説明

ランフラットタイヤ及びその製造方法

【課題】優れた耐久性を有するランフラットタイヤ、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】インサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に配された高分子薄膜を有し、上記高分子薄膜の膜厚が0.1〜10mmであるランフラットタイヤに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ランフラットタイヤ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、サイドウォール部の内側に配置されている高強度のインサート(サイドウォール補強層)を有するランフラットタイヤが実用化され、パンクにより空気圧が失われた(内圧ゼロ)状態になっても、タイヤの剛性を維持し、繰り返し屈曲を受けた場合にも、ゴムの破損を軽減し、ある程度の距離を安全に走行できるようになった。これにより、スペアタイヤを常備する必要性がなくなり、車輌全体の重量の軽量化が期待できる。しかし、ランフラットタイヤのパンク時におけるランフラット走行には、速度、距離の制限があり、更なるランフラットタイヤの耐久性の向上が望まれている。
【0003】
ランフラットタイヤの耐久性を向上させる方法としては、インサートを厚くすることにより変形を抑え、変形による破壊を防ぐ方法が挙げられる。しかし、タイヤの重量が大きくなるため、ランフラットタイヤの当初の目的である軽量化に反する。
【0004】
また、カーボンブラックなどの補強用充填剤を増量することでインサートの硬度を上げ、変形を抑える方法も挙げられるが、混練り、押出し等の工程において、混練機の負荷が大きくなり、また加硫後物性において発熱が大きくなることから、ランフラット耐久性の向上はあまり期待できない。
【0005】
また、加硫剤や加硫促進剤を増量する方法も挙げられるが、ゴムの伸びが小さくなり、破壊強度が低下してしまう上、多量に用いた加硫剤や加硫促進剤が表面にブルームしやすくなり、加工性や貯蔵安定性などが低下する傾向がある。
【0006】
特許文献1には、石炭ピッチ系炭素繊維をインサートやサイドウォールに配合することにより、ランフラットタイヤの耐久性を改善する方法が開示されている。しかし、その他の手法も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−168540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記課題を解決し、優れた耐久性を有するランフラットタイヤ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、インサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に配された高分子薄膜を有し、上記高分子薄膜の膜厚が0.1〜10mmであるランフラットタイヤに関する。
【0010】
上記高分子薄膜の熱伝導率が1〜30W/m・Kであることが好ましい。
【0011】
上記高分子薄膜が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を含むことが好ましい。
【0012】
本発明はまた、未加硫タイヤのインサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に高分子を含む溶液1を付着させる工程1と、上記未加硫タイヤのインサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に金属触媒を含む溶液2を付着させる工程2と、上記未加硫タイヤを加硫して上記高分子薄膜を形成する工程3とをこの順に含む上記ランフラットタイヤの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に配された特定の高分子薄膜を有するランフラットタイヤであるので、インサート及び/又はビードで発生した熱を該高分子薄膜によってホイール側に放出して、優れた耐久性(ランフラット耐久性)を得ることができる。また、上述した従来の方法と異なり、他のタイヤ部材の設計を変更する必要がないため、タイヤの重量が大きくなるなどの問題も発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るランフラットタイヤの一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明のランフラットタイヤの好ましい実施形態の一例を説明する。
図1において、上下方向がタイヤ半径方向であり、左右方向がタイヤ軸方向であり、紙面に対して垂直方向がタイヤ周方向である。ランフラットタイヤ1は、トレッド部2、サイドウォール部3、カーカス4、ビード5、ブレーカー6、インサート7、インナーライナー8及び高分子薄膜9を備える。カーカス4は、トレッド部2からサイドウォール部3を経て、ビード5に含まれるビードコア5Aの周りを折り返したカーカスプライで構成される。ビード5は、ビードコア5Aと、該ビードコア5Aからタイヤ半径方向外側に延在するビードエイペックス5Bとで構成される。ブレーカー6は、タイヤ周方向に5〜30度の角度でコードが配列された2枚のブレーカプライ6A、6Bで構成され、該ブレーカプライ6A、6Bは、それぞれが有するコードが交差するように配されている。インサート7は、カーカス4のタイヤ軸方向内側に配されており、断面略三日月状の形状を有する。インサート7のタイヤ軸方向内側には、空気を透過しにくいゴムで構成されたインナーライナー8が配されている。
【0016】
高分子薄膜9は、ビード5及びインサート7のタイヤ軸方向内側に配される。高分子薄膜9によりビード5及びインサート7で発生した熱がホイール側に放出されるため、ビード5及びインサート7の破壊を抑制し、ランフラット耐久性を改善できる。高分子薄膜9はビード5及びインサート7よりもタイヤ軸方向内側に配されていればよく、高分子薄膜9とビード5及びインサート7との間に他の部材が配されていてもよい(本実施形態においてはインナーライナー8が配されている)。また、高分子薄膜9はビード5及びインサート7の少なくとも一方のタイヤ軸方向内側に配されていればよいが、本実施形態のように、ビード5及びインサート7の両方のタイヤ軸方向内側に配されることが好ましい。
【0017】
高分子薄膜9の膜厚は、0.1mm以上、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは2mm以上である。0.1mm未満であると、高分子薄膜9の強度が低く、良好なランフラット耐久性が得られない傾向がある。高分子薄膜9の膜厚は、10mm以下、好ましくは9mm以下、より好ましくは5mm以下である。10mmを超えると、高分子薄膜9を均一に形成することができず、良好なランフラット耐久性が得られない傾向がある。
なお、高分子薄膜9の膜厚は、例えば、高分子を含む溶液の塗布回数や、該溶液中の高分子の濃度を変更するなどの方法で調整することができ、後述する実施例の方法で測定できる。
【0018】
高分子薄膜9の熱伝導率は、好ましくは1W/m・K以上、より好ましくは4W/m・K以上、更に好ましくは6W/m・K以上である。1W/m・K未満であると、インサート7及びビード8から発生した熱を充分に放出することができず、良好なランフラット耐久性が得られない傾向がある。高分子薄膜9の熱伝導率は、好ましくは30W/m・K以下、より好ましくは15W/m・K以下、更に好ましくは10W/m・K以下である。30W/m・Kを超えると、高分子薄膜9が早期に破壊され、良好なランフラット耐久性が得られない傾向がある。
なお、高分子薄膜9の熱伝導率は、例えば、高分子の種類を変更するなどの方法で調整することができ、後述する実施例の方法で測定できる。
【0019】
所望の膜厚及び熱伝導率を容易に得ることができるという点から、高分子薄膜9は、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を含むことが好ましい。すなわち、高分子薄膜9は、該高分子を原料として作製されたものであることが好ましい。なお、該誘導体としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアニリンスルホン酸、3−メチルー4−ピロールカルボン酸エチルと3−メチルー4−ピロールカルボン酸ブチルとの共重合体などを使用できる。得られる高分子薄膜9の熱伝導率及び強度が良好であるという点から、該高分子としては、ポリチオフェン及びその誘導体が好ましい。
【0020】
ランフラットタイヤ1は、例えば、未加硫タイヤのインサート7及び/又はビード5のタイヤ軸方向内側に高分子を含む溶液1を付着させる工程1と、上記未加硫タイヤのインサート7及び/又はビード5のタイヤ軸方向内側に金属触媒を含む溶液2を付着させる工程2と、上記未加硫タイヤを加硫して上記高分子薄膜9を形成する工程3とをこの順に含む製法により好適に得られる。この製法によれば、高分子薄膜9が他のタイヤ部材と良好に接着することができ、ランフラット耐久性をより向上できる。また、金属触媒を使用することにより、平滑な高分子薄膜9を効率よく形成することが可能になるとともに、高分子薄膜9に金属触媒由来の金属を含有させ、良好な熱伝導率が得られる。
【0021】
(工程1)
工程1では、未加硫タイヤのインサート7及び/又はビード5のタイヤ軸方向内側に高分子を含む溶液1を付着させる。溶液1を付着させる方法としては特に限定されず、一般的な方法を使用することができ、例えば、刷毛などを用いて溶液1を塗布する方法が挙げられる。
【0022】
溶液1としては、高分子が溶媒に溶解したものを使用できる。溶液1に使用する溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、トルエンなどの公知の溶媒が挙げられる。また、高分子は高分子薄膜8の原料となるものであり、上述のポリチオフェンなどを好適に使用できる。
【0023】
(工程2)
工程2では、未加硫タイヤのインサート7及び/又はビード5のタイヤ軸方向内側に金属触媒を含む溶液2を付着させる。溶液2を付着させる方法としては特に限定されず、一般的な方法を使用することができ、例えば、霧吹きなどを用いて溶液2を噴霧する方法が挙げられる。
【0024】
溶液2としては、金属触媒が溶媒に溶解したものを使用できる。溶液2に使用する溶媒としては特に限定されず、水、アルコール、トルエンなどの公知の溶媒が挙げられる。また、金属触媒としては、例えば、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、臭化第二鉄、塩化第二銅、塩化モリブデンなどの金属塩などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、塩化第二鉄が好ましい。
【0025】
(工程3)
工程3では、未加硫タイヤを加硫して高分子薄膜9を形成する。加硫方法としては特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。加硫温度は、好ましくは140℃以上、より好ましくは160℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。また、加硫時間は、好ましくは15分以上、より好ましくは20分以上であり、好ましくは30分以下、より好ましくは25分以下である。加硫温度、加硫時間が上記範囲内であれば、所望の膜厚を有する高分子薄膜9を効率良く形成することができる。
【実施例】
【0026】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0027】
(材料)
ポリピロール:化研産業(株)製のSSPY(3−メチルー4−ピロールカルボン酸エチルと3−メチルー4−ピロールカルボン酸ブチルとの共重合体)
ポリアニリン含有溶液:化研産業(株)製のトルエンタイプ(T)(ポリアニリン(固形分)の含有量が6質量%のトルエン溶液)
ポリチオフェン含有溶液:化研産業(株)製のBaytronP HC V4(ポリエチレンジオキシチオフェン(固形分)の含有量が1.2質量%の水溶液)
塩化第二鉄:和光純薬工業(株)製
トルエン:和光純薬工業(株)製
エチルアルコール:和光純薬工業(株)製
【0028】
(実施例1〜2)
インサート及びビードを含む未加硫タイヤを作製した後、ポリピロールの含有量が10質量%の溶液(ポリピロールをトルエンに溶解させて作製)をインサート及びビードのタイヤ軸方向内側に刷毛で塗布した(工程1)。3時間放置した後、塩化第二鉄の含有量が20質量%の溶液(塩化第二鉄をエチルアルコールに溶解させて作製)を霧吹きでインサート及びビードのタイヤ軸方向内側に噴霧した(工程2)。その後、未加硫タイヤを160℃および25kgfの条件で20分間プレス加硫することにより、試験用ランフラットタイヤを作製した(タイヤサイズ:195/65R15)(工程3)。このプレス加硫により、インサート及びビードのタイヤ軸方向内側に高分子薄膜が形成された。
【0029】
(実施例3〜4)
工程1で使用する溶液をポリアニリン含有溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法により、試験用ランフラットタイヤを作製した。
【0030】
(実施例5〜6)
工程1で使用する溶液を、ポリチオフェン含有溶液に変更した以外は実施例1と同様の方法により、試験用ランフラットタイヤを作製した。
【0031】
(比較例1)
高分子薄膜を形成しなかった以外は実施例1と同様の方法により、試験用ランフラットタイヤを作製した。
【0032】
(比較例2〜7)
高分子薄膜の膜厚を変更した以外は実施例1〜6のいずれかと同様の方法により、試験用ランフラットタイヤを作製した。
【0033】
(膜厚)
高分子薄膜の膜厚を、ASTM D1400、ISO2360及びISO2808に準拠し、電磁式膜厚計(デフェルスコ社製のポジテクタ6000Fシリーズ、簡易膜厚計DFT−F)を用いて測定した。
【0034】
(熱伝導率)
高分子薄膜の熱伝導率を、(株)リガク製のLF/TCM−FA8510Bを用いて、レーザーフラッシュ法により測定した。なお、比較例1は試験用ランフラットタイヤの内部コンポーネントの熱伝導率を測定した。
【0035】
(ランフラット耐久性)
上記試験用ランフラットタイヤを、空気内圧0kPaにてドラム上を80km/hで走行させ、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定し、下記計算式により、各例の走行距離を指数表示した。指数が大きいほど、ランフラット耐久性(RF耐久性)に優れることを示す。
(ランフラット耐久性指数)=(各例の走行距離)/(比較例1の走行距離)×100
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び2より、膜厚が特定の範囲内の高分子薄膜を有する実施例は、比較例と比較して、ランフラット耐久性が大きく改善した。
【符号の説明】
【0039】
1 ランフラットタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 カーカス
5 ビード
5A ビードコア
5B ビードエイペックス
6 ブレーカー
6A ブレーカプライ
6B ブレーカプライ
7 インサート
8 インナーライナー
9 高分子薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に配された高分子薄膜を有し、
該高分子薄膜の膜厚が0.1〜10mmであるランフラットタイヤ。
【請求項2】
前記高分子薄膜の熱伝導率が1〜30W/m・Kである請求項1記載のランフラットタイヤ。
【請求項3】
前記高分子薄膜が、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール及びこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種の高分子を含む請求項1又は2記載のランフラットタイヤ。
【請求項4】
未加硫タイヤのインサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に高分子を含む溶液1を付着させる工程1と、
前記未加硫タイヤのインサート及び/又はビードのタイヤ軸方向内側に金属触媒を含む溶液2を付着させる工程2と、
前記未加硫タイヤを加硫して前記高分子薄膜を形成する工程3とをこの順に含む請求項1〜3のいずれかに記載のランフラットタイヤの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−121413(P2012−121413A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272754(P2010−272754)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】