説明

ユーザ体感品質推定システムおよび方法

【課題】FEC技術を用いた映像通信についても、高い精度で容易にユーザ体感品質を推定する。
【解決手段】パケット損失率算出部13により、対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、パケット網2で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出し、FEC処理後パケット損失率推定部15により、FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定し、ユーザ体感品質推定部17により、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信品質管理技術に関し、特にパケット網や受信端末で計測できるパケット転送状況に基づいて映像通信サービスに対するユーザ体感品質を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
映像系IPサービスは、近年、IPTVサービスとして世界各国で本格的なサービス提供が始まり、市場が拡大しつつある。このようなIPTVサービスでは、パケット網の品質が保証されないため、網上でパケット損失が発生した際に、予め送信したり誤り訂正用パケットを用いて、受信端末側で損失したパケットを復元する技術、いわゆるFEC(Forward Error Correction)技術(例えば、非特許文献1など参照)を用いたIPTVサービスが増加している。このような技術の適用が増加する背景の1つには、IPTVサービスに対してユーザ体感品質(QoE:Quality of Experience)が重要視され、より高品質なサービス提供が求められているという背景がある(例えば、非特許文献2など参照)。
【0003】
ユーザ体感品質を管理するため、従来より、網や端末から取得できる様々な指標を利用してユーザ体感品質を推定する技術が検討されている。
この技術のうち、映像通信サービスに対するユーザ体感品質推定技術としては、映像信号を利用するアプローチが提案されている(例えば、特許文献1など参照)。しかし、このようなアプローチでは、映像信号そのものを利用しているため、網で得られる情報を利用して、ユーザ体感品質を推定できない。
【0004】
一方、パケット転送状況など、網上で取得できる情報を利用するアプローチも提案されている(例えば、特許文献2など参照)。また、発明者らは、主に音声(VoIP)サービスを対象として、パケット網で取得できる情報を利用して、ユーザ体感品質を推定する技術、さらにはこれを利用した網管理技術を提供している(例えば、特許文献3など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4257333号公報
【特許文献2】特開2007-060475号公報
【特許文献3】特許第3579334号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.Rosenberg and H.Schulzrinne, "An RTP Payload Format for Generic Forward Error Correction", IETF RFC2733, Dec. 1999.
【非特許文献2】ITU-T Recommendation P.10/G.100, "Definition of Quality of Experience(QoE)," Jan., 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような従来技術では、受信端末で再生される映像に関するユーザ体感品質を推定する際、FEC処理により受信端末で回復された映像通信用パケットもパケット損失として認識されるため、FEC処理対応の映像通信については、高い精度でユーザ体感品質を推定できないという問題点があった。
【0008】
すなわち、前述した従来技術では、受信端末へ転送された映像通信用パケットのパケット転送状況から検出した損失パケットに基づいてユーザ体感品質を推定している。このため、受信端末において、FEC処理により、損失パケットがFEC用パケットから回復された場合、映像再生時には当該回復パケットが正常受信パケットとして扱われるのに対して、ユーザ体感品質推定時には、当該回復パケットは損失パケットのまま扱われる。このため、再生映像とユーザ体感品質推定値との間に誤差が生ずる。
【0009】
また、受信端末から取得したFEC処理後のパケット損失状況に基づいて、ユーザ体感品質を推定する方法も考えられる。しかしながら、FEC処理後のパケット損失状況は、受信端末内部で用いられる情報であることから、通信サービス提供者が容易に取得できる情報ではなく、現実的ではない。
【0010】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、FEC技術を用いた映像通信についても、高い精度で容易にユーザ体感品質を推定できるユーザ体感品質推定技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明にかかるユーザ体感品質推定システムは、パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる、FEC(Forward Error Correction)技術を用いた映像通信について、受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムであって、パケット網から受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを記憶するFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部と、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶するユーザ体感品質推定モデル記憶部と、パケット情報に基づいてパケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出するパケット損失率算出部と、FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定するFEC処理後パケット損失率推定部と、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定部とを備えている。
【0012】
この際、FEC処理後パケット損失率推定モデルを作成するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置をさらに備え、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置に、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた映像通信ごとに、当該パケット網から受信端末へ転送した各映像通信用パケットに関するパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、各試験映像通信のパケット情報から、試験映像通信ごとにパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対してFEC処理を適用しても回復できない回復不能パケットを計数し、これら回復不能パケット数に基づいてFEC処理後パケット損失率を、試験映像通信ごとに算出するFEC処理後パケット損失率算出部と、試験映像通信ごとに得られたパケット損出率とFEC処理後パケット損失率との対応関係に基づいて、FEC処理後パケット損失率推定モデルを導出するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成部とを備えてもよい。
【0013】
また、ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成装置をさらに備え、ユーザ体感品質推定モデル作成装置に、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得部と、試験映像通信ごとに得られたパケット損失率と品質評価結果との対応関係に基づいて、ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成部とを備えてもよい。
【0014】
また、本発明にかかるユーザ体感品質推定方法は、パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる、FEC(Forward Error Correction)技術を用いた映像通信について、受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムで用いられるユーザ体感品質推定方法であって、パケット情報記憶部が、パケット網から受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部が、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを記憶するFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶ステップと、ユーザ体感品質推定モデル記憶部が、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶するユーザ体感品質推定モデル記憶ステップと、パケット損失率算出部が、パケット情報に基づいてパケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出するパケット損失率算出ステップと、FEC処理後パケット損失率推定部が、FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定するFEC処理後パケット損失率推定ステップと、ユーザ体感品質推定部が、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定ステップとを備えている。
【0015】
この際、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置が、FEC処理後パケット損失率推定モデルを作成するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップをさらに備え、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップに、パケット情報記憶部が、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた映像通信ごとに、当該パケット網から受信端末へ転送した各映像通信用パケットに関するパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、パケット損失率算出部が、各試験映像通信のパケット情報から、試験映像通信ごとにパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、FEC処理後パケット損失率算出部が、各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対してFEC処理を適用しても回復できない回復不能パケットを計数し、これら回復不能パケット数に基づいてFEC処理後パケット損失率を、試験映像通信ごとに算出するFEC処理後パケット損失率算出ステップと、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部が、試験映像通信ごとに得られたパケット損出率とFEC処理後パケット損失率との対応関係に基づいて、FEC処理後パケット損失率推定モデルを導出するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップとを備えてもよい。
【0016】
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置が、ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成ステップをさらに備え、ユーザ体感品質推定モデル作成ステップに、パケット損失率算出部が、パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、品質評価結果取得部が、試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得ステップと、推定モデル作成部が、試験映像通信ごとに得られたパケット損失率と品質評価結果との対応関係に基づいて、ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成ステップとを備えてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象となる映像通信のパケット情報から、受信端末内部で用いられるFEC処理後のパケット損失状況を示すFEC処理後パケット損失率が推定され、このFEC処理後パケット損失率に応じたユーザ体感品質値が推定される。このため、パケット網で損失した映像通信用パケットのうちFEC処理で回復された回復パケットを考慮したパケット損失率により、ユーザ体感品質値を推定することができ、FEC技術を用いた映像通信についても、高い精度で容易にユーザ体感品質を推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの構成を示すブロック図である。
【図2】パケット情報の構成例である。
【図3】FEC処理後パケット損失率推定モデルを示す説明図である。
【図4】ユーザ体感品質推定モデルを示す特性図である。
【図5】第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムのユーザ体感品質推定処理を示すフローチャートである。
【図6】最悪ケースユーザ体感品質と平均ケースユーザ体感品質との対応関係を示す説明図である。
【図7】第2の実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【図8】第2の実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置のFEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【図9】第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【図10】品質評価結果の構成例である。
【図11】第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置のユーザ体感品質推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムについて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの構成を示すブロック図である。
このユーザ体感品質推定システム10は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め作成したユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC(Forward Error Correction)技術を用いた対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、当該映像通信の受信映像を受信端末3で再生した際にユーザが実際に体感するユーザ体感品質を推定する機能を有している。
【0020】
映像配信装置1は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、映像通信における送信端末として動作することにより、映像データをパケットで配信する機能を有している。
受信端末3は、テレビ受像器をデータ通信網に接続して各種通信サービスの利用を可能とするSTB(Set-Top-Box)などの通信端末からなり、インターネットなどからなるパケット網2を介して接続された映像配信装置1と映像通信を行うことによりパケットで映像データを受信し、テレビ受像器などからなる映像表示装置4で再生出力する機能を有している。
【0021】
分岐器5は、タップ(Tap)やハブ(Hub)などの通信機器からなり、パケット網2と受信端末3との間の通信経路上に設置されて、パケット網2から受信端末3へ転送される映像通信用パケットをキャプチャする機能を有している。
【0022】
FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報に基づいて、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを作成する機能を有している。
ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、任意の映像通信から計測したパケット損失率に応じたユーザ体感品質値を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを作成する機能を有している。
【0023】
本実施の形態では、対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、パケット網2で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出し、FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定し、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定する。
【0024】
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システム10の構成について詳細に説明する。
このユーザ体感品質推定システム10には、主な機能部として、パケット情報取得部11、パケット情報記憶部12、パケット損失率算出部13、FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14、FEC処理後パケット損失率推定部15、ユーザ体感品質推定モデル記憶部16、ユーザ体感品質推定部17、および画面表示部18が設けられている。
【0025】
パケット情報取得部11は、映像通信サービスが提供されているインサービス環境下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われる品質推定対象の映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得する機能と、取得したパケット情報をパケット情報記憶部12へ保存する機能とを有している。
図2は、パケット情報の構成例である。このパケット情報には、少なくともパケットの送信順を示すパケット番号(シーケンス番号)と分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットの転送時刻とが含まれている。
【0026】
パケット情報のパケット転送時刻については、計測を開始した最初の映像通信用パケットからの相対的な時刻情報で記述されているが、絶対的な時刻情報であってもよい。
また、このパケット転送時刻については、分岐器5でキャプチャされてパケット情報取得部11で受信した各映像通信用パケットの受信時刻を用いてもよく、分岐器5で計測した各映像通信用パケットの転送時刻をパケット情報取得部11が分岐器5から取得してもよい。あるいは、受信端末3で計測した各映像通信用パケットの転送時刻をパケット情報取得部11が受信端末3から取得してもよい。
【0027】
パケット損失率算出部13は、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報のパケット番号(シーケンス番号)を確認し、先頭パケットと最後尾パケットとのパケット番号差から総送信パケット数を算出する機能と、同じくパケット番号を確認し、パケット情報として記録されていない不連続部分(飛び番号)を、パケット網2で損失した損失パケットとして検出し、これら損失パケットの数を計数する機能と、損失パケット数を総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出する機能とを有している。
【0028】
FEC処理後パケット損失率推定部15は、FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14のFEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率算出部13で得られたパケット損失率と対応するFEC処理後パケット損失率を推定する機能を有している。
【0029】
図3は、FEC処理後パケット損失率推定モデルを示す説明図であり、横軸はFEC非処理のパケット損失率(%)を示し、縦軸はFEC処理後のパケット損失率(%)を示している。一般に、FEC処理後のパケット損失率は、FEC非処理のパケット損失率の増加に応じて、単調増加する特性を有している。ここでは、各測定結果の平均的な回帰曲線からなる平均ケース想定時の推定モデルの他に、最悪ケースを代表する回帰曲線からなる平均ケース想定時の推定モデルが示されており、目的に応じて使い分けることができる。このFEC処理後パケット損失率推定モデルの作成方法については、後述の第2の実施の形態で説明する。
【0030】
ユーザ体感品質推定部17は、ユーザ体感品質推定モデル記憶部16のユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率推定部15で算出されたFEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質を求めることにより、品質推定対象となる映像品質のユーザ体感品質値を推定する機能と、推定したユーザ体感品質値を画面表示部18で画面表示する機能とを有している。
【0031】
図4は、ユーザ体感品質推定モデルを示す特性図であり、横軸がFEC処理後パケット損失率(%)を示し、縦軸がユーザ体感品質の推定値(ITU−T勧告P800で規定されているMOS:Mean Opinion Score)を示している。
一般に、映像通信におけるユーザ体感品質値は、パケット損失率の増加に応じて指数関数的に単調減少する特性を有しており、FEC非処理のパケット損失率およびFEC処理後パケット損失率のいずれについても同様の特性が得られる。このユーザ体感品質推定モデルの作成方法については、後述の第3の実施の形態で説明する。
【0032】
ユーザ体感品質推定システム10には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、画面表示部18のほか、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0033】
前述したユーザ体感品質推定システム10の各機能部のうち、パケット情報取得部11、パケット損失率算出部13、パケット損失率算出部13、FEC処理後パケット損失率推定部15、およびユーザ体感品質推定部17については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0034】
また、ユーザ体感品質推定システム10の各機能部のうち、パケット情報記憶部12、FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14、およびユーザ体感品質推定モデル記憶部16については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0035】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図5を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムの動作について説明する。図5は、第1の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定システムのユーザ体感品質推定処理を示すフローチャートである。
【0036】
図5のユーザ体感品質推定処理において、ユーザ体感品質推定システム10は、まず、パケット情報取得部11により、映像通信サービスが提供されているインサービス環境下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われた、品質推定対象の映像通信に関するパケット情報を取得し、パケット情報記憶部12へ保存する(ステップ100)。
【0037】
次に、ユーザ体感品質推定システム10は、パケット損失率算出部13により、パケット情報記憶部12から読み出したパケット情報から、総送信パケット数と損失パケット数とを算出し、この損失パケット数を総送信パケット数で除算することにより、パケット損失率を算出する(ステップ101)。
【0038】
続いて、ユーザ体感品質推定システム10は、FEC処理後パケット損失率推定部15により、FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14のFEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率算出部13で得られたパケット損失率と対応するFEC処理後パケット損失率を推定する(ステップ102)。
【0039】
この際、前述の図3に示したように、FEC処理後パケット損失率推定モデルとして、平均ケース想定時の推定モデルと最悪ケース想定時の推定モデルが用意されている場合には、ユーザ体感品質推定処理起動時の指定に応じて、FEC処理後パケット損失率推定部15により、平均ケース想定時または最悪ケース想定時のいずれか一方の推定モデルを選択して、FEC処理後パケット損失率を推定すればよい。
【0040】
この後、ユーザ体感品質推定システム10は、ユーザ体感品質推定部17により、ユーザ体感品質推定モデル記憶部16のユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率推定部15で算出されたFEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質を求めることにより、品質推定対象となる映像品質のユーザ体感品質値を推定し(ステップ103)、推定したユーザ体感品質値を画面表示部18で画面表示して(ステップ104)、一連のユーザ体感品質推定処理を終了する。
【0041】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、パケット損失率算出部13により、対象となる映像通信から得たパケット情報に基づいて、パケット網2で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出し、FEC処理後パケット損失率推定部15により、FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定し、ユーザ体感品質推定部17により、ユーザ体感品質推定モデルを参照して、FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定している。
【0042】
これにより、対象となる映像通信のパケット情報から、受信端末3内部で用いられるFEC処理後のパケット損失状況を示すFEC処理後パケット損失率が推定され、このFEC処理後パケット損失率に応じたユーザ体感品質値が推定される。このため、パケット網で損失した映像通信用パケットのうちFEC処理で回復された回復パケットを考慮したパケット損失率により、ユーザ体感品質値を推定することができ、FEC技術を用いた映像通信についても、高い精度で容易にユーザ体感品質を推定できる。
【0043】
また、本実施の形態では、FEC処理後パケット損失率推定部15により、FEC処理後パケット損失率を推定する際、FEC処理後パケット損失率推定モデルとして、図3に示したような、最悪ケース想定時の推定モデルを用いて、FEC処理後パケット損失率を推定するようにしてもよい。
【0044】
FEC処理は、パケット網2で損失した損失パケットを回復するための処理であるが、損失の発生形態によっては回復できない場合も存在する。したがって、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係は、個々の映像通信においてバラツキを生ずる。図3の最悪ケースとは、パケット網で発生したパケット損失の多くが、受信端末3において回復できないようなパケット損失であった場合を示している。
【0045】
このため、最悪ケース想定時の推定モデルを用いて推定したFEC処理後パケット損失率に基づいて、ユーザ体感品質を推定することにより、FEC処理を行っても損失パケットをあまり回復できなかった場合のユーザ体感品質値、すなわちユーザ体感品質値の最悪値を得ることができる。
【0046】
図6は、最悪ケースユーザ体感品質と平均ケースユーザ体感品質との対応関係を示す説明図であり、横軸が最悪ケースユーザ体感品質を示し、縦軸が平均ケースユーザ体感品質を示している。いずれの映像通信についても、最悪ケース想定時の推定モデルを用いて推定した最悪ケースユーザ体感品質値は、同一映像通信について平均ケース想定時の推定モデルを用いて推定した平均ケースユーザ体感品質値より低いユーザ体感品質値を示していることがわかる。
したがって、通信サービス提供者がユーザ体感品質値の最悪値に用いることにより、映像通信に対して安全側で管理することができ、一定レベルの映像品質を保証した安定性の高い映像通信サービスを提供することが可能となる。
【0047】
また、対象となる映像通信のパケット情報に基づいてFEC処理後パケット損失率を推定しているため、通信サービス提供者が容易に取得できるパケット情報に基づいて、FEC技術を用いた個々の映像通信に関する映像品質を推定することができる。したがって、受信端末に対する特別な機能の追加などのユーザ負担を必要とすることなく、通信サービス提供者側の設備だけで、質の高い映像通信サービスを提供することが可能となる。
【0048】
[第2の実施の形態]
次に、図7を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置について説明する。図7は、第2の実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【0049】
このFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報に基づいて、任意の映像通信から計測したパケット損失率に応じたFEC処理後パケット損失率を推定するためのFEC処理後パケット損失率推定モデルを作成する機能を有している。
【0050】
網品質制御装置6は、入力されたパケットに対して任意のパケット損失を与えて出力する試験装置からなり、パケット網2と受信端末3との間の通信経上に設置されて、パケット網2から受信端末3へ転送される映像通信用パケットに、指定された通信条件に応じたパケット損失を与える機能を有している。なお、図7における映像配信装置1、パケット網2、受信端末3、映像表示装置4、分岐器5については、前述した図1と同じまたは同様の構成を有しており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0051】
[第2の実施の形態の構成]
次に、図7を参照して、本実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20の構成について詳細に説明する。
図7に示すように、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20には、主な機能部として、パケット情報取得部21、パケット情報記憶部22、パケット損失率算出部23、FEC処理後パケット損失率算出部24、およびFEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25が設けられている。
【0052】
パケット情報取得部21は、網品質制御装置6で発生させた、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われた各試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得する機能と、取得したパケット情報を試験映像通信ごとにパケット情報記憶部22へ保存する機能とを有している。
パケット情報には、前述の図2に示すように、少なくとも分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットについて、当該パケットのパケット番号(シーケンス番号)および転送時刻と、当該映像通信用パケットに対してFEC処理を行うのに必要なデータとが含まれている。
【0053】
パケット損失率算出部23は、パケット情報記憶部22から読み出した各試験映像通信のパケット情報のパケット番号(シーケンス番号)を確認し、先頭パケットと最後尾パケットとのパケット番号差から総送信パケット数を、試験映像通信ごとに算出する機能と、同じくパケット番号を確認し、パケット情報として記録されていない不連続な部分(飛び番号)を、パケット網2で損失した損失パケットとして検出し、これら損失パケットの数を試験映像通信ごとに計数する機能と、このパケット損失数を総送信パケット数で除算することにより、試験映像通信ごとにパケット損失率を算出する機能とを有している。
【0054】
FEC処理後パケット損失率算出部24は、パケット情報記憶部22から読み出した各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対して受信端末3と同等のFEC処理アルゴリズムを適用することにより、パケット網2での損失パケットのうちFEC処理で回復できなかった回復不能パケットの数を、試験映像通信ごとに計数する機能と、この回復不能パケット数をパケット損失率算出部23で得られた総送信パケット数で除算することにより、試験映像通信ごとにFEC処理後パケット損失率を算出する機能とを有している。
【0055】
FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、試験映像通信ごとに、パケット損失率算出部23で得られたパケット損失率と、FEC処理後パケット損失率算出部24で得られたFEC処理後パケット損失率との組を取得し、これら組を構成するFEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係に基づいて、パケット損失率推定モデルを導出する機能と、このFEC処理後パケット損失率推定モデルを、図1に示したユーザ体感品質推定システム10のFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14へ保存する機能とを有している。
【0056】
FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0057】
前述したFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20の各機能部のうち、パケット情報取得部21、パケット損失率算出部23、FEC処理後パケット損失率算出部24、およびFEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0058】
また、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20の各機能部のうち、パケット情報取得部21については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0059】
[第2の実施の形態の動作]
次に、図8を参照して、本実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20の動作について説明する。図8は、第2の実施の形態にかかるFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置のFEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【0060】
図8のFEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理において、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、まず、パケット情報取得部21により、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に行われる試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得し、取得したパケット情報をパケット情報記憶部22へ保存する(ステップ200)。
【0061】
次に、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、パケット損失率算出部23により、パケット情報記憶部22から読み出した各試験映像通信のパケット情報ごとに、パケット損失率を算出する(ステップ201)。
また、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、FEC処理後パケット損失率算出部24により、パケット情報記憶部22から読み出した各試験映像通信のパケット情報ごとに、FEC処理後パケット損失率を算出する(ステップ202)。
【0062】
次に、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置20は、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25により、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理の起動時に、最悪ケースモデル作成が指定されているか確認する(ステップ203)。
ここで、最悪ケースモデル作成が指定されていない場合(ステップ203:NO)、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、パケット損失率算出部23で得られたパケット損失率と、FEC処理後パケット損失率算出部24で得られたFEC処理後パケット損失率との組をすべて選択する(ステップ204)。
【0063】
この後、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、選択されたこれら組に基づいて、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを作成する(ステップ207)。
そして、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、このFEC処理後パケット損失率推定モデルを、図1に示したユーザ体感品質推定システム10のFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14へ保存し(ステップ208)、一連のFEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理を終了する。
【0064】
一方、ステップ203において、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理の起動時に、最悪ケースモデル作成が指定されている場合(ステップ203:YES)、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、パケット損失率算出部23で得られたパケット損失率の範囲を、複数のデータ区間に分割し(ステップ205)、パケット損失率算出部23で得られたパケット損失率と、FEC処理後パケット損失率算出部24で得られたFEC処理後パケット損失率との組のうちから、これらデータ区間ごとに、FEC処理後パケット損失率が最大値を示す組、すなわち当該データ区間における最悪ケースの組をそれぞれ選択する(ステップ206)。
【0065】
この後、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、前述したステップ207へ移行して、ステップ206で選択した各最悪ケースの組に基づいて、FEC処理後パケット損失率推定モデルを作成する(ステップ207)。
そして、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25は、このFEC処理後パケット損失率推定モデルを、図1に示したユーザ体感品質推定システム10のFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14へ保存し(ステップ208)、一連のFEC処理後パケット損失率推定モデル作成処理を終了する。
【0066】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、パケット損失率算出部23により、各試験映像通信のパケット情報から、試験映像通信ごとにパケット損出率を算出し、FEC処理後パケット損失率算出部24により、各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対してFEC処理を適用しても回復できない回復不能パケットを計数し、これら回復不能パケット数に基づいてFEC処理後パケット損失率を、試験映像通信ごとに算出し、FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部25により、試験映像通信ごとに得られたパケット損出率とFEC処理後パケット損失率との対応関係に基づいて、FEC処理後パケット損失率推定モデルを導出している。
【0067】
これにより、対象となる映像通信のパケット情報に基づいてFEC処理後パケット損失率を推定することができる。したがって、受信端末に対する特別な機能の追加などのユーザ負担を必要とすることなく、受信端末内部で用いられるFEC処理後のパケット損失状況を得ることができる。
【0068】
[第3の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置について説明する。図9は、第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置の構成を示すブロック図である。
【0069】
このユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、全体として、一般的なサーバ装置やワークステーションなどの情報処理通信端末からなり、予め試験的に行った映像通信で得られたパケット情報とそのときの受信端末3での映像品質評価とに基づいて、任意の映像通信から計測したパケット損失率に応じたユーザ体感品質値を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを作成する機能を有している。
なお、図9における映像配信装置1、パケット網2、受信端末3、映像表示装置4、分岐器5、網品質制御装置6については、前述した図1および図7と同じまたは同様の構成を有しており、ここでの詳細な説明は省略する。
【0070】
[第3の実施の形態の構成]
次に、図9を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置30の構成について詳細に説明する。
図9に示すように、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30には、主な機能部として、パケット情報取得部31、パケット情報記憶部32、パケット損失率算出部33、品質評価結果取得部34、品質評価結果記憶部35、およびユーザ体感品質推定モデル作成部36が設けられている。
【0071】
パケット情報取得部31は、網品質制御装置6で発生させた、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で行われた各試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得する機能と、取得したパケット情報を各試験映像通信に固有の試験映像通信IDと関連付けてパケット情報記憶部32へ保存する機能とを有している。
パケット情報には、前述の図10に示すように、少なくとも分岐器5を通過してパケット網2から受信端末3へ転送された各映像通信用パケットについて、当該パケットのパケット番号(シーケンス番号)と転送時刻が含まれている。
【0072】
パケット損失率算出部33は、パケット情報記憶部32から読み出したパケット情報のパケット番号(シーケンス番号)を確認し、先頭パケットと最後尾パケットとのパケット番号差から総送信パケット数を算出する機能と、同じくパケット番号を確認し、パケット情報として記録されていない不連続な部分(飛び番号)を、パケット網2で損失した損失パケットとして検出し、これら損失パケットの数を計数する機能と、このパケット損失数を総送信パケット数で除算することによりパケット損失率を算出する機能とを有している。
【0073】
品質評価結果取得部34は、パケット情報取得部31でパケット情報を取得した各試験通信について、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得する機能と、取得した品質評価結果を品質評価結果記憶部35へ保存する機能とを有している。
図10は、品質評価結果の構成例である。ここでは、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDと、当該試験映像通信に対して5段階評価等で定量化された評価値(MOS)とが組として登録されている。
【0074】
ユーザ体感品質推定モデル作成部36は、パケット損失率算出部33で得られた各試験映像通信のパケット損失率と、品質評価結果記憶部35から読み出した各試験映像通信の品質評価結果とを、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDで対応させることにより、これらパケット損失率とユーザ体感品質との対応関係をユーザ体感品質推定モデルとして導出する機能と、このユーザ体感品質推定モデルを、図1に示したユーザ体感品質推定システム10のユーザ体感品質推定モデル記憶部16へ保存する機能とを有している。
【0075】
ユーザ体感品質推定モデル作成装置30には、通常の情報処理装置に設けられている一般的な構成として、演算処理部、記憶部、データ通信インターフェース部、データ入出力インターフェース部、操作入力部などの機能部が設けられており、前述した各機能部がこれらを利用して処理動作を行う。
【0076】
前述したユーザ体感品質推定モデル作成装置30の各機能部のうち、パケット情報取得部31、パケット損失率算出部33、品質評価結果取得部34、およびユーザ体感品質推定モデル作成部36については、演算処理部で実現すればよい。
この演算処理部は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部に予め格納されているプログラムを読み出して実行することにより、各種機能部を実現する。
【0077】
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30の各機能部のうち、パケット情報記憶部32、および品質評価結果記憶部35については、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置で実現すればよい。これら記憶部は、それぞれ別個の記憶装置で実現してもよく、いずれか複数あるいはすべての記憶部を1つの記憶装置で実現してもよい。
【0078】
[第3の実施の形態の動作]
次に、図11を参照して、本実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置30の動作について説明する。図11は、第3の実施の形態にかかるユーザ体感品質推定モデル作成装置のユーザ体感品質推定モデル作成処理を示すフローチャートである。
【0079】
図11のユーザ体感品質推定モデル作成処理において、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、まず、パケット情報取得部31により、パケット損失数が異なる複数の通信条件下で、映像配信装置1と受信端末3との間で試験的に行われる試験映像通信について、分岐器5でキャプチャされた当該試験映像通信に関する映像通信用パケットに関するパケット情報を取得し、取得したパケット情報をパケット情報記憶部32へ保存する(ステップ300)。
【0080】
次に、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、パケット損失率算出部33により、パケット情報記憶部32から読み出した各試験映像通信のパケット情報ごとに、パケット損失率を算出する(ステップ301)。
また、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、品質評価結果取得部34により、パケット情報取得部31でパケット情報を取得した各試験通信について、受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得し、この品質評価結果を品質評価結果記憶部35へ保存する(ステップ302)。
【0081】
続いて、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、ユーザ体感品質推定モデル作成部36により、パケット損失率算出部33で得られた各試験映像通信のパケット損失率と、品質評価結果記憶部35から読み出した各試験映像通信の品質評価結果とを、各試験映像通信に固有の試験映像通信IDで対応させることにより、前述の図4に示したような、これらパケット損失率とユーザ体感品質との対応関係を示す回帰曲線の近似関数式を、ユーザ体感品質推定モデルとして導出する(ステップ303)。
【0082】
この後、ユーザ体感品質推定モデル作成装置30は、ユーザ体感品質推定モデル作成部36により、導出したユーザ体感品質推定モデルを、ユーザ体感品質推定システム10のユーザ体感品質推定モデル記憶部16へ保存し(ステップ304)、一連のユーザ体感品質推定モデル作成処理を終了する。
【0083】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、パケット損失率算出部33により、各試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するとともに、品質評価結果取得部34により、試験映像通信ごとに受信端末3で再生した映像の品質評価結果を取得し、ユーザ体感品質推定モデル作成部36により、これらパケット損失率と品質評価結果とから、パケット損失率とユーザ体感品質との対応関係をユーザ体感品質推定モデルとして導出するようにしたので、パケット網2から計測可能なパケット損失率からユーザ体感品質を推定するためのユーザ体感品質推定モデルを容易に作成することが可能となる。
【0084】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0085】
また、第1の実施の形態では、各機能部を1つの情報処理通信端末で実現してもよいが、各機能部を別個の情報処理通信端末で実現してもよい。例えば、パケット情報取得部11、パケット情報記憶部12、パケット損失率算出部13を、受信端末3に接続された品質測定装置で実現してもよく、受信端末3で実現してもよい。
【0086】
また、残りのFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部14、FEC処理後パケット損失率推定部15、ユーザ体感品質推定モデル記憶部16、ユーザ体感品質推定部17、および画面表示部18を、通信サービス提供者が管理するサービス品質管理装置で実現し、品質測定装置や受信端末3からデータ通信で通知された総送信パケット数および損失パケット数に基づいて、ユーザ体感品質を推定するようにしてもよい。
【0087】
また、第2の実施の形態では、FEC処理後パケット損失率推定モデルとして、前述の図3に示したような回帰曲線の近似関数式を導出する場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、パケット損失率とFEC処理後パケット損失率との対応関係を示す変換テーブルであってもよい。
【0088】
また、第3の実施の形態では、ユーザ体感品質推定モデルとして、前述の図4に示したような回帰曲線の近似関数式を導出する場合を例として説明したが、これに限定されるものではない。例えば、パケット損失率とユーザ体感品質値との対応関係を示す変換テーブルであってもよい。
【0089】
また、第2の実施の形態では、第1の実施の形態で用いるFEC処理後パケット損失率推定モデルの作成方法について説明したが、このFEC処理後パケット損失率推定モデルの作成方法については、第2の実施の形態に限定されるものではなく、他の方法でFEC処理後パケット損失率推定モデルを作成してもよい。
また、第3の実施の形態では、第1の実施の形態で用いるユーザ体感品質推定モデルの作成方法について説明したが、このユーザ体感品質推定モデルの作成方法については、第3の実施の形態に限定されるものではなく、他の方法でユーザ体感品質推定モデルを作成してもよい。
【符号の説明】
【0090】
1…映像配信装置(送信端末)、2…パケット網、3…受信端末、4…映像表示装置、5…分岐器、6…網品質制御装置、10…ユーザ体感品質推定システム、11…パケット情報取得部、12…パケット情報記憶部、13…パケット損失率算出部、14…FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部、15…FEC処理後パケット損失率推定部、16…ユーザ体感品質推定モデル記憶部、17…ユーザ体感品質推定部、18…画面表示部、20…FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置、21…パケット情報取得部、22…パケット情報記憶部、23…パケット損失率算出部、24…FEC処理後パケット損失率算出部、25…FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部、30…ユーザ体感品質推定モデル作成装置、31…パケット情報取得部、32…パケット情報記憶部、33…パケット損失率算出部、34…品質評価結果取得部、35…品質評価結果記憶部、36…推定モデル作成部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる、FEC(Forward Error Correction)技術を用いた映像通信について、前記受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムであって、
前記パケット網から前記受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、
FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを記憶するFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部と、
映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶するユーザ体感品質推定モデル記憶部と、
前記パケット情報に基づいて前記パケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出するパケット損失率算出部と、
前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、前記パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定するFEC処理後パケット損失率推定部と、
前記ユーザ体感品質推定モデルを参照して、前記FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定部と
を備えることを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のユーザ体感品質推定システムにおいて、
前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを作成するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置をさらに備え、
前記FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置は、
前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた前記映像通信ごとに、当該パケット網から前記受信端末へ転送した各映像通信用パケットに関するパケット情報を記憶するパケット情報記憶部と、
前記各試験映像通信のパケット情報から、試験映像通信ごとにパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、
前記各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対してFEC処理を適用しても回復できない回復不能パケットを計数し、これら回復不能パケット数に基づいてFEC処理後パケット損失率を、試験映像通信ごとに算出するFEC処理後パケット損失率算出部と、
前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損出率と前記FEC処理後パケット損失率との対応関係に基づいて、前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを導出するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成部とを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項3】
請求項1に記載のユーザ体感品質推定システムにおいて、
前記ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成装置をさらに備え、
前記ユーザ体感品質推定モデル作成装置は、
前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出部と、
前記試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得部と、
前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損失率と前記品質評価結果との対応関係に基づいて、前記ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成部とを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定システム。
【請求項4】
パケット網を介して送信端末と受信端末との間で行われる、FEC(Forward Error Correction)技術を用いた映像通信について、前記受信端末で受信再生した映像に対してユーザが実感するユーザ体感品質を推定するユーザ体感品質推定システムで用いられるユーザ体感品質推定方法であって、
パケット情報記憶部が、前記パケット網から前記受信端末へ転送した当該映像通信用の各パケットについて計測したパケット転送時刻を示すパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、
FEC処理後パケット損失率推定モデル記憶部が、FEC非処理のパケット損失率とFEC処理後のパケット損失率との対応関係を示すFEC処理後パケット損失率推定モデルを記憶するFEC処理後パケット損失率推定モデル記憶ステップと、
ユーザ体感品質推定モデル記憶部が、映像通信のパケット転送状況を示すパケット損失率と、その際に当該映像通信で得られるユーザ体感品質値との関係を示すユーザ体感品質推定モデルを記憶するユーザ体感品質推定モデル記憶ステップと、
パケット損失率算出部が、前記パケット情報に基づいて前記パケット網で損失した損失パケットを検出して損失パケット率を算出するパケット損失率算出ステップと、
FEC処理後パケット損失率推定部が、前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを参照して、前記パケット損失率に対応するFEC処理後パケット損失率を推定するFEC処理後パケット損失率推定ステップと、
ユーザ体感品質推定部が、前記ユーザ体感品質推定モデルを参照して、前記FEC処理後パケット損失率に対応するユーザ体感品質値を推定するユーザ体感品質推定ステップと
を備えることを特徴とするユーザ体感品質推定方法。
【請求項5】
請求項4に記載のユーザ体感品質推定方法において、
FEC処理後パケット損失率推定モデル作成装置が、前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを作成するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップをさらに備え、
前記FEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップは、
パケット情報記憶部が、前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた前記映像通信ごとに、当該パケット網から前記受信端末へ転送した各映像通信用パケットに関するパケット情報を記憶するパケット情報記憶ステップと、
パケット損失率算出部が、前記各試験映像通信のパケット情報から、試験映像通信ごとにパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、
FEC処理後パケット損失率算出部が、前記各試験映像通信のパケット情報に基づいて、当該試験映像通信の映像通信用パケットに対してFEC処理を適用しても回復できない回復不能パケットを計数し、これら回復不能パケット数に基づいてFEC処理後パケット損失率を、試験映像通信ごとに算出するFEC処理後パケット損失率算出ステップと、
FEC処理後パケット損失率推定モデル作成部が、前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損出率と前記FEC処理後パケット損失率との対応関係に基づいて、前記FEC処理後パケット損失率推定モデルを導出するFEC処理後パケット損失率推定モデル作成ステップとを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定方法。
【請求項6】
請求項4に記載のユーザ体感品質推定方法において、
ユーザ体感品質推定モデル作成装置が、前記ユーザ体感品質推定モデルを作成するユーザ体感品質推定モデル作成ステップをさらに備え、
前記ユーザ体感品質推定モデル作成ステップは、
パケット損失率算出部が、前記パケット網でのパケット損失数が異なる複数の通信条件の下で行われた試験映像通信ごとに、これら試験映像通信から得たパケット情報からパケット損出率を算出するパケット損失率算出ステップと、
品質評価結果取得部が、前記試験映像通信ごとに受信端末で再生した映像の品質評価結果を取得する品質評価結果取得ステップと、
推定モデル作成部が、前記試験映像通信ごとに得られた前記パケット損失率と前記品質評価結果との対応関係に基づいて、前記ユーザ体感品質推定モデルを導出する推定モデル作成ステップとを備える
ことを特徴とするユーザ体感品質推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−10237(P2011−10237A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154229(P2009−154229)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】