説明

ラック軸支持装置および車両用操舵装置

【課題】長期にわたって騒音の発生を抑制できるラック軸支持装置を提供する。
【解決手段】ラック軸支持装置13が、ラックハウジング10の内周10aの内周支持面26によって、内周支持面26の第1支持中心C1回りに回転可能に支持された偏心カム27を備える。偏心カム27は、第1支持中心C1と同心の外周被支持面32と、ラック軸8の外周8bと同心であって第1支持中心C1に対して偏心した第2支持中心C2を有する内周カム面33とを含む。弾性付勢部材28が偏心カム27を第1支持中心C1回りの所定の回転方向Y1に弾性的に付勢する。弾性付勢部材28の付勢力によって、偏心カム27を介してラック軸8をピニオン軸7側に押し付け、バックラッシを除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラック軸支持装置および車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラックアンドピニオン式のステアリング装置において、ラック軸の径方向に進退する直動型のラックガイド(サポートヨークともいう)を用いて、ラック軸を軸方向に移動可能に支持する構造のラック軸支持装置が一般的に使用されている。
そのラック軸支持装置は、ラックハウジングから直交状に突出するハウジングに設けられた保持孔に、保持孔の深さ方向(ラック軸の径方向に相当)に摺動可能な前記ラックガイドと、そのラックガイドを保持孔の深さ方向に付勢する圧縮コイルばねとを収容している。圧縮コイルばねにより付勢されたラックガイドが、ラック軸をピニオン軸側へ押圧しつつ、ラック軸を軸方向に摺動可能に支持している。
【0003】
しかしながら、悪路走行時等において、車輪からの入力により、ラック軸がラックガイドの進退方向に振動すると、ラック軸とラックガイドとが一瞬離れるような動きが生じてしまう。このため、ラックとピニオンの噛合部で歯打ち音が発生したり、がたつきを生じたラックガイドが保持孔内の各部と衝突し、ラトル音等の打音を発生する。
また、据え切り操舵時において、保持孔内で傾倒したラックガイドが、保持孔の内周に引っ掛かる状態となり、次いで、その引っ掛かりが外れて、ラックガイドが急に摺動を開始するときに(いわゆるスティックスリップ現象)、ラックガイドが保持孔内の各部と衝突し、打音(いわゆるコク音であり、スティックスリップ音)を発生する。
【0004】
一方、特許文献1では、ハウジングに支持され、ラック軸を挿通させたラックアダプタによってラック軸を支持するラック軸支持装置が提案されている。前記ラックアダプタは、ハウジングに支持される外周被支持部と、ラック軸を支持する内周支持部とを備えており、外周被支持部の支持中心に対して内周支持部の支持中心が、偏心して配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−264234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ラックアダプタの回転位置を調整することにより、ラックとピニオンのバックラッシを適度な量に設定し、その後、ラックアダプタのフランジの長孔を挿通させた固定ねじを、ハウジングの端面のねじ孔にねじ込むことにより、バックラッシ調整後のラックアダプタの回転位置を固定している。
このようにラックアダプタの位置が固定されているので、長期の使用によって、ラックアダプタの内周支持部とラック軸との間の摺動部分が摩耗すると、バックラッシの量が増大し、ラックとピニオンの噛合部において、打音による騒音を発生するという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、長期にわたって騒音の発生を抑制することができるラック軸支持装置およびこれを含む車両用操舵装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、操舵に伴って回転するピニオン軸(7)と噛み合って直線運動をするラック軸(8)を支持するラック軸支持装置(13)において、前記ラック軸が挿通された筒状のハウジング(10)と、そのハウジングの内周(10a)に設けられ、第1支持中心(C1)を有する内周支持面(26;26A)と、その内周支持面によって前記第1支持中心回りに回転可能に支持され、ラック軸の直線運動を案内するラックガイドとしての偏心カム(27;27A)と、その偏心カムを前記第1支持中心回りの所定の回転方向(Y1)に弾性的に付勢することにより、偏心カムを介してラック軸をピニオン軸側に押し付ける弾性付勢部材(28;28A)と、を備え、前記偏心カムは、前記第1支持中心と同心の外周被支持面(32;32A)と、ラック軸の外周(8b)と同心であって前記第1支持中心に対して偏心した第2支持中心(C2)を有する内周カム面(33;33A)と、を含むラック軸支持装置を提供する。
【0009】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2のように、前記偏心カムは、周方向の所定領域(273)を含み、偏心カムの前記所定領域は、ラック軸に対してピニオン軸とは反対側に配置され、偏心カムの径方向の厚み(t)が、前記所定領域から前記所定の回転方向とは反対方向(Y2)に向かうにしたがって厚くされていてもよい。
【0010】
また、請求項3のように、前記偏心カムの前記内周カム面に、摩擦低減部(36;36A)が設けられていてもよい。
また、請求項4のように、前記ハウジングは、ピニオン軸に相対的に近い第1端部(11)と、ピニオン軸から相対的に遠い第2端部(12)と、を含み、前記偏心カムは、前記第2端部とピニオン軸との間の中央位置(PC)から、前記第1端部までの間の所定位置に配置されていてもよい。
【0011】
また、請求項5のように、前記偏心カムは、前記第1端部に配置されていてもよい。
また、請求項6のように、前記偏心カムを前記ハウジングの軸方向に位置決めする位置決め面(29,31)を含む位置決め部材(10,30)を備え、前記偏心カムは、前記位置決め面によって位置決めされる被位置決め面(271,272)を含み、前記位置決め面および前記被位置決め面の何れか一方に、摩擦低減部(371,372)が設けられていてもよい。
【0012】
また、請求項7の発明は、前記に記載のラック軸支持装置によって、ラック軸を支持した車両用操舵装置(1)を提供する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、ハウジングの内周支持面によって回転可能に支持されたラックガイドとしての偏心カムを、弾性付勢部材によって、前記内周支持面の第1支持中心回りの所定の回転方向に弾性的に付勢する。この弾性付勢部材の弾性付勢力によって、偏心カムを介してラック軸をピニオン軸側に、常に押し付けておくことができるので、ピニオンとラックとの間のバックラッシを長期にわたってゼロに維持することができる。しかも、従来のようなラック軸の径方向に直線運動する直動ラックガイド(サポートヨーク)を用いないので、直動ラックガイド(サポートヨーク)の倒れに起因するスティックスリップ音等の発生のおそれもない。したがって、長期にわたって、静粛性を維持することができる。
【0014】
なお、括弧内の英数字は、後述する実施形態における対応構成要素等を表すが、このことは、むろん、本発明がそれらの実施形態に限定されるべきことを意味するものではない。以下、この項において同じ。
また、請求項2の発明によれば、長期の使用で、偏心カムの内周支持面とラック軸との摺動部分に摩耗が生じた場合に、弾性付勢部材の働きで、偏心カムが前記所定の回転方向に回転変位される。これにより、ラック軸に対してピニオン軸とは反対側に配置されてい、偏心カムの所定領域において、径方向の厚みを一定に維持することができる。したがって、摩耗発生に拘らず、長期にバックラッシをゼロに維持しておくことができる。
【0015】
また、請求項3の発明によれば、偏心カムの内周カム面に摩擦低減部が設けられているので、偏心カムの回転摩擦抵抗が小さくなり、その結果、バックラッシをゼロに維持するための偏心カムの回転運動をスムーズに行わせることができる。また、長期に使用しても、内周カム面とラック軸との摺動部分に摩耗が発生し難くなる。
また、請求項4の発明によれば、ラック軸の支持が、ハウジングの第2端部に通例配置されるラックブッシュと、ラック軸を例えば第1径方向に支持するピニオン軸と、ラック軸を第1径方向の反対方向である第2径方向に支持する当該偏心カムとを用いた3点支持となる。ここで、偏心カムが、前記第2端部とピニオン軸との間の中央位置から、ハウジングの第1端部までの間に配置されているので、ピニオン軸がハウジングの第1端部に相対的に近い位置に配置されることになり、所定の回転方向に弾性付勢された偏心カムによって、ラック軸をピニオン軸側へ良好に押し付けることができる。
【0016】
また、請求項5の発明によれば、従来、ハウジングの第1端部に配置されていたラックブッシュを廃止し、偏心カムによってラックブッシュの機能を兼用することができるので、構造を簡素化することができる。
また、請求項6の発明によれば、位置決め部材の位置決め面によって、偏心カムをハウジングの軸方向に位置決めすることができる。また、位置決め面および偏心カムの被位置決め面の何れか一方に、摩擦低減部が設けられているので、バックラッシをゼロに維持するための偏心カムの回転運動をスムーズに行わせることができる。
【0017】
また、請求項7の発明によれば、長期にわたって騒音の発生を抑制することができる車両用操舵装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態のラック軸支持装置を含む、ラックアンドピニオン式の車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】ラック軸支持装置の断面図である。
【図3】図2のIII −III 線に沿う断面図である。
【図4】ラック軸の支持構造を示す模式図である。
【図5】本発明の別の実施形態のラック軸支持装置の断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施の形態のラック軸支持装置の要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態のラック軸支持装置が適用された車両用操舵装置の概略構成図である。図1を参照して、車両用操舵装置としての電動パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結された操舵軸3と、操舵軸3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7に設けられたピニオン7aに噛み合うラック8aを軸方向X1の適長に形成して軸方向X1(自動車の左右方向)に延びる転舵軸としてのラック軸8とを備えている。ピニオン軸7およびラック軸8により、ラックアンドピニオン機構からなる転舵機構Aが構成されている。
【0020】
ラック軸8は、車体9に固定された筒状のラックハウジング10に挿通されている。ラックハウジング10は、第1端部11と第2端部12とを有している。ラック軸8は、ラックハウジング10の第1端部11に保持されたラック軸支持装置13と、第2端部12に保持されたラックブッシュ14とによって、軸方向X1に移動可能に支持されている。ラック軸支持装置13は、ラック軸8を支持するラックブッシュの機能と、ピニオン7aおよびラック8aのバックラッシを除去する機能を果たしている。
【0021】
ピニオン軸7は、ラックハウジング10の第1端部11近傍に交叉するピニオンハウジング50の内部に延び、ピニオンハウジング50の内部において、前記のピニオン7a を一体に形成している。ピニオン軸7は、ピニオンハウジング50によって図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。ピニオンハウジング50とラックハウジング10との交叉部において、ピニオン7aとラック8aとが噛み合わされている。
【0022】
ラック軸8の両端部はラックハウジング10の両側へ突出し、各端部にはそれぞれタイロッド15が結合されている。各タイロッド15は対応するナックルアーム(図示せず)を介して対応する転舵輪16に連結されている。
操舵軸3は、車体9にブラケット17を介して固定された筒状のコラムハウジング18によって、図示しない軸受を介して回転可能に支持されている。操舵軸3は、操舵部材2に連結された操舵入力軸3aと、中間軸5に連結された操舵出力軸3bとを含む。操舵入力軸3aと操舵出力軸3bとは、トーションバー19を介して同一軸線上で相対回転可能に連結されている。操舵軸3の周囲に配置されたトルクセンサ20は、操舵入力軸3aおよび操舵出力軸3bの相対回転変位量に基づいて、操舵部材2に入力された操舵トルクを検出する。
【0023】
電動パワーステアリング装置1は、操舵補助用の電動モータ21と、電動モータ21の出力トルクを転舵機構Aに伝達するための伝達機構としての減速機構22とを含む。減速機構22は、電動モータ21により回転駆動される駆動ギヤとしてのウォーム23と、このウォーム23に噛み合うと共に、操舵出力軸3bに一体回転可能に連結された被動ギヤとしてのウォームホイール24とを備えている。
【0024】
操舵部材2が操作されて操舵軸3が回転されると、この回転がピニオン7aおよびラック8aによって、ラック軸8の軸方向X1の直線運動に変換される。これにより、転舵輪16の転舵が達成される。また、トルクセンサ20によるトルク検出結果および図示しない車速センサからの車速検出結果が、ECU(Electronic Control Unit)25に与えられ、これらの検出結果に基づいてECU25が、電動モータ21を駆動制御する。これにより、減速機構22を介して操舵出力軸3bが回転駆動され、操舵が補助される。
【0025】
図2は、ラック軸支持装置の拡大断面図であり、図3は図2のIII −III 線に沿う断面図である。図2に示すように、ラック軸支持装置13は、ハウジング10の内周10aに設けられ、第1支持中心C1を有する内周支持面26と、内周支持面26によって第1支持中心C1回りに回転可能に支持された筒状の偏心カム27を備えている。偏心カム27は、ラック軸8の軸方向X1の直線運動を案内するラックガイドとして機能する。
【0026】
また、図3に示すように、ラック軸支持装置13は、偏心カム27を所定の回転方向Y1に弾性的に付勢する弾性付勢部材28を備えている。弾性付勢部材28は、偏心カム27を支持中心C1回りの所定の回転方向Y1に弾性的に付勢することにより、偏心カム27を介してラック軸8をピニオン軸7側に押し付ける働きをする。弾性付勢部材28の付勢方向は、所定の回転方向Y1に相当する。
【0027】
図2に示すように、偏心カム27は、ラックハウジング10の内周10aに形成された環状段部からなる第1位置決め面29と、ラックハウジング10の第1端部11の内周10aのねじ部10bに螺合されたねじからなる環状のストッパ30の端面からなる第2位置決め面31との間に配置されている。両位置決め面29,31によって、偏心カム27の軸方向移動が規制されている。
【0028】
偏心カム27は、ラックハウジング10の第1位置決め面29に対向する一端面からなる第1被位置決め面271と、ストッパ30の第2位置決め面31に対向する他端面からなる第2被位置決め面272とを有している。
偏心カム27の各被位置決め面271,272は、対応する位置決め面29,31に対して緩く当接しているか、或いは微小な隙間を設けて対向している。したがって、第1位置決め面29やストッパ30が偏心カム27の回転に与える抵抗が、小さく抑えられている。
【0029】
図3に示すように、偏心カム27は、第1支持中心C1と同心の円筒面からなる外周被支持面32と、内周カム面33とを備えている。内周カム面33は、ラック軸8の外周8bと同心であって且つ第1支持中心C1に対して偏心した第2支持中心C2を有する円筒面からなる。
偏心カム27は、外周被支持面32から径方向外方へ突出する突起34を備えている。突起34は、ラックハウジング10の内周支持面26に設けられた凹部35内に延びている。偏心カム27の回転に伴って突起34が、凹部35内を変位可能である。凹部35の内側面により構成された座部351と突起34との間に、前記の弾性付勢部材28が介在している。弾性付勢部材28は、例えば圧縮コイルばねからなり、突起34を介して偏心カム27を所定の回転方向Y1に弾性付勢する。
【0030】
また、偏心カム27は、周方向の所定領域273を含む。偏心カム27の所定領域273は、ラック軸8に対してピニオン軸7とは反対側に配置されている。すなわち、偏心カム27の所定領域273とピニオン軸7との間に、ラック軸8が配置されている。
偏心カム27の径方向(第1支持中心C1を中心とする径方向)の厚みtが、所定領域273から所定の回転方向Y1(弾性付勢部材28の付勢方向に相当)とは反対方向Y2に向かうにしたがって厚くされている。すなわち、所定領域273での厚みt1よりも、前記反対方向Y2に例えば所定距離だけ離隔した領域274での厚みt2が厚くされている(t1<t2)。これにより、弾性付勢部材28の弾性付勢によって、偏心カム27を介して、ラック軸8をピニオン軸7側へ押し付けることが実質的に可能となる。
【0031】
第1支持中心C1およびピニオン軸7の中心軸線C3の双方に直交する方向Z1に関しての、第1支持中心C1および第2支持中心C2のオフセット量e1が、ラック軸8をピニオン軸7側へ押し付ける量に相当する。オフセット量e1の最大値は、第1支持中心C1に対する第2支持中心C2の偏心量eであるが、長期の使用で摩耗等が生じても、オフセット量e1が偏心量eに達しないように、オフセット量e1の初期値が設定されている。具体的には、偏心カム27の回転角度位置の初期値が設定されている。
【0032】
また、偏心カム27の内周カム面33に、摩擦低減部36が設けられている。摩擦低減部34は、内周カム面33に貼り付けられたフッ素樹脂等の低摩擦シートであってもよいし、また、内周カム面33に被覆されたフッ素樹脂層等の低摩擦層であってもよい。
本実施の形態によれば、ラックハウジング10の内周支持面26によって回転可能に支持されたラックガイドとしての偏心カム27を、弾性付勢部材28によって、内周支持面26の第1支持中心C1回りの所定の回転方向Y1に弾性的に付勢する。
【0033】
この弾性付勢部材28の弾性付勢力によって、偏心カム27を介してラック軸8をピニオン軸7側に、常に押し付けておくことができるので、ピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシを長期にわたってゼロに維持することができる。しかも、従来のようなラック軸の径方向に直線運動する直動ラックガイド(サポートヨーク)を用いないので、当該直動ラックガイド(サポートヨーク)の倒れに起因するスティックスリップ音等の発生のおそれもない。したがって、長期にわたって、静粛性を維持することができるラック軸支持装置13および電動パワーステアリング装置1を実現することができる。
【0034】
また、ラック軸8に対してピニオン軸7とは反対側に、偏心カム27の所定領域273が配置されている。すなわち、偏心カム27の所定領域273とピニオン軸7との間にラック軸8が配置されている。偏心カム27の径方向の厚みtが、所定領域273から所定の回転方向Y1とは反対方向Y2に向かうにしたがって厚くされている。これにより下記の利点がある。
【0035】
すなわち、長期の使用で、偏心カム27の内周カム面33(本実施の形態では、内周カム面33に設けられた摩擦低減部36)とラック軸8との摺動部分に摩耗が生じた場合に、弾性付勢部材28の働きで、偏心カム27が所定の回転方向Y1に回転変位される。これにより、ラック軸8に対してピニオン軸7とは反対側に配置されている、偏心カム27の所定領域273において、径方向の厚みt1を一定に維持することができる。したがって、摩耗発生に拘らず、長期にバックラッシをゼロに維持しておくことができる。
【0036】
また、偏心カム27の内周カム面33に摩擦低減部36が設けられているので、偏心カム27の回転摩擦抵抗が小さくなる。したがって、バックラッシをゼロに維持するための偏心カム27の回転運動をスムーズに行わせることができる。また、長期に使用しても、内周カム面33(本実施の形態では摩擦低減部36)とラック軸8との摺動部分に摩耗が発生し難くなる。また、偏心カム27を弾性付勢する弾性付勢部材28を小型にすることができ、ひいてはラック軸支持装置13を小型化することができる。
【0037】
また、偏心カム27がラックハウジング10の第1端部11に配置されて、ラック軸8を支持するので、従来、ラックハウジング10の第1端部11に配置されていたラックブッシュを廃止することができる。すなわち、偏心カム27によってラックブッシュの機能と、ピニオン7aおよびラック8aの間のバックラッシを除去する機能とを兼用することができるので、構造を簡素化することができる。
【0038】
また、模式図である図4に示すように、ラック軸8の支持が、ラックハウジング10の第2端部12に配置されラック軸8を径方向の全方向に支持するラックブッシュ14と、ラック軸8を第1径方向R1に支持するピニオン軸7と、ラック軸8を第1径方向R1の反対方向である第2径方向R2に支持する偏心カム27とを用いた3点支持となる。
そして、ラック軸支持装置13の偏心カム27は、ピニオン軸7の位置P1とラックブッシュ14の位置P2(第2端部12の位置に相当)との間の中央位置PCから、ラックハウジング10の第1端部11の位置P3までの間の配置領域Q内の所定位置に配置されていればよい。
【0039】
これにより、偏心カム27がピニオン軸7に比較的に近い位置に配置されることになるので、所定の回転方向Y1に弾性付勢された偏心カム27によって、ラック軸8をピニオン軸7側へ良好に押し付けることができるからである。なお、本実施の形態は、ラック軸支持装置13がラックハウジング10の第1端部11の位置P3に配置された例に則して説明した。
【0040】
図5は本発明の別の実施の形態を示している。前記実施の形態では、偏心カム27がラック軸8の全周を取り囲んでいたが、本実施の形態のラック軸支持装置13Aでは、ラック軸8の周方向の略半分に配置された偏心カム27Aを用いている。
偏心カム27Aは、第1支持中心C1と同心の円筒面の一部からなる外周被支持面32Aと、内周カム面33Aとを備えている。内周カム面33Aは、ラック軸8の外周8bと同心であって且つ第1支持中心C1に対して偏心した第2支持中心C2を有する円筒面の一部からなる。内周カム面33Aには、例えば、フッ素樹脂等の低摩擦シートからなる摩擦低減部36Aが設けられている。
【0041】
ハウジング10の内周支持面26Aは、周方向に関して、偏心カム27Aの配置領域よりも広い領域に配置されている。内周支持面26Aは、偏心カム27Aの回転方向の移動範囲をカバーする必要があるからである。
また、弾性付勢部材28Aは、ハウジング10の内周10aの一部を突出して設けられた座部10cと、座部10cに対向する偏心カム27Aの周方向の一方の端面275との間に介在している。本実施の形態の構成において、図3の実施の形態の構成と同じ構成には、図3の実施の形態の参照符号と同じ参照符号を付してある。
【0042】
本実施の形態においても、図3の実施の形態と同じく、ピニオン7aとラック8aとの間のバックラッシを長期にわたってゼロに維持することができ、長期にわたって、静粛性を維持することができるラック軸支持装置13Aおよび電動パワーステアリング装置を実現することができる。
また、偏心カム27Aがラック軸8の全周を取り囲んでいないので、ラック軸8に対して偏心カム27Aを組み付け易く、組立て性が向上する。したがって、製造コストを安くすることができる。
【0043】
本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、例えば、図6に示すように、偏心カム27の第1被位置決め面271およびラックハウジング10の第1位置決め面29の何れか一方(図6では、第1被位置決め面271)に、フッ素樹脂等の低摩擦シートまたは低摩擦層により構成された摩擦低減部371が設けられていてもよい。また、偏心カム27の第2被位置決め面272およびストッパ30の第2位置決め面31の端面の何れか一方(図6では、第2被位置決め面272)に、フッ素樹脂等の低摩擦シートまたは低摩擦層により構成された摩擦低減部372が設けられていてもよい。この場合、偏心カム27の回転抵抗をより低減することができる。また、位置決め面および被位置決め面の摩耗を低減することができ、長期の使用で、偏心カム27が軸方向にガタついたりすることを防止することができる。
【0044】
また、図示していないが、ストッパ30を廃止し、ラックハウジング10を外周からかしめて内周10aに突起を膨出させ、膨出された突起と位置決め段部からなる第1位置決め面29とによって、偏心カム27の軸方向移動を規制するようにしてもよい。
また、車両用操舵装置としては、電動パワーステアリング装置1に限らず、マニュアルステアリングであってもよいし、油圧式のパワーステアリング装置であってもよい。その他、本発明の特許請求の範囲で種々の変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0045】
1…電動パワーステアリング装置(車両用操舵装置)、2…操舵部材、7…ピニオン軸、7a…ピニオン、8…ラック軸、8a…ラック、8b…外周、10…ラックハウジング、10a…内周、11…第1端部、12…第2端部、13;13A…ラック軸支持装置、14…ラックブッシュ、26;26A…内周支持面、27;27A…偏心カム、271…第1被位置決め面、272…第2被位置決め面、273…所定領域、28;28A…弾性付勢部材、29…第1位置決め面、30…ストッパ、31…第2位置決め面、32;32A…外周被支持面、33;33A…内周カム面、34…突起、35…凹部、36,36A…摩擦低減部、371,372…摩擦低減部、P1,P2,P3…位置、PC…中央位置、Q…配置領域、R1…第1径方向、R2…第2径方向、X1…軸方向、Y1…所定の回転方向、Y2…反対方向、Z1…直交方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵に伴って回転するピニオン軸と噛み合って直線運動をするラック軸を支持するラック軸支持装置において、
前記ラック軸が挿通された筒状のハウジングと、
そのハウジングの内周に設けられ、第1支持中心を有する内周支持面と、
その内周支持面によって前記第1支持中心回りに回転可能に支持され、ラック軸の直線運動を案内するラックガイドとしての偏心カムと、
その偏心カムを前記第1支持中心回りの所定の回転方向に弾性的に付勢することにより、偏心カムを介してラック軸をピニオン軸側に押し付ける弾性付勢部材と、を備え、
前記偏心カムは、前記第1支持中心と同心の外周被支持面と、ラック軸の外周と同心であって前記第1支持中心に対して偏心した第2支持中心を有する内周カム面と、を含むラック軸支持装置。
【請求項2】
請求項1において、前記偏心カムは、周方向の所定領域を含み、
偏心カムの前記所定領域は、ラック軸に対してピニオン軸とは反対側に配置され、
偏心カムの径方向の厚みが、前記所定領域から前記所定の回転方向とは反対方向に向かうにしたがって厚くされているラック軸支持装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記偏心カムの前記内周カム面に、摩擦低減部が設けられているラック軸支持装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項において、前記ハウジングは、ピニオン軸に相対的に近い第1端部と、ピニオン軸から相対的に遠い第2端部と、を含み、
前記偏心カムは、前記第2端部とピニオン軸との間の中央位置から、前記第1端部までの間の所定位置に配置されているラック軸支持装置。
【請求項5】
請求項4において、前記偏心カムは、前記第1端部に配置されているラック軸支持装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項において、前記偏心カムを前記ハウジングの軸方向に位置決めする位置決め面を含む位置決め部材を備え、
前記偏心カムは、前記位置決め面によって位置決めされる被位置決め面を含み、
前記位置決め面および前記被位置決め面の何れか一方に、摩擦低減部が設けられているラック軸支持装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載のラック軸支持装置によって、ラック軸を支持した車両用操舵装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−236489(P2012−236489A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106319(P2011−106319)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】