説明

ランキンサイクル

【課題】作動流体と熱媒体との熱交換において、熱交換量の増加に対する作動流体の温度上昇の抑制を可能にするランキンサイクルの提供を課題とする。
【解決手段】ランキンサイクル101は、冷媒の循環路に、冷媒と排気ガスとを熱交換させる廃ガスボイラ113、膨張機114、コンデンサ115、及びポンプ111が順次設けられ、廃ガスボイラ113から流出した冷媒温度を検出する温度センサ131と、廃ガスボイラ113を流通する冷媒圧力を検出する圧力センサ132と、廃ガスボイラ113への冷媒流量を調節するバイパス流路3及び流量調整弁130と、流量調整弁130を制御するECU140とを備える。ECU140は、膨張機114に吸入される冷媒の温度及び圧力が、冷媒の温度の上昇に伴って冷媒の密度を増加させるようにして目標圧力を設定する目標圧力線TPL上に沿う関係を満たして遷移するように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ランキンサイクルに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内燃機関から排出される熱を発電機等の動力に変換するランキンサイクルを利用した技術が開発されている。
ランキンサイクルは、内燃機関から排出される熱を含む熱媒体と作動流体とを熱交換させて作動流体を過熱蒸気化する熱交換器、過熱蒸気状態の作動流体を膨張させて動力を得る膨張機、膨張させた作動流体を冷却して液化するコンデンサ、及び液化した作動流体を熱交換器に圧送するポンプ等から構成される。そして、膨張機では、作動流体を膨張させることによってタービン等の回転体を回転させて、作動流体の膨張時のエネルギーを回転駆動力に変換しており、この変換された回転駆動力が発電機等に動力として伝達される。
【0003】
例えば、特許文献1には、冷媒ポンプが冷媒(作動流体)を膨張機に送る流路の途中に、冷媒及び内燃機関の冷却水を熱交換させる第1熱交換器と、冷媒及び内燃機関の排気ガス(熱媒体)を熱交換させる第2熱交換器とをこの順で配置したランキンサイクルが記載されている。特許文献1のランキンサイクルでは、冷媒は、第1熱交換器で冷却水と熱交換を行って蒸気となった後、第2熱交換器でより温度が高い排気ガスと熱交換を行って過熱蒸気となり、膨張機に流入する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−12625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のランキンサイクルにおいて、排気ガスは、内燃機関の負荷によって約200℃〜800℃の間で温度が大きく変動し非常に高温になるため、第2熱交換器で熱交換を行う冷媒は、排気ガスの温度上昇に伴って吸熱量が大きくなって高温になり、この高温の冷媒が膨張機に吸入される。このため、特許文献1のランキンサイクルでは、膨張機、冷媒の配管等に耐熱設計が必要となり、コストが増大するという問題がある。
【0006】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、冷媒(作動流体)と排気ガス(熱媒体)との熱交換において、排気ガスの温度上昇に対する冷媒の温度上昇を抑制するランキンサイクルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明に係るランキンサイクルは、作動流体の循環路に、作動流体と熱媒体とを熱交換させる熱交換器、作動流体を膨張させて駆動力を発生する流体膨張器、作動流体を凝縮させる凝縮器、及び、作動流体を熱交換器に移送する流体圧送装置が順次設けられ、且つ熱交換器での熱媒体との熱交換後の作動流体の状態が過熱蒸気であるランキンサイクルにおいて、熱交換器から流出した作動流体の温度を検出する温度検出器と、熱交換器を流通する作動流体の圧力を検出する圧力検出器と、熱交換器への作動流体の流量を調節する流量調整手段と、流量調整手段を制御する制御装置とを備え、制御装置は、温度検出器により検出される温度の上昇に伴って熱交換器から流出した作動流体の密度が増加するように目標圧力を設定し、圧力検出器の検出圧力が目標圧力になるように、流量調整手段を制御する。
【0008】
制御装置は、温度検出器により検出される温度の上昇に伴って流量調整手段を制御し、熱交換器への作動流体の流量を増加させてもよい。
また、制御装置では、目標圧力には上限圧力が設定されており、温度検出器により検出される温度が所定温度以上の場合は圧力検出器の検出圧力が上記上限圧力となるように流量調整手段を制御してもよい。
目標圧力は、熱交換器から流出した作動流体のエンタルピに比例していてもよい。
【0009】
流量調整手段は、流体圧送装置から熱交換器に向かう作動流体の流路を、流体膨張器から流体圧送装置に向かう作動流体の流路に連通するバイパスと、バイパスにおける作動流体の流量を調節可能な流量調整弁とであってもよい。
さらに、バイパスは、流体膨張器から流体圧送装置に向かう作動流体の流路における、凝縮器と流体圧送装置との間に接続してもよい。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係るランキンサイクルによれば、作動流体と熱媒体との熱交換において、熱交換量の増加に対する作動流体の温度上昇を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態に係るランキンサイクル及びその周辺の構成を示す模式図である。
【図2】図1のランキンサイクルにおける冷媒の状態変化をp−h線図上に示す図である。
【図3】実施の形態に係るランキンサイクルの変形例を示す図である。
【図4】実施の形態に係るランキンサイクルの別の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態
まず、この発明の実施の形態に係るランキンサイクル101及びその周辺の構成を説明する。なお、以下の実施形態において、内燃機関すなわちエンジン10を搭載する車両にランキンサイクルを使用した場合の例について説明する。
図1を参照すると、エンジン10を備える図示しない車両は、ランキンサイクル101を備えている。
【0013】
ランキンサイクル101は、ポンプ111、冷却水ボイラ112、廃ガスボイラ113、膨張機114、コンデンサ115、レシーバ116及びサブクーラ117を順次環状に接続する循環路を形成しており、作動流体である冷媒(本実施の形態では、R134a)が流通するようになっている。
【0014】
ポンプ111は、稼動して流体を圧送するものであり、本実施の形態では、液体を圧送するものとする。ポンプ111は、その駆動軸119を膨張機114と共有している。さらに、駆動軸119には、電磁クラッチ119aを介してプーリ119bが連結され、プーリ119bは、エンジン10から延びるエンジン駆動軸10aに連結されたエンジンプーリ10bと、駆動ベルト10cによって連結されている。電磁クラッチ119aは、駆動軸119とプーリ119bとを接続又は切断することができ、車両の制御装置であるECU140に電気的に接続されてその断接動作が制御される。このため、ポンプ111の回転数は、エンジン10又は膨張機114の回転数に依存する。
ここで、ポンプ111は流体圧送装置を構成している。
【0015】
また、ポンプ111の下流側の吐出口は、流路部1a及び1bを介して冷却水ボイラ112の冷媒入口に連通している。冷却水ボイラ112は、その内部で、エンジン10の冷却水回路20を流通するエンジン冷却用の冷却水と冷媒とを流通させて互いに熱交換させ、冷媒を加熱することができる。
なお、冷却水回路20では、エンジン10から延びてエンジン10と一体のウォーターポンプ21に接続する循環流路である水循環流路20aの途中にラジエータ22が設けられ、水循環流路20aの途中で分岐して再び水循環流路20aに合流する分岐水流路20bの途中に冷却水ボイラ112が設けられている。ラジエータ22は、内部を流通する冷却水と周囲の空気とを熱交換させて冷却水を冷却する。
【0016】
冷却水ボイラ112の冷媒出口は、流路部1cを介して廃ガスボイラ113の冷媒入口に連通している。廃ガスボイラ113は、その内部に、冷却水ボイラ112から流出した冷媒と、エンジン10の排気系統30の排気ガスとを流通させて互いに熱交換させ、冷媒を加熱することができる。なお、廃ガスボイラ113は、排気系統30におけるエンジン10をマフラー30bに連通する排気流路30aの途中に介在させて設けられている。
ここで、排気ガスは熱媒体を構成し、廃ガスボイラ113は熱交換器を構成している。
【0017】
廃ガスボイラ113の冷媒出口は、流路部1dを介して流体膨張器である膨張機114の入口に連通している。膨張機114は、その内部で、廃ガスボイラ113で加熱された後の高温高圧の冷媒を膨張させることによってタービン等の回転体と共に駆動軸119を回転させ、回転駆動力による仕事を得る流体機器である。また、膨張機114とポンプ111との間には、発電機能を有するオルタネータ118が設けられ、オルタネータ118は駆動軸119を共有している。よって、膨張機114が発生する回転駆動力は、駆動軸119を介してオルタネータ118及びポンプ111を一体に駆動させることができ、また、エンジン10によって付与されるポンプ111の駆動力は、駆動軸119を介してオルタネータ118及び膨張機114を一体に駆動させることができる。
なお、流路部1a、1b、1c及び1dは、冷媒の高圧側流路である第一流路1を構成している。
【0018】
また、オルタネータ118は、コンバータ120と電気的に接続され、さらに、コンバータ120は、バッテリ121と電気的に接続されている。そして、膨張機114が駆動軸119を回転駆動すると、オルタネータ118が交流電流を発生してコンバータ120に送り、コンバータ120は、送られた交流電流を直流電流に変換してバッテリ121に供給し充電させる。
【0019】
また、膨張機114の出口は、流路部2aを介してコンデンサ115の入口に連通している。コンデンサ115は、その内部に冷媒を流通させてコンデンサ115の周囲の空気と熱交換させ、冷媒を冷却・凝縮させることができる。
ここで、コンデンサ115は、凝縮器を構成している。
【0020】
コンデンサ115の出口は、流路部2bを介してレシーバ116の入口に連通し、さらに、レシーバ116の出口は、流路部2cを介してサブクーラ117の入口に連通している。
レシーバ116は、内部に液体の冷媒を含む気液分離器であり、冷媒に含まれる冷媒の蒸気成分、水分、異物等を除去するものである。
サブクーラ117は、その内部にレシーバ116から送られる液体の冷媒を流通させてサブクーラ117の周囲の空気と熱交換させ、冷媒を過冷却することができる。
【0021】
また、サブクーラ117の出口は、流路部2dを介してポンプ111の吸入口に連通し、サブクーラ117から流出した冷媒が、ポンプ111によって吸入されて再び圧送され、ランキンサイクル101を循環する。
なお、流路部2a、2b、2c及び2dは、冷媒の低圧側流路である第二流路2を構成している。
【0022】
また、ランキンサイクル101は、第一流路1の流路部1aを第二流路2に連通するバイパス流路3を有している。なお、本実施の形態では、バイパス流路3の一方の端部は、第一流路1の流路部1a及び流路部1bの連結部に接続され、バイパス流路3の他方の端部は、第二流路2の流路部2bに接続されている。さらに、ランキンサイクル101は、バイパス流路3の途中に、バイパス流路3の開放又は閉鎖が可能で、そしてバイパス流路3の流路断面積の調節が可能な流量調整弁130を有している。なお、流量調整弁130は、ECU140に電気的に接続されてその動作が制御される。
ここで、バイパス流路3及び流量調整弁130は、流量調整手段を構成している。
【0023】
また、ランキンサイクル101は、第一流路1の流路部1dにおける膨張機114の入口の近傍に、流路部1dを流通する冷媒の温度を検出する温度センサ131と、流路部1dを流通する冷媒の圧力を検出する圧力センサ132とを有している。温度センサ131は、膨張機114の入口の冷媒の温度、つまり廃ガスボイラ113から流出した冷媒の温度を検出し、電気的に接続されたECU140に検出した冷媒の温度情報を送る。また、圧力センサ132は、膨張機114の入口の冷媒の圧力、つまり廃ガスボイラ113を流通する冷媒の圧力を検出し、電気的に接続されたECU140に検出した冷媒の圧力情報を送る。なお、第一流路1の流路部1a〜1dでは、流量調整弁130の開放及び閉鎖に関係なく、各流路間で冷媒の圧力は同等であるため、圧力センサ132は、流路部1a〜1cのいずれかに設けられてもよい。
ここで、温度センサ131は温度検出器を構成し、圧力センサ132は圧力検出器を構成している。
【0024】
次に、この発明の実施の形態に係るランキンサイクル101の動作を説明する。
図1を参照すると、エンジン10の稼動中、ウォーターポンプ21も稼動して冷却水を圧送し、エンジン10から外部に圧送された冷却水は、冷却水回路20において冷却水ボイラ112及びラジエータ22を流通し再びエンジン10に戻るように循環する。
【0025】
また、稼働中のエンジン10から排気系統30に排気ガスが排出され、排出された排気ガスは、廃ガスボイラ113の内部を流通した後、マフラー30bから車両の外部に排出される。
また、エンジン10が稼動すると、ECU140は、電磁クラッチ119aを接続させる。これにより、エンジン10の回転駆動力が、エンジン駆動軸10a、エンジンプーリ10b、駆動ベルト10c、プーリ119b及び電磁クラッチ119aを介して、駆動軸119に伝達し、それによって、駆動軸119が、ポンプ111、オルタネータ118及び膨張機114を一体に駆動する。
【0026】
駆動されたポンプ111は、液体状態の冷媒を冷却水ボイラ112に向かって圧送し、また、駆動された膨張機114は、タービン等の回転体を回転させ、第一流路1の流路部1dの冷媒を降圧して第二流路2の流路部2aに送る。なお、冷媒は、ポンプ111によって圧送されることで、断熱加圧作用を受ける。
ポンプ111によって圧送された液体状態の冷媒は、流路部1a及び1bを通過して冷却水ボイラ112に流入し、その内部を流通する冷却水と熱交換を行うことによって等圧加熱されて昇温し、流出する。なお、流量調整弁130が開放されている場合は、流路部1aの冷媒の一部が、バイパス流路3を通って第二流路2の流路部2bに合流する。
【0027】
冷却水ボイラ112から流出した冷媒は、流路部1cを通過して廃ガスボイラ113に流入し、その内部を流通する排気ガスと熱交換を行うことによって等圧加熱されて昇温し、高温高圧の過熱蒸気となって流出する。
さらに、廃ガスボイラ113から流出した高温高圧の過熱蒸気状態の冷媒は、流路部1dを通過して膨張機114に吸入され、膨張機114では、上流側の流路部1dと下流側の流路部2aとの間の冷媒の圧力差を利用して、冷媒が断熱膨張し、高温低圧の過熱蒸気状態で流出する。そして、冷媒の膨張エネルギーが回生エネルギーとして回転エネルギーに変換され、駆動軸119に伝達する。
【0028】
なお、駆動軸119に伝達した回生エネルギーは、オルタネータ118及びポンプ111に回転駆動力として付与されるだけでなく、エンジン10に伝達してその回転駆動を補助する。また、オルタネータ118は、加えられる回転駆動力によって稼動して交流電流を生成し、生成された交流電流は、コンバータ120で直流電流に変換された後、バッテリ121に充電される。
【0029】
膨張機114から流出した過熱蒸気状態の冷媒は、流路部2aを通過してコンデンサ115に流入し、コンデンサ115において周囲の空気すなわち外気と熱交換を行うことによって等圧冷却されて凝縮し、液体状態となって流出する。
さらに、コンデンサ115から流出した液体状態の冷媒は、流路部2bを通過してレシーバ116に流入し、レシーバ116の内部に貯められた液体冷媒中を通過して流路部2cに流出する。冷媒は、レシーバ116内を通過する際、含有する冷媒の蒸気成分、水分及び異物等が除去される。
【0030】
そして、レシーバ116から流出した冷媒は、流路部2cを通過してサブクーラ117に流入し、サブクーラ117において外気と熱交換を行うことによってさらに等圧冷却され、過冷却液状態となって流路部2dに流出する。さらに、流路部2dの冷媒は、ポンプ111に吸入されて再度圧送され、ランキンサイクル101を循環する。
【0031】
ここで、図2では、ランキンサイクル101の循環過程での冷媒の状態変化が、冷媒のp−h線図上に示されている。p−h線図は、縦軸を冷媒の圧力(単位をMPaとする)とし、横軸を冷媒のエンタルピ(単位をkJ/kgとする)とする直交座標系を有している。さらに、冷媒が過冷却液状態となる領域が過冷却液領域SLで示され、冷媒が湿り蒸気状態となる領域が湿り蒸気領域WSで示され、冷媒が過熱蒸気状態となる領域が過熱蒸気領域SSで示されている。そして、過冷却液領域SL及び湿り蒸気領域WSの境界には飽和液線αが示され、湿り蒸気領域WS及び過熱蒸気領域SSの境界には乾き飽和蒸気線βが示されている。
【0032】
さらに、図2において、エンジン10(図1参照)負荷が中程度であり、ランキンサイクル101稼動中の排気ガス温度が平均的な状態(例えば約500〜600℃程度)でのランキンサイクル101を循環する冷媒の状態変化が、点A、B、C及びDを頂点とする台形状をしたサイクルSに沿って進行する。
図1をあわせて参照すると、サイクルSにおいて、点Aから点Bの工程は、ポンプ111の圧送による冷媒の断熱加圧工程を示し、この工程では、冷媒は、圧力を圧力Paから圧力Pbへ上昇させると共に温度を上昇させ、その状態は、過冷却液領域SL内で液体状態(過冷却液状態)を維持する。
【0033】
点Bから点Eの工程は、冷却水ボイラ112における等圧加熱工程を示し、点Eから点Cの工程は、廃ガスボイラ113における等圧加熱工程を示す。冷媒は、点Bから点Eの工程では、冷却水との熱交換により圧力をPbに維持したまま温度を上昇させ、点Eから点Cの工程では、排気ガスとの熱交換により圧力をPbに維持したままさらに温度を上昇させて温度Tになる。なお、温度Tは、本実施の形態では、120℃とする。このとき、冷媒の状態は、点Bから点Eの工程では、過冷却液領域SL内で過冷却液状態を維持し、点Eから点Cの工程では、過冷却液領域SL内の過冷却液状態から湿り蒸気領域WSを経て過熱蒸気領域SS内の過熱蒸気状態に変化する。
【0034】
点Cから点Dの工程は、膨張機114による断熱膨張工程を示し、この工程では、冷媒は、圧力を圧力Pbから圧力Paに低下させると共に温度を低下させ、その状態は、過熱蒸気領域SS内で過熱蒸気状態を維持する。
【0035】
点Dから点Fの工程は、コンデンサ115における等圧冷却工程を示し、点Fから点Aの工程は、サブクーラ117における等圧冷却工程を示す。冷媒は、点Dから点Fの工程では外気との熱交換により圧力をPaに維持したまま温度を低下させ、点Fから点Aの工程では外気との熱交換により圧力をPaに維持したまま温度をさらに低下させる。このとき、冷媒の状態は、点Dから点Fの工程では過熱蒸気領域SS内の過熱蒸気状態から飽和液に変化し、点Fから点Aの工程では飽和液から過冷却液領域SL内の過冷却液状態に変化する。
【0036】
また、エンジン10の負荷が高くなり排気ガスの熱量が大きくなって温度が上昇すると、廃ガスボイラ113で排気ガスから冷媒が吸収する熱量が増加し、冷媒のエンタルピが増加する。そして、ポンプ111及び膨張機114の回転数がエンジン10と連動していて一定であるため、廃ガスボイラ113での熱交換後に点Cにあった冷媒の状態は、例えば点Cを通る等密度線(等比体積線)d0上を、エンタルピの増加方向、つまり温度の上昇方向である点C1に遷移しようとする。点Cから点C1への状態変化は温度上昇が大きい。そこで、ランキンサイクル101では、排気ガスの温度上昇に対して、廃ガスボイラ113での熱交換後の冷媒つまり膨張機114に吸入される冷媒の温度上昇を抑え、膨張機114に加えられる熱量を低減するために、以下のような制御が行われる。
【0037】
なお、図2の等密度線d0、d1、d2、d3、d4及びd5は、d0からd5に向かう従ってその密度が大きくなるが、それと反対に比体積は小さくなる。また、図2の曲線Tは、温度Tの等温度線を示し、等温度線Tから等温度線T、T、T、T、T、T、Tに向かうに従ってその温度が10℃ずつ高くなり、等温度線Tから等温度線T−1、T−2、T−3、T−4、T−5に向かうに従ってその温度が10℃ずつ低くなる。
【0038】
このとき、ECU140は、廃ガスボイラ113での熱交換後の冷媒の温度及び廃ガスボイラ113を流通する冷媒の圧力、つまり膨張機114に吸入される冷媒の温度及び圧力が、目標圧力線TPL上に沿う関係を満たして遷移するように制御する。すなわち、ECU140は、膨張機114に吸入される冷媒の温度に対応して、膨張機114に吸入される冷媒の圧力を調節することによって、冷媒の温度及び圧力が目標圧力線TPL上に沿う関係を満たすように制御する。前述のように廃ガスボイラ113で排気ガスから冷媒が吸収する熱量が増加し、冷媒の状態が点Cから点C1へ遷移しようとするとき、ECU140の制御により、冷媒状態は点Cから点C1’へ変化する。点C1’は点C1よりエンタルピは小さく冷媒温度は低いが、圧力を高く制御するために冷媒流量が大きくなっており、排気ガス(熱媒体)から冷媒(作動流体)が受取る熱量はほぼ等しくなる。
【0039】
なお、目標圧力線TPLは、冷媒の温度上昇に伴い冷媒密度が大きくなるように設定される直線である。目標圧力は冷媒のエンタルピに比例している。目標圧力線TPLは、エンジン10が低負荷であり、排気ガス温度が低い状態(図2の目標圧力線TPL上の左端より)においても、過熱蒸気領域SSに位置するように決定される。また、温度上昇に伴う冷媒密度増加量(冷媒の流量増加)が小さいと本発明の効果が小さくなり、大きすぎるとハンチングしやすくなり制御が難しくなる。
前述したように、温度及び圧力が目標圧力線TPLに沿う関係を満たす制御では、温度及び圧力がd0に沿う関係を満たす制御無し(成り行き)の状態より、冷媒温度の上昇に伴う冷媒圧力の上昇の割合を増大させているので、冷媒温度の上昇に伴って廃ガスボイラ113を流通する冷媒の密度を増大させるために冷媒流量を増大させる。よって、排気ガスの熱量の増加に対して、廃ガスボイラ113での熱交換後の冷媒の温度上昇が抑制される。
【0040】
そして、ECU140は、流路部1dにおける膨張機114の入口の温度センサ131が検出する冷媒温度及び圧力センサ132が検出する冷媒圧力を使用し、流量調整弁130を調節してバイパス流路3の冷媒流量を制御することによって、膨張機114に吸入される冷媒の温度及び圧力を目標圧力線TPLに合わせるように制御する。
【0041】
具体的には、ECU140には予め温度センサ131が検出する温度に対する冷媒の目標圧力(目標圧力線TPL)が記憶されている。そして、ECU140は、圧力センサ132が検出する検出圧力が目標圧力となるように流量調整弁130を調節する。すなわち、ECU140は、圧力センサ132の検出圧力が目標圧力より低い場合には、流量調整弁130の開度を減少させて流路部1dの冷媒流量を増加させることによって、流路部1dの冷媒圧力(膨張機114に吸入される冷媒圧力)を上昇させる。また、ECU140は、圧力センサ132の検出圧力が目標圧力より高い場合には、流量調整弁130の開度を増大させて流路部1dの冷媒流量を減少させることによって、流路部1dの冷媒圧力(膨張機114に吸入される冷媒圧力)を低下させる。さらに、ECU140は、温度センサ131から経時的に受け取る温度に随時対応して、上記冷媒圧力を制御する。
なお、ECU140は、点Cにおける冷媒の温度等から目標圧力線TPLを算出してもよい。
【0042】
また、ランキンサイクル101において、高圧側流路である第一流路1の流路配管及び第一流路1上の構成要素である膨張機114、冷却水ボイラ112及び廃ガスボイラ113等の設計上限圧力として上限圧力Pcを設定してもよい。この場合、上限圧力Pcに対応する温度T5以上に冷媒温度が上昇すると、破線TPL’のように目標圧力を上限圧力Pcに固定する。
【0043】
また、排気ガスの温度が低下し、膨張機114に吸入される冷媒の温度が点Cでの温度Tより低下する場合にも、ECU140は、低下する温度センサ131での冷媒温度に対応して、冷媒の温度及び圧力の関係が目標圧力線TPL上に沿って遷移するように、圧力センサ132での冷媒圧力を制御する。温度及び圧力が目標圧力線TPLに沿う関係を満たす制御では、温度及び圧力が等密度線d0上の関係を満たしつつ冷媒温度を低下させる冷媒の状態より、冷媒温度の低下に伴って廃ガスボイラ113を流通する冷媒の密度を低下させるために冷媒流量を減少させる。よって、排気ガスの熱量の低下に対して、廃ガスボイラ113での熱交換後の冷媒の温度低下が抑制され、膨張機114での液バックを抑制する。
【0044】
上述のように、この発明の実施の形態に係るランキンサイクル101は、冷媒の循環路に、冷媒と排気ガスとを熱交換させる廃ガスボイラ113、冷媒を膨張させて駆動力を発生する膨張機114、冷媒を凝縮させるコンデンサ115、及び、冷媒を廃ガスボイラ113に移送するポンプ111が順次設けられ、且つ廃ガスボイラ113での排気ガスとの熱交換後の冷媒の状態が過熱蒸気である。ランキンサイクル101は、廃ガスボイラ113から流出した冷媒の温度を検出する温度センサ131と、廃ガスボイラ113を流通する冷媒の圧力を検出する圧力センサ132と、廃ガスボイラ113への冷媒の流量を調節するバイパス流路3及び流量調整弁130と、流量調整弁130を制御するECU140とを備える。ECU140は、温度センサ131の検出温度が上昇する場合に冷媒の温度上昇に伴い冷媒密度が大きくなるように、流量調整弁130を制御する。
【0045】
このとき、廃ガスボイラ113での熱交換後の過熱蒸気状態の冷媒は、熱交換を行う排気ガスの温度が上昇するに従い、吸熱(エンタルピ)が多くなり、それに伴い、膨張機114に吸入される冷媒の圧力及び温度が過熱蒸気領域SS内の等密度線d0上に沿って増加する方向に変動しようとする。ECU140は、膨張機114に吸入される冷媒の温度及び圧力が、目標圧力線TPL上に沿う関係を満たして遷移するように制御する。よって、廃ガスボイラ113を流通する冷媒流量が増加し、冷媒の密度が上昇するため、排気ガスの温度が上昇した場合であっても、冷媒温度の上昇を抑えつつ廃ガスボイラ113における排気ガスからの吸熱量を増大することができる。つまり、ランキンサイクル101は、冷媒と排気ガスとの熱交換において、排気ガスの温度上昇(熱交換量の増加)に対する冷媒の温度上昇を抑制することを可能にする。
【0046】
また、ランキンサイクル101において、ECU140は、温度センサ131の検出温度が低下する場合に冷媒の温度低下に伴い冷媒密度が低くなるように、流量調整弁130を制御する。このとき、ECU140は、膨張機114に吸入される冷媒の温度及び圧力が、目標圧力線TPL上に沿う関係を満たして遷移するように制御する。よって、排気ガスの熱量の低下に対して、廃ガスボイラ113での熱交換後の冷媒の温度低下が抑制され、膨張機114における液バックが抑制される。
【0047】
また、ランキンサイクル101において、ECU140は、温度センサ131の検出温度が上限圧力Pcに対応する温度T5より上昇する場合、圧力センサ132の検出圧力が上限圧力Pcを維持するように、廃ガスボイラ113を流通する冷媒流量を制御し、冷媒密度を低くする。これによって高圧側流路である第一流路1の流路配管及び第一流路1上の構成要素である膨張機114、冷却水ボイラ112及び廃ガスボイラ113等が異常高圧にさらされることを防止できる。
【0048】
また、ランキンサイクル101において、バイパス流路3は、ポンプ111から廃ガスボイラ113に向かう冷媒の流路部1aを、膨張機114からポンプ111に向かう冷媒の第二流路2に連通する。これによって、廃ガスボイラ113で加熱された冷媒は全て、膨張機114に流入するため、廃ガスボイラ113で取得した冷媒の熱エネルギーは、途中で廃棄されることなく膨張機114で膨張エネルギーに変換されて利用することができる。従って、ランキンサイクル101は、廃ガスボイラ113で取得した熱エネルギーを効率的に利用することを可能にする。
【0049】
さらに、ランキンサイクル101において、バイパス流路3は、膨張機114からポンプ111に向かう冷媒の第二流路2における、コンデンサ115とポンプ111との間に接続する。これにより、バイパス流路3を流通する冷媒は、コンデンサ115の下流に流入するため、コンデンサ115での圧損を増加させず、膨張機114とコンデンサ115との間の流路部2aにおける冷媒の圧力の上昇を抑えることができる。よって、膨張機114の上流側の流路部1dと下流側の流路部2aとの間における冷媒の差圧を高く確保することができるため、膨張機114で得られる回生エネルギーを十分に確保することが可能になる。また、バイパス流路3は、流路部1aをサブクーラ117及びポンプ111の間の流路部2dにバイパスさせた場合に発生するポンプキャビテーション(冷媒の泡立ち)を防ぐことができる。また、バイパス流路3は、流路部1aを膨張機114及びコンデンサ115の間の流路部2aにバイパスさせた場合に起こるコンデンサ115への流入冷媒の温度低下を防ぐことができ、流入冷媒の温度低下によるコンデンサ115での放熱量の低下を抑えることが可能になる。このコンデンサ115での放熱量の低下は、第二流路2の圧力を上昇させ、膨張機114の上流側の流路部1dと下流側の流路部2aとの間における冷媒の差圧を低下させることとなり、膨張機114で得られる回生エネルギーを低下させる。
【0050】
実施の形態のランキンサイクル101では、目標圧力線TPLは、目標圧力が冷媒のエンタルピに比例する直線としたが、直線に限定されない。
【0051】
また、実施の形態では、流量調整弁130を使用してバイパス流路3の流路断面積を調節することによって、圧力センサ132の検出圧力(廃ガスボイラ113を流通する冷媒の圧力)を調節していたが、これに限定されるものでない。
図3に示すランキンサイクル201のように、ポンプ111がエンジン10、オルタネータ118及び膨張機114と連結されず、モータ222によって駆動されてもよい。モータ222の回転数を制御することによって、ポンプ111の回転数を調節し、圧力センサ132の検出圧力を調節できる。このとき、膨張機114は、その駆動軸114aと、エンジン10によって回転駆動されるプーリ119bとを電磁クラッチ119aを介して連結させ、さらに、オルタネータ118が駆動軸114aを共有している。
【0052】
また、図4に示すランキンサイクル301のように、ポンプ111がエンジン10、オルタネータ118及び膨張機114と連結されずにモータ222によって駆動され、膨張機114及びオルタネータ118がエンジン10に連結されずに駆動軸114aによって互いに連結されるようにしてもよい。このとき、モータ222の回転数を調節することによって、ポンプ111の回転数を調節し、又は、オルタネータ118の負荷を制御して膨張機114の回転数を調節し、圧力センサ132の検出圧力を調節できる。
また、膨張機114を、その吸入容積を任意に変更可能なものとしてもよい。吸入容積を変更することで、膨張機114が移送する冷媒の流量(体積流量)が変更され、それによって、膨張機114の上流側流路の冷媒圧力が変更されるため、圧力センサ132の検出圧力を調節できる。
【0053】
また、実施の形態のランキンサイクル101において、バイパス流路3は、第一流路1の流路部1aを第二流路2の流路部2bに連通していたが、これに限定されるものでない。バイパス流路3は、第二流路2に対して、流路部2a、2c及び2dのいずれと接続されてもよい。
また、実施の形態のランキンサイクル101において、バイパス流路3は、複数あってもよい。
【0054】
また、実施の形態のランキンサイクル101は、冷却水ボイラ112及び廃ガスボイラ113の2つの熱交換器を備えていたが、これに限定されるものでなく、3つ以上備えていてもよい。ランキンサイクル101は、エアコンの冷媒とランキンサイクル101の冷媒との熱交換器を備えていてもよく、ハイブリッドカーにおいて使用されるモータの冷却水とランキンサイクル101の冷媒との熱交換器を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0055】
3 バイパス流路(流量調整手段)、101,201,301 ランキンサイクル、111 ポンプ(流体圧送装置)、113 廃ガスボイラ(熱交換器)、114 膨張機(流体膨張器)、115 コンデンサ(凝縮器)、130 流量調整弁(流量調整手段)、131 温度センサ(温度検出器)、132 圧力センサ(圧力検出器)、140 ECU(制御装置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の循環路に、作動流体と熱媒体とを熱交換させる熱交換器、作動流体を膨張させて駆動力を発生する流体膨張器、作動流体を凝縮させる凝縮器、及び、作動流体を前記熱交換器に移送する流体圧送装置が順次設けられ、且つ前記熱交換器での熱媒体との熱交換後の作動流体の状態が過熱蒸気であるランキンサイクルにおいて、
前記熱交換器から流出した作動流体の温度を検出する温度検出器と、
前記熱交換器を流通する作動流体の圧力を検出する圧力検出器と、
前記熱交換器への作動流体の流量を調節する流量調整手段と、
前記流量調整手段を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記温度検出器により検出される温度の上昇に伴って前記熱交換器から流出した作動流体の密度が増加するように目標圧力を設定し、前記圧力検出器の検出圧力が前記目標圧力になるように、前記流量調整手段を制御するランキンサイクル。
【請求項2】
前記制御装置は、前記温度検出器により検出される温度の上昇に伴って前記流量調整手段を制御し、前記熱交換器への作動流体の流量を増加させる請求項1に記載のランキンサイクル。
【請求項3】
前記目標圧力には上限圧力が設定されており、前記温度検出器により検出される温度が所定温度以上の場合は前記圧力検出器の検出圧力が前記上限圧力となるように前記流量調整手段を制御する請求項2に記載のランキンサイクル。
【請求項4】
前記目標圧力は、前記熱交換器から流出した前記作動流体のエンタルピに比例している請求項1〜3のいずれか一項に記載のランキンサイクル。
【請求項5】
前記流量調整手段は、
前記流体圧送装置から前記熱交換器に向かう作動流体の流路を、前記流体膨張器から前記流体圧送装置に向かう作動流体の流路に連通するバイパスと、
前記バイパスにおける作動流体の流量を調節可能な流量調整弁とである請求項1〜4のいずれか一項に記載のランキンサイクル。
【請求項6】
前記バイパスは、前記流体膨張器から前記流体圧送装置に向かう作動流体の流路における、前記凝縮器と前記流体圧送装置との間に接続する請求項5に記載のランキンサイクル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−11259(P2013−11259A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146031(P2011−146031)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】