説明

ヨー角速度推定装置

【課題】ヨー角速度の推定を高精度で行えるヨー角速度推定装置を提供する。
【解決手段】現在のヨー角速度γ(t)と操舵角速度とに基づいて、未来のヨー角速度γ(t)を推定する。車体からヨー角速度γ(t)を直接検出する場合に比べてハンドル操作からヨー角速度γ(t)を算出した方が、タイムラグΔtの分だけ位相が進んだヨー角速度γ(t)を得ることができるため、未来のヨー角速度γ(t)を精度良く推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のヨー角速度を推定するヨー角速度推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のヨー角速度を推定する手段を備えた装置として、車両の横加速度や車輪速に基づいてヨー角速度を推定する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、横加速度センサおよび車速センサを備え、横加速度センサで検出した信号値と車速センサで検出した車速信号値に基づいてヨー角速度信号値を推定するものである。
【特許文献1】特許第3630280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年では車両制御や運転支援として、車両状態を推定して走行制御等を実施することが求められている。しかしながら、特許文献1の装置にあっては、現時点におけるヨー角速度を推定することはできても、所定時間経過後のヨー角速度を推定することができなかった。
【0004】
また、現在から所定時間経過後の物理量を推定する方法として、単位時間あたりの物理量の変化、すなわち物理量の一階微分値に所定時間を乗じた値と現在の物理量とを加算することによって求める方法が一般的に知られている。この方法によって物理量を推定する場合、所定時間や一階微分値の変化の大きさに依存して、推定値と実際の値に大きな誤差が生まれるという問題があった。
【0005】
そこで本発明は、このような技術課題を解決するためになされたものであって、ヨー角速度の推定を高精度で行えるヨー角速度推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明に係るヨー角速度推定装置は、車両のヨー角速度を取得するヨー角速度取得手段と、車両の操舵角を取得する操舵角取得手段と、前記操舵角に基づいて操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段と、前記ヨー角速度および前記操舵角速度に基づいて、所定時間経過後のヨー角速度を推定する推定手段と、を備えて構成される。
【0007】
この発明によれば、現在のヨー角速度と操舵角速度とに基づいて、未来のヨー角速度を推定する。車両を操作する場合においては、ハンドル操作と車体応答との間には、タイムラグが生じる。この点に着目すると、操舵角の挙動はヨー角速度の挙動と連動し、尚且つヨー角速度よりも位相が進んでいるといえる。よって、車体からヨー角速度を直接検出する場合に比べてハンドル操作からヨー角速度を算出した方が、タイムラグの分だけ位相が進んだヨー角速度を得ることができる。このように、ヨー角速度よりも位相が進んだ操舵角を入力とすることによって、ヨー角速度を精度良く推定することができる。
【0008】
ここで、上記効果を一層奏するために、ヨー角速度推定装置において、前記推定手段は、前記所定時間経過後の前記ヨー角速度が、前記操舵角速度に前記所定時間を乗じた値と前記ヨー角速度とを加えた値となるとして推定することが好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ヨー角速度の推定を高精度で行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
図1は本発明の実施形態に係るヨー角速度推定装置の構成図である。本実施形態に係るヨー角速度推定装置1は、操舵角速度に基づいて現在から所定時間経過後のヨー角速度を推定する装置であって、例えば車両挙動を安定に制御するシステムなどに用いられる。
【0012】
ヨー角速度推定装置1は、ヨーレートセンサ(ヨー角速度取得手段)2、操舵角センサ(操舵角取得手段)3、ECU4を備えて構成される。ここで、ECU(Electronic Control Unit)とは、電子制御する自動車デバイスのコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および入出力インターフェイスなどを備えて構成されている。
【0013】
ヨーレートセンサ2は、車両の水平方向の回転速度すなわちヨー角速度を検出するセンサであって、例えば車両の回転力によって発生する歪みを圧電素子によって測定することでヨー角速度を検出するものが用いられる。このヨーレートセンサ2は、ヨー角速度信号を検出してECU4へ出力する機能を備えている。
【0014】
操舵角センサ3は、ハンドルによってステアリングホイールが回転操作された角度を操舵角として検出するセンサである。この操舵角センサ3は、操舵角を検出してECU4へ出力する機能を備えている。
【0015】
ECU4は、操舵角速度算出部(操舵角速度算出手段)41およびヨー角速度推定部(推定手段)42を備えて構成される。操舵角速度算出部41は、操舵角センサ3から操舵角を入力し、時間微分することによって操舵角速度を算出する機能を備えている。また、算出した操舵角をヨー角速度推定部42へ出力する機能を備えている。ヨー角速度推定部42は、操舵角速度算出部41から得られた操舵角速度と、ヨーレートセンサ2から得られたヨー角速度とに基づいて、ヨー角速度を推定する機能を備えている。
【0016】
次に本実施形態に係るヨー角速度推定装置の動作について説明する。図2は、本実施形態に係るヨー角速度推定装置の動作を示すフローチャートである。図2の制御処理は、ECU4で実行され、例えばイグニッションオンされてから所定のタイミングで繰り返し実行される。
【0017】
図2の処理が開始されると、ヨー角速度センサ2からECU4内にヨー角速度を入力する処理が開始される(S10)。S10の処理が完了すると操舵角入力処理へ移行する(S12)。
【0018】
S12の処理は、操舵角センサ3からECU4内に操舵角を入力する処理である。S12の処理が完了すると、操舵角速度算出処理へ移行する(S14)。
【0019】
S14の処理は、S12の処理で得られた操舵角を入力とし、時間微分して操舵角速度を算出する処理である。S14の処理が完了すると、ヨー角速度推定処理へ移行する(S16)。
【0020】
S16の処理は、S10で得られたヨー角速度およびS14で得られた操舵角速度を用いてτ秒先のヨー角速度を推定する処理である。以下、推定方法について説明する。操舵角φが時間に依存する場合において、時刻tの操舵角φ(t)が正弦波で表されるとし、振幅をφ、角周波数をωとすると、操舵角φ(t)は(1)式で表すことができる。
【数1】

ここで、時刻tのヨー角速度γ(t)は、操舵角φ(t)が入力されてから応答するまでに要する時間、すなわち位相遅れによるタイムラグがある。この位相遅れをΔt、ヨー角速度γに対する操舵角φのゲインをKとすると、ヨー角速度γ(t)は(2)式で表すことができる。
【数2】

【0021】
(1)式および(2)式から、τ秒先のヨー角速度γ(t+τ)を推定する。時刻tのヨー角速度γ(t)よりも位相Δtだけ進んだ操舵角φ(t)の時間変化にτを乗じた値と、現在のヨー角速度γ(t)とを加えてτ秒先のヨー角速度γ(t+τ)を算出する。この方法によって求めたヨー角速度の推定結果は、(3)式で表すことができる。
【数3】

S16の処理では、(3)式を用いてヨー角速度を推定する。推定が完了すると、図2の制御処理は完了する。
【0022】
以下、本実施形態に係るヨー角速度推定装置の効果を説明する。ここで、操舵角φ(t)を(1)式、ヨー角速度γ(t)を(2)式で表現する場合を説明する。また、ヨー角速度γに対する操舵角φのゲインKは、簡略化のため1とする。図3は、操舵角およびヨー角速度の時間依存性と、ヨー角速度推定値を示すグラフである。
【0023】
図3に示すように、実線で示す操舵角φ(t)は正弦波であり、一点破線で示すヨー角速度γ(t)よりもΔtだけ位相が進んでいる。また、図3の操舵角φ(t)およびヨー角速度γ(t)の点線部分は、現在時刻t以降の操舵角φ(t)およびヨー角速度γ(t)の真値を示している。
【0024】
ここで、現在時刻tにおいて、現在時刻t以降のヨー角速度を推定する場合を考える。例えば、τ秒後のヨー角速度γ(t+τ)を推定する場合である。まず、従来の方法によってτ秒後のヨー角速度を推定する。従来の推定方法は、現在の物理量の単位時間あたりの変化量に所定時間を乗じた値と現在の物理量とを加えて算出する方法である。ヨー角速度の推定結果は(2)式を用いて、(4)式で表すことができる。
【数4】

これにより、時刻(t+τ)において、従来の方法で推定されるヨー角速度は、図3のPで示す値となる。
【0025】
これに対し、本実施形態に係るヨー角速度推定装置1においては、従来の推定方法において使用した現在のヨー角速度γ(t)の単位時間あたりの変化量の代わりに、現在の操舵角φ(t)の単位時間あたりの変化量を採用する。これにより、操舵角φ(t)は、ヨー角速度γ(t)よりも位相がΔt進んでいるため、図3のQで示す時点のヨー角速度の単位時間あたりの変化量を採用することができる。この方法によって求めたヨー角速度の推定結果は、(1)式、(3)式を用いて(5)式で表すことができる。
【数5】

これにより、時刻(t+τ)において、本実施形態に係るヨー角速度推定装置で推定されるヨー角速度は、図3のPで示す値となり、Pで示す値よりも真値Pに近い値となる。また、本実施形態に係るヨー角速度推定装置1によって得られたヨー角速度推定値は、(4)式および(5)式から、Δtだけ位相が進んだ推定値を得ることができている。
【0026】
以上により、本実施形態に係るヨー角速度推定装置1によれば、ヨー角速度γ(t)よりも位相がΔt進んだ操舵角φ(t)の角速度を入力とすることによって、ヨー角速度γ(t)を精度良く推定することができる。
【0027】
なお、上述した各実施形態は本発明に係るヨー角速度推定装置の一例を示すものである。本発明に係るヨー角速度推定装置は、これらの実施形態に係るヨー角速度推定装置に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で、実施形態に係るヨー角速度推定装置を変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0028】
例えば、本発明に係るヨー角速度推定装置において、操舵角は実施例に挙げた正弦波に限られるものではなく、余弦波や正弦波および余弦波の組み合わせであっても、本発明の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態に係るヨー角速度推定装置の構成図である。
【図2】図1のヨー角速度推定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】図1のヨー角速度推定装置の効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1…ヨー角速度推定装置、2…ヨー角速度センサ(ヨー角速度取得手段)、3…操舵角センサ(操舵角取得手段)、4…ECU、41…操舵角速度算出部(操舵角速度算出手段)、42…ヨー角速度推定部(推定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のヨー角速度を取得するヨー角速度取得手段と、
車両の操舵角を取得する操舵角取得手段と、
前記操舵角に基づいて操舵角速度を算出する操舵角速度算出手段と、
前記ヨー角速度および前記操舵角速度に基づいて、所定時間経過後のヨー角速度を推定する推定手段と、
を備えるヨー角速度推定装置。
【請求項2】
前記推定手段は、前記所定時間経過後の前記ヨー角速度が、前記操舵角速度に前記所定時間を乗じた値と前記ヨー角速度とを加えた値となるとして推定すること、
を特徴とする請求項1に記載のヨー角速度推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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