説明

ラチェット装置付きテンショナ

テンショナにおいて、穴304を有するハウジング330と、中空のピストン320と、ピストンスプリング306と、加圧流体源および中空ピストン320の間のチェックバルブ302と、ポールプレート314とを設ける。ピストン320はまた、その外面に沿って形成された複数の溝310を有している。ピストンスプリング306は、ピストン320を穴304の外方に付勢している。ポールプレート314は、ピストン320の溝310と係合する、突出したポール背部を有する底部を備えている。ポールプレート314の一方の側は、鉛直方向のスプリング312によって外方に付勢されるとともに、水平方向のスプリング326によって横方向に付勢されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チェーンテンショナまたはベルトテンショナの分野に関し、より詳細には、本発明は、ラチェット装置付きチェーンテンショナまたはベルトテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
チェーンテンショナおよびベルトテンショナにおいて、ピストンは、スプリングによってまたはスプリングおよび液圧によって、ハウジングから外方に押されている。ハウジングおよびピストン間に形成された流体チャンバと加圧流体源との間において、テンショナには、流体チャンバから外側に作動流体が逆流するのを防止するためのチェックバルブが追加されている。
【0003】
ピストンおよび穴のクリアランスからの流体の漏れは、補充流体が停止したときに、ピストンの後退を許容している。流体の漏出量が増加すれば、ピストンの後退に対する規制が緩やかになり、流体の漏出量が減少すれば、ピストンの後退に対する規制が強められる。チェーン荷重が増大した場合や、液圧の損失が存在している場合には、ピストンの後退が発生する。もしピストンの後退が過剰なものであれば、チェーンが制御を失い、その他の望ましくない影響も発生する。したがって、ピストンの後退量を制限することは、望ましいことである。
【0004】
ピストンの後退を制限するのに用いられるラチェット装置は、エンジン停止中に液圧が減少した時にはピストンの後退を許容してチェーン荷重を減少させなければならないが、その許容の程度も、エンジン再始動時にチェーンが制御不能とならないものでなければならない。ピストンの後退は、ラチェットに追加されたバックラッシュ量によって制限されている。
【0005】
ラチェット装置を使用する従来のテンショナの一例が、図1に示されている。ラチェットテンショナ1は、プランジャ8を受け入れるための穴12を有するテンショナハウジング7と、軸16によりテンショナハウジング7に枢支されかつラチェットスプリング18によって付勢されたラチェットポール17とを備えている。
【0006】
プランジャ8は、ラチェットポール17と係合する歯を一方の外側に有している。プランジャ8は、中空部13内の流体およびプランジャスプリング14によってテンショナレバー10と接触するように、穴12の外側に付勢されている。テンショナレバー10は、支軸9に枢支されるとともに、カムシャフト4のスプロケット5とクランクシャフト2のスプロケット3の周りに巻き掛けられたタイミングチェーン6の弛み側に接触してこれに張力を発生させるシュー面11を有している。穴12の内方および外方へのプランジャ8の移動は、プランジャ8の歯およびこれと係合するラチェットポール17によって制限されている。
【0007】
図2は、ラチェット装置を使用する従来のテンショナの他の例を示している。テンショナは、中空ピストン104をスライド自在に受け入れる穴114を有しかつ穴114との間で流体チャンバを形成するするハウジング116を備えている。加圧源と流体チャンバとの間には、流体チャンバ内への流体の流れのみを許容するチェックバルブ(図示せず)が設けられている。
【0008】
ピストン104は、穴114において互いに逆側の孔に配置された一対のポール110、112が係合する一連の溝106をその外面に有している。バックラッシュを提供するための平坦面を有するポール110、112は、サークリップ102によって所定位置に保持されている。ポール110、112のうちの一方のポールは、穴114上において他のポールよりも高い位置に配置されている。ピストン104が伸長するにつれて、ピストン104はポール110、112のうちの一方のポールと係合し、他方のポールは、ピストン104の後退量を限定する。
【0009】
図3は、ラチェット装置付きテンショナの他の例を示している。テンショナは、ピストン212を受け入れる穴204と、ショルダ部218を受け入れるショルダ孔210とを有するハウジング202を備えている。穴204は、当該穴204とで流体チャンバ214を形成するピストン212をスライド自在に受け入れている。ハウジング202内の流路は、流体チャンバ214を加圧流体源に接続している。加圧流体源と流体チャンバ214の間には、流体チャンバ214内への流体の流れのみを許容するチェックバルブ208が設けられている。ピストン212は、スプリング206によって突出方向に付勢されている。ショルダ部218は、カバー216を介してピストン212に連結されている。ショルダ部218は、ポール222の歯226を受ける外部ラック歯220を有しており、ポール222は、外部ラック歯220と係合するように、スプリング224によって付勢されている。ショルダ部218およびピストン212は、ストッパ228によって或る一定量以上の突出が規制されている。
【0010】
もう一つの例は、米国特許第 6,120,402号である。米国特許第 6,120,402号の一実施例においては、2つのくさび部分が、溝内で延長部を限定している。段付溝が延長部を保持している。外部ラック部材のサイド部が、上面および下面を備えた下端部を有している。下端部は、ハウジングの溝内を軸方向に移動する。下端部の軸方向移動における最下端は、溝の面である。運転中には、ハウジングの溝内においてラック部材の下端の制限された移動が、ハウジングに対するサイド部およびピストンの制限された後退方向の移動を可能にして、少量のバックラッシュを可能にする。
【0011】
他の実施例においては、ラック部材が多数の部材から構成されている。3つの部材が組み立てられるとともにスプリングによって互いに保持されており、円筒状部分を形成している。スプリングおよび外部ラックは、テンショナハウジング内部でピンによって互いに保持されている。ピストンは穴内をスライドし、ラックの延長部は、ピストンの側部に形成された溝内をスライドする。延長部は、上面および下面を有している。下面は、傾斜部を介してサイド部に連結されている。運転中には、ピストンのバックラッシュは、各くさび部分の間に形成された溝の中のスペースによって限定されている。ピストンがハウジングからさらに外方に押し出されると、外部部材は、次のくさび部分つまりピストンラック部分の上をスライドして、次の溝の中に保持される。段付溝は、ラック延長部が段付溝で捕捉されてピストンがテンショナハウジングから離れるのを阻止するように形成されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、新規な構成のラチェット装置付きテンショナを提供しようとしている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るテンショナは、穴を有するハウジングと、中空のピストンと、ピストンスプリングと、加圧流体源および中空ピストンの間のチェックバルブと、ポールプレートとを備えている。中空ピストンは、ハウジングの穴にスライド自在に受け入れられるとともに、穴とで流体チャンバを形成している。中空ピストンはまた、その外面に沿って形成された複数の溝を有している。ピストンスプリングは、ピストンを穴の外方に付勢している。ポールプレートは、ピストンの溝と係合する、突出したポール背部を有する底部を備えている。ポールプレートの一方の側は、鉛直方向のスプリングによって外方に付勢されるとともに、水平方向のスプリングによって横方向に付勢されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
【0015】
図4、図5および図10は、ピストン320が輸送位置または据付け位置に配置された本発明の概略図である。テンショナは、ピストン320がこの位置に配置されているとき、ボルト孔346を用いてエンジンブロックに取り付けられている。
【0016】
テンショナは、穴304が形成されたハウジング330を有している。中空のピストン320は、ハウジング330の穴304内にスライド自在に受け入れられている。穴304は、中空ピストン320の内部とで流体チャンバを形成している。流体チャンバは、流路336およびチェックバルブ302を介して、加圧源からの流体を受け入れている。チェックバルブ302は、流体チャンバ内に入る流体の流れのみを許容している。
【0017】
中空ピストン320は、ピストンショルダ部316と、ピストン320に一体形成された一連のピストン歯310とを外部に有している。ピストン歯310は、ストップ溝308を含んでいる。中空ピストン320は、スプリング306によってハウジングから突出する方向である外方に付勢されている。
【0018】
ポールプレート314は、ハウジングの孔342に収容された鉛直方向のポールスプリング312によって、ピストンショルダ316の頂上部に支持されている。ポールプレート314は、平坦な上部および凹んだ底部を有しており、これら上部および底部により、ピストンラックと係合する、突出した背部つまりポールが形成されている。
【0019】
鉛直方向のポールスプリング312は、ポールプレート314の一方の端部314aをカバープレート318の底部に向かう鉛直方向上方つまり縦方向上方に付勢している。なお、この鉛直方向のポールスプリング312は、ピストン周りに配設された円錐形状のスプリングによって置き換えてもよい。ポールプレート314の他方の端部314bは、ハウジング330の壁部322およびリテーナ324の間に収容された水平方向のポールスプリング326によって水平方向つまり横方向に付勢されている。
【0020】
リテーナ324は、ピストン320の穴304内の中心位置にピストン320を保持するとともに、水平方向のポールスプリング326が起立するのを防止するのに役立つ。水平方向のポールスプリング326は、ストッパまたはボール352によって、テンショナのハウジング330から出るのが防止されている。ポールプレート314は、ピストン320の位置に応じて、ショルダ316またはピストンラックに係合している。
【0021】
ピストン320は、ハウジング330の穴304およびポールプレート314間のクリアランス350であるバックラッシュの量に等しい距離の分だけ、穴304内に後退するのが許容されている。ポールプレート314は、ハウジング330の上に一体に形成されたリベット348を受け入れるカバープレート318によって覆われている。
【0022】
鉛直方向のポールスプリング312およびポールプレート314の近傍には、リセット溝354が設けられている。図示しないキーまたはドライバ(ねじ回し)をリセット溝354内に挿入し、ポールプレート314をスプリング326のバネ力に抗してスライドさせることにより、図9に示すように、ポールプレート314がショルダ316から外れて、ピストン320が芯出しされリセットされるようになっている。ピストン320は、何時でもこの位置にポールが配置されることにより、輸送位置または据付位置にリセットされる。
【0023】
図6は、ピストン320が輸送位置からハウジング外方に突出する位置まで移動するとき、水平方向のスプリング326およびリテーナ324によって付勢され、ピストン歯310と接触するポールプレート314の分解図である。
【0024】
図7は、ピストン320が穴304から外方の中間位置まで伸長してポールプレートが次のピストン歯310と係合するときのテンショナの分解図である。ポールプレート314は、水平方方向のスプリング326およびリテーナ324によって付勢されている。
【0025】
図8は、ピストン最大伸長位置におけるテンショナの分解図である。この位置では、ポールプレート314は、ピストンのストップ溝308と係合している。この位置から、テンショナは、上述したように、リセット溝354を用いることによってリセットされる。
【0026】
ここで述べられた本発明の実施例が本発明の原理を採用する単なる例示であるということが理解されるべきである。本発明に本質的であるとみなされる特徴部分を説明している実施例の詳細にここで言及することは、特許請求の範囲を限定する意図ではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来のチェーンテンショナの概略構成を示す図である。
【図2】ポール式外部ラックを備えた従来の液圧テンショナの概略図である。
【図3】カバープレートを介してピストンショルダ部に取り付けられたラックを有する従来のテンショナの概略構成図である。
【図4】輸送および据付けのためにピストンが収容されるとともに、ポールプレートを露出させるためにカバーが外された本発明の概略図である。
【図5】図4のA-A線に沿ったピストン中心を通る断面を示している。
【図6】ピストンラックのピストン歯と係合するポールプレートの分解図である。
【図7】ピストンが伸長してポールプレートが次のピストン歯と係合しようとしている状態の分解図である。
【図8】ポールプレートによって停止されるまでピストンが伸長した状態の分解図である。
【図9】ピストンがリセットされた状態の概略図である。
【図10】輸送および据付けのためにピストンが収容されるとともに、カバーが所定位置にリベット締めされた本発明の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
302: チェックバルブ
304: 穴
306: ピストンスプリング
310: 溝
312: 鉛直方向のスプリング
314: ポールプレート
320: 中空のピストン
326: 水平方向のスプリング
330: ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チェーンテンショナまたはベルトテンショナであって、
穴を有するハウジングと、
前記穴にスライド自在に受け入れられかつ前記穴とで流体チャンバを形成するとともに、その外側に沿って形成された複数の溝を有する中空のピストンと、
前記ピストンを前記穴から外方に付勢するピストンスプリングと、
前記流体チャンバと加圧流体源の間に設けられ、前記流体チャンバ内への流体の流れを許容するとともに逆方向の流体の流れを阻止するチェックバルブと、
前記ピストンの外側に沿って形成された前記複数の溝と係合する、突出したポール背部を含む底部を有するポールプレートとを備え、
前記ポールプレートの一方の側が鉛直方向のスプリングによって外方に付勢されるとともに、前記ポールプレートの他方の側が水平方向のスプリングによって横方向に付勢されている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ピストンの前記複数の溝が、当該ピストンの外方への最大ストロークの位置に段付溝を含んでいる、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項3】
請求項1において、
前記ポールプレートの縁部と連係するスライド面を提供するために、前記ポールプレートおよび前記水平方向のスプリングの間に配置されたリテーナ部材をさらに備えている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項4】
請求項1において、
前記ポールプレートの側に隣接するリセット溝をさらに備えており、前記ピストンがリセットされたとき、前記ポールプレートを前記ピストンの前記溝から離脱させるために、前記ポールプレートが前記水平方向のスプリングのバネ力に抗して横方向に付勢されている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項5】
請求項1において、
前記ハウジングに受け入れられたカバープレートをさらに備えている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項6】
チェーンテンショナまたはベルトテンショナであって、
穴を有するハウジングと、
前記穴にスライド自在に受け入れられかつ前記穴とで流体チャンバを形成するとともに、その外側に沿って形成された複数の溝を有する中空のピストンと、
前記ピストンを前記穴から外方に付勢するピストンスプリングと、
前記流体チャンバと加圧流体源の間に設けられ、前記流体チャンバ内への流体の流れを許容するとともに逆方向の流体の流れを阻止するチェックバルブと、
前記ピストンの外側に沿って形成された前記複数の溝と係合する、突出したポール背部を含む底部を有するポールプレートとを備え、
前記ポールプレートが、円錐形状のスプリングによって外方に付勢されるとともに、水平方向のスプリングによって横方向に付勢されている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項7】
請求項6において、
前記ピストンの前記複数の溝が、当該ピストンの外方への最大ストロークの位置に段付溝を含んでいる、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項8】
請求項6において、
前記ポールプレートの縁部と連係するスライド面を提供するために、前記ポールプレートおよび前記水平方向のスプリングの間に配置されたリテーナ部材をさらに備えている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項9】
請求項6において、
前記ポールプレートの側に隣接するリセット溝をさらに備えており、前記ピストンがリセットされたとき、前記ポールプレートを前記ピストンの前記溝から離脱させるために、前記ポールプレートが前記水平方向のスプリングのバネ力に抗して横方向に付勢されている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。
【請求項10】
請求項6において、
前記ハウジングに受け入れられたカバープレートをさらに備えている、
ことを特徴とするチェーンテンショナまたはベルトテンショナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−527277(P2008−527277A)
【公表日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551286(P2007−551286)
【出願日】平成18年1月4日(2006.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2006/000073
【国際公開番号】WO2006/078445
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(500124378)ボーグワーナー・インコーポレーテッド (302)
【Fターム(参考)】