説明

ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法

【課題】押圧ブロックの外周面とケーシングのシリンダ部の内周面との接触部で、グリース不足に基づく潤滑不良が生じる事を防止できるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法を提供する。
【解決手段】押圧ブロック21を、素材となる金属粉末を成形する成形工程と、焼結工程とを経て造る。その後、押圧ブロック21の内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させる。その後、押圧ブロック21の外周面にグリースを塗布すると共に、押圧ブロック21をシリンダ部20内に嵌装する。前記潤滑油により前記グリースが押圧ブロック21の内部に吸収される事を防止する事により、前記接触部でグリース不足に基づく潤滑不良が生じる事を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象となる、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットは、自動車の操舵輪に舵角を付与する為に利用する。特に、本発明の製造方法は、ラック歯とピニオン歯との噛合部に予圧を付与する為に使用される、焼結金属製の押圧ブロックの表面と相手面との接触部のグリースによる潤滑状態を、長期間良好に保持できる構造を実現する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
ステアリングホイールから入力された回転運動を舵角付与の為の直線運動に変換する為の機構として従来から、ラックアンドピニオンを使用する、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置が広く知られている。図2〜6は、この様なラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを備えたステアリング装置の1例として、特許文献1に記載されたものを示している。図2に示す様に、このステアリング装置では、ステアリングホイール1の操作に伴って回転するステアリングシャフト2の動きを、自在継手3、3及び中間シャフト4を介して、ステアリングギヤユニット5の入力軸である、ピニオン軸6に伝達する。
【0003】
図3〜4に示す様に、前記ステアリングギヤユニット5は、前記ピニオン軸6の軸方向の一部に設けたピニオン歯7と、ラック軸8の前面に設けたラック歯9とを噛合させて成る。このうちのラック歯9は、図5に略示する様な、捩れ角θを有するものを使用し、これに合わせて前記ピニオン歯7に関しても、同様の捩れ角を有するヘリカルギヤを使用している。前記ピニオン軸6及びラック軸8は、それぞれの一部を、ケーシング10内に収納している。
【0004】
このケーシング10は、それぞれが筒状である、主収納部11及び副収納部12を備える。このうちの主収納部11は、両端が開口している。又、この副収納部12は、この主収納部11の一部側方に設けられていて、一端が開口している。これら主収納部11の中心軸と副収納部12の中心軸とは、互いに捩れの位置関係にある。
【0005】
前記ラック軸8は、前記主収納部11に軸方向の変位を可能に挿通しており、両端部をこの主収納部11から突出させている。又、前記主収納部11の内周面の両端寄り部分に支持した1対のラックガイド(滑り軸受)13、13を、前記ラック軸8の外周面に摺接させて、前記ラック軸8が前記主収納部11に対し、がたつきなく、軸方向に変位できる様にしている。そして、このラック軸8の両端部に、それぞれ球面継手14、14を介して、タイロッド15、15の基端部を結合している。これら両タイロッド15、15の先端部は、それぞれ図示しないナックルアームの先端部に、枢軸により結合している。
【0006】
又、前記ピニオン軸6は、前記ピニオン歯7を形成した先半部を前記副収納部12内に、回転のみ可能に支持している。この為に、前記ピニオン軸6の先端部をこの副収納部12の奥端部に、ラジアルニードル軸受16により支持している。又、前記ピニオン軸6の中間部を前記副収納部12の開口寄り部分に、深溝型、3点接触型若しくは4点接触型等の単列の玉軸受17により、ラジアル荷重及びスラスト荷重を支承可能に(軸方向の変位を阻止して回転可能に)支持している。前記玉軸受17を前記ケーシング10の所定位置に支持する為、このケーシング10に抑えねじ筒18を螺着しており、この抑えねじ筒18の内周面と前記ピニオン軸6の外周面との間の隙間を、シールリング19により塞いでいる。
【0007】
又、前記ケーシング10は、前記主収納部11の直径方向に関して、前記副収納部12と反対側部分に、シリンダ部20を設けている。そして、このシリンダ部20内に押圧ブロック21を、前記ラック軸8に対する遠近動を可能に嵌装している。又、前記シリンダ部20の開口部に蓋体22を螺着すると共に、この蓋体22と前記押圧ブロック21との間に、弾性部材である圧縮ばね23を設ける事で、前記押圧ブロック21を前記ラック軸8の背面に向け押圧している。これにより、このラック軸8を前記ピニオン軸6に向け弾性的に押圧して、前記ピニオン歯7と前記ラック歯9との噛合部に予圧を付与する事により、この噛合部の噛合状態が適正に維持される様にしている。
【0008】
又、図3、4に示す様に、前記押圧ブロック21の軸方向両端面のうち、前記ラック軸8を押圧する側の内端面は、このラック軸8の背面の形状に合わせて部分円筒状凹面としている。そして、この押圧ブロック21の内端面に、ラック受けシート24を添設している。このラック受けシート24は、少なくとも前記ラック軸8の背面と対向する側の表層部を、滑り易い合成樹脂により構成している。前記押圧ブロック21は、この様なラック受けシート24を介して、前記ラック軸の8の背面を押圧している。これと共に、この押圧部をグリースにより潤滑する様にしている。これにより、この押圧部に於ける摺動抵抗を抑える事で、前記押圧ブロック21による、前記ラック軸8の軸方向移動案内を長期に亙り安定して行える様にしている。これに対して、前記押圧ブロック21の外端面は、中央部に凹部25を形成して、前記ばね23の一端部を当接させる為のばね座とすると共に、前記押圧ブロック21の軽量化を図っている。
【0009】
更に、前記押圧ブロック21の外周面の外端寄り部分(前記ラック軸8と反対寄り部分)に係止凹溝26を、全周に亙って形成している。そして、この係止凹溝26の底面と前記シリンダ部20の内周面との間でOリングの如き弾性リング27を、弾性的に圧縮している。これにより、このシリンダ部20内で前記押圧ブロック21ががたつくのを防止すると共に、これらシリンダ部20の内周面と押圧ブロック21の外周面との間の隙間を通じて、前記ケーシング10内に、泥水等の異物が入り込む事を防止している。
【0010】
上述の様なステアリングギヤユニット5を組み込んだステアリング装置の場合、前記ステアリングホイール1の操作に伴い、前記ピニオン軸6が回転すると、前記ピニオン歯7と前記ラック歯9との噛合に基づいて、前記ピニオン軸6の回転運動が前記ラック軸8の直線運動に変換され、このラック軸8が軸方向に変位する。この結果、このラック軸8の両端部に結合した、前記両タイロッド14、14が押し引きされる事に伴い、左右の操舵輪の舵角が変化する。
【0011】
ところで、上述した様なステアリングギヤユニット5の場合、前記ピニオン軸6から前記ラック軸8に動力を伝達する際には、前記ねじり角θの存在に基づいて前記噛合部に作用する、このラック軸8の幅方向(図4に於ける左右方向)の分力や、このラック軸8の背面と前記ラック受けシート24との摺接部に作用する、このラック軸8の軸方向(図4に於ける表裏方向)の摩擦力が、前記押圧ブロック21に対し径方向の力として作用する。この径方向の力の向きは、前記ピニオン軸6の回転方向等によって変化する。何れにしても、前記押圧ブロック21は、この径方向の力によって、前記シリンダ部20内で径方向に変位する傾向となり、前記押圧ブロック21の外周面は、この変位方向の前方で、前記シリンダ部20の内周面に押し付けられた状態となる。
【0012】
又、前記ピニオン軸6から前記ラック軸8に動力を伝達する際には、前記噛合部に作用する力によって、このラック軸8が前記ピニオン軸6から離れる方向に変位する傾向となる。又、自動車の操舵輪が縁石に乗り上げる等により、前記ラック軸8に大きな曲げ荷重が作用した場合には、この曲げ荷重によって、このラック軸8が弾性的に曲げ変形する傾向となる。そして、この様なラック軸8の変位や曲げ変形が生じる事に伴い、前記押圧ブロック21が軸方向(図4に於ける上下方向)に変位する。
【0013】
つまり、自動車の運転時には、前記押圧ブロック21の外周面が前記シリンダ部20の内周面に押し付けられた状態で、この押圧ブロック21が軸方向に変位する状況、即ち、これら押圧ブロック21の外周面と前記シリンダ部20の内周面とが軸方向に強く擦れ合う状況が発生し得る。この為、この様な状況が発生する事に基づいて、前記押圧ブロック21の外周面と前記シリンダ部20の内周面との擦れ合い部で異常摩耗や焼き付きが発生する事を防止する必要がある。この為には、前記ケーシング10をアルミニウム合金製とする一方で、例えば特許文献2に記載されている様に、前記押圧ブロック21を焼結金属製とすると言った様に、これらケーシング10と押圧ブロック21との材質を互いに異ならせる事が考えられる。この様に、擦れ合い部で異種金属同士で接触させると共に、前記押圧ブロック21の外周面と前記シリンダ部20の内周面との接触部をグリースにより潤滑する事が、異常摩耗や焼き付き防止の面から有効である。
【0014】
ところが、上述の様なステアリングギヤユニット5の場合には、前記接触部の一部で、グリースが不足し、潤滑不良に陥る事が懸念される。この理由に就いて、以下に説明する。
前記押圧ブロック21は、成形工程と、焼結工程と、機械加工工程とを経て造られる。このうちの成形工程では、例えば図7に示す様に、素材となる金属粉末を、下型28と上型29との間で軸方向(使用時に前記ラック軸8の背面に対し遠近動する方向で、図7の上下方向)に圧縮する事により、最終形状に近い形状{図示の例では、前記係止凹溝26(図4、6)以外の部分の全体形状}を有する成形体30を得る。又、前記焼結工程では、この成形体30を、所定の加熱条件で加熱して焼結させる。更に、前記機械加工工程では、この焼結後の成形体30に、前記係止凹溝26を形成する為の切削加工等を施す。
【0015】
上述した成形工程では、前記金属粉末を軸方向に圧縮する事により、前記成形体30を造るが、この様にして造られる成形体30の軸方向寸法は、軸方向に対し直角な方向である、図7の左右方向に関して、不均一になっている。具体的には、この左右方向の両端部分(A部分)で軸方向寸法が比較的大きくなっており、同じく中間部分(B部分)で比較的小さくなっている。この為、この中間部分(B部分)では、前記金属粉末の圧縮比が比較的大きくなり、結果として、密度が比較的高くなる。その反面、前記両端部分(A部分)では、前記金属粉末の圧縮比が比較的小さくなり、結果として、密度が比較的低くなる。この結果、完成後の押圧ブロック21に関しても、軸方向寸法が比較的小さい、図4、6の左右方向両端部分(B部分)では、多孔質材である焼結金属の密度が比較的高くなる。その反面、軸方向寸法が比較的大きい、図4、6の左右方向両端部分(A部分)では、焼結金属の密度が比較的低くなり、その金属組織には、ピンホールやブローホールと言った空孔が多くなる形状的特徴がある。
【0016】
一方、前記ステアリングギヤユニット5を組み立てる際には、前記押圧ブロック21の外周面と、この押圧ブロック21の外端面に添着固定した前記ラック受けシート24の表面とに、それぞれグリースを塗布した状態で、前記押圧ブロック21を前記シリンダ部20に嵌装する。これにより、使用時に、これら押圧ブロック21の外周面とシリンダ部20の内周面との接触部、及び、前記ラック受けシート24の表面と前記ラック軸8の背面との接触部を、グリース潤滑できる様にしている。
【0017】
しかしながら、前記押圧ブロック21を構成する焼結金属の密度は、上述の如く、各部位毎に不均一になっている為、この密度が比較的低い部分(図4、6のA部分)では、毛細管現象により、グリース(特に基油)が内部に吸収され易い。そして、この様なグリースの吸収が起こる事により、前記押圧ブロック21の外周面と前記シリンダ部20の内周面との接触部の一部(特に、図4、6のA部分に対応する部分)でグリースが不足し、潤滑不良に陥る事が懸念される。この様な潤滑不足に陥った場合には、この潤滑不足に陥った部分で、擦れ合いに基づく、異音や異常摩耗等が発生する可能性がある為、好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2009−184591号公報
【特許文献2】特開2004−210078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、押圧ブロックの外周面とケーシングのシリンダ部の内周面との接触部で、グリース不足に基づく潤滑不良が生じる事を防止できる構造を得られる製造方法を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の製造方法の対象となる、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットは、前述した従来から知られているラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットと同様に、ケーシングと、ラック軸と、ピニオン軸と、押圧ブロックと、例えば圧縮コイルばね等の弾性部材とを備える。
そして、前記押圧ブロックの、前記ラック軸に対する遠近動方向の寸法が、この遠近動方向に直角な方向に関して不均一になっていると共に、この押圧ブロックの外周面と前記シリンダ部の内周面との接触部を、グリースにより潤滑している。
【0021】
この様なラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを対象とする、本発明の製造方法は、前記押圧ブロックを、素材となる金属粉末を前記ラック軸に対する遠近動方向に圧縮して成形する成形工程と、この成形工程で得られた成形品を加熱して焼結させる焼結工程とを経て造る。その後、前記押圧ブロックの内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させる。即ち、この真空含浸法により、この押圧ブロックの内部に存在する空孔のうち、表面(外部空間)と通じている総ての空孔を、前記潤滑油で充填された状態とする。その後、この押圧ブロックの外周面に前記グリースを塗布する。
【0022】
又、本発明を実施する場合で、対象となるラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットが、前記押圧ブロックの端面と前記ラック軸の背面とを、他の部材を介する事なく接触させると共に、この接触部をグリースにより潤滑するものである場合には、請求項2に記載した発明に係る製造方法の様に、前記押圧ブロックを、前記成形工程と前記焼結工程とを経て造った後、この押圧ブロックの内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させ、その後、この押圧ブロックの端面に前記グリースを塗布する。
【発明の効果】
【0023】
上述の様な構成を有する本発明のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法によれば、押圧ブロックを構成する焼結金属の密度が、各部位毎に不均一になるものの、この押圧ブロックには、表面(請求項1に記載した発明の場合には、外周面。請求項2に記載した発明の場合には、外周面及び端面)にグリースが塗布されるよりも先に、内部に潤滑油が含浸される。この為、ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの使用時に、前記押圧ブロックの表面と相手面(請求項1に記載した発明の場合には、シリンダ部の内周面。請求項2に記載した発明の場合には、シリンダ部の内周面及びラック軸の背面)との接触部を潤滑する前記グリースが、前記押圧ブロックの内部に吸収される事を防止できる。従って、当該接触部で、グリース不足に基づく潤滑不良が生じる事を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す、図4と同様の図。
【図2】ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットを組み込んだ自動車用操舵装置の1例を示す部分切断側面図。
【図3】図2のX−X断面図。
【図4】図3の拡大Y−Y断面図。
【図5】ラック軸を取り出して図3の上方から見た状態で示す略図。
【図6】押圧ブロックのみを取り出して示す斜視図。
【図7】押圧ブロックを製造する際の成形工程を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施の形態の1例に就いて、図1(更に、必要に応じて前述した図3〜7)を参照しつつ説明する。本例の場合、製造対象となるステアリングギヤユニット5aは、図1に示す様な構造を有するものである。このステアリングギヤユニット5aは、ラック受けシート24(図4)を有しておらず、押圧ブロック21の内端面によりラック軸8の背面を直接押圧すると共に、これら内端面と背面との接触部をグリースにより潤滑している点、並びに、前記押圧ブロック21の内部に潤滑油(この押圧ブロック21の表面に塗布するグリースの基油とは別のもの)を含浸させている点が、前述の図3〜5に示した従来のステアリングギヤユニット5と異なる。その他の部分の構造及び作用は、この従来のステアリングギヤユニット5の場合と同様である。
【0026】
本例の場合、上述の様なステアリングギヤユニット5aを製造する場合には、前述した従来の場合と同様の手順で、前記押圧ブロック21を造る。即ち、例えば図7に示す様に、素材となる金属粉末を、下型28と上型29との間で軸方向(使用時に前記ラック軸8の背面に対し遠近動する方向で、図7の上下方向)に圧縮する事により、最終形状に近い形状{図示の例では、前記係止凹溝26(図4、6)以外の部分の全体形状}を有する成形体30を得る工程(成形工程)と、この成形体30を、所定の加熱条件で加熱して焼結させる工程(焼結工程)と、この焼結後の成形体30に、係止凹溝26を形成する為の切削加工等を施す工程(機械加工工程)とを経て、前記押圧ブロック21を造る。
【0027】
尚、前記成形工程で使用する成形装置としては、例えば、400〜800MPaの成形圧力を発生する機械式又は油圧式の粉末冶金用プレスを使用する事ができる。又、この粉末冶金用プレスとしては、例えば、毎分25個程度までの高い生産性で複雑形状部品を1工程で成形できるものを、好適に使用する事ができる。前記成形工程では、所定の密度と形状とを得て、最終的な強度や寸法は、前記焼結工程で得られる。
又、前記焼結工程は、前記成形体30に強度を付与する熱処理工程である。この焼結工程では、この成形体30を、制御された温度と雰囲気で加熱するが、この際の加熱温度は、前記金属粉末に含まれる主たる金属の融点以下とする。この主たる金属が鉄をベースとした合金系の場合、一般的な焼結温度は1100〜1150℃であり、材質及び大きさにより15分から60分焼結を行う。
【0028】
何れにしても、上述の様にして造った押圧ブロック21に関しては、前述した従来の場合と同様、軸方向寸法が比較的小さい、図1(及び図6)の左右方向中間部分(B部分)では、焼結金属の密度が比較的高くなる。その反面、軸方向寸法が比較的大きい、図1(及び図6)の左右方向両端部分(A部分)では、焼結金属の密度が比較的低くなり、その金属組織には、ピンホールやブローホールと言った空孔が多くなる形状的特徴がある。
【0029】
そこで、本例の場合には、上述の様にして押圧ブロック21を造った後、この押圧ブロック21の内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させる。即ち、この真空含浸法により、この押圧ブロック21の内部に存在する空孔のうち、表面(外部空間)と通じている総ての空孔を、前記潤滑油で充填された状態とする。その後、前記押圧ブロック21の係止凹溝26に弾性リング27を係止すると共に、この押圧ブロック21の外周面及び内端面にグリースを塗布する。そして、この状態で、図1に示す様に、前記押圧ブロック21をケーシング10のシリンダ部20内に嵌装すると共に、他の構成部材を組み立てる事により、前記ステアリングギヤユニット5aを完成させる。
尚、本例の製造方法を実施する場合、前記押圧ブロック21の表面に塗布するグリースの基油と、この押圧ブロック21の内部に含浸させる潤滑油とは、それぞれゴム、樹脂に対し影響の少ないポリグリコール係合製油や、合成炭化水素油等を用いると共に、相互に影響しない相性の良いものを用いる。
【0030】
上述した様な本例のラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法によれば、前記押圧ブロック21を構成する焼結金属の密度が、各部位毎に不均一になるものの、この押圧ブロック21には、外周面及び内端面にグリースが塗布されるよりも先に、内部に潤滑油が含浸される。この為、前記ステアリングギヤユニット5aの使用時に、前記押圧ブロック21の外周面及び内端面と、前記シリンダ部20の内周面及び前記ラック軸8の背面との接触部を潤滑する前記グリースが、前記押圧ブロック21の内部に吸収される事を防止できる。従って、これら各接触部で、グリース不足に基づく潤滑不良が生じる事を防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
上述した実施の形態では、押圧ブロックの内端面によりラック軸の背面を直接押圧する構造のステアリングギヤユニットを製造対象としたが、本発明の製造方法を実施する場合には、押圧ブロックの内端面によりラック軸の背面を、この押圧ブロックの内端面に添着したラック受けシートを介して押圧する構造のステアリングギヤユニットを製造対象とする事もできる。この場合には、前記押圧ブロックを造った後、この押圧ブロックの内端面に前記ラック受けシートを添着する(更に、この押圧ブロックの外周面に弾性リングを係止する為の係止凹溝が存在する場合には、この係止凹溝にこの弾性リングを係止する)と共に、前記押圧ブロックの外周面及び前記ラック受けシートの表面にグリースを塗布する。そして、この状態で、この押圧ブロックをケーシングのシリンダ部内に嵌装する。
【0032】
尚、無給油で使用される軸受の一種として従来から、所定形状の焼結金属の内部に潤滑油を含浸させて成る、含油軸受が知られている。この含油軸受は、運転時の温度上昇で膨張する事により、内部から表面に滲出した潤滑油によって、摺動部に潤滑作用をもたらすものである。一方、本発明の製造方法により造られるステアリングギヤユニットの場合、押圧ブロックは、焼結金属製であると共に、内部に潤滑油を含浸させた状態で使用されるものの、その作動条件から、運転時の温度上昇はあまり期待できない。この為、上述した含油軸受と同様の原理で摺動部に潤滑作用をもたらす事も、あまり期待できない。この摺動部の潤滑作用は、主として前記押圧ブロックの表面に塗布されたグリースによってもたらされる事になる。即ち、本発明の製造方法により造られるステアリングギヤユニットの場合、前記押圧ブロックの内部に含浸させた潤滑油は、主として表面に塗布されたグリースが内部に吸収されるのを防止する為に利用されるものであり、この点で、当該潤滑油の役割が、上述した含油軸受の場合とは異なる。
【符号の説明】
【0033】
1 ステアリングホイール
2 ステアリングシャフト
3 自在継手
4 中間シャフト
5、5a ステアリングギヤユニット
6 ピニオン軸
7 ピニオン歯
8 ラック軸
9 ラック歯
10 ケーシング
11 主収納部
12 副収納部
13 ラックガイド
14 球面継手
15 タイロッド
16 ラジアルニードル軸受
17 玉軸受
18 抑えねじ筒
19 シールリング
20 シリンダ部
21 押圧ブロック
22 蓋体
23 ばね
24 ラック受けシート
25 凹部
26 係止凹溝
27 弾性リング
28 下型
29 上型
30 成形体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口した筒状の主収納部、及び、この主収納部に対し捩れの位置関係で設けられて一端が開口した筒状の副収納部、及び、この主収納部の内外を連通させる状態でこの主収納部に対し直交する方向に設けられたシリンダ部を有するケーシングと、前面にラック歯を設け、前記主収納部内に軸方向の変位を可能に設置されたラック軸と、軸方向の先半部に形成したピニオン歯を前記ラック歯と噛合させると共に軸方向の基半部を前記副収納部の開口部から外に突出させた状態でこの副収納部内に、回転可能に配置されたピニオン軸と、前記シリンダ部内に、前記ラック軸に対する遠近動を可能に嵌装された押圧ブロックと、この押圧ブロックと前記シリンダ部の外端開口部に固設された蓋体との間に設けられ、この押圧ブロックを前記ラック軸の背面に向けて押圧する弾性部材とを備え、この押圧ブロックの、前記ラック軸に対する遠近動方向の寸法が、この遠近動方向に直角な方向に関して不均一になっていると共に、この押圧ブロックの外周面と前記シリンダ部の内周面との接触部をグリースにより潤滑しているラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法であって、前記押圧ブロックを、素材となる金属粉末を前記ラック軸に対する遠近動方向に圧縮して成形する成形工程と、この成形工程で得られた成形品を加熱して焼結させる焼結工程とを経て造った後、前記押圧ブロックの内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させ、その後、この押圧ブロックの外周面に前記グリースを塗布する事を特徴とするラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法。
【請求項2】
製造対象である前記ラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットが、前記押圧ブロックの端面と前記ラック軸の背面とを、他の部材を介する事なく接触させると共に、この接触部をグリースにより潤滑しているものであり、
前記押圧ブロックを、前記成形工程と前記焼結工程とを経て造った後、この押圧ブロックの内部に潤滑油を、真空含浸法により含浸させ、その後、この押圧ブロックの端面に前記グリースを塗布する、
請求項1に記載したラックアンドピニオン式ステアリングギヤユニットの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−43496(P2013−43496A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181183(P2011−181183)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】