リアクトル損失測定装置及びその測定方法
【課題】本発明は、PWMインバータの出力周期のすべてに渡って、簡便に時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定でき、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定するリアクトル損失測定方法を提供する。
【解決手段】PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧から所定周波電流成分と所定周波電圧成分を求め、該リアクトル電流と所定周波電流成分との交叉時点を求め、隣り合う奇数番目又は偶数番目の該交叉時点の間隔を損失算定期間とし、該損失算定期間に対応するリアクトル電流から算出された磁界の強さHとリアクトル両端電圧から算出された磁束密度BとによるB−H曲線Γの面積αから、所定周波電流成分から算出した磁界の強さと所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれたB−H曲線Γbの面積αbを差し引き、当該損失算定期間のリアクトル損失を求める。
【解決手段】PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧から所定周波電流成分と所定周波電圧成分を求め、該リアクトル電流と所定周波電流成分との交叉時点を求め、隣り合う奇数番目又は偶数番目の該交叉時点の間隔を損失算定期間とし、該損失算定期間に対応するリアクトル電流から算出された磁界の強さHとリアクトル両端電圧から算出された磁束密度BとによるB−H曲線Γの面積αから、所定周波電流成分から算出した磁界の強さと所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれたB−H曲線Γbの面積αbを差し引き、当該損失算定期間のリアクトル損失を求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトル損失測定装置及びその測定方法に関し、特に、PWMインバータなどに用いられるフィルタ回路におけるリアクトルの鉄損について算定する仕方を工夫したリアクトル損失測定装置及びその測定方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカー、電気自動車、電車などに使用されるPWMインバータなどの電力変換器について、小型化、高出力化、軽量化、低損失化、低コストなどを目指して開発が進められている。この様な中で、特に、PWMインバータなどの電力変換における低損失化が重要である。ところで、従来においては、PWMインバータのフィルタ回路のリアクトル、或いは、DCチョッパ回路や、DC−DCコンバータの平滑リアクトルなどにおける磁気損失は、正弦波電圧を用いる励磁方法で求めた鉄損データから推測するものであった。
【0003】
そこで、PWMインバータのフィルタ回路のリアクトルにおける鉄損の算定方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。この提案された鉄損の算定方法について、以下に、説明する。
【0004】
図11に、一般的な単相インバータの回路例を図示した。図中、Q1乃至Q4は、PWM駆動されるスイッチ素子である。なお、PWM駆動回路については、図示を省略されている。インバータの出力側に、リアクトルLとコンデンサCとによるフィルタ回路が接続され、そのフィルタ回路を介して、負荷抵抗Rに所定周波数を有する電力が供給される。同図において、iLは、リアクトルLに流れる電流を、VLは、リアクトルLの両端の電圧をそれぞれ表し、iRは、負荷抵抗Rを流れる電流を、VRは、負荷抵抗Rの両端の電圧をそれぞれ表している。
【0005】
また、図12及び図13に、この単相インバータをユニポーラモード・サブハーモニック変調で動作させた時の、各部の出力周期Tの動作波形を示している。図12(a)は、スイッチ素子Q1とQ3の接続点とスイッチ素子Q2とQ4の接続点との間の電圧VPWMの波形を、同(b)は、負荷抵抗Rを流れる電流iRの波形を、同(c)は、リアクトルLの両端の電圧VLの波形を、そして、同(d)は、リアクトルLに流れる電流iLを、1出力周期Tについてそれぞれ示している。
【0006】
図13(e)には、図12(d)の電流iLに基づいて算出された磁界の強さHの変化が、そして、図13(f)には、図12(c)の電圧VLに基づいて算出された磁束密度Bの変化が、1出力周期Tについてそれぞれ示されている。
【0007】
ここで、図13(e)の磁界強さHと図13(f)の磁束密度Bとに基づいて、1出力周期T分の磁束密度−磁束強さ曲線(B−H曲線)を作成すると、図14のようになる。図14は、出力1周期分の実際のB−H動作軌跡の模擬図である。ここで、矢印で示す部分が、1出力周期Tに含まれる1スイッチングリプル分(動的マイナーループと称す)を表す。
【0008】
さらに、図15は、フイルタリアクトルLに関する1出力周期Tにおける2スイッチングリプルに係るB−H曲線(2リプル周期の動的マイナーループ)を示している。ここで、以上の各図に示された波形を元にして、以下に、従来のフイルタリアクトルの鉄損の算定方法について説明する。
【0009】
1出力周期Tのリアクトルの鉄損を算定する算定期間としては、図12(d)に示すリアクトルに流れる電流iLのボトムピーク値(各スイッチングリプルにおける最小値)から隣接するボトムピーク値を示す間隔時間をΔtとしている。その時間Δtに対応した動的マイナーループを抜粋し、簡略化して示したB−H曲線が、図16の図形となる。
【0010】
ここで、リアクトルLが無損失のものであれば、動的マイナーループは、直線PQと直線QRを描くことから、直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積(以下、疑似マイナーループ面積と称す)が、スイッチングリプルによる鉄損Arとしていた。スイッチングリプルによる鉄損とは、リアクトル全鉄損から、出力電流iRの基本周波数又は該基本周波数近傍の周波成分による鉄損Ab(メジャーループ面積とも称す)による寄与を差し引いた、スイッチングリプル分のみの鉄損を意味している。また、この算定区間である時間Δtにおけるバイアス磁界Hの時間平均を、この算定区間におけるバイアス磁界H0としている。
【0011】
図12に示された半出力周期T/2について、同様に、各リプル周期、即ち、算定区間毎に、前記疑似マイナーループ面積Arとバイアス磁界をH0求め、H0−Ar平面上にプロットしたものをループ面積軌跡と呼んでいる。このループ面積軌跡の例を、図17に示した。図17においては、横軸は、バイアス磁界H0を、そして縦軸は、疑似マイナーループ面積Arをそれぞれ表しており、算定区間毎に求めたバイアス磁界H0と疑似マイナーループ面積Arが丸印でプロットされている。
【0012】
このループ面積軌跡は、各バイアス磁界H0に対する単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損を1リプル周期ごとに、丸印で表したものであり、リアクトルを構成する鉄芯材料やインバータの動作法を変えることにより異なった軌跡を描くことが知られており、インバータの動作制御法とリアクトルの鉄損の関係を評価する上で非常に有用であることが知られている。
【0013】
【非特許文献1】電気学会誌、SPC−06−37、「単相電圧型PWMインバ−タ回路用フイルタリアクトルの鉄損評価および損失低減手法の検討」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、従来の鉄損の算定方法には、次のような問題があった。
まず、第1の問題としては、従来の算定方法を半出力周期T/2だけでなく、出力周期のすべてに適用する場合、時間T/2を中心に対称性のある1出力周期Tの鉄損を算定しようとすると、図12に示すように、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を、ボトムピーク値から隣接するボトムピーク値を示す時間Δtから、時間T/2を跨いだ時間では、ボトムピーク値からトップピーク値(各スイッチングリプルにおける最大値)に、それ以降の時間では、トップピーク値から隣接するトップピーク値を示す時間Δt’に変更しなければならない。そのため、算定処理が、非常に複雑なものとなった。
【0015】
また、第2の問題として、図16に示されるように、無損失のリアクトルであれば、動的マイナーループは、直線PQと直線QRを描くことになるので、直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積がスイッチングリプルによる鉄損Arとしていたが、この算定方法では、以下の理由により、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確には算定できていなかった。
【0016】
このスイッチングリプルによる鉄損を正確に算定する方法を以下に説明する。図18は、図12及び図13に示された各々のスイッチングリプルの、即ち、1算定区間tp〜trにおける、リアクトルLに流れる電流iL、リアクトルLの両端の電圧VL、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H、リアクトルLに生じる磁束密度Bに係る波形を抜き出して表示した波形図である。図18(a)は、図12(c)に、同(b)は、図12(d)に、同(c)は、図13(e)に、同(d)は、図13(f)にそれぞれ対応している。上記の区間tp〜trは、図12における区間Δtに対応するものであり、インバータのスイッチ素子のリプル周期に一致している。
【0017】
また、図19は、図18に対応した磁界Hと磁束密度BをB−H平面上に描いた図形であり、1出力周期Tにおける1スイッチングリプルに係る動的マイナーループPQRと、当該スイッチングリプルに係る基本周波数成分によるメジャーループP’R’を示している。
【0018】
1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、本来、図20において、閉曲線JPQRKJ(以下、閉曲線Cと称す)に囲まれた面積A(以下、動的マイナーループ面積と称す)から、低周波成分に対応する閉曲線J’P’R’K’J’(以下、閉曲線Cbと称す)に囲まれた面積Ab(以下、メジャーループ面積と称す)を減ずれば正確に求めることができる。
【0019】
或いは、図18において、1リプル周期のスイッチングリプルについて、リアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分ILbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、鉄損Arは正確に求めることができる。
【0020】
以下に、その鉄損Arを正確に求めることができる理由を説明する。
図20において、各点の近傍に示された括弧内には、各点に係るH成分及びB成分を表している。なお、図18(c)及び(d)においても、各点に対応するH成分及びB成分の記号を付してある。ここで、一般に良く知られているように、図20に示された閉曲線Cの面積Aは、磁界H及び磁束密度Bを用いて、次の(1)式で表すことができる。
【0021】
【数1】
【0022】
また、リアクトルに流れる電流iLは、磁界Hに比例し、リアクトルの両端の電圧VLは、磁束密度Bの時間微分に比例することが知られている。従って、上記の(1)式は、次の(2)式に書き改めることができる。
【0023】
【数2】
【0024】
上記の(1)式及び(2)式は、図20に示された閉曲線Cの面積Aは、1リプル周期のリアクトルに生じる電力量、即ち、全鉄損に比例していることを示している。同様のことが、基本周波成分に対応する閉曲線Cbについても成り立つ。図20に示された閉曲線Cbの面積Abは、リアクトルに流れる電流iLの基本周波電流成分をiLb、リアクトル両端の電圧VLの基本周波電圧成分をVLbとすると、次の(3)式が成り立つ。
【0025】
【数3】
【0026】
これは、基本周波成分に対応する図20の閉曲線Cbの面積Abが、1リプル周期のスイッチングリプルにおいて、リアクトルLに生じる基本周波成分の電力量、即ち、基本周波成分に係る鉄損に比例していることを示している。
【0027】
従って、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、従来のように、図16に示す直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積から算定するのではなく、図20の閉曲線Cに囲まれた面積Aから、基本周波成分に対応する閉曲線Cbに囲まれた面積Abを減ずれば正確に求めることができる。
【0028】
或いは、上述した面積の減算からのみではなく、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの基本周波電流成分iLbと電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、正確に求めることができることも判る。
【0029】
しかしながら、以上に説明した鉄損の算出方法のように、図20の閉曲線Cに囲まれた面積Aから、基本周波成分に対応する閉曲線Cbに囲まれた面積Abを減じることにより、或いは、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの基本周波電流成分iLbと電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減じることにより、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arが正確に求められるとしても、この鉄損の算出方法では、上述した第1の問題点を解消するものではない。
【0030】
そこで、本発明は、出力周期Tのすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、しかも、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができるリアクトル損失測定装置及びその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
以上の課題を解決するため、本発明によるリアクトル損失測定装置では、PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データが格納される記憶装置と、前記記憶手段に格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出する抽出手段と、前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算する演算手段と、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求める期間算定手段と、求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出する損失算定手段と、を備えた。
【0032】
また、リアクトルの鉄損の算定においては、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間について、リアクトルに流れるリアクトル電流とその所定周波電流成分との交点を求め、そのうちのリプル周期を満足する、隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目の交叉時点の間隔を損失算定期間とし、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損の算出は、対応する前記損失算定期間の動的マイナーループの面積から、所定周波成分によるメジャーループの面積を差し引く、或いは、対応する前記損失算定期間の前記リアクトル電流と前記リアクトルの両端の電圧とから算出した電力量から、前記リアクトル電流に係る所定周波電流成分と、前記リアクトル両端電圧の所定周波電圧成分から算出した電力量を差し引いて、前記鉄損を算出するようにした。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、PWMインバータにおける出力周期Tすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明によるリアクトル損失測定装置及びその測定方法の実施形態について、図1乃至図11を参照しながら説明する。先ず、本実施形態におけるリアクトルの鉄損に係る算出の仕方について説明する。ここでは、PWMスイッチングにより電力変換する代表例として、図1に示されたユニポーラモード・サブハーモニック変調の単相インバータの場合で説明する。
【0035】
本実施形態では、リアクトルLに流れる電流iLとその所定周波電流成分iLbとが交叉する時点を求め、そのうちリプル周期を満足する、隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目に交叉する時点間の時間から、1リプル周期のリアクトルLの鉄損を算定する損失算定期間を求めることを特徴とし、出力周期に渡って求められた各損失算定期間に基づいて、スイッチングリプルによる損失のみを算定している。
【0036】
ここでは、前記交叉時点は既に求められており、前記隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目に交叉する時点間の時間のうち、偶数番目の交叉時点間隔の時間がリプル周期を満足しているものとして、本実施形態による損失の測定について説明する。
【0037】
図1は、図12と同様に、図11に示された単相インバータをユニポーラモード・サブハーモニック変調で動作させた時の、各部における出力周期Tの動作波形を示している。図1(a)は、スイッチ素子Q1とQ3の接続点とスイッチ素子Q2とQ4の接続点との間の電圧VPWMの波形を、同(b)は、負荷抵抗Rを流れる電流iRの波形を、同(c)は、リアクトルLの両端の電圧VLの波形を、そして、同(d)は、リアクトルLに流れる電流iLを、出力周期Tについてそれぞれ示している。
【0038】
図1(d)に示された波形には、リアクトルLを流れる電流iLとその基本周波電流成分iLbとが交叉する時点について、便宜的に、出力周期Tすべてに渡って順に番号1〜37が付されている。この波形例においては、出力周期Tすべてに渡って求めた奇数番目の交叉時点との間の時間と、偶数番目の交叉時点との間の時間と比較して、偶数番目の交叉時点との間の時間が、リプル周期を満たしているとして選択されている。図中では、算定期間Δtが、代表的に、偶数番目の交叉時点6、8との間の間隔として示されている。
【0039】
図2(e)には、図1(d)の電流iLに基づいて算出された磁界の強さHの変化が、そして、図2(f)には、図1(c)の電圧VLに基づいて算出された磁束密度Bの変化が、出力周期Tについてそれぞれ示されている。ここで、図1及び図2に示した本実施形態による波形図が図12及び図13の場合と異なる点は、図12及び図13の場合では、縦の破線が、インバータのスイッチ素子のリプル周期に一致しているのに対して、本実施形態の場合には、縦の破線で示されている1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間を偶数番目の交叉時点間の算定期間が、図示のようなΔtとされている点である。
【0040】
この様な算定期間にすると、図1に示された波形から容易に判るように、出力周期Tのすべてに渡って、1リプル周期、即ち、各算定期間のリアクトルの鉄損を算定する場合、従来の場合のように、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができる。
【0041】
また、本実施形態では、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損の算出は、対応する前記算定期間の動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を差し引くか、或いは、対応する前記算定期間のリアクトルLに流れるリアクトル電流iLとリアクトルLの両端のリアクトル電圧VLとから算出した電力量から、リアクトル電流iLの基本周波電流成分iLbと、リアクトル電圧VLの基本周波電圧成分VLbから算出した電力量を差し引く算出方法としている。
【0042】
図5は、図1及び図2に示された算定期間Δtに対応したリプル周期の、即ち、1算定期間td〜teにおける、リアクトルLに流れる電流iL、リアクトルLの両端の電圧VL、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H、リアクトルLに生じる磁束密度Bに係る波形を抜き出したものである。図15(a)は、図1(c)に、同(b)は、図1(d)に、同(c)は、図2(e)に、同(d)は、図2(f)にそれぞれ対応している。上記の期間td〜teは、上述の算定期間Δtに対応している。
【0043】
また、図3及び図4は、図5に対応した磁界Hと磁束密度BをB−H平面上に描いたもので、1リプル周期の動的マイナーループDQREとメジャーループD’E’を示している。図3及び図4に示された動的マイナーループとメジャーループが、図19及び図20に示された従来の場合における動的マイナーループとメジャーループの形状と異なるのは、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間の求め方が従来と異なるためである。
【0044】
この様に、算定期間の求め方が異なっていても、上述したのと同様の損失算定手法を採用することができ、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損αrは、図4において示されるように、閉曲線JDQREKJ(以下、閉曲線Γと称す)に囲まれた面積αから、基本周波成分に対応する閉曲線J’D’E’K’J’(以下、閉曲線Γbと称す)に囲まれた面積αbを減ずることにより、鉄損αrを正確に求めることができる。
【0045】
或いは、図5に示されるように、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、リアクトル電流iLの基本周波電流成分iLbと、リアクトル両端電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、1リプル周期のリアクトルに係る鉄損αrを正確に求めることができる。図4において、各点の近傍に示された括弧内の記号は、各点のH成分及びB成分を表している。図5(c)及び(d)に示された波形図においても、図4の図示と同様に、H成分及びB成分の記号を付してある。
【0046】
ここで、図4に示された閉曲線Γの面積αは、磁界H及び磁束密度Bを用いて、上記の(1)式と同様に、(4)式で表すことができる。
【0047】
【数4】
【0048】
また、上記の(2)式と同様に、リアクトルに流れる電流iLは、磁界Hに比例し、リアクトルの両端の電圧VLは、磁束密度Bの時間微分に比例することから、上記の(4)式は、次の(5)式に書き改めることができる。
【0049】
【数5】
【0050】
上記の(4)式及び(5)式により、図4に示された閉曲線Γの面積αは、1リプル周期のリアクトルに生じる電力量、即ち、全鉄損に比例していることを示している。同様に、基本周波成分に対応する閉曲線Γbについても、このことが成り立つ。図4に示された閉曲線Γbの面積αbは、リアクトルに流れる電流iLの基本周波電流成分をiLb、リアクトル両端の電圧VLの基本周波電圧成分をVLbとすると、上記の(3)式と同様に、次の(6)式が成り立つ。
【0051】
【数6】
【0052】
上記の(6)式により、基本周波成分に対応する図4に示された閉曲線Γbの面積αbが、1リプル周期のリアクトルに生じる基本周波成分の電力量、即ち、基本周波成分に係る鉄損に比例していることを示している。
【0053】
従って、本実施形態によるリアクトル損失算定の手法によっても、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損αrは、図4に示された閉曲線Γに囲まれた面積αから、基本周波成分に対応する閉曲線Γbに囲まれた面積αbを減ずるという算定方法で正確に求めることができる。
【0054】
或いは、上記の(5)式及び(6)式から明らかなように、前記面積の減算からのみではなく、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの低周波成分iLbとVLの低周波成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずる方法でも、同様に、鉄損αrを正確に求めることができることを示している。
【0055】
よって、本実施形態によれば、出力周期Tすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、従来のように時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができる。
【0056】
以上では、本実施形態によるリアクトル損失の算定方法について説明されたが、次に、本実施形態のリアクトル損失の算定方法を用いたリアクトル損失測定装置について説明する。そのリアクトル損失測定装置のシステム構成の概要を図6に示した。
【0057】
本実施形態のリアクトル損失測定装置は、制御装置1、入力装置2、表示装置3、記憶装置4、そして計測装置5を備えている。制御装置1は、中央処理ユニットCPUを有しており、入力装置2からのオペレータによる入力操作で、格納されたプログラムに従って種々の演算処理を実行する。表示装置3は、制御装置1による演算処理の結果、動作波形などを表示する。制御装置1には、計測装置5で計測された情報が入力され、記憶装置4に格納される。計測装置5には、図11に示されるように、リアクトルLを流れる電流iLを検出するリアクトル電流検出手段51と、リアクトルLの両端の電圧VLを検出するリアクトル電圧検出手段52とが備えられる。
【0058】
制御装置1は、基本周波成分抽出手段11、磁束密度演算手段12、バイアス磁界演算手段13、期間算定手段14、損失算定手段15、そして、ループ面積軌跡描画手段16を有している。これらの各手段は、本実施形態のリアクトル損失の算定方法を実現するためのものであり、プログラムに従って処理が実行される。
【0059】
図7には、図11に示した単相インバータ回路における各部の具体的な動作波形が示されている。この単相インバータ回路に接続されたフィルタ回路において、リアクトルLとして、フェライト・コアを有し、インダクタンスL=1[mH]のものを用いた。他の回路定数としては、負荷抵抗R=100[Ω]、コンデンサC=10[μF]、電源電圧E=50[V]とした。そして、出力周波数50[Hz]、スイッチング周波数20[kHz]、変調度70[%]のユニポーラモード・サブハーモニック変調で単相インバータを動作させた時の、各部の出力周期T=20[msec]の動作波形を示している。
【0060】
リアクトルLに流れる電流ILは、リアクトル電流検出手段51である電流プロ−ブ(図示せず)で計測され、リアクトルの両端電圧VLは、リアクトル電圧検出手段52となるリアクトルLのフェライト・コアに巻いた2次巻線に誘起された電圧が計測されたものである。なお、例えば、差動プローブ等で、リアクトル両端の電圧を直接計測した場合、その計測結果を使用して損失計算を行なうと、リアクトルの鉄損だけでなく、銅損をも含んだ損失を測定することになる。そのため、本実施形態では、リアクトル両端電圧は、リアクトルLのフェライト・コアに巻いた2次巻線に誘起された電圧VLを指している。
【0061】
基本周波成分抽出手段11において、入力され記憶装置4に格納されたリアクトル電流iL及びリアクトル電圧VLから、それぞれの基本周波電流成分iLb及び基本周波電圧成分VLbが、電流iL及び電圧VLに対してそれぞれ一般に良く知られているフーリエ変換を施して抽出される。その時抽出に用いた基本周波成分のしきい値周波数は、出力電流iRの基本周波数の50[Hz]とした。また、電流iLと電圧VLの測定系に起因する測定位相誤差は、測定前にキャンセルされているものとする。
【0062】
次いで、バイアス磁界演算手段13において、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H及びその基本周波磁界成分Hbが、一般に良く知られている次の(7)式で演算され、また、磁束密度演算手段12において、リアクトルLに生じる磁束密度B及びその基本周波密度成分Bbが、同様に一般に良く知られている次の(8)式より求められる。
【0063】
【数7】
【0064】
図8は、図7のリアクトル電流iLの一部を抜粋し拡大した波形を示している。図8において、丸印で表されている点のうち、その丸印の2点間が本実施形態の1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間を示しおり、リプル周期を満足する隣り合う奇数番目の電流iLと基本周波電流成分iLbとの交点を示している。
【0065】
この丸印の交叉時点は、期間算定手段14において求められるものであり、出力周期T=20[msec]すべてに渡って、電流iLと基本周波電流成分iLbと差の絶対値が最小になる交叉時点を半リプル周期ごとに求めている。この求められた隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目の交叉時点間隔の時間うち、リプル周期を満足する方を選択したものが算定期間とされる。
【0066】
この様に求められたリプル周期を満足する隣り合う奇数番目の交叉時点間隔、即ち、本実施形態における算定期間を用いて、損失算定手段15で算定したスイッチングリプルの鉄損に基づいて、ループ面積描画手段16によって、ループ面積軌跡データが作成され、作成されたループ面積軌跡データが表示装置3の画面に描画される。その描画されたループ面積軌跡の例が図9及び図10に示されている。
【0067】
図10に示されたループ面積軌跡のスイッチングリプルの鉄損は、本実施形態の各算定期間の動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を差し引く方法で求めたものであり、図9のループ面積軌跡のスイッチングリプルによる鉄損は、同様に、本実施形態の各算定期間のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分iLbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずる方法で求めたものである。
【0068】
図8及び図9に示されているバイアス磁界H0は、各算定期間での磁界Hの時間平均であることから、バイアス磁界演算手段13において、次の(9)式で求められた。
【0069】
【数8】
【0070】
図10における単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Praは、各算定期間における動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を引いて算出した損失αrを用いて、損失算定手段15において、次の(10)式で求められた。
【0071】
【数9】
【0072】
また、図9における単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Prpは、各算定期間のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分iLbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を引いて算出したWrを用いて、損失算定手段15において、次の(11)式で求められた。
【0073】
【数10】
【0074】
図9及び図10のループ面積軌跡を見比べれば明らかなように、同じバイアス磁界H0に対する単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Pra、Prpは、同じ値が得られている。
【0075】
よって、本実施形態によれば、出力周期T=20[msec]すべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定し、ループ面積軌跡を描く場合、従来のように時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみについて正確に算定することができる。
【0076】
これまでの説明では、PWMインバータの動作、制御方式として、説明を簡単にするため、単相インバータを用いたユニポーラモード・サブハ−モニック変調で動作させた時の状態で説明が行なわれたが、本発明は、この動作、制御方式に限定されるものでなく、また、他のPWM制御による電力変換器の場合にも適用される。
【0077】
以上の説明で容易に判るように、本発明の1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間である、リアクトルに流れる電流iLとその基本周波電流成分iLbとの交点のうち、リプル周期を満足する隣り合う奇数番目の交叉時点間隔、或いは、隣り合う偶数番目の交点間隔の時間は、リプル周期が予め判明していて、経時変動がない動作、制御方式であれば算出することできる。
【0078】
従って、リプル周期が予め判明していて経時変動しない、例えば、一般に良く知られている単相バイポーラモード・サブハーモニック変調や3相PWM変調の動作、制御方式においても本発明を適用することができる。
【0079】
また、以上に説明した本実施形態の例では、所定周波成分のしきい値周波数を、出力電流iRにおける基本周波数である50[Hz]としたが、必ずしも出力電流iRは、基本周波数の単一周波数成分のみで構成されているわけではなく、ひずみ波となる場合も多いので、リアクトルLに流れる電流iLにフーリエ変換を施した結果を見て判断することができ、出力電流iRの基本周波数近傍までを低周波成分のしきい値周波数としても良い。
【0080】
さらに、任意の周波数以上のリアクトルの鉄損、及び任意の周波数以下の鉄損を求めたいのであれば、リアクトルLに流れる電流iL及びリアクトル両端電圧VLにフーリエ変換を施した結果を見て、本発明の所定周波成分のしきい値周波数に、その任意の周波数を設定すれば、以上に説明した本発明のスイッチングリプルによる鉄損を求めるのと同様にして求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の算定期間を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図2】図1の動作波形に関連した磁界と磁束密度の変化を示した波形である。
【図3】本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図4】本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図5】本発明の電力量からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のインバータ各部の動作波形である。
【図6】本発明のリアクトル損失測定装置に係るシステム構成図である。
【図7】本発明の実施例を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図8】本発明の算定期間を説明するリアクトル電流波形の拡大図である。
【図9】本発明の電力量からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図10】本発明の面積からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図11】単相インバータの回路図である。
【図12】従来の算定期間を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図13】図10の動作波形に関連した磁界と磁束密度の変化を示した波形である。
【図14】出力1周期分の実際のB−H動作軌跡の模擬図である。
【図15】従来の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する2リプル周期のB−H曲線である。
【図16】従来の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図17】従来の面積からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図18】従来算定期間での1リプル周期のインバータ各部の動作波形である。
【図19】従来算定期間で本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図20】従来算定期間で本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【符号の説明】
【0082】
1 制御装置
11 基本周波成分抽出手段
12 磁束密度演算手段
13 バイアス磁界演算手段
14 期間算定手段
15 損失算定手段
16 ループ面積軌跡描画手段
2 入力装置
3 表示装置
4 記憶装置
5 計測装置
51 リアクトル電流検出手段
52 リアクトル電圧検出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトル損失測定装置及びその測定方法に関し、特に、PWMインバータなどに用いられるフィルタ回路におけるリアクトルの鉄損について算定する仕方を工夫したリアクトル損失測定装置及びその測定方法に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッドカー、電気自動車、電車などに使用されるPWMインバータなどの電力変換器について、小型化、高出力化、軽量化、低損失化、低コストなどを目指して開発が進められている。この様な中で、特に、PWMインバータなどの電力変換における低損失化が重要である。ところで、従来においては、PWMインバータのフィルタ回路のリアクトル、或いは、DCチョッパ回路や、DC−DCコンバータの平滑リアクトルなどにおける磁気損失は、正弦波電圧を用いる励磁方法で求めた鉄損データから推測するものであった。
【0003】
そこで、PWMインバータのフィルタ回路のリアクトルにおける鉄損の算定方法が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。この提案された鉄損の算定方法について、以下に、説明する。
【0004】
図11に、一般的な単相インバータの回路例を図示した。図中、Q1乃至Q4は、PWM駆動されるスイッチ素子である。なお、PWM駆動回路については、図示を省略されている。インバータの出力側に、リアクトルLとコンデンサCとによるフィルタ回路が接続され、そのフィルタ回路を介して、負荷抵抗Rに所定周波数を有する電力が供給される。同図において、iLは、リアクトルLに流れる電流を、VLは、リアクトルLの両端の電圧をそれぞれ表し、iRは、負荷抵抗Rを流れる電流を、VRは、負荷抵抗Rの両端の電圧をそれぞれ表している。
【0005】
また、図12及び図13に、この単相インバータをユニポーラモード・サブハーモニック変調で動作させた時の、各部の出力周期Tの動作波形を示している。図12(a)は、スイッチ素子Q1とQ3の接続点とスイッチ素子Q2とQ4の接続点との間の電圧VPWMの波形を、同(b)は、負荷抵抗Rを流れる電流iRの波形を、同(c)は、リアクトルLの両端の電圧VLの波形を、そして、同(d)は、リアクトルLに流れる電流iLを、1出力周期Tについてそれぞれ示している。
【0006】
図13(e)には、図12(d)の電流iLに基づいて算出された磁界の強さHの変化が、そして、図13(f)には、図12(c)の電圧VLに基づいて算出された磁束密度Bの変化が、1出力周期Tについてそれぞれ示されている。
【0007】
ここで、図13(e)の磁界強さHと図13(f)の磁束密度Bとに基づいて、1出力周期T分の磁束密度−磁束強さ曲線(B−H曲線)を作成すると、図14のようになる。図14は、出力1周期分の実際のB−H動作軌跡の模擬図である。ここで、矢印で示す部分が、1出力周期Tに含まれる1スイッチングリプル分(動的マイナーループと称す)を表す。
【0008】
さらに、図15は、フイルタリアクトルLに関する1出力周期Tにおける2スイッチングリプルに係るB−H曲線(2リプル周期の動的マイナーループ)を示している。ここで、以上の各図に示された波形を元にして、以下に、従来のフイルタリアクトルの鉄損の算定方法について説明する。
【0009】
1出力周期Tのリアクトルの鉄損を算定する算定期間としては、図12(d)に示すリアクトルに流れる電流iLのボトムピーク値(各スイッチングリプルにおける最小値)から隣接するボトムピーク値を示す間隔時間をΔtとしている。その時間Δtに対応した動的マイナーループを抜粋し、簡略化して示したB−H曲線が、図16の図形となる。
【0010】
ここで、リアクトルLが無損失のものであれば、動的マイナーループは、直線PQと直線QRを描くことから、直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積(以下、疑似マイナーループ面積と称す)が、スイッチングリプルによる鉄損Arとしていた。スイッチングリプルによる鉄損とは、リアクトル全鉄損から、出力電流iRの基本周波数又は該基本周波数近傍の周波成分による鉄損Ab(メジャーループ面積とも称す)による寄与を差し引いた、スイッチングリプル分のみの鉄損を意味している。また、この算定区間である時間Δtにおけるバイアス磁界Hの時間平均を、この算定区間におけるバイアス磁界H0としている。
【0011】
図12に示された半出力周期T/2について、同様に、各リプル周期、即ち、算定区間毎に、前記疑似マイナーループ面積Arとバイアス磁界をH0求め、H0−Ar平面上にプロットしたものをループ面積軌跡と呼んでいる。このループ面積軌跡の例を、図17に示した。図17においては、横軸は、バイアス磁界H0を、そして縦軸は、疑似マイナーループ面積Arをそれぞれ表しており、算定区間毎に求めたバイアス磁界H0と疑似マイナーループ面積Arが丸印でプロットされている。
【0012】
このループ面積軌跡は、各バイアス磁界H0に対する単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損を1リプル周期ごとに、丸印で表したものであり、リアクトルを構成する鉄芯材料やインバータの動作法を変えることにより異なった軌跡を描くことが知られており、インバータの動作制御法とリアクトルの鉄損の関係を評価する上で非常に有用であることが知られている。
【0013】
【非特許文献1】電気学会誌、SPC−06−37、「単相電圧型PWMインバ−タ回路用フイルタリアクトルの鉄損評価および損失低減手法の検討」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところが、従来の鉄損の算定方法には、次のような問題があった。
まず、第1の問題としては、従来の算定方法を半出力周期T/2だけでなく、出力周期のすべてに適用する場合、時間T/2を中心に対称性のある1出力周期Tの鉄損を算定しようとすると、図12に示すように、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を、ボトムピーク値から隣接するボトムピーク値を示す時間Δtから、時間T/2を跨いだ時間では、ボトムピーク値からトップピーク値(各スイッチングリプルにおける最大値)に、それ以降の時間では、トップピーク値から隣接するトップピーク値を示す時間Δt’に変更しなければならない。そのため、算定処理が、非常に複雑なものとなった。
【0015】
また、第2の問題として、図16に示されるように、無損失のリアクトルであれば、動的マイナーループは、直線PQと直線QRを描くことになるので、直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積がスイッチングリプルによる鉄損Arとしていたが、この算定方法では、以下の理由により、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確には算定できていなかった。
【0016】
このスイッチングリプルによる鉄損を正確に算定する方法を以下に説明する。図18は、図12及び図13に示された各々のスイッチングリプルの、即ち、1算定区間tp〜trにおける、リアクトルLに流れる電流iL、リアクトルLの両端の電圧VL、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H、リアクトルLに生じる磁束密度Bに係る波形を抜き出して表示した波形図である。図18(a)は、図12(c)に、同(b)は、図12(d)に、同(c)は、図13(e)に、同(d)は、図13(f)にそれぞれ対応している。上記の区間tp〜trは、図12における区間Δtに対応するものであり、インバータのスイッチ素子のリプル周期に一致している。
【0017】
また、図19は、図18に対応した磁界Hと磁束密度BをB−H平面上に描いた図形であり、1出力周期Tにおける1スイッチングリプルに係る動的マイナーループPQRと、当該スイッチングリプルに係る基本周波数成分によるメジャーループP’R’を示している。
【0018】
1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、本来、図20において、閉曲線JPQRKJ(以下、閉曲線Cと称す)に囲まれた面積A(以下、動的マイナーループ面積と称す)から、低周波成分に対応する閉曲線J’P’R’K’J’(以下、閉曲線Cbと称す)に囲まれた面積Ab(以下、メジャーループ面積と称す)を減ずれば正確に求めることができる。
【0019】
或いは、図18において、1リプル周期のスイッチングリプルについて、リアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分ILbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、鉄損Arは正確に求めることができる。
【0020】
以下に、その鉄損Arを正確に求めることができる理由を説明する。
図20において、各点の近傍に示された括弧内には、各点に係るH成分及びB成分を表している。なお、図18(c)及び(d)においても、各点に対応するH成分及びB成分の記号を付してある。ここで、一般に良く知られているように、図20に示された閉曲線Cの面積Aは、磁界H及び磁束密度Bを用いて、次の(1)式で表すことができる。
【0021】
【数1】
【0022】
また、リアクトルに流れる電流iLは、磁界Hに比例し、リアクトルの両端の電圧VLは、磁束密度Bの時間微分に比例することが知られている。従って、上記の(1)式は、次の(2)式に書き改めることができる。
【0023】
【数2】
【0024】
上記の(1)式及び(2)式は、図20に示された閉曲線Cの面積Aは、1リプル周期のリアクトルに生じる電力量、即ち、全鉄損に比例していることを示している。同様のことが、基本周波成分に対応する閉曲線Cbについても成り立つ。図20に示された閉曲線Cbの面積Abは、リアクトルに流れる電流iLの基本周波電流成分をiLb、リアクトル両端の電圧VLの基本周波電圧成分をVLbとすると、次の(3)式が成り立つ。
【0025】
【数3】
【0026】
これは、基本周波成分に対応する図20の閉曲線Cbの面積Abが、1リプル周期のスイッチングリプルにおいて、リアクトルLに生じる基本周波成分の電力量、即ち、基本周波成分に係る鉄損に比例していることを示している。
【0027】
従って、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、従来のように、図16に示す直線PQと直線QRから膨らんだ曲線部分の面積から算定するのではなく、図20の閉曲線Cに囲まれた面積Aから、基本周波成分に対応する閉曲線Cbに囲まれた面積Abを減ずれば正確に求めることができる。
【0028】
或いは、上述した面積の減算からのみではなく、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの基本周波電流成分iLbと電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arは、正確に求めることができることも判る。
【0029】
しかしながら、以上に説明した鉄損の算出方法のように、図20の閉曲線Cに囲まれた面積Aから、基本周波成分に対応する閉曲線Cbに囲まれた面積Abを減じることにより、或いは、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの基本周波電流成分iLbと電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減じることにより、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損Arが正確に求められるとしても、この鉄損の算出方法では、上述した第1の問題点を解消するものではない。
【0030】
そこで、本発明は、出力周期Tのすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、しかも、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができるリアクトル損失測定装置及びその測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
以上の課題を解決するため、本発明によるリアクトル損失測定装置では、PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データが格納される記憶装置と、前記記憶手段に格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出する抽出手段と、前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算する演算手段と、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求める期間算定手段と、求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出する損失算定手段と、を備えた。
【0032】
また、リアクトルの鉄損の算定においては、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間について、リアクトルに流れるリアクトル電流とその所定周波電流成分との交点を求め、そのうちのリプル周期を満足する、隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目の交叉時点の間隔を損失算定期間とし、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損の算出は、対応する前記損失算定期間の動的マイナーループの面積から、所定周波成分によるメジャーループの面積を差し引く、或いは、対応する前記損失算定期間の前記リアクトル電流と前記リアクトルの両端の電圧とから算出した電力量から、前記リアクトル電流に係る所定周波電流成分と、前記リアクトル両端電圧の所定周波電圧成分から算出した電力量を差し引いて、前記鉄損を算出するようにした。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明によれば、PWMインバータにおける出力周期Tすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
次に、本発明によるリアクトル損失測定装置及びその測定方法の実施形態について、図1乃至図11を参照しながら説明する。先ず、本実施形態におけるリアクトルの鉄損に係る算出の仕方について説明する。ここでは、PWMスイッチングにより電力変換する代表例として、図1に示されたユニポーラモード・サブハーモニック変調の単相インバータの場合で説明する。
【0035】
本実施形態では、リアクトルLに流れる電流iLとその所定周波電流成分iLbとが交叉する時点を求め、そのうちリプル周期を満足する、隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目に交叉する時点間の時間から、1リプル周期のリアクトルLの鉄損を算定する損失算定期間を求めることを特徴とし、出力周期に渡って求められた各損失算定期間に基づいて、スイッチングリプルによる損失のみを算定している。
【0036】
ここでは、前記交叉時点は既に求められており、前記隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目に交叉する時点間の時間のうち、偶数番目の交叉時点間隔の時間がリプル周期を満足しているものとして、本実施形態による損失の測定について説明する。
【0037】
図1は、図12と同様に、図11に示された単相インバータをユニポーラモード・サブハーモニック変調で動作させた時の、各部における出力周期Tの動作波形を示している。図1(a)は、スイッチ素子Q1とQ3の接続点とスイッチ素子Q2とQ4の接続点との間の電圧VPWMの波形を、同(b)は、負荷抵抗Rを流れる電流iRの波形を、同(c)は、リアクトルLの両端の電圧VLの波形を、そして、同(d)は、リアクトルLに流れる電流iLを、出力周期Tについてそれぞれ示している。
【0038】
図1(d)に示された波形には、リアクトルLを流れる電流iLとその基本周波電流成分iLbとが交叉する時点について、便宜的に、出力周期Tすべてに渡って順に番号1〜37が付されている。この波形例においては、出力周期Tすべてに渡って求めた奇数番目の交叉時点との間の時間と、偶数番目の交叉時点との間の時間と比較して、偶数番目の交叉時点との間の時間が、リプル周期を満たしているとして選択されている。図中では、算定期間Δtが、代表的に、偶数番目の交叉時点6、8との間の間隔として示されている。
【0039】
図2(e)には、図1(d)の電流iLに基づいて算出された磁界の強さHの変化が、そして、図2(f)には、図1(c)の電圧VLに基づいて算出された磁束密度Bの変化が、出力周期Tについてそれぞれ示されている。ここで、図1及び図2に示した本実施形態による波形図が図12及び図13の場合と異なる点は、図12及び図13の場合では、縦の破線が、インバータのスイッチ素子のリプル周期に一致しているのに対して、本実施形態の場合には、縦の破線で示されている1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間を偶数番目の交叉時点間の算定期間が、図示のようなΔtとされている点である。
【0040】
この様な算定期間にすると、図1に示された波形から容易に判るように、出力周期Tのすべてに渡って、1リプル周期、即ち、各算定期間のリアクトルの鉄損を算定する場合、従来の場合のように、時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができる。
【0041】
また、本実施形態では、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損の算出は、対応する前記算定期間の動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を差し引くか、或いは、対応する前記算定期間のリアクトルLに流れるリアクトル電流iLとリアクトルLの両端のリアクトル電圧VLとから算出した電力量から、リアクトル電流iLの基本周波電流成分iLbと、リアクトル電圧VLの基本周波電圧成分VLbから算出した電力量を差し引く算出方法としている。
【0042】
図5は、図1及び図2に示された算定期間Δtに対応したリプル周期の、即ち、1算定期間td〜teにおける、リアクトルLに流れる電流iL、リアクトルLの両端の電圧VL、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H、リアクトルLに生じる磁束密度Bに係る波形を抜き出したものである。図15(a)は、図1(c)に、同(b)は、図1(d)に、同(c)は、図2(e)に、同(d)は、図2(f)にそれぞれ対応している。上記の期間td〜teは、上述の算定期間Δtに対応している。
【0043】
また、図3及び図4は、図5に対応した磁界Hと磁束密度BをB−H平面上に描いたもので、1リプル周期の動的マイナーループDQREとメジャーループD’E’を示している。図3及び図4に示された動的マイナーループとメジャーループが、図19及び図20に示された従来の場合における動的マイナーループとメジャーループの形状と異なるのは、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間の求め方が従来と異なるためである。
【0044】
この様に、算定期間の求め方が異なっていても、上述したのと同様の損失算定手法を採用することができ、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損αrは、図4において示されるように、閉曲線JDQREKJ(以下、閉曲線Γと称す)に囲まれた面積αから、基本周波成分に対応する閉曲線J’D’E’K’J’(以下、閉曲線Γbと称す)に囲まれた面積αbを減ずることにより、鉄損αrを正確に求めることができる。
【0045】
或いは、図5に示されるように、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、リアクトル電流iLの基本周波電流成分iLbと、リアクトル両端電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずれば、同様に、1リプル周期のリアクトルに係る鉄損αrを正確に求めることができる。図4において、各点の近傍に示された括弧内の記号は、各点のH成分及びB成分を表している。図5(c)及び(d)に示された波形図においても、図4の図示と同様に、H成分及びB成分の記号を付してある。
【0046】
ここで、図4に示された閉曲線Γの面積αは、磁界H及び磁束密度Bを用いて、上記の(1)式と同様に、(4)式で表すことができる。
【0047】
【数4】
【0048】
また、上記の(2)式と同様に、リアクトルに流れる電流iLは、磁界Hに比例し、リアクトルの両端の電圧VLは、磁束密度Bの時間微分に比例することから、上記の(4)式は、次の(5)式に書き改めることができる。
【0049】
【数5】
【0050】
上記の(4)式及び(5)式により、図4に示された閉曲線Γの面積αは、1リプル周期のリアクトルに生じる電力量、即ち、全鉄損に比例していることを示している。同様に、基本周波成分に対応する閉曲線Γbについても、このことが成り立つ。図4に示された閉曲線Γbの面積αbは、リアクトルに流れる電流iLの基本周波電流成分をiLb、リアクトル両端の電圧VLの基本周波電圧成分をVLbとすると、上記の(3)式と同様に、次の(6)式が成り立つ。
【0051】
【数6】
【0052】
上記の(6)式により、基本周波成分に対応する図4に示された閉曲線Γbの面積αbが、1リプル周期のリアクトルに生じる基本周波成分の電力量、即ち、基本周波成分に係る鉄損に比例していることを示している。
【0053】
従って、本実施形態によるリアクトル損失算定の手法によっても、1リプル周期のスイッチングリプルによる鉄損αrは、図4に示された閉曲線Γに囲まれた面積αから、基本周波成分に対応する閉曲線Γbに囲まれた面積αbを減ずるという算定方法で正確に求めることができる。
【0054】
或いは、上記の(5)式及び(6)式から明らかなように、前記面積の減算からのみではなく、1リプル周期のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、iLの低周波成分iLbとVLの低周波成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずる方法でも、同様に、鉄損αrを正確に求めることができることを示している。
【0055】
よって、本実施形態によれば、出力周期Tすべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する場合、従来のように時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみを正確に算定することができる。
【0056】
以上では、本実施形態によるリアクトル損失の算定方法について説明されたが、次に、本実施形態のリアクトル損失の算定方法を用いたリアクトル損失測定装置について説明する。そのリアクトル損失測定装置のシステム構成の概要を図6に示した。
【0057】
本実施形態のリアクトル損失測定装置は、制御装置1、入力装置2、表示装置3、記憶装置4、そして計測装置5を備えている。制御装置1は、中央処理ユニットCPUを有しており、入力装置2からのオペレータによる入力操作で、格納されたプログラムに従って種々の演算処理を実行する。表示装置3は、制御装置1による演算処理の結果、動作波形などを表示する。制御装置1には、計測装置5で計測された情報が入力され、記憶装置4に格納される。計測装置5には、図11に示されるように、リアクトルLを流れる電流iLを検出するリアクトル電流検出手段51と、リアクトルLの両端の電圧VLを検出するリアクトル電圧検出手段52とが備えられる。
【0058】
制御装置1は、基本周波成分抽出手段11、磁束密度演算手段12、バイアス磁界演算手段13、期間算定手段14、損失算定手段15、そして、ループ面積軌跡描画手段16を有している。これらの各手段は、本実施形態のリアクトル損失の算定方法を実現するためのものであり、プログラムに従って処理が実行される。
【0059】
図7には、図11に示した単相インバータ回路における各部の具体的な動作波形が示されている。この単相インバータ回路に接続されたフィルタ回路において、リアクトルLとして、フェライト・コアを有し、インダクタンスL=1[mH]のものを用いた。他の回路定数としては、負荷抵抗R=100[Ω]、コンデンサC=10[μF]、電源電圧E=50[V]とした。そして、出力周波数50[Hz]、スイッチング周波数20[kHz]、変調度70[%]のユニポーラモード・サブハーモニック変調で単相インバータを動作させた時の、各部の出力周期T=20[msec]の動作波形を示している。
【0060】
リアクトルLに流れる電流ILは、リアクトル電流検出手段51である電流プロ−ブ(図示せず)で計測され、リアクトルの両端電圧VLは、リアクトル電圧検出手段52となるリアクトルLのフェライト・コアに巻いた2次巻線に誘起された電圧が計測されたものである。なお、例えば、差動プローブ等で、リアクトル両端の電圧を直接計測した場合、その計測結果を使用して損失計算を行なうと、リアクトルの鉄損だけでなく、銅損をも含んだ損失を測定することになる。そのため、本実施形態では、リアクトル両端電圧は、リアクトルLのフェライト・コアに巻いた2次巻線に誘起された電圧VLを指している。
【0061】
基本周波成分抽出手段11において、入力され記憶装置4に格納されたリアクトル電流iL及びリアクトル電圧VLから、それぞれの基本周波電流成分iLb及び基本周波電圧成分VLbが、電流iL及び電圧VLに対してそれぞれ一般に良く知られているフーリエ変換を施して抽出される。その時抽出に用いた基本周波成分のしきい値周波数は、出力電流iRの基本周波数の50[Hz]とした。また、電流iLと電圧VLの測定系に起因する測定位相誤差は、測定前にキャンセルされているものとする。
【0062】
次いで、バイアス磁界演算手段13において、リアクトルLに印加されるバイアス磁界H及びその基本周波磁界成分Hbが、一般に良く知られている次の(7)式で演算され、また、磁束密度演算手段12において、リアクトルLに生じる磁束密度B及びその基本周波密度成分Bbが、同様に一般に良く知られている次の(8)式より求められる。
【0063】
【数7】
【0064】
図8は、図7のリアクトル電流iLの一部を抜粋し拡大した波形を示している。図8において、丸印で表されている点のうち、その丸印の2点間が本実施形態の1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間を示しおり、リプル周期を満足する隣り合う奇数番目の電流iLと基本周波電流成分iLbとの交点を示している。
【0065】
この丸印の交叉時点は、期間算定手段14において求められるものであり、出力周期T=20[msec]すべてに渡って、電流iLと基本周波電流成分iLbと差の絶対値が最小になる交叉時点を半リプル周期ごとに求めている。この求められた隣り合う奇数番目、或いは、偶数番目の交叉時点間隔の時間うち、リプル周期を満足する方を選択したものが算定期間とされる。
【0066】
この様に求められたリプル周期を満足する隣り合う奇数番目の交叉時点間隔、即ち、本実施形態における算定期間を用いて、損失算定手段15で算定したスイッチングリプルの鉄損に基づいて、ループ面積描画手段16によって、ループ面積軌跡データが作成され、作成されたループ面積軌跡データが表示装置3の画面に描画される。その描画されたループ面積軌跡の例が図9及び図10に示されている。
【0067】
図10に示されたループ面積軌跡のスイッチングリプルの鉄損は、本実施形態の各算定期間の動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を差し引く方法で求めたものであり、図9のループ面積軌跡のスイッチングリプルによる鉄損は、同様に、本実施形態の各算定期間のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分iLbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を減ずる方法で求めたものである。
【0068】
図8及び図9に示されているバイアス磁界H0は、各算定期間での磁界Hの時間平均であることから、バイアス磁界演算手段13において、次の(9)式で求められた。
【0069】
【数8】
【0070】
図10における単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Praは、各算定期間における動的マイナーループの面積から、メジャーループの面積を引いて算出した損失αrを用いて、損失算定手段15において、次の(10)式で求められた。
【0071】
【数9】
【0072】
また、図9における単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Prpは、各算定期間のリアクトルに流れる電流iLとリアクトルの両端の電圧VLとの積の積分から求めた電力量から、電流iLの基本周波電流成分iLbと、電圧VLの基本周波電圧成分VLbとの積の積分から求めた電力量を引いて算出したWrを用いて、損失算定手段15において、次の(11)式で求められた。
【0073】
【数10】
【0074】
図9及び図10のループ面積軌跡を見比べれば明らかなように、同じバイアス磁界H0に対する単位体積当たりのスイッチングリプルによる鉄損Pra、Prpは、同じ値が得られている。
【0075】
よって、本実施形態によれば、出力周期T=20[msec]すべてに渡って、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定し、ループ面積軌跡を描く場合、従来のように時間T/2を境界として、1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する期間を変更しなくとも、簡便に、時間T/2を中心に対称性のある1リプル周期の鉄損を算定することができ、また、スイッチングリプルによる鉄損のみについて正確に算定することができる。
【0076】
これまでの説明では、PWMインバータの動作、制御方式として、説明を簡単にするため、単相インバータを用いたユニポーラモード・サブハ−モニック変調で動作させた時の状態で説明が行なわれたが、本発明は、この動作、制御方式に限定されるものでなく、また、他のPWM制御による電力変換器の場合にも適用される。
【0077】
以上の説明で容易に判るように、本発明の1リプル周期のリアクトルの鉄損を算定する算定期間である、リアクトルに流れる電流iLとその基本周波電流成分iLbとの交点のうち、リプル周期を満足する隣り合う奇数番目の交叉時点間隔、或いは、隣り合う偶数番目の交点間隔の時間は、リプル周期が予め判明していて、経時変動がない動作、制御方式であれば算出することできる。
【0078】
従って、リプル周期が予め判明していて経時変動しない、例えば、一般に良く知られている単相バイポーラモード・サブハーモニック変調や3相PWM変調の動作、制御方式においても本発明を適用することができる。
【0079】
また、以上に説明した本実施形態の例では、所定周波成分のしきい値周波数を、出力電流iRにおける基本周波数である50[Hz]としたが、必ずしも出力電流iRは、基本周波数の単一周波数成分のみで構成されているわけではなく、ひずみ波となる場合も多いので、リアクトルLに流れる電流iLにフーリエ変換を施した結果を見て判断することができ、出力電流iRの基本周波数近傍までを低周波成分のしきい値周波数としても良い。
【0080】
さらに、任意の周波数以上のリアクトルの鉄損、及び任意の周波数以下の鉄損を求めたいのであれば、リアクトルLに流れる電流iL及びリアクトル両端電圧VLにフーリエ変換を施した結果を見て、本発明の所定周波成分のしきい値周波数に、その任意の周波数を設定すれば、以上に説明した本発明のスイッチングリプルによる鉄損を求めるのと同様にして求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】本発明の算定期間を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図2】図1の動作波形に関連した磁界と磁束密度の変化を示した波形である。
【図3】本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図4】本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図5】本発明の電力量からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のインバータ各部の動作波形である。
【図6】本発明のリアクトル損失測定装置に係るシステム構成図である。
【図7】本発明の実施例を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図8】本発明の算定期間を説明するリアクトル電流波形の拡大図である。
【図9】本発明の電力量からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図10】本発明の面積からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図11】単相インバータの回路図である。
【図12】従来の算定期間を説明するインバータ各部の動作波形である。
【図13】図10の動作波形に関連した磁界と磁束密度の変化を示した波形である。
【図14】出力1周期分の実際のB−H動作軌跡の模擬図である。
【図15】従来の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する2リプル周期のB−H曲線である。
【図16】従来の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図17】従来の面積からスイッチングリプルによる鉄損を算定したループ面積軌跡である。
【図18】従来算定期間での1リプル周期のインバータ各部の動作波形である。
【図19】従来算定期間で本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【図20】従来算定期間で本発明の面積からのスイッチングリプルによる鉄損算出を説明する1リプル周期のB−H曲線である。
【符号の説明】
【0082】
1 制御装置
11 基本周波成分抽出手段
12 磁束密度演算手段
13 バイアス磁界演算手段
14 期間算定手段
15 損失算定手段
16 ループ面積軌跡描画手段
2 入力装置
3 表示装置
4 記憶装置
5 計測装置
51 リアクトル電流検出手段
52 リアクトル電圧検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データが格納される記憶装置と、
前記記憶手段に格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出する抽出手段と、
前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算する演算手段と、
前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求める期間算定手段と、
求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出する損失算定手段と、を備えたことを特徴とするリアクトル損失測定装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、前記所定周波電流成分及び前記所定周波電圧成分として、前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧から得られる基本周波電流成分及び基本周波電圧成分を抽出し、或いは、該基本周波数の近傍の周波数による周波電流成分及び周波電圧成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項3】
前記期間算定手段は、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分との差の絶対値が最小となる時点を前記交叉時点とし、該交叉時点に基づいて前記損失算定期間を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項4】
前記損失算定手段は、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流から算出された前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧から算出された前記磁束密度とによる磁束密度−磁界強さ曲線の面積から、前記所定周波電流成分から算出した磁界の強さと、前記所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれた磁束密度−磁界強さ曲線の面積を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項5】
前記損失算定手段は、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流と前記リアクトル両端電圧とに基づいて算出した電力量から、前記所定周波電流成分と前記所定周波電圧成分とに基づいて算出した電力量を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項6】
前記演算手段により前記損失算定期間毎に演算された前記磁界の強さと、前記損失算定手段により前記損失算定期間毎に算出された前記損失とに基づいて、ループ面積軌跡を描く描画データを作成する描画手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項7】
PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データを格納するステップと、
格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出するステップと、
前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波数電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算するステップと、
前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求めるステップと、
求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出するステップと、を有することを特徴とするリアクトル損失測定方法。
【請求項8】
前記抽出ステップにおいて、前記所定周波電流成分及び前記所定周波電圧成分として、前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧から得られる基本周波電流成分及び基本周波電圧成分を抽出し、或いは、該基本周波数の近傍の周波数による周波電流成分及び周波電圧成分を抽出することを特徴とする請求項7に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項9】
前記期間算定ステップにおいて、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分との差の絶対値が最小となる時点を前記交叉時点とし、該交叉時点に基づいて前記損失算定期間を求めることを特徴とする請求項7又は8に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項10】
前記損失算定ステップにおいて、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流から算出された前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧から算出された前記磁束密度とによる磁束密度−磁界強さ曲線の面積から、前記所定周波電流成分から算出した磁界の強さと、前記所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれた磁束密度−磁界強さ曲線の面積を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項11】
前記損失算定ステップにおいて、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流と前記リアクトル両端電圧とに基づいて算出した電力量から、前記所定周波電流成分と前記所定周波電圧成分とに基づいて算出した電力量を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項12】
前記演算ステップで前記損失算定期間毎に演算された前記磁界の強さと、前記損失算定ステップで前記損失算定期間毎に算出された前記損失とに基づいて、ループ面積軌跡を描く描画データを作成するステップを有することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項1】
PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データが格納される記憶装置と、
前記記憶手段に格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出する抽出手段と、
前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算する演算手段と、
前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求める期間算定手段と、
求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出する損失算定手段と、を備えたことを特徴とするリアクトル損失測定装置。
【請求項2】
前記抽出手段は、前記所定周波電流成分及び前記所定周波電圧成分として、前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧から得られる基本周波電流成分及び基本周波電圧成分を抽出し、或いは、該基本周波数の近傍の周波数による周波電流成分及び周波電圧成分を抽出することを特徴とする請求項1に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項3】
前記期間算定手段は、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分との差の絶対値が最小となる時点を前記交叉時点とし、該交叉時点に基づいて前記損失算定期間を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項4】
前記損失算定手段は、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流から算出された前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧から算出された前記磁束密度とによる磁束密度−磁界強さ曲線の面積から、前記所定周波電流成分から算出した磁界の強さと、前記所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれた磁束密度−磁界強さ曲線の面積を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項5】
前記損失算定手段は、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流と前記リアクトル両端電圧とに基づいて算出した電力量から、前記所定周波電流成分と前記所定周波電圧成分とに基づいて算出した電力量を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項6】
前記演算手段により前記損失算定期間毎に演算された前記磁界の強さと、前記損失算定手段により前記損失算定期間毎に算出された前記損失とに基づいて、ループ面積軌跡を描く描画データを作成する描画手段を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定装置。
【請求項7】
PWMスイッチングにより変化するリアクトル電流及びリアクトル両端電圧に係る計測データを格納するステップと、
格納された前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧のデータから所定周波電流成分と所定周波電圧成分を抽出するステップと、
前記リアクトル電流によるリアクトルにおける磁界の強さと前記所定周波電流成分による該リアクトルにおける磁界の強さとを演算し、前記リアクトル両端電圧による該リアクトルにおける磁束密度と前記所定周波数電圧成分による該リアクトルにおける磁束密度を演算するステップと、
前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分とが交叉する時点を求め、求められた隣り合う奇数番目又は偶数番目の前記交叉時点の間隔を損失算定期間とし、前記PWMスイッチングに係る出力周期に渡って該損失算定期間を求めるステップと、
求められた前記損失算定期間毎に、当該期間に係る演算された前記リアクトル電流及び前記所定周波電流成分による前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧及び前記所定周波電圧成分による前記磁束密度に基づいて、前記リアクトルの損失を算出するステップと、を有することを特徴とするリアクトル損失測定方法。
【請求項8】
前記抽出ステップにおいて、前記所定周波電流成分及び前記所定周波電圧成分として、前記リアクトル電流及び前記リアクトル両端電圧から得られる基本周波電流成分及び基本周波電圧成分を抽出し、或いは、該基本周波数の近傍の周波数による周波電流成分及び周波電圧成分を抽出することを特徴とする請求項7に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項9】
前記期間算定ステップにおいて、前記リアクトル電流と前記所定周波電流成分との差の絶対値が最小となる時点を前記交叉時点とし、該交叉時点に基づいて前記損失算定期間を求めることを特徴とする請求項7又は8に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項10】
前記損失算定ステップにおいて、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流から算出された前記磁界の強さと、前記リアクトル両端電圧から算出された前記磁束密度とによる磁束密度−磁界強さ曲線の面積から、前記所定周波電流成分から算出した磁界の強さと、前記所定周波電圧成分から算出した磁束密度とで描かれた磁束密度−磁界強さ曲線の面積を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項11】
前記損失算定ステップにおいて、前記損失算定期間に対応する前記リアクトル電流と前記リアクトル両端電圧とに基づいて算出した電力量から、前記所定周波電流成分と前記所定周波電圧成分とに基づいて算出した電力量を差し引いて、前記損失算定期間におけるリアクトル損失を求めることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【請求項12】
前記演算ステップで前記損失算定期間毎に演算された前記磁界の強さと、前記損失算定ステップで前記損失算定期間毎に算出された前記損失とに基づいて、ループ面積軌跡を描く描画データを作成するステップを有することを特徴とする請求項7乃至11のいずれか一項に記載のリアクトル損失測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
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【図13】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図14】
【公開番号】特開2008−122210(P2008−122210A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−306042(P2006−306042)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(503103109)岩通計測株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(503103109)岩通計測株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
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