説明

ラパマイシン誘導体及び神経障害の治療におけるその使用

本発明は下記構造の化合物(ここで、R1〜R9、R15及びnは本明細書中で定義される)を提供する。これらの化合物は、神経障害、あるいは、脳卒中又は頭部傷害に起因する合併症の治療において有用であり、また、神経保護剤及び神経再生剤として有用である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はラパマイシン誘導体及び神経障害の治療におけるその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
虚血性脳卒中は全脳卒中事例の83%を占め(残る17%は出血性タイプである)、毎年約700,000人のアメリカ人において発生しており、これは45秒毎におよそ1件の脳卒中に等しい。虚血性脳卒中は、脳に血液を供給する血管の内部における閉塞の結果として生じる。このタイプの閉塞についての根本的な状態は、血管壁の内側を覆う脂肪沈着物の発生であり、これはアテローム性動脈硬化と呼ばれる。このような脂肪沈着物は2つのタイプの閉塞を引き起こし得る:1)脳血栓症(これは、血管の詰まった部分で発生する血栓(凝血塊)を示す)及び2)脳塞栓症(これは、循環系における別の場所(通常、心臓、並びに、上部胸部及び頸部の大きな動脈)において形成する凝血塊を一般には示す)。凝血塊の一部分が離れ、血流に入り、そのような一部分を通過させるには小さすぎる血管にそのような一部分が到達するまで脳の血管の中を移動する。虚血性脳卒中を治すための現在の治療は限られている。今日まで、虚血性脳卒中のための唯一の承認された薬物は組換え型組織プラスミノーゲン活性化因子(rt−PA)である。rt−PAは、血栓溶解剤として作用するため、治療可能な好機は限られており(3時間)、従って、全脳卒中患者の1%〜2%のみが治療を受けることが可能であるにすぎない。虚血性脳卒中のための神経保護剤は一つも市販されていない。
【0003】
パーキンソン病(PD)は、黒質のドーパミン作動性(DA作動性)ニューロンの選択的な変性によって神経学的に特徴づけられる神経変性疾患である。PDは、平均発症年齢が55歳である進行性の疾患であり、だが、15%の患者が50歳までに診断される。150万人のアメリカン人がPDに罹っていると推定される。PDの古典的な徴候のいくつかが、身体の片側での休止時振せん、全身性の運動緩慢(動作緩慢)、四肢の硬直(強直)、歩行問題又は平衡問題(姿勢異常)である。現在のPDの薬物療法では、症状が治療され、これに対して、DA作動性ニューロンの変性を防止するか、又は遅らせる薬物は何もない。
【0004】
その臨床的重要性を考えた場合、神経保護活性及び/又は神経再生(neuroregenerative)活性の両方を明瞭に示すプロトタイプ分子が非常に捜し求められている。ニューロトロフィンは、神経変性の前臨床モデルにおける驚くべき治療特性を有する一群のタンパク質である。実験的に有望ではあるが、ニューロトロフィンの臨床開発は重大な障害及び後退に遭遇した(例えば、これらの大きなタンパク質をニューロンの標的集団に送達することができないこと、タンパク質の不安定性、及び、非特異的な活性など)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
当分野で求められているものは、神経障害を治療することにおいて有用なさらなる化合物である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの態様において、本発明は、神経障害を治療することにおいて、また、神経障害を治療することにおいて有用な医薬品の調製において有用な新規な化合物を提供する。
【0007】
別の態様において、本発明は新規な神経保護剤を提供する。
【0008】
さらにさらなる態様において、本発明は、ラパマイシン誘導体、並びに、その医薬的に許容され得る塩、プロドラッグ及び代謝産物を提供する。
【0009】
別の態様において、本発明は、ラパマイシン誘導体を調製する方法を提供する。
【0010】
さらなる態様において、本発明は、神経障害を治療する方法、及び、そのための医薬品の調製における本発明の化合物の使用を提供する。
【0011】
なおさらに別の態様において、本発明は、脳卒中又は頭蓋骨損傷に起因する合併症を治療する方法、及び、そのための医薬品の調製における本発明の化合物の使用を提供する。
【0012】
本発明の他の態様及び利点が、その好ましい実施形態に関する下記の詳細な説明においてさらに記載される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、神経保護剤として、具体的には、神経障害を治療する際に使用される組成物における神経保護剤として有用である新規なラパマイシン誘導体を提供する。神経障害(これには、例えば、神経変性状態又は神経筋変性状態が含まれる)は、出生時に存在する遺伝的障害の結果、個体の生涯の期間中に発症した障害(例えば、脳卒中)、及び/又は、身体的外傷(例えば、頭部傷害、脊髄傷害、又は、末梢神経系への傷害)の結果であり得る。
【0014】
従って、本発明の化合物は、以前から存在する神経障害の症状を緩和することにおいて、あるいは、さらなる神経変性及び/又は神経筋変性を防止することにおいて有用であり得る。いくつかの実施形態において、本発明の神経保護剤は、神経障害に関連する症状の発症を遅らせるために使用することができる。
【0015】

I.本発明の化合物
1つの実施形態において、本発明は式Iのラパマイシン誘導体を提供する:
【化6】

【0016】
1及びR2は、同一又は異なって、CR1617及びCR1819の中から選択される。R3及びR4は、(a)独立して、H、OH、O(C1−C6アルキル)、O(C1−C6置換アルキル)、O(アシル)、O(アリール)、O(置換アリール)及びハロゲンの中から選択されるか、又は、(b)一緒になって、Oに対する二重結合を形成する。R5、R6及びR7は、して、H、OH及びOCH3の中から選択される。R8及びR9は、(i)単結合を介して連結し、かつ、CH2であるか、又は、(ii)二重結合を介して連結し、かつ、CHである。R15は、C=O、CHOH及びCH2の中から選択される。R16及びR17は、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2の中から選択される。R18及びR19は、独立して、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2の中から選択されるか、又は、R17及びR18は、一緒になって、炭素型(carbon-based)又は複素環式の5員環〜7員環を形成する。さらに、nは1又は2である。
【0017】
本発明に従って調製することができるさらなる化合物には、下記の構造を有する化合物が含まれる:
【化7】

(式中、R1、R2及びR6〜R9は上記のように定義される)。
【0018】
1つの実施形態において、本発明は、R17及びR18が一緒になって、炭素型又は複素環式の5員環〜7員環を形成する化合物を提供する。R17及びR18の他の例には、それぞれが、アルコキシによって置換されるアシル(例えば、−COOEt)である場合が含まれる。R16及びR19はそれぞれがCNである場合がある。別の実施形態において、本発明は、R8及びR9が単結合により結合する化合物を提供する。さらなる実施形態において、本発明は、R3又はR4がOHである化合物を提供する。さらに別の実施形態において、本発明は、R3又はR4がO(アシル)である化合物を提供し、好ましくは、この場合、置換アシルが、−C(O)−場合により置換されたアルキルであり、特に、この場合、アルキルは直鎖又は分枝状が可能であり、かつ、例えば、複素環(例えば、芳香族複素環など、例えば、ピリジルなど)によって場合により置換され得る。一例が、
【化8】

である。
【0019】
なお、さらなる実施形態において、本発明は、R5、R6及びR7がOCH3である化合物を提供する。別の実施形態において、本発明は、nが2である化合物を提供する。さらにさらなる実施形態において、本発明は、R15がC=Oである化合物を提供する。
【0020】
本発明の化合物は1又はそれ以上の不斉炭素原子を含有することができ、また、化合物のいくつかは1つ又は複数の不斉(キラル)中心を含有することができ、従って、光学異性体及びジアステレオマーをもたらし得る。立体化学を考慮することなく示される一方で、化合物が1つ又は複数のキラル中心を含有し得るとき、好ましくは、キラル中心の少なくとも1つはS−立体化学である。従って、本発明には、そのような光学異性体及びジアステレオマー、並びに、ラセミ体、及び、分割されたエナンチオマー的に純粋な立体異性体、並びに、R−立体異性体及びS−立体異性体の他の混合物、そして、それらの医薬的に許容され得る塩、水和物、代謝産物及びプロドラッグが含まれる。
【0021】
用語「アルキル」は、1個〜10個の炭素原子を有し、望ましくは約1個〜8個の炭素原子を有する直鎖の飽和脂肪族炭化水素基及び分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基の両方を示すために本明細書中では使用される。用語「アルケニル」は、1つ又は複数の炭素−炭素二重結合を有し、かつ、約2個〜10個の炭素原子を含有する直鎖アルキル基及び分枝鎖アルキル基の両方を示すために本明細書中では使用される。1つの実施形態において、アルケニルの用語は、1つ又は2つの炭素−炭素二重結合を有し、かつ、2個〜約6個の炭素原子を有するアルキル基を示す。用語「アルキニル」基は、1つ又は複数の炭素−炭素三重結合を有し、かつ、2個〜8個の炭素原子を有する直鎖アルキル基及び分枝鎖アルキル基の両方を示すために本明細書中では使用される。1つの実施形態において、アルキニルの用語は、1つ又は2つの炭素−炭素三重結合を有し、かつ、2個〜6個の炭素原子を有するアルキル基を示す。
【0022】
用語「シクロアルキル」は、構造において環状であり、かつ、約4個〜10個の炭素原子又は約5個〜8個の炭素原子を有する前記で記載されるようなアルキル基を示すために本明細書中では使用される。
【0023】
用語「置換アルキル」、用語「置換アルケニル」及び用語「置換アルキニル」は、ハロゲン、CN、OH、NO2、アミノ、アリール、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボキシ及びアリールチオ(これらに限定されない)(そのような基は場合により置換され得る)をはじめとする1つ又は複数の置換基を有するアルキル基、アルケニル基及びアルキニル基をそれぞれ示す。これらの置換基は、結合により、安定な化学的部分が構成されるならば、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基の任意の炭素に結合することができる。
【0024】
本明細書中で使用される用語「アリール」は、例えば、6個〜20個の炭素原子の芳香族系を示し、この場合、そのような芳香族系は1つだけの環を含むことができ、あるいは、縮合又は連結した環の少なくとも一部分が共役芳香族系を形成する縮合又は連結した多数の芳香族環を含むことができる。アリール基には、フェニル、ナフチル、ビフェニル、アントリル、テトラヒドロナフチル、フェナントリル、インデン、ベンゾナフチル、フルオレニル及びカルバゾリルが含まれ得るが、これらに限定されない。
【0025】
本明細書中で使用される用語「置換アリール」は、ハロゲン、CN、OH、NO2、アミノ、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルオキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボキシ、アミノアルキル及びアリールチオ(そのような基は場合により置換され得る)をはじめとする1つ又は複数の置換基により置換されるアリール基を示す。1つの実施形態において、置換アリール基は、ハロゲン、CN、OH、NO2、アミノ、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルオキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボキシ、アミノアルキル及びアリールチオをはじめとする1個〜4個の置換基により置換される。
【0026】
本明細書中で使用される用語「複素環(式の)」は、飽和、部分的不飽和又は完全不飽和である安定な4員〜7員の単環又は多環の複素環式の環を示し、これには、芳香族(例えば、ピリジルなど)が含まれる。複素環式の環は、炭素原子と、窒素原子、酸素原子及びイオウ原子をはじめとする1つ又は複数のヘテロ原子とを有する。1つの実施形態において、複素環式の環は1個〜4個のヘテロ原子を環の骨格に有する。複素環式の環が窒素原子又はイオウ原子を環の骨格に含有する場合、その窒素原子又はイオウ原子は酸化され得る。用語「複素環(式の)」はまた、例えば、複素環式の環がアリール環に縮合する、9個〜20個の環構成成分を有する多環状の環を示す。複素環式の環は、得られる複素環式の環構造が化学的に安定であるならば、ヘテロ原子又は炭素原子を介してアリール環に結合することができる。
【0027】
様々な複素式の基が当分野では公知であり、そのような複素式の基には、限定されないが、酸素含有環、窒素含有環、イオウ含有環、混合ヘテロ原子含有環、縮合ヘテロ原子含有環、及び、それらの組合せが含まれる。酸素含有環には、フリル環、テトラヒドロフラニル環、ピラニル環、ピロニル環及びジオキシニル環が含まれるが、これらに限定されない。窒素含有環には、限定されないが、ピロリル環、ピラゾリル環、イミダゾリル環、トリアゾリル環、ピリジル環、ピペリジニル環、2−オキソピペリジニル環、ピリダジニル環、ピリミジニル環、ピラジニル環、ピペラジニル環、アゼピニル環、トリアジニル環、ピロリジニル環及びアゼピニル環が含まれる。イオウ含有環には、限定されないが、チエニル環及びジチオリル環が含まれる。混合ヘテロ原子含有環には、オキサチオリル環、オキサゾリル環、チアゾリル環、オキサジアゾリル環、オキサトリアゾリル環、ジオキサゾリル環、オキサチアゾリル環、オキサチオリル環、オキサジニル環、オキサチアジニル環、モルホリニル環、チアモルホリニル環、チアモルホリニルスルホキシド環、オキセピニル環、チエピニル環及びジアゼピニル環が含まれるが、これらに限定されない。縮合ヘテロ原子含有環には、ベンゾフラニル環、チオナフテン環、インドリル環、ベナザゾリル環、プリンジニル環、ピラノピロリル環、イソインダゾリル環、インドキサジニル環、ベンゾオキサゾリル環、アントラニリル環、ベンゾピラニル環、キノリニル環、イソキノリニル環、ベンゾジアゾニル環、ナフチルリジニル環、ベンゾチエニル環、ピリドピリジニル環、ベンゾオキサジニル環、キサンテニル環、アクリジニル環及びプリニル環が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本明細書中で使用される用語「置換された複素環(式の)」は、ハロゲン、CN、OH、NO2、アミノ、アルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルオキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボキシ、アミノアルキル及びアリールチオ(そのような基は場合により置換され得る)をはじめとする1つ又は複数の置換基を有する複素式の基を示す。1つの実施形態において、置換された複素式の基は1個〜4個の置換基により置換される。
【0029】
用語「アシル」は、炭素原子において置換される−C(O)−基を示す。アシル基は置換され得るか、又は、末端アシル基(例えば、HC(O)−基など)であり得る。置換基には、アルキル基について上記で記された任意の置換基、すなわち、ハロゲン、CN、OH、NO2、アミノ、アリール、複素環、アルコキシ、アリールオキシ、アルキルカルボニル、アルキルカルボキシ及びアリールチオ(これらに限定されない)(そのような基は場合により置換され得る)をはじめとする1つ又は複数の置換基が含まれ得る。例には、−C(O)−アルコキシ(例えば、−OMe又は−OEt)又は−C(O)−アルキル(この場合、アルキルは直鎖又は分枝状が可能であり、かつ、例えば、複素環(例えば、ピリジルなど)によって場合により置換され得る)が含まれる。
【0030】
本明細書中で使用される用語「アルコキシ」はO(アルキル)基を示し、この場合、結合点は酸素原子を介してであり、かつ、アルキル基は場合により置換される。
【0031】
本明細書中で使用される用語「アリールオキシ」はO(アリール)基を示し、この場合、結合点は酸素原子を介してであり、かつ、アリール基は場合により置換される。
【0032】
本明細書中で使用される用語「アルキルオキシ」はアルキルOH基を示し、この場合、結合点はアルキル基を介してである。
【0033】
本明細書中で使用される用語「アリールチオ」はS(アリール)基を示し、この場合、結合点はイオウ原子を介してであり、かつ、アリール基は場合により置換され得る。
【0034】
本明細書中で使用される用語「アルキルカルボニル」はC(O)(アルキル)基を示し、この場合、結合点はカルボニル部分の炭素原子を介してであり、かつ、アルキル基は場合により置換される。
【0035】
本明細書中で使用される用語「アルキルカルボキシ」はC(O)O(アルキル)基を示し、この場合、結合点はカルボキシ部分の炭素原子を介してであり、かつ、アルキル基は場合により置換される。
【0036】
本明細書中で使用される用語「アミノアルキル」は第二級アミン及び第三級アミンの両方を示し、この場合、結合点は窒素原子を介してであり、かつ、アルキル基は場合により置換される。アルキル基は、同一又は異なるものであり得る。
【0037】
本明細書中で使用される用語「ハロゲン」は、Cl基、Br基、F基又はI基を示す。
【0038】

II.本発明の化合物を調製する方法
本発明の式Iのラパマイシン誘導体はラパマイシン系出発物質から調製される。1つの実施形態において、ラパマイシン系出発物質には、限定されないが、ラパマイシン、ノルラパマイシン、デオキソラパマイシン、デスメチルラパマイシン又はデスメトキシラパマイシン、あるいは、それらの医薬的に許容され得る塩、プロドラッグ又は代謝産物が含まれる。しかしながら、当業者は、本発明の新規なラパマイシン誘導体を調製するために利用することができる好適なラパマイシン系出発物質を容易に選択することができる。
【0039】
用語「デスメチルラパマイシン」は、1つ又は複数のメチル基を有しない一群のラパマイシン化合物を示す。本発明に従って使用することができるデスメチルラパマイシンの例には、とりわけ、3−デスメチルラパマイシン(米国特許第6,358,969号)、7−O−デスメチルラパマイシン(米国特許第6,399,626号)、17−デスメチルラパマイシン[米国特許第6,670,168号]及び32−O−デスメチルラパマイシンが含まれる。
【0040】
用語「デスメトキシラパマイシン」は、1つ又は複数のメトキシ基を有しない一群のラパマイシン化合物を示し、これには、限定されないが、32−デスメトキシラパマイシンが含まれる。
【0041】
従って、本発明の式Iのラパマイシン誘導体は、ラパマイシン系出発物質及び場合により置換されたオレフィンを結合することによって調製される。用語オレフィンは、二重結合を含有する分子を示す。様々なオレフィンを本発明において利用することができ、かつ、当業者によって容易に選択することができ、これらには、50℃までの温度で[4+2]付加環化を受けるために電子吸引性置換基により十分に活性化された任意のオレフィンを含めて、とりわけ、ジエチルフマラートが含まれる。当業者は、本発明のラパマイシン誘導体を調製することにおいて効果的であるオレフィンの量を容易に選択することができる。1つの実施形態において、過剰なオレフィンが利用される(例えば、オレフィン対ラパマイシン系出発物質の3:1の比率が利用される)。しかしながら、当業者によって明らかにされるように、オレフィン対ラパマイシン系出発物質は1:1又は2:1の比率でも利用することができる。
【0042】
オレフィン及びラパマイシン系出発物質は溶媒中で結合させられる。溶媒は好ましくは、オレフィン及び/又はラパマイシンを、接触したときに溶解するか、あるいは、オレフィン及びラパマイシンを、反応が進行するにつれて溶解する。本発明において利用することができる溶媒には、限定されないが、ジメチルホルムアミド、ジオキサン(例えば、p−ジオキサンなど)、クロロホルム、アルコール(例えば、メタノール及びエタノールなど)、酢酸エチル、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン及びトルエン、又は、それらの組合せが含まれる。しかしながら、当業者は、ラパマイシン系出発物質及びオレフィンの溶解性、並びに、それらとの溶媒の反応性に基づいて、好適な溶媒を容易に選択することができる。利用される溶媒量は、反応の規模、具体的には、反応混合物に存在するラパマイシン系出発物質及びオレフィンの量に依存する。当業者は、必要な溶媒量を容易に決定することができる。
【0043】
典型的には、オレフィン、ラパマイシン系出発物質及び溶媒を含有する溶液は、高い温度で、好ましくは、ラパマイシン及びオレフィンの分解を促進しない温度で維持される。1つの実施形態において、溶液は約30℃〜約80℃の温度で維持され、好ましくは約50℃の温度で維持される。成分が、ラパマイシン系出発物質とオレフィンとの間での反応を可能にするために十分な期間にわたって加熱される。公知の技術を使用して、当業者は加熱期間中の反応の進行を容易に追跡することができ、それにより、反応を行うために必要な時間の量を決定することができる。1つの実施形態において、ラパマイシン及びオレフィンは溶媒と一緒にされ、約50℃の温度で維持される。
【0044】
ラパマイシン誘導体の単離及び精製は十分に当業者の範囲内であり、これには、クロマトグラフィー(これには、限定されないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(例えば、逆相HPLC及び順相HPLCなど)及びサイズ排除クロマトグラフィーが含まれる)及び再結晶が含まれる。
【0045】
ラパマイシン誘導体が得られると、そのラパマイシン誘導体は、より飽和したラパマイシン誘導体を形成するために還元することができる。当業者は、本発明において使用される好適な還元剤を容易に選択することができる。1つの実施形態において、ラパマイシン誘導体の還元は、水素化剤を使用して行うことができる。当業者は、本発明において使用される好適な水素化剤を容易に選択することができる。典型的には、水素ガスの存在下での、とりわけ、遷移金属触媒、又は、担体(好ましくは、炭素担体)上の遷移金属が、この還元を行うために利用される。別の実施形態において、還元は、パラジウム金属担持炭素を水素ガスの存在下で使用して行われる。
【0046】
ラパマイシン誘導体の還元は、典型的には、溶媒中で行われる。様々な溶媒をこの還元において利用することができ、そのような溶媒には、限定されないが、アルコール(例えば、メタノールなど)が含まれる。しかしながら、当業者は、本発明において使用される好適な溶媒を、水素化触媒及び還元されるラパマイシン誘導体に依存して容易に選択することができる。溶媒量は、反応の規模、具体的には、還元されるラパマイシン誘導体の量に依存する。
【0047】
本発明において利用される水素化剤の量は当業者によって容易に決定することができる。しかしながら、当業者は、この還元を行うために必要な水素化剤の量、及び、本発明のより飽和したラパマイシン誘導体を形成するために必要な水素化剤の量を決定及び調節することができる。さらに、様々な装置を、本発明の水素化を行うために利用することができ、そのような装置には、なかでも、Parr装置が含まれる。水素化のための具体的な装置の選択は十分に当業者の範囲内である。
【0048】
1つの実施形態において、本発明のラパマイシン誘導体は、下記のスキーム1に要約されるように調製される:
【化9】

(式中、R4〜R7、R15〜R19及びnは上記で定義される)。
【0049】
本発明のラパマイシン誘導体は、医薬的又は生理学的に許容され得る酸又は塩基に由来するその医薬的に許容され得る塩、プロドラッグ又は代謝産物の形態で利用することができる。これらの塩には、鉱酸又は無機酸(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸など)及び有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、コハク酸及びマレイン酸など)との下記の塩が含まれるが、これらに限定されない。他の塩には、エステル、カルバマート及び他の従来の「プロドラッグ」形態でのアルカリ金属又はアルカリ土類金属(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム又はマグネシウムなど)との塩が含まれ、これらは、そのような形態で投与されたとき、活性な部分にインビボで変換される。
【0050】

III.本発明の化合物を使用する方法
本発明の式Iのラパマイシン誘導体(飽和度がより大きいラパマイシン誘導体及び飽和度がより低いラパマイシン誘導体を含む)は、神経障害に関連する適用を含めて様々な適用における用途を有する。本発明の化合物は、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、脳卒中、脊髄傷害、外傷性脳傷害、レヴィー小体認知症、多発性硬化症、ピック病、ニーマン・ピック病、アミロイド血管症、脳アミロイド血管症、全身性アミロイドーシス、ダッチ型のアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、封入体筋炎、軽度認識障害及びダウン症候群(これらに限定されない)を含む神経障害を治療することにおいて有用であり、また、そのための医薬品の調製において有用である。ラパマイシン誘導体はまた、脳卒中、頭蓋骨損傷又は脊髄傷害、あるいは、脳、末梢神経系、中枢神経系又は神経筋系に対する他の傷害に起因する合併症を治療することにおいて有用であり、また、そのための医薬品の調製において有用である。
【0051】
新規なラパマイシン誘導体はまた、神経保護剤として有用である。本発明のラパマイシン誘導体はまた、神経再生剤として、すなわち、上記状態のいずれかの発症、及び/あるいは、傷害、脳卒中又は他の外傷の後での何らかの神経機能及び/又は神経筋機能又は他の機能を回復させる神経再生剤として有用であり得るし、また、そのための医薬品の調製において有用であり得る。
【0052】
本発明のラパマイシン誘導体の投薬必要量は、病状、示された症状の重篤度、及び、治療されている特定の被験者に依存して変化し得る。当業者は、ラパマイシン誘導体の必要量を容易に決定することができる。1つの実施形態において、約0.5mg〜200mgが投与される。さらなる実施形態においては、約0.5mg〜100mgが投与される。別の実施形態においては、約0.5mg〜約75mgが投与される。さらなる実施形態においては、約1mg〜約25mgが投与される。別の実施形態においては、特に別の薬剤との組合せで使用されるとき、約0.5mg〜約10mgが投与される。さらなる実施形態においては、約2mg〜約5mgが投与される。さらに別の実施形態においては、約5mg〜約15mgが投与される。
【0053】
治療は、所望の効果を生じさせるために必要な投薬量よりも少なく、かつ、一般にはラパマイシン誘導体の最適な用量よりも低い投薬量のラパマイシン誘導体を用いて開始することができる。その後、投薬量を、その状況下での最適な効果に到達するまで増大させることができる。正確な投薬量は、治療される個々の被験者に関し、経験に基づいて投薬医によって決定される。一般に、本発明の組成物は、最も望ましくは、何らかの危険な副作用又は有害な副作用を引き起こすことなく、効果的な結果をもたらす濃度で投与される。
【0054】

IV.ラパマイシン誘導体を含有する投与可能な組成物を調製する方法
1つの態様において、本発明は、本発明の1つ又は複数のラパマイシン誘導体を含有する医薬組成物を調製する方法を包含する。組成物はいくつかの異なる経路によって、被験対象の哺乳動物に投与することができ、望ましくは、固体形態又は液体形態で経口投与される。
【0055】
ラパマイシン誘導体を含有する固体形態物(これらには、錠剤、カプセル及びカプレットが含まれる)は、ラパマイシン誘導体を上記で記載された成分の1つ又は複数と混合することによって形成することができる。1つの実施形態において、組成物の成分は乾式混合又は湿式混合される。別の実施形態において、成分は乾式造粒される。さらなる実施形態において、成分は液体に懸濁又は溶解され、被験対象の哺乳動物への投与のために好適な形態物に加えられる。
【0056】
ラパマイシン誘導体を含有する液体形態物は、ラパマイシン誘導体を、被験対象の哺乳動物への投与のために好適な液体に溶解又は懸濁することによって形成することができる。
【0057】
本発明のラパマイシン誘導体を含有する組成物は、ラパマイシン誘導体及び医薬的に許容され得る担体を組み合わせることによって本発明に従って調製することができる。
【0058】
ラパマイシン誘導体を含有する本明細書中に記載される組成物は、ラパマイシン誘導体の医薬的に効果的な量を使用して、所望される投与経路のために好適な任意の形態で配合することができる。例えば、本発明の組成物は、任意の経路(例えば、経口、皮膚、経皮、気管支内、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下、非経口的、腹腔内、鼻腔内、膣内、直腸、舌下、頭蓋内、硬膜外、気管内の経路など)によって、又は、持続放出によって送達することができる。1つの実施形態において、送達は経口による。
【0059】
本発明の経口投薬用の錠剤組成物はまた、ラパマイシン誘導体のアナログ(類似体)を含有する経口投薬用の錠剤を作製するために使用することができ、そのようなアナログには、当業者に知られているエステル、カルバマート、スルファート、エーテル、オキシム及びカルボナートなどが含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
ラパマイシン誘導体の医薬的に効果的な量は、具体的な化合物、送達様式、治療されている状態の重篤度、及び、組成物において使用される任意の他の有効成分に依存して変化し得る。服用法はまた、最適な治療効果をもたらすために調節することができる。数個の分割された服用量を毎日送達することができ、例えば、1日に2回〜4回の分割された服用量で送達することができ、又は、単回服用量を送達することができる。しかしながら、服用量は、治療状況の要求によって適応されるように比例して増減することができる。1つの実施形態において、送達は、毎日、毎週又は毎月である。別の実施形態において、送達は毎日の送達である。しかしながら、1日投薬量は、反復した送達に基づいて増減することができる。
【0061】
本発明のラパマイシン誘導体は、本発明の組成物との適合性を有する固体担体及び液体担体(これらに限定されない)を含む1つ又は複数の医薬的に許容され得る担体又は賦形剤と組み合わせることができる。そのような担体には、とりわけ、アジュバント、シロップ、エリキシル剤、希釈剤、結合剤、滑剤、界面活性剤、造粒剤、崩壊剤、皮膚軟化剤、金属キレーター、pH調節剤、界面活性剤、増量剤、錠剤分解物質及びそれらの組合せが含まれる。1つの実施形態において、ラパマイシン誘導体は、金属キレーター、pH調節剤、界面活性剤、増量剤、錠剤分解物質、滑剤及び結合剤と組み合わされる。
【0062】
アジュバントは、限定されないが、矯味矯臭剤、着色剤、保存剤、及び、補助的な酸化防止剤(これには、ビタミンE、アスコルビン酸、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)及びブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)が含まれ得る)が含まれ得る。
【0063】
結合剤は、限定されないが、とりわけ、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタラート、微結晶性セルロース、非結晶性セルロース、ポリプロピルピロリドン、ポリビニルピロリドン(ポビドン、PVP)、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、デンプン、糖(例えば、スクロース、カオリン、デキストロース及びラクトースなど)、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、セチルエステルワックス、デキストラート、デキストリン、グリセリルモノオレアート、グリセリルモノステアラート、グリセリルパルミトステアラート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレンステアラート、ポリビニルアルコール及びゼラチンが含まれ得る。1つの実施形態において、結合剤は、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はゼラチンである。別の実施形態において、結合剤はポビドンである。
【0064】
滑剤は、とりわけ、ステアリン酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、タルク、ステアリン酸、ラウリル硫酸ナトリウム及びナトリウムステアリルフマラートが含まれ得る。1つの実施形態において、滑剤は、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はナトリウムステアリルフマラートである。別の実施形態において、滑剤はステアリン酸マグネシウムである。
【0065】
造粒剤は、限定されないが、とりわけ、二酸化ケイ素、微結晶性セルロース、デンプン、炭酸カルシウム、ペクチン、クロスポビドン(crospovidone)及びポリプラスドン(polyplasdone)が含まれ得る。
【0066】
崩壊剤又は錠剤分解物質は、とりわけ、クロスカルメロースナトリウム、デンプン、カルボキシメチルセルロース、置換されたヒドロキシプロピルセルロース、重炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、ナトリウムデンプングリコラート、アルファ化デンプン又はクロスポビドンが含まれ得る。1つの実施形態において、錠剤分解物質はクロスカルメロースナトリウムである。
【0067】
皮膚軟化剤は、限定されないが、ステアリルアルコール、ミンク油、セチルアルコール、オレイルアルコール、ラウリン酸イソプロピル、ポリエチレングリコール、オリーブ油、ワセリン、パルミチン酸、オレイン酸及びミリスチン酸ミリスチルが含まれ得る。
【0068】
界面活性剤は、ポリソルバート、ソルビタンエステル、ポロキサマー又はラウリル硫酸ナトリウムが含まれ得る。1つの実施形態において、界面活性剤はラウリル硫酸ナトリウムである。
【0069】
金属キレーターは、生理学的に許容され得るキレート化剤(これには、エデト酸、リンゴ酸又はフマル酸が含まれる)が含まれ得る。1つの実施形態において、金属キレーターはエデト酸である。
【0070】
pH調節剤はまた、ラパマイシン誘導体を含有する溶液のpHを約4〜約6に調節するために利用することができる。1つの実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する溶液のpHは約4.6のpHに調節される。pH調節剤には、生理学的に許容され得る薬剤(これには、クエン酸、アスコルビン酸、フマル酸又はリンゴ酸、及び、それらの塩が含まれる)が含まれ得る。1つの実施形態において、pH調節剤はクエン酸である。
【0071】
本発明に従って使用することができる増量剤は、無水ラクトース、微結晶性セルロース、マンニトール、リン酸カルシウム、アルファ化デンプン又はスクロースが含まれる。1つの実施形態において、増量剤は無水ラクトースである。別の実施形態において、増量剤は微結晶性セルロースである。
【0072】
1つの実施形態において、本発明のラパマイシン誘導体を含有する組成物は、錠剤、カプレット又はカプセル、マイクロカプセル、分散性粉末、顆粒剤、懸濁物、シロップ、エリキシル剤及びエアロゾルによって経口送達される。さらなる実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する組成物が経口送達されるとき、送達は錠剤及びハード充填カプセル又は液体充填カプセルによって行われる。
【0073】
別の実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する組成物は、容易なシリンジ能が存在する程度に流動性である無菌の注射可能な溶液、懸濁物、分散物及び粉末の形態で静脈内、筋肉内、皮下、非経口的及び腹腔内に送達することができる。そのような注射可能な組成物は無菌であり、かつ、製造及び貯蔵の条件のもとで安定であり、かつ、微生物(例えば、細菌及び菌類など)の混入作用がない。
【0074】
さらなる実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する組成物は従来の坐薬の形態で直腸に送達することができる。
【0075】
別の実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する組成物は、従来の坐薬、クリーム、ゲル、リング又は被覆子宮内デバイス(IDU)の形態で膣に送達することができる。
【0076】
さらに別の実施形態において、ラパマイシン誘導体を含有する組成物はエアロゾルの形態で鼻腔内又は気管支内に送達することができる。
【0077】
ラパマイシン誘導体は、静脈内経路、筋肉内経路又は皮下経路によるだけでなく、経口投与によって投与される。固体担体には、デンプン、ラクトース、リン酸二カルシウム、微結晶性セルロース、スクロース及びカオリンが含まれ、一方、液体担体には、無菌水、ポリエチレングリコール、非イオン性界面活性剤及び食用油(例えば、トウモロコシ油、ピーナッツ油及びゴマ油など)が含まれ、これらは有効成分の性質及び所望される具体的な投与形態に対して適切である。医薬組成物の調製において慣例的に用いられるアジュバントが好都合には含まれる(例えば、矯味矯臭剤、着色剤、保存剤及び酸化防止剤(例えば、ビタミンE、アスコルビン酸、BHT及びBHA)など)。
【0078】
調製及び投与の容易さの観点からの好ましい医薬組成物は固体組成物であり、特に、錠剤及びハード充填カプセル又は液体充填カプセルである。同様に、化合物の経口投与が好ましい。
【0079】
ラパマイシン誘導体はまた、非経口的又は腹腔内に投与される。遊離塩基又は医薬的に許容され得る塩としてのこれらの活性な化合物の溶液又は懸濁物が、界面活性剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなど)と好適に混合された水において調製される。分散物もまた、グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及び、オイルにおけるそれらの混合物において調製される。貯蔵及び使用の通常の条件のもとで、これらの調製物は、微生物の成長を防止するための保存剤を含有する。
【0080】
注射剤使用のために好適な医薬品形態には、無菌の水性の溶液又は分散物、及び、無菌の注射可能な溶液又は分散物を即座に調製するための無菌の粉末が含まれる。すべての場合において、形態物は無菌であり、かつ、容易なシリンジ能が存在する程度に流動性である。形態物は、製造及び貯蔵の条件のもとで安定であり、かつ、微生物(例えば、細菌及び菌類など)の混入作用から保護される。担体は、例えば、水、エタノール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液状ポリエチレングリコール)、それらの好適な混合物、及び、植物油を含有する溶媒又は分散媒体である。
【0081】

V.本発明のキット
本発明はまた、ラパマイシン誘導体を含有するキット又は包装物を提供する。本発明のキットは、本発明のラパマイシン誘導体と、上記で議論されたような被験対象の哺乳動物への投与のために好適な担体とを含むことができる。キットはまた、本発明のラパマイシン誘導体を調製するために必要とされる試薬を含有することができ、また、ラパマイシン、場合により置換されたオレフィン、及び溶媒を含むことができる。
【0082】
キットは、他のラパマイシン誘導体を形成するための他の試薬を場合により含むことができ、水素化剤を含むことができる。
【0083】
キットはさらに、本発明の反応を行うための説明書を含有することができる。キットにはまた、他の好適な化学試薬、使い捨て手袋、汚染除去の説明書、アプリケータースティック又は容器、及び、サンプル調製者用カップが提供され得る。
【0084】
下記の実施例は、本発明を例示するために提供され、本発明の範囲を限定しない。当業者は、具体的な試薬及び条件が下記の実施例において概略されるが、本発明の思想及び範囲によって包含されることが意図される様々な改変が行われ得ることを十分に理解する。
【実施例1】
【0085】
【化10】

【0086】
ラパマイシン(0.25g、0.274mmol)を穏やかな加熱とともに5mLの溶媒に溶解する。この溶液に、7mLの溶媒におけるジシアノフマル酸ジエチル(0.183g、3当量)の溶液を滴下して加える。反応混合物を50℃〜80℃で12時間〜36時間撹拌し、その後、反応混合物を逆相HPLCによってクロマトグラフィー処理して、生成物を得る。
【実施例2】
【0087】
【化11】

【0088】
実施例1に従って調製された化合物を18mmの試験管においてメタノールに溶解し、スパチュラ先端1杯分のPd/C触媒(Aldrich)を加える。混合物をParr装置で2.0気圧のH2において15分間水素化する。生成物を逆相HPLCによってクロマトグラフィー処理して、生成物を得る。
【実施例3】
【0089】
中脳のドーパミン作動性ニューロンの培養物を、Pongら、J. Neurochem.、69:986-994、1997(これはその全体が参考として本明細書中に組み込まれる)に記載されるように調製する。胚発生15日目(E15)のラット胎児を集め、氷冷したリン酸塩緩衝化生理的食塩水(PBS)中で解剖する。中脳のドーパミン作動性領域を含む腹側組織片をばらばらにする。ばらばらにした組織片を一緒にまとめ、20IU/mLのパパインをアール平衡塩溶液(Worthington Biochemical、Freehold、NJ、USA)に含有する酵素的解離媒体に移し、37℃で60分間インキュベーションする。酵素的解離の後、パパイン溶液を吸引し、組織を、2,000IU/mLのDNase及び10mg/mLのオボムコイドプロテアーゼ阻害剤を含有する完全培地(0.1mg/mLのアポトランスフェリン及び2.5μg/mLのインスリンが補充された等体積の最少必須培地(MEM)及びF−12栄養混合物(GibcoBRL))において、炎で丸めたガラス製パスツールピペットにより機械的に粉砕する。
【0090】
ドーパミン取り込み実験のために、完全培地における単一細胞懸濁物を、ポリ−L−オルニチン及びラミニンが被覆された24ウェルプレートに播種する。培養物を実験前の7日間維持する。培養物を様々な濃度の化合物により24時間にわたって前処理し、その後、10mMのMPP+に1時間さらす。1時間のインキュベーションの後、培地を3回交換し、新鮮な化合物をさらに48時間にわたって加える。
【0091】
中脳のドーパミン作動性ニューロンの培養物をMPP+暴露後48時間成長させた後、高親和性の3H−ドーパミン取り込みを、Prochiantzら(Nature、293:570-572、1981;これは参考として本明細書中に組み込まれる)によって記載される改変された方法を使用して行う。培養物を、5.6mMのグルコース及び1mMのアスコルビン酸を含有する予め加温したPBSにより洗浄する。その後、培養物を、50nMの3H−ドーパミン(31Ci/mmol、DuPont−NEN、Wilmington、DE、USA)と37℃で15分間インキュベーションする。培養物を緩衝液で2回洗浄し、0.5NのNaOHにより溶解する。溶解物を、Ultima GoldTM シンチレーションカクテルを含有するシンチレーションバイアルに移し、放射能を液体シンチレーションカウンターにより求める。あるいは、培養物の溶解物を緩衝液で2回洗浄し、Optiphase SupermixTM シンチレーションカクテル(Wallac Scintillation Products、Gaithersburg、MD、USA)と室温で2時間インキュベーションし、放射能を液体シンチレーションカウンターにより測定する。
【0092】
解離させた皮質ニューロンの培養物を以前に記載されたように調製する(Pongら、2001)。簡単に記載すると、胚発生15日目のラット胎児を集め、氷冷PBS中で解剖する。ばらばらにした皮質を一緒にまとめ、パパインを含有する酵素的解離培地に移す。30分後、組織を、炎で丸めたガラス製パスツールピペットにより機械的に粉砕する。完全培地における単一細胞懸濁物を、ポリ−L−オルニチン及びラミニンが被覆された96ウェルプレートに播種する。24時間後、培養物を様々な濃度の化合物により72時間にわたって処理する。その後、培養物を固定処理し、抗チューブリン一次抗体(TUJ−1)及び蛍光標識された二次抗体により染色する。神経突起の伸長を、Enhanced Neurite Outgrowth(ENO)アルゴリズムをCellomics ArrayScanとともに使用することによって求め、細胞あたりの平均神経突起長さ又は総神経突起長さとして表す。
【0093】
実施例1及び実施例2の化合物は、EC50が1μM未満であるため皮質ニューロンアッセイにおいて活性であり、また、EC50が1μM未満であるためドーパミン作動性取り込みアッセイにおいて活性であることが予想される。
【0094】
本明細書に列挙されるすべての特許公報、公開公報及び他の刊行物は参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、特に好ましい実施形態を参照して記載されているが、様々な改変が、本発明の思想から逸脱することなく行われ得ることが理解される。そのような改変は、添付された請求項の範囲に含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物又はその医薬的に許容され得る塩:
【化1】

式中、
1及びR2は、同一又は異なって、CR1617及びCR1819からなる群より選択される;
3及びR4は、
(a)独立して、H、OH、O(C1−C6アルキル)、O(C1−C6置換アルキル)、O(アシル)、O(アリール)、O(置換アリール)及びハロゲンからなる群より選択される;又は
(b)一緒になって、Oに対して二重結合を形成する;
5、R6及びR7は、独立して、H、OH及びOCH3からなる群より選択される;
8及びR9は、(i)単結合を介して連結し、かつ、CH2であるか、又は、(ii)二重結合を介して連結し、かつ、CHである;
15は、C=O、CHOH及びCH2からなる群より選択される;
16及びR17は、独立して、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2からなる群より選択される;
18及びR19は、独立して、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2からなる群より選択される;又は
17及びR18は、一緒になって、炭素型(carbon-based)又は複素環式の5員環〜7員環を形成する;
nは1又は2である。
【請求項2】
17及びR18が、一緒になって、炭素型又は複素環式の5員環〜7員環を形成する、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
8及びR9が単結合により結合する、請求項1又は請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
3又はR4がOHである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
3又はR4がO(アシル)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
前記アシルが、
【化2】

である、請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
5、R6及びR7がOCH3である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項8】
nが2である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項9】
15がC=Oである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
式Iaの化合物又はその医薬的に許容され得る塩:
【化3】

式中、
1及びR2は、同一又は異なって、CR1617及びCR1819からなる群より選択される;
6は、H、OH及びOCH3からなる群より選択される;
8及びR9は、(i)単結合を介して連結し、かつ、CH2であるか、又は、(ii)二重結合を介して連結し、かつ、CHである;
16及びR17は、独立して、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2からなる群より選択される;
18及びR19は、独立して、H、C1−C6アルキル、C1−C6置換アルキル、アリール、置換アリール、アシル、CF3、CN及びNO2からなる群より選択される;又は
18及びR19は、一緒になって、5員環〜7員環を形成する。
【請求項11】
構造:
【化4】

を有する、請求項1又は10に記載の化合物。
【請求項12】
構造:
【化5】

を有する、請求項1又は10に記載の化合物。
【請求項13】
神経保護剤又は神経再生剤である、請求項1〜12のいずれかに記載の化合物。
【請求項14】
(i)請求項1〜12のいずれか1項において定義される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、(ii)医薬的に許容され得る担体とを、その必要性のある被験者に投与することを含む、神経変性障害を治療する方法。
【請求項15】
前記神経変性障害が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、脳卒中、脊髄傷害、外傷性脳傷害、レヴィー小体認知症、多発性硬化症、ピック病、ニーマン・ピック病、アミロイド血管症、脳アミロイド血管症、全身性アミロイドーシス、ダッチ型のアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、封入体筋炎、軽度認識障害及びダウン症候群からなる群より選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
(i)請求項1〜12のいずれか1項において定義される化合物又はその医薬的に許容され得る塩と、(ii)医薬的に許容され得る担体とを、その必要性のある被験者に投与することを含む、脳卒中又は頭蓋骨損傷(head trauma)に起因する合併症を治療する方法。
【請求項17】
ラパマイシン又はそのアナログを式R1617C=CR1819のオレフィンと反応して、請求項1又は請求項10において定義される化合物(この場合、R8及びR9は二重結合を介して連結し、かつ、CHである)を得ること、及び、所望されるならば、水素化して、請求項1又は請求項10において定義される化合物(この場合、R8及びR9は単結合を介して連結し、かつ、CH2である)を得ること、及び、さらには、必要により、その医薬的に許容され得る塩として単離することを含む、請求項1又は請求項10において定義される化合物又はその医薬的に許容され得る塩を調製する方法。
【請求項18】
前記ラパマイシンアナログが、ノルラパマイシン、デオキソラパマイシン又はデスメチルラパマイシンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
反応が高温において行われる、請求項17又は請求項18に記載の方法。
【請求項20】
生成物が、クロマトグラフィーを使用して単離される、請求項17〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
水素化が、Pd/C触媒及び水素ガスを使用して行われる、請求項17〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
生成物が、R8及びR9が単結合を介して連結し、かつ、CH2である式Iを有するか、又は、その医薬的に許容され得る塩である、請求項17〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
その必要性のある被験者において神経変性障害を治療するための医薬品の調製における、請求項1〜12のいずれか1項において定義される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の使用。
【請求項24】
前記神経変性障害が、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、ハンチントン舞踏病、パーキンソン病、脳卒中、脊髄傷害、外傷性脳傷害、レヴィー小体認知症、多発性硬化症、ピック病、ニーマン・ピック病、アミロイド血管症、脳アミロイド血管症、全身性アミロイドーシス、ダッチ型のアミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血、封入体筋炎、軽度認識障害及びダウン症候群からなる群より選択される、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
その必要性のある被験者において脳卒中又は頭蓋骨損傷に起因する合併症を治療するための医薬品の調製における、請求項1〜12のいずれか1項において定義される化合物又はその医薬的に許容され得る塩の使用。

【公表番号】特表2008−524232(P2008−524232A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546876(P2007−546876)
【出願日】平成17年12月15日(2005.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2005/045331
【国際公開番号】WO2006/068905
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(591011502)ワイス (573)
【氏名又は名称原語表記】Wyeth
【Fターム(参考)】