説明

リセドロン酸の工業的製造方法

【課題】リセドロン酸の工業的製造方法として、操作性が良く、有害性の溶媒・試薬を用いることなく、有害性のガスが多量に発生することもなく、低コストな工業的に応用できる製造方法を提供すること。
【解決手段】反応促進剤としてポリリン酸及び/又は五酸化リン使用することを特徴とする、有機溶媒中で3−ピリジル酢酸と亜リン酸とを反応させることからなる1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法であり、使用する有機溶媒が、トルエン又は酢酸エチルである製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リセドロン酸の工業的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
次式(I):
【0003】
【化1】

【0004】
で示される1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸であるリセドロン酸は、そのモノナトリウム塩の2.5水和物であるリセドロン酸ナトリウム水和物として、ビスフォスフォネート系骨粗鬆症治療薬として臨床的に使用されている薬剤のフリー体である。
【0005】
これまでにリセドロン酸の合成法がいくつか報告されているが、その合成法の基本は、第一段階として亜リン酸と3−ピリジル酢酸をリンハロゲン化合物(例えば、三塩化リン、オキシ塩化リン、五塩化リン、三臭化リン、オキシ臭化リンなど)の共存下で反応させる工程を経て、第二段階として水でクエンチング(quenching)してリセドロン酸を得る工程を基本としている。
【0006】
しかしながら、第一段階の工程は、工業的な規模での製造方法として実施し難い問題点を内在している。例えば、特許文献1(特許第2702419号)ではクロロベンゼンのような有害性の溶媒を使用している上、反応の進行と共に反応液が強い粘着性のある塊となり、工業的製法としては受け入れ難い。
【0007】
そのため、反応系で使用する溶媒の種類を種々変更することにより反応物の溶解性を高め、反応液の攪拌性・流動性を改善する検討がなされ、これまで幾つかの提案がなされているが、いずれも工業的な製造方法としては難点がある。
例えば、特許文献2(特表2007−502810号公報)では反応溶媒としてスルホランの使用を提案しているが、スルホラン自体が高価なものであり、工業的には不向きである。
また、特許文献3(国際公開WO2006/134603)では反応溶媒としてオクタン、あるいはジオキサンを使用する提案がなされているが、オクタン自体の安全性、ジオキサンの毒性に問題点がある。
【0008】
さらに、特許文献4(特許第3857706号)では特異的な溶媒としてシリコンオイルを使用した提案がなされているが、シリコンオイルを用いた場合の設備の洗浄が容易でない問題点を有している。
また、特許文献5(アメリカ特許公開2006−0258625)では反応溶媒としてジフェニルエーテルを使用し、特許文献6(ヨーロッパ特許第1243592号)ではフルオロベンゼンを反応溶媒に使用した製造方法が提案されているが、いずれの場合も安全性とコスト的な面で十分なものとはいえない。
なお、特許文献4においては反応溶媒としてトルエンを使用した方法も報告されているが、反応液の粘着・固化の点を改善するまでには至っていない。
【0009】
一方、反応試薬を改善することにより反応液の粘着・固化の点を改善する提案もなされており、例えば、特許文献7(国際公開WO2007/023342)ではプロピルホスホン酸無水物を使用する製造方法が提案されているが、プロピルホスホン酸無水物は高価な試薬であり、安価な工業的製造法とは言えないものである。
また、これらの報告のほとんどは、反応試薬として三塩化リン、オキシ塩化リン、五塩化リン、三臭化リン、オキシ臭化リンなどリンハロゲン化合物を多量に用いているため、反応で大量のハロゲン化水素ガスが発生し、工業的に生産する上では大規模な排ガス処理装置が必要となる問題点があった。
【0010】
【特許文献1】特許第2702419号
【特許文献2】特表2007−502810号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/134603
【特許文献4】特許第3857706号
【特許文献5】アメリカ特許公開2006−0258625
【特許文献6】ヨーロッパ特許第1243592号
【特許文献7】国際公開WO2007/023342
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の現状を鑑み、リセドロン酸の工業的製造方法として、操作性が良く、有害性の溶媒・試薬を用いることなく、また、有害性のガスが多量に発生することもなく、低コストな工業的に応用できる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる課題を解決するべく本発明者等は鋭意検討した結果、3−ピリジル酢酸と亜リン酸との反応に対する試薬として、ポリリン酸及び五酸化リンを用い、工業的に汎用される有機溶媒中で反応することにより、反応液の攪拌性・流動性に問題がなく、また、有害な塩酸ガス等の発生を抑え、効率よく目的とするリセドロン酸を製造し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
而して本発明は、その基本的態様として、反応促進剤としてポリリン酸及び/又は五酸化リン使用することを特徴とする、有機溶媒中で3−ピリジル酢酸と亜リン酸とを反応させることからなる1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法である。
【0014】
より具体的には、本発明は、有機溶媒中、3−ピリジル酢酸、亜リン酸及びポリリン酸を混合し、更に五酸化リンを添加して反応させることを特徴とするリセドロン酸の製造方法である。
【0015】
本発明は、好ましくは、有機溶媒が、トルエン又は酢酸エチルであり、また、反応温度が、室温〜有機溶媒の沸点温度までの範囲であるリセドロン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、上記したように、3−ピリジル酢酸と亜リン酸の反応試薬として、ポリリン酸及び/又は五酸化リン、好ましくはポリリン酸と五酸化リンの両者を用い、工業的に汎用される有機溶媒中で反応することによるリセドロン酸の製造方法である。
本発明方法によれば、反応が終結するまで反応内容物が粘着・固化されることがなく、十分に攪拌することが可能であり、操作性に何らの支障がない。
また、有害なハロゲン化水素の発生は、原料として3−ピリジル酢酸としてその塩酸塩を用いた場合には等モル分の塩化水素は発生するものの、反応試薬としてリンハロゲン化物を用いないため、反応での過剰なハロゲン化水素が副生することがない。
これまでの報告では3倍モルのオキシ塩化リン又は三塩化リンを用いて反応しているものであり、その場合は基質に対して10倍モルの塩化水素(塩酸ガス)が発生することとなる。
その点からみれば、本発明の製造方法では塩酸ガスの発生を1/10までに低減することができ、大規模な排ガス処理装置をなんら必要としない、工業的に優れた製造方法となる点で、その利点は多大なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の基本的な態様は、上記したように、有機溶媒中、3−ピリジル酢酸、亜リン酸、ポリリン酸及び/又は五酸化リンを反応させることを特徴とするリセドロン酸の製造方法である。
反応に使用する3−ピリジル酢酸は、その塩の形態、なかでも塩酸塩の形態、すなわち3−ピリジル酢酸塩酸塩を使用するのが好ましい。
【0018】
用いる溶媒としては工業的に汎用されている有機溶媒が好ましく、具体的には、トルエン又は酢酸エチルを用いるのがよい。
これまでの報告では、スルホラン、オクタン、ジオキサン、シリコンオイル、ジフェニルエーテル或いはフルオロベンゼン等の特異的溶媒を使用したものであるが、これらの溶媒では安全性の面、或いは価格の面で問題があるが、本発明方法では工業的に汎用されてトルエン又は酢酸エチルを使用するものであり、安全性の面、或いは価格の面での問題点はない。
なお、用いる有機溶媒の使用量は、一概に限定できないが、反応を進行させるに十分な量であればよく、3−ピリジル酢酸塩酸塩1モル当量に対して、0.5〜1L程度使用すれば十分であり、状況に応じて適宜増減することができる。
【0019】
本発明の製造方法における、3−ピリジル酢酸塩酸塩と亜リン酸の使用量としては、3−ピリジル酢酸塩酸塩1モル量に対して亜リン酸を3倍モル量使用するのがよい。
【0020】
本発明の製造方法にあっては、3−ピリジル酢酸塩酸塩と亜リン酸に対する反応試薬としてポリリン酸及び/又は五酸化リンを使用する点に特徴がある。
なお、本発明にあっては、反応試薬としてポリリン酸のみ、あるいは五酸化リンだけであっても目的とするリセドロン酸を得ることができる。しかしながら、ポリリン酸のみであると反応液の流動性は良いが収率の点で好ましいものではなく、また五酸化リンのみでは反応液の流動性が悪く、また収率も良いものではない。本発明者等の検討によれば、ポリリン酸にさらに五酸化リン加えることにより、反応液の流動性もよく、反応がより促進することが判明した。
【0021】
反応試薬として使用するポリリン酸及び五酸化リンの使用量としては、ポリリン酸は、3−ピリジル酢酸塩酸塩に対して2〜5倍重量、好ましくは3倍重量使用し、5酸化リンは亜リン酸に対して等モル量程度使用するのがよい。
【0022】
反応温度並びに反応時間は一概に限定できないが、反応温度としては、室温から用いる有機溶媒の沸点温度付近、好ましくは溶媒の沸点より少し低い温度であり、反応時間は、5時間〜24時間、好ましくは15〜20時間程度である。
【0023】
反応の進行に伴い、反応液は有機溶媒の相(上層)と原料混合物の相(下層)に分離するが、両相とも非常に流動性が良く、反応液自体の攪拌にはなんら問題は無い。また、反応終了後、反応液に水を加え、加熱攪拌することにより下層成分は水に分散していくため、以降の操作においては何ら問題のないものであった。
【0024】
その操作のより具体的なものを、以下に記載する。
3−ピリジル酢酸塩酸塩を汎用される有機溶媒(例えば、トルエン、酢酸エチル、より好ましくはトルエン)中に懸濁させ、ポリリン酸(3−ピリジル酢酸塩酸塩に対して2〜5倍重量、好ましくは3倍重量)と亜リン酸を室温で加えて溶解する。
この段階で、反応液は有機溶媒の相(上層)と原料混合物の相(下層)に分離するが、両相とも非常に流動性が良く、攪拌にはなんら問題は無いものであった。
この状態でも目的とする反応は進行するが、反応を促進するために五酸化リンを加え、更に加熱(反応温度は室温〜溶媒の沸点、好ましくは溶媒の沸点より少し低い温度)して反応を進行させる。
その状態で5〜24時間、好ましくは15〜20時間反応させたのち、反応後に水を滴下し、加熱攪拌を続行すると、下層成分(反応物)は水に分散していき、均一に懸濁された反応液となる。
反応液を冷却後、反応液中にエタノールを加えると、結晶が析出するので、濾取した後、エタノール及び水で洗浄し、乾燥させることにより、目的をするリセドロン酸(通常、1水和物の形態)で得ることができる。
【0025】
以上のように、非常に簡便な方法で操作性が良く、汎用の溶媒・試薬を用いることにより、有害性のガスが多量に発生することもなく、リセドロン酸を収率よく製造することができる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明を実施例により、より詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何等限定されるものではない。
【0027】
実施例1:リセドロン酸の製造(その1)
4径フラスコにトルエン350mL、3−ピリジル酢酸塩酸塩100g(0.58モル)、116%ポリリン酸300g、亜リン酸141.7g(1.73モル)及び五酸化リン245g(1.73モル)をいれ、95℃で16時間反応した。反応終了後水400mLを滴下し、90℃で5時間加熱した。反応液を室温まで冷却後エタノール1200mLを加え、析出した結晶を濾取して、エタノールと水で十分に洗浄・乾燥することによりリセドロン酸(通常1水和物の形態)を105.8g(61%)を得た。
【0028】
実施例1:リセドロン酸の製造(その2)
実施例1において、溶媒として酢酸エチルを使用し、同様に反応を行い、目的とするリセドロン酸を58%の収率で得た。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上記載のように、本発明により、操作性が良く、有害性の溶媒・試薬を用いることなく、有害性のガスが多量に発生することもなく、低コストな工業的に応用できるリセドロン酸の工業的製造方法が提供でき、その利便性は多大なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応促進剤としてポリリン酸及び/又は五酸化リン使用することを特徴とする、有機溶媒中で3−ピリジル酢酸と亜リン酸とを反応させることからなる1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法。
【請求項2】
有機溶媒中、3−ピリジル酢酸、亜リン酸及びポリリン酸を混合し、更に五酸化リンを添加して反応させることを特徴とする請求項1に記載の1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法。
【請求項3】
有機溶媒が、トルエン又は酢酸エチルである請求項1又は2に記載の1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法。
【請求項4】
反応温度が、室温〜有機溶媒の沸点温度までの範囲である請求項1、2又は3に記載の1−ヒドロキシ−2−ピリジン−3−イルエチリデンジホスホン酸の製造方法。

【公開番号】特開2009−269867(P2009−269867A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122531(P2008−122531)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000207252)ダイト株式会社 (8)
【Fターム(参考)】