説明

リグニン抽出物の製造方法及びリグニン抽出物

【課題】 新たなリグニン抽出物の製造方法を提供する。
【解決手段】金属イオンとリグニン含有材料とを接触させて、リグニン含有材料からリグニン由来成分を抽出する工程、を備える、製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニンを含有する材料から一定条件下で抽出された抽出物とその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
リグニンを含有するリグノセルロース材料やリグノセルロース材料からパルプ原料であるセルロースを分離した残渣である黒液等は、必ずしも有効に利用されず、廃棄物として処分される比率が少なくはないのが現状である。
【0003】
一方、リグニンを有効利用する技術も開発されている。例えば、リグノセルロース材料中のリグニンを、フェノールの存在下で酸と反応させてリグノフェノール誘導体として分離する技術が知られている(特許文献1、2)。リグノフェノール誘導体は、リグニンを適度に低分子化したポリマーの形態を有している。
【0004】
【特許文献1】特開平2−233701号公報
【特許文献2】特開平9−278904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1及び2記載の方法によれば、植物においては複雑な三次元構造を採るリグニンを一定の分子量を有する利用しやすい形態で分離できる。しかしながら、リグニンを有効利用するには、リグニン含有材料からリグニン由来の成分を取得する方法は、この方法に限られず、種々な態様があることが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、新たなリグニン抽出物の製造方法及びそれによって得られるリグニン抽出物を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、リグノセルロース材料などのリグニン含有材料を金属イオンの存在下に破砕、圧搾等して得られる褐変化した抽出液が、種々の機能を有することを見出し、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0008】
本発明によれば、リグニン抽出物の製造方法であって、金属イオンとリグニン含有材料とを接触させて、リグニン含有材料からリグニン由来成分を抽出する工程、を備える、製造方法が提供される。
【0009】
前記金属イオンは、鉄イオン、銅イオン及びコバルトイオンからなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。また、前記リグニン含有材料は、草本類の茎葉を含んでいてもよい。さらに、前記抽出工程は、前記リグニン含有材料の圧搾又は破砕を伴う工程とすることもできる。
【0010】
本発明によれば、上記のいずれかの方法によって得られる、リグニン抽出物も提供される。本発明によれば、上記リグニン抽出物を有効成分とする、抗アレルギー剤も提供される。また、上記リグニン抽出物を有効成分とする、シワ改善剤も提供される。さらに、上記リグニン抽出物を有効成分とする、シミ改善剤も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、リグニン抽出物の製造方法及びリグニン抽出物に関する。本発明の方法によって得られるリグニン抽出物は、紫外線吸収効果を有するほか、アレルギー症状の緩和、シワ改善、シミ改善等の効果を有している。以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、推論であって本発明を拘束するものではないが、以上の製造方法により、低分子化されたリグニンを金属イオンで安定化した状態で得られると考えられる。また、こうしたリグニンは、そのフェノール性水酸基やアルコール性水酸基等が金属イオンを捕捉し錯体を形成するなどして安定化されているものと考えられる。
【0012】
(リグニン抽出物の製造方法)
(リグニン含有材料)
リグニン含有材料としては、植物構造体に含まれているリグニン又は当該リグニンの誘導体を含んでいればよい。リグニン含有材料としては、植物由来のリグノセルロース系材料、当該リグノセルロース系材料を化学的に改変した材料が挙げられる。植物由来のリグノセルロース系材料としては、植物の全体又は部分、木質部分を有する加工品等が挙げられる。植物としては、特に限定しないが、針葉樹、広葉樹、ユーカリ等の木本類ほか、イネ、ムギ、トウモロコシ、サトウキビ、ケナフ、ゲットウ(月桃)、クマザサなどのササ、タケ等の草本類が挙げられる。植物由来のリグノセルロース材料の非利用材料を用いることもできる。非利用材料としては、間伐材、剪定された植物の枝葉等、食用部分の収穫後の茎葉等が挙げられる。なかでも、リグノセルロース系材料としては、草本類の茎葉を好ましく用いることができる。これらは、木本類よりも組織が粗であるため、効率的にリグニン抽出物を得ることができる。また、クロロフィルを含有する葉の部分を用いることで、リグニン抽出物にクロロフィル抽出物も含まれることになる。
【0013】
リグノセルロース系材料は、抽出効率を考慮すると、ある程度破砕されていることが好ましい。草本類由来のリグノセルロース系材料は、適度に切断されていることが好ましく、木本類のリグノセルロース系材料は、チップ状あるいは粉末状となっていることが好ましい。
【0014】
また、リグノセルロース系材料を化学的に改変した材料としては、特許文献1、2に記載のリグノフェノール誘導体のほか、スルホリグニンなどの改質リグニンのほか、パルプ抽出残渣である黒液、茶ガラ等の植物性の食品廃棄物等が挙げられる。例えば、クマザサから精油を水蒸気蒸留で抽出し、精油を分離後の蒸留水にはクマザサのリグニン由来のポリフェノール類が含まれている。こうした蒸留残渣もリグニン含有材料として用いることができる。
【0015】
(金属イオン)
金属イオンとしては、遷移金属イオンや希土類金属イオン、例えば鉄イオンや銅イオン、亜鉛イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、ユーロピウムイオン、テルビウムイオン、ランタンイオン、ネオジムイオンなどが挙げられる。なかでも、鉄イオン、銅イオン、コバルトイオンを好ましく用いることができる。特に、鉄イオン(Fe3+)は、抽出物の安定性(嫌気発酵(腐敗))の抑制、コスト、入手容易性等の観点から最も好ましい。金属イオンは、単独でも2種類以上組み合わせても用いることができる。銅イオン及びコバルトイオンは、緑色〜青色の良好な外観を呈する。
【0016】
こうした金属イオンを存在させるには、鉄イオンは、酸化第二鉄(Fe23)、銅イオンには硫酸銅、コバルトイオンには硫酸コバルトなどの塩を用いることができる。
【0017】
(抽出工程)
金属イオンとリグニン含有材料とを接触させる抽出工程は、金属イオンが存在しうる状態で適宜リグニン含有材料を混合(攪拌や振動による)しながら行うことができる。抽出工程における金属イオンの存在量は、特に限定しない。草本類の茎葉の破砕物をリグニン含有材料として用いるとき、十分量の金属イオンの存在により抽出液が着色する。例えば、鉄イオンの場合は黒色化する。一方、銅イオンの場合は緑色化して色調に優れる抽出液を得ることができる。したがって、抽出液の外観色を観察することしたがって、抽出液の外観色を観察することで適当な金属イオン濃度を設定できる。金属イオンとして鉄イオンを用いる場合、典型的には、酸化第二鉄溶液として、0.2g/l以上1g/l以下程度の溶液を用いることができる。
【0018】
例えば、抽出工程における金属イオン源は、抽出に用いる鉄製圧搾機の内部の錆び(酸化第二鉄)であってもよい。錆びた状態の鉄製圧搾機は、良好な鉄イオン供給源として機能し、良好な抽出工程を実施することができる。
【0019】
金属イオンの存在下で抽出工程を実施するには、金属イオンを含みうる水性媒体が存在することが好ましい。抽出工程においては、水などの水性媒体は、リグニン含有材料自体から細胞液及び/又は細胞間液等が供給されるほか、別途添加してもよい。特に、草本類のリグノセルロース系材料を用いる場合には、水性媒体は必ずしも添加する必要はないが、抽出液の濃度や抽出効率を考慮して適宜水等を添加することができる。一方、木粉等の木本類のリグノセルロース系材料を用いる場合には、適量の水を用いることが好ましい。
【0020】
抽出工程は、特に加熱を要するものではないが、リグニンの溶出を促進し、金属イオンとの結合を促進するために加熱してもよい。特に、銅イオンやコバルトイオンなどを用いるときには、加熱を伴う抽出工程を実施することが好ましい。例えば、80℃以上100℃以下程度に加熱することが好ましい。また、加圧も要するものではないが、加圧してもよい。抽出工程は、例えば、紙を作製するための圧搾破断装置等を用いて行ってもよい。
【0021】
抽出工程に先立ってあるいは抽出工程に伴って、リグニンの分解を促進し、あるいはセルロースとの分離を促進する各種操作を実施することができる。例えば、特許文献1、2に記載のリグノフェノール誘導体化、リグノセルロース材料の破砕や抽出処理に用いられる爆砕や蒸煮、酸化処理、還元処理、酸処理、アルカリ処理、酵素処理、微生物処理、水や有機溶媒の亜臨界流体処理、超臨界流体処理等が挙げられる。これらの各処理は、金属イオンによる抽出工程に先立ってリグニン含有材料に対して実施してもよいし、抽出工程において実施してもよい。
【0022】
なお、酸化処理用の酸化剤としては、オゾンやFe3+−HCl系、アルカリ−H系、Ce4+などが挙げられる。還元処理用の還元剤としては、テトラヒドリドアルミン酸リチウムやテトラヒドロホウ酸ナトリウムなどが挙げられる。なかでも、リグニンに含まれるカルボニル基を選択的に還元するテトラヒドロホウ酸ナトリウムが好適に用いられる。アルカリ処理用の薬剤としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウウム、ホウ酸ナトリウムなど種々の塩基性化合物が挙げられる。酸処理用の薬剤としては、硫酸や塩酸、硝酸、燐酸、有機酸などが好適に用いられる。酵素処理としては、リグニンの断片化を促進するペルオキシダーゼや配糖体を形成する糖化酵素、グルクロン酸化するグルクロン酸転移酵素などが好適に用いられる。微生物処理としては、取り扱いの容易さや安全性から腐朽菌や酵母がリグニンの断片化や修飾のために好適に用いられる。
【0023】
また、抽出工程に先立って、金属イオンを含む水性媒体中にリグニン含有材料を浸漬しておくと抽出物を得られやすくなる。浸漬操作は、用いる金属イオンによって異なる手法を採用してもよい。例えば、鉄イオンの場合、抽出工程で用いる金属塩の溶液中にリグニン含有材料を1時間から24時間程度浸漬して静置しておいてもよい。発酵を考慮すると、常温あるいはそれよりも低温下で静置するのが好ましい。また、例えば、銅イオンやコバルトイオンを用いる場合、80℃以上100℃以下程度に加熱することによりリグニンによる金属イオンの捕捉を促進することが好ましい。浸漬後のリグニン含有材料は、浸漬液とともに抽出工程を実施してもよいし、浸漬液から分離したリグニン含有材料のみにつき抽出工程を実施してもよい。
【0024】
混合等を伴う抽出工程の時間は、特に限定しないが、例えばリグノセルロース系材料からリグニン抽出物を得る場合には、リグニンによるセルロースの拘束状態がおおよそ解除される程度に行われればよい。特に限定しないが、例えば、数十分〜数時間程度で実施することができる。抽出工程においては、必要に応じ、混合等を停止したりすることもできる。また、抽出工程では、適宜、金属塩溶液を添加するなどして金属イオン濃度を調節することを含んでいてもよい。
【0025】
抽出工程実施後の抽出液は、リグニンからの金属イオン下での抽出物を含んでいる。抽出液中には、リグノセルラーゼ系材料をリグニン含有材料に用いた場合のほか、高分子リグニンが固形分として存在する場合がある。この場合には、必要に応じ、遠心分離やろ過などにより公知の固液分離手法により液体部分をリグニン抽出物として分離することができる。また、使用したリグニン含有材料の種類やリグニン抽出物の用途に応じ、抽出液中の夾雑成分を適宜除去してもよい。
【0026】
抽出工程により得られる抽出液は通常着色している。抽出液にクエン酸などの酸や、他のハーブ等の植物をクエン酸で抽出した抽出物(典型的には抽出液)を添加することで、抽出液の色調を淡色側に変化させたり、明度を向上させることができる。このような色調調製用の抽出物としては、例えば、シソ葉、ハイビスカスの花弁、桜葉等の淡ピンク色〜淡紫色を呈するようなクエン酸抽出液を用いることができる。クエン酸濃度は適宜設定すればよい。なお、色調調整は出来るだけ低温で実施することが好ましい。
【0027】
(リグニン抽出物)
本発明のリグニン抽出物は、金属イオン存在下でのリグニンの抽出物であり、典型的には、本発明の上記した製造方法によって得ることができる。リグニン抽出物は、液状、スラリー状、ペースト状、粉末等の固体状であってもよい。例えば、上記方法による抽出液をそのままであってもよいし、希釈、濃縮等したものであってもよい。また、抽出液をフリーズドライ等により乾燥して固形化したものであってもよい。
【0028】
リグニン抽出物は、紫外線吸収作用、抗アレルギー作用、シワ改善作用及びシミ改善作用等を発揮することができることを確認できている。なお、シワ改善作用には、シワの改善のほかシワ形成防止作用が含まれる。シミ改善作用には、シミ改善のほかシミ形成防止作用が含まれる。また、リグニン抽出物には、腐敗防止作用があり、それ自体安定性に優れている。
【0029】
リグニン抽出物は、紫外線吸収作用に基づき、紫外線吸収剤として用いることができる。紫外線吸収剤は、皮膚外用剤である化粧品、医薬品及び医薬部外品等としての各種形態を採ることができる。具体的には、化粧品等としては、日焼け止めオイル、日焼け止めローション、日焼け止めクリーム、クリーム・乳液、化粧水、香水、おしろい、化粧油、頭髪用化粧品、染毛料、練香水、パウダー、パック、ファンデーション、粉末香水、頬紅、アイライナー、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、眉墨、爪クリーム、マニキュア、口紅、リップクリーム、石鹸、洗顔料、シャンプー、リンスなどとして使用することができる。また、医薬品等としては、エアゾール剤、液剤、エキス剤、軟膏剤、懸濁剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤等が挙げられる。
【0030】
リグニン抽出物は、シワ改善作用に基づき、シワ改善剤やシミ改善剤としても用いることができる。シワ改善剤及びシミ改善剤は、紫外線吸収剤と同様、皮膚に外用される化粧品、医薬品、医薬部外品等として、各種形態を採ることができる。
【0031】
また、リグニン抽出物は、抗アレルギー作用に基づき、抗アレルギー剤として用いることができる。抗アレルギー剤は、化粧品、医薬部外品及び医薬品等の各種形態を採ることができる。具体的には、化粧品等の形態としては、ローション、クリーム、乳液、おしろい、化粧油、頭髪用化粧品、染毛料、練香水、パウダー、パック、ファンデーション、粉末香水、頬紅、アイライナー、アイクリーム、アイシャドー、マスカラ、眉墨、口紅、リップクリーム、石鹸、洗顔料、シャンプー、リンス等が挙げられる。また、医薬品等としては、エアゾール剤、液剤、エキス剤、軟膏剤、眼軟膏剤、懸濁剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤等が挙げられる。
【0032】
本発明のリグニン抽出物を含有する上記各種製剤(皮膚外用剤)は、リグニン抽出物以外の各種効能を有する成分をさらに含んでいてもよい。例えば、保湿剤、角質改善剤、角質溶解剤、抗生物質、皮膚透過促進剤、血行促進剤、消炎剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、鎮痛剤、皮膚軟化剤、皮膚緩和剤、創傷治療剤、新陳代謝促進剤が挙げられる。
【0033】
本発明のリグニン抽出物を含有する各種製剤は、これら製剤において薬学的に許容される各種成分を含むことができる。例えば、油脂成分、リン脂質、UV吸収剤、IR吸収剤、乳化剤、界面活性剤、防腐剤、棒黴剤、酸化防止剤、美白剤、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、ペプチド、生理活性植物抽出物、蛍光材料、顔料、色素、香料、スクラブ剤、金属イオン封鎖剤、バインダー、増量剤、増粘剤、糖類、栄養成分、pH調節剤、キレート剤、殺菌剤等が挙げられる。
【0034】
なお、各成分の添加量や添加方法及び製剤化方法については、本技術分野に周知の方法に従うことができる。当業者は、上記の一般的な説明及び実施例の具体的開示を基にして、または必要に応じてそれらに適宜修飾や改変を加えることにより、リグニン抽出物を含有する上記各種製剤を容易に製造できる。製剤中におけるリグニン抽出物含有量は、特に、特に限定されず、製剤の用途に応じて適宜選択される。
【0035】
本発明のリグニン抽出物を有する各種製剤は、皮膚あるいは粘膜等に外用することで上記各種作用を得ることができる。これら製剤の用量は特に限定しない。例えば、リグニン抽出液を、朝夕の洗顔後に、適用する面積に応じて適量(例えば、1ml〜5ml程度)をとり、紫外線を防止する箇所(顔、頚、手足等)や、シワ、シミのある箇所、アレルギー等により発疹した箇所等に塗布することがきる。鼻や目などの粘膜部分におけて抗アレルギー作用を発揮させるには、鼻や目の粘膜やその周囲に適量を塗布等すればよい。
【0036】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例1】
【0037】
(リグニン抽出物の調製)
本実施例では、ショウガ科ハナミョウガ属の月桃(ゲットウ(サンニン))の茎葉部分の破砕物を鉄イオン源としての錆びを有する内部に有する鉄製破砕機に投入し、水を添加することなく常温で圧搾抽出して黒褐色のリグニン抽出液を得た。この抽出液の固形分を遠心分離で除去して得られた褐色の上清を得た。得られた上清に、体積比で2倍量の水を添加して3倍希釈した。また、1倍量の水で2倍希釈した。実施例2、4及び5において3倍希釈液をリグニン抽出物として用い、実施例3において2倍希釈液をリグニン抽出物として用いた。なお、本実施例で調製したリグニン抽出物(原液)につき、3種の菌株(Salmonella typhimurium TA100、Eschericha coli WP2uvrA株、Salmonella yphimurium TA198株)につき、遺伝子突然変異誘発性試験(復帰突然変異試験)を行ったところ、変異誘発性は認められなかった。また、Marzulli-maibach法による刺激性と感作性を評価したところ(被験者50名)、刺激性及び感作性がなく、低アレルギー性であることが確認された。
【実施例2】
【0038】
(シワ改善試験及び抗アレルギー性試験)
実施例1で調製したリグニン抽出物(3倍希釈液)を用いて、以下の方法でヒト目尻シワ及びキメに対する効果を評価した。被験者は19名であり、試験期間は3ヶ月とした。また、用法及び用量は、半顔に、2回/日(朝夕)、リグニン抽出物を塗布して使用前及び使用から3ヶ月経過後の目尻レプリカを採取し、キメ及びシワを解析し比較した。なお、リグニン抽出物以外の外用剤や化粧品の制限は特に行わず、従来使用していたもの又は化粧用オイル(ホホバオイル、スクアランオイル等)を用いるものとした。
【0039】
解析方法は、シワについては、化粧品機能性評価法ガイドラインに準拠したレプリカによる斜光証明を用いた二次元画像解析法を用いた。解析項目は、シワ総数、シワ面積比率、最大シワの最大深さ、最大シワの平均深さ及び総シワ平均深さとした。キメについては、レプリカによる斜光照明を用いた皮膚表面形態解析法を用いた。解析項目は、キメのピーク数(キメの数)、キメの分布(キメの不規則度)、キメの間隔とした。なお、これらの解析項目については、それぞれ以下のとおり定義されている。
【0040】
(1)シワ
シワ総数:シワの個数=2値化画像の抽出領域の数(N/cm2
シワ面積比率(RWA)*1:シワの垂直深さ方向の面積の合計/測定面積(1cm2)×100%
最大シワの最大深さ*2:全てのシワで最も深い部分の深さ(mm)
最大シワ平均深さ*2:最も深さが深いシワ(1本)の平均深さ(mm)
総シワ平均深さ*2:全てのシワの深さの平均値(mm)
*1:林照次他、加齢、日光暴露及び化粧品によるしわの変化(日本化粧品技術者会誌、27(3)、p355−373、1993)
*2:抗老化機能評価専門委員会、新規効能獲得のための抗シワ製品評価ガイドライン(日本香粧品学会誌、30(4)、p316−332、2006)
【0041】
(2)キメのピーク数*3:1cmの長さの中にあるキメの個数(N/cm)、キメの数を表す。
キメの分布*3:キメの間隔の標準偏差(10/256/mm)であり、キメの不規則度を表す。
キメの間隔*3:キメから次のキメまでの距離の平均値(10/256/mm)
*3:曽根俊郎ほか、画像解析による皮膚表面形態の季節変化と肌荒れに関する研究(日本香粧品科学会誌、15(2)、p60−65、1991)
【0042】
リグニン抽出物の使用前及び使用後に得られたこれらの解析項目についての平均値及び標準偏差を表1に示す。また、3人の被験者について、使用前及び使用後の各レプリカを斜光観察した結果を図1〜図3に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、キメに関しては使用前と使用後で有意な差は観察されなかったが、シワ総数及びシワ面積比率で有意な差(Paired t−Test、*p<0.05、**p<0.01)が認められた。シワ総数は、シワの個数であり、シワ減少傾向があることがわかった。また、シワ面積比率は、シワの垂直深さ方向の面積の合計であり、シワの深さが全体的に浅くなったことを示している。また、図1〜図3に示すように、レプリカ(レプリカではシワは逆に山脈状となる)の陰が使用後において顕著に小さくなっており、シワが浅くなっていることが目視にても観察できた。このようなシワの深さの減少傾向は深いシワほど大きい傾向があることもわかった。
【0045】
また、被験者のうち花粉症(アレルギー性鼻炎を含む)患者について、症状改善があったほか、アトピー皮膚炎罹患部位にリグニン抽出物を同様にして塗布したアトピー性皮膚炎患者についても、かさつきやかゆみの低減が認められた。
【0046】
以上の結果から、リグニン抽出物は、シワ改善に有効であることがわかった。特に、深いシワに有効であることもわかった。また、リグニン抽出物は、アレルギー症状を緩和、改善する抗アレルギー性があることがわかった。特に、顔等に塗布することで花粉症改善に有効であること、アトピー性皮膚炎にも有効であることがわかった。
【実施例3】
【0047】
(コラーゲン産生促進作用試験)
実施例1で調製したリグニン抽出物(2倍希釈液)を用いて、以下の方法でコラーゲン産生促進作用試験を行った。すなわち、ヒト正常線維芽細胞(Detroit551)を10%FBS、1%NEAA、1mmol/L ピルピン酸ナトリウム含有MEMを用いた培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、2×105 cells/mlの濃度に上記培地で希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェルあたり100μlづつを播種し、一晩培養した。培養終了後、培地を除去し、0.5%FBS含有MEMに溶解したリグニン抽出物を各ウェルに150μl添加し、3日間培養した。培養後、各ウェルのコラーゲン量をELISA法により測定した。コラーゲン産生促進作用の掲載は、以下のとおりとした。ただし、Aは被験試料(リグニン抽出物)添加時のコラーゲン量であり、Bは被験試料無添加時のコラーゲン量である。
コラーゲン産生促進率%=A/B×100
【0048】
リグニン抽出物についてのコラーゲン産生促進率は、859.2±216.7(200μg/ml)及び188.5±48.4(50μg/ml)であった。これは、同時に測定した、月桃葉を水蒸気蒸留後に精油を除去した蒸留残渣(蒸留抽出物画分、金属イオン含まず)を50%エタノールで抽出した抽出液の約3倍以上であった(月桃葉抽出物244.7±67.4(200μg/ml)、112.1±29.8(50μg/ml))。
【0049】
以上のことから、リグニン抽出物は、強いコラーゲン産生促進作用を有していることがわかった。
【実施例4】
【0050】
(シミ改善試験)
実施例1で調製したリグニン抽出物(3倍希釈液)を用いて、以下の方法で顔面のシミ(老人性色素斑)に対する効果を評価した。被験者は2名であり、用法及び用量は、2回/日(朝夕)、リグニン抽出物をシミの箇所に塗布し使用前及び使用から一定期間経過後にシミを観察した。なお、リグニン抽出物以外の外用剤や化粧品の制限は特に行わず、従来と同様のものを用いるものとした。被験者の1名につき、経過観察結果を示す。
【0051】
いずれの被験者についても、シミは時間経過とともにシミが改善し、一名は3ヶ月継続使用でほぼ消失した。また、他の一名は、図4に示すように、使用開始から約8ヶ月で相当改善し、さらに9ヶ月後(使用開始から約17ヶ月経過後)一層改善した。以上の結果から、リグニン抽出物は、シミ改善作用を有することが明らかであった。
【実施例5】
【0052】
(抗アレルギー性試験)
実施例1で調製したリグニン抽出物(3倍希釈液)を用いて、抗アレルギー作用を評価した。被験者はラテックスアレルギー患者2名であり、用法及び用量は、症状が発現したときに、リグニン抽出物を患部に適量塗布した。その結果、被験者の2名について、かゆみが抑制され、アレルギー症状の改善が確認された。以上のことから、リグニン抽出物は、特に初期の炎症を抑制する抗アレルギー作用を有することが分かった。
【実施例6】
【0053】
(GC−MSによるリグニン抽出物中の成分確認)
実施例1で得られたリグニン抽出物(原液)を、GC−MSを用いて一般的な条件で分析した。結果を図5に示す。
【0054】
図5に示すように、リグニン抽出物中には、リグニンに由来すると考えられる各種の低分子化合物が確認できた。以上のことから、金属イオンとリグニン含有材料とを接触させることでリグニンは低分子化されると同時に安定化され、各種機能を有するリグニン抽出物が得られることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】3名の被験者のうち1名におけるシワ改善傾向を示すレプリカ観察結果を示す図である。左側に使用前のレプリカの観察結果を示し、同右側に同一箇所のレプリカの観察結果を示す。
【図2】3名の被験者のうち他の1名におけるシワ改善傾向を示すレプリカ観察結果を示す図である。左側に使用前のレプリカの観察結果を示し、同右側に同一箇所のレプリカの観察結果を示す。
【図3】3名の被験者のうちさらに他の1名におけるシワ改善傾向を示すレプリカ観察結果を示す図である。左側に使用前のレプリカの観察結果を示し、同右側に同一箇所のレプリカの観察結果を示す。
【図4】1名の被験者におけるシミ改善傾向を示す観察結果を示す図である。左側に使用前の状態を示し、右側下段に約8ヶ月経過後の同一箇所の状態を示し、右側上段に使用開始から約17ヶ月経過後の同一箇所の状態を示す。
【図5】GC−MSの結果を示すスペクトル図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニン抽出物の製造方法であって、
金属イオンとリグニン含有材料とを接触させて、リグニン含有材料からリグニン由来成分を抽出する工程、
を備える、製造方法。
【請求項2】
前記金属イオンは、鉄イオン、銅イオン及びコバルトイオンからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記リグニン含有材料は、草本類の茎葉を含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記抽出工程は、前記リグニン含有材料の圧搾又は破砕を伴う工程である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの製造方法によって得られる、リグニン抽出物。
【請求項6】
請求項5に記載のリグニン抽出物を有効成分とする、抗アレルギー剤。
【請求項7】
請求項5に記載のリグニン抽出物を有効成分とする、シワ改善剤。
【請求項8】
請求項5に記載のリグニン抽出物を有効成分とする、シミ改善剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−30921(P2010−30921A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192875(P2008−192875)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(502054510)
【Fターム(参考)】