説明

ラジカルの測定方法

【課題】ラジカルの再結合による結合熱を精度よく算出し、その結合熱を基に再結合係数を算出するラジカルの測定方法を提供すること
【解決手段】
本発明に係るラジカルの測定方法は、生成室5内で原料ガスのプラズマを発生させることで、測定対象であるガスのラジカルを生成する。ラジカルは、生成室5に対し、プラズマの輻射熱を遮蔽する遮蔽部4を介して接続された測定管8に流入させられる。結合熱は、測定管8に配置された温度センサ9によって、温度センサ9との接触によってラジカルが失活することで発生する。測定管8の軸方向に沿った結合熱の変化に関する減衰係数が算出される。測定管8の構成材料のラジカルに対する再結合係数は、測定管8の軸方向および径方向のラジカルの密度分布を含む移流拡散方程式を用いて算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジカル結合熱を基に材料の再結合係数を求めるラジカルの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アッシング、化学エッチング等、ラジカル(不対電子を有する化学種)を反応種として用いるプロセスが知られている。ラジカルは、原料ガスをプラズマ化することにより生成される。ラジカルは、一般に、分子に比べて不安定であり、生成されたラジカルの一部は互いに、又は他の化学種と結合(再結合)して分子等になり、活性が消失(失活)する。失活は、主にプロセスチャンバ等の固相表面において生じ、その速度は当該表面を構成する材料に依存する。このため、ラジカルが接触する表面を、そのラジカルの失活の速度が小さい材料によって構成することにより、失活によって失われるラジカル量を低減し、所望の反応の速度を向上させることが可能となる。
【0003】
ところで、ラジカルの濃度を測定する方法として、例えば特許文献1には、熱電対を利用してラジカルの濃度を分析する方法が開示されている。特許文献1に記載されている方法では、水素ラジカルを含むプラズマのダウンフロー中に熱電対を挿入し、その温度を測定する。ダウンフローに含まれている水素ラジカルは熱電対表面の触媒作用により再結合して水素分子を生成する。再結合の際には熱(結合熱)が放出され、熱電対の温度が上昇するため、ダウンフローに含まれるラジカルの濃度が大きければ熱電対による測定値は大きく、ラジカルの濃度が小さければ熱電対による測定値は小さくなる。このため、熱電対の温度を比較することにより、ダウンフローに含まれている水素ラジカルの濃度を比較することが可能とされている。
【0004】
また、非特許文献1には、同様に熱電対を利用して、各種材料による水素ラジカルの失活の程度(再結合係数)を求める方法が開示されている。当該方法では、プラズマ源から伸びた直線的な測定管に2本の熱電対が配置される。一方の熱電対はフィラメント(素線の接合部)が露出し、他方の熱電対はフィラメントがガラスで被覆されている。プラズマ源において水素ガスをプラズマ化し、生成された水素ラジカルは測定管に流入させることで、これら熱電対の出力に基いて水素ラジカルを測定するようにしている。
【0005】
上記熱電対は、結合熱に加えてプラズマ源からの輻射熱を受ける。結合熱を算出するためには、プラズマ源からの輻射熱による影響を排除する必要がある。フィラメントがガラスで被覆された熱電対は、表面にラジカルが到達しないため結合熱を受けず、プラズマ源の輻射熱により加熱される。このため、フィラメントがガラスで被覆された熱電対とフィラメントが露出した電極の差をとることで、輻射熱による影響を排除するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−37176号公報(段落[0060]、図5)
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】R.K.Grubbs、S.M.George著 「Attenuation of hydrogen radicals traveling under flowing gas conditions through tubes of different materials」published 20 April 2006 The Journal of Vacuum Science and Technology A Vol.24 May/jun 2006 No.3 P486 American Vacuum Society
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1に記載に記載された再結合係数の算出方法は、多くのラジカル種に対して適用することは困難であると考えられる。水素ラジカルの結合熱は、他の化学種のラジカルの結合熱に比べて著しく大きく、プラズマからの輻射熱より十分大きいため、当該方法によって比較的高精度に結合熱を算出することが可能であるといえる。しかし、酸素ラジカルのような他のラジカルの結合熱は、水素ラジカルの結合熱より相当に小さく、プラズマからの輻射熱に大して十分大きいとはいえない。このため、検出すべき結合熱がバックグラウンドである輻射熱に埋もれてしまい、結合熱を精度よく算出することはできない。即ち、非特許文献1に記載の方法は、特に結合熱が小さいラジカルに適用することが困難であると考えられる。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ラジカルの再結合による結合熱を精度よく算出し、その結合熱を基に再結合係数を算出するラジカルの測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るラジカルの測定方法は、生成室内で原料ガスのプラズマを発生させることで、測定対象であるガスのラジカルを生成する。
上記ラジカルは、上記生成室に対し、上記プラズマの輻射熱を遮蔽する遮蔽部を介して接続された測定管に流入させられる。
結合熱は、上記測定管に配置された温度センサによって、上記温度センサとの接触によって上記ラジカルが失活することで発生する。
上記測定管の軸方向に沿った上記結合熱の変化に関する減衰係数は算出される。
上記測定管の構成材料の上記ラジカルに対する再結合係数は、上記測定管の軸方向および径方向の上記ラジカルの密度分布を含む移流拡散方程式を用いて算出される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る分析装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る測定方法による測定結果を示すグラフである。
【図3】比較例に係る分析装置による測定結果を示すグラフである。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る測定方法によって求められたラジカル結合熱を示すグラフである。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る測定方法から求められた再結合係数及び比較例に係る測定方法により求められた再結合係数を示すグラフである。
【図6】本発明の第1の実施形態及び第2の実施形態においてそれぞれ算出した再結合係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係るラジカル測定方法は、生成室内で原料ガスのプラズマを発生させることで、測定対象であるガスのラジカルを生成する。
上記ラジカルは、上記生成室に対し、上記プラズマの輻射熱を遮蔽する遮蔽部を介して接続された測定管に流入させられる。
結合熱は、上記測定管に配置された温度センサによって、上記温度センサとの接触によって上記ラジカルが失活することで発生する。
上記測定管の軸方向に沿った上記結合熱の変化に関する減衰係数は算出される。
上記測定管の構成材料の上記ラジカルに対する再結合係数は、上記測定管の軸方向および径方向の上記ラジカルの密度分布を含む移流拡散方程式を用いて算出される。
【0013】
ラジカル生成部において生成されたラジカルは、プラズマ生成室の第1の開口から測定管の第2の開口に流入し、測定管内に流入する。温度センサの触媒表面に到達したラジカルは、当該表面において再結合し、結合熱を放出する。ここで、プラズマと温度センサを結ぶ直線、即ちプラズマの輻射経路は遮蔽部によって遮蔽されるため、プラズマからの輻射は温度センサに到達せず、温度センサに輻射熱が印加されることが防止される。このため、温度センサの出力から輻射熱による影響を排除することが可能であり、結合解離エネルギーが小さいラジカル種であってもその結合熱を精度よく測定することが可能である。測定されたラジカルの結合熱から、測定管の軸方向に沿った上記結合熱の変化に関する減衰係数を算出し、軸方向および径方向のラジカルの密度分布を含む移流拡散方程式を用いることによって測定管の構成材料のラジカルに対する再結合係数を算出することができる。軸方向および径方向のラジカルの密度分布を考慮することにより測定管内を流れるラジカル(ガス)の流速に係わらず、再結合係数を算出することが可能である。
【0014】
上記測定管は、断面形状が一様な円管であってもよい。
【0015】
測定管を円管とすることによって、軸方向および径方向のラジカルの密度分布を近似的に仮定することが可能であり、移流拡散方程式を容易に解くことが可能となる。
【0016】
前記ラジカルの密度分布の関数形は、密度分布の径方向を前記温度センサから前記測定管までの前記測定管の断面方向の距離rの冪で展開してもよい。
【0017】
これにより、径方向のラジカルの密度分布を近似的に仮定することが可能となる。
【0018】
上記ラジカルの再結合係数をγ、上記減衰係数をα[W/m]、上記ラジカルの拡散係数をD[m/s]、上記測定管を流れる気体の平均流速をv[m/s]、上記測定管の半径をa[m]、上記ラジカルの熱速度をv[m/s]とするときに
s=α/4+vα/(2D)
を用いて上記減衰係数の減衰量sを算出し、上記減衰量sを
γ=8aD/v・s/(1−as)
に代入することで、再結合係数γを算出してもよい。
【0019】
軸方向および径方向のラジカルの密度分布を近似的に仮定し、移流拡散方程式に代入すると、上記2式を得ることが可能である。これらの式を用いて、減衰係数から再結合係数を算出することができる。
【0020】
前記測定管は、断面形状が一様な矩形管であってもよい。
この構成によれば、平板状のサンプルを組み合わせることによって測定管を形成することが可能となる。測定管を円管等の形状とする場合には、サンプルを曲面状等に加工する必要があるが、平板状であればその必要がなく、容易に測定管を準備することが可能である。
【0021】
前記ラジカルの密度分布の関数形は、密度分布の断面方向を前記温度センサから前記測定管までの前記測定管の断面方向に沿って直交する二方向の距離x及びyの冪で展開してもよい。
【0022】
これにより、断面方向のラジカルの密度分布を近似的に仮定することが可能となる。
【0023】
前記ラジカルの再結合係数をγ、前記減衰係数をα[W/m]、前記ラジカルの拡散係数をD[m/s]、前記測定管を流れる気体の平均流速をv[m/s]、前記測定管の一辺の長さをL[m]、前記ラジカルの熱速度をv[m/s]とするときに、下記行列式の値が0となるような再結合係数γを求めてもよい。
【0024】
【数1】

【0025】
軸方向および断面方向のラジカルの密度分布を近似的に仮定し、移流拡散方程式に代入すると、上記行列式を得ることが可能である。この式を用いて、減衰係数から再結合係数を算出することができる。
【0026】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0027】
[第1の実施形態]
第1の実施形態に係る分析装置1について説明する。
図1は、分析装置1の概略構成を示す図である。
【0028】
同図に示すように、分析装置1は、ラジカル生成部2、測定部3、及び遮蔽部4を有する。ラジカル生成部2と測定部3は、遮蔽部4を介して配置されている。
【0029】
ラジカル生成部2は原料ガスをプラズマ化し、ラジカルを生成させる。ラジカル生成部2はプラズマ生成室5、プラズマ発生器6及びガス供給系7を有する。プラズマ発生器6はプラズマ生成室5に収容され、ガス供給系7はプラズマ生成室5に接続されている。
【0030】
プラズマ生成室5は室内を室外と隔絶し、室内と室外の圧力差を維持する。プラズマ生成室5は第1の開口5aを有し、第1の開口5aは遮蔽部4に接続されている。
【0031】
プラズマ発生器6は、プラズマ生成室5内にプラズマ(図1にPとして示す)を発生させる。プラズマ発生器6は、プラズマ生成室5内の原料ガスに、原料ガスをプラズマ化するマイクロ波(例:周波数2.45GHz)等の電磁波を照射することが可能に構成されている。また、プラズマ発生器6は、レーザによる励起等によって原料ガスをプラズマ化するものとすることもできる。プラズマ発生器6は、プラズマ生成室5の室外に設けられてもよく、プラズマ生成室5の室内に収容されていてもよい。
【0032】
ガス供給系7はプラズマ生成室5の室内に原料ガスを供給する。ガス供給系7は、例えばガスボンベと配管により構成されている。ガス供給系7は、プラズマ生成室5に供給される原料ガスの流量を調節可能なものとされる。ガス供給系7及びプラズマ発生器6がプラズマ発生手段に対応する。
【0033】
測定部3はラジカル生成部2において生成されたラジカルを検出する。測定部3は測定管8、温度センサ9及び排気系10を有する。温度センサ9は測定管8に収容され、排気系10は測定管8に接続されている。
【0034】
測定管8はラジカルの流路を形成する。測定管8は、サンプル管11と排気管12から構成されている。サンプル管11及び排気管12は同一の口径を有する円管とすることができ、サンプル管11と排気管12が接続されて測定管8が形成されている。サンプル管11は再結合係数が評価されるべきサンプル材料からなり、即ち測定管8はサンプル材料からなる内壁面を有する。測定管8のサンプル管11側の開口を第2の開口8aとする。第2の開口8aは遮蔽部4に接続されている。また、測定管8の排気管12側の開口は蓋13によって閉塞されている。
【0035】
サンプル管11はサンプル材料(石英、アルミニウム、ステンレス鋼等)によって形成されるものとすることができ、この場合はサンプル管11自体が測定サンプルとなる。また、サンプル管11は他の材料によって形成されて管の内壁にサンプル材料からなる測定サンプルが配置され、サンプル材料からなる内壁面が構成されるものであってもよい。サンプル管11の形状は断面形状が一様な円管とすることができる。サンプル管11の遮蔽部4側の管口(第2の開口8aと同一)を第1の管口11aとし、排気管12側の管口を第2の管口11bとする。サンプル管11は、第1の管口11aに形成されたフランジ11cによって遮蔽部4に、第2の管口11bに形成されたフランジ11dによって排気管12にそれぞれ接続されている。
【0036】
排気管12はサンプル管11内の気体の排出経路を形成する。排気管12は蓋13よりに形成された排気口12aを有する。排気口12aは排気系10に接続されている。後述するが、排気口12aがサンプル管11(温度センサ9)に近接していると、排気口12aに吸引される気体の流れにより、サンプル管11内の気体の流れが粘性流(層流)ではなくなり、結合熱の算出に影響が生じるおそれがあるため、排気管12によって排気口12aとサンプル管11とが離間されている。排気管12のサンプル管11側の管口を第1の管口12bとし、蓋13側の管口を第2の管口12cとする。排気管12は、第1の管口12bに形成されたフランジ12dによってサンプル管11に、第2の管口12cに形成されたフランジ11eによって蓋13にそれぞれ接続されている。
【0037】
本実施形態では、測定管8はサンプル管11と排気管12とが接続されて構成されるものとしたが、これに限られない。一本の管の一部に測定サンプルを配置し、当該一本の管を測定管8として用いることも可能である。
【0038】
温度センサ9は測定管8に流入したラジカルを検出する。温度センサ9は、ラジカルが付着して再結合する触媒表面を有するものとされる。温度センサ9は、例えばR熱電対(+極:Pt-Rh(13%)合金、−極:Pt)とすることができる。温度センサ9は測定管8の軸方向に伸びる支持体14に支持され、サンプル管11の内部、中心軸上に配置される。
【0039】
温度センサ9を支持する支持体14は、サンプル管11から排気管12を通過して蓋13を貫通し、測定管8の外部に伸びる。支持体14は、蓋13に設けられた駆動機構15に連結されている。駆動機構15は、モータ、ギア等を内蔵し、支持体14を測定管8の軸方向に駆動する。駆動機構15は、支持体14に取り付けられている温度センサ9がサンプル管11の内部において、少なくともサンプル材料が配置されている範囲(第1の管口11aから第2の管口11bの間)で移動可能となるように構成される。即ち、駆動機構15によって支持体14が駆動され、支持体14に取り付けられている温度センサ9がサンプル管11の軸方向において任意の位置をとることが可能とされる。なお、支持体14及び駆動機構15は、ここに示す構成に限られず、温度センサ9を支持し、駆動することが可能な他の構成とすることも可能である。
【0040】
排気系10は、測定管8の内部の気体を排気する。排気系10は、例えば真空ポンプと配管によって構成される。排気系10は、排気速度を調節可能なものとされる。
【0041】
遮蔽部4は、プラズマから放射され、第1の管口4aを通過した輻射を遮蔽する。遮蔽部4は屈曲した管とすることができる。遮蔽部4は、プラズマ生成室5の第1の開口5aに接続される第1の管口4aと、測定管8の第2の開口8aに接続される第2の管口4bを有する。遮蔽部4は、第1の管口4aから伸び、第1の管口4aに垂直な第1の管部分4cと第2の管口4bから伸び、第2の管口4bに垂直な第2の管部分4dが直交する形状とすることが可能である。第1の管口4aにはフランジ4eが設けられ、プラズマ生成室5に接続される。第2の管口4bにはフランジ4fが設けられ、測定管8に接続される。
【0042】
屈曲した管路を有する遮蔽部4によってプラズマ生成室5と測定管8が接続され、第1の開口5aの開口面と第2の開口8aの開口面が垂直な位置関係となる。これにより、第1の開口5aと第2の開口8aを結ぶどのような直線(例えば図1に破線Lで示す)も、その途中に遮蔽部4が存在することとなる。
【0043】
遮蔽部4の管路は、ラジカルの失活が発生し難い材料から構成することが好適である。ラジカル生成部2において生成されたラジカルは、遮蔽部4を通過して測定管8に至るため、遮蔽部4においてラジカルの失活が発生し難い場合、より多くのラジカルを測定管8に到達させることが可能となる。これにより、温度センサ9においてより多くのラジカルの結合熱が検出可能となる。ラジカルの失活が発生し難い材料はラジカル種により、例えば、測定対象が酸素ラジカルである場合、遮蔽部4は石英又はアルミニウムからなるものとすることができる。または、遮蔽部4は、他の材料で形成された管の内部がこれらの材料によって被覆されたものであってもよい。
【0044】
遮蔽部4の管路形状はここに示すものに限られず、管路が湾曲するものであってもよい。例えば、管路が螺旋状に形成されたものとすることも可能である。また、遮蔽部4は、第1の管部分4cと第2の管部分4dが直交する(第1の管部分4cの軸と第2の管部分4dの軸のなす角が90°)ものに限られず、当該角度が60°、135°等、種々の角度を有するものを用いることができる。
【0045】
さらに、遮蔽部4は、管路を流れる気体が粘性流となるように構成される。後述するが、分析装置1は、サンプル管11内に配置される温度センサ9に粘性流が到達するように構成される必要がある。遮蔽部4の管路を、気体の粘度、流速、管路形状等に応じて十分大きな直径とすることにより、管路を流れる気体を粘性流とすることが可能である。
【0046】
プラズマ生成室5、遮蔽部4及び測定管8が接続されることによって、連通した空間(測定空間)が形成される。測定空間は、ガス供給系7及び排気系10によって圧力が調節可能に構成されている。
【0047】
以上のように構成された分析装置1による測定方法を説明する。
【0048】
最初に、排気系10により測定空間が排気され、測定空間が清浄になるまで十分に減圧される。次にガス供給系7からプラズマ生成室5に原料ガスが供給される。排気系10の排気速度と、ガス供給系7からの原料ガスの供給速度が調節され、測定空間が所定の圧力に維持される。この状態において、測定空間では、プラズマ生成室5から遮蔽部4、サンプル管11、排気管12を経由して排気口12aに至る、一定流量の原料ガスのガスフローが形成される。ここで、遮蔽部4は十分に大きな管径を有する管路であるため、ガスフローは粘性流となる。
【0049】
次に、プラズマ発生器6により原料ガスがプラズマ化される。プラズマ中の電子が原料ガスの分子に衝突することにより分子の結合が開裂し、ラジカルが生成する。ラジカルは不安定であるため再結合して分子に戻るが、プラズマ中では電子衝撃が継続するため、ラジカルの生成と再結合が平衡し、所定の濃度のラジカルがプラズマ中に存在する。生成したラジカルは、ガスフローによってプラズマ生成室5の第1の開口5aから流出し、遮蔽部4を通過してサンプル管11に流入する。
【0050】
サンプル管11に流入したラジカルの一部は、温度センサ9の表面に付着して再結合し、結合熱を生じる。結合熱は、ラジカルが結合して分子を生成する際に放出する結合解離エネルギーと温度センサ9に輸送されるラジカルの数の積として考えられる。これにより、結合熱から温度センサ9に輸送されるラジカルの数を求めることができる。サンプル管11を流れるガスフローが粘性流であれば、結合熱からラジカルの濃度を算出することが可能である。
【0051】
温度センサ9は特定の位置(第1の管口11aからの距離)においてその出力が測定された後、サンプル管11の軸方向に移動する。温度センサ9の移動は駆動機構15によって支持体14が駆動されることによってなされる。温度センサ9は移動した新たな位置において出力が測定され、さらに移動及び出力の測定が繰り返される。このようにすることによって、温度センサ9はサンプル管11内の複数の位置においてその出力を測定される。例えば、当初、温度センサ9は第2の管口11bに位置して測定され、第1の管口11aの方向に所定距離移動され、再び測定される。さらに同方向に所定距離移動されて測定されることが、温度センサ9が第1の管口11aに至るまで繰り返される。
【0052】
図2は、分析装置1によって測定される温度センサ9の出力を示すグラフである。測定対象は、ここでは酸素ラジカルとした。
横軸は第1の管口11aから温度センサ9までの距離(mm)であり、縦軸は温度センサ9の出力(℃)である。サンプル材料は石英、アルミニウム及びステンレス鋼である。同図に示すように、温度センサ9が第1の管口11aから遠ざかるに従って、温度センサ9の出力が低下する。
【0053】
図3は、比較として、遮蔽部4が設けられていない場合の温度センサ9の出力を示すグラフである。この測定に用いられるのは、遮蔽部4の替わりに遮蔽部4の管路と同一の長さを有する直管が配置される分析装置とする。図3と同様に、横軸は第1の管口11aから温度センサ9までの距離[mm]であり、縦軸は温度センサ9の出力[℃]である。
【0054】
図2と図3における出力の差はプラズマからの輻射熱に由来する。このように輻射熱は結合熱に比べて十分大きく、検出すべき結合熱がバックグラウンドである輻射熱に埋もれてしまう。このため輻射熱の影響を排除しなければ結合熱を精度よく算出することができない。
【0055】
サンプル管11を通過したラジカルは、排気管12に流入し、排気系10によって排気口12aから排出される。排気口12aとサンプル管11の第2の管口11bは十分離間されているため、サンプル管11内のガスフローは粘性流として維持される。
【0056】
以上のようにして測定がなされる。分析装置1では、上述のようにプラズマと温度センサ9を結ぶ直線、即ちプラズマの輻射経路は遮蔽部4によって遮蔽されるため、プラズマからの輻射は温度センサ9に到達せず、温度センサ9に輻射熱が印加されることが防止される。このため、温度センサ9の出力から輻射熱による影響を排除することが可能である。また、ラジカルの結合熱の算出を室温で行うことができる。
【0057】
分析装置1は、特に、測定対象のラジカル種が酸素ラジカル等の結合解離エネルギーが小さいラジカル種である場合に有効である。結合解離エネルギーが小さいラジカル種である場合、温度センサ9によって検出される結合熱も小さくなる。このため、結合解離エネルギー小さいラジカル種は、結合解離エネルギーが大きいラジカル種に比べ、プラズマからの輻射熱の影響をより受け易い。分析装置1では、プラズマからの輻射熱の影響が抑制されるため、結合解離エネルギーが小さいラジカル種であっても、結合熱を精度よく算出することが可能である。
【0058】
また、測定対象が酸素ラジカルである場合、遮蔽部4を石英又はアルミニウムによって形成することにより、遮蔽部4の管路の壁面に接触した酸素ラジカルが失活することを防止することが可能である。これにより、遮蔽部4がこれら以外の材料から構成されている場合に比べてサンプル管11に流入する酸素ラジカルの濃度が増加し、温度センサ9により多くの結合熱が印加される。即ち、結合熱に対してプラズマからの輻射熱がより小さくなるため、結合熱の精度を向上させることが可能である。
【0059】
温度センサ9の出力、即ち温度センサ9の熱収支は、以下の式(1)で表すことが出来る。
Q1+Q3+Q4=Q2+Q5 (1)
ここで、Q1は温度センサ9からの電磁波の放射により失われる熱、Q2はプラズマからの輻射によって温度センサ9に加えられる熱、Q3は温度センサ9の周囲に存在する気体の粘性流によって温度センサ9から失われる熱、Q4は温度センサ9の熱電対ワイヤから支持体14への熱伝導によって失われる熱、Q5は温度センサ9の表面において生じるラジカルの結合熱によって温度センサ9に加わる熱である。温度センサ9の出力が一定となるまで、その位置を維持することにより温度センサ9への熱の流入(式(1)の左辺)と温度センサ9からの熱の流出(式(1)の右辺)が一致し、式(1)が成り立つ。
【0060】
Q1はステファンボルツマン(Stefan-Boltzmann)の法則(黒体の表面から単位面積、単位時間当たりに放出される電磁波のエネルギーはその黒体の熱力学温度の4乗に比例)から以下の式(2)によって求めることができる。
Q1=σAε(T−T) (2)
σはステファンボルツマン係数(5.67×10-8 [W・m-2・K-4])、Aは温度センサ9の表面積、εは温度センサ9の輻射率、Tは各測定位置の温度(温度センサ9の出力)、Tはガス温度(サンプル管11の外壁温度と仮定)である。
【0061】
Q3は以下の式(3)によって求めることができる。
Q3=hA(T−T) (3)
hは酸素ガス流れ中の温度センサ9の熱伝達率である。
【0062】
Q4は温度センサ9の熱電対ワイヤの断面積が十分小さいため無視することができる。
Q2は、プラズマからの輻射が遮蔽部4によって遮蔽されるため無視することができる。
【0063】
以上により、温度センサ9の出力TからQ1及びQ3を算出することでラジカルの結合熱であるQ5が得られる。図4は第1の管口11aから温度センサ9までの距離に対するQ5のプロットである。サンプル1は石英であり、サンプル2は「ALpika(アルピカ)」(アルバック社の登録商標)(研磨処理されたアルミニウム合金)である。
【0064】
Q5から再結合係数を導出する。
図4に示したプロットの傾き(減衰係数)α[W/m]を求める。この傾きαを以下の[数2]に代入して減衰量sを算出し、減衰量sを以下の[数3]に代入して再結合係数γを導出することが可能である。なお、[数2]及び[数3]は、サンプル管11が円管の場合の式である。
【0065】
【数2】

【0066】
[数2]において、Dはラジカルの拡散係数[m/s]、vはサンプル管11を流れる気体の平均流速[m/s]である。[数2]の右辺、第1項は拡散による減衰を示し、第2項は流れに沿う減衰を意味する。
【0067】
【数3】

【0068】
[数3]において、vはラジカルの熱速度[m/s]であり、aはサンプル管11の半径[m]である。vは以下の式によって求めることができる。
={8kT/(πm)}1/2
【0069】
[数2]及び[数3]の式の導出について説明する。
円管の移流拡散方程式は以下の[数4]のように記述することができる。
【0070】
【数4】

【0071】
[数4]において、rはサンプル管11の軸からの径方向の距離[m]、zはサンプル管11の第1の管口11aからの軸方向の距離[m]である。また、速度V(r)(距離rにおける軸方向の流速)[m/s]は以下の[数5](Hagen-Poiseuille流れ)で与えられる。
【0072】
【数5】

【0073】
[数4]において、サンプル管11が断面形状が一様な円管である場合、距離r、距離zにおけるラジカル密度n(r,z)[/m]は以下の[数6]に示すように仮定することができる。
【0074】
【数6】

【0075】
[数4]に[数5]及び[数6]を代入すると以下の[数7]が得られる。
【0076】
【数7】

【0077】
また、円管の径方向の拡散(移流拡散方程式の境界条件)は以下の[数8]のように記述することができる。n(a)はサンプル管11表面(r=a)でのラジカル密度を示す。∂n(r)/∂rはサンプル管11表面(r=a)でのラジカル密度勾配を示す。
【0078】
【数8】

【0079】
[数8]に[数6]を代入すると以下の[数9]が得られる。
【0080】
【数9】

【0081】
[数7]及び[数9]を連立方程式として解くと[数2]及び[数3]が得られる。
【0082】
[数2]及び[数3]の式を用いてQ5の傾きαから導出した再結合係数の例を図5に示す。図5は、サンプル管11を流れる気体の平均流速vに対する再結合係数γである。図5に黒丸で示した再結合係数γは上述した移流拡散方程式を用いて算出した値である。比較として、図5に白丸で示した再結合係数γは移流拡散方程式を用いないで、即ち径方向のラジカル密度の減衰は無視し、軸方向のラジカル密度は拡散に流速であるとして算出した値である。図5に示すように、移流拡散方程式を用いて算出した再結合係数γは平均流速vに依存しないが、移流拡散方程式を用いないで算出した再結合係数γは、本来依存しないはずの平均流速vに依存していることがわかる。
【0083】
以上のようにして、ラジカルの結合熱Q5からサンプル材料の再結合係数γが得られる。このため、ラジカルの結合熱Q5を精度よく算出することができれば、再結合係数の精度を向上させることが可能である。ここで、上述の式(1)において、プラズマからの輻射熱であるQ2は無視できるとしたが、このQ2がQ5に対して大きければ、Q2を無視することにより再結合係数の精度が低下する。即ち、プラズマからの輻射が温度センサ9に到達しないようにすることで、再結合係数の精度を向上させることが可能である。
【0084】
[第2の実施形態]
第2の実施形態に係る分析装置について説明する。
本実施形態に係る分析装置は、第1の実施形態と異なり、矩形の断面形状を有する測定管8を有する。即ち、測定管8を構成するサンプル管11及び排気管12は同一の断面形状を有する矩形管である。サンプル管11は再結合係数が評価されるべきサンプル材料からなり、即ち測定管8はサンプル材料からなる内壁面を有する。
【0085】
第1の実施形態と同様にして、Q5から再結合係数を導出する。
図4に示したプロットの傾き(減衰係数)α[W/m]を求める。この傾きαから、以下の[数10]に示す行列式を用いて再結合係数γを算出する。
【0086】
【数10】

【0087】
[数10]に示す式において、Dはラジカルの拡散係数(m/s)、Vは測定管8を流れる気体の平均流速(m/s)、Lは測定管8の一辺の長さ(m)、vはラジカルの熱速度(m/t)である。
【0088】
[数10]の式の導出について説明する。
【0089】
矩形管の移流拡散方程式は以下の[数11]のように記述することができる。
【0090】
【数11】

【0091】
以下の[数12]に示すように関数形を仮定して[数11]に示す移流拡散方程式に代入すると、以下の[数13]に示す式が得られる。
【0092】
【数12】

【0093】
【数13】

【0094】
また、[数12]に示した関数形を、[数14]に示す境界条件に代入すると、[数15]に示す式が得られる。
【0095】
【数14】

【0096】
【数15】

【0097】
[数13]に示す式と[数15]に示す式から、[数16]に示す連立一次方程式が得られる。
【0098】
【数16】

【0099】
[数16]に示す式において、非ゼロの解が存在するためには、以下の[数17]に示す行列式が0となるγを求めればよい。[数17]に示す行列式において、各係数を求めると、[数10]に示した行列式となる。
【0100】
【数17】

【0101】
以上のようにして算出した[数10]の式を用いて、減衰係数αから再結合係数γを求めることができる。例えば、圧力Pが126.0[Pa]、平均流速vが2.0[m/s]、断面長さLが59.0[mm]、減衰係数αが3.0[/m]であるときに、[数10]の式を用いて再結合係数γは7.1×10−3と求めることができる。
【0102】
図6は、同一のサンプル材料(SiO)について、サンプル管11が第1の実施形態に示した円管と第2の実施形態に示した矩形管のであるそれぞれの場合に算出した再結合係数を示すグラフである。同図に示すように、サンプル管11が円管の場合と、矩形管の場合の再結合係数は同等の値を示した。また、矩形管の場合において、Fourier級数展開の際の次数が高次(15次)の方が、低次(1次)の場合に比べ、より円管の値に近い値を得ることができる。
【0103】
本実施形態では、第1の実施形態と異なり、サンプル管11の断面形状を矩形とするものである。これにより、サンプルを円管状に加工する必要がなく、例えば4枚の板状のサンプルを張り合わせてサンプル管11とすることができ、容易に準備することが可能である。
【0104】
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【符号の説明】
【0105】
1 分析装置
2 ラジカル生成部
3 測定部
4 遮蔽部
5 プラズマ生成室
5a 第1の開口
8 測定管
8a 第2の開口
9 温度センサ
15 駆動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生成室内で原料ガスのプラズマを発生させることで、測定対象であるガスのラジカルを生成し、
前記生成室に対し、前記プラズマの輻射熱を遮蔽する遮蔽部を介して接続された測定管に前記ラジカルを流入させ、
前記測定管に配置された温度センサによって、前記温度センサとの接触によって前記ラジカルが失活することで発生する結合熱を測定し、
前記測定管の軸方向に沿った前記結合熱の変化に関する減衰係数を算出し、
前記測定管の軸方向及び径方向の前記ラジカルの密度分布の関数形において移流拡散方程式を再結合係数を含む境界条件に代入して、前記測定管の構成材料の前記ラジカルに対する再結合係数を算出する
ラジカルの測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のラジカルの測定方法であって、
前記測定管は、断面形状が一様な円管である
ラジカルの測定方法。
【請求項3】
請求項2に記載のラジカルの測定方法であって、
前記ラジカルの密度分布の関数形は、密度分布の径方向を前記温度センサから前記測定管までの前記測定管の断面方向の距離rの冪で展開する
ラジカルの測定方法。
【請求項4】
請求項3に記載のラジカルの測定方法であって、
前記ラジカルの再結合係数をγ、前記減衰係数をα[W/m]、前記ラジカルの拡散係数をD[m/s]、前記測定管を流れる気体の平均流速をv[m/s]、前記測定管の半径をa[m]、前記ラジカルの熱速度をv[m/s]とするときに
s=α/4+vα/(2D)
を用いて前記減衰係数の減衰量sを算出し、
前記減衰量sを
γ=8aD/v・s/(1−as)
に代入することで、再結合係数γを算出する
ラジカルの測定方法。
【請求項5】
請求項1に記載のラジカルの測定方法であって、
前記測定管は、断面形状が一様な矩形管である
ラジカルの測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載のラジカルの測定方法であって、
前記ラジカルの密度分布の関数形は、密度分布の断面方向を前記温度センサから前記測定管までの前記測定管の断面方向に沿って直交する二方向の距離x及びyの冪で展開する
ラジカルの測定方法。
【請求項7】
請求項6に記載のラジカルの測定方法であって、
前記ラジカルの再結合係数をγ、前記減衰係数をα[W/m]、前記ラジカルの拡散係数をD[m/s]、前記測定管を流れる気体の平均流速をv[m/s]、前記測定管の一辺の長さをL[m]、前記ラジカルの熱速度をv[m/s]とするときに、
下記行列式の値が0となるような再結合係数γを求める
ラジカルの測定方法。
【数18】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−88090(P2012−88090A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233066(P2010−233066)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】