に使用できる。
【0073】
本発明において、例えば、置換、挿入、欠失及び/又は化学的修飾などのようなその他の修飾により、この修飾の前に既にタンパク質の生物学的及び/又はタンパク質化学的機能がスイッチオフされた若しくは新たに加えられたものも、選択された結合パートナーに対する以前は存在しなかった結合親和性の生成のための修飾されるタンパク質とみなされうる。従って、ユビキチンの天然型結合パートナーに対する結合特性は、例えば、スイッチオフすることができる。
【0074】
従って、本発明の一実施態様において、第45番目の位置のアミノ酸フェニルアラニンがトリプトファンに置換されたヒトユビキチンのバリエーションが使用された。このようにして、ユビキチンの構造及び安定性が維持されたまま、前記置換に起因してユビキチンと比較して分光学的特性が向上したタンパク質を提供できた。
【0075】
本発明のその他の実施態様において、例えば、ヒトユビキチンの第44、48、54、70、72及び75番目の位置が置換され、第76番目のアミノ酸が欠失された。このようにして、ユビキチンの構造及び安定性が維持されたまま、もはやユビキチンの本来の機能を果たすことができないタンパク質を提供できた。
【0076】
このタイプの既に前修飾がされたユビキチンが以前には存在しなかった結合特性の生成に使用される場合、ユビキチンは、野生型ユビキチン又は一般的な哺乳類ユビキチンのアミノ酸を総計で少なくとも10個、好ましくは少なくとも15個置換して、最終的に好ましく得られる。実施例において、このようにして、14個の置換及び欠失を有し、その原構造を維持した修飾ユビキチンが得られた。ユビキチンのアミノ酸総数に基づけば、これは、約20%のパーセンテージに相当する。このことは、並外れて驚愕すべきことであり、予測できないことであった。なぜなら、一般的に、もっと低いパーセンテージで、すでに、タンパク質の折り畳みに支障を来たすには十分だからである。
【0077】
本発明において、選択されたアミノ酸の修飾工程は、好ましくは、ランダム突然変異生成、即ち、選択されたアミノ酸のランダムな置換による遺伝子レベルでの突然変異生成により実施される。好ましくは、工程d)における修飾は、それぞれのタンパク質に属するDNAの改変のための遺伝子工学的手法により行われる。好ましくは、その後、そのタンパク質の発現が、原核生物又は真核生物において行われる。
【0078】
本発明において、修飾タンパク質は、さらに好ましくは、化学的修飾により調製されうる。この実施態様において、請求項1の工程c)からd)は、1つの工程で実施される。
【0079】
予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を用いたアミノ酸の選択と測定
選択されたアミノ酸の修飾によりタンパク質ライブラリを確立した後、前記修飾タンパク質を、本発明に従い、予め定められた結合パートナーと接触させた。結合親和性が存在する場合には、状況に応じて、パートナーの相互の結合が容易となる。
【0080】
本発明において、接触は、好ましくは、適した提示と選択方法、例えば、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ若しくは細胞表面ディスプレイ、酵母表面ディスプレイ若しくはバクテリア表面ディスプレイの方法、好ましくは、ファージディスプレイ法により行われる。完全な開示としては、下記の参考文献を参照できる:Hoess, Curr. Opin. Struct. Biol. 3 (1993), 572-579; Wells and Lowmann, Curr. Opin. Struct. Biol. 2 (1992), 597-604; Kay et al., Phage Display of Peptides and Proteins - A Laboratory Manual (1996), Academic Press。上述の方法は、当該技術分野の当業者に公知であり、それらの改変を含み、本発明において使用できる。
【0081】
本発明において、修飾タンパク質が予め定められた結合パートナーに対して定量化可能な結合親和性を有するかどうかの測定は、好ましくは、1つ以上の下記方法により行うことができる:ELISA、プラズモン表面共鳴分光法、蛍光分光法、FACS、等温滴定熱量計、及び、分析的超遠心分離法。
【0082】
本願に適合するファージディスプレイのタイプは、本発明における結合特性を示すユビキチンのバリエーションに対する選択方法の実施例として以下に記載される。同様の様式で、例えば、バクテリア(バクテリア表面ディスプレイ;Daugherty et al., 1998)若しくは酵母細胞(酵母表面ディスプレイ;Kieke et al., 1997)において提示する方法、又は、例えば、リボソームディスプレイ(Hanes and Pluckthun, 1997;He and Taussig, 1997)、シス(CIS)ディスプレイ(Odegrip et al., 2003)若しくはmRNAディスプレイなどのような無細胞選択システムを適用できる。後者の場合、遺伝子型と表現型との一時的な物理的結合が、リボソームを介したタンパク質バリエーションの適切なmRNAへの結合により達成される。
【0083】
ここで記載されるファージディスプレイ法において、ユビキチンの組換えバリエーションは、線状ファージ上に提示され、一方、提示されるバリエーションをコードするDNAは、同時に、ファージエンベロープ中に、一本鎖の形で詰め込まれる。このようにして、親和性の向上という枠組みにおいて、特定の特性を有するバリエーションをライブラリから選択されることができ、それらの遺伝情報は、適切なバクテリアへの感染により増幅でき、又は、別の濃縮サイクルに加えることができる。ファージ表面上における突然変異されたユビキチンの提示は、アミノ末端シグナル配列、好ましくは、PelBシグナル配列、及び、ファージのキャプシド又は表面タンパク質―キャプシドタンパク質pIII又はその断片へのカルボキシ末端融合が好ましい―への遺伝子融合により達成される。さらに、コードされるタンパク質は、例えば、親和性クロマトグラフィーによる検出及び/若しくは精製に使用される親和性タグ若しくは抗体エピトープ、又は、親和性濃縮の過程で融合タンパク質の特異的な切断のためのプロテアーゼ認識配列などのような機能要素をさらに含むことができる。さらに、アンバーストップコドンを、ユビキチンバリエーションの遺伝子と、ファージのキャプシドタンパク質又はその断片のコード領域との間に存在させることができ、このコドンは、部分的に、適切なサプレッサー株において翻訳中に認識されず、1個のアミノ酸が導入されることになる。
【0084】
予め定められたハプテン又は抗原に対する結合特性を有するユビキチンバリエーションの単離に関する選択方法に適したバクテリアのベクターであって、前述の融合タンパク質の遺伝子カセットが挿入されるベクターは、ファスミドという。数ある中でも、それは、線状ファージ(例えば、M13又はf1)又はその一部分を含み、例えば、M13K07などのようなヘルパーファージを用いたファージミドを有するバクテリア細胞に多重感染する場合には、ファスミドDNA閉鎖のファージキャプシド内へのパッケージングをもたらす。このようにして生成されたファージミドは、バクテリアから分泌され、それぞれのコードされたユビキチンバリエーションを―キャプシドタンパク質pIII又はその断片への融合の結果―その表面に提示する。天然型pIIIキャプシドタンパク質は、ファージミド中に存在し、適合するバクテリア株に再感染する能力及びそれ故に同一DNAを増幅する可能性を保持する。従って、ユビキチンバリエーションの表現型―即ち、その潜在的結合特性―とその遺伝子型との間の物理的結合が確保される。この実施例において、ファスミドpMUBI−1(図3)は、この目的のために作成され、ユビキチンバリエーションのコード鎖の挿入及びファージミドの調製に使用される。
【0085】
得られたファスミドを、そこに提示されたユビキチンバリエーションの予め定められたハプテン又は抗原への結合について当該技術分野の当業者に公知の方法により選択することができる。この目的のために、提示されたユビキチンバリエーションを、一時的に、例えば、マイクロタイタープレートに結合した標的物質に固定することができ、非結合バリエーションを分離した後に特異的に溶出することができる。前記溶出は、例えば、100mMトリエチルアミンなどのような塩基性溶液により好ましく行うことができる。あるいは、前記溶出は、酸性条件化で、タンパク質分解又は感染されたバクテリアの直接添加により行うことができる。このようにして得られたファージミドは、再増幅することができ、予め定められたハプテン又は抗原に対する結合特性を有するユビキチンバリエーションの選択と増幅の連続サイクルにより質を高めることができる。
【0086】
このようにして得られたユビキチンバリエーションのさらなる特徴付けは、ファージミド、即ち、ファージに融合した形で、又は、同一遺伝子カセットを適した発現ベクターにクローニングした後に可溶性タンパク質の形で行うことができる。適切な方法は、当該技術分野の当業者に公知であるか、又は、文献に記載されている。前記特徴付けは、例えば、DNA配列、それ故、単離されたバリエーションの一次配列の決定を含みうる。さらに、単離されたバリエーションの親和性及び特異性を、例えば、ELISA若しくはプラズモン表面共鳴分光法などのような免疫学的標準方法、蛍光分光法、FACS、等温滴定熱量計、又は、分析的超遠心分離法などにより検出できる。安定解析法については、例えば、化学的又は物理的アンフォールディングに関連した分光法が、当該技術分野の当業者に公知である。
【0087】
同様に使用されるリボソームディスプレイ法において、ユビキチンのバリエーションは、無細胞転写/翻訳系により調製され、対応するmRNA及びリボソームの複合体として提示される。この目的のために、上述したとおり、バリエーションの遺伝子が発現及びタンパク質生合成のための対応する調節配列と融合した形で存在するDNAライブラリが、基礎として使用される。遺伝子ライブラリの3'末端のストップコドンの欠失、及び、適切な実験条件(低温、高Mg2+濃度)の結果、新生タンパク質、mRNA及びリボソームからなる三重複合体が、インビトロ転写/翻訳の間、維持される。
【0088】
これらの複合体は、そこに提示されたユビキチンバリエーションの予め定められたハプテン又は抗原への結合について当該技術分野の当業者に公知の方法により選択することができる。この目的のために、リボソーム複合体上に提示されたユビキチンバリエーションを、一時的に、例えば、マイクロタイタープレートに結合した標的物質に固定することができ、又は、溶液中で結合後に磁性粒子に結合することができる。非結合バリエーションを分離した後に、リボソーム複合体を破壊することにより、結合活性を有するバリエーションの遺伝子情報を、mRNAの形で特異的に溶出することができる。前記溶出は、例えば、50mM EDTAにより好ましく行うことができる。このようにして得られたmRNAは、単離して適切な方法を用いてDNAに逆転写でき(逆転写反応)、このようにして得られたDNAは、再増幅できる。
【0089】
インビトロ転写/翻訳、選択及び増幅の連続サイクルにより、予め定められたハプテン又は抗原に対する結合特性を有するユビキチンバリエーションの質を高めることができる。
【0090】
このようにして得られたユビキチンバリエーションのさらなる特徴付けは、上述したとおり、同一遺伝子カセットを適した発現ベクターにクローニングした後に可溶性タンパク質の形で行うことができる。適切な方法は、当該技術分野の当業者に公知であるか、又は、文献に記載されている。
【0091】
好ましくは、(d)工程、即ち、予め定められた結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質の検出工程の後に、検出したタンパク質の単離及び/又は質向上の工程が続く。
【0092】
ユビキチン様折り畳みモチーフを有する本発明の修飾されたタンパク質の発現に続き、それ自体公知の方法により、これらをさらに精製して、質を高めることができる。選択される方法は、当該技術分野の当業者にそれ自体公知のいくつかの要因、例えば、使用される発現ベクター、宿主生物、予定使用分野、タンパク質サイズ、及びその他の要因に依存する。簡易精製のために、本発明の修飾されたタンパク質を、分離物質に対して増大した親和性を有するその他のペプチド配列に融合することができる。好ましくは、そのような融合物は、ユビキチンタンパク質の機能性に有害な影響を示さないもの又は特異的プロテアーゼ切断部位の導入により精製後に分離可能なものが選択される。そのような方法は、また、当該技術分野の当業者に公知である。
【0093】
本発明において、また、直前に記載の方法において、例えば、ハプテン又は抗原などの予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有するユビキチンのバリエーションは、概ね単離することができる。
【0094】
本発明において提供される修飾タンパク質の結合パートナーとして、生物学的及び医学的に活性であり、関連する全ての分子を用いることができる。予定される結合パートナーを以下に例示的に記す。しかしながら、複数個のその他の考えられるリガンドをこのリストに加えることができることに留意すべきである。抗体と抗原との関係と同様に、予定される結合パートナーのリストは、さらなる予定されるリガンドにより完成されうる。
【0095】
好ましくは、結合パートナーは、生物学的受容体であって、好ましくはGタンパク質共役受容体(GPCR;例えば、ヒトGLP−1受容体、ヒトPTH受容体)、又は、EGF受容体、HER2、HER3、VEGF/R1−4、Ep−CAM、又は、そのリガンド若しくはドメイン、腫瘍マーカー(前立腺特異的膜抗原(PSMA))、サイトカイン(腫瘍壊死因子α(TNF‐α)、腫瘍壊死因子β(TNF‐β))、インターロイキン(例えば、IL‐2、IL‐6、IL‐11、IL‐12)、成長因子(例えば、NGF(神経成長因子)及びそのプロフォーム、ProNGF、BMPs、EGF、MIA、MIA‐2、FGFs、血管内皮増殖因子(VEGF)、PDGF、PlGF、IGFs)、キナーゼ、インテグリン(例えば、糖タンパク質受容体IIb/IIIa(GPIIb/IIIa))、HSA(ヒト血清アルブミン)、F4フィンブリン、T及びB細胞抗原、好ましくは、CD4、CD11、CD14、CD16、CD20、CD22、CD25、CD34、CD47、CD56、CD83、CD154、CTLA‐4、免疫グロブリン若しくはその一部部分、例えば、全抗体(例えば、免疫グロブリンG、E、M)、例えば、ヒト免疫グロブリンMのFc部分若しくは抗原結合部位領域の抗体セグメント、若しくは糖(ルイスY、ルイスX)、又は、毒素、例えば、マイコトキシン、若しくは、ホルモン、例えば、ヒドロコルチゾンである。
【0096】
本発明の特別な利点は、修飾タンパク質又はユビキチンが、細胞内環境及び細胞外環境で活性を有すること、即ち、細胞の内部及び外部の両方でそれぞれの結合パートナーに結合することである。
【0097】
本発明の修飾タンパク質又はユビキチンが、ハプテン、即ち、小さい分子、及び、抗原、即ち、例えばタンパク質などのような大きな分子の両方に定量化可能な様式で結合できることは、特に有利な点である。本発明の修飾されたタンパク質のこの可変性により、有望な新規に生成される結合パートナーが、このようにして、結合パートナーの幅広い範囲であまねく提供される。
【0098】
本発明のタンパク質は、さらに、検出及び定量、並びに、それぞれの結合パートナーの分離と単離のために使用できる。
【0099】
その他の応用は、それぞれの結合パートナーが関与する疾病の診断及び治療においてである。
【0100】
既に述べたとおり、本発明は、また、新規に生成された人工結合部位の外側に位置する各アミノ酸位置の標的改変に関する。このようにして、例えば、天然ユビキチンにおいて生物学的機能を果たすアミノ酸に占められている位置を、その他のアミノ酸により占有することができる。このようにして、例えば、ユビキチン化カスケードの酵素との相互作用などの生物学的機能が不活性であるが、その骨格及びタンパク質化学的特性がほぼ開始タンパク質と同一であるユビキチンタンパク質骨格が得られる。これは、例えば、大腸菌における発現率の測定、例えば、化学的若しくは物理的アンフォールディングについての蛍光若しくは円偏向二色性測定などの分光法による安定性の解析、又は、例えば、ELISAなどの免疫学的標準検査によって実施できる。
【0101】
Arg54及びArg72をそれぞれLeuとする置換により、例えば、ユビキチン活性酵素E1との相互作用を阻害できる(Burch and Haas, 1994)。さらに、その他にも、Lys48及びVal70〜Gly76のアミノ酸が、ユビキチン結合酵素E2との相互作用に関与し、適切な置換により無効にされる(Miura et al., 1999)。さらに、ユビキチンのタンパク質分解されるタンパク質への結合又はポリユビキチン鎖への選択的共有結合は、それぞれ、Gly75及びGly76残基を介して起こり、適切な置換により無効にされうる。最終的に、Ile44Ala及びVal70Alaの置換は、ユビキチンの26Sプロテアソームへの接触、そして、ユビキチン標識化タンパク質の分解をほぼ無効とする(Beal et al., 1996)。従って、本発明の好ましい実施態様において、Ile44Ala、Lys48Arg、Arg54Leu、Val70Ala、Arg72Leu、Gly75Alaの置換及びGly76の欠失を有する修飾ユビキチン骨格は、新規結合特性を有する修飾ユビキチンの調製の開始タンパク質として機能を果たす。上述した方法により測定されるとおり、この修飾ユビキチンタンパク質骨格は、その構造及びそのタンパク質特性について、即ち、安定性、折り畳み、大腸菌における産生、ユビキチン抗血清との相互作用などについて、大部分は同一である。
【0102】
異なる文献において別々に述べられた修飾が、1つのユビキチンに、本質的にその構造又は安定性を変えることなく集約できたことは、驚くべきことである。
【0103】
本発明の基礎をなす記載したアプローチにより、驚くべきことに、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質を基礎として、一方で、新規に生成された結合特性を示し、他方で、大部分ユビキチンのタンパク質化学的特性を示す修飾タンパク質を得ることができる。この点において、ユビキチンを基礎とした修飾タンパク質は、好ましくは、10-6M若しくはそれ未満、例えば、10-6〜10-12Mの解離定数を示し、これは、抗体若しくはその断片のそれにそれぞれ相当する。さらに、驚くべきことに、必要に応じて、タンパク質などのような大きな分子、又は、ハプテン若しくはホルモンなどのような小さな分子に対して向けられた特異的結合特性を有する修飾タンパク質を生成することが可能である。予め定められた標的物質又は標的物質の分類を、高い選択性で結合できる。新規に生成された親和性及び特異性がある人工結合部位の観察された前記機能性は、前には予測できなかった。なぜなら、結合部位の広範な領域が、一般に強固で柔軟性がないとみなされるβシートに位置しているからである。他方、天然の一般的な結合部位―例えば、抗体のそれ―は、柔軟性の“ループ”構造から形成される。
【0104】
この場合に使用されるユビキチン骨格が、ポリペプチド鎖の折り畳みにマイナスの影響を与えることなく一次配列において行われる広範囲の改変を明確に許容することは、さらに驚くべきことである。これは、アミノ酸置換の数―野生型ユビキチンの約20%―について予測できなかったのみならず、タンパク質骨格において変化されるアミノ酸位置の位置取りにもまた起因する。従って、一般に強固で柔軟性がないとみなされるβシート内における、とりわけ、直接隣接したアミノ酸の置換に対する許容度は、事前に予測できなった。
【0105】
得られたユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の突然変異DNAから開始して、前記タンパク質は、公知の遺伝子工学手法を用いて調製できる。この点において、その産生は、原核生物宿主内で行うことが好ましい。低コスト及び高収率のためである。しかしながら、真核生物又は無細胞系の使用は排除されない。一般的に、DNA配列の適した発現ベクターへの挿入、及び、適した生物へのトランスフォーメーション、トランスフェクション又はインフェクションの後、外来性の修飾タンパク質は、バクテリアの転写/翻訳系によって合成される。この目的のために、調製方法は、新規結合特性を有する個々の修飾タンパク質に適合させることができる。このようにして、例えば、大腸菌が宿主として使用される場合、ユビキチンを基礎とした修飾タンパク質を、適したシグナル配列を用いてペリプラズム空間に分泌させることができ、又は、細胞質内に調製できる。本発明の修飾タンパク質が、細胞内で折り畳みされずに凝集する場合には、このような封入体からの機能的な再折り畳みも、また、可能である。無細胞系は、例えば、低発現率な又は宿主生物に対する毒性効果を有するバリエーションの場合に有利となりうる。組換えタンパク質の調製及び精製のための遺伝子工学の適した手法は、それぞれ、当該技術分野の当業者に公知であり、文献に記載されている(例えば、Sambrook et al., 2001)。
【0106】
したがって、人工結合部位の生成により新規な結合親和性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質であって、その極めて可変な表面が、例えば、ハプテン、ペプチド、タンパク質、及びその他の高分子又はホルモンなどのより小さい分子などのような予め定められたリガンドに対する分子認識可能な修飾タンパク質の提供が可能である。
【0107】
さらに、ランダム化された領域の可変表面特性に起因して、結合特性と異なる特性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質を、適切な選択方法を用いて、得ることができる。これらは、例えば、予め定められた化学反応に対する以前は存在しなかった新規な触媒活性を含む。この特性は、例えば、結合パートナーが、それぞれの反応が触媒されるような様式で前記修飾タンパク質により結合された分子又は遷移状態である場合に、得ることができる。
【0108】
このように、本発明は、以前は存在しなかった新規結合特性の導入のための骨格分子としてのユビキチンなどのような分子の提供を含む。
【0109】
さらに、本発明において、遺伝子ライブラリを、工程d)の方法、例えば、ランダム突然変異生成により、確立できる。その実施態様の1つとして、本発明は、また、このように調製された遺伝子ライブラリを含み、特に、第2、4、6、62、63、64、65、66番目のアミノ酸位置が置換されたヒトユビキチンから確立された遺伝子ライブラリを含む。
【0110】
さらに、タンパク質骨格を、さらなる機能を修飾タンパク質に与えるために、人工結合部位の外側を標的として修飾することができる。これは、例えば、適した試薬との化学的結合によるタンパク質複合物を得るための―好ましくは、アミノ及びカルボキシ末端における―さらなるアミノ酸の導入又は個々のアミノ酸若しくはペプチドの置換を含む。そのような融合は、また、修飾タンパク質遺伝子の融合パートナー遺伝子への遺伝子工学手法を用いた結合により、直接調製することができる。これは、抗体と対照的に、バクテリア宿主により、たった1つの外来遺伝子、ひいては、たった1つのペプチド鎖が発現され、機能的に折り畳みされるという事実により、簡易化される。そのような融合パートナーは、酵素、細胞毒素、修飾タンパク質が同じ若しくは異なる結合特異性を有する結合及び多量体化ドメインであってもよい。
【0111】
本発明により提供されるユビキチンに典型的な折り畳みモチーフを有する修飾タンパク質は、同じ又は異なる特異性のタンパク質に、部位特異的に共有結合することができる。このようにして、1つ以上の結合パートナーに対する二価若しくは二重特異的な結合特性を得ることができる。
【0112】
このように、例えば、上述の方法で得られた2つの同一のユビキチンバリエーションであって、同一抗原に結合するものは、当該技術分野の当業者に公知の方法を用いた単一システイン残基の付加導入を介して、部位特異的に互いに共有結合させることができる。そのような二価結合特性は、一価のもの(結合活性効果)と比べてより強い明白な結合をすることにより特徴付けされる。
【0113】
同様に、異なる抗原に結合する2つのユビキチンバリエーションを適当な方法により互いに結合させることができ、それにより、単独で二重特異性の結合分子を得られる。そのようなヘテロ2量体の選択的形成のため、正又は負の荷電アミノ酸からなり、融合パートナーのカルボキシ末端に融合されるポリペプチド鎖を使用することができる。正反対に荷電したアミノ酸が使用される場合、これらの、いわゆるポリイオンタグは、互いに静電相互作用を受け、異なる特異性の結合タンパク質を1:1という望ましい割合で互いに結合させる。がん治療において、そのような二重特異性薬剤を、免疫系のエフェクター細胞と接触させて、例えば、腫瘍細胞などの適当な表面構造に的を絞ることにより、その腫瘍細胞を標的として破壊することができる。
【0114】
さらに、上述の選択方法の1つにより単離され、既に特異的抗原に対して結合特性を示すユビキチンバリアントは、修飾して、その親和性及び/又は特異性の質をさらに向上させることができる。この目的のために、アミノ酸の新たな標的及び/又はランダム置換を、結合部位の中及び/又は外に生成できる。そのような成熟方法に適切な方法は、当該技術分野の当業者に公知である。既に得られたユビキチンバリエーションの成熟は、親和性及び特異性を含むが、これらに限定されない。向上しうるその他のタンパク質特性としては、例えば、安定性、溶解度、及び原核生物内における産生レベルなどが挙げられる。本発明との関連では、例えば、ユビキチンバリエーションの免疫グロブリンMのFc部分への結合親和性が、このようにして、結合部位内の2つのアミノ酸の標的置換により、10倍向上した。
【0115】
本発明により提供されるユビキチンを基礎とした修飾タンパク質は、抗体及びその断片と同様の様式で、幅広い用途で使用できる。これは、診断及び治療の用途、並びに、クロマトグラフィー法を含む。このように、標的物質を、任意の生物分析試験、例えば、ELISA、ウエスタンブロット及びその他により、直接検出できる。さらに、本発明の修飾タンパク質であって、例えば、免疫グロブリンに結合し、酵素若しくはフルオロフォアに結合された修飾タンパク質は、適切な試験系において、汎用二次レポーター分子として適している。それらの有利な特性に起因して、ユビキチンを基礎とした修飾タンパク質は、例えば、腫瘍若しくは感染症の治療などの治療上の使用に好ましく応用される。このようにして、修飾タンパク質の特異的結合による受容体又はリガンドの封鎖に基づく効果が利用されうる。同様に、適したエフェクターとの結合に起因して腫瘍上の表面タンパク質に結合する新規結合特性を有する修飾タンパク質は、そのような細胞を標的として破壊することができ、又は、その腫瘍組織において適当な前毒素を選択的に活性化できる。
【0116】
本発明において修飾され選択されたタンパク質は、このように、広範囲の考えられる用途が得られる。それらは、医学、薬学の分野のみならず、分析論、栄養食品工業、栄養補助品、化粧品、医学的及び非医学的診断及び分析の分野などで利用できる。当然に、利用分野は、選択した結合パートナーのタイプに依存する。
【0117】
ヒト及び獣医学の薬物療法及び予防法の分野において、薬学的に効果のある薬剤は、それ自体公知の方法により調製できる。生薬に依存して、これらの組成物を、経静脈的に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、経皮的に又はその他の適用方法により、投与できる。製剤調製の種類は、治療する疾病、その疾病の重篤度、治療される患者、及び、医学の技術分野の当業者に公知のその他の因子に依存する。その投与は、注射若しくは注入による非経口的、その他の従来採用される方法による全身的、直腸的な投与であってよい。
【0118】
前記組成物は、治療上有効な用量を含むように構成される。投与される用量は、治療される生物、疾病の種類、患者の年齢及び体重、並びに、それ自体公知のさらなる因子に依存する。
【0119】
前記組成物は、それ自体公知の助剤を含むことができる。これらは、例えば、分解防止化剤、界面活性剤、塩、緩衝剤、着色剤などを含む。
【0120】
前記医薬組成物は、液体製剤、クリーム、局所投与用のローション、エアロゾル、パウダー剤、顆粒剤、タブレット剤、座薬、カプセル剤、乳剤、又は、リポソーム製剤の剤形であってよい。前記組成物は、好ましくは、無菌、非発火性かつ等張性であって、薬学上それ自体従来公知で許容できる添加剤を含む。加えて、米国薬局方規則を参照できる。
【0121】
以下の実施例は、本発明のさらなる説明のために提供される。本発明が、一例として、特にユビキチンの修飾について実施される。しかしながら、本発明はこれらに限定されない。以下の実施例は、上記の記載に基づき本発明の実施可能性を単に示すだけである。本発明の完全なる開示のため、本願及び添付書類において引用された文献を参照でき、これらは、その全体が、参照により本願に取り込まれる。
【0122】
以下に本発明を実施例及び添付図面を用いてより詳細に説明する。
【0123】
図1:表面に人工的に生成された結合部位を有する野生型ユビキチン(PDBコード: 1ubi; Vijay-Kumar et al., 1987)の結晶構造。二次構造要素の三次元表示を、PyMOLプログラム(DeLano Scientific, San Francisco)を使用して行った。実施例として調製されるライブラリにおいてランダムに置換される残基は、第2、4、6、62、63、64、65、66番目を含み、それらを側鎖とともに示す。
【0124】
図2:野生型ユビキチン(PDBコード:lubi)の表面上における結合部位の生成。調製されるライブラリにおいてランダムに置換される残基(薄灰色で示される第2、4、6、62、63、64、65、66番目の位置)を、その各位置におけるアミノ酸置換がおよぼしうる溶媒への露出及び安定化又は不安定化効果についてコンピューターで解析して選択した。次に、ProSAIIソフトウエアを使用して、104個のバリエーションのタンパク質安定性を、ユビキチン(WT)及び“対照エピトープ”(濃灰色で示される第24、28、31、32、35、37、38、39番目)の残基が置換された同数のランダムに採用されたバリエーションサンプルと比較して測定した。安定性の測定として、複合Cα/Cβ電位(“zp‐comb”)が測定される。結合部位領域においてランダムに置換されたインシリコで生成されたバリエーションの約19%が、少なくともユビキチン(WT)と同じ高さの安定性を示した。一方、約90%が、“対照エピトープ”を有するものよりもより安定であった。それ故、解析した領域におけるランダムなアミノ酸置換による結合部位の生成は、ユビキチンのタンパク質構造によりその安定性に大幅な影響を与えることなく許容される。このコンピューター手法は、適切な表面露出アミノ酸を選択する際に役に立つ。
【0125】
図3:ファージディスプレイによるMUBIバリエーションの選択において使用するファスミドベクターpMUBI‐1。pMUBI‐1は、ファージライブラリの調製に使用され、PelBシグナル配列、ユビキチンバリエーションの遺伝子、MyCUTタグ及びファージキャプシドタンパク質(aa253‐406、ΔgpIII)の融合タンパク質をテトラサイクリンプロモータ/オペレータ(tetp/o)の転写制御下にコードする。アンバー(Amber)は、融合遺伝子中のアンバーストップコドンの位置を参照する。MUBIの突然変異された遺伝子カセットの挿入は、2つのSfiI制限酵素部位を介して行われる。f1Ig、blaP、tetR、Ori、ColE1、及びCatは、ファージf1の遺伝子間領域、β‐ラクタマーゼプロモータの制御化のテトラサイクリンリプレッサー遺伝子、複製起点、及び、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子を参照する。
【0126】
図4:ユビキチンバリエーションのファージディスプレイライブラリの作成方法。
【0127】
図5:ELISAにおける、recGLP1−Rに対するファージディスプレイにより選択されて得られたユビキチンバリエーションSPU‐1‐D10の、組換えにより調製されたヒトGLP‐1受容体のアミノ末端ドメインへの結合。適切な数のウェルのマイクロタイタープレートをrecGLP1−R及びBSA、又は、組換えで調製したヒトPTH受容体(recPTH‐R)のアミノ末端ドメインでそれぞれ満たして一晩4℃とした。残りの結合部分は、PBS中0.5%Tweenを含む3%BSAで飽和させた(2時間、室温(RT))。SPU‐1‐D10を、PBST0.1中で連続希釈して加え、90分30℃とした。結合した修飾タンパク質をユビキチン抗血清(PBST0.1中、1:10、60分、30℃)及びペルオキシダーゼ結合ウサギ抗体(PBST0.1中、1:2000、60分、30℃)で検出した。検出は、Pierce社のImunoPureキットを使用して行った。工程間で、PBST0.1で3回洗浄し、色原体検出前では、PBSでさらに3回洗浄した。シグナル強度は、H2SO4で呈色反応を止めた後に405nmで検出し、修飾タンパク質に相当する濃度をプロットした。平衡条件下でのKD値の測定は、非線形回帰により行った。
【0128】
図6:リボソームディスプレイにより選択され得られたユビキチンバリエーションSPW‐11‐A1のVEGFへのELISAにおける結合。図5に記載された方法と同じようにこの実験を行った。平衡条件下でのKD値の測定は、非線形回帰により行った。
【0129】
図7:リボソームディスプレイにより選択され得られたユビキチンバリエーションSPU‐11‐58のVEGFへのBIACOREにおける結合。CM5チップチャネルの表面に、最初に、VEGFを固定し、参照チャネルは非チャージのままとした。異なる濃度のSPU‐11‐58のそれぞれの場合において、結合事象のネットシグナルを得た。全ての溶液のインジェクション時間は、流速35μl/分で2分とした。異なる濃度のSPU‐11‐58(1.3μM、0.65μM、0.325μM、0.163μM、0.081μM)の結合シグナルを、インジェクション開始から重ねて示す。各測定後、表面を10mM HClで15秒パルスして再生した。平衡条件下でのKD値の測定は、BIA計算ソフトウエア3.1(Biacore)により行った。
【0130】
図8:ヒドロコルチゾンに対する選択で得られたユビキチンバリエーションSPU‐3‐H13のステロイドへのELISAにおける結合。マイクロタイタープレートの3つのウェルをBSA結合ヒドロコルチゾン、テストステロン及びエストラジオール、又は、BSAでそれぞれ満たし、SPU‐3‐H13(4μM)又は結合部位領域を変化させていないユビキチンタンパク質骨格(50μM)と、それぞれPBST0.1中でインキュベーションした(90分、30℃)。結合の検出は、Pierce社のImunoPureキットを使用して、Ni−NTA/ペルオキシダーゼ複合体で行った(PBST0.1中、1:500、60分、30℃)。ブロッキングと洗浄:図5参照。シグナル強度は、H2SO4で呈色反応を止めた後に405nmで検出し、3つの測定の平均値をプロットした。
【0131】
図9:部位特異的ランダム突然変異生成を用いた親和性成熟後のユビキチンバリエーションSPU‐2‐A7及びSPU‐2A7(62/63)のFcIgMへのELISAにおける結合の比較。図5に記載された同じ実験方法を行った。平衡条件下でのKD値の測定は、非線形回帰により行った。
【0132】
図10:単一カルボキシ末端システイン残基を介して2つのユビキチンを基礎としたタンパク質の部位特異的共有結合についてのSDS‐PAGE解析。20μLの非結合タンパク質(レーン1)及び結合反応後サンプル(レーン2)をアプライした。電気泳動後、ゲルをクーマシーで染色した。サイズ標準(レーンM)の分子量をkDaで示す。
【実施例1】
【0133】
新規に生成された結合親和性を有する修飾タンパク質の選択ための合成ユビキチン遺伝子の提供
遺伝子工学作業は、当該技術分野の当業者に公知の標準プロトコール、例えば、Sambrook et al. (2001)などのようなものにより行った。
【0134】
人工結合タンパク質の調製のための開始点としてのIle44Ala、Lys48Arg、Arg54Leu、Val70Ala、Arg72Leu、Gly75Alaの置換、及び、Gly76欠失を有する修飾ユビキチンタンパク質骨格のDNA配列(配列番号1)の調製のため、以下のような方法を行った。遺伝子合成のPCR反応は、合成される遺伝子の塩基対配列の6つのオリゴデオキシヌクレオチド(配列番号2、3、4、5、6、7;各0.1μM)を各2.5μL鋳型として含む50μLの容量中で行った。採用したオリゴデオキシヌクレオチドの配列は、それぞれ、40〜50塩基対長であって、交互に3'及び5'末端が約15塩基重複する人工遺伝子のコード及び非コードDNA鎖のセグメントに相当する。さらに、前記サンプルは、各2.5μLの側面プライマー(配列番号8及び9;10μM)及び5μLの10xTaqバッファー(100mM Tris/HCl pH9.0、500mM KCl、1%(v/v)TritonX‐100)、3μLの25mM MgCl2、及び、4μLのdNTPミックス(dATP、dCTP、dGTP、dTTP、各2.5mM)を含む。H2Oで満たした後、反応サンプルをサーモサイクラー中で、変性のため94℃で2分間熱した。次に、2.5UのTaqポリメラーゼ(Promega)を加熱中に加え(ホットスタート)、PCRプログラムを開始した。インキュベーションは、94℃/1分、55℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル行った。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。
【0135】
望ましいPCR産物は、分析アガロースゲル電気泳動を用いて同定し、MinElute反応クリーンアップキット(Qiagen)を使用してサンプルから精製した。1.0ngの単離DNAを、二次増幅の鋳型として使用した。今回は、同様に50μLの容量でPfuポリメラーゼ(Promega)を使用した。この目的のため、5μLの供給される10xPfuバッファー(200mM Tris/HCl、pH8.8、20mM MgCl2、100mM KCl、100mM (NH42SO4、1%(v/v)TritonX‐100、1mg/mL BSA)及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、前記サンプルは、適切な制限酵素認識部位を導入するための側面プライマー(配列番号8、9;10μM)を含む。望ましいPCR産物を、調製用アガロースゲル電気泳動を用いて単離し、クローニングベクターpCR(商標)4Blunt−TOPO(商標)へ、ZeroBlunt(商標)TOPO(商標)PCRクローニングキット(Invitrogen)を使用して製造業者の取扱説明書に従って挿入した。供給された化学的コンピテント細胞に対応するライゲーション反応サンプルを導入し、LB/amp/kan培地のアガープレートにスプレッドした。前記プレートを37℃で16時間インキュベーションし、成長したコロニーについて望ましいライゲーション産物に関して分析した。この目的のため、プラスミド挿入キット(Quiagen社)を使用して、製造業者の取扱説明書にしたがってミニスケールでプラスミドDNAを調製し、前記PCR産物に側面プライマーにより導入された制限酵素認識部位に対するDNAエンドヌクレアーゼNdeI及びXhoI(New England Biolabs)で制限酵素処理を施した。配列解析は、挿入された遺伝子カセット領域における予測される切断パターンを有するプラスミド上で行った。この目的のため、サイクルリーダー(商標)オートDNAシーケンシスキット(Fermentas)を製造業者の取扱説明書に従って使用し、また、0.5μgのプラスミドDNA及び1.0ピコモルの各蛍光標識プライマーを使用した。新規に合成されるDNA鎖はポリメラーゼ反応中に標識され、統計的なダイデオキシヌクレオチドの塩基特異的な取り込みにより終了する。得られた蛍光DNA断片は、溶液シーケンシング装置においてポリアクリルアミド尿素ゲル電気泳動によりその後分離され、隣接したレーンのA、C、G、Tのバンドパターンにより視覚化された。
【0136】
的確なDNA配列を有する遺伝子カセットは、調製的NdeI/XhoI制限酵素処理によりクローニングベクターpCR(商標)4Blunt−TOPO(商標)から切り出し、調製アガロースゲル電気泳動により単離した。修飾ユビキチンタンパク質骨格の遺伝子の発現ベクターpET20B(−)(Novagen)への挿入は、対応するタンパク質の産生のために行い、ファスミドベクターpMUBI‐1への挿入は、ユビキチンバリエーションのライブラリの作成のために行った。
【実施例2】
【0137】
ユビキチンバリエーションライブラリの調製
合成ユビキチン遺伝子のアミノ及びカルボキシ末端の8コドンのランダム部位特異的突然変異生成のため、2連続のPCR反応を行った。第1増幅工程は、Pfuポリメラーゼ(Promega)を使用して10x50μLの容量で行った。この目的のため、5μLの供給された10xPfuバッファー及び4μLのdNTPミックスをサンプルごとに使用し、H2Oで満たした。さらに、各サンプルには、好ましい塩基対置換の導入のため、2.5μLの側面プライマー(配列番号10、11;10μM)を含ませた。鋳型として、非突然変異型合成ユビキチン遺伝子を含む1.0ngのpMUBI‐1を使用した。2.5UのPfuポリメラーゼ(上記参照)の添加に続き、94℃/1分、60℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。採用した鋳型DNAの選択的分解のため、反応サンプルごとに10UのDpnIを付加し、37℃で1時間インキュベーションを行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。
【0138】
第2増幅工程は、1,000μLのサンプル容量で行い、第1のPCR反応で得られた約1.0ngの産物を使用し、Taqポリメラーゼを採用した。反応サンプルをピペットで取り、前記容量の20倍となるように適合させ、上述したとおり、10xTaqバッファー、25mM MgCl2、dNTPミックス、及び、5'末端がビオチン標識され、互換性がないSfiIエンドヌクレアーゼの制限酵素認識部位を有する側面プライマー(配列番号12、13;10μM)を含ませた。H2Oで満たした後、2.5UのTaqポリメラーゼを加熱中に添加し(上述参照)、PCRプログラムを開始した。94℃/1分、60℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。
【0139】
得られた増幅産物の次の切断は、PCR反応サンプル中で直接行った。この目的のため、総容積4,000μLにおいて、完結したPCR反応溶液を、対応する容量の供給された10xバッファーII(100mM Tris/HCl、pH7.9、100mM MgCl2、500mM NaCl、10mM ジチオトレイトール)、10xBSA溶液及びH2Oと混合した。さらに、4,000Uの制限酵素SfiI(New England Biolabs)を添加し、50℃16時間インキュベーションした。DNAを、MinElute反応クリーンアップキット(Qiagen)を使用して前記サンプルから単離し、400μLの滅菌水に再懸濁した。SfiIにより切断されなかったPCR産物の分離のため、単離されたDNAを同容積の1.0mg/mLのストレプトアビジンが表面に結合した磁性ビーズ(“ダイナビーズキロベースバインダー”)を含む“結合溶液”(Dynal)と混合し、ローラーミキサー上で室温(RT)4.5時間インキュベーションした。場合に応じてビオチン標識化DNAを提示するビーズを一晩沈殿させ、SfiIにより完全切断されたDNAであってビオチン標識化末端を有さないものは上清に残った。このようにして得られた、望ましい位置で突然変異生成されSfiIにより切断されたユビキチン遺伝子を、滅菌水に溶解し、QIAクイックPCR精製キット(Qiagen)を使用して脱塩し、最終的にH2O中で200fmol/μLの濃度とした。
【0140】
受容ベクターの調製のため、ファスミドpMUBI‐1を、SfiIを用いて製造業者の取扱説明書に従って切断し、より大きな(ベクター)断片を調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。分子内ライゲーションを回避するため、その5'末端を脱リン酸化した。この目的のため、0.5Uのエビ(Pandalus borealis)由来アルカリホスファターゼ及び供給されたバッファーを、総容積200μLで使用した。前記混合物を、37℃90分インキュベートした。そしてDNAを、QIAクイックPCR精製キット(Qiagen)を使用して前記サンプルから単離し、脱塩した(QIAクイックPCR精製キット)。前記ベクター断片DNAをH2O中50fmol/μLの濃度とした。ライゲーションのため、1.6pmolのPCR断片と8.0pmolのpMUBI‐1のベクター断片とを2UのT4DNAリガーゼ(GibcoBRL)存在下、総容量1,600μL(50mM Tris/HCl、pH7.6、10mM MgCl2、1mM ATP、1mM DTT、5%(w/v)PEG‐8.000)で、16℃3日間インキュベーションした。前記サンプルを65℃で15分加熱後、DNAを沈殿させた。この目的のため、100μLの各反応溶液を、100μLエタノール及び10μLの5M NaAc、pH3.0と混合し、−20℃で16時間維持した。続いて、遠心分離を行い(60分、12,500g)、サンプルをエタノール(705v/v、−20℃)で洗浄し、再度遠心分離した。沈殿したDNAを最終的に60μLの滅菌水に溶解した。
【0141】
エレクトロポレーションのため、遺伝子パルサー(商標)IIシステム(Biorad)及び1.0mmの電極空間を有するキュベット(Biozym)を、低温室内4℃で使用した。3.5μLの上述で得られた溶液を使用して、エレクトロコンピテント大腸菌XL1Blue(Stratagene)を製造業者の取扱説明書に従って形質転換した。得られた細胞懸濁液を5枚のLB/クロラムフェニコールアガープレート(20x20cm)にプレートした。前記プレートを37℃16時間インキュベーションし、生育したコロニーをカウントした。作成されたライブラリは、2.8×107個の独立したコロニーを含んでおり、ライブラリにおいてそれぞれ10,000倍提示される。その後、総計100mlの10%(v/v)グリセロールを含むSOC培地でコロニーを浮かせて遊離させ、1.0mLに分注して−80℃で保存した。得られた中からランダムに選択した12クローンからQiagen社のDNA Miniprepキットを使用してファスミドベクターを単離し、突然変異生成させたユビキチン遺伝子領域のDNA配列を解析した。全てのクローンは、機能的配列を有しており、即ち、挿入又は欠失による読み枠のシフトがなく、さらに、突然変異生成させた位置において質的に完全に異なる置換を有していた。突然変異生成させた領域の外側におけるランダム置換は見られなかった。
【実施例3】
【0142】
ファージ表面におけるユビキチンバリエーションの調製とタンパク質及びハプテンに対するユビキチンバリエーションの選択
表面に提示された突然変異ユビキチンのファージミドバリエーションの産生のため、100mLの2xYT/クロラムフェニコール培地に、1.0mLの実施例2で得られたグリセロール培地を植菌し、37℃、16時間、220rpmでインキュベーションした。この定常期培地の10mLを1Lの2xYT/クロラムフェニコール培地に植菌し、細胞密度がOD600=0.4となるまで37℃、220rpmで撹拌した。1013cfuのM13K07ヘルパーファージで感染を行い、37℃で撹拌することなく30分インキュベーションした。50mg/Lのカナマイシンを添加した後、前記サンプルを37℃、30分、220rpmで撹拌し、その後、培地を無水テトラサイクリン(保存溶液:DMF中2.0mg/mL)の濃度を0.2mg/Lに調整することでpMUBI‐1の遺伝子発現を誘導した。その後、インキュベーター温度を26℃に低減し、16時間、220rpmで撹拌した。最終的に、細胞を遠心分離で沈殿させ(30分、12,000g、4℃)廃棄した。上清はろ過した(0.45μm)。含まれるファージミドは、1/4容量の20%(w/v)PEG6,000、2.5M NaClを添加して沈殿させ、氷上で1時間インキュベーションし、遠心分離して沈殿させた(30分、12,000g、4℃)。その後、ファージミドを、4mLの氷冷PBS(137mM NaCl、2.7mM KCl、8mM Na2HPO4、2mM KH2PO4)に溶解し、氷上に30分置き、遠心分離して(30分、12,000g、4℃)保存した。前記上清を、PBS中4%(w/v)ウシ血清アルブミン(BSA)と1:1で混合し、ローラーミキサー上で室温、30分インキュベーションし、親和性向上において直接使用した。
【0143】
予め定められた標的物質に結合する表面提示ユビキチンバリエーションを有するファージミドを単離するための親和性マトリクスとして、マイクロタイタープレートの各24ウェルをそれぞれの物質でコートした。組換え技術により調製されたヒトGLP‐1受容体(recGLP‐1R;Bazarsuren et al., 2002)のアミノ末端ドメイン、ヒト免疫グロブリンMのFc部分(FcIgM)及びBSAに結合したヒドロコルチゾン(HC)を標的物質として使用し、4℃一晩でマイクロタイタープレート上に固定化した。
【0144】
前記マイクロタイタープレート表面上の空いている結合部位は、各ウェルを400μLのPBS中4%BSAを用いて室温で90分インキュベーションしてブロックした。その後、100μLの調製したファージミド溶液を各ウェルにピペットで取り、室温で90分インキュベーションした。非結合ファージミドは、その後、0.05%(v/v)Tween20を含むPBS(PBST0.05)で2回洗浄し、400μLのPBS中4%BSAで5分インキュベーションした後、激しいタッピングとともにPBSで2回洗浄することにより除去した。親和性マトリクスに結合したファージミドは、最終的に、各ウェルにつき100μLの100mMトリエチルアミンで溶出し、室温10分インキュベーションした。溶出されたファージミドを含む溶液は、各標的物質に依存して別々にまとめて、1/2容量の1M Tris/HCl、pH7.4を添加して速やかに中和した。それぞれの場合で得られた溶液を、感染用大腸菌XL1Blueの20mL培養液、細胞密度OD600=0.4に移して、37℃、30分、220rpmで撹拌した。マイクロタイタープレートのウェルを再度洗浄し(5xPBST、0.05、1xPBS)、細胞密度OD600=0.4の大腸菌XL1Blueの培養液を100μL添加した。37℃、30分のインキュベーションの後、これらの細胞を先に感染させたものとまとめた。各細胞懸濁液を、概ね105〜107コロニー形成クローンを含むLB/クロラムフェニコール培地のアガープレート(20x20cm)にプレートした。前記プレートを37℃、16時間インキュベーションし、生育したコロニーを10mlの10%(v/v)グリセロールを含むSOC培地でコロニーを浮かせて遊離させ、1.0mLに分注して−80℃で保存した。
【0145】
繰り返しのファージ産生及び新たな親和性向上サイクルのため、バクテリア細胞培養液の10倍低い培養液容量及びよりストリンジェントな洗浄条件を選択し、上述の方法を繰り返した(第2ラウンド:PBSTを用いた3x洗浄、PBS中4%BSAを用いた5分インキュベーション3回、及び、PBSを用いた3x洗浄;第3ラウンド:PBST0.1を用いた6x洗浄、PBS中4%BSAを用いた5分インキュベーション3回、及び、PBSを用いた3x洗浄)。
【実施例4】
【0146】
標的物質に特異的に結合するモノクローナルファージミドの単離と特徴付け(単一ファージELISA)
recGLP1‐R、FcIgM、及び、HCに対する親和性向上の第3ラウンド後に得られたクローンから、96個をランダムに選択して、各抗原又はハプテンへの結合に対する単一ファージELISAで解析した。この目的のため、単一コロニーを300μLの2xYT/クロラムフェニコール培地に植菌し、37℃、18時間、220rpmで撹拌した。この定常培養液の80μLを、4mLの2xXT/クロラムフェニコール培地に植菌し、37℃、4時間、180rpmで撹拌した。並行作業を可能とするため、4つの“ディープウェル”プレート(Qiagen、各24ウェル)を使用した。XL1Blue細胞に1011cfuのM13K07ヘルパーファージを感染させた後、37℃、30分のインキュベーションを行った。さらに、37℃、30分、180rpmの後、50mg/Lカナマイシンを添加した。その後、37℃、30分、220rpmの撹拌を続け、培地を無水テトラサイクリン(保存溶液:DMF中1.0mg/mL)の濃度を0.2mg/Lに調整することでpMUBI‐1の遺伝子発現を誘導した。その後、インキュベーター温度を22℃に低減し、16時間、180rpmで撹拌した。最終的に、細胞を遠心分離で沈殿させ(30分、5,000g、4℃)、上清を、新しい“ディープウェル”に移した。含まれるファージミドは、1容量の20%(w/v)PEG6,000、2.5M NaClを添加して沈殿させ、氷上で1時間インキュベーションし、遠心分離して沈殿させた(30分、5,000g、4℃)。その後、ファージミドを1.0mLの氷冷滅菌PBSに溶解し、6%PBSTと1:1で混合し、室温、1時間インキュベーションした。
【0147】
ELISAを行うため、分析するモノクローナルファージミドにつきマイクロタイタープレートの1つのウェルを4℃の抗原で満たし、1つをBSA溶液で満たした。ウェルのプラスチック表面の空いている結合部位の飽和は、3%BSA(w/v)PBST0.5でブロックした。その後、ウェルをPBST0.1で3回リンスし、タップアウトした。その後、上述のように調製したファージミド溶液の100μLをプレートの各ウェルにピペットで取った。2時間のインキュベーション後、PBST0.1を用いて3回洗浄した。結合したファージミドを検出するために、M13抗体ペルオキシダーゼ結合物(Amersham Pharmacia Biotech)をPBST0.1で1:5,000の比率で希釈し、100μLを各ウェルに添加した。室温、1時間のインキュベーションの後、PBST0.1を用いて3回リンスし、PBSを用いて3回リンスした。最終的に、ImmunoPureキット(Pierce)の100μLをピペットでウェルにとり、15分後、2M H2SO4を100μL添加して呈色反応を停止させた。吸光度は、Sunrise Remote Reader(Tecan)を用いて450nmで測定した。
【0148】
ELISAにおいて、各抗原に対して比較的強い結合シグナルを示し、BSAには示さなかったファージミド(約20個)に由来するユビキチンバリエーションのDNAを配列番号14のプライマー及び上述の方法を用いて配列決定した。分析したDNA配列の一部分は、読み枠のシフト又はアンバーストップコドンを示し、それ以上使用しなかった。このようにして得られ、さらに分析されたユビキチンバリエーションのアミノ酸置換を、例示的に表1にリスト化する。
【0149】
(表1)異なる標的物質に対するファージディスプレイ選択後のユビキチンを基礎とした修飾タンパク質における新規に生成された結合部位領域のアミノ酸置換
【0150】
【表1】

1SPU:結合ポケットに置換がないユビキチンタンパク質骨格
【実施例5】
【0151】
インビトロ転写/翻訳システムにおけるユビキチンバリエーションの調製及びリボソームディスプレイを用いたタンパク質に対するユビキチンバリエーションの選択
インビトロ転写/翻訳のための発現コンストラクトの提供、及び、リボソームディスプレイを用いた結合タンパク質の選択は、Schaffitzel et al. (2001)に従って行った。しかしながら、これとは対照的に、本ケースでは、抗体断片のライブラリは使用せず、実施例2で記載したものと同様のユビキチンバリエーションのライブラリを使用した。これらのライブラリの1つは、Ile44Ala、Lys48Arg、Arg54Leu、Val70Ala、Arg72Leu、Gly75Alaの置換、及び、Gly76欠失を有する修飾ユビキチンタンパク質骨格のDNA配列(配列番号1)に基づき調製された。第2のライブラリは、Phe45Trpの置換を有する修飾ユビキチンタンパク質骨格のDNA配列(配列番号15)に基づき調製された。
【0152】
第1工程において、実施例2と同様に、8コドンに突然変異生成されたライブラリを表すユビキチンバリエーションの合成遺伝子を、配列番号1又は15に基づき、PCRを用いて調製した。これは、Pfuポリメラーゼ(Promega)を使用して50μLの容量で行った。この目的のため、5μLの提供される10xPfuバッファー及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、サンプルには、望ましい塩基対置換を導入するため、2.5μLの側面プライマー(配列番号1に基づくライブラリに対しては配列番号16及び17、配列番号15に基づくライブラリに対しては配列番号18及び19;10μM)を含ませた。鋳型として、配列番号1又は15の非突然変異型合成ユビキチンを有するプラスミドDNA1.0ngを使用した。2.5UのPfuポリメラーゼを添加した後、94℃/1分、65℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。
【0153】
バクテリオファージM13のエンベロープタンパク質IIIの一部を含み、インビトロ翻訳の過程で新生タンパク質をリボソームのチャネルから押し出しユビキチンバリエーションの最適な提示を可能とするスペーサは、2つの連続するPCR反応において合成された。これは、第1に、5μLの提供された10xPfuバッファー、4μLのdNTPミックス及び適量のH2Oを使用した総容積50μLで行った。さらに、前記サンプルには、2.5mlの各側面プライマー(配列番号20、21;10μM)並びに1.0ngのバクテリオファージM13DNAを含ませた。2.5UのPfuポリメラーゼを添加した後、94℃/1分、65℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離し、第2のPCR反応の鋳型として使用した。これは、Pfuポリメラーゼ(Promega)を使用して50μLの容量で行った。この目的のため、5μLの提供される10xPfuバッファー及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、サンプルには、2.5μLの側面プライマー(配列番号22、21;10μM)を含ませた。鋳型として、先のPCR反応に由来するDNA1.0ngを使用した。2.5UのPfuポリメラーゼを添加した後、94℃/1分、55℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。
【0154】
以下の工程において、8コドンに突然変異導入されたライブラリを表すユビキチンバリエーションの合成遺伝子を、リンキングPCR反応を用いて調製したスペーサDNAに融合させた。これは、Pfuポリメラーゼ(Promega)を使用して50μLの容量で行った。この目的のため、5μLの供給される10xPfuバッファー及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、サンプルには、2.5μLの側面プライマー(配列番号23、21;10μM)を含ませた。鋳型として、500ngのライブラリDNA及び先のPCR反応に由来する500ngのスペーサDNAを使用した。2.5UのPfuポリメラーゼを添加した後、94℃/1分、55℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。
【0155】
最終工程において、インビトロ転写/翻訳反応のための適切な制御配列(T7プロモーター、リボソーム結合部位)が、さらなるPCR反応により導入され、線状発現コンストラクトが完成した。反応は、500μLのサンプル容量で行われ、先のPCR反応で得られた産物の約500ngを採用し、Taqポリメラーゼを使用した。反応サンプルは、10倍容量に適合するようにピペットで取り、実施例2に記載のとおり、10xTaqバッファー、25mM MgCl2、dNTPミックス、及び、側面プライマー(配列番号24、21;10μM)を含ませた。H2Oで満たした後、2.5UのTaqポリメラーゼを添加し、PCRプログラムを開始した。94℃/1分、65℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離し、インビトロ転写/翻訳反応に直接使用できた。
【0156】
インビトロ転写/翻訳反応のため、RTS100大腸菌キット(Roche Cat.No.3186148)を、製造業者の取扱説明書に従って使用した。この目的のため、24.0μLの大腸菌溶解物、20.0μLの反応混合物、24.0μLのアミノ酸ミックス(Met以外)、2.0μLのメチオニン、10.0μLの反応バッファー(10x)、2.0μLのMgAc(500mM)、2.0mLの抗ssrA DNA(200μM)、及び、20.0μLの各DNAライブラリ(0.5〜1.0μg)を注意深くピペットで混合し、30℃又は37℃、60分インキュベーションした。以下の工程は、低温室又は氷上で行った。サンプルを氷上で5分冷却し、反応を400μLの3%BSAを含むWBT(50mM Tris/HCl(pH7.5)、150mM NaCl、50mM MgAc、0.1%Tween20)を添加して停止させた。このバッファーには、必要に応じて2.5mg/mLのヘパリン(Sigma)を含ませてもよい。サンプルの不溶部分を5分、13,000rpm、4℃で沈殿させた。ユビキチンバリエーション、対応するmRNA及びリボソームからなる三重複合体は、上清に残ったままであった。
【0157】
予め定められた標的物質に結合した表面に提示されたユビキチンバリエーションを有する三重リボソーム複合体の単離用の親和性マトリクスとして、マイクロタイタープレートの2つのウェルを対応する物質でコートした。標的物質として、組換え技術により調製した成長因子VEGFを標的物質として使用し、4℃一晩でマイクロタイタープレート上に固定化した。前記マイクロタイタープレート表面上の空いている結合部位は、各ウェルを400μLのWBT中3%BSAを用いて室温で90分インキュベーションしてブロックした。ブロッキング溶液を除去した後、250μLのインビトロ転写/翻訳反応から得た三重リボソーム複合体を含む溶液をウェルごとに添加し、4℃、60分、50rpmでインキュベーションした。次に、非結合の複合体を、例えば、WBTを用いた5回の洗浄(ウェルごと300μL、3分、4℃、50rpm)及び激しいタッピングで除去した。前記親和性マトリクスに結合した複合体を、最終的に、ウェルにつき100mLのEB(50mM Tris/HCl(pH7.5)、1.5M NaCl、20mM EDTA;なお、このバッファーは、必要に応じて50μg/mLの酵母由来RNA(Sigma)を含んでもよい)を加えて4℃、5分、50rpmのインキュベーションをして、mRNA、タンパク質及びリボソームサブユニットに分離した。
【0158】
得られた懸濁液からのRNAの単離は、室温で可能な限り迅速に、QiagenのRNAeasyキット(Cat.Nr.74104)を使用し、製造業者の取扱説明書に従って行った。この場合、RNAの溶出は、最終工程において、30μLのRNaseフリーH2Oを用いて行った。このように得られたRNA溶液に含まれるであろう線状発現コンストラクトDNAの分解のため、DNaseI(Invitrogen)で処理した。この目的のため、3μLのDNaseバッファー(10x)及び3μLのDNaseI(1U/μL)を添加し、室温で15分インキュベーションした。その後、3μLの25mM EDTAを添加し、65℃、10分インキュベーションすることで、DNaseを失活させた。このようにして得られたRNAを、逆転写反応により補完した。この目的のため、まず、8.5μLのRNAを、0.5μLのオリゴデオキシヌクレオチドT7te(配列番号21;10μM)及び4.0μLのdNTP(各2.5mM)と混合し、65℃、5分インキュベーションし、その後、1分氷上に置いた。次に、4.0μLのRTバッファー(5x)、1.0μLのDTT(0.1M)、1.0μLのRNAsin(Promega)、および1.0μLのSS逆転写酵素III(200U/μL;Invitrogen)を、さらなる成分として添加し、55℃、60分インキュベーションした。
【0159】
逆転写反応から得た反応サンプルを、質が向上したユビキチンバリエーションの遺伝情報の新しい再増幅用、及び、新しい選択サイクルの制御配列の再導入用のPCRに直接使用した。この目的のため、Expand High FidelityPCRシステム(Roche)を使用して、総容量50μLで2連続のPCR反応を行った。この目的のため、5μLの供給される10xバッファー(15mM MgCl2を含む)及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、前記サンプルには、各2.5μLの側面プライマー(配列番号23、21;10μM)及び2.5μLのジメチルスルホキシド(DMSO)を含めた。鋳型として、2.5又は5.0μLの先のRT反応物を使用した。0.75μLのポリメラーゼ(3.5U/μL)を加えた後、94℃/15秒、50℃/30秒及び72℃/1.0分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で7分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離し、二次PCR反応に直接使用できた。次に、5μL供給される10xバッファー(15mM MgCl2を含む)及び4μLのdNTPミックスを使用し、H2Oで満たした。さらに、前記バッチには、各2.5μLの側面プライマー(配列番号24、21;10μM)を含めた。鋳型として、先のPCR反応物から得た総DNAを使用した。0.75μLのポリメラーゼ(3.5U/μL)を加えた後、94℃/15秒、50℃/30秒及び72℃1.0分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で7分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離し、インビトロ転写/翻訳の新しい選択サイクルに直接使用できた。
【0160】
また、各遺伝子は、発現ベクターpET20B(−)にクローニングした(上述参照)。これにより、そのDNA配列について得られたユビキチンバリエーションの解析、大腸菌における組換え技術による調製、及び、固定化金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)によるカルボキシ末端融合6ヒスチジンペプチド(下記参照)を使用したワンステップ精製が可能となる。このようにして得られ、さらに分析されたユビキチンバリエーションのアミノ酸置換を、例示的に表2にリスト化する。
【0161】
(表2)異なる標的物質に対するリボソームディスプレイ選択後のユビキチンを基礎とした修飾タンパク質における新規に生成された結合部位領域のアミノ酸置換
【0162】
【表2】

1SPU:結合ポケットに置換がないユビキチンタンパク質骨格
【実施例6】
【0163】
ユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の調製と精製
ファージミドから選択され、ELISAにおいて比較的強い結合シグナルを示し、機能的なDNA配列を有するユビキチンバリエーションのタンパク質化学的特性の特徴付けを、各遺伝子を発現ベクターpET20B(−)にクローングした後に行った(上述参照)。これにより、大腸菌BL21/pUBSを用いた組換え技術による各バリエーションの調製、及び、固定化金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)によるカルボキシ末端融合6ヒスチジンペプチドを使用したワンステップ精製が可能となる。
【0164】
新規な結合特徴を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の組換え技術による調製のため、50mLの2xYT/amp/kan培地へ単一コロニーを植菌し、37℃、16時間、220rpmで撹拌した。この前培養を用いて、1.5Lの2xYT/amp/kan培地へ1:50の比率で植菌し、細胞密度OD600=0.5となるまで、37℃、220rpmでインキュベーションした。1mM/Lのα‐D‐イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)の添加により外来遺伝子の発現を誘導した後、撹拌をさらに37℃、220rpmで3時間続けた。その後、細胞を遠心分離により沈殿させ(30分、5,000g、4℃)、40mLのNPI−20(50mM NaH2PO4、pH8.0、300mM NaCl、20mM イミダゾール)に再懸濁した。200μg/mLのリゾチーム及び500Uのベンゾナーゼを用いて、室温30分のインキュベーション、及び、15秒x5回の超音波パルスにより、細胞を破壊した。細胞の残滓を、遠心分離により沈殿させ(30分、15,000g、4℃)、総可溶性細胞タンパク質を含む上清を、直接、後に続くIMACに使用できた。
【0165】
クロマトグラフィーは、AKTA(商標)エクスプローラFPLCユニット(Amersham Pharmacia Biotech)で、5mLHiTrapキレートHPカラム(Amersham Pharmacia Biotech)を使用し、室温、流速5mL/分で行った。まず、カラムを5カラム容量のNPI‐20で平衡化し、そこに、総細胞タンパク質を通過させた。非結合タンパク質を、30カラム容量のNPI‐20を用いてリンスして洗い出した。溶出は、合計20カラム容量のイミダゾール20nM〜250mM直線勾配により行った。溶出物は、2.5mLのフラクションで回収した。精製ユビキチンバリエーションを含むフラクションを、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により解析してまとめた。組換えユビキチンバリエーションの収率は、培養容量に対して、10〜30mg/Lであった。
【実施例7】
【0166】
新規結合特性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の結合特性の特徴付け
各ケースで選択され、実施例6に記載のように精製されたユビキチンバリエーションのrecGLP1‐R、FcIgM及びHCへの結合を、Ni/NTAペルオキシダーゼ結合物(Qiagen)又はラビット由来ユビキチン抗血清(Sigma)を用いたELISAにより検出した。この目的のため、マイクロタイタープレートのウェルを各抗原及び非特異的結合の検出のためのBSAなどで4℃一晩満たし、残りの結合部分を飽和させるため、PBST0.5中3%BSA(w/v)を用いて2時間ブロックした。前記プレートを、PBST0.1を用いて3回リンスしタップアウトした。その後、PBST0.1中の連続濃度(無希釈から1:16希釈までの範囲)の修飾精製タンパク質溶液100μLを、プレートのウェルにピペットで取った。2時間のインキュベーションの次に、PBST0.1を用いて3回リンスした。結合した修飾タンパク質の検出のため、Ni/NTAペルオキシダーゼ結合物を1:500の比率で希釈し、又は、ユビキチン抗血清をPBST0.1中で1:10の比率で希釈し、それぞれの100μLをウェルに加えた。室温、1時間のインキュベーションの次に、直接、Ni/NTAペルオキシダーゼ複合体の検出(下記参照)、又は、ラビット抗体ペルオキシダーゼ複合体(PBST0.1中1:2,500)とインキュベーションを室温、1時間行った。検出のため、ウェルをPBST0.1で3回リンスし、次に、PBSで3回リンスした。最後に、100μLのImmunoPureキットをピペットでとり、15分後に、100mLの2M H2SO4を添加して呈色反応を止めた。吸光度は、Sunrise Remote Reader(Tecan)を用いて450nmで測定した。得られた吸収強度の値は、“シグマプロット”コンピュータプログラムにより評価した。この目的のため、各ケースで測定された吸光度を採用した対応するタンパク質濃度に対してプロットし、得られたカーブを下記式(1)を使用した非線形回帰により適合させた。
【0167】
【数1】

【0168】
固定化抗原と修飾タンパク質との間の結合/解離平衡を前提として、
x=採用した修飾タンパク質濃度、
y=抗原/修飾タンパク質複合体濃度(リポーター酵素の酵素活性により間接的に測定したもの)、
a=固定化した抗原の総濃度、
b=解離定数(KD)である。
【0169】
実施例3及び4においてrecGLP1‐Rに対するファージディスプレイを用いた親和性向上で得られたユビキチンバリエーションSPU‐1‐D10に対するこの種類のELISA実験で得られた結合曲線を、例示的に図5に示す。さらに、図6に、実施例5においてVEGFに対するリボソームディスプレイを用いた親和性向上で得られたユビキチンバリエーションSPW‐11‐A1の結合曲線を示す。選択された新規結合特性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質それぞれの結合データを表3にまとめる。
【0170】
ユビキチンバリエーションの予め定められた抗原への結合の定量解析のため、BIACORE3000システム(Biacore)を使用した。表面プラズモン共鳴(SPR)測定のため、検体を固定化できるキャリア(センサーチップ)を装置の中に置き、そこに一体化されているマイクロフローシステム(一体化μ流体カートリッジ、IFC)に結合した。これにより、前記チップ表面を横切るバッファー容器からの連続的な液体の流れ、及び、溶液検体キャリアへの結合の溶液中の準検出が可能となった。
【0171】
まず、標的分子の測定のため、例えば、VEGFを、製造業者の取扱説明書に従い、第1級アミン基を介したNHS/EDC結合によりセンサーチップCM5(Biacore)のカルボキシメチルデキストラン表面に結合させた。測定は、25℃、35μL/分の連続流バッファー中で行った。ランニングバッファー及び使用したタンパク質の溶媒として、0.005%のP−20界面活性剤(Biacore)が補完されたPBS(ろ過滅菌及び脱気されたもの)を使用した。異なる濃度の固定化されたVEGFと、サンプルループを通って注入されたユビキチンバリエーションとの相互作用は、発生したSPRシグナルにより検出できた。シグナルを、時間に依存する、いわゆる、共鳴単位(RU)として定量化し、対応する結合曲線を作成した。得られた結合曲線を、BIA計算ソフトウエア(バージョン3.1;Biacore)を使用して計算し、解離定数(KD)の値を決定した。実施例5においてVEGFに対するリボソームディスプレイを用いた親和性向上で得られたユビキチンバリエーションSPW‐11‐58のそのようなBIACORE実験により得られた結合曲線を、例示的に図7に示す。選択された新規結合特性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質それぞれの結合データを表3にまとめる。
【0172】
(表3)ユビキチンを基礎とした修飾タンパク質と異なる標的物質との複合体の解離定数
【0173】
【表3】

【0174】
さらに、修飾タンパク質の結合特異性について評価した。この目的のため、単一の適当な濃度の修飾タンパク質を使用して上述のようにELISA実験を行った。この目的のため、マイクロタイタープレートのウェルを標的物質及び構造的に似た物質で満たした。実施例3及び4においてHCに対する親和性向上で得られたユビキチンバリエーションSPU‐3‐H13に対するELISA実験で得られた結合曲線を、例示的に図8に示す。
【実施例8】
【0175】
部位特異的二次的突然変異生成によるユビキチンを基礎とした結合タンパク質の結合特性の改善
FcIgMに対して新規な結合特性を示すユビキチンバリエーションSPU‐2‐A7に基づき、親和性成熟についての一般的に適用可能な戦略を確立した。これは、まず、DNAレベルの結合部位内で選択した位置の新しくランダムに生成された新規置換、及び、後に続く、96個のバリエーションの並行した発現、精製、結合分析を含む。この“96フォーマット”を使用して、前記戦略を実験室のロボットに移行でき、そして、高い生産性で、バリエーションの解析ができる。
【0176】
この目的のため、2つの位置のコドン(第62、63番目、及び、第64、65番目)に、2つのサンプルで並行してPCRを用いてランダムに突然変異させた。対応する反応は、総容積50μLで行い、約1.0ngのpET20B(−)に挿入されたSPU‐2‐A7の遺伝子を使用し、Taqポリメラーゼを採用した。反応サンプルは、実施例2に記載のとおり、10xTaqバッファー、25mM MgCl2、dNTPミックス、及び、側面プライマー(第62、63番目の突然変異には配列番号12及び25、第64、65番目の突然変異には配列番号12及び26;10μM)をピペットで取った。H2Oで満たした後、2.5UのTaqポリメラーゼを添加し、PCRプログラムを開始した。94℃/1分、65℃/1分及び72℃/1.5分のサイクルを25サイクル、インキュベーションした。最終インキュベーションは、72℃で5分行った。望ましいPCR産物は、調製アガロースゲル電気泳動及びQIAクイックゲル抽出キット(Qiagen)を用いて単離した。第62/63番目又は第64/65番目の位置に突然変異導入されたSPU‐2‐A7のライブラリを表す得られたDNA断片を、それぞれ、NdeI/XhoIで制限酵素切断し、調製アガロースゲル電気泳動により単離した。修飾SPU‐2‐A7の遺伝子ライブラリを、発現ベクターpET20B(−)(Novagen、実施例1参照)に挿入し、対応するタンパク質の産生に使用した。
【0177】
エレクトロコンピテント大腸菌、例えば、Nova−Blue又はBL−21細胞の形質転換の後、発現ベクターの形で得られた前記ライブラリのクローンの遺伝子情報を含む単一コロニーを得た。96個のこれらの単一コロニーを使用して、300μLの2xYT/amp/kanにそれぞれ植菌し、37℃、220rpmで一晩撹拌した。この培養物の100μLを、96x4mLの2xYTamp/kanにそれぞれ植菌し、37℃、220rpmで、細胞密度OD600=0.5となるまで撹拌した。この目的のため、この場合に4つの24ウェル培養プレート(Qiagen)を使用した。1mM/Lのα‐D‐イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)の添加により外来遺伝子の発現を誘導した後、撹拌をさらに37℃、180rpmで3時間、又は、30℃、180rpmで一晩続けた。その後、細胞を遠心分離により沈殿させ(30分、4,000g、4℃)、上清を除去した。細胞破壊は、物理的溶解(凍結融解ショック)又は化学的溶解(界面活性剤)及びリゾチーム(200μg/mL)及びベンゾナーゼ(最終容量で10U/mL)の添加により行った。得られた総細胞タンパク質からのSPU‐2‐A7のバリエーションの精製は、QiagenのBioRobot9600キット及び手動の真空ステーション(QIAvac96、Qiagen)を用いて行った。得られたタンパク質溶液は、FcIgMへの結合について、実施例7の実験の準備的実験相当する定性的なELISA実験で解析した。
【0178】
遺伝子の機能性の検証又は得られた置換の解析のため、前記ELISAにおいて比較的強い結合シグナルを示すSPU‐2‐A7のバリエーションについて、DNA塩基配列決定をした。期待できる候補を、1.5Lスケールで組換え技術により調製し、カルボキシ末端に融合させた6ヒスチジンペプチドを使用した固定化金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)を用いて精製した。親和性の定量化のため、実施例7に記載のように、濃度非依存ELISAを、成熟の基礎としたユビキチンバリエーションであるSPU‐2‐A7と比較して行った。ユビキチンバリエーションSPU‐2‐A7及びELISA実験から得られたSPU‐2‐A7(62/63)の結合曲線を、例示的に図9に示す。この親和性成熟バリエーションは、KD=1.0μMを示し、SPU‐2‐A7と比較して、10倍の結合強度の改善を示した。
【実施例9】
【0179】
2つの同一のユビキチンを基礎としたタンパク質のビス‐マレイミド試薬によるカルボキシ末端の単一システイン残基を介した結合
2つの同一のユビキチンバリエーションの結合を、この目的のために特異的に導入したシステイン残基を介して、ビス‐マレイミドヘキサン(BMH、Pirce)を用いて行った。まず、プロリンが後に続くシステインの適当なコドンをこの目的のために、3'末端の読み枠に、即ち、6ヒスチジンペプチドの後のタンパク質のカルボキシ末端に導入した。このように、最後のプロリン残基は、結果として得られるタンパク質を産生及び精製中のタンパク質分解から保護する。対応する塩基対のpET20B(−)への挿入は、クイックチェンジ(商標)部位特異的突然変異導入キット(Stratagene)を用いて製造業者の取扱説明書に従って、配列番号27及び28のオリゴデオキシヌクレオチド及び鋳型としてユビキチンバリエーションの遺伝子(配列番号15)を使用して行った。結果として得られたクローンをDNAシーケンシングにより解析し、望ましい挿入部分を持つ発現プラスミドを有するコロニーを実施例6における組換え体の産生と精製に使用した。
【0180】
精製されたタンパク質を、1mM EDTA及び5mM β‐メルカプトエタノールを含むPBSに対して透析を行い、後に続くPBS、1mM EDTAを反応バッファーとして使用した結合反応に約1mg/mLの濃度で使用した。この目的のため、最初に、タンパク質溶液を100mM ジチオトレイトール(DTT)に調整し、室温で1時間インキュベーションすることで、フリーのシステイン残基を還元した。その後、PD10セファデックスG−25Mカラム(Amersham Biosciences)を用いて還元剤をタンパク質から分離し、過剰な2倍のモル濃度の結合試薬(ストック溶液:DMSO中、100mM BMH)を加え、室温で1時間インキュベーションした。過剰なBMHはPD10カラムを使用して分離した。存在する可能性がある単独で反応した結合試薬を分離するため、等モル量の新しく還元したタンパク質を再度添加し、結合サンプルを得た。この二次結合工程は、室温で2時間行った。
【0181】
この方法で得られた結合サンプルをSDS−PAGE(図10)で解析し、結合度を計算した。上述の方法では、約40%であった。
【0182】
参照文献:
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【図面の簡単な説明】
【0183】
【図1】図1は、野生型ユビキチン(PDBコード:1ubi)の表面上の新規に生成された人工結合部位を示す。
【図2】図2は、第2、4、6、62、63、64、65、66番目の位置をランダムに置換した104個のバリエーションのタンパク質安定性について、ユビキチン(WT)及び対照エピトープと比較したコンピューター解析の結果を示す。
【図3】図3は、新規結合特性を有するユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の選択に使用するファスミドベクターpMUBI‐1を説明する。
【図4】図4は、ユビキチンバリエーションのライブラリの作成の方法を説明する。
【図5】図5は、ファージディスプレイにより選択されたユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の対応するタンパク質への結合を検出するELISA実験の結果を示す。
【図6】図6は、リボソームディスプレイにより選択されたユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の対応するタンパク質への結合を検出するELISA実験の結果を示す。
【図7】図7は、リボソームディスプレイにより選択されたユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の対応するタンパク質への結合を検出するBIACORE実験の結果を示す。
【図8】図8は、ファージディスプレイにより選択されたユビキチンを基礎とした修飾タンパク質の対応するハプテンへの結合を検出するELISA実験の結果を示す。
【図9】図9は、ファージディスプレイにより選択され、二次的な突然変異生成により得られたユビキチンを基礎としたIgM Fcへの結合タンパク質であるバリエーションSPU‐3‐A7のその抗原への改善された結合を検出するELISA実験の結果を示す。
【図10】図10は、ビス‐マレイミドヘキサンにより、単一カルボキシ末端システイン残基を介して2つのユビキチンを基礎としたタンパク質の部位特異的共有結合の実験の結果を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0184】
配列番号1:修飾ユビキチンタンパク質骨格のDNA配列
配列番号2〜7:鋳型
配列番号8〜14:プライマー:
配列番号15:ライブラリの基礎としての修飾ユビキチン配列
配列番号16〜26:プライマー
配列番号27、28:オリゴデオキシヌクレオチド
配列番号29〜34:ユビキチン変異体ライブラリの構築

【特許請求の範囲】
【請求項1】
“ユビキチン様タンパク質”のタンパク質スーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、前記タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域であってβシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む領域における1以上のアミノ酸の修飾に起因して、以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフが維持されているタンパク質。
【請求項2】
前記修飾のために選択されるタンパク質が、ヒトユビキチンと少なくとも30%のアミノ酸配列の同一性及びユビキチン様折り畳みモチーフを有し、かつ/又は、“ユビキチン関連タンパク質”のタンパク質ファミリーに属する請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
前記修飾のために選択されるタンパク質が、ユビキチン様折り畳みモチーフを有し、好ましくは、SUMO‐1、FAU、NEDD‐8、UBL‐1、Rub1、APG8、ISG15、URM1、HUB1、GDX、elonginB、PLIC2(N末ドメイン)、ヒトparkin(N末ドメイン)からなる群から選択される請求項1又は2に記載のタンパク質。
【請求項4】
前記タンパク質が、ヒトユビキチン又はその他の哺乳類のユビキチンである前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項5】
前記修飾が、前記タンパク質の表面の5から10アミノ酸、好ましくは6から8アミノ酸の隣接する領域を含み、好ましくはその2から4アミノ酸が表面露出βシートにある前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項6】
第1及び第4βシート鎖の表面露出アミノ酸が修飾され、必要に応じて、さらに、哺乳類ユビキチンの非βシート領域の第62から65番目の領域が修飾された前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項7】
前記修飾が、置換、挿入、欠失、化学修飾又はこれらの組み合わせであり、一次配列で直接隣接した又は直接隣接していないアミノ酸を少なくとも部分的に1以上、好ましくは、置換を含み、好ましくは、一次配列において隣接していない修飾されたアミノ酸が、二次構造において隣接した結合パートナーに対する結合領域を形成する前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項8】
修飾、好ましくは、置換される一次配列において直接隣接したアミノ酸の数が、2から8の直接隣接したアミノ酸であり、より好ましくは、3から7、又は、4から6、又は、2から4の直接隣接したアミノ酸である前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項9】
一次配列において互いに直接隣接した修飾されたアミノ酸の部分が、βシート鎖の開始又は終結部分であって、前記部分が、2以上のアミノ酸長、好ましくは、2又は3のアミノ酸長である前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項10】
一次配列において互いに直接隣接する5以上のアミノ酸が修飾、好ましくは、置換され、そのうちの1、2以上、好ましくは、2又は3の直接隣接したアミノ酸が、βシート鎖領域の開始又は終結部分を形成する前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項11】
前記修飾が、前記タンパク質表面上で隣接する領域を形成するアミノ酸において行われる前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項12】
請求項1の野生型タンパク質において、ユビキチンの天然結合パートナーへの結合に関与する領域に属さない位置のアミノ酸が修飾されている前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項13】
前記タンパク質、好ましくは、ユビキチンのβ鎖に存在する少なくとも25%のアミノ酸が修飾されている前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項14】
さらに、前記タンパク質のループ領域のアミノ酸が修飾されている前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項15】
ヒトユビキチン又はそれに相同なタンパク質であって、少なくとも8個のユビキチンの表面露出アミノ酸が修飾、好ましくは、置換されており、前記修飾アミノ酸が結合パートナーに対する結合親和性を有する領域を含む前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項16】
前記8個の表面露出アミノ酸のうち少なくとも6個が、前記タンパク質のβシート領域に指定される領域内に存在する請求項15記載のタンパク質。
【請求項17】
修飾、好ましくは、置換された少なくとも5個のアミノ酸が、一次配列において互いに直接隣接している請求項15又は16に記載のタンパク質。
【請求項18】
前記タンパク質のアミノ末端βシート鎖及び/又はカルボキシ末端βシート鎖に位置するアミノ酸が修飾されている前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項19】
さらに、カルボキシ末端βシート鎖に続くループに位置するアミノ酸が修飾されている前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項20】
前記修飾タンパク質が、第2、4、6、62、63、64、65及び66番目の位置で、置換、欠失、挿入、及び/又は、化学修飾、好ましくは、置換されたヒトユビキチンである前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項21】
修飾のために選択されるタンパク質が、既に挿入、欠失、置換及び/又は化学修飾され、前記タンパク質の生物学的及び/又はタンパク質化学的機能が、廃棄され又は新規に生成された前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項22】
修飾の後に、合計して少なくとも10、好ましくは、少なくとも15のユビキチンのアミノ酸が置換された請求項21記載のタンパク質。
【請求項23】
置換、挿入及び/又は欠失による改変のために選択されるタンパク質が、第44、48、54、70、72及び75番目の位置の1以上においてアミノ酸が置換され、第76番目のアミノ酸が欠失されたヒトユビキチンであって、本質的に天然の結合パートナーとの相互作用を示さないユビキチンである請求項21又は22記載のタンパク質。
【請求項24】
前記タンパク質が、第45番目の位置においてフェニルアラニンからトリプトファンへの置換を含むヒトユビキチンである前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項25】
ランダム突然変異生成により選択されたアミノ酸のランダム置換が行われた前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項26】
前記結合パートナーが、抗原又はハプテンである前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項27】
予め定められた結合パートナーに対するKDで表される結合親和性が、10-6Mから10-12M、さらにより好ましくは、10-8Mから10-12M、又は、10-9Mから10-12Mである前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項28】
“ユビキチン様タンパク質”のタンパク質スーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、1以上のアミノ酸の修飾に起因して、以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフが維持されているタンパク質であり、下記方法により得ることができるタンパク質。
a)修飾するタンパク質を選択し;
b)結合パートナーを決定し;
c)βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む前記タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域におけるアミノ酸を選択し;
d)前記選択アミノ酸を、好ましくは、置換、挿入、欠失、及び/又は、化学修飾により修飾し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフを維持し;
e)前記修飾タンパク質を、工程b)で決定した結合パートナーと接触させ、
f)工程b)で予め定めた結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質を検出する。
【請求項29】
前記タンパク質が、部位特異的な共有結合により、同じ又は異なる特異性のタンパク質に結合されており、二価又は二重特異的な結合特性を示す前請求項の1以上に記載のタンパク質。
【請求項30】
前請求項の1以上に記載のタンパク質の製造方法であって、前記タンパク質が、“ユビキチン様タンパク質”のタンパク質スーパーファミリー、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するタンパク質、及び、ユビキチン様折り畳みモチーフを有するその断片又は融合タンパク質からなる群から選択されるタンパク質であって、前記タンパク質の少なくとも1つの表面露出領域であってβシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む領域における1以上のアミノ酸の修飾に起因して、以前は存在しなかった予め定められた結合パートナーに対する結合親和性を有し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフが保持されているタンパク質であって、下記工程を含む製造方法。
a)修飾するタンパク質を選択する工程。
b)結合パートナーを決定する工程。
c)βシート領域の少なくとも1つのβシート鎖及び必要に応じて非βシート領域を含む前記タンパク質の表面露出領域におけるアミノ酸を選択する工程。
d)前記選択アミノ酸を、置換、挿入、欠失、及び/又は、化学修飾により修飾し、さらに、ユビキチン様折り畳みモチーフを維持する工程。
e)前記修飾タンパク質を、工程b)で決定した結合パートナーと接触させる工程。
f)工程b)で予め定めた結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質を検出する工程。
【請求項31】
工程c)からd)が、前記修飾タンパク質の化学合成により行われる請求項30記載の製造方法。
【請求項32】
工程d)における修飾が、対応する修飾タンパク質に属するDNAを改変する遺伝子工学により行われ、前記タンパク質の発現が、原核若しくは真核生物宿主又はインビトロで行われる請求項31記載の製造方法。
【請求項33】
工程d)において、遺伝子ライブラリが確立される請求項30記載の製造方法。
【請求項34】
工程d)において、ランダム突然変異生成により選択されたアミノ酸のランダム置換が行われる前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項35】
工程e)において、予め定められた結合パートナーとの接触が、適切な選択方法、好ましくは、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、mRNAディスプレイ、CISディスプレイ、又は、細胞表面ディスプレイ法、酵母表面ディスプレイ、バクテリア表面ディスプレイ、特に好ましくは、ファージディスプレイ法により行われる前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項36】
工程f)において、予め定められた結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質の検出が、ELISA、プラズモン表面共鳴分光法、蛍光分光法、FACS、等温滴定熱量計、又は、分析的超遠心分離法の1以上の方法により行われる前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項37】
工程f)の後に、検出された予め定められた結合パートナーに対して結合親和性を有するタンパク質の単離及び/又は質向上の工程が続く前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項38】
前記タンパク質が、それ自体公知の方法により、その結合親和性、その結合特異性、及び/又は、安定性、溶解度、若しくは、収率などのその他のタンパク質特性が成熟される前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項39】
前記タンパク質が、部位特異的な共有結合により同じ又は異なる特異性のタンパク質に結合され、それにより、二価又は二重特異的タンパク質が得られる前請求項の1以上に記載の製造方法。
【請求項40】
前請求項の1以上に記載のタンパク質の使用であって、それ自体公知の方法、例えば、クロマトグラフィー又は吸収技術における、対応する結合パートナーの検出、定量、分離、及び/又は対応する結合パートナーの単離のための使用。
【請求項41】
前請求項の1以上に記載のタンパク質の使用であって、対応する結合パートナーが直接又は間接的に関与する疾病の診断、予防及び治療のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−500953(P2008−500953A)
【公表日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529936(P2006−529936)
【出願日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005730
【国際公開番号】WO2004/106368
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(504228195)サイル プロテインズ ゲーエムベーハー (3)
【氏名又は名称原語表記】SCIL PROTEINS GMBH
【Fターム(参考)】