リチウムイオン二次電池、リチウムイオン二次電池用負極、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器
【課題】優れた電池特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備える。活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含む。コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。コア部の平均円形度は0.8以下である。
【解決手段】リチウムイオン二次電池は、正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備える。活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含む。コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。コア部の平均円形度は0.8以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極、その負極を用いたリチウムイオン二次電池、ならびにその二次電池を用いた電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器(PDA)などに代表される電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、上記した電子機器に限らず、電池パック、電気自動車などの電動車両、家庭用電力サーバなどの電力貯蔵システム、または電動ドリルなどの電動工具に代表される多様な用途への適用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが広く提案されているが、中でも、リチウムイオンの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池が有望視されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その負極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられているが、最近では、電池容量のさらなる向上が求められていることから、Siを用いることが検討されている。Siの理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0005】
ところが、負極活物質としてSiを用いると、充放電時に負極活物質が激しく膨張収縮するため、その負極活物質が主に表層近傍で割れやすくなる。負極活物質が割れると、高反応性の新生面(活性面)が生じるため、その負極活物質の表面積(反応面積)が増加する。これにより、新生面で電解液の分解反応が生じると共に、その新生面に電解液由来の被膜を形成するために電解液が消費されるため、サイクル特性などの電池特性が低下しやすくなる。
【0006】
そこで、サイクル特性などの電池特性を向上させるために、リチウムイオン二次電池の構成についてさまざまな検討がなされている。
【0007】
具体的には、サイクル特性および安全性を向上させるために、スパッタ法を用いてSiおよび非晶質SiO2 を同時に堆積させている(例えば、特許文献1参照。)。優れた電池容量および安全性能を得るために、SiOx 粒子の表面に電子伝導性材料層(炭素材料)を設けている(例えば、特許文献2参照。)。ハイレート充放電特性およびサイクル特性を向上させるために、SiおよびOを含有すると共に負極集電体に近い側で酸素比率が大きくなるように負極活物質層を形成している(例えば、特許文献3参照。)。サイクル特性を向上させるために、SiおよびOを含有し、全体の平均酸素含有量が40原子%以下になると共に負極集電体に近い側で平均酸素含有量が大きくなるように負極活物質層を形成している(例えば、特許文献4参照。)。この場合には、負極集電体に近い側における平均酸素含有量と遠い側における平均酸素含有量との差を4原子%〜30原子%としている。
【0008】
また、初回充放電特性などを向上させるために、Si相、SiO2 およびMy O金属酸化物を含むナノ複合体を用いている(例えば、特許文献5参照。)。サイクル特性を向上させるために、粉末状のSiOx (0.8≦x≦1.5,粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素質材料とを混合して、800℃〜1600℃×3時間〜12時間焼成している(例えば、特許文献6参照。)。初回充電時間を短縮するために、Lia SiOx (0.5≦a−x≦1.1および0.2≦x≦1.2)で表される負極活物質を用いている(例えば、特許文献7参照。)。この場合には、SiおよびOを含む活物質前駆体にLiを蒸着させている。充放電サイクル特性を向上させるために、負極活物質体におけるSi量に対するO量のモル比が0.1〜1.2になると共に、負極活物質体と集電体との界面近傍におけるSi量に対するO量のモル比の最大値と最小値との差が0.4以下になるように、SiOx の組成を制御している(例えば、特許文献8参照。)。負荷特性を向上させるために、Li含有多孔質金属酸化物(Lix SiO:2.1≦x≦4)を用いている(例えば、特許文献9参照。)。
【0009】
さらに、充放電サイクル特性を向上させるために、Siを含む薄膜の上に、シラン化合物またはシロキサン化合物などの疎水化層を形成している(例えば、特許文献10参照。)。サイクル特性を向上させるために、SiOx (0.5≦x<1.6)の表面が黒鉛被膜により被覆された導電性粉末を用いている(例えば、特許文献11参照。)。この場合には、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルのラマンシフトにおいて1330cm-1および1580cm-1にブロードなピークが現れると共に、それらの強度比I1330/I1580を1.5<I1330/I1580<3としている。電池容量およびサイクル特性を向上させるために、Siの微結晶(結晶の大きさ=1nm〜500nm)がSiO2 に分散された構造を有する粒子を1質量%〜30質量%含む粉末を用いている(例えば、特許文献12参照。)。この場合には、レーザ回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布において、粉末の累積90%径(D90)を50μm以下、粒子の粒子径を2μm未満にしている。サイクル特性を向上させるために、SiOx (0.3≦x≦1.6)を用いると共に、充放電時に電極ユニットを3kgf/cm2 以上で加圧している(例えば、特許文献13参照。)。過充電特性および過放電特性などを向上させるために、SiとOの原子数比が1:y(0<y<2)であるSiの酸化物を用いている(例えば、特許文献14参照。)。
【0010】
この他、電気化学的に多量のリチウムイオンを蓄積または放出するために、Siなどの一次粒子の表面に非晶質の金属酸化物を設けている(例えば、特許文献15参照。)。この金属酸化物を形成するための金属酸化時におけるギブスの自由エネルギーは、Siなどの酸化時におけるギブスの自由エネルギーよりも小さくなっている。高容量、高効率、高動作電圧および長寿命を実現するために、Si原子の酸化数が所定の条件を満たす負極材料を用いることが提案されている(例えば、特許文献16参照。)。この負極材料は、酸化数が0であるSiと、酸化数が+4のSi原子を有するSi化合物と、酸化数が0よりも大きいと共に+4未満であるSi低級酸化物とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−185127号公報
【特許文献2】特開2002−042806号公報
【特許文献3】特開2006−164954号公報
【特許文献4】特開2006−114454号公報
【特許文献5】特開2009−070825号公報
【特許文献6】特開2008−282819号公報
【特許文献7】国際公開第2007/010922号パンフレット
【特許文献8】特開2008−251369号公報
【特許文献9】特開2008−177346号公報
【特許文献10】特開2007−234255号公報
【特許文献11】特開2009−212074号公報
【特許文献12】特開2009−205950号公報
【特許文献13】特開2009−076373号公報
【特許文献14】特許第2997741号明細書
【特許文献15】特開2009−164104号公報
【特許文献16】特開2005−183264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電子機器などは益々高性能化および多機能化しており、その使用頻度も増加しているため、リチウムイオン二次電池は頻繁に充放電される傾向にある。そこで、リチウムイオン二次電池の電池特性についてより一層の向上が望まれている。
【0013】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術のリチウムイオン二次電池用負極は、活物質を含み、その活物質がリチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部とそのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含むものである。コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。コア部の平均円形度は0.8以下である。また、本技術のリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備え、その負極が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の活物質を含むものである。さらに、本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器は、上記した本技術のリチウムイオン二次電池を用いたものである。
【0015】
ここで、「低結晶性」とは、高角散乱暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF STEM)などを用いて被覆部の断面あるいは表面を観察した場合に、非結晶領域および結晶領域(結晶粒)の双方が存在している状態を意味する。これに対して、「非結晶性」とは、いわゆる非晶質と同義であり、HAADF STEMなどを用いて被覆部を観察した場合に、非結晶領域だけが存在しており、結晶領域が存在していない状態を意味する。なお、観察時の倍率は、例えば、1.2×106 倍とする。
【発明の効果】
【0016】
本技術のリチウムイオン二次電池用負極またはリチウムイオン二次電池によれば、活物質がコア部の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部を含む。また、SiおよびOを構成元素として含むコア部の原子比x(O/Si)が0≦x<0.5であると共に、SiおよびOを構成元素として含む被覆部の原子比y(O/Si)が0.5≦y≦1.8である。さらに、コア部の平均円形度が0.8以下である。よって、優れた電池特性を得ることができる。また、本技術のリチウムイオン二次電池を用いた電子機器、電動工具、電池パック、電動車両および電力貯蔵システムによれば、上記したサイクル特性などの特性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の構成を表す断面図である。
【図2】負極活物質の構成を模式的に表す断面図である。
【図3】負極活物質(被覆部=非結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図4】負極活物質(被覆部=低結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図5】負極活物質(被覆部=低結晶性)の断面構造を拡大して表す他のHAADF STEM写真である。
【図6】負極活物質(被覆部=非結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図7】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(角型)の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示したリチウムイオン二次電池のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した正極および負極の構成を模式的に表す平面図である。
【図10】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図11】図10に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図12】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す分解斜視図である。
【図13】図12に示した巻回電極体のXIII−XIII線に沿った断面図である。
【図14】リチウムイオン二次電池の適用例(電池パック)の構成を表すブロック図である。
【図15】リチウムイオン二次電池の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図である。
【図16】リチウムイオン二次電池の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図である。
【図17】リチウムイオン二次電池の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.リチウムイオン二次電池用負極
2.リチウムイオン二次電池
2−1.角型
2−2.円筒型
2−3.ラミネートフィルム型
3.リチウムイオン二次電池の用途
3−1.電池パック
3−2.電動車両
3−3.電力貯蔵システム
3−4.電動工具
【0019】
<1.リチウムイオン二次電池用負極>
図1は、本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」という。)の断面構成を表している。図2は、負極に含まれる活物質(負極活物質)の断面構成を模式的に表している。図3〜図6は、負極活物質の断面構造のHAADF STEM写真(以下、単に「TEM写真」という。)である。
【0020】
[負極の全体構成]
負極は、例えば、図1に示したように、負極集電体1の上に負極活物質層2を有している。この負極では、負極活物質層2が負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。ただし、負極集電体1はなくてもよい。
【0021】
[負極集電体]
負極集電体1は、例えば、電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度に優れた導電性材料により形成されている。このような導電性材料は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどである。中でも、Liと金属間化合物を形成しないと共に負極活物質層2と合金化する材料が好ましい。
【0022】
この負極集電体1は、CおよびSを構成元素として含んでいることが好ましい。負極集電体1の物理的強度が向上するため、充放電時に負極活物質層2が膨張収縮しても負極集電体1が変形しにくくなるからである。このような負極集電体1は、例えば、CおよびSがドープされた金属箔などである。CおよびSの含有量は、特に限定されないが、中でも、いずれも100ppm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0023】
負極集電体1の表面は、粗面化されていてもよいし、粗面化されていなくてもよい。粗面化されていない負極集電体1は、例えば、圧延金属箔などであり、粗面化された負極集電体1は、例えば、電解処理またはサンドブラスト処理された金属箔などである。電解処理とは、電解槽中で電解法を用いて金属箔などの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された金属箔は、一般に電解箔(例えば電解Cu箔など)と呼ばれている。
【0024】
中でも、負極集電体1の表面は、粗面化されていることが好ましい。アンカー効果により負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性が向上するからである。負極集電体1の表面粗さ(例えば十点平均粗さRz)は、特に限定されないが、アンカー効果により負極活物質層2の密着性を向上させるためにはできるだけ大きいことが好ましい。ただし、表面粗さが大きすぎると、かえって負極活物質層2の密着性が低下する可能性がある。
【0025】
[負極活物質層]
負極活物質層2は、図2に示したように、リチウムイオンを吸蔵放出可能である複数の粒子状の負極活物質200を含んでおり、必要に応じて、さらに負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0026】
負極活物質200は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部201と、そのコア部201の表面に設けられた被覆部202とを含んでいる。このようにコア部201が被覆部202により被覆されている様子は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認できる。また、コア部201および被覆部202の結晶状態は、図3〜図5に示したように、TEMにより確認できる。
【0027】
[コア部]
コア部201は、所定の方向に延在する細長い形状を有しており、いわゆる繊維状である。コア部201が非繊維状(例えば球状または略球状など)である場合と比較して、充放電時にコア部201が膨張収縮しても破損(割れまたは剥がれなど)しにくくなるからである。
【0028】
これに伴い、コア部201の平均円形度は、できるだけ小さいことが好ましい。言い替えれば、コア部201のアスペクト比は、できるだけ大きいことが好ましい。具体的には、コア部201の平均円形度は、0.8以下である。コア部201の破損が著しく抑制されるため、サイクル特性などが向上するからである。中でも、平均円形度は、0.6以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、平均円形度は、粒子像解析装置により測定できる。この粒子像解析装置では、30個の粒子(負極活物質)について円形度を算出したのち、その円形度の平均値を算出する。なお、円形度=粒子の投影画像と同一面積を有する真円の外周長/粒子の投影画像の外周長である。
【0029】
このコア部201は、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は、0≦x<0.5である。原子比xが範囲外である場合(0.5≦x)と比較して、充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、不可逆容量が減少するため、高い電池容量が得られるからである。
【0030】
コア部201の形成材料は、上記した組成(原子比x)から明らかなように、Siの単体(x=0)でもよいし、SiOx (0<x<0.5)でもよい。ただし、xはできるだけ小さいことが好ましく、x=0であること(Siの単体)がより好ましい。高いエネルギー密度が得られるため、電池容量がより高くなるからである。また、コア部201の劣化が抑制されるため、充放電サイクルの初期から放電容量が低下しにくくなるからである。なお、本技術の「単体」とは、あくまで一般的な意味での単体(微量の不純物(酸素以外の元素)を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0031】
コア部201は、結晶性(高結晶性)、低結晶性または非結晶性のいずれでもよいが、中でも、高結晶性または低結晶性であることが好ましく、高結晶性であることがより好ましい。充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなるため、高い電池容量などが得られるからである。また、充放電時にコア部201が膨張収縮しにくくなるからである。中でも、コア部201において、X線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は20°以下であると共に、その(111)結晶面に起因する結晶子サイズは10nm以上であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0032】
なお、コア部201は、SiおよびOと共に、他の元素のいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0033】
具体的には、コア部201は、Feを含んでいることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%〜7.5重量%であることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するだけでなく、リチウムイオンの拡散性が向上するからである。
【0034】
コア部201中において、Feは、SiおよびOとは別個(遊離状態)に存在していてもよいし、SiおよびOのうちの少なくとも一方と合金または化合物を形成していてもよい。このことは、後述するAl等についても同様である。このFeを含むコア部201の組成(Feの結合状態など)については、例えば、EDXにより確認できる。
【0035】
この他、コア部201は、Al、Cr、Ni、B、Mg、Ca、Ti、V、Mn、Co、Cu、Ge、Y、Zr、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、La、Ce、PrおよびNdのうちの少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するAl等の割合(Al等/(Si+O))は、特に限定されない。なお、コア部201がAlを含んでいると、そのコア部201が低結晶化するため、充放電時に膨張収縮しにくくなると共に、リチウムイオンの拡散性がより向上する。
【0036】
[被覆部]
被覆部202は、コア部201の表面のうちの少なくとも一部に設けられている。このため、被覆部202は、コア部201の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。前者の場合には、被覆部202がコア部201の表面を複数箇所に点在しながら被覆していてもよい。
【0037】
この被覆部202は、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は、0.5≦y≦1.8である。充放電を繰り返した場合における負極活物質200の劣化が抑制されるからである。これにより、コア部201におけるリチウムイオンの出入りを確保しつつ、被覆部202によりコア部201が化学的および物理的に保護されるからである。
【0038】
詳細には、コア部201と電解液との間に被覆部202が介在すると、高反応性のコア部201が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制される。この場合には、被覆部202がコア部201と同系統の材料(共通のSiを構成元素として含む材料)により形成されていれば、そのコア部201に対する被覆部202の密着性も高くなる。
【0039】
また、被覆部202が柔軟性(変形しやすい性質)を有するため、充放電時にコア部201が膨張収縮しても、それに追随して被覆部202も膨張収縮(伸縮)しやすくなる。これにより、コア部201が膨張収縮しても、被覆部202が破損(断裂等)しにくくなるため、被覆部202によるコア部201の被覆状態が充放電を繰り返しても維持される。よって、充放電時にコア部201が割れても新生面が露出しにくくなると共に、その新生面が電解液と接触しにくくなるため、電解液の分解反応が抑制される。
【0040】
被覆部202の形成材料は、上記した組成(原子比y)から明らかなように、SiOy である。中でも、原子比yは、0.7≦y≦1.3であることが好ましく、y=1.2であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0041】
また、被覆部202は、非結晶性(非晶質)または低結晶性である。結晶性(高結晶性)である場合と比較して、リチウムイオンが拡散されやすいため、コア部201の表面が被覆部202により被覆されていても、そのコア部201がリチウムイオンを円滑に吸蔵放出しやすくなるからである。
【0042】
中でも、被覆部202は、非結晶性であることが好ましい。被覆部202の柔軟性が向上するため、充放電時にコア部201の膨張収縮に追随しやすくなるからである。また、被覆部202がリチウムイオンをトラップしにくくなるため、コア部201におけるリチウムイオンの出入りがより阻害されにくくなるからである。
【0043】
なお、図3および図6では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が非結晶性のSiOy である場合を示している。一方、図4および図5では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が低結晶性のSiOy である場合を示している。
【0044】
「低結晶性」とは、被覆部202の形成材料が非結晶領域および結晶領域(結晶粒)の双方を含むことを意味しており、非結晶領域だけを含む「非結晶性」とは異なっている。被覆部202が低結晶性であるかどうかを確認するためには、例えば、上記したHAADF STEMなどで被覆部202を観察すればよい。TEM写真から非結晶領域と結晶領域とが混在している様子を確認できれば、その被覆部202は低結晶性である。なお、非結晶領域と結晶領域とが混在している場合、その結晶領域は、粒状の輪郭を有する領域(結晶粒)として観察される。この結晶粒の内部には、結晶性に起因する縞状の模様(結晶格子縞)が観察されるため、その結晶粒を非結晶領域から識別できる。
【0045】
非結晶性と低結晶性との違いは、図3および図4に示したTEM写真から明らかである。被覆部202が非結晶性である場合には、図3に示したように、非結晶領域だけが観察され、結晶領域(結晶格子縞を有する結晶粒)が観察されない。これに対して、被覆部202が低結晶性である場合には、図4に示したように、非結晶領域の中に結晶粒(矢印で指した部分)が点在している様子が観察される。この結晶粒は、Siの格子面間隔dに応じた所定の間隔の結晶格子縞を有しているため、その周辺の非結晶領域から明確に区別される。なお、図4に示したTEM写真をフーリエ変換した(電子回折図に相当する図を得た)ところ、スポットがリング状に並んでいたため、被覆部202の内部に多数の結晶領域が存在していることが確認された。
【0046】
なお、HAADF STEMによる被覆部202の観察手順は、例えば、以下の通りである。最初に、Cu製のTEM用グリッドの表面に接着剤を塗布したのち、その接着剤の上にサンプル(負極活物質200)をふりかける。続いて、真空蒸着法を用いて粉体サンプルの表面に炭素材料(黒鉛)を堆積させる。続いて、集束イオンビーム(FIB)法を用いて炭素材料の表面に薄膜(Pt/W)を堆積させたのち、さらに薄膜加工(加速電圧=30kV)する。最後に、HAADF STEM(加速電圧=200kV)で負極活物質200の断面を観察する。この観察方法は、サンプルの組成に敏感な手法であり、一般に原子番号のほぼ2乗に比例した明るいコントラストの画像が得られる。
【0047】
図3および図4に示したTEM写真では、線Lを境界として結晶状態の異なる領域が観察される。この結晶状態の異なる領域をEDXで分析したところ、線Lよりも内側に位置する領域は結晶性のコア部(Si)であると共に、線Lよりも外側に位置する領域は非結晶性あるいは低結晶性の被覆部(SiOy )であることが確認された。
【0048】
被覆部202の低結晶性の程度は、特に限定されないが、中でも、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率は、35%以下であることが好ましく、25%以下、さらに20%以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。図4に示したように、(111)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.31nmの結晶格子縞を有する結晶領域であり、(220)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.19nmの結晶格子縞を有する結晶領域である。
【0049】
この平均面積占有率の算出手順は、以下の通りである。最初に、図5に示したように、HAADF STEMを用いて被覆部202の断面を観察してTEM写真を得る。この場合には、観察倍率=1.2×106 倍、観察エリア=65.6nm×65.7nmとする。なお、図5は、図4と同じTEM写真である。続いて、結晶格子縞の有無および格子面間隔dの値などを調べて、Siの(111)面に起因する結晶粒および(220)面に起因する結晶粒が存在する範囲を特定したのち、それらの結晶粒の輪郭をTEM写真中に描画する。続いて、各結晶粒の面積を算出したのち、面積占有率(%)=(結晶粒の面積の和/観察エリアの面積)×100を算出する。これらの輪郭の描画および面積占有率の算出については、人為的に行ってもよいし、専用の処理ソフトなどで機械的に行ってもよい。最後に、面積占有率の算出作業を40エリアで繰り返したのち、各エリアにおいて算出した面積占有率の平均値(平均面積占有率)を算出する。この場合には、結晶粒の分布傾向を加味して平均面積占有率を算出するために、被覆部202を厚さ方向において二等分し、その内側部分および外側部分において20エリアずつ面積占有率を算出することが好ましい。
【0050】
また、上記した(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。この平均粒径の算出手順は、エリアごとに平均粒径を算出したのち、その平均粒径の平均値(最終的な平均粒径)を算出することを除き、平均面積占有率を算出した場合と同様である。なお、結晶粒の粒径を測定する場合には、例えば、結晶粒の輪郭を円に変換(結晶粒の輪郭により画定される形状と同等の面積を有する円を特定)したのち、その円の直径を粒径とする。この粒径の算出は、平均面積占有率を算出した場合と同様に、人為的でも機械的でもよい。
【0051】
また、上記したように被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、平均面積占有率は、内側部分と外側部分とで同じでもよいし、異なってもよい。中でも、内側部分における結晶粒の平均面積占有率は、外側部分における結晶粒の平均面積占有率と同じであるか、それよりも大きいことが好ましい(内側部分の平均面積占有率≧外側部分の平均面積占有率)。より高い効果が得られるからである。このことは、平均粒径についても同様である。なお、内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径は、上記したように、それぞれ20エリアずつ算出されることとする。
【0052】
この被覆部202は、単層でもよいし、多層でもよいが、中でも、図6に示したように、多層であることが好ましい。充放電時にコア部201が膨張収縮しても、被覆部202が破損しにくくなるからである。詳細には、単層の被覆部202では、その厚さによっては被覆部202の内部応力が緩和されにくいため、充放電時に膨張収縮したコア部201の影響を受けて被覆部202が破損(割れおよび剥がれなど)する可能性がある。これに対して、多層の被覆部202では、層間に生じた微小な隙間が応力緩和用のギャップとして機能することで内部応力が緩和されやすいため、被覆部202が破損しにくくなる。図6に示した破線は、各層の境界の目安を表している。ただし、被覆部202は、全体に渡って多層でもよいし、一部だけ多層でもよい。
【0053】
この被覆部202の平均厚さは、特に限定されないが、中でも、できるだけ薄いことが好ましく、1nm〜3000nmであることがより好ましい。コア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、被覆部202による保護機能が効果的に発揮されるからである。詳細には、平均厚さが1nmよりも小さいと、被覆部202がコア部201を保護しにくくなる可能性がある。一方、平均厚さが10000nmよりも大きいと、電気抵抗が高くなると共に、充放電時にコア部201がリチウムイオンイオンを吸蔵放出しにくくなる可能性がある。被覆部202の形成材料がSiOy である場合、そのSiOy はリチウムイオンを吸蔵しやすい一方で、いったん吸蔵したリチウムイオンを放出しにくい性質を有するからである。
【0054】
被覆部202の平均厚さは、以下の手順により算出される。まず、SEMにより1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、被覆部202の厚さTを測定するために、コア部201と被覆部202との境界を目視で確認(決定)できるような倍率であることが好ましい。続いて、任意の10点で被覆部202の厚さTを測定したのち、その平均値(1個当たりの平均厚さT)を算出する。この場合には、できるだけ特定の場所周辺に集中せずに広く分散されるように測定位置を設定することが好ましい。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した平均値の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200について算出された平均値(1個当たりの平均厚さT)の平均値(平均厚さTの平均値)を算出して、被覆部202の平均厚さとする。
【0055】
また、コア部201に対する被覆部202の平均被覆率は、特に限定されないが、できるだけ大きいことが好ましく、中でも、30%〜100%であることがより好ましい。被覆部202の保護機能がより向上するからである。
【0056】
被覆部202の平均被覆率は、以下の手順により算出される。まず、平均厚さを算出した場合と同様に、SEMにより1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、コア部201のうち、被覆部202により被覆されている部分と被覆されていない部分とを目視で識別できるような倍率であることが好ましい。続いて、コア部201の外縁(輪郭)のうち、被覆部202により被覆されている部分の長さと被覆されていない部分の長さとを測定する。そして、被覆率(1個当たりの被覆率:%)=(被覆部202により被覆されている部分の長さ/コア部201の外縁の長さ)×100を算出する。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した被覆率の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200について算出された被覆率(1個当たりの被覆率)の平均値を算出して、被覆部202の平均被覆率とする。
【0057】
なお、被覆部202はコア部201に隣接していることが好ましいが、コア部201の表面に自然酸化膜(SiO2 )が介在していてもよい。この自然酸化膜は、例えば、コア部201の表層近傍が大気中で酸化されたものである。負極活物質200の中心にコア部201が存在すると共に外側に被覆部202が存在すれば、自然酸化膜の存在はコア部201および被覆部202の機能にほとんど影響を及ぼさない。
【0058】
ここで、負極活物質200がコア部201および被覆部202を含んでいることを確認するためには、上記したSEM観察の他、例えば、X線光電子分光法(XPS)またはエネルギー分散型X線分析法(EDX)により負極活物質200を分析してもよい。
【0059】
この場合には、負極活物質200の中心部および表層部の酸化度(原子x,y)などを測定すれば、コア部201および被覆部202の組成を確認できる。なお、被覆部202により被覆されているコア部201の組成を調べるためには、HFなどで被覆部202を溶解除去すればよい。
【0060】
酸化度の測定に関する詳細な手順は、例えば、下記の通りである。最初に、燃焼法を用いて負極活物質200(被覆部202により被覆されたコア部201)を定量して、全体のSi量およびO量を算出する。続いて、HFで被覆部202を洗浄除去したのち、燃焼法を用いてコア部202を定量してSi量およびO量を算出する。最後に、全体のSi量およびO量からコア部201のSi量およびO量を差し引いて、被覆部202のSi量およびO量を算出する。これにより、コア部201および被覆部202についてSi量およびO量が特定されるため、それぞれの酸化度を特定できる。なお、被覆部202を洗浄除去する代わりに、被覆部202により被覆されたコア部201と共に未被覆のコア部201を用いて酸化度を測定してもよい。
【0061】
なお、負極活物質層2中において、複数の負極活物質200は互いに離間(分散)されていてもよいし、そのうちの2つ以上が連結されていてもよい。2つ以上の負極活物質200が連結される場合、その連結し合う負極活物質200同士の位置関係を任意でよい。一例を挙げると、2以上の負極活物質200は、長軸同士がほぼ平行になるように配列されていてもよい。
【0062】
[導電部]
なお、負極活物質200は、被覆部202の表面に導電部を含んでいてもよい。この導電部は、被覆部202の表面のうちの少なくとも一部に設けられており、コア部201および被覆部202よりも低い電気抵抗を有している。コア部201が電解液とより接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制されると共に、負極活物質200の電気抵抗がより低下するからである。この導電部は、例えば、炭素材料、金属材料または無機化合物などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。炭素材料は、例えば、黒鉛などである。金属材料は、例えば、Fe、CuまたはAlなどである。無機化合物は、例えば、SiO2 などである。中でも、炭素材料または金属材料が好ましく、炭素材料がより好ましい。負極活物質200の電気抵抗がより低下するからである。なお、導電部の平均被覆率および平均厚さは任意であり、それらの算出手順は被覆部202と同様である。
【0063】
負極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸またはこれらの共重合体などである。この他、高分子材料は、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムまたはポリビニルアルコールなどでもよい。
【0064】
負極導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどの炭素材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、負極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0065】
なお、負極活物質層2は、必要に応じて、上記したコア部201および被覆部202を含む負極活物質200と共に、他の種類の負極活物質を含んでいてもよい。
【0066】
このような他の負極活物質は、例えば、炭素材料である。負極活物質層2の電気抵抗が低下すると共に、その負極活物質層2が充放電時に膨張収縮しにくくなるからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。なお、負極活物質層2における炭素材料の含有量は、特に限定されないが、中でも、60%重量%以下、さらに10重量%〜60重量%であることが好ましい。
【0067】
また、他の負極活物質は、金属酸化物または高分子化合物でもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0068】
負極活物質層2は、例えば、塗布法、焼成法(焼結法)またはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などに分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0069】
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。なお、負極集電体1および負極活物質層2の形成材料については既に詳細に説明したので、その説明を随時省略する。
【0070】
最初に、例えば、以下の手順により、上記した組成を有する粒子状(粉末状)のコア部201を得る。
【0071】
例えば、ウェハ(Si)の表面に1種類または2種類以上の酸溶液を供給して、そのウェハの表面をエッチングして繊維状に成形したのち、そのエッチング後のウェハの表面を研磨して、上記した組成を有すると共に繊維状のSiであるコア部を得る。この場合には、ウェハの表面の温度や、酸溶液の供給量および温度や、エッチング時間などの条件を調整することで、繊維状のSiの平均円形度を制御できる。また、同条件を調整することで、2つ以上の負極活物質200を連結させることもできる。なお、ウェハに代えて、単結晶のSi粉などを用いて、上記した手順によりSi粉を成形してもよい。この場合には、Si粉の粒径(メジアン径など)に応じて、平均円形度を制御できる。
【0072】
続いて、例えば、蒸着法またはスパッタ法などの気相成長法を用いて、コア部201の表面に、上記した組成を有する被覆部202を形成する。このように気相成長法を用いて被覆部202の形成材料を堆積させた場合には、その被覆部202が非結晶性になりやすい傾向がある。この場合には、誘導加熱、抵抗加熱または電子ビーム加熱などにより被覆部202の形成材料を加熱しながら堆積させてもよいし、被覆部202を形成後に加熱して、その被覆部202を低結晶性にしてもよい。低結晶性の程度は、例えば、加熱時の温度および時間などの条件に応じて制御される。この加熱処理により、被覆部202中の水分が除去されると共に、コア部201に対する被覆部202の密着性が向上する。被覆部202の形成時には、チャンバ内に導入するO2 ガスおよびH2 ガスなどの導入量を調整することで、原子比xを調整できる。これにより、被覆部202によりコア部201が被覆されるため、負極活物質200が得られる。
【0073】
なお、負極活物質200を形成する場合には、気相成長法、または湿式コート法などを用いて、被覆部202の表面に導電部を形成してもよい。この気相成長法は、例えば、蒸着法、スパッタ法、化学蒸着(CVD)法、熱分解CVD法、電子ビーム蒸着法または糖炭化法などである。中でも、熱分解CVD法が好ましい。均一な厚さとなるように導電部を形成しやすいからである。
【0074】
蒸着法を用いる場合には、例えば、負極活物質の表面に蒸気を直接吹き付けて導電層を形成する。スパッタ法を用いる場合には、例えば、Arガスを導入しながら粉体スパッタ法を用いて導電部を形成する。CVD法を用いる場合には、例えば、金属塩化物を昇華させたガスとH2 およびN2 などの混合ガスとを、金属塩化物のモル比が0.03〜0.3となるように混合したのち、1000℃以上に加熱して負極活物質の表面に導電層を形成する。湿式コート法を用いる場合には、例えば、負極活物質を含むスラリーに含金属溶液を添加しながらアルカリ溶液を添加して金属水酸化物を形成したのち、450℃で水素による還元処理を行って負極活物質の表面に導電層を形成する。なお、導電層の形成材料として炭素材料を用いる場合には、負極活物質をチャンバ内に投入し、そのチャンバ内に有機ガスを導入したのち、10000Paおよび1000℃以上の条件で加熱処理を5時間行って負極活物質の表面に導電層を形成する。この有機ガスの種類は、加熱分解により炭素を生じさせるものであれば特に限定されないが、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンまたはプロパンなどである。
【0075】
続いて、負極活物質200と負極結着剤などの他の材料とを混合して負極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に溶解させて負極合剤スラリーとする。最後に、負極集電体1の表面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層2を形成する。こののち、必要に応じて負極活物質層2を圧縮成型および加熱(焼成)してもよい。
【0076】
[本実施形態の作用および効果]
この負極によれば、負極活物質200がコア部201の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部202を有している。SiおよびOを構成元素として含むコア部201において、Siに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、SiおよびOを構成元素として含む被覆部202において、Siに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。さらに、コア部201の平均円形度は0.8以下である。これにより、コア部201がリチウムイオンを円滑に吸蔵放出しやすくなると共に、そのコア部20が充放電時に破損しにくくなる。しかも、コア部201の円滑な吸蔵放出を維持したまま、被覆部202の存在に起因して不可逆容量が生じることが抑制される。よって、負極を用いたリチウムイオン二次電池の性能向上、具体的にはサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性などの向上に寄与できる。
【0077】
特に、コア部201の平均円形度が0.6以下、さに0.4以下であれば、より高い効果を得ることができる。また、低結晶性の被覆部202では、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率が35%以下、または結晶粒の平均粒径が55nm以下であれば、より高い効果を得ることができる。
【0078】
また、被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の内側部分における平均面積占有率および平均粒径が外側部分における平均面積占有率および平均粒径と同じであるか、それよりも大きくなっていれば、より高い効果を得ることができる。
【0079】
また、コア部201に対する被覆部202の平均被覆率が30%以上、または被覆部202の平均厚さが1nm〜3000nmであれば、より高い効果を得ることができる。しかも、被覆部202が多層であれば、より高い効果を得ることができる。
【0080】
また、コア部201がFeを構成元素として含み、そのSiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))が0.01重量%〜7.5重量%であれば、より高い効果を得ることができる。
【0081】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という。について説明する。
【0082】
<2−1.角型>
図7および図8は、角型の二次電池の断面構成を表しており、図8では、図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を示している。また、図9は、図8に示した正極21および負極22の平面構成を模式的に表している。
【0083】
[二次電池の全体構成]
角型の二次電池は、主に、電池缶11の内部に電池素子20が収納されたものである。この電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体であり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。
【0084】
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材は、図8に示したように、長手方向における断面が矩形型または略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有しており、矩形状だけでなくオーバル形状の角型電池にも適用される。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状または円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型または有底長円形状型の器状部材である。なお、図8では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。
【0085】
この電池缶11は、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などの導電性材料により形成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。中でも、充放電時に固さ(変形しにくさ)を利用して電池缶11の膨れを抑えるためには、Alよりも固いFeが好ましい。なお、電池缶11がFe製である場合、その表面にNiなどが鍍金されていてもよい。
【0086】
また、電池缶11は、一端部が開放されると共に他端部が閉鎖された中空構造を有しており、その開放端部に取り付けられた絶縁板12および電池蓋13により密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に設けられていると共に、例えば、ポリプロピレンなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されており、その電池缶11と同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
【0087】
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁性材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0088】
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
【0089】
正極21の端部(例えば内終端部)には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード24が取り付けられていると共に、負極22の端部(例えば外終端部)には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されていると共に端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されていると共にその電池缶11と電気的に接続されている。
【0090】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを有している。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0091】
正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
【0092】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、正極結着剤または正極導電剤に関する詳細は、例えば、既に説明した負極結着剤および負極導電剤と同様である。
【0093】
正極材料としては、Li含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このLi含有化合物は、例えば、Liと遷移金属元素とを構成元素として含む複合酸化物や、Liと遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物などである。中でも、遷移金属元素は、Co、Ni、MnおよびFeのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M11O2 またはLiy M12PO4 で表される。式中、M11およびM12は、1種類以上の遷移金属元素を表している。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。特に、正極材料がNiまたはMnを含んでいると、体積安定率が向上する傾向にある。
【0094】
Liと遷移金属元素とを含む複合酸化物は、例えば、Lix CoO2 、Lix NiO2 、または式(1)で表されるLiNi系複合酸化物などである。Liと遷移金属元素とを含むリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 またはLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。例えば、Lix M14y O2 (M14はNIと式(1)に示したM13のうちの少なくとも1種とであると共に、x>1であり、yは任意である。)で表される材料などである。
【0095】
LiNi1-x M13x O2 …(1)
(M13はCo、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Y、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種である。xは0.005<x<0.5である。)
【0096】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などである。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。
【0097】
[負極]
負極22は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを有している。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料の充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。充放電時に意図せずにLi金属が析出することを防止するためである。
【0098】
図9に示したように、正極活物質層21Bは、例えば、正極集電体21Aの表面の一部(例えば長手方向における中央領域)に設けられている。これに対して、負極活物質層22Bは、例えば、負極集電体22Aの全面に設けられている。これにより、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aのうち、正極活物質層21Bと対向する領域(対向領域R1)および対向しない領域(非対向領域R2)に設けられている。この場合には、負極活物質層22Bのうち、対向領域R1に設けられている部分が充放電に関与するが、非対向領域R2に設けられている部分は充放電にほとんど関与しない。なお、図9では、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bに網掛けしている。
【0099】
上記したように、負極活物質層22Bに含まれる負極活物質200(図2参照)は、コア部201および被覆部202を含んでいる。しかしながら、充放電時の膨張収縮に起因して負極活物質層22Bが変形または破損する可能性があるため、コア部201および被覆部202の形成状態が負極活物質層22Bの形成時の状態から変動し得る。しかしながら、非対向領域R2では、充放電の影響をほとんど受けず、負極活物質層22Bの形成状態が維持される。このため、コア部201および被覆部202の有無、組成(原子x,y)および平均円形度など、上記した一連のパラメータについては、非対向領域R2の負極活物質層22Bにおいて調べることが好ましい。充放電の履歴(充放電の有無および回数など)に依存せずに、コア部201および被覆部202の有無および組成などを再現性よく正確に調べることができるからである。
【0100】
この負極22の満充電状態における最大利用率(以下、単に「負極利用率」という。)は、特に限定されず、正極21の容量と負極22の容量との割合に応じて任意に設定可能である。
【0101】
上記した「負極利用率」は、利用率Z(%)=(X/Y)×100で表される。ここで、Xは、負極22の満充電状態における単位面積当たりのリチウムイオンの吸蔵量であり、Yは、負極22の単位面積当たりにおける電気化学的に吸蔵可能なリチウムイオンの量である。
【0102】
吸蔵量Xについては、例えば、以下の手順で求めることができる。最初に、満充電状態になるまで二次電池を充電させたのち、その二次電池を解体して、負極22のうちの正極21と対向している部分(検査負極)を切り出す。続いて、検査負極を用いて、金属リチウムを対極とした評価電池を組み立てる。最後に、評価電池を放電させて初回放電時の放電容量を測定したのち、その放電容量を検査負極の面積で割って吸蔵量Xを算出する。この場合の「放電」とは、検査負極からリチウムイオンが放出される方向へ通電することを意味しており、例えば、0.1mA/cm2 の電流密度で電池電圧が1.5Vに達するまで定電流放電する。
【0103】
一方、吸蔵量Yについては、例えば、上記した放電済みの評価電池を電池電圧が0Vになるまで定電流定電圧充電して充電容量を測定したのち、その充電容量を検査負極の面積で割って算出する。この場合の「充電」とは、検査負極にリチウムイオンが吸蔵される方向へ通電することを意味しており、例えば、電流密度が0.1mA/cm2 であると共に電池電圧が0Vである定電圧充電において、電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行う。
【0104】
中でも、負極利用率は、35%〜80%であることが好ましい。優れたサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性が得られるからである。
【0105】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどが挙げられる。
【0106】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0107】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この非水溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0108】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0109】
特に、非水溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つのHがハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0110】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、F、ClまたはBrが好ましく、Fがより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなると共に、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0111】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0112】
また、非水溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和炭素結合を含む(いずれかの箇所に不飽和炭素結合が導入された)環状炭酸エステルである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0113】
また、非水溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0114】
さらに、非水溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0115】
電解質塩は、例えば、Li塩などの軽金属塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。Li塩は、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 H5 )4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、Li2 SiF6 、LiClまたはLiBrなどであり、その他の種類のLi塩でもよい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0116】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のいずれか1種類または2種類以上が好ましく、LiPF6 またはLiBF4 が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より優れた特性が得られるからである。
【0117】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0118】
[二次電池の動作]
この角型の二次電池では、例えば、充電時に正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0119】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0120】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードまたはバーコータなどのコーティング装置を用いて正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0121】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の作製手順により、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
【0122】
次に、電池素子20を作製する。最初に、溶接法などにより正極集電体21Aに正極リード24を取り付けると共に負極集電体22Aに負極リード25を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、それらを長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
【0123】
最後に、二次電池を組み立てる。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20の上に絶縁板12を載せる。続いて、溶接法などで正極リード24を正極ピン15に取り付けると共に負極リード25を電池缶11に取り付ける。この場合には、レーザ溶接法などにより電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。
【0124】
[二次電池の作用および効果]
この角型の二次電池によれば、負極22が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、同様の作用が得られる。よって、サイクル特性、初回充放電特性および負荷特性などの優れた電池特性を得ることができる。これ以外の効果は、リチウムイオン二次電池用負極と同様である。
【0125】
<2−2.円筒型>
図10および図11は、円筒型二次電池の断面構成を表しており、図11では、図10に示した巻回電極体40の一部を拡大している。以下では、既に説明した角型の二次電池の構成要素を随時引用する。
【0126】
[二次電池の構成]
円筒型の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に巻回電極体40および一対の絶縁板32,33が収納されたものである。この巻回電極体40は、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回積層体である。
【0127】
電池缶31は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0128】
電池缶31の開放端部には電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子(PTC素子)36がガスケット37を介してかしめられており、その電池缶31は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により形成されている。安全弁機構35および熱感抵抗素子36は電池蓋34の内側に設けられており、その安全弁機構35は熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されていてもよい。
【0129】
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。正極41には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード45が接続されていると共に、負極42には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード46が接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされ、電池蓋34と電気的に接続されていると共に、負極リード46は電池缶31に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0130】
正極41は、例えば、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを有している。負極42は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを有している。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ35に含浸されている電解液の組成は、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。
【0131】
[二次電池の動作]
この円筒型の二次電池では、例えば、充電時に正極41から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極42に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極42から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極41に吸蔵される。
【0132】
[二次電池の製造方法]
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。最初に、例えば、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、溶接法などにより正極41に正極リード45を取り付けると共に負極42に負極リード46を取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納する。この場合には、溶接法などにより正極リード45を安全弁機構35に取り付けると共に負極リード46の先端部を電池缶31に取り付ける。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36を取り付けたのち、それらをガスケット37を介してかしめる。
【0133】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池では、負極42が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
【0134】
<2−3.ラミネートフィルム型>
図12は、ラミネートフィルム型二次電池の分解斜視構成を表しており、図13は、図12に示した巻回電極体50のXIII−XIII線に沿った断面を拡大している。
【0135】
[二次電池の構成]
ラミネートフィルム型の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に巻回電極体50が収納されたものである。この巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回された巻回積層体である。正極53には正極リード51が取り付けられていると共に、負極54には負極リード52が取り付けられている。巻回電極体50の最外周部は、保護テープ57により保護されている。
【0136】
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード52は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0137】
外装部材60は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体50と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0138】
中でも、外装部材60としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材60は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムでもよい。
【0139】
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0140】
正極53は、例えば、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを有している。負極54は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを有している。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54Aおよび負極活物質層54Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ55の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0141】
電解質層56は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層56は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0142】
高分子化合物は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0143】
電解液の組成は、例えば、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。このため、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0144】
なお、ゲル状の電解質層56に代えて、電解液を用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
【0145】
[二次電池の動作]
このラミネートフィルム型の二次電池では、例えば、充電時に正極53から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して負極54に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極54から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して正極53に吸蔵される。
【0146】
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層56を備えたラミネートフィルム型の二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0147】
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極53および負極54を作製する。この場合には、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極53および負極54に塗布してゲル状の電解質層56を形成する。続いて、溶接法などにより正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回させて巻回電極体50を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、熱融着法などにより外装部材60の外周縁部同士を接着させて、その外装部材60に巻回電極体50を封入する。この場合には、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に密着フィルム61を挿入する。
【0148】
第2手順では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層および巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などで一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などにより外装部材60の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層56を形成する。
【0149】
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材60の開口部を密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成される。
【0150】
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは有機溶剤などが電解質層56中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56との間において十分な密着性が得られる。
【0151】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池では、負極54が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
【0152】
<3.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0153】
リチウムイオン二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。リチウムイオン二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。この主電源の種類は、リチウムイオン二次電池に限られない。
【0154】
リチウムイオン二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ノート型パソコンなどの電源として用いられる電池パックである。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0155】
中でも、リチウムイオン二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術のリチウムイオン二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、リチウムイオン二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、リチウムイオン二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、リチウムイオン二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、リチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源であるリチウムイオン二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として各種機能を発揮する機器である。
【0156】
ここで、リチウムイオン二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0157】
<3−1.電池パック>
図14は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、図10に示したように、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
【0158】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上のリチウムイオン二次電池を含む組電池であり、それらの接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つのリチウムイオン二次電池を含んでいる。
【0159】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0160】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時に制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時に補正処理を行うために用いられる。電圧検出部66は、電源62中におけるリチウムイオン二次電池の電圧を測定して、その測定電圧アナログ/デジタル変換(A/D)変換して制御部61に供給するものである。
【0161】
スイッチ制御部67は、電流測定部66および電圧測定部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
【0162】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
【0163】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
【0164】
なお、リチウムイオン二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.20V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
【0165】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定されたリチウムイオン二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)が記憶されている。なお、メモリ68にリチウムイオン二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部10が残容量などの情報を把握できる。
【0166】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
【0167】
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)または電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
【0168】
<3−2.電動車両>
図15は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、図11に示したように、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0169】
この電動車両は、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力により発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力によりモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
【0170】
なお、図示しない制動機構により電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力によりモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0171】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
【0172】
なお、上記では電動車両としてハイブリッド自動車について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0173】
<3−3.電力貯蔵システム>
図16は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、図12に示したように、一般住宅または商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0174】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
【0175】
なお、電気機器94は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビまたは給湯器などの1または2以上の家電製品を含んでいる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機または風力発電機などの1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクまたはハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所または風力発電所などの1種類または2種類以上である。
【0176】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、必要に応じて外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御し、効率的で安定したエネルギー供給を可能にするようになっている。
【0177】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて、必要に応じて電気機器94または電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0178】
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
【0179】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0180】
<3−4.電動工具>
図17は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、図13に示したように、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0181】
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御物99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、必要に応じて電源100からドリル部101に電力を供給して可動させるようになっている。
【実施例】
【0182】
本技術の実施例について、詳細に説明する。
【0183】
(実施例1−1〜1−28)
以下の手順により、図12および図13に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
【0184】
最初に、正極53を作製した。まず、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極導電剤(グラファイト)6質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層53Bを形成した。この正極集電体53Aとしては、帯状のAl箔(厚さ=12μm)を用いた。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層53Bを圧縮成型した。なお、満充電時に負極54にLi金属が析出しないように正極活物質層53Bの厚さを調整した。
【0185】
次に、負極54を作製した。最初に、結晶性の繊維状のコア部(SiOx )を得たのち、必要に応じて、粉体蒸着法を用いてコア部の表面に非結晶性の被覆部(SiOy )を形成した。コア部および被覆部の組成(原子比x,y)および平均円形度は、表1および表2に示した通りである。この場合には、コア部の半値幅=0.6°、被覆部の平均被覆率=70%、平均厚さ=200nmとした。
【0186】
コア部を得る場合には、最初に、ウェハ(Si)の表面に硝酸銀(0.02mol/dm3 =mol/l)を供給したのち、そのウェハの温度を15℃〜120℃に保持した。続いて、ウェハの表面に5mol/dm3 のHF(50℃)を供給したのち、そのウェハの表面をエッチングして繊維状に成形した。最後に、ウェハの表面を鑢で研磨して、繊維状のコア部を得た。この繊維状のコア部を得る場合には、温度およびエッチング時間を調整して、平均円形度を制御した。また、原材料(Si)の溶融凝固時に酸素導入量を調整して組成(原子比x)を制御した。
【0187】
被覆部を形成する場合には、原材料(Si)の堆積時にO2 またはH2 の導入量を調整して組成(原子比y)を制御した。また、被覆部の形成工程を2回に分けて行うことで、その被覆部の層構造を多層にした。粉体蒸着法では、偏向式電子ビーム蒸着源を用いると共に、堆積速度=2nm/秒とし、ターボ分子ポンプを用いて圧力=1×10-3Paの真空状態とした。
【0188】
続いて、負極活物質と負極結着剤の前駆体とを90:10の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、NMPおよびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を含むポリアミック酸を用いた。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体54Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体54Aとしては、圧延Cu箔(厚さ=15μm,十点平均粗さRz<0.5μm)を用いた。最後に、結着性を高めるために塗膜を熱プレスしたのち、真空雰囲気中で400℃×1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリアミドイミド)が形成されたため、負極活物質および負極結着剤を含む負極活物質層54Bが形成された。なお、負極利用率が65%となるように負極活物質層54Bの厚さを調整した。
【0189】
次に、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC))に電解質塩(LiPF6 )を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DEC=50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0190】
最後に、二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体53Aの一端にAl製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にNi製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53、セパレータ55、負極54およびセパレータ55をこの順に積層してから長手方向に巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成したのち、その巻き終わり部分を保護テープ57(粘着テープ)で固定した。この場合には、セパレータ55として、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム(厚さ=20μm)を用いた。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材60として、外側からナイロンフィルム(厚さ=30μm)、Al箔(厚さ=40μm)および無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)が積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入し、セパレータ55に含浸させて巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着して封止した。
【0191】
二次電池のサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0192】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電したのち、再び充放電して放電容量を測定した。続いて、サイクル数の総数が100サイクルになるまで充放電して放電容量を測定した。最後に、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が4.2Vに達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に達するまで充電した。放電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0193】
初回充放電特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために1サイクル充放電した。続いて、再び充電して充電容量を測定したのち、放電して放電容量を測定した。最後に、初回効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。雰囲気温度および充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
コア部の表面に被覆部を形成すると、その被覆部を形成しない場合と比較して、高い初期効率を維持したまま、サイクル維持率が著しく増加した。また、被覆部を形成した場合には、コア部の平均円形度に応じてサイクル維持率および初回効率が変化した。この場合には、コア部の平均円形度が0.8以下であると、サイクル維持率がより増加した。しかも、平均円形度が0.6以下、さらに0.4以下であると、サイクル維持率がより増加した。
【0197】
(実験例2−1〜2−11)
表3に示したように、コア部の原子比xを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料(Si)の溶融凝固時に酸素導入量を調整して原子比xを制御した。
【0198】
【表3】
【0199】
原子比xが0≦x<0.5であると、高いサイクル維持率を維持しつつ、初期効率が著しく増加した。
【0200】
(実験例3−1〜3−8)
表4に示したように、被覆部の原子比yを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料(Si)の堆積時にO2 またはH2 の導入量を調整して原子比yを制御した。
【0201】
【表4】
【0202】
原子比yが0.5≦y<1.8であると、サイクル維持率および初回効率が著しく増加した。
【0203】
(実験例4−1〜4−22)
表5に示したように、被覆部の結晶性および層構造を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、Arガスの雰囲気中でSiOy を加熱しながら堆積させて、低結晶性および単層の被覆部を形成した。この加熱時の温度および時間を調整して、表5に示したように被覆部の物性(平均面積占有率、平均粒径、大小関係および層構造)を制御した。表5に示した「大小関係」とは、被覆部を厚さ方向において二等分したときの内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径の大小関係であり、「層構造」とは、多層あるいは単層の別である。
【0204】
【表5】
【0205】
平均面積占有率が35%以下、平均粒径が55nm以下であると、サイクル維持率および初期効率がより増加した。また、平均面積占有率および平均粒径が内側≧外側であると、サイクル維持率および初期効率がより増加した。
【0206】
(実験例5−1〜5−9,6−1〜6−8)
表6および表7に示したように、被覆部の平均被覆率および平均厚さを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成する際に、投入電力および堆積時間を変化させて平均被覆率を制御すると共に、堆積速度および堆積時間を変化させて平均厚さを調整した。
【0207】
【表6】
【0208】
【表7】
【0209】
平均被覆率が30%〜100%であると、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。また、平均厚さが1nm〜3000nmであると、初回効率がより増加した。
【0210】
(実験例7−1〜7−8,8−1〜8−9)
表8および表9に示したように、被覆部にFe等を含有させたことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料としてSiOx 粉およびFe粉等を用いて共蒸着した。
【0211】
【表8】
【0212】
【表9】
【0213】
被覆部にFeを含有させると共に、そのFeの含有量が0.01重量%〜7.5重量%であると、サイクル維持率および初回効率がより増加した。また、被覆部にFeと共にAl等を含有させても、同様の結果が得られた。
【0214】
(実験例9−1〜9−22)
表10に示したように、被覆部の表面に導電部を形成したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成した場合と同様の手順により導電部を形成した。この導電部の形成材料、平均厚さおよび平均被覆率は、表10に示した通りである。
【0215】
【表10】
【0216】
被覆部の表面に導電部を形成すると、サイクル維持率および初回効率がより増加した。
【0217】
(実験例10−1〜10−18)
表11に示したように、負極結着剤の種類を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極結着剤として、ポリイミド(PI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミド(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAAL)または炭化ポリイミド(炭化PI)を用いた。なお、PAAまたはPAALを用いる場合には、それらが溶解された17体積%の水溶液を用いて負極合剤スラリーを準備すると共に、熱プレスしたのちに焼成しないで負極活物質層54Bを形成した。
【0218】
【表11】
【0219】
負極結着剤の種類を変更しても、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0220】
(実験例11−1〜11−12)
表12に示したように、正極活物質の種類を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
【0221】
【表12】
【0222】
正極活物質の種類を変更しても、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0223】
(実験例12−1〜12−7)
表13に示したように、負極集電体54AにCおよびSを含有させると共に、その負極集電体54Aの表面粗さ(十点平均粗さRz)を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極集電体54AとしてCおよびSが含有された圧延銅箔を用いると共に、圧延銅箔に代えて電解銅箔を用いた。
【0224】
【表13】
【0225】
負極集電体54AがCおよびSを含有していると、サイクル維持率および初回効率がより増加すると共に、CおよびSの含有量が100ppm以下であると、サイクル維持率および初回効率がさらに増加した。また、粗面化された負極集電体54Aを用いると、十点平均粗さRzが増加するにしたがってサイクル維持率が増加した。
【0226】
表1〜表13の結果から、負極活物質がコア部(原子比x:0≦x<0.5)の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部(原子比y:0.5≦y≦1.8)を有し、そのコア部の平均円形度が0.8以下であると、高いサイクル特性および初回充放電特性が得られることが確認された。
【0227】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出により表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とLi金属の析出溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される場合についても適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0228】
また、電池構造が角型、円筒型またはラミネートフィルム型であると共に電池素子が巻回構造を有する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、電池構造が角型またはボタン型などである場合、または、電池素子が積層構造などを有する場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0229】
1,42A,54A…負極集電体、2,42B,54B…負極活物質層、22,42,54…負極、20…電池素子、21,41,53…正極、21A,22A,41A,53A…正極集電体、21B,22B,41B,53B…正極活物質層、23,43,55…セパレータ、40,50…巻回電極体、56…電解質層、60…外装部材、200…負極活物質、201…コア部、202…被覆部。
【技術分野】
【0001】
本技術は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含むリチウムイオン二次電池用負極、その負極を用いたリチウムイオン二次電池、ならびにその二次電池を用いた電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機または携帯情報端末機器(PDA)などに代表される電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が強く求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、最近では、上記した電子機器に限らず、電池パック、電気自動車などの電動車両、家庭用電力サーバなどの電力貯蔵システム、または電動ドリルなどの電動工具に代表される多様な用途への適用も検討されている。
【0003】
二次電池としては、さまざまな充放電原理を利用するものが広く提案されているが、中でも、リチウムイオンの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池が有望視されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池などよりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備えており、その負極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、黒鉛などの炭素材料が広く用いられているが、最近では、電池容量のさらなる向上が求められていることから、Siを用いることが検討されている。Siの理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも格段に大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。
【0005】
ところが、負極活物質としてSiを用いると、充放電時に負極活物質が激しく膨張収縮するため、その負極活物質が主に表層近傍で割れやすくなる。負極活物質が割れると、高反応性の新生面(活性面)が生じるため、その負極活物質の表面積(反応面積)が増加する。これにより、新生面で電解液の分解反応が生じると共に、その新生面に電解液由来の被膜を形成するために電解液が消費されるため、サイクル特性などの電池特性が低下しやすくなる。
【0006】
そこで、サイクル特性などの電池特性を向上させるために、リチウムイオン二次電池の構成についてさまざまな検討がなされている。
【0007】
具体的には、サイクル特性および安全性を向上させるために、スパッタ法を用いてSiおよび非晶質SiO2 を同時に堆積させている(例えば、特許文献1参照。)。優れた電池容量および安全性能を得るために、SiOx 粒子の表面に電子伝導性材料層(炭素材料)を設けている(例えば、特許文献2参照。)。ハイレート充放電特性およびサイクル特性を向上させるために、SiおよびOを含有すると共に負極集電体に近い側で酸素比率が大きくなるように負極活物質層を形成している(例えば、特許文献3参照。)。サイクル特性を向上させるために、SiおよびOを含有し、全体の平均酸素含有量が40原子%以下になると共に負極集電体に近い側で平均酸素含有量が大きくなるように負極活物質層を形成している(例えば、特許文献4参照。)。この場合には、負極集電体に近い側における平均酸素含有量と遠い側における平均酸素含有量との差を4原子%〜30原子%としている。
【0008】
また、初回充放電特性などを向上させるために、Si相、SiO2 およびMy O金属酸化物を含むナノ複合体を用いている(例えば、特許文献5参照。)。サイクル特性を向上させるために、粉末状のSiOx (0.8≦x≦1.5,粒径範囲=1μm〜50μm)と炭素質材料とを混合して、800℃〜1600℃×3時間〜12時間焼成している(例えば、特許文献6参照。)。初回充電時間を短縮するために、Lia SiOx (0.5≦a−x≦1.1および0.2≦x≦1.2)で表される負極活物質を用いている(例えば、特許文献7参照。)。この場合には、SiおよびOを含む活物質前駆体にLiを蒸着させている。充放電サイクル特性を向上させるために、負極活物質体におけるSi量に対するO量のモル比が0.1〜1.2になると共に、負極活物質体と集電体との界面近傍におけるSi量に対するO量のモル比の最大値と最小値との差が0.4以下になるように、SiOx の組成を制御している(例えば、特許文献8参照。)。負荷特性を向上させるために、Li含有多孔質金属酸化物(Lix SiO:2.1≦x≦4)を用いている(例えば、特許文献9参照。)。
【0009】
さらに、充放電サイクル特性を向上させるために、Siを含む薄膜の上に、シラン化合物またはシロキサン化合物などの疎水化層を形成している(例えば、特許文献10参照。)。サイクル特性を向上させるために、SiOx (0.5≦x<1.6)の表面が黒鉛被膜により被覆された導電性粉末を用いている(例えば、特許文献11参照。)。この場合には、黒鉛被膜に関するラマンスペクトルのラマンシフトにおいて1330cm-1および1580cm-1にブロードなピークが現れると共に、それらの強度比I1330/I1580を1.5<I1330/I1580<3としている。電池容量およびサイクル特性を向上させるために、Siの微結晶(結晶の大きさ=1nm〜500nm)がSiO2 に分散された構造を有する粒子を1質量%〜30質量%含む粉末を用いている(例えば、特許文献12参照。)。この場合には、レーザ回折散乱式粒度分布測定法による粒度分布において、粉末の累積90%径(D90)を50μm以下、粒子の粒子径を2μm未満にしている。サイクル特性を向上させるために、SiOx (0.3≦x≦1.6)を用いると共に、充放電時に電極ユニットを3kgf/cm2 以上で加圧している(例えば、特許文献13参照。)。過充電特性および過放電特性などを向上させるために、SiとOの原子数比が1:y(0<y<2)であるSiの酸化物を用いている(例えば、特許文献14参照。)。
【0010】
この他、電気化学的に多量のリチウムイオンを蓄積または放出するために、Siなどの一次粒子の表面に非晶質の金属酸化物を設けている(例えば、特許文献15参照。)。この金属酸化物を形成するための金属酸化時におけるギブスの自由エネルギーは、Siなどの酸化時におけるギブスの自由エネルギーよりも小さくなっている。高容量、高効率、高動作電圧および長寿命を実現するために、Si原子の酸化数が所定の条件を満たす負極材料を用いることが提案されている(例えば、特許文献16参照。)。この負極材料は、酸化数が0であるSiと、酸化数が+4のSi原子を有するSi化合物と、酸化数が0よりも大きいと共に+4未満であるSi低級酸化物とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−185127号公報
【特許文献2】特開2002−042806号公報
【特許文献3】特開2006−164954号公報
【特許文献4】特開2006−114454号公報
【特許文献5】特開2009−070825号公報
【特許文献6】特開2008−282819号公報
【特許文献7】国際公開第2007/010922号パンフレット
【特許文献8】特開2008−251369号公報
【特許文献9】特開2008−177346号公報
【特許文献10】特開2007−234255号公報
【特許文献11】特開2009−212074号公報
【特許文献12】特開2009−205950号公報
【特許文献13】特開2009−076373号公報
【特許文献14】特許第2997741号明細書
【特許文献15】特開2009−164104号公報
【特許文献16】特開2005−183264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
電子機器などは益々高性能化および多機能化しており、その使用頻度も増加しているため、リチウムイオン二次電池は頻繁に充放電される傾向にある。そこで、リチウムイオン二次電池の電池特性についてより一層の向上が望まれている。
【0013】
本技術はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、優れた電池特性を得ることが可能なリチウムイオン二次電池用負極、リチウムイオン二次電池、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本技術のリチウムイオン二次電池用負極は、活物質を含み、その活物質がリチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部とそのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含むものである。コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。コア部の平均円形度は0.8以下である。また、本技術のリチウムイオン二次電池は、正極および負極と共に電解液を備え、その負極が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の活物質を含むものである。さらに、本技術の電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器は、上記した本技術のリチウムイオン二次電池を用いたものである。
【0015】
ここで、「低結晶性」とは、高角散乱暗視野走査型透過電子顕微鏡(HAADF STEM)などを用いて被覆部の断面あるいは表面を観察した場合に、非結晶領域および結晶領域(結晶粒)の双方が存在している状態を意味する。これに対して、「非結晶性」とは、いわゆる非晶質と同義であり、HAADF STEMなどを用いて被覆部を観察した場合に、非結晶領域だけが存在しており、結晶領域が存在していない状態を意味する。なお、観察時の倍率は、例えば、1.2×106 倍とする。
【発明の効果】
【0016】
本技術のリチウムイオン二次電池用負極またはリチウムイオン二次電池によれば、活物質がコア部の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部を含む。また、SiおよびOを構成元素として含むコア部の原子比x(O/Si)が0≦x<0.5であると共に、SiおよびOを構成元素として含む被覆部の原子比y(O/Si)が0.5≦y≦1.8である。さらに、コア部の平均円形度が0.8以下である。よって、優れた電池特性を得ることができる。また、本技術のリチウムイオン二次電池を用いた電子機器、電動工具、電池パック、電動車両および電力貯蔵システムによれば、上記したサイクル特性などの特性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池用負極の構成を表す断面図である。
【図2】負極活物質の構成を模式的に表す断面図である。
【図3】負極活物質(被覆部=非結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図4】負極活物質(被覆部=低結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図5】負極活物質(被覆部=低結晶性)の断面構造を拡大して表す他のHAADF STEM写真である。
【図6】負極活物質(被覆部=非結晶性)の断面構造を拡大して表すHAADF STEM写真である。
【図7】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(角型)の構成を表す断面図である。
【図8】図7に示したリチウムイオン二次電池のVIII−VIII線に沿った断面図である。
【図9】図8に示した正極および負極の構成を模式的に表す平面図である。
【図10】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(円筒型)の構成を表す断面図である。
【図11】図10に示した巻回電極体の一部を拡大して表す断面図である。
【図12】本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池(ラミネートフィルム型)の構成を表す分解斜視図である。
【図13】図12に示した巻回電極体のXIII−XIII線に沿った断面図である。
【図14】リチウムイオン二次電池の適用例(電池パック)の構成を表すブロック図である。
【図15】リチウムイオン二次電池の適用例(電動車両)の構成を表すブロック図である。
【図16】リチウムイオン二次電池の適用例(電力貯蔵システム)の構成を表すブロック図である。
【図17】リチウムイオン二次電池の適用例(電動工具)の構成を表すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.リチウムイオン二次電池用負極
2.リチウムイオン二次電池
2−1.角型
2−2.円筒型
2−3.ラミネートフィルム型
3.リチウムイオン二次電池の用途
3−1.電池パック
3−2.電動車両
3−3.電力貯蔵システム
3−4.電動工具
【0019】
<1.リチウムイオン二次電池用負極>
図1は、本技術の一実施形態のリチウムイオン二次電池用負極(以下、単に「負極」という。)の断面構成を表している。図2は、負極に含まれる活物質(負極活物質)の断面構成を模式的に表している。図3〜図6は、負極活物質の断面構造のHAADF STEM写真(以下、単に「TEM写真」という。)である。
【0020】
[負極の全体構成]
負極は、例えば、図1に示したように、負極集電体1の上に負極活物質層2を有している。この負極では、負極活物質層2が負極集電体1の両面に設けられていてもよいし、片面だけに設けられていてもよい。ただし、負極集電体1はなくてもよい。
【0021】
[負極集電体]
負極集電体1は、例えば、電気化学的安定性、電気伝導性および機械的強度に優れた導電性材料により形成されている。このような導電性材料は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどである。中でも、Liと金属間化合物を形成しないと共に負極活物質層2と合金化する材料が好ましい。
【0022】
この負極集電体1は、CおよびSを構成元素として含んでいることが好ましい。負極集電体1の物理的強度が向上するため、充放電時に負極活物質層2が膨張収縮しても負極集電体1が変形しにくくなるからである。このような負極集電体1は、例えば、CおよびSがドープされた金属箔などである。CおよびSの含有量は、特に限定されないが、中でも、いずれも100ppm以下であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0023】
負極集電体1の表面は、粗面化されていてもよいし、粗面化されていなくてもよい。粗面化されていない負極集電体1は、例えば、圧延金属箔などであり、粗面化された負極集電体1は、例えば、電解処理またはサンドブラスト処理された金属箔などである。電解処理とは、電解槽中で電解法を用いて金属箔などの表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された金属箔は、一般に電解箔(例えば電解Cu箔など)と呼ばれている。
【0024】
中でも、負極集電体1の表面は、粗面化されていることが好ましい。アンカー効果により負極集電体1に対する負極活物質層2の密着性が向上するからである。負極集電体1の表面粗さ(例えば十点平均粗さRz)は、特に限定されないが、アンカー効果により負極活物質層2の密着性を向上させるためにはできるだけ大きいことが好ましい。ただし、表面粗さが大きすぎると、かえって負極活物質層2の密着性が低下する可能性がある。
【0025】
[負極活物質層]
負極活物質層2は、図2に示したように、リチウムイオンを吸蔵放出可能である複数の粒子状の負極活物質200を含んでおり、必要に応じて、さらに負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0026】
負極活物質200は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部201と、そのコア部201の表面に設けられた被覆部202とを含んでいる。このようにコア部201が被覆部202により被覆されている様子は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により確認できる。また、コア部201および被覆部202の結晶状態は、図3〜図5に示したように、TEMにより確認できる。
【0027】
[コア部]
コア部201は、所定の方向に延在する細長い形状を有しており、いわゆる繊維状である。コア部201が非繊維状(例えば球状または略球状など)である場合と比較して、充放電時にコア部201が膨張収縮しても破損(割れまたは剥がれなど)しにくくなるからである。
【0028】
これに伴い、コア部201の平均円形度は、できるだけ小さいことが好ましい。言い替えれば、コア部201のアスペクト比は、できるだけ大きいことが好ましい。具体的には、コア部201の平均円形度は、0.8以下である。コア部201の破損が著しく抑制されるため、サイクル特性などが向上するからである。中でも、平均円形度は、0.6以下であることが好ましく、0.2以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。なお、平均円形度は、粒子像解析装置により測定できる。この粒子像解析装置では、30個の粒子(負極活物質)について円形度を算出したのち、その円形度の平均値を算出する。なお、円形度=粒子の投影画像と同一面積を有する真円の外周長/粒子の投影画像の外周長である。
【0029】
このコア部201は、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は、0≦x<0.5である。原子比xが範囲外である場合(0.5≦x)と比較して、充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、不可逆容量が減少するため、高い電池容量が得られるからである。
【0030】
コア部201の形成材料は、上記した組成(原子比x)から明らかなように、Siの単体(x=0)でもよいし、SiOx (0<x<0.5)でもよい。ただし、xはできるだけ小さいことが好ましく、x=0であること(Siの単体)がより好ましい。高いエネルギー密度が得られるため、電池容量がより高くなるからである。また、コア部201の劣化が抑制されるため、充放電サイクルの初期から放電容量が低下しにくくなるからである。なお、本技術の「単体」とは、あくまで一般的な意味での単体(微量の不純物(酸素以外の元素)を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味しているわけではない。
【0031】
コア部201は、結晶性(高結晶性)、低結晶性または非結晶性のいずれでもよいが、中でも、高結晶性または低結晶性であることが好ましく、高結晶性であることがより好ましい。充放電時にコア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなるため、高い電池容量などが得られるからである。また、充放電時にコア部201が膨張収縮しにくくなるからである。中でも、コア部201において、X線回折により得られるケイ素の(111)結晶面に起因する回折ピークの半値幅(2θ)は20°以下であると共に、その(111)結晶面に起因する結晶子サイズは10nm以上であることが好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0032】
なお、コア部201は、SiおよびOと共に、他の元素のいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含んでいてもよい。
【0033】
具体的には、コア部201は、Feを含んでいることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))は、特に限定されないが、中でも、0.01重量%〜7.5重量%であることが好ましい。コア部201の電気抵抗が低下するだけでなく、リチウムイオンの拡散性が向上するからである。
【0034】
コア部201中において、Feは、SiおよびOとは別個(遊離状態)に存在していてもよいし、SiおよびOのうちの少なくとも一方と合金または化合物を形成していてもよい。このことは、後述するAl等についても同様である。このFeを含むコア部201の組成(Feの結合状態など)については、例えば、EDXにより確認できる。
【0035】
この他、コア部201は、Al、Cr、Ni、B、Mg、Ca、Ti、V、Mn、Co、Cu、Ge、Y、Zr、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Ta、W、Pb、La、Ce、PrおよびNdのうちの少なくとも1種の元素を含んでいてもよい。コア部201の電気抵抗が低下するからである。SiおよびOに対するAl等の割合(Al等/(Si+O))は、特に限定されない。なお、コア部201がAlを含んでいると、そのコア部201が低結晶化するため、充放電時に膨張収縮しにくくなると共に、リチウムイオンの拡散性がより向上する。
【0036】
[被覆部]
被覆部202は、コア部201の表面のうちの少なくとも一部に設けられている。このため、被覆部202は、コア部201の表面の一部だけを被覆していてもよいし、全部を被覆していてもよい。前者の場合には、被覆部202がコア部201の表面を複数箇所に点在しながら被覆していてもよい。
【0037】
この被覆部202は、SiおよびOを構成元素として含んでおり、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は、0.5≦y≦1.8である。充放電を繰り返した場合における負極活物質200の劣化が抑制されるからである。これにより、コア部201におけるリチウムイオンの出入りを確保しつつ、被覆部202によりコア部201が化学的および物理的に保護されるからである。
【0038】
詳細には、コア部201と電解液との間に被覆部202が介在すると、高反応性のコア部201が電解液と接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制される。この場合には、被覆部202がコア部201と同系統の材料(共通のSiを構成元素として含む材料)により形成されていれば、そのコア部201に対する被覆部202の密着性も高くなる。
【0039】
また、被覆部202が柔軟性(変形しやすい性質)を有するため、充放電時にコア部201が膨張収縮しても、それに追随して被覆部202も膨張収縮(伸縮)しやすくなる。これにより、コア部201が膨張収縮しても、被覆部202が破損(断裂等)しにくくなるため、被覆部202によるコア部201の被覆状態が充放電を繰り返しても維持される。よって、充放電時にコア部201が割れても新生面が露出しにくくなると共に、その新生面が電解液と接触しにくくなるため、電解液の分解反応が抑制される。
【0040】
被覆部202の形成材料は、上記した組成(原子比y)から明らかなように、SiOy である。中でも、原子比yは、0.7≦y≦1.3であることが好ましく、y=1.2であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。
【0041】
また、被覆部202は、非結晶性(非晶質)または低結晶性である。結晶性(高結晶性)である場合と比較して、リチウムイオンが拡散されやすいため、コア部201の表面が被覆部202により被覆されていても、そのコア部201がリチウムイオンを円滑に吸蔵放出しやすくなるからである。
【0042】
中でも、被覆部202は、非結晶性であることが好ましい。被覆部202の柔軟性が向上するため、充放電時にコア部201の膨張収縮に追随しやすくなるからである。また、被覆部202がリチウムイオンをトラップしにくくなるため、コア部201におけるリチウムイオンの出入りがより阻害されにくくなるからである。
【0043】
なお、図3および図6では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が非結晶性のSiOy である場合を示している。一方、図4および図5では、コア部201が高結晶性のSiであると共に被覆部202が低結晶性のSiOy である場合を示している。
【0044】
「低結晶性」とは、被覆部202の形成材料が非結晶領域および結晶領域(結晶粒)の双方を含むことを意味しており、非結晶領域だけを含む「非結晶性」とは異なっている。被覆部202が低結晶性であるかどうかを確認するためには、例えば、上記したHAADF STEMなどで被覆部202を観察すればよい。TEM写真から非結晶領域と結晶領域とが混在している様子を確認できれば、その被覆部202は低結晶性である。なお、非結晶領域と結晶領域とが混在している場合、その結晶領域は、粒状の輪郭を有する領域(結晶粒)として観察される。この結晶粒の内部には、結晶性に起因する縞状の模様(結晶格子縞)が観察されるため、その結晶粒を非結晶領域から識別できる。
【0045】
非結晶性と低結晶性との違いは、図3および図4に示したTEM写真から明らかである。被覆部202が非結晶性である場合には、図3に示したように、非結晶領域だけが観察され、結晶領域(結晶格子縞を有する結晶粒)が観察されない。これに対して、被覆部202が低結晶性である場合には、図4に示したように、非結晶領域の中に結晶粒(矢印で指した部分)が点在している様子が観察される。この結晶粒は、Siの格子面間隔dに応じた所定の間隔の結晶格子縞を有しているため、その周辺の非結晶領域から明確に区別される。なお、図4に示したTEM写真をフーリエ変換した(電子回折図に相当する図を得た)ところ、スポットがリング状に並んでいたため、被覆部202の内部に多数の結晶領域が存在していることが確認された。
【0046】
なお、HAADF STEMによる被覆部202の観察手順は、例えば、以下の通りである。最初に、Cu製のTEM用グリッドの表面に接着剤を塗布したのち、その接着剤の上にサンプル(負極活物質200)をふりかける。続いて、真空蒸着法を用いて粉体サンプルの表面に炭素材料(黒鉛)を堆積させる。続いて、集束イオンビーム(FIB)法を用いて炭素材料の表面に薄膜(Pt/W)を堆積させたのち、さらに薄膜加工(加速電圧=30kV)する。最後に、HAADF STEM(加速電圧=200kV)で負極活物質200の断面を観察する。この観察方法は、サンプルの組成に敏感な手法であり、一般に原子番号のほぼ2乗に比例した明るいコントラストの画像が得られる。
【0047】
図3および図4に示したTEM写真では、線Lを境界として結晶状態の異なる領域が観察される。この結晶状態の異なる領域をEDXで分析したところ、線Lよりも内側に位置する領域は結晶性のコア部(Si)であると共に、線Lよりも外側に位置する領域は非結晶性あるいは低結晶性の被覆部(SiOy )であることが確認された。
【0048】
被覆部202の低結晶性の程度は、特に限定されないが、中でも、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率は、35%以下であることが好ましく、25%以下、さらに20%以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。図4に示したように、(111)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.31nmの結晶格子縞を有する結晶領域であり、(220)面に起因する結晶粒とは、格子面間隔d=0.19nmの結晶格子縞を有する結晶領域である。
【0049】
この平均面積占有率の算出手順は、以下の通りである。最初に、図5に示したように、HAADF STEMを用いて被覆部202の断面を観察してTEM写真を得る。この場合には、観察倍率=1.2×106 倍、観察エリア=65.6nm×65.7nmとする。なお、図5は、図4と同じTEM写真である。続いて、結晶格子縞の有無および格子面間隔dの値などを調べて、Siの(111)面に起因する結晶粒および(220)面に起因する結晶粒が存在する範囲を特定したのち、それらの結晶粒の輪郭をTEM写真中に描画する。続いて、各結晶粒の面積を算出したのち、面積占有率(%)=(結晶粒の面積の和/観察エリアの面積)×100を算出する。これらの輪郭の描画および面積占有率の算出については、人為的に行ってもよいし、専用の処理ソフトなどで機械的に行ってもよい。最後に、面積占有率の算出作業を40エリアで繰り返したのち、各エリアにおいて算出した面積占有率の平均値(平均面積占有率)を算出する。この場合には、結晶粒の分布傾向を加味して平均面積占有率を算出するために、被覆部202を厚さ方向において二等分し、その内側部分および外側部分において20エリアずつ面積占有率を算出することが好ましい。
【0050】
また、上記した(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均粒径は、特に限定されないが、中でも、55nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。より高い効果が得られるからである。この平均粒径の算出手順は、エリアごとに平均粒径を算出したのち、その平均粒径の平均値(最終的な平均粒径)を算出することを除き、平均面積占有率を算出した場合と同様である。なお、結晶粒の粒径を測定する場合には、例えば、結晶粒の輪郭を円に変換(結晶粒の輪郭により画定される形状と同等の面積を有する円を特定)したのち、その円の直径を粒径とする。この粒径の算出は、平均面積占有率を算出した場合と同様に、人為的でも機械的でもよい。
【0051】
また、上記したように被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、平均面積占有率は、内側部分と外側部分とで同じでもよいし、異なってもよい。中でも、内側部分における結晶粒の平均面積占有率は、外側部分における結晶粒の平均面積占有率と同じであるか、それよりも大きいことが好ましい(内側部分の平均面積占有率≧外側部分の平均面積占有率)。より高い効果が得られるからである。このことは、平均粒径についても同様である。なお、内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径は、上記したように、それぞれ20エリアずつ算出されることとする。
【0052】
この被覆部202は、単層でもよいし、多層でもよいが、中でも、図6に示したように、多層であることが好ましい。充放電時にコア部201が膨張収縮しても、被覆部202が破損しにくくなるからである。詳細には、単層の被覆部202では、その厚さによっては被覆部202の内部応力が緩和されにくいため、充放電時に膨張収縮したコア部201の影響を受けて被覆部202が破損(割れおよび剥がれなど)する可能性がある。これに対して、多層の被覆部202では、層間に生じた微小な隙間が応力緩和用のギャップとして機能することで内部応力が緩和されやすいため、被覆部202が破損しにくくなる。図6に示した破線は、各層の境界の目安を表している。ただし、被覆部202は、全体に渡って多層でもよいし、一部だけ多層でもよい。
【0053】
この被覆部202の平均厚さは、特に限定されないが、中でも、できるだけ薄いことが好ましく、1nm〜3000nmであることがより好ましい。コア部201がリチウムイオンを吸蔵放出しやすくなると共に、被覆部202による保護機能が効果的に発揮されるからである。詳細には、平均厚さが1nmよりも小さいと、被覆部202がコア部201を保護しにくくなる可能性がある。一方、平均厚さが10000nmよりも大きいと、電気抵抗が高くなると共に、充放電時にコア部201がリチウムイオンイオンを吸蔵放出しにくくなる可能性がある。被覆部202の形成材料がSiOy である場合、そのSiOy はリチウムイオンを吸蔵しやすい一方で、いったん吸蔵したリチウムイオンを放出しにくい性質を有するからである。
【0054】
被覆部202の平均厚さは、以下の手順により算出される。まず、SEMにより1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、被覆部202の厚さTを測定するために、コア部201と被覆部202との境界を目視で確認(決定)できるような倍率であることが好ましい。続いて、任意の10点で被覆部202の厚さTを測定したのち、その平均値(1個当たりの平均厚さT)を算出する。この場合には、できるだけ特定の場所周辺に集中せずに広く分散されるように測定位置を設定することが好ましい。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した平均値の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200について算出された平均値(1個当たりの平均厚さT)の平均値(平均厚さTの平均値)を算出して、被覆部202の平均厚さとする。
【0055】
また、コア部201に対する被覆部202の平均被覆率は、特に限定されないが、できるだけ大きいことが好ましく、中でも、30%〜100%であることがより好ましい。被覆部202の保護機能がより向上するからである。
【0056】
被覆部202の平均被覆率は、以下の手順により算出される。まず、平均厚さを算出した場合と同様に、SEMにより1個の負極活物質200を観察する。この観察時の倍率は、コア部201のうち、被覆部202により被覆されている部分と被覆されていない部分とを目視で識別できるような倍率であることが好ましい。続いて、コア部201の外縁(輪郭)のうち、被覆部202により被覆されている部分の長さと被覆されていない部分の長さとを測定する。そして、被覆率(1個当たりの被覆率:%)=(被覆部202により被覆されている部分の長さ/コア部201の外縁の長さ)×100を算出する。続いて、SEMによる観察個数の総数が100個になるまで、上記した被覆率の算出作業を繰り返す。最後に、100個の負極活物質200について算出された被覆率(1個当たりの被覆率)の平均値を算出して、被覆部202の平均被覆率とする。
【0057】
なお、被覆部202はコア部201に隣接していることが好ましいが、コア部201の表面に自然酸化膜(SiO2 )が介在していてもよい。この自然酸化膜は、例えば、コア部201の表層近傍が大気中で酸化されたものである。負極活物質200の中心にコア部201が存在すると共に外側に被覆部202が存在すれば、自然酸化膜の存在はコア部201および被覆部202の機能にほとんど影響を及ぼさない。
【0058】
ここで、負極活物質200がコア部201および被覆部202を含んでいることを確認するためには、上記したSEM観察の他、例えば、X線光電子分光法(XPS)またはエネルギー分散型X線分析法(EDX)により負極活物質200を分析してもよい。
【0059】
この場合には、負極活物質200の中心部および表層部の酸化度(原子x,y)などを測定すれば、コア部201および被覆部202の組成を確認できる。なお、被覆部202により被覆されているコア部201の組成を調べるためには、HFなどで被覆部202を溶解除去すればよい。
【0060】
酸化度の測定に関する詳細な手順は、例えば、下記の通りである。最初に、燃焼法を用いて負極活物質200(被覆部202により被覆されたコア部201)を定量して、全体のSi量およびO量を算出する。続いて、HFで被覆部202を洗浄除去したのち、燃焼法を用いてコア部202を定量してSi量およびO量を算出する。最後に、全体のSi量およびO量からコア部201のSi量およびO量を差し引いて、被覆部202のSi量およびO量を算出する。これにより、コア部201および被覆部202についてSi量およびO量が特定されるため、それぞれの酸化度を特定できる。なお、被覆部202を洗浄除去する代わりに、被覆部202により被覆されたコア部201と共に未被覆のコア部201を用いて酸化度を測定してもよい。
【0061】
なお、負極活物質層2中において、複数の負極活物質200は互いに離間(分散)されていてもよいし、そのうちの2つ以上が連結されていてもよい。2つ以上の負極活物質200が連結される場合、その連結し合う負極活物質200同士の位置関係を任意でよい。一例を挙げると、2以上の負極活物質200は、長軸同士がほぼ平行になるように配列されていてもよい。
【0062】
[導電部]
なお、負極活物質200は、被覆部202の表面に導電部を含んでいてもよい。この導電部は、被覆部202の表面のうちの少なくとも一部に設けられており、コア部201および被覆部202よりも低い電気抵抗を有している。コア部201が電解液とより接触しにくくなるため、その電解液の分解反応が抑制されると共に、負極活物質200の電気抵抗がより低下するからである。この導電部は、例えば、炭素材料、金属材料または無機化合物などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。炭素材料は、例えば、黒鉛などである。金属材料は、例えば、Fe、CuまたはAlなどである。無機化合物は、例えば、SiO2 などである。中でも、炭素材料または金属材料が好ましく、炭素材料がより好ましい。負極活物質200の電気抵抗がより低下するからである。なお、導電部の平均被覆率および平均厚さは任意であり、それらの算出手順は被覆部202と同様である。
【0063】
負極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリマレイン酸またはこれらの共重合体などである。この他、高分子材料は、例えば、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムまたはポリビニルアルコールなどでもよい。
【0064】
負極導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどの炭素材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。なお、負極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0065】
なお、負極活物質層2は、必要に応じて、上記したコア部201および被覆部202を含む負極活物質200と共に、他の種類の負極活物質を含んでいてもよい。
【0066】
このような他の負極活物質は、例えば、炭素材料である。負極活物質層2の電気抵抗が低下すると共に、その負極活物質層2が充放電時に膨張収縮しにくくなるからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などがある。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体とは、フェノール樹脂やフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。なお、負極活物質層2における炭素材料の含有量は、特に限定されないが、中でも、60%重量%以下、さらに10重量%〜60重量%であることが好ましい。
【0067】
また、他の負極活物質は、金属酸化物または高分子化合物でもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0068】
負極活物質層2は、例えば、塗布法、焼成法(焼結法)またはそれらの2種類以上の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、負極活物質を負極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などに分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順で塗布したのち、負極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法については、公知の手法を用いることができる。一例としては、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などが挙げられる。
【0069】
[負極の製造方法]
この負極は、例えば、以下の手順により製造される。なお、負極集電体1および負極活物質層2の形成材料については既に詳細に説明したので、その説明を随時省略する。
【0070】
最初に、例えば、以下の手順により、上記した組成を有する粒子状(粉末状)のコア部201を得る。
【0071】
例えば、ウェハ(Si)の表面に1種類または2種類以上の酸溶液を供給して、そのウェハの表面をエッチングして繊維状に成形したのち、そのエッチング後のウェハの表面を研磨して、上記した組成を有すると共に繊維状のSiであるコア部を得る。この場合には、ウェハの表面の温度や、酸溶液の供給量および温度や、エッチング時間などの条件を調整することで、繊維状のSiの平均円形度を制御できる。また、同条件を調整することで、2つ以上の負極活物質200を連結させることもできる。なお、ウェハに代えて、単結晶のSi粉などを用いて、上記した手順によりSi粉を成形してもよい。この場合には、Si粉の粒径(メジアン径など)に応じて、平均円形度を制御できる。
【0072】
続いて、例えば、蒸着法またはスパッタ法などの気相成長法を用いて、コア部201の表面に、上記した組成を有する被覆部202を形成する。このように気相成長法を用いて被覆部202の形成材料を堆積させた場合には、その被覆部202が非結晶性になりやすい傾向がある。この場合には、誘導加熱、抵抗加熱または電子ビーム加熱などにより被覆部202の形成材料を加熱しながら堆積させてもよいし、被覆部202を形成後に加熱して、その被覆部202を低結晶性にしてもよい。低結晶性の程度は、例えば、加熱時の温度および時間などの条件に応じて制御される。この加熱処理により、被覆部202中の水分が除去されると共に、コア部201に対する被覆部202の密着性が向上する。被覆部202の形成時には、チャンバ内に導入するO2 ガスおよびH2 ガスなどの導入量を調整することで、原子比xを調整できる。これにより、被覆部202によりコア部201が被覆されるため、負極活物質200が得られる。
【0073】
なお、負極活物質200を形成する場合には、気相成長法、または湿式コート法などを用いて、被覆部202の表面に導電部を形成してもよい。この気相成長法は、例えば、蒸着法、スパッタ法、化学蒸着(CVD)法、熱分解CVD法、電子ビーム蒸着法または糖炭化法などである。中でも、熱分解CVD法が好ましい。均一な厚さとなるように導電部を形成しやすいからである。
【0074】
蒸着法を用いる場合には、例えば、負極活物質の表面に蒸気を直接吹き付けて導電層を形成する。スパッタ法を用いる場合には、例えば、Arガスを導入しながら粉体スパッタ法を用いて導電部を形成する。CVD法を用いる場合には、例えば、金属塩化物を昇華させたガスとH2 およびN2 などの混合ガスとを、金属塩化物のモル比が0.03〜0.3となるように混合したのち、1000℃以上に加熱して負極活物質の表面に導電層を形成する。湿式コート法を用いる場合には、例えば、負極活物質を含むスラリーに含金属溶液を添加しながらアルカリ溶液を添加して金属水酸化物を形成したのち、450℃で水素による還元処理を行って負極活物質の表面に導電層を形成する。なお、導電層の形成材料として炭素材料を用いる場合には、負極活物質をチャンバ内に投入し、そのチャンバ内に有機ガスを導入したのち、10000Paおよび1000℃以上の条件で加熱処理を5時間行って負極活物質の表面に導電層を形成する。この有機ガスの種類は、加熱分解により炭素を生じさせるものであれば特に限定されないが、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレンまたはプロパンなどである。
【0075】
続いて、負極活物質200と負極結着剤などの他の材料とを混合して負極合剤としたのち、有機溶剤などの溶媒に溶解させて負極合剤スラリーとする。最後に、負極集電体1の表面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて負極活物質層2を形成する。こののち、必要に応じて負極活物質層2を圧縮成型および加熱(焼成)してもよい。
【0076】
[本実施形態の作用および効果]
この負極によれば、負極活物質200がコア部201の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部202を有している。SiおよびOを構成元素として含むコア部201において、Siに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、SiおよびOを構成元素として含む被覆部202において、Siに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8である。さらに、コア部201の平均円形度は0.8以下である。これにより、コア部201がリチウムイオンを円滑に吸蔵放出しやすくなると共に、そのコア部20が充放電時に破損しにくくなる。しかも、コア部201の円滑な吸蔵放出を維持したまま、被覆部202の存在に起因して不可逆容量が生じることが抑制される。よって、負極を用いたリチウムイオン二次電池の性能向上、具体的にはサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性などの向上に寄与できる。
【0077】
特に、コア部201の平均円形度が0.6以下、さに0.4以下であれば、より高い効果を得ることができる。また、低結晶性の被覆部202では、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の平均面積占有率が35%以下、または結晶粒の平均粒径が55nm以下であれば、より高い効果を得ることができる。
【0078】
また、被覆部202を厚さ方向において二等分したとき、Siの(111)面および(220)面に起因する結晶粒の内側部分における平均面積占有率および平均粒径が外側部分における平均面積占有率および平均粒径と同じであるか、それよりも大きくなっていれば、より高い効果を得ることができる。
【0079】
また、コア部201に対する被覆部202の平均被覆率が30%以上、または被覆部202の平均厚さが1nm〜3000nmであれば、より高い効果を得ることができる。しかも、被覆部202が多層であれば、より高い効果を得ることができる。
【0080】
また、コア部201がFeを構成元素として含み、そのSiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))が0.01重量%〜7.5重量%であれば、より高い効果を得ることができる。
【0081】
<2.リチウムイオン二次電池>
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極を用いたリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」という。について説明する。
【0082】
<2−1.角型>
図7および図8は、角型の二次電池の断面構成を表しており、図8では、図7に示したVIII−VIII線に沿った断面を示している。また、図9は、図8に示した正極21および負極22の平面構成を模式的に表している。
【0083】
[二次電池の全体構成]
角型の二次電池は、主に、電池缶11の内部に電池素子20が収納されたものである。この電池素子20は、セパレータ23を介して正極21と負極22とが積層および巻回された巻回積層体であり、電池缶11の形状に応じて扁平状になっている。
【0084】
電池缶11は、例えば、角型の外装部材である。この角型の外装部材は、図8に示したように、長手方向における断面が矩形型または略矩形型(一部に曲線を含む)の形状を有しており、矩形状だけでなくオーバル形状の角型電池にも適用される。すなわち、角型の外装部材とは、矩形状または円弧を直線で結んだ略矩形状(長円形状)の開口部を有する有底矩形型または有底長円形状型の器状部材である。なお、図8では、電池缶11が矩形型の断面形状を有する場合を示している。
【0085】
この電池缶11は、例えば、Fe、Alまたはそれらの合金などの導電性材料により形成されており、電極端子としての機能を有している場合もある。中でも、充放電時に固さ(変形しにくさ)を利用して電池缶11の膨れを抑えるためには、Alよりも固いFeが好ましい。なお、電池缶11がFe製である場合、その表面にNiなどが鍍金されていてもよい。
【0086】
また、電池缶11は、一端部が開放されると共に他端部が閉鎖された中空構造を有しており、その開放端部に取り付けられた絶縁板12および電池蓋13により密閉されている。絶縁板12は、電池素子20と電池蓋13との間に設けられていると共に、例えば、ポリプロピレンなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13は、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されており、その電池缶11と同様に電極端子としての機能を有していてもよい。
【0087】
電池蓋13の外側には、正極端子となる端子板14が設けられており、その端子板14は、絶縁ケース16を介して電池蓋13から電気的に絶縁されている。この絶縁ケース16は、例えば、ポリブチレンテレフタレートなどの絶縁性材料により形成されている。電池蓋13のほぼ中央には貫通孔が設けられており、その貫通孔には、端子板14と電気的に接続されると共にガスケット17を介して電池蓋13から電気的に絶縁されるように正極ピン15が挿入されている。このガスケット17は、例えば、絶縁性材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されている。
【0088】
電池蓋13の周縁付近には、開裂弁18および注入孔19が設けられている。開裂弁18は、電池蓋13と電気的に接続されており、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して電池の内圧が一定以上となった場合に、電池蓋13から切り離されて内圧を開放するようになっている。注入孔19は、例えば、ステンレス鋼球からなる封止部材19Aにより塞がれている。
【0089】
正極21の端部(例えば内終端部)には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード24が取り付けられていると共に、負極22の端部(例えば外終端部)には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード25が取り付けられている。正極リード24は、正極ピン15の一端に溶接されていると共に端子板14と電気的に接続されており、負極リード25は、電池缶11に溶接されていると共にその電池缶11と電気的に接続されている。
【0090】
[正極]
正極21は、例えば、正極集電体21Aの両面に正極活物質層21Bを有している。ただし、正極活物質層21Bは、正極集電体21Aの片面だけに設けられていてもよい。
【0091】
正極集電体21Aは、例えば、Al、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。
【0092】
正極活物質層21Bは、正極活物質として、リチウムイオンを吸蔵放出可能である正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、正極結着剤または正極導電剤に関する詳細は、例えば、既に説明した負極結着剤および負極導電剤と同様である。
【0093】
正極材料としては、Li含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このLi含有化合物は、例えば、Liと遷移金属元素とを構成元素として含む複合酸化物や、Liと遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物などである。中でも、遷移金属元素は、Co、Ni、MnおよびFeのいずれか1種類または2種類以上であることが好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M11O2 またはLiy M12PO4 で表される。式中、M11およびM12は、1種類以上の遷移金属元素を表している。xおよびyの値は、充放電状態に応じて異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。特に、正極材料がNiまたはMnを含んでいると、体積安定率が向上する傾向にある。
【0094】
Liと遷移金属元素とを含む複合酸化物は、例えば、Lix CoO2 、Lix NiO2 、または式(1)で表されるLiNi系複合酸化物などである。Liと遷移金属元素とを含むリン酸化合物は、例えば、LiFePO4 またはLiFe1-u Mnu PO4 (u<1)などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。例えば、Lix M14y O2 (M14はNIと式(1)に示したM13のうちの少なくとも1種とであると共に、x>1であり、yは任意である。)で表される材料などである。
【0095】
LiNi1-x M13x O2 …(1)
(M13はCo、Mn、Fe、Al、V、Sn、Mg、Ti、Sr、Ca、Zr、Mo、Tc、Ru、Ta、W、Re、Y、Cu、Zn、Ba、B、Cr、Si、Ga、P、SbおよびNbのうちの少なくとも1種である。xは0.005<x<0.5である。)
【0096】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などである。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。
【0097】
[負極]
負極22は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体22Aの両面に負極活物質層22Bを有している。負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成は、それぞれ負極集電体1および負極活物質層2の構成と同様である。リチウムイオンを吸蔵放出可能である負極材料の充電可能な容量は、正極21の放電容量よりも大きくなっていることが好ましい。充放電時に意図せずにLi金属が析出することを防止するためである。
【0098】
図9に示したように、正極活物質層21Bは、例えば、正極集電体21Aの表面の一部(例えば長手方向における中央領域)に設けられている。これに対して、負極活物質層22Bは、例えば、負極集電体22Aの全面に設けられている。これにより、負極活物質層22Bは、負極集電体22Aのうち、正極活物質層21Bと対向する領域(対向領域R1)および対向しない領域(非対向領域R2)に設けられている。この場合には、負極活物質層22Bのうち、対向領域R1に設けられている部分が充放電に関与するが、非対向領域R2に設けられている部分は充放電にほとんど関与しない。なお、図9では、正極活物質層21Bおよび負極活物質層22Bに網掛けしている。
【0099】
上記したように、負極活物質層22Bに含まれる負極活物質200(図2参照)は、コア部201および被覆部202を含んでいる。しかしながら、充放電時の膨張収縮に起因して負極活物質層22Bが変形または破損する可能性があるため、コア部201および被覆部202の形成状態が負極活物質層22Bの形成時の状態から変動し得る。しかしながら、非対向領域R2では、充放電の影響をほとんど受けず、負極活物質層22Bの形成状態が維持される。このため、コア部201および被覆部202の有無、組成(原子x,y)および平均円形度など、上記した一連のパラメータについては、非対向領域R2の負極活物質層22Bにおいて調べることが好ましい。充放電の履歴(充放電の有無および回数など)に依存せずに、コア部201および被覆部202の有無および組成などを再現性よく正確に調べることができるからである。
【0100】
この負極22の満充電状態における最大利用率(以下、単に「負極利用率」という。)は、特に限定されず、正極21の容量と負極22の容量との割合に応じて任意に設定可能である。
【0101】
上記した「負極利用率」は、利用率Z(%)=(X/Y)×100で表される。ここで、Xは、負極22の満充電状態における単位面積当たりのリチウムイオンの吸蔵量であり、Yは、負極22の単位面積当たりにおける電気化学的に吸蔵可能なリチウムイオンの量である。
【0102】
吸蔵量Xについては、例えば、以下の手順で求めることができる。最初に、満充電状態になるまで二次電池を充電させたのち、その二次電池を解体して、負極22のうちの正極21と対向している部分(検査負極)を切り出す。続いて、検査負極を用いて、金属リチウムを対極とした評価電池を組み立てる。最後に、評価電池を放電させて初回放電時の放電容量を測定したのち、その放電容量を検査負極の面積で割って吸蔵量Xを算出する。この場合の「放電」とは、検査負極からリチウムイオンが放出される方向へ通電することを意味しており、例えば、0.1mA/cm2 の電流密度で電池電圧が1.5Vに達するまで定電流放電する。
【0103】
一方、吸蔵量Yについては、例えば、上記した放電済みの評価電池を電池電圧が0Vになるまで定電流定電圧充電して充電容量を測定したのち、その充電容量を検査負極の面積で割って算出する。この場合の「充電」とは、検査負極にリチウムイオンが吸蔵される方向へ通電することを意味しており、例えば、電流密度が0.1mA/cm2 であると共に電池電圧が0Vである定電圧充電において、電流密度が0.02mA/cm2 に達するまで行う。
【0104】
中でも、負極利用率は、35%〜80%であることが好ましい。優れたサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性が得られるからである。
【0105】
[セパレータ]
セパレータ23は、正極21と負極22とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ23は、例えば、合成樹脂またはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種類以上の多孔質膜が積層された積層膜でもよい。合成樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンなどが挙げられる。
【0106】
[電解液]
セパレータ23には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒に電解質塩が溶解されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0107】
溶媒は、例えば、有機溶剤などの非水溶媒のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。この非水溶媒は、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチル、トリメチル酢酸エチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドなどである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0108】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0109】
特に、非水溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として含む(少なくとも1つのHがハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0110】
ハロゲンの種類は、特に限定されないが、中でも、F、ClまたはBrが好ましく、Fがより好ましい。他のハロゲンよりも高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲンの数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。保護膜を形成する能力が高くなると共に、より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。
【0111】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。このハロゲン化環状炭酸エステルには、幾何異性体も含まれる。非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜50重量%である。
【0112】
また、非水溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極22の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとは、1または2以上の不飽和炭素結合を含む(いずれかの箇所に不飽和炭素結合が導入された)環状炭酸エステルである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%〜10重量%である。
【0113】
また、非水溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0114】
さらに、非水溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、カルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。カルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%〜5重量%である。
【0115】
電解質塩は、例えば、Li塩などの軽金属塩のいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。Li塩は、例えば、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 、LiAsF6 、LiB(C6 H5 )4 、LiCH3 SO3 、LiCF3 SO3 、LiAlCl4 、Li2 SiF6 、LiClまたはLiBrなどであり、その他の種類のLi塩でもよい。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0116】
中でも、LiPF6 、LiBF4 、LiClO4 およびLiAsF6 のいずれか1種類または2種類以上が好ましく、LiPF6 またはLiBF4 が好ましく、LiPF6 がより好ましい。内部抵抗が低下するため、より優れた特性が得られるからである。
【0117】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0118】
[二次電池の動作]
この角型の二次電池では、例えば、充電時に正極21から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極22に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極22から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極21に吸蔵される。
【0119】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0120】
まず、正極21を作製する。最初に、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、ドクタブレードまたはバーコータなどのコーティング装置を用いて正極集電体21Aに正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層21Bを形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて正極活物質層21Bを圧縮成型する。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0121】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の作製手順により、負極集電体22Aに負極活物質層22Bを形成して負極22を作製する。
【0122】
次に、電池素子20を作製する。最初に、溶接法などにより正極集電体21Aに正極リード24を取り付けると共に負極集電体22Aに負極リード25を取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層させたのち、それらを長手方向において巻回させる。最後に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。
【0123】
最後に、二次電池を組み立てる。最初に、電池缶11の内部に電池素子20を収納したのち、その電池素子20の上に絶縁板12を載せる。続いて、溶接法などで正極リード24を正極ピン15に取り付けると共に負極リード25を電池缶11に取り付ける。この場合には、レーザ溶接法などにより電池缶11の開放端部に電池蓋13を固定する。最後に、注入孔19から電池缶11の内部に電解液を注入してセパレータ23に含浸させたのち、その注入孔19を封止部材19Aで塞ぐ。
【0124】
[二次電池の作用および効果]
この角型の二次電池によれば、負極22が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、同様の作用が得られる。よって、サイクル特性、初回充放電特性および負荷特性などの優れた電池特性を得ることができる。これ以外の効果は、リチウムイオン二次電池用負極と同様である。
【0125】
<2−2.円筒型>
図10および図11は、円筒型二次電池の断面構成を表しており、図11では、図10に示した巻回電極体40の一部を拡大している。以下では、既に説明した角型の二次電池の構成要素を随時引用する。
【0126】
[二次電池の構成]
円筒型の二次電池は、主に、ほぼ中空円柱状の電池缶31の内部に巻回電極体40および一対の絶縁板32,33が収納されたものである。この巻回電極体40は、セパレータ43を介して正極41と負極42とが積層および巻回された巻回積層体である。
【0127】
電池缶31は、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有しており、例えば、電池缶11と同様の材料により形成されている。一対の絶縁板32,33は、巻回電極体40を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0128】
電池缶31の開放端部には電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子(PTC素子)36がガスケット37を介してかしめられており、その電池缶31は密閉されている。電池蓋34は、例えば、電池缶31と同様の材料により形成されている。安全弁機構35および熱感抵抗素子36は電池蓋34の内側に設けられており、その安全弁機構35は熱感抵抗素子36を介して電池蓋34と電気的に接続されている。この安全弁機構35では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上となった場合に、ディスク板35Aが反転して電池蓋34と巻回電極体40との間の電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子36は、温度上昇に応じた抵抗増加により、大電流に起因する異常な発熱を防止するものである。ガスケット37は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面にはアスファルトが塗布されていてもよい。
【0129】
巻回電極体40の中心には、センターピン44が挿入されていてもよい。正極41には、Alなどの導電性材料により形成された正極リード45が接続されていると共に、負極42には、Niなどの導電性材料により形成された負極リード46が接続されている。正極リード45は、安全弁機構35に溶接などされ、電池蓋34と電気的に接続されていると共に、負極リード46は電池缶31に溶接などされ、それと電気的に接続されている。
【0130】
正極41は、例えば、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを有している。負極42は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを有している。正極集電体41A、正極活物質層41B、負極集電体42A、負極活物質層42Bおよびセパレータ43の構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22A、負極活物質層22Bおよびセパレータ23の構成と同様である。また、セパレータ35に含浸されている電解液の組成は、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。
【0131】
[二次電池の動作]
この円筒型の二次電池では、例えば、充電時に正極41から放出されたリチウムイオンが電解液を介して負極42に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極42から放出されたリチウムイオンが電解液を介して正極41に吸蔵される。
【0132】
[二次電池の製造方法]
この円筒型の二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。最初に、例えば、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極集電体41Aの両面に正極活物質層41Bを形成して正極41を作製すると共に、負極集電体42Aの両面に負極活物質層42Bを形成して負極42を作製する。続いて、溶接法などにより正極41に正極リード45を取り付けると共に負極42に負極リード46を取り付ける。続いて、セパレータ43を介して正極41と負極42とを積層および巻回させて巻回電極体40を作製したのち、その巻回中心にセンターピン44を挿入する。続いて、一対の絶縁板32,33で挟みながら巻回電極体40を電池缶31の内部に収納する。この場合には、溶接法などにより正極リード45を安全弁機構35に取り付けると共に負極リード46の先端部を電池缶31に取り付ける。続いて、電池缶31の内部に電解液を注入してセパレータ43に含浸させる。最後に、電池缶31の開口端部に電池蓋34、安全弁機構35および熱感抵抗素子36を取り付けたのち、それらをガスケット37を介してかしめる。
【0133】
[二次電池の作用および効果]
この円筒型の二次電池では、負極42が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
【0134】
<2−3.ラミネートフィルム型>
図12は、ラミネートフィルム型二次電池の分解斜視構成を表しており、図13は、図12に示した巻回電極体50のXIII−XIII線に沿った断面を拡大している。
【0135】
[二次電池の構成]
ラミネートフィルム型の二次電池は、主に、フィルム状の外装部材60の内部に巻回電極体50が収納されたものである。この巻回電極体50は、セパレータ55および電解質層56を介して正極53と負極54とが積層および巻回された巻回積層体である。正極53には正極リード51が取り付けられていると共に、負極54には負極リード52が取り付けられている。巻回電極体50の最外周部は、保護テープ57により保護されている。
【0136】
正極リード51および負極リード52は、例えば、外装部材60の内部から外部に向かって同一方向に導出されている。正極リード51は、例えば、Alなどの導電性材料により形成されていると共に、負極リード52は、例えば、Cu、Niまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。これらの材料は、例えば、薄板状または網目状になっている。
【0137】
外装部材60は、例えば、融着層、金属層および表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムである。このラミネートフィルムでは、例えば、融着層が巻回電極体50と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、または接着剤などにより貼り合わされている。融着層は、例えば、ポリエチレンまたはポリプロピレンなどのフィルムである。金属層は、例えば、Al箔などである。表面保護層は、例えば、ナイロンまたはポリエチレンテレフタレートなどのフィルムである。
【0138】
中でも、外装部材60としては、ポリエチレンフィルム、アルミニウム箔およびナイロンフィルムがこの順に積層されたアルミラミネートフィルムが好ましい。ただし、外装部材60は、他の積層構造を有するラミネートフィルムでもよいし、ポリプロピレンなどの高分子フィルムまたは金属フィルムでもよい。
【0139】
外装部材60と正極リード51および負極リード52との間には、外気の侵入を防止するための密着フィルム61が挿入されている。この密着フィルム61は、正極リード51および負極リード52に対して密着性を有する材料により形成されている。このような材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリエチレンまたは変性ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂である。
【0140】
正極53は、例えば、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを有している。負極54は、上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しており、例えば、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを有している。正極集電体53A、正極活物質層53B、負極集電体54Aおよび負極活物質層54Bの構成は、それぞれ正極集電体21A、正極活物質層21B、負極集電体22Aおよび負極活物質層22Bの構成と同様である。また、セパレータ55の構成は、セパレータ23の構成と同様である。
【0141】
電解質層56は、高分子化合物により電解液が保持されたものであり、必要に応じて添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。この電解質層56は、いわゆるゲル状の電解質である。ゲル状の電解質は、高いイオン伝導率(例えば、室温で1mS/cm以上)が得られると共に電解液の漏液が防止されるので好ましい。
【0142】
高分子化合物は、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリフッ化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレン、ポリカーボネート、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体などのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。である。中でも、ポリフッ化ビニリデン、またはフッ化ビニリデンとヘキサフルオロピレンとの共重合体が好ましい。電気化学的に安定だからである。
【0143】
電解液の組成は、例えば、角型の二次電池における電解液の組成と同様である。ただし、ゲル状の電解質である電解質層56において、電解液の溶媒とは、液状の溶媒だけでなく、電解質塩を解離させることが可能なイオン伝導性を有する材料まで含む広い概念である。このため、イオン伝導性を有する高分子化合物を用いる場合には、その高分子化合物も溶媒に含まれる。
【0144】
なお、ゲル状の電解質層56に代えて、電解液を用いてもよい。この場合には、電解液がセパレータ55に含浸される。
【0145】
[二次電池の動作]
このラミネートフィルム型の二次電池では、例えば、充電時に正極53から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して負極54に吸蔵される。また、例えば、放電時に負極54から放出されたリチウムイオンが電解質層56を介して正極53に吸蔵される。
【0146】
[二次電池の製造方法]
このゲル状の電解質層56を備えたラミネートフィルム型の二次電池は、例えば、以下の3種類の手順により製造される。
【0147】
第1手順では、最初に、正極21および負極22と同様の作製手順により、正極53および負極54を作製する。この場合には、正極集電体53Aの両面に正極活物質層53Bを形成して正極53を作製すると共に、負極集電体54Aの両面に負極活物質層54Bを形成して負極54を作製する。続いて、電解液と、高分子化合物と、有機溶剤などとを含む前駆溶液を調製したのち、その前駆溶液を正極53および負極54に塗布してゲル状の電解質層56を形成する。続いて、溶接法などにより正極集電体53Aに正極リード51を取り付けると共に負極集電体54Aに負極リード52を取り付ける。続いて、電解質層56が形成された正極53と負極54とをセパレータ55を介して積層および巻回させて巻回電極体50を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。最後に、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回電極体50を挟み込んだのち、熱融着法などにより外装部材60の外周縁部同士を接着させて、その外装部材60に巻回電極体50を封入する。この場合には、正極リード51および負極リード52と外装部材60との間に密着フィルム61を挿入する。
【0148】
第2手順では、最初に、正極53に正極リード51を取り付けると共に、負極54に負極リード52を取り付ける。続いて、セパレータ55を介して正極53と負極54とを積層および巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を作製したのち、その最外周部に保護テープ57を接着させる。続いて、2枚のフィルム状の外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、熱融着法などで一辺の外周縁部を除いた残りの外周縁部を接着させて、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納する。続いて、電解液と、高分子化合物の原料であるモノマーと、重合開始剤と、必要に応じて重合禁止剤などの他の材料とを含む電解質用組成物を調製して袋状の外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などにより外装部材60の開口部を密封する。最後に、モノマーを熱重合させて高分子化合物とし、ゲル状の電解質層56を形成する。
【0149】
第3手順では、最初に、高分子化合物が両面に塗布されたセパレータ55を用いることを除き、上記した第2手順と同様に、巻回体を作製して袋状の外装部材60の内部に収納する。このセパレータ55に塗布する高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデンを成分とする重合体(単独重合体、共重合体または多元共重合体など)が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンを成分とする二元系共重合体、またはフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを成分とする三元系共重合体などである。なお、フッ化ビニリデンを成分とする重合体と一緒に、他の1種類または2種類以上の高分子化合物を用いてもよい。続いて、電解液を調製して外装部材60の内部に注入したのち、熱融着法などで外装部材60の開口部を密封する。最後に、外装部材60に加重をかけながら加熱して、高分子化合物を介してセパレータ55を正極53および負極54に密着させる。これにより、電解液が高分子化合物に含浸するため、その高分子化合物がゲル化して電解質層56が形成される。
【0150】
この第3手順では、第1手順よりも電池膨れが抑制される。また、第2手順よりも高分子化合物の原料であるモノマーまたは有機溶剤などが電解質層56中にほとんど残らないため、高分子化合物の形成工程が良好に制御される。このため、正極53、負極54およびセパレータ55と電解質層56との間において十分な密着性が得られる。
【0151】
[二次電池の作用および効果]
このラミネートフィルム型の二次電池では、負極54が上記したリチウムイオン二次電池用負極と同様の構成を有しているので、角型の二次電池と同様の効果を得ることができる。
【0152】
<3.リチウムイオン二次電池の用途>
次に、上記したリチウムイオン二次電池の適用例について説明する。
【0153】
リチウムイオン二次電池の用途は、それを駆動用の電源または電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置またはシステム(複数の機器などの集合体)などであれば、特に限定されない。リチウムイオン二次電池が電源として用いられる場合、それは主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、または主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。この主電源の種類は、リチウムイオン二次電池に限られない。
【0154】
リチウムイオン二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビまたは携帯用情報端末などの携帯用電子機器である。電気シェーバなどの携帯用生活器具である。バックアップ電源またはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルまたは電動のこぎりなどの電動工具である。ノート型パソコンなどの電源として用いられる電池パックである。ペースメーカーまたは補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。もちろん、上記以外の用途でもよい。
【0155】
中でも、リチウムイオン二次電池は、電池パック、電動車両、電力貯蔵システム、電動工具または電子機器などに適用されることが有効である。優れた電池特性が要求されるため、本技術のリチウムイオン二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、リチウムイオン二次電池を用いた電源であり、いわゆる組電池などである。電動車両は、リチウムイオン二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、上記したように、リチウムイオン二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、リチウムイオン二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源であるリチウムイオン二次電池に電力が蓄積されており、その電力が必要に応じて消費されるため、家庭用の電気製品などが使用可能になる。電動工具は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)が可動する工具である。電子機器は、リチウムイオン二次電池を駆動用の電源として各種機能を発揮する機器である。
【0156】
ここで、リチウムイオン二次電池のいくつかの適用例について具体的に説明する。なお、以下で説明する各適用例の構成はあくまで一例であるため、適宜変更可能である。
【0157】
<3−1.電池パック>
図14は、電池パックのブロック構成を表している。この電池パックは、例えば、図10に示したように、プラスチック材料などにより形成された筐体60の内部に、制御部61と、電源62と、スイッチ部63と、電流測定部64と、温度検出部65と、電圧検出部66と、スイッチ制御部67と、メモリ68と、温度検出素子69と、電流検出抵抗70と、正極端子71および負極端子72とを備えている。
【0158】
制御部61は、電池パック全体の動作(電源62の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、中央演算処理装置(CPU)などを含んでいる。電源62は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源62は、例えば、2以上のリチウムイオン二次電池を含む組電池であり、それらの接続形式は、直列でもよいし、並列でもよいし、双方の混合型でもよい。一例を挙げると、電源62は、2並列3直列となるように接続された6つのリチウムイオン二次電池を含んでいる。
【0159】
スイッチ部63は、制御部61の指示に応じて電源62の使用状態(電源62と外部機器との接続の可否)を切り換えるものである。このスイッチ部63は、例えば、充電制御スイッチ、放電制御スイッチ、充電用ダイオードおよび放電用ダイオード(いずれも図示せず)などを含んでいる。充電制御スイッチおよび放電制御スイッチは、例えば、金属酸化物半導体を用いた電界効果トランジスタ(MOSFET)などの半導体スイッチである。
【0160】
電流測定部64は、電流検出抵抗70を用いて電流を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものである。温度検出部65は、温度検出素子69を用いて温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するようになっている。この温度測定結果は、例えば、異常発熱時に制御部61が充放電制御を行う場合や、制御部61が残容量の算出時に補正処理を行うために用いられる。電圧検出部66は、電源62中におけるリチウムイオン二次電池の電圧を測定して、その測定電圧アナログ/デジタル変換(A/D)変換して制御部61に供給するものである。
【0161】
スイッチ制御部67は、電流測定部66および電圧測定部66から入力される信号に応じて、スイッチ部63の動作を制御するものである。
【0162】
このスイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過充電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(充電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に充電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、放電用ダイオードを介して放電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、充電時に大電流が流れた場合に、充電電流を遮断するようになっている。
【0163】
また、スイッチ制御部67は、例えば、電池電圧が過放電検出電圧に到達した場合に、スイッチ部67(放電制御スイッチ)を切断して、電源62の電流経路に放電電流が流れないように制御するようになっている。これにより、電源62では、充電用ダイオードを介して充電のみが可能になる。なお、スイッチ制御部67は、例えば、放電時に大電流が流れた場合に、放電電流を遮断するようになっている。
【0164】
なお、リチウムイオン二次電池では、例えば、過充電検出電圧は4.20V±0.05Vであり、過放電検出電圧は2.4V±0.1Vである。
【0165】
メモリ68は、例えば、不揮発性メモリであるEEPROMなどである。このメモリ68には、例えば、制御部61により演算された数値や、製造工程段階で測定されたリチウムイオン二次電池の情報(例えば、初期状態の内部抵抗など)が記憶されている。なお、メモリ68にリチウムイオン二次電池の満充電容量を記憶させておけば、制御部10が残容量などの情報を把握できる。
【0166】
温度検出素子69は、電源62の温度を測定して、その測定結果を制御部61に出力するものであり、例えば、サーミスタなどである。
【0167】
正極端子71および負極端子72は、電池パックを用いて稼働される外部機器(例えばノート型のパーソナルコンピュータなど)または電池パックを充電するために用いられる外部機器(例えば充電器など)に接続される端子である。電源62の充放電は、正極端子71および負極端子72を介して行われる。
【0168】
<3−2.電動車両>
図15は、電動車両の一例であるハイブリッド自動車のブロック構成を表している。この電動車両は、例えば、図11に示したように、金属製の筐体73の内部に、制御部74と、エンジン75と、電源76と、駆動用のモータ77と、差動装置78と、発電機79と、トランスミッション80およびクラッチ81と、インバータ82,83と、各種センサ84とを備えている。この他、電動車両は、例えば、差動装置78およびトランスミッション80に接続された前輪用駆動軸85および前輪86と、後輪用駆動軸87および後輪88とを備えている。
【0169】
この電動車両は、エンジン75またはモータ77のいずれか一方を駆動源として走行可能である。エンジン75は、主要な動力源であり、例えば、ガソリンエンジンなどである。エンジン75を動力源とする場合、エンジン75の駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。なお、エンジン75の回転力は発電機79にも伝達され、その回転力により発電機79が交流電力を発生させると共に、その交流電力はインバータ83を介して直流電力に変換され、電源76に蓄積される。一方、変換部であるモータ77を動力源とする場合、電源76から供給された電力(直流電力)がインバータ82を介して交流電力に変換され、その交流電力によりモータ77が駆動する。このモータ77により電力から変換された駆動力(回転力)は、例えば、駆動部である差動装置78、トランスミッション80およびクラッチ81を介して前輪86または後輪88に伝達される。
【0170】
なお、図示しない制動機構により電動車両が減速すると、その減速時の抵抗力がモータ77に回転力として伝達され、その回転力によりモータ77が交流電力を発生させるようにしてもよい。この交流電力はインバータ82を介して直流電力に変換され、その直流回生電力は電源76に蓄積されることが好ましい。
【0171】
制御部74は、電動車両全体の動作を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源76は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この電源76は、外部電源と接続され、その外部電源から電力供給を受けることで電力を蓄積可能になっていてもよい。各種センサ84は、例えば、エンジン75の回転数を制御したり、図示しないスロットルバルブの開度(スロットル開度)を制御するために用いられる。この各種センサ84は、例えば、速度センサ、加速度センサ、エンジン回転数センサなどを含んでいる。
【0172】
なお、上記では電動車両としてハイブリッド自動車について説明したが、電動車両は、エンジン75を用いずに電源76およびモータ77だけを用いて作動する車両(電気自動車)でもよい。
【0173】
<3−3.電力貯蔵システム>
図16は、電力貯蔵システムのブロック構成を表している。この電力貯蔵システムは、例えば、図12に示したように、一般住宅または商業用ビルなどの家屋89の内部に、制御部90と、電源91と、スマートメータ92と、パワーハブ93とを備えている。
【0174】
ここでは、電源91は、例えば、家屋89の内部に設置された電気機器94に接続されていると共に、家屋89の外部に停車された電動車両96に接続可能になっている。また、電源91は、例えば、家屋89に設置された自家発電機95にパワーハブ93を介して接続されていると共に、スマートメータ92およびパワーハブ93を介して外部の集中型電力系統97に接続可能になっている。
【0175】
なお、電気機器94は、例えば、冷蔵庫、エアコン、テレビまたは給湯器などの1または2以上の家電製品を含んでいる。自家発電機95は、例えば、太陽光発電機または風力発電機などの1種類または2種類以上である。電動車両96は、例えば、電気自動車、電気バイクまたはハイブリッド自動車などの1種類または2種類以上である。集中型電力系統97は、例えば、火力発電所、原子力発電所、水力発電所または風力発電所などの1種類または2種類以上である。
【0176】
制御部90は、電力貯蔵システム全体の動作(電源91の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源91は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。スマートメータ92は、例えば、電力需要側の家屋89に設置されるネットワーク対応型の電力計であり、電力供給側と通信可能になっている。これに伴い、スマートメータ92は、例えば、必要に応じて外部と通信しながら、家屋89における需要・供給のバランスを制御し、効率的で安定したエネルギー供給を可能にするようになっている。
【0177】
この電力貯蔵システムでは、例えば、外部電源である集中型電力系統97からスマートメータ92およびパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積されると共に、独立電源である太陽光発電機95からパワーハブ93を介して電源91に電力が蓄積される。この電源91に蓄積された電力は、制御部91の指示に応じて、必要に応じて電気機器94または電動車両96に供給されるため、その電気機器94が稼働可能になると共に、電動車両96が充電可能になる。すなわち、電力貯蔵システムは、電源91を用いて、家屋89内における電力の蓄積および供給を可能にするシステムである。
【0178】
電源91に蓄積された電力は、任意に利用可能である。このため、例えば、電気使用量が安い深夜に集中型電力系統97から電源91に電力を蓄積しておき、その電源91に蓄積しておいた電力を電気使用量が高い日中に用いることができる。
【0179】
なお、上記した電力貯蔵システムは、1戸(1世帯)ごとに設置されていてもよいし、複数戸(複数世帯)ごとに設置されていてもよい。
【0180】
<3−4.電動工具>
図17は、電動工具のブロック構成を表している。この電動工具は、例えば、図13に示したように、電動ドリルであり、プラスチック材料などにより形成された工具本体98の内部に、制御部99と、電源100とを備えている。この工具本体98には、例えば、可動部であるドリル部101が稼働(回転)可能に取り付けられている。
【0181】
制御部99は、電動工具全体の動作(電源100の使用状態を含む)を制御するものであり、例えば、CPUなどを含んでいる。電源100は、1または2以上のリチウムイオン二次電池(図示せず)を含んでいる。この制御物99は、図示しない動作スイッチの操作に応じて、必要に応じて電源100からドリル部101に電力を供給して可動させるようになっている。
【実施例】
【0182】
本技術の実施例について、詳細に説明する。
【0183】
(実施例1−1〜1−28)
以下の手順により、図12および図13に示したラミネートフィルム型の二次電池を作製した。
【0184】
最初に、正極53を作製した。まず、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極導電剤(グラファイト)6質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)3質量部とを混合して正極合剤とした。続いて、正極合剤を有機溶剤(N−メチル−2−ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体53Aの両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて正極活物質層53Bを形成した。この正極集電体53Aとしては、帯状のAl箔(厚さ=12μm)を用いた。最後に、ロールプレス機を用いて正極活物質層53Bを圧縮成型した。なお、満充電時に負極54にLi金属が析出しないように正極活物質層53Bの厚さを調整した。
【0185】
次に、負極54を作製した。最初に、結晶性の繊維状のコア部(SiOx )を得たのち、必要に応じて、粉体蒸着法を用いてコア部の表面に非結晶性の被覆部(SiOy )を形成した。コア部および被覆部の組成(原子比x,y)および平均円形度は、表1および表2に示した通りである。この場合には、コア部の半値幅=0.6°、被覆部の平均被覆率=70%、平均厚さ=200nmとした。
【0186】
コア部を得る場合には、最初に、ウェハ(Si)の表面に硝酸銀(0.02mol/dm3 =mol/l)を供給したのち、そのウェハの温度を15℃〜120℃に保持した。続いて、ウェハの表面に5mol/dm3 のHF(50℃)を供給したのち、そのウェハの表面をエッチングして繊維状に成形した。最後に、ウェハの表面を鑢で研磨して、繊維状のコア部を得た。この繊維状のコア部を得る場合には、温度およびエッチング時間を調整して、平均円形度を制御した。また、原材料(Si)の溶融凝固時に酸素導入量を調整して組成(原子比x)を制御した。
【0187】
被覆部を形成する場合には、原材料(Si)の堆積時にO2 またはH2 の導入量を調整して組成(原子比y)を制御した。また、被覆部の形成工程を2回に分けて行うことで、その被覆部の層構造を多層にした。粉体蒸着法では、偏向式電子ビーム蒸着源を用いると共に、堆積速度=2nm/秒とし、ターボ分子ポンプを用いて圧力=1×10-3Paの真空状態とした。
【0188】
続いて、負極活物質と負極結着剤の前駆体とを90:10の乾燥重量比で混合したのち、NMPで希釈してペースト状の負極合剤スラリーとした。この場合には、NMPおよびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)を含むポリアミック酸を用いた。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体54Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させた。この負極集電体54Aとしては、圧延Cu箔(厚さ=15μm,十点平均粗さRz<0.5μm)を用いた。最後に、結着性を高めるために塗膜を熱プレスしたのち、真空雰囲気中で400℃×1時間焼成した。これにより、負極結着剤(ポリアミドイミド)が形成されたため、負極活物質および負極結着剤を含む負極活物質層54Bが形成された。なお、負極利用率が65%となるように負極活物質層54Bの厚さを調整した。
【0189】
次に、溶媒(炭酸エチレン(EC)および炭酸ジエチル(DEC))に電解質塩(LiPF6 )を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を重量比でEC:DEC=50:50とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1mol/kgとした。
【0190】
最後に、二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体53Aの一端にAl製の正極リード51を溶接すると共に、負極集電体54Aの一端にNi製の負極リード52を溶接した。続いて、正極53、セパレータ55、負極54およびセパレータ55をこの順に積層してから長手方向に巻回させて、巻回電極体50の前駆体である巻回体を形成したのち、その巻き終わり部分を保護テープ57(粘着テープ)で固定した。この場合には、セパレータ55として、多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムが挟まれた積層フィルム(厚さ=20μm)を用いた。続いて、外装部材60の間に巻回体を挟み込んだのち、一辺を除く外周縁部同士を熱融着して、袋状の外装部材60の内部に巻回体を収納した。この場合には、外装部材60として、外側からナイロンフィルム(厚さ=30μm)、Al箔(厚さ=40μm)および無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ=30μm)が積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、外装部材60の開口部から電解液を注入し、セパレータ55に含浸させて巻回電極体50を作製した。最後に、真空雰囲気中で外装部材60の開口部を熱融着して封止した。
【0191】
二次電池のサイクル特性、初回充放電特性および負荷特性を調べたところ、表1および表2に示した結果が得られた。
【0192】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために23℃の雰囲気中で1サイクル充放電したのち、再び充放電して放電容量を測定した。続いて、サイクル数の総数が100サイクルになるまで充放電して放電容量を測定した。最後に、サイクル維持率(%)=(100サイクル目の放電容量/2サイクル目の放電容量)×100を算出した。充電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が4.2Vに達するまで充電したのち、4.2Vの定電圧で電流密度が0.3mA/cm2 に達するまで充電した。放電時には、3mA/cm2 の定電流密度で電圧が2.5Vに達するまで放電した。
【0193】
初回充放電特性を調べる場合には、最初に、電池状態を安定化させるために1サイクル充放電した。続いて、再び充電して充電容量を測定したのち、放電して放電容量を測定した。最後に、初回効率(%)=(放電容量/充電容量)×100を算出した。雰囲気温度および充放電条件は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0194】
【表1】
【0195】
【表2】
【0196】
コア部の表面に被覆部を形成すると、その被覆部を形成しない場合と比較して、高い初期効率を維持したまま、サイクル維持率が著しく増加した。また、被覆部を形成した場合には、コア部の平均円形度に応じてサイクル維持率および初回効率が変化した。この場合には、コア部の平均円形度が0.8以下であると、サイクル維持率がより増加した。しかも、平均円形度が0.6以下、さらに0.4以下であると、サイクル維持率がより増加した。
【0197】
(実験例2−1〜2−11)
表3に示したように、コア部の原子比xを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料(Si)の溶融凝固時に酸素導入量を調整して原子比xを制御した。
【0198】
【表3】
【0199】
原子比xが0≦x<0.5であると、高いサイクル維持率を維持しつつ、初期効率が著しく増加した。
【0200】
(実験例3−1〜3−8)
表4に示したように、被覆部の原子比yを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料(Si)の堆積時にO2 またはH2 の導入量を調整して原子比yを制御した。
【0201】
【表4】
【0202】
原子比yが0.5≦y<1.8であると、サイクル維持率および初回効率が著しく増加した。
【0203】
(実験例4−1〜4−22)
表5に示したように、被覆部の結晶性および層構造を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、Arガスの雰囲気中でSiOy を加熱しながら堆積させて、低結晶性および単層の被覆部を形成した。この加熱時の温度および時間を調整して、表5に示したように被覆部の物性(平均面積占有率、平均粒径、大小関係および層構造)を制御した。表5に示した「大小関係」とは、被覆部を厚さ方向において二等分したときの内側部分および外側部分における平均面積占有率および平均粒径の大小関係であり、「層構造」とは、多層あるいは単層の別である。
【0204】
【表5】
【0205】
平均面積占有率が35%以下、平均粒径が55nm以下であると、サイクル維持率および初期効率がより増加した。また、平均面積占有率および平均粒径が内側≧外側であると、サイクル維持率および初期効率がより増加した。
【0206】
(実験例5−1〜5−9,6−1〜6−8)
表6および表7に示したように、被覆部の平均被覆率および平均厚さを変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成する際に、投入電力および堆積時間を変化させて平均被覆率を制御すると共に、堆積速度および堆積時間を変化させて平均厚さを調整した。
【0207】
【表6】
【0208】
【表7】
【0209】
平均被覆率が30%〜100%であると、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。また、平均厚さが1nm〜3000nmであると、初回効率がより増加した。
【0210】
(実験例7−1〜7−8,8−1〜8−9)
表8および表9に示したように、被覆部にFe等を含有させたことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、原材料としてSiOx 粉およびFe粉等を用いて共蒸着した。
【0211】
【表8】
【0212】
【表9】
【0213】
被覆部にFeを含有させると共に、そのFeの含有量が0.01重量%〜7.5重量%であると、サイクル維持率および初回効率がより増加した。また、被覆部にFeと共にAl等を含有させても、同様の結果が得られた。
【0214】
(実験例9−1〜9−22)
表10に示したように、被覆部の表面に導電部を形成したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、被覆部を形成した場合と同様の手順により導電部を形成した。この導電部の形成材料、平均厚さおよび平均被覆率は、表10に示した通りである。
【0215】
【表10】
【0216】
被覆部の表面に導電部を形成すると、サイクル維持率および初回効率がより増加した。
【0217】
(実験例10−1〜10−18)
表11に示したように、負極結着剤の種類を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極結着剤として、ポリイミド(PI)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアミド(PA)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAAL)または炭化ポリイミド(炭化PI)を用いた。なお、PAAまたはPAALを用いる場合には、それらが溶解された17体積%の水溶液を用いて負極合剤スラリーを準備すると共に、熱プレスしたのちに焼成しないで負極活物質層54Bを形成した。
【0218】
【表11】
【0219】
負極結着剤の種類を変更しても、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0220】
(実験例11−1〜11−12)
表12に示したように、正極活物質の種類を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。
【0221】
【表12】
【0222】
正極活物質の種類を変更しても、高いサイクル維持率および初回効率が得られた。
【0223】
(実験例12−1〜12−7)
表13に示したように、負極集電体54AにCおよびSを含有させると共に、その負極集電体54Aの表面粗さ(十点平均粗さRz)を変更したことを除き、実験例1−10と同様の手順により二次電池を作製して諸特性を調べた。この場合には、負極集電体54AとしてCおよびSが含有された圧延銅箔を用いると共に、圧延銅箔に代えて電解銅箔を用いた。
【0224】
【表13】
【0225】
負極集電体54AがCおよびSを含有していると、サイクル維持率および初回効率がより増加すると共に、CおよびSの含有量が100ppm以下であると、サイクル維持率および初回効率がさらに増加した。また、粗面化された負極集電体54Aを用いると、十点平均粗さRzが増加するにしたがってサイクル維持率が増加した。
【0226】
表1〜表13の結果から、負極活物質がコア部(原子比x:0≦x<0.5)の表面に非結晶性または低結晶性の被覆部(原子比y:0.5≦y≦1.8)を有し、そのコア部の平均円形度が0.8以下であると、高いサイクル特性および初回充放電特性が得られることが確認された。
【0227】
以上、実施形態および実施例を挙げて本技術を説明したが、本技術はそれらで説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出により表される場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、負極の容量がリチウムイオンの吸蔵放出による容量とLi金属の析出溶解による容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される場合についても適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムイオンを吸蔵放出可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0228】
また、電池構造が角型、円筒型またはラミネートフィルム型であると共に電池素子が巻回構造を有する場合について説明したが、必ずしもこれに限られない。本技術は、電池構造が角型またはボタン型などである場合、または、電池素子が積層構造などを有する場合についても適用可能である。
【符号の説明】
【0229】
1,42A,54A…負極集電体、2,42B,54B…負極活物質層、22,42,54…負極、20…電池素子、21,41,53…正極、21A,22A,41A,53A…正極集電体、21B,22B,41B,53B…正極活物質層、23,43,55…セパレータ、40,50…巻回電極体、56…電解質層、60…外装部材、200…負極活物質、201…コア部、202…被覆部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含み、
前記コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8であり、
前記コア部の平均円形度は0.8以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記平均円形度は0.6以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記平均円形度は0.4以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
低結晶性の前記被覆部は非結晶領域および結晶領域(結晶粒)を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記結晶粒は前記非結晶領域の中に点在する、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
Siの(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒の平均面積占有率は35%以下であると共に、前記結晶粒の平均粒径は55nm以下である、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記被覆部を厚さ方向において二等分したとき、Siの(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒の内側部分における平均面積占有率および平均粒径は、外側部分における平均面積占有率および平均粒径と同じであるか、それらよりも大きい、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記コア部に対する前記被覆部の平均被覆率は30%以上である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記被覆部の平均厚さは1nm〜3000nmである、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記被覆部は多層である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記コア部はFeを構成元素として含み、そのSiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))は0.01重量%〜7.5重量%である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質は前記被覆部の表面のうちの少なくとも一部に設けられると共に前記コア部および前記被覆部よりも電気抵抗が低い導電部を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記負極は集電体の上に活物質層を有し、その活物質層は前記活物質を含み、前記負極集電体はCおよびSを構成元素として含むと共にそれらの含有量はいずれも100ppm以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
活物質を含み、その活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含み、
前記コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8であり、
前記コア部の平均円形度は0.8以下である、
リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項15】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池の使用状態を制御する制御部と、その制御部の指示に応じて前記リチウムイオン二次電池の使用状態を切り換えるスイッチ部とを備えた、電池パック。
【請求項16】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給された電力を駆動力に変換する変換部と、その駆動力に応じて駆動する駆動部と、前記リチウムイオン二次電池の使用状態を制御する制御部とを備えた、電動車両。
【請求項17】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、1または2以上の電気機器と、前記リチウムイオン二次電池から前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部とを備えた、電力貯蔵システム。
【請求項18】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される可動部とを備えた、電動工具。
【請求項19】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池を備え、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される、電子機器。
【請求項1】
正極と、活物質を含む負極と、電解液とを備え、
前記活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含み、
前記コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8であり、
前記コア部の平均円形度は0.8以下である、
リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記平均円形度は0.6以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記平均円形度は0.4以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
低結晶性の前記被覆部は非結晶領域および結晶領域(結晶粒)を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記結晶粒は前記非結晶領域の中に点在する、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
Siの(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒の平均面積占有率は35%以下であると共に、前記結晶粒の平均粒径は55nm以下である、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記被覆部を厚さ方向において二等分したとき、Siの(111)面および(220)面に起因する前記結晶粒の内側部分における平均面積占有率および平均粒径は、外側部分における平均面積占有率および平均粒径と同じであるか、それらよりも大きい、請求項4記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記コア部に対する前記被覆部の平均被覆率は30%以上である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記被覆部の平均厚さは1nm〜3000nmである、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記被覆部は多層である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
前記コア部はFeを構成元素として含み、そのSiおよびOに対するFeの割合(Fe/(Si+O))は0.01重量%〜7.5重量%である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項12】
前記負極活物質は前記被覆部の表面のうちの少なくとも一部に設けられると共に前記コア部および前記被覆部よりも電気抵抗が低い導電部を含む、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項13】
前記負極は集電体の上に活物質層を有し、その活物質層は前記活物質を含み、前記負極集電体はCおよびSを構成元素として含むと共にそれらの含有量はいずれも100ppm以下である、請求項1記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項14】
活物質を含み、その活物質は、リチウムイオンを吸蔵放出可能であるコア部と、そのコア部の表面のうちの少なくとも一部に設けられた非結晶性または低結晶性の被覆部とを含み、
前記コア部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比x(O/Si)は0≦x<0.5であると共に、前記被覆部はSiおよびOを構成元素として含み、そのSiに対するOの原子比y(O/Si)は0.5≦y≦1.8であり、
前記コア部の平均円形度は0.8以下である、
リチウムイオン二次電池用負極。
【請求項15】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池の使用状態を制御する制御部と、その制御部の指示に応じて前記リチウムイオン二次電池の使用状態を切り換えるスイッチ部とを備えた、電池パック。
【請求項16】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給された電力を駆動力に変換する変換部と、その駆動力に応じて駆動する駆動部と、前記リチウムイオン二次電池の使用状態を制御する制御部とを備えた、電動車両。
【請求項17】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、1または2以上の電気機器と、前記リチウムイオン二次電池から前記電気機器に対する電力供給を制御する制御部とを備えた、電力貯蔵システム。
【請求項18】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池と、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される可動部とを備えた、電動工具。
【請求項19】
請求項1ないし請求項13に記載したリチウムイオン二次電池を備え、そのリチウムイオン二次電池から電力を供給される、電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
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【図17】
【公開番号】特開2013−8585(P2013−8585A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141003(P2011−141003)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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