説明

ラミネート金属板DI成形用水性クーラント、ラミネート金属板のDI成形方法

【課題】ラミネート金属板のDI成形を可能とし、耐久性と食品安全性に優れたラミネートDI缶を得ることが可能なラミネート金属板DI成形用水性クーラントおよび水性ラミネート金属板のDI成形方法を提供する。
【解決手段】本発明の水性クーラントは、空気中において200℃で1分間加熱した時に分解または揮発して残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少する添加剤の1種以上を合計で0.03〜1質量%含む。そして、50℃におけるpHが6〜8が好ましい。例えば、前記添加剤としては、カテキン、アスコルビン酸、アスコルビン酸金属塩、トコフェロール、クロロゲン酸、チアミン、アラニン、グルタミン、γ−アミノ酪酸、ソルビン酸、ソルビン酸金属塩から選ばれる1種以上が好ましい。上記水性クーラントを用いてラミネート金属板をDI成形する際には、上記水性クーラントを使用してDI成形を行った後に、200℃以上の温度で熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラミネートDI缶を製造する際に用いられるクーラント(潤滑・冷却剤)および水性クーラントを使用したDI成形方法に関し、詳しくはラミネート金属板をしごき成形または再絞り・しごき成形してDI缶を製造する際に用いられる水性しごき成形用クーラントおよびその水性クーラントを使用したDI成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DI缶は、その胴と底の部分につなぎ目の無い2ピース缶の一つであり、金属板を絞り成形(カッピング)して作製した絞り缶をしごき成形または再絞り・しごき成形して加工される缶で、ビール、清涼飲料などの飲料用容器やスープ、野菜などの食品用容器として使用されている。
ここで、絞り成形とは、カッピングプレスと称される絞り成形機において、円盤状に切り抜いた金属板をしわ押さえ装置により固定し、ポンチとダイスの組み合わせからなる工具で底付きのカップ状に成形する加工方法である。また、しごき成形とは、絞り成形により得られたカップの側壁を薄く伸ばす加工である。
絞り成形において、円盤状に切り抜かれた金属板の直径がしごきポンチの直径に比べて大きすぎる場合には1回の絞り成形では所要の形状のカップを得ることが困難なことがあり、その場合2回の絞り成形(絞り−再絞り成形)で所要の形状に成形することが一般に行われる。この工程では、カッピングプレスと称される絞り成形機により比較的直径の大きなカップが製造され、次いでボディメーカー(缶体成形機)において先ず再絞り成形が行われ、その後しごき成形を実施することになる。
【0003】
DI缶の素材としては、これまでは錫めっき鋼板またはアルミ薄板の金属板が一般に用いられてきた。そして、これらの金属板をDI成形により所望の形状に成形にした後に洗浄、表面処理、塗装等の後処理が行われ、製品(DI缶)となる。しかし、最近は、このような洗浄、表面処理、塗装等の後処理を省略または簡略化できるようにと、フィルムをラミネートした金属板(以下、ラミネート金属板と称することもある)を用いてDI成形することで後処理すること無しに容器製品とする方法が検討されている。
【0004】
フィルムがラミネートされた金属板をDI成形する場合と、従来の金属板を素材とする場合とではDI成形方法が大きく異なる。
従来の金属板を素材としたDI缶の製造では、一般には乳化液型クーラントが用いられる。乳化液型クーラントでは水中に油が分散されているため、缶表面に残存した油の洗浄に薬剤を使用する必要があり、ラミネート金属板のDI成形には適さない。また、最近では、特許文献1〜3に記載されるように、脱脂性、洗浄性に優れる水溶性クーラントが開発され一般的になってきた。この水溶性クーラントは、金属板を素材とするため、金属表面と成形工具の間の摩擦を低減し成形性を高める目的でポリアルキレンポリオール(特許文献1)、三価アルコールと炭素数18の脂肪酸とのエステル(特許文献2)、ポリオキシアルキレン(特許文献3)などにより粘度を高くしており、また、成形工具及び金属板の防錆目的でアミン系の防錆剤を加えてアルカリ性に調整されている。しかし、上記水溶性クーラントを、ラミネート金属板を素材とするDI成形に適用しようとすると、成形性に劣り、フィルムにダメージを与えやすい上、食品安全性にも劣るなど、さまざまな問題があり適用できない。
一方で、クーラント用ではないが、鉄系金属装置の防錆に食品安全性の高いアミノ酸を添加する試みがなされている。特許文献4には、アミノ酸ポリマーを添加することが記載されている。しかし、アスパラギン酸等のアミノ酸ポリマーは必ずしも鉄の腐食防止に有効ではない上、成形後のDI缶に残存すると問題になる場合がある。
また、特許文献5には、ラミネート金属板の缶成形時に、成形歪みによりフィルム内に発生した応力を熱処理により緩和する技術が開示されている。
【特許文献1】特開昭59−166595号公報
【特許文献2】特開平10−85872号公報
【特許文献3】特開平10−88176号公報
【特許文献4】特開平8−100279号公報
【特許文献5】特公昭59−35344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ラミネート金属板をDI成形する場合は、金属板表面がラミネートフィルムで被覆されているために従来の金属板のDI成形とは成形方法が根本的に異なる。
ラミネートフィルムの表面は金属表面に比べ柔らかくまた潤滑性もあるため、金属板に使用されるような高分子を含んだ高粘性のクーラントを使用すると逆に成形性が低下することになる。
また、ラミネート金属板に使用されるポリエステルフィルムは、酸性では安定だがアルカリ性ではやや耐久性に劣る。さらに、トリエタノールアミン等のアミン系の防錆剤は洗浄後もDI缶に残存しやすく食品安全性が高いとは言えなかった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みなされたもので、ラミネート金属板のDI成形を可能とし、かつ、耐久性と食品安全性に優れたラミネートDI缶を得ることが可能なラミネート金属板DI成形用水性クーラントおよびその水性クーラントを使用したDI成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、以下の知見を得た。
特許文献5等に開示されるように、ラミネート金属板を缶成形する時に成形歪みによりフィルム内に発生した応力を熱処理により緩和することが一般的に行われている。本発明ではこの熱処理を利用して、その熱処理における熱で分解または揮発するような添加剤を用いることを考えた。そして、このような分解または揮発するような添加剤によりクーラントや成形装置の耐久性、劣化防止を行うことで、成形缶に残留する添加剤により発生する食品安全性等の問題を抑制することが可能となることを見出した。
そして、さらに検討を進めた結果、そのようなクーラント用添加剤として適切なものは、空気中において200℃で熱処理した時に分解または揮発してほとんど消失するものであることがわかった。中でも、特に分子内にアミノ基や水酸基を多く含むアミノ酸やポリフェノール類を用いることにより、鉄等金属表面に吸着しやすく成形装置内および素材の防錆性が高まるとともに、DI成形後の熱処理により消失するため洗浄も不要か簡略化され、食品安全性も高まることを見出した。
【0008】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
[1]空気中において200℃で1分間加熱した時分解または揮発して残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少する添加剤の1種以上を、合計で0.03〜1質量%含むことを特徴とするラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
[2]前記[1]において、前記添加剤は、カテキン、アスコルビン酸、アスコルビン酸金属塩、トコフェロール、クロロゲン酸、チアミン、アラニン、グルタミン、γ−アミノ酪酸、ソルビン酸、ソルビン酸金属塩から選ばれる1種以上であることを特徴とするラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
[3]前記[1]または[2]において、50℃におけるpHが6〜8であることを特徴とするラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
[4]前記[1]〜[3]のいずれかに記載のラミネート金属板DI成形用水性クーラントを使用してDI成形を行った後に、200℃以上の温度で熱処理を行うことを特徴とするラミネート金属板のDI成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水性クーラントをDI成形に用いることにより、ラミネート金属板のDI成形を可能とし、食品安全性と耐久性に優れたラミネートDI缶を得ることが可能となる。また、成形後の洗浄工程も簡略されるため、生産性も非常に高まる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のラミネート金属板DI成形用水性クーラントは、空気中において200℃で1分間加熱した時に分解または揮発して残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少する添加剤の1種以上を合計で0.03〜1質量%含むことを特徴とする。
【0011】
以下、これについて、詳細に説明する。
成形歪みによりフィルム内に発生した応力を緩和するための熱処理は、一般に(フィルムの融点−50)〜(フィルムの融点+50)℃の範囲の温度条件で行われることが多い。また、金属缶に使用されるフィルムとしては、加工性、耐熱性、食品安全性等の点からポリエステル系フィルムが最も多く用いられており、使用されるフィルムの融点は通常200〜260℃の間である。そのため、熱処理での温度も一般的には200〜260℃程度の条件で行われる。
そこで、熱処理における熱で分解または揮発するような添加剤を用いるに際し、本発明では、上記を考慮し熱処理に使用される最低の温度である200℃でほとんど消失する添加剤を使用することとした。また、熱処理の時間も通常1分間程度であることが多い。そこで、まず、用いる添加剤に対しての加熱条件は空気中において200℃で1分間とする。
一方、残存量が加熱前の含有量に対して1%超えでは缶表面に残存する量が無視できず食品安全性に影響を及ぼす。
以上より、用いる添加剤の条件として、空気中において200℃で1分間加熱した時、分解または揮発して残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少するものとする。
【0012】
200℃、1分間の加熱で分解または揮発し、残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少するものであり、クーラントや金属の劣化防止や安定性の向上に効果がある添加剤としては、以下の物質が挙げられる。
カテキン、アスコルビン酸、アスコルビン酸金属塩、トコフェロール、クロロゲン酸等のフェノール系物質は、クーラントや金属の酸化防止に効果があり、また200℃の温度で分解または揮発する。
アラニン、グルタミン、γ−アミノ酪酸等のアミノ酸系物質も、金属の腐食抑制に効果があり、同様に200℃の温度で分解または揮発する。
チアミン、ソルビン酸、ソルビン酸金属塩等の物質は、クーラント溶液の安定性向上、防腐、防カビ、金属の腐食抑制等に効果があり、また同様に200℃の温度で分解または揮発する。
【0013】
ここで、上記添加剤の1種以上を、合計で0.03〜1質量%含むこととする。0.03質量%未満では上記効果が十分得られない。一方、1質量%を超えてもそれらの効果にあまり変わりなく、一方で、成形缶に残存しやすくなり、コスト面からも不適である。好ましくは、0.05〜0.5質量%である。
【0014】
また、成形缶への添加剤の残存による安全性の点から、上記添加剤は水性クーラントに含まれる全添加剤のうちの90質量%以上であることが望ましい。さらに好ましくは、95質量%以上である。一方、上記以外のその他添加剤成分は、0.01質量%以下で微量ならば、食品安全性を損なわない限りにおいて腐食抑制を補助するような目的で添加することができる。他の防錆剤や、他の添加剤としては、例えば、油性剤、界面活性剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、金属イオン封止剤等が挙げられ、適宜配合してもよい。
【0015】
本発明では、上記添加物を水に溶かし、水性クーラントの基本組成とする。溶媒となる水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水などいずれもそのまま使用可能である。
【0016】
また、ラミネート金属板のDI成形におけるクーラント温度は50℃前後に調節される。そのため、その温度域でのクーラント物性が重要となる。金属板の場合はアミン等を加えてアルカリ性に調節されるのに対し、本発明で用いるラミネート金属板に適当なpHとしては、ほぼ中性の領域のpH6〜8が最適である。水溶時に添加剤を添加した後にpHが低すぎる場合は、フェノールやアミノ酸等の添加によりpHを低下させる。一方、pHが高すぎる場合は、酢酸やクエン酸等のカルボン酸やアミノ酸等の添加によりpHを低下させる。pHが8より高いとフィルムが劣化しやすく、pHが6より低いと下地の金属板が腐食しやすい。
【0017】
上述したように、さらに、本発明では、食品安全性を損なわない限り腐食抑制を補助するような他の防錆剤を0.01質量%以下で微量添加することができる。
【0018】
防錆剤
ラミネート金属板および装置の両方の腐食を抑制するため、本発明のラミネート金属板DI成形用水性クーラント中には、防錆剤を微量含有するのが好ましい。本発明では、主剤として、空気中において200℃で1分間加熱した時に分解または揮発して残存量が加熱前の1%以下に減少する添加剤を用いているため、防錆剤に関しても残存量が少ないことが望ましく、本発明の効果を害しない範囲として、含有する場合は0.01%以下とする。
【0019】
防錆成分としては、1)オクタン酸、ナフテン酸、アルケニルコハク酸、セバシン酸、オレイン酸、ラノリン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、リシノール酸、(4−ノニルフェノキシ)酢酸等のカルボン酸類、上記カルボン酸類のエステル、または上記カルボン酸類の金属塩(Na、K、Ca、Mg等)の中から選ばれる1種以上、2)石油スルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類、上記スルホン酸類のエステル、または上記スルホン酸類の金属塩(Na、K、Ca、Mg等)の中から選ばれる1種以上、3)ホウ酸、ケイ酸、リン酸等の酸類、ホウ酸、ケイ酸、リン酸等の各々のエステル、またはホウ酸、ケイ酸、リン酸等の各々の金属塩(Na、K、Ca、Mg等)の中から選ばれる1種以上が好適に用いられる。そして、上記1)〜3)を添加するにあたっては、1)〜3)の中から選ばれる1種を単独で添加してもよいし、1)〜3)の中から選ばれる1種以上を複合添加してもよい。
上記成分はポリエステルフィルムを劣化させず、またフィルム中にも残留しにくいので簡易の洗浄で十分洗い落とすことができる。そして、ラミネート金属板および装置両方の腐食を抑制することが十分に可能である。
【0020】
さらに、本発明では、上記に加え、所望により他の添加剤、例えば、油性剤、界面活性剤、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、金属イオン封止剤等を適宜配合してもよい。添加剤の配合量は、特に限定されず、常法に従って適宜調製すればよい。しかしながら、添加する場合は、上記防錆剤と同様に、残存量が少ないことが望ましく、本発明の効果を害しない範囲として、0.01%以下とするのがさらに好ましい。
【0021】
油性剤
油性剤としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール等があり、脂肪酸としては、例えば、ステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸、オレイン酸等のモノエン不飽和脂肪酸、ポリエン不飽和脂肪酸、脂環式脂肪酸、モノヒドロキシ脂肪酸、ジヒドロキシ脂肪酸等が挙げられ、脂肪酸エステルとしては、例えば、上記脂肪酸のアルキルアルコ−ルとのエステル(メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、ヘキシルエステル、オクチルエステル、ノニルエステル、デカンエステル、ウンデカンエステル、ドデカンエステル、テトラデカンエステル、ヘキサデカンエステル、オクタデカンエステル)やトリメチロ−ルプロパン、ペンタリスリト−ルとのエステル等が挙げられる。また、高級アルコールとしては、ラウリルアルコールやオレイルアルコールが挙げられる。
【0022】
界面活性剤
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系または両性系界面活性剤を用いることができ、これらの中でも、特に、ノニオン系界面活性剤が好ましい。ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、アルキルポリエチレンオキサイドエーテル、アルキルポリプロピレンオキサイドポリエチレンオキサイドエーテル、プルロニック、テトロニック等のポリエチレンオキサイドエーテル系界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸シュガーエステル、グリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等の多価アルコール脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイド脂肪酸エステル、ソルビタンポリエチレンオキサイド脂肪酸エステル、ソルビトールポリエチレンオキサイド脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールポリエチレンオキサイド脂肪酸エステル、ひまし油ポリエチレンオキサイド等のポリエチレンオキサイドエステル系界面活性剤等が挙げられる。
上記ノニオン系界面活性剤とアニオン系界面活性剤を併用することもできる。さらに公知のカチオン系界面活性剤、両性系界面活性剤を用いることもできる。
【0023】
清浄剤
清浄剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属サルシレート、アルカリ金属またはアルカリ土類金属フェネート、脂肪酸石けん等が挙げられる。
【0024】
分散剤
分散剤としては、アルケニルコハク酸イミド、非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0025】
酸化防止剤
酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)等のフェノール化合物、4,4‘メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール化合物などが挙げられる。
【0026】
防腐剤
防腐剤としては、フェノール系、トリアジン系又はイソチアゾリン系等が代表的であるが、具体的には、フェノール系としては、o−フェニルフェノール、Na−o−フェニルフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール等が挙げられる。トリアジン系としては、ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。イソチアゾリン系としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0027】
消泡剤
消泡剤としては、シリコーンのエマルション、高級アルコール、金属石けん、エチレン−プロピレンコポリマー等を挙げることができる。
【0028】
本発明におけるラミネート金属板の素材としては、鋼板、アルミニウム素材が使用可能であるが、経済性から安価な鋼板が好ましい。ラミネート下地用の鋼板としては、クロムめっき鋼板またはぶりき鋼板が使用可能である。クロムめっき鋼板(ティンフリースチール)としては、表面に付着量50〜200mg/mの金属クロム層と、金属クロム換算の付着量が3〜30mg/mのクロム酸化物層を前記金属クロム層の表面に有することが好ましい。ぶりきは、0.5〜15g/mのめっき量を有するものが好ましい。板厚は、特に限定されないが、例えば、0.15〜0.30mmの範囲のものが好適に使用できる。
【0029】
次いで、本発明におけるラミネート金属板を構成する樹脂層について説明する。本発明のラミネート金属板を構成する樹脂層はポリエステル樹脂を基本とする。ポリエステル樹脂フィルムは、機械的強度に優れ、摩擦係数が小さく潤滑性が良好で、ガスや液体に対する遮蔽効果すなわちバリア性に優れ、かつ安価である。従って、DI成形のように、伸び率が300%にもなる加工度の高い成形にも十分に耐えることができ、皮膜は成形後も健全である。
ポリエステル樹脂のジカルボン酸成分はテレフタル酸を主成分とし、ジオール成分は、エチレングリコールを主成分とする。そして、ポリエステル樹脂層の加工性と強度のバランスから、共重合成分として、8mol%以上20mol%以下のイソフタル酸成分を含有することが好ましい。また、結晶化温度は120〜160℃であることが好ましい。
共重合成分比率が低い場合、分子が配向し易く、加工度が高くなると、フィルム剥離が発生したり、缶高さ方向に平行な亀裂(破断)が生じる傾向にある。また、加工後の缶体に熱処理を施した場合も同様に配向が進む。配向のし難さの点からは、共重合成分の比率は高いほど良いが、20mol%を超えるとフィルムコストが高くなるため経済性が劣る他、フィルムが柔軟になり傷付き性や耐薬品性が低下する可能性がある。
結晶化温度については、120℃より低いと非常に結晶化しやすいため高加工度の加工ではフィルム樹脂にクラックやピンホールが発生する場合がある。一方、160℃より高い場合は結晶化スピードが非常に遅いため、150℃以上の熱処理でも十分に結晶化せずフィルムの強度や耐久性が損なわれる場合がある。
さらに、樹脂層中には顔料や滑剤、安定剤などの添加剤を加えて用いても良いし、他の機能を有する樹脂層を上層または下地鋼板との中間層に配置して2層以上の樹脂層にしても良い。樹脂層の厚みについては、5μm以上50μm以下のものが好適に使用できる。
【0030】
本発明におけるラミネート金属板は、前述した金属板に前述したポリエステル樹脂層を両面に有する。金属板への樹脂のラミネート方法は特に限定されない。2軸延伸フィルム、あるいは無延伸フィルムを熱圧着させる熱圧着法、Tダイなどを用いて金属板上に直接樹脂層を形成させる押し出し法など適宜選択することができる。さらに、ポリエステルウレタン系、飽和ポリエステル系等の接着剤を使用して、ポリエステル樹脂フィルムを下地金属板に貼り合わせることも可能であり、いずれの方法でも十分な効果が得られることが確認されているが、特に熱圧着法が、下地金属との密着性にも優れ、また接着剤を必要としない等の理由で経済的にも有利である。
【0031】
本発明のDI成形では、市販のカッピングプレス、およびDIプレス装置が使用可能であり、その仕様による差はない。本発明のラミネート金属板DI成形用水性クーラントはDIプレス装置でのしごき成形(および再絞り成形)に用いられ、装置内を循環して成形時の冷却を行う。一方、カッピングプレスの絞り加工時の潤滑としては、ラミネート金属板表面にワックスを塗布することが好ましく、融点30〜80℃のパラフィンや脂肪酸エステル系のワックスを10〜500mg/m塗布したものが良好な成形性を示す。
【0032】
DIプレス装置での成形後は、洗浄して、もしくは洗浄すること無しにそのまま、その後の乾燥とフィルムの密着性向上のために熱処理を行う。この時の熱処理温度は200℃以上が好ましい。200℃以上での乾燥処理を行うことにより添加剤成分がほとんど消失し安全性の高いラミネートDI缶が得られる。一方、フィルムの耐久性を劣化させないためには、熱処理温度は、樹脂層融点以下が好ましい。なお、DI成形後、洗浄を行う場合は、水による洗浄で十分である。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0034】
「ラミネート鋼板の作製」
厚さ0.20mmのテンパー度T3のクロムめっき鋼板(金属Cr層:120mg/m、Cr酸化物層:金属Cr換算で10mg/m)を下地原板として用い、この原板に対して、2軸延伸法で作製された厚さ25μmのイソフタル酸10%共重合ポリエチレンテレフタレートフィルムを、240℃に加熱した鋼板上にニップロールを用いて圧着し、その後1秒以内に水冷、乾燥することにより、ラミネートDI缶用ラミネート鋼板を作製した。
【0035】
「缶体成形」
上記により得られたラミネート鋼板を用いて、以下に示す条件によりDI成形して缶を成形した。また、DI成形後に、ストリッピング性、DI成形性(成形後の缶外面フィルム健全性)、耐食性(缶内面の健全性)を、以下に述べる性能試験によって評価した。なお、上記DI成形性、上記耐食性の評価については、DI成形で作られたDI缶に対し、50℃のイオン交換水で2分間スプレーして表面を洗浄し、次いで、210℃の乾燥炉で30秒間乾燥した後に、下記の試験を行った。得られた結果を表1に示す。
【0036】
「DI成形」
DI成形は、まずラミネート鋼板の両面に融点45℃のパラフィンワックスを50mg/m塗布した後に、123mmφのブランクを打ち抜き、そのブランクを市販のカッピングプレスで、内径71mmφ、高さ36mmのカップに絞り成形した。次いでこのカップを市販のDIプレス装置に装入して、ポンチスピード200mm/s、ストローク560mmで、再絞り加工及び3段階のアイアニング加工(それぞれのリダクション20%、19%、23%)を行い、最終的に缶内径52mm、缶高さ90mmの缶を成形した。なお、DI成形中には、表1に示す組成のクーラントを50℃の温度で循環させた。また、表1に記載のクーラントは水として水道水を使用した。
【0037】
(1)ストリッピング性
DI成形時に、成形された缶体からポンチが引抜かれる際に、缶体の開口端がストリッパーにひっかかり缶の開口部端が歪む現象を、下記のように評価した。
(評価)
開口端に発生した歪みがトリミング部にまで達する:×
開口端に歪みが発生するが、その歪みがトリミング部にまで達しない:△
開口端に歪みが発生するが、その歪みが開口端の耳の部分に留まる:○
開口端に歪み無し:◎
(2)DI成形性(成形後の缶外面フィルム健全性)
成形後の缶外面フィルムの健全性(フィルム欠陥の少ないものが良好)により評価を行った。洗浄、乾燥後のDI缶について、DI缶の鋼板に通電できるように缶口にやすりで傷をつけた後に、電解液(NaCl1%溶液、温度25℃)を入れた容器(DI缶よりやや大きい)にDI缶を、底を下にして入れて缶の外面だけが電解液に接するようにした。その後缶体と電解液間に6.2Vの電圧を付与した時に測定される電流値に応じて下記のように評価した。
(評価)
5mA超:×
0.5mA超、5mA以下:△
0.05mA超、0.5mA以下:○
0.05mA以下:◎
(3)耐食性(缶内面の健全性)
缶内面フィルムの健全性(フィルム欠陥の少ないものが良好)については、洗浄、乾燥後のDI缶について、DI缶の鋼板に通電できるように、やすりで缶口に傷をつけた後に、缶内に電解液(NaCl1%溶液、温度25℃)を注ぎ缶口まで満たし、その後缶体と電解液間に6.2Vの電圧を付与した。この時測定される電流値に応じて下記のように評価した。
(評価)
1mA超:×
0.1mA超、1mA以下:△
0.01mA超、0.1mA以下:○
0.01mA以下:◎
(4)食味評価
熱処理後の缶内面へのクーラント添加物の残存について食味官能試験により評価した。熱処理後の缶にフランジ処理を施した後、缶に純水をフチまで入れた後に蓋を巻き締めてレトルト処理(125℃90分間)を行い、レトルト処理後の水について、5人の試験者に対して官能試験を行なった。
(評価)
5人中2人以上が異臭または味の違いを感じたもの:×
5人中1人以下が異臭または味の違いを感じたもの:○
【0038】
【表1】

【0039】
表1より、本発明例であるクーラントC1〜C16を用いた場合は、ストリッピング性、DI成形性、耐食性、食味のいずれも良好であった。
一方、比較例であるクーラントC17〜C24を用いた場合は、ストリッピング性、DI成形性、耐食性、食味のいずれか1つ以上が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中において200℃で1分間加熱した時分解または揮発して残存量が加熱前の含有量に対して1%以下に減少する添加剤の1種以上を、合計で0.03〜1質量%含むことを特徴とするラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
【請求項2】
前記添加剤は、カテキン、アスコルビン酸、アスコルビン酸金属塩、トコフェロール、クロロゲン酸、チアミン、アラニン、グルタミン、γ−アミノ酪酸、ソルビン酸、ソルビン酸金属塩から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1に記載のラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
【請求項3】
50℃におけるpHが6〜8であることを特徴とする請求項1または2に記載のラミネート金属板DI成形用水性クーラント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のラミネート金属板DI成形用水性クーラントを使用してDI成形を行った後に、200℃以上の温度で熱処理を行うことを特徴とするラミネート金属板のDI成形方法。

【公開番号】特開2009−51964(P2009−51964A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221046(P2007−221046)
【出願日】平成19年8月28日(2007.8.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】