説明

リチウムイオン二次電池の電極製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法

【課題】水性スラリーを集電体に塗布するに際し、筋引きの発生を抑制して、信頼性の高い電極及びリチウムイオン二次電池を作製する。
【解決手段】エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極用あるいは負極用の水性スラリーを作製し、この水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして正極あるいは負極を作製し、リチウムイオン二次電池の電極とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電極製造方法及びリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエレクトロニクスの分野の急速な進展により、電子機器の高性能化、小型化、ポータブル化が進み、これら電子機器に使用される再充電可能な高エネルギー密度二次電池の要求が強まっている。
従来これらの電子機器に搭載される二次電池としては、鉛蓄電池、ニカド電池、ニッケル水素電池が挙げられるが、近年、リチウムイオンを吸蔵・放出できる炭素材料、リチウム合金などを活物質として用いた負極と、リチウム含有複合酸化物などを活物質として用いた正極と、を組み合わせたリチウムイオン二次電池が研究、開発され、実用化されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、電池電圧が高く、電子機器に従来搭載されていた二次電池と比較して重量及び体積当たりのエネルギー密度が大きく、今後、最も期待される二次電池である。
リチウムイオン二次電池は、電極のうち、正極には正極活物質と導電材と結着剤(バインダー)を主成分とするスラリーを、集電体としての金属箔の少なくとも一面の、全面または一部分に塗布し、乾燥させ、プレスした構造を有するものが用いられる。
また、負極には、負極活物質と結着剤(バインダー)を主成分とするスラリーを集電体としての金属箔の少なくとも一面の、全面または一部分に塗布し、乾燥させ、プレスした構造を有するものが用いられる。
上記構成において、スラリーは固形分と溶媒とで構成されており、溶媒としては、正極あるいは負極の活物質との相性によって、有機溶媒や、水系溶媒が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−45545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、スラリーに用いる溶媒として水系溶媒を用いた場合、乾燥しやすく、スラリーを作製するミキサーやスラリーを集電体である金属箔に塗布する塗布装置などの至る所に乾燥、付着し、その一部が剥がれ落ちてスラリー中で粒塊状となって存在することとなる。
このような粒塊は、スラリーを塗布装置によって集電体である金属箔に塗布する際には、しばしば筋引きを生じる原因となる。
筋引きが生じた箇所は分極が大きくなるが、その数が多くなり過ぎると、負極ではリチウム金属の析出や、電解液の分解の原因となり、正極では、電解液の分解の原因となる。
負極に析出した金属リチウムはデンドライト状に成長して内部短絡の原因となる場合があり、また、電解液の分解は、電池内圧を高めて電解液の漏れの原因となる場合があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、水性スラリーを集電体に塗布するに際して、筋引きの発生を抑制し、信頼性の高いリチウムイオン二次電池の電極製造方法あるいはリチウムイオン二次電池の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製するスラリー作製工程と、前記水性スラリーを集電体に塗布して前記正極あるいは前記負極を作製する電極作製工程と、を備えたことを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、スラリー作製工程においては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製する。
電極作製工程は、作製された水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして正極あるいは負極を作製する。
このとき、水性スラリーの作製に用いられるエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、あるいはエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルにより、空気中の水分を適度に取り込むとともに、水分の蒸発が抑制されるので、電極作製工程において水性スラリーを集電体に塗布するに際して、筋引きの発生を抑制することが可能となる。
【0009】
この場合において、前記スラリー作製工程は、前記水溶性増粘剤を、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つにより湿潤させた後、水に分散させて所定濃度の増粘剤水溶液を作製する増粘剤水溶液作製工程と、前記増粘剤水溶液に前記活物質及び前記結着剤を所定割合で混合して混練し、前記水性スラリーを作製する混練工程と、を備えるようにすることが好ましい。
上記構成によれば、増粘剤水溶液中に水性増粘剤が確実により分散されて、より均質な水性スラリーを作製することができ、ひいては、水性スラリーを集電体に塗布するに際して、筋引きの発生を確実に抑制できる。
【0010】
また、本発明は、正極、負極及び電解液を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製するスラリー作製工程と、前記水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして前記正極あるいは前記負極を作製する電極作製工程と、前記正極と負極とをセパレータを介して捲回あるいは積層し電極群を作製する電極群作製工程と、前記電極群を容器に収容し、非水電解液を注液して封止する注液封止工程と、を備えていることを特徴としている。
【0011】
上記構成によれば、スラリー作製工程において、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製する。
これにより、電極作製工程においては、水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして正極あるいは負極を作製する。
続いて、電極群作製工程において、正極と負極とをセパレータを介して捲回あるいは積層し電極群を作製し、注液封止工程において電極群を容器に収容し、非水電解液を注液して封止して、リチウムイオン二次電池とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、水性スラリーを集電体に塗布するに際して、筋引きの発生を抑制し、信頼性の高いリチウムイオン二次電池の電極あるいはリチウムイオン二次電池を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[1]本発明の原理
本願発明者らは、正極活物質と導電材と結着剤を主成分とする固形分を有するスラリーを金属箔の少なくとも、一面の全面または一部に塗布し、乾燥させ、プレスした構造を有する正極と、負極活物質と結着剤(バインダー)を主成分とする固形分を有するスラリーを金属箔の少なくとも一面の全面または一部に塗布し、乾燥させ、プレスした構造を有する負極と、セパレータ、有機電解液と電槽からなるリチウムイオン電池の正極及び負極の少なくとも一方の製法において、正極及び負極の少なくとも一方のスラリーが水系スラリーである場合、当該水系スラリーにエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(沸点171℃)、エチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(124℃)のうち、少なくともいずれか一つを添加することで、電極塗布時の筋引きを大幅に減少させることができることを見いだした。
【0014】
水系スラリーに添加するエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルは、何れも水との親和性(親水性)が高く、スラリー中で相溶状態とすることができ、かつ、空気中の水分を取り込む性質があるため、スラリー表面の乾燥を防ぐことができる。
もちろん、アルコール構造を有する液体であれば、スラリーの乾燥防止の機能を得ることができるが、上述したエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点124℃)より低沸点を有する材料では、揮発性が高くなり、スラリー作製開始から塗布完了までの間にスラリーの流動特性の変化が大きくなり、塗布工程そのものを不安定化させる。
【0015】
また、上述したエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル(沸点171℃)より高沸点を有する材料では、乾燥工程で残留する割合が高くなり、電池の寿命の低下の原因となる。
また、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルの添加を行うタイミングとしては、少なくともスラリーを混練(混合)している最中であれば、効果の大きさに差はあるものの、効果を得ることが可能であった。
【0016】
しかしながら、発明者らは、スラリー作製工程の早い段階で添加するほど、その効果がより大きいことを見いだした。
特にスラリー作製にカルボキシメチルセルロースリチウム塩(以下、CMCLi塩という。)を用いる場合、CMCLi塩をエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルあるいはエチレングリコールモノメチルエーテルのいずれか少なくとも一つにより湿潤させた後、湿潤状態のCMCLi塩を水で溶解すると、CMCLi塩の溶解を助けて、CMCLi塩溶液中やスラリー中のコロイド状CMCLi塩未溶解成分を少なくする効果があり、さらに筋引き防止の効果を高めることができることが分かった。
【0017】
本発明のリチウムイオン電池の正極活物質には、LiMn24等のスピネル構造化合物や、一般的にLiMO2で表されるα−NaFeO2構造を有するLi含有遷移金属複合酸化物(ここで、Mは、Co、Ni、Al、Mn、Feなどから選ばれる単独もしくは複数種類の金属元素)や、Li含有燐酸系化合物などが利用できる。
負極の作製に使用する結着剤としては、天然ゴム(NR)、スチレン、ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体ゴム(MBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ABR)、スチレンブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、ブチルゴム(IIR)、チオコール、ウレタンゴム、ケイ素ゴム、フッ素ゴムおよびアクリルエステル樹脂エマルジョンなどの水分散エマルジョン樹脂が挙げられる。
【0018】
これらの中から選ばれる結着剤を使用する場合、増粘剤として水溶性のメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースリチウム塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどのいずれか、又は、複数を組み合わせたものを用いることが可能である。また、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などを用いることが可能である。
【0019】
一方、負極活物質しては、炭素材料としては、天然に算出される黒鉛若しくは有機原料を恒温で焼成し、グラファイト構造が発達した平坦な電位特性を有する黒鉛系炭素材料あるいは有機原料を1000℃以下の比較的低温で焼成したコークス系炭素材料などが用いられる。また、Sn系酸化物、Si系酸化物あるいはTi系のLi含有酸化物を用いることができる。
【0020】
正極の作製に使用する結着剤としては、例えば、フッ素系結着剤や、アクリルゴム、変性アクリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリル系重合体、ビニル系重合体の単独あるいはこれらの二種以上の混合物、または共重合体として用いることができる。
また水溶性増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキサイドなどである。
【0021】
また、電解液溶媒としては、通常、電解液系リチウムイオン二次電池で使用されている有機溶媒、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、γブチロラクトン(GBL)、スルホラン(SL)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)、2−メチル−テトラヒドロフラン(2MeTHF)あるいは各種グライム類(対称グリコールジエーテル類)等を単独あるいは混合系で用いることができる。
【0022】
この場合において、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド[LiBETI]を2.0mol/リットルまで溶解できる溶媒構成にする必要がある。また、ジメチルカーボネート(DMC)、ジメトキシエタン(DME)、ジエトキシエタン(DEE)などは、引火点が室温以下であることから、避けることが望ましい。
また、リチウム塩は、一般的なリチウムイオン二次電池に使用可能で、かつ、有機溶媒に溶解して酸性電解液を構成することができるものであれば、特に限定されるものでは無い。
例えば、六フッ化燐酸リチウム(LiPF6)、過塩素酸リチウム(LiClO4)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)等の無機リチウム塩、トリフルオロメチルスルホン酸リチウム(LiOSO2CF3)等の有機リチウム塩を適宜選択して使用できる。
また、セパレータとしては、ポリオレフィン系材料の不織布や多孔シートが好適である。
【0023】
以上の説明のように、本実施形態によれば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極用あるいは負極用の水性スラリーを作製し、この水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして正極あるいは負極を作製し、リチウムイオン二次電池の電極とするので、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルは、スラリー中で相溶状態とすることができ、かつ、空気中の水分を取り込む性質があるため、スラリー表面の乾燥を防ぐことができるので、水性スラリーを集電体に塗布するに際して、筋引きの発生を抑制することができ、信頼性が高く、寿命の長い電極、ひいては、リチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の実施例を説明する。なお、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
[1]正極作製:実施例
まず、CMCLi塩をエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルに湿潤させ(混合比 CMCLi塩:エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル=1:10[質量比])、これをCMCLi塩濃度が1質量%になるように水に分散させてCMCLi塩水溶液を作製した(スラリー作製工程:増粘剤水溶液作製工程)。
この場合において、混合比を上述の値としたのは、CMCLi塩の質量比1に対して、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルの質量比が10以下の場合には、均一に分散せず、だまができてしまうからであり、CMCLi塩の質量比1に対して、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルの質量比が10以上の場合には、CMCLi塩水溶液の特性(粘土等)が不安定となってしまうからである。
【0025】
次いで、上述したCMCLi塩水溶液と、正極活物質であるLiFePO4粉末と、アクリル結着剤ラテックスと、アセチレンブラックとを、固形分重量比率が、1:90:2:7となるように混合して、これを粘度調整用の調整水とともに分散機にて撹拌混合することにより25℃における粘度が5000cPである正極スラリーPS1を作製した(スラリー作製工程:混練工程)。
また、正極スラリーPS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノプロピルエーテルに代えた以外は同様の手順で正極スラリーPS2を作製した。
【0026】
また、正極スラリーPS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノエチルエーテルに代えた以外は同様の手順で正極スラリーPS3を作製した。
さらに正極スラリーPS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノメチルエーテルに代えた以外は同様の手順で正極スラリーPS4を作製した。
次いで、正極スラリーPS1〜PS4をダイコータを用いてアルミ箔で構成された集電体に塗布幅400mm、目付塗布量200g/m2で1000m塗布し、120℃のオーブンで2分間、175℃で1分間乾燥して分散剤を除去することにより正極活物質合材塗膜を形成した。これを所定の密度までプレスし、正極POT1〜POT4を作製した(電極作製工程)。
【0027】
[2]負極作製:実施例
まず、CMCLi塩をエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルに湿潤させ(混合質量比 CMCLi塩:エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル=1:10)、これをCMCLi塩濃度1質量%になるように水に分散させてCMCLi塩水溶液を作製した(スラリー作製工程:増粘剤水溶液作製工程)。
次いで、上述したCMCLi塩水溶液と、負極活物質である人造黒鉛粉末と、スチレンブタジエンゴム結着剤ラテックスと、を固形分質量比が1:97.5:1.5となるように混合して、これを粘度調整用の調整水とともに分散機にて撹拌混合することにより25℃における粘度が5000cPである負極スラリーMS1を作製したスラリー作製工程:混練工程)。
【0028】
また、負極スラリーMS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノプロピルエーテルに代えた以外は同様の手順で負極スラリーMS2を作製した。
また、負極スラリーMS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノエチルエーテルに代えた以外は同様の手順で負極スラリーMS3を作製した。
さらに負極スラリーMS1におけるエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルをエチレングリコールモノメチルエーテルに代えた以外は同様の手順で負極スラリーMS4を作製した。
【0029】
次いで、負極スラリーMS1〜MS4をダイコータを用いてアルミ箔で構成された集電体に塗布幅400mm、目付塗布量90g/m2で1000m塗布し、120℃のオーブンで2分間、175℃で1分間乾燥して分散剤を除去することにより負極活物質合材塗膜を形成した。これを所定の密度までプレスし、負極MOT1〜MOT4を作製した(極作製工程)。。
【0030】
[3]正極作製:比較例
まず、CMCLi塩濃度1質量%になるように水に分散させてCMCLi塩水溶液を作製した。
次いで、上述したCMCLi塩水溶液を用いて、正極スラリーPS1と同様の手順で比較例としての正極スラリーPS0を作製し、正極スラリーPS0を用いて、正極POT1と同様の手順で比較例の正極POT0を作製した。
【0031】
[4]負極作製:比較例
まず、CMCLi塩濃度1質量%になるように水に分散させてCMCLi塩のみを用いたCMCLi塩水溶液を作製した。
次いで、上述したCMCLi塩水溶液を用いて、負極スラリーMS1と同様の手順で比較例としての負極スラリーMS0を作製し、負極スラリーMS0を用いて、負極MOT1と同様の手順で比較例の負極MOT0を作製した。
【0032】
[5]評価
以上の通り、作製した実施例の正極POT1〜POT4、実施例の負極MOT1〜MOT4、比較例の正極POT0、比較例の負極MOT0を作製し、その塗布面である集電体金属が露出している筋引きの数を計測した。計測結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表1に示すように、比較例の正極POT0および負極MOT0においては、筋引きが30箇所以上検出されたのに対し、実施例の正極POT1〜POT4あるいは負極MOT1〜MOT4においては、筋引きが検出されたのは4箇所以下であり、高品質の正極及び負極を得ることができ、ひいては、信頼性の高いリチウムイオン二次電池を製造できる。この工業的価値は極めて高いものであった。
なお、上記正極スラリーPS1〜PS4,負極用スラリーMS1〜MS4は、それぞれ本発明に係る水性スラリーの添加剤を1種類ずつしか含んでいないが、複数種類添加して作製したスラリーを用いて作製した電極においては、いずれも筋引きの数は10箇所以下であり、効果が確認できた。
【0035】
[6]電池作製
次に得られた正極と負極とをセパレータを介して捲回あるいは積層し電極群を作製し(電極群作製工程)、作製した電極群を容器(電槽)に収容し、非水電解液を注液して封止してリチウムイオン二次電池として作製した(注液封止工程)。
得られたリチウムイオン二次電池によれば、従来のリチウムイオン二次電池より優れた充放電サイクル特性が得られた。
従って、これらのリチウムイオン二次電池によれば、電極の筋引きの数が低減されているため、リチウム金属の析出や、電解液の分解を抑制して、長寿命で信頼性の高い二次電池として用いることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして前記正極あるいは前記負極を作製する電極作製工程と、
を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池の電極製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のリチウムイオン二次電池の電極製造方法において、
前記スラリー作製工程は、前記水溶性増粘剤を、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つにより湿潤させた後、前記水に分散させて所定濃度の増粘剤水溶液を作製する増粘剤水溶液作製工程と、
前記増粘剤水溶液に前記活物質及び前記結着剤を所定割合で混合して混練し、前記水性スラリーを作製する混練工程と、
を備えたことを特徴とするリチウムイオン二次電池の電極製造方法。
【請求項3】
正極、負極及び電解液を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法において、
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルのうちいずれか少なくとも一つと、活物質と、水溶性増粘剤と、結着剤と、水と、を混練し、正極あるいは負極の作製に用いられる水性スラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記水性スラリーを集電体に塗布して乾燥させ、プレスして前記正極あるいは前記負極を作製する電極作製工程と、
前記正極と負極とをセパレータを介して捲回あるいは積層し電極群を作製する電極群作製工程と、
前記電極群を容器に収容し、非水電解液を注液して封止する注液封止工程と、
を備えていることを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。

【公開番号】特開2012−33364(P2012−33364A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171429(P2010−171429)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】