説明

リチウムイオン二次電池及びその製造方法

【課題】初回充放電での高い充放電効率と良好なサイクル特性を持つリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、前記負極は、負極活物質としての単体ケイ素、及び負極バインダーを含有し、前記正極にはリチウムが担持されており、金属リチウムに対して電位0.02Vに達したときの前記負極の初回充電容量をCa(mAh)とし、金属リチウムに対して電位4.3Vに達したときのリチウム担持前の正極の初回充電容量をCc(mAh)とし、前記正極に担持されたリチウムの容量をCLi(mAh)としたとき、下記式(1)及び(2):
1.1≦Ca/Cc (1)
1.0<Ca/(Cc+CLi) (2)
を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、リチウムイオン二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やノートパソコン等のモバイル機器の普及により、その電力源となる二次電池の役割が重要視されている。これらの二次電池には、小型、軽量でかつ高容量であり、充放電を繰り返した場合でも充放電容量の劣化が起こりにくいことが求められている。このような特性を満たす二次電池として、現在ではリチウムイオン二次電池が多く使用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の負極には、主として黒鉛やハードカーボン等の炭素が用いられている。炭素は、充放電サイクルを良好に繰り返すことができるものの、既に理論容量付近の容量が実現されていることから、今後大幅な容量向上を期待することはできない。その一方で、リチウムイオン二次電池の容量向上の要求は強いことから、炭素よりも高容量、すなわち高エネルギー密度を有する負極材料の検討が行われている。リチウムイオン二次電池の負極には、高エネルギー密度でかつ軽量という観点から金属リチウムの検討もされているが、充放電サイクルの進行にともない、充電時に金属リチウム表面にデンドライト(樹枝状晶)が析出し、この結晶がセパレータを貫通し、内部短絡を起こし、寿命が短いという問題点があった。
【0004】
エネルギー密度を高める材料として、組成式がLiXA(Aはアルミニウムなどの元素からなる)で表されるリチウムと合金を形成するLi吸蔵物質を負極活物質として用いることが検討されている。この負極は、単位重量あたりのリチウムイオンの吸蔵放出量が多く、高容量である。また、ケイ素を負極活物質として用いることが、非特許文献1に記載されている。このような負極材料を用いることによって、高容量の負極が得られるとされている。
【0005】
しかしながら、これらの負極材料の多くは、充放電時の体積変化や含有する元素の影響によって初回の充放電時に大きな不可逆容量を示すので、結果として、実使用時のリチウムイオン二次電池のエネルギー密度が小さくなってしまうことが問題となっている。
【0006】
リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を高める方法として、ケイ素を負極活物質として用いることに加えて、この負極材料に予めリチウムを添加させておく方法がある。このように、負極の不可逆容量に相当する量だけ予めリチウムを補填しておくことで、初回充放電時の不可逆容量を減らし、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。
【0007】
特許文献1には、正極と対向していない負極部にリチウムを貼り付ける方法により予めリチウムを存在させた非水電解液二次電池が記載されている。特許文献1では、負極部に予め存在させるリチウムの量を0.10mg/cm2以上3.00mg/cm2以下としている。
【0008】
特許文献2には、負極がSiOx(0.3≦x≦1.6)にリチウムをプリドーピングした材料を含む非水系二次電池が記載されている。特許文献2では、プリドーピングするリチウムの量をリチウムとSiの原子比により規定している。
【0009】
一方、特許文献3には、正極に予め貼付した金属リチウム箔を電気化学的に負極の炭素材に拡散させ、放電可能なリチウムを負極の炭素材中に保持させた非水電解液二次電池が記載されている。特許文献3では、貼付する金属リチウム箔の量を負極の飽和可逆容量に対してその4〜40%としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平7−192766号公報
【特許文献2】特開2009−76372号公報
【特許文献3】特開平5−144471号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】リー(Li)他4名,「ア ハイ キャパシティ ナノ−シリコン コンポジット アノード マテリアル フォー リチウム リチャージャブル バッテリーズ(A High Capacity Nano−Si Composite Anode Material for Lithium Rechargeable Batteries), エレクトロケミカル アンド ソリッドステイト レターズ(Electrochemical and Solid−State Letters),第2巻,第11号,p547−549(1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1に記載されている非水電解液二次電池では、正極の容量と負極部へ貼り付けたリチウムの容量を合計すると負極の容量を上回る場合があり、条件として十分ではなかった。この場合、充電時にリチウムが負極表面に析出することにより、容量の急速な低下が起こるという問題点があった。また、負極活物質としてSiを含む化合物を使用した場合には、そのSiを含む化合物がLiと反応するにつれて大きく膨張するために、体積が変化しない集電体との間で内部応力が発生し、電極が大きく変形するといった問題点もあった。
【0013】
特許文献2に記載されている非水系二次電池においても、正極から放出されるリチウムの総量と負極に吸蔵されるリチウムの量の比較といった観点からみた場合、条件として十分ではなかった。
【0014】
特許文献3に記載されている非水電解液二次電池においては、貼付する金属リチウム箔の量は規定されているものの、貼付した金属リチウム箔の量以外に正極材料から放出されるリチウムの量が考慮されておらず、条件として十分ではなかった。
【0015】
本実施形態の目的は、初回充放電での高い充放電効率と良好なサイクル特性を持つリチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本実施形態は、正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質としての単体ケイ素、及び負極バインダーを含有し、
前記正極にはリチウムが担持されており、
金属リチウムに対して電位0.02Vに達したときの前記負極の初回充電容量をCa(mAh)とし、金属リチウムに対して電位4.3Vに達したときのリチウム担持前の正極の初回充電容量をCc(mAh)とし、前記正極に担持されたリチウムの容量をCLi(mAh)としたとき、下記式(1)及び(2):
1.1≦Ca/Cc (1)
1.0<Ca/(Cc+CLi) (2)
を満たすことを特徴とするリチウムイオン二次電池である。
【0017】
本実施形態は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記式(1)及び(2)を満たすように、前記リチウム担持前の正極及び前記負極の電極重量、並びに前記正極に担持させるリチウムの重量を制御することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本実施形態によれば、初回充放電での高い充放電効率と良好なサイクル特性を持つリチウムイオン二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るリチウムイオン二次電池の構造の一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0021】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば図1に示すように、銅箔などの負極集電体2及びその面上に形成された負極活物質層1からなる負極と、アルミニウムなどの正極集電体4及びその面上に形成された正極活物質層3からなる正極とを有する。この負極活物質層1及び正極活物質層3は、セパレータ5を介して対向配置されている。セパレータ5と負極活物質層1及び正極活物質層3とが対向配置している部分には、電解液が含浸されている。負極集電体2及び正極集電体4には、電極の取り出しのため、それぞれ負極端子6及び正極端子7が接続されている。正極集電体4同士、負極集電体2同士は、それぞれ端部で溶接などにより接続されている。これらで形成された素子は、外装体8で封止されている。
【0022】
負極活物質層1は、負極活物質としての単体ケイ素を含有する。負極活物質としては、単体ケイ素のみでもよいが、単体ケイ素とケイ素化合物とを含有することが好ましい。ケイ素化合物としては、酸化ケイ素、ニッケルシリサイドやコバルトシリサイドなどの遷移金属−ケイ素化合物等が挙げられる。ケイ素化合物には、負極活物質自体の繰り返し充放電に対する膨脹収縮を緩和する役目があり、さらにケイ素化合物の種類によっては負極活物質である単体ケイ素間の導通を確保する役目もある。ここで、負極活物質層1中の単体ケイ素の重量割合が多いほどリチウムイオン二次電池としての容量は大きくなるが、繰り返し充放電に対する体積変化による劣化、ひいては容量減少が大きくなる。したがって、負極活物質中の単体ケイ素の重量割合は、5%以上50%未満であることが好ましく、20%以上45%未満であることがより好ましい。
【0023】
また、負極活物質層1には、単体ケイ素又は単体ケイ素とケイ素化合物との混合物に、炭素を混合又は複合化させた材料を含有することがより好ましい。炭素もまた、ケイ素化合物と同様に、負極活物質自体の繰り返し充放電に対する膨脹収縮を緩和し、負極活物質である単体ケイ素間の導通を確保する役目があり、炭素とケイ素化合物の両者が共存することにより、より良好なサイクル特性が得られる。
【0024】
なお、負極活物質層1の中に小粒径粒子が含まれていると、サイクル特性が低下する傾向にある。このため、負極活物質層1に含まれる粒子の平均粒径D50を0.1μm以上20μm以下に調整することが好ましく、0.5μm以上10μm以下に調整することがより好ましい。
【0025】
単体ケイ素とケイ素化合物とを含有する負極活物質の作製方法としては、ケイ素化合物として酸化ケイ素を用いる場合には、単体ケイ素とケイ素酸化物を混合し、高温減圧下にて焼結させる方法が挙げられる。また、ケイ素化合物として遷移金属−ケイ素化合物を用いる場合には、単体ケイ素と遷移金属を混合、溶融させる方法や、単体ケイ素の表面に遷移金属を蒸着等により被覆する方法が挙げられる。
【0026】
上記で述べた作製法に加えて、これまで一般的になされている負極活物質表面への炭素複合を組み合わせることもできる。例えば、高温非酸素雰囲気下で有機化合物の気体雰囲気中に単体ケイ素とケイ素化合物の混合焼結物を導入する方法や、高温非酸素雰囲気下でケイ素とケイ素酸化物の混合焼結物と炭素の前駆体樹脂を混合する方法により、ケイ素とケイ素酸化物の核の周囲に炭素の被覆層を形成することができる。これにより充放電に対する体積膨張の抑制及びサイクル特性のさらなる改善効果が得られる。ただし、炭素被覆により電極密度が低下するので、ケイ素活物質の特長である電池容量向上のメリットが小さくなる。
【0027】
負極活物質層1には、導電性を付与するため、必要に応じてカーボンブラックやアセチレンブラック等の導電剤を含んでいてもよい。導電剤の含有量は、負極活物質100重量部に対して5重量部以下とすることが好ましい。
【0028】
作製した負極の電極密度は、0.8g/cm3以上2.0g/cm3以下の範囲であることが好ましい。電極密度が低すぎる場合には充放電容量が低下する傾向があり、電極密度が高すぎる場合には負極を含む電極に電解液を含浸させることが困難となり、やはり充放電容量が低下する傾向がある。
【0029】
負極活物質層1は、例えば上記の方法で生成した負極活物質粒子と、負極バインダーとを溶剤に分散・混練し、得られたスラリーを負極集電体の上に塗布し、高温雰囲気で乾燥することにより形成することができる。ここで、負極バインダーとしては、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂に代表される、加熱による脱水縮合反応を生じる熱硬化性のバインダーを用いることが好ましい。負極バインダーの含有量は、負極活物質100重量部に対して5〜20重量部とすることが好ましい。また、溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが好適である。負極集電体としては、電気化学的な安定性から、銅、ニッケル、銀、チタン、及びそれらの合金が好ましい。負極集電体の形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。さらに、必要に応じて、負極活物質層1を常温又は高温下でプレス処理することで、電極密度を高めることもできる。
【0030】
正極には、リチウムが担持されている。正極にリチウムを担持させることで、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させることができる。リチウムを正極に担持させる方法としては、金属リチウム箔を正極の表面に貼り付ける方法、電解液の存在下で正極とリチウムを導通させる方法、正極活物質層3にリチウムを蒸着させる方法が挙げられる。
【0031】
正極活物質層3に含まれる正極活物質としては、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム及びこれらの混合物、並びに前記化合物のマンガン、コバルト若しくはニッケルの一部又は全部をアルミニウム、マグネシウム、チタン、亜鉛などで置換したもの、さらにはリン酸鉄リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を用いることができるが、ニッケルを含有するリチウム遷移金属酸化物が好ましく、ニッケル酸リチウムがより好ましい。
【0032】
正極活物質層3は、正極活物質と、正極バインダーとを溶剤に分散・混練し、得られたスラリーを正極集電体の上に塗布し、高温雰囲気で乾燥することにより形成することができる。正極バインダーとして主に用いられるのは、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。溶剤としては、正極と同様、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などが好適である。正極集電体としては、有機電解液中での高い耐食性が求められることから、アルミニウムが主として用いられる。
【0033】
本実施形態では、金属リチウムに対して電位0.02Vに達したときの負極の初回充電容量をCa(mAh)とし、金属リチウムに対して電位4.3Vに達したときのリチウム担持前の正極の初回充電容量をCc(mAh)とし、正極に担持されたリチウムの容量をCLi(mAh)としたとき、下記式(1)及び(2):
1.1≦Ca/Cc (1)
1.0<Ca/(Cc+CLi) (2)
を満たす。このように、リチウム担持前の正極及び負極の初回充電容量の比、並びに正極に担持させるリチウムの容量が上記式(1)及び(2)を満たすことにより、リチウムイオン二次電池の電極の変形や金属リチウムの析出を回避することができ、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度の増加と充放電サイクル特性の向上につながる。負極の初回充電容量Caとリチウム担持前の正極の初回充電容量Ccの比Ca/Ccが1.1以下であると、リチウム担持によるリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の向上効果が小さい。また、負極の初回充電容量と、リチウム担持前の正極の初回充電容量Cc及び正極に担持させたリチウムの容量CLiの合計の比Ca/(Cc+CLi)が1.0以下であると、負極上に余剰なリチウムが析出して充放電サイクル特性が著しく低下する。
【0034】
負極の初回充電容量Caとリチウム担持前の正極の初回充電容量Ccの比Ca/Ccは上記式(1)を満たす限りにおいて適宜調整すればよいが、特に1.2≦Ca/Cc≦1.9を満たすことが好ましい。Ca/Ccが1.2以上であれば、リチウム担持によるリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の向上効果が大きくなる。また、Ca/Ccが1.9以下であれば、いたずらに負極活物質量が多いことによるリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の低下の問題が生じにくい。Ca/Ccは1.4≦Ca/Cc≦1.7を満たすことがより好ましい。なお、Ca/Ccは、リチウム担持前の正極及び負極の電極重量によって制御することができる。
【0035】
一方、負極の初回充電容量と、リチウム担持前の正極の初回充電容量Cc及び正極に担持させたリチウムの容量CLiの合計の比Ca/(Cc+CLi)は上記式(2)を満たす限りにおいて適宜調整すればよいが、特に1.01≦Ca/Cc≦1.6を満たすことが好ましい。Ca/(Cc+CLi)が1.01以上であれば、負極上に余剰なリチウムがより析出しなくなり、充放電サイクル特性の低下を抑制できる。一方、Ca/(Cc+CLi)が1.6以下であれば、リチウム担持によるリチウムイオン二次電池のエネルギー密度の向上効果が大きくなる。Ca/(Cc+CLi)は1.02≦Ca/(Cc+CLi)≦1.4を満たすことがより好ましく、1.03≦Ca/(Cc+CLi)≦1.2を満たすことがさらに好ましい。なお、リチウムの容量CLiは、正極に担持するリチウムの重量により制御する。
【0036】
負極の初回充電容量Ca及びリチウム担持前の正極の初回充電容量Ccは、それぞれ、負極及び正極の構成材料により特定することができる。また、正極に担持させたリチウムの容量CLiは、正極に担持させたリチウムの量により特定することができる。本実施形態に係るリチウムイオン二次電池では、正極に担持されているリチウムの少なくとも一部は充放電過程により負極側に移動するが、リチウムイオン二次電池に含まれる総リチウム量を測定することで、正極に担持させたリチウムの量を特定することができる。
【0037】
なお、正極に担持されているリチウムの少なくとも一部が充放電過程により負極側に移動することを考慮すれば、正極でなく負極にリチウムが担持されている場合でも、原理的には同様の効果が得られる。ただし、蒸着などによりリチウムを負極に担持させると、負極が湾曲してしまい、電池組み立て時の作業性が低下する場合がある。そこで、本実施形態では、良好な作業性を確保する観点から、正極にリチウムを担持させている。
【0038】
セパレータ5としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等からなる多孔性フィルムを用いることができる。
【0039】
電解液としては、1種又は2種以上の非水溶媒に、リチウム塩を溶解させた非水系電解液を用いることができる。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などの環状カーボネート;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチルなどの脂肪族カルボン酸エステル;γ−ブチロラクトンなどのγ−ラクトン;1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)などの鎖状エーテル;テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどの環状エーテルが挙げられる。
【0040】
その他、非水溶媒として、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ジオキソラン誘導体、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、プロピオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンサルトン、アニソール、N−メチルピロリドンなどの非プロトン性有機溶媒を用いることもできる。
【0041】
非水溶媒に溶解させるリチウム塩としては、LiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO22、LiN(CF3SO22、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、クロロボランリチウム、四フェニルホウ酸リチウム、LiBr、LiI、LiSCN、LiCl、イミド類などが挙げられる。また、非水系電解液の代わりにポリマー電解質を用いてもよい。
【0042】
外装体8としては、缶ケースや外装フィルム等を用いることができる。缶ケースとしては、ステンレス缶が多く用いられる。外装フィルムとしては、接着層としてのポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−メタクリル酸共重合体やエチレン−アクリル酸共重合体を金属イオンで分子間結合させたアイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂を有するラミネートフィルムが用いられる。
【実施例】
【0043】
以下、本実施形態に係る実施例について説明する。
【0044】
(実施例1)
負極活物質として、レーザ回折・散乱法により測定される平均粒径D50が5μmとなるように調整された、単体ケイ素を含有する酸化ケイ素粒子(単体ケイ素/酸化ケイ素=40/60(重量比))を準備し、その酸化ケイ素粒子85重量部に、バインダー溶液としてのポリアミック酸−NMP溶液50重量部(最終的に得られるポリイミド10重量部に相当)、及び導電剤としてのカーボン粉末(非晶質炭素粉末)5重量部を混合し、さらに溶剤としてのNMPを加えて溶解・分散させることで、負極電極材料のスラリーを作製した。このスラリーを厚さ10μmの銅箔の両面に150×80mmの四角形の形状に塗布し、乾燥炉にて125℃で5分間の乾燥処理を行った後、ロールプレスにて圧縮成型を行い、再び乾燥炉にて300℃で15分間の乾燥処理を行って、負極集電体の両面に負極活物質層を形成した。なお、形成した負極活物質層の重量は、表裏合わせて活物質容量(金属リチウムに対して電位0.02Vに達したときの負極の初回充電容量;以下、負極において同様)1200mAhに相当する重量とした。こうして、負極集電体の両面に負極活物質層を形成したものを1枚作製し、それを160×90mmの四角形の形状に打ち抜いた。
【0045】
一方、ニッケル酸リチウムからなる正極活物質粒子92重量部に、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン4重量部、及び導電剤としてのカーボン粉末(非晶質炭素粉末)4重量部を混合し、さらに溶剤としてのNMPを加えて溶解・分散させることで、正極電極材料のスラリーを作製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に150×80mmの四角形の形状に塗布し、乾燥炉にて125℃で5分間の乾燥処理を行った後、ロールプレスにて圧縮成型を行うことで、正極集電体の片面に正極活物質層を形成した。なお、形成した正極活物質層の重量は、片面分で活物質容量(金属リチウムに対して電位4.3Vに達したときのリチウム担持前の正極の初回充電容量;以下、リチウム担持前の正極において同様)500mAhに相当する重量とした。こうして、正極集電体の片面に正極活物質層を形成したものを2枚作製し(合計で1000mAh)、それを160×90mmの四角形の形状に打ち抜いた。さらに、正極集電体の片面に形成された正極活物質層の上に、活物質容量(正極に担持されたリチウムの容量;以下、正極に担持されたリチウムにおいて同様)100mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着して、正極とした。
【0046】
次いで、ポリプロピレンの多孔性フィルムからなる170×100mmの四角形の形状のセパレータを用意した。そして、下から、正極、セパレータ、負極、セパレータ、正極の順に重ね合わせた積層体を得た。
【0047】
次いで、負極集電体に、電極の引き出しのためのニッケルからなる負極端子を、超音波接合によって融着した。また、負極端子の反対側で2枚の正極集電体を重ね合わせ、そこに電極の引き出しのためのアルミニウムからなる正極端子を、超音波接合によって融着した。こうして、正極端子と負極端子とを対向する長辺部分に配置した。
【0048】
得られた積層体の両側から、接着層が積層セル側となるように外装フィルムを重ね合わせた後、外装フィルムの外周部が重なり合っている四辺中三辺を、ヒートシールにより熱融着(封止)させた。その後、電解液を注液し、真空下にて最後の一辺を熱融着させた。ここで、電解液としては、EC、DEC及びEMCを体積比で3:5:2の割合で混合した溶媒に、LiPF6を1mol/lの濃度で溶解させたものを用いた。こうして得られたラミネート型のリチウムイオン二次電池では、負極端子及び正極端子の先端が、外装フィルムから互いに反対方向に向いて外部に突出している。このリチウムイオン二次電池を5個作製した。
【0049】
(初回放電容量及びサイクル特性の評価)
得られた5個のリチウムイオン二次電池に対し、まず、20℃の定温雰囲気下において、定格である4.2Vまでのフル充電を行った後、2.7Vまでの放電を行ったときの放電容量を測定した。これが初回放電容量、すなわち充放電容量である。次いで、45℃の定温雰囲気下において、各リチウムイオン二次電池に対して4.2Vまでの充電と2.7Vまで放電とを1Cレートにより100回繰り返し、その100サイクル後の放電容量を20℃で測定した。なお、1Cレートとは、公称容量(mAh)を1時間で充放電する電流値をいう。そして、初回放電容量に対する100サイクル後の放電容量の割合を計算し、これをサイクル特性とした。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0050】
(実施例2)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1400mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量200mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0051】
(実施例3)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1400mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量300mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0052】
(実施例4)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1600mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量200mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0053】
(実施例5)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1600mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量400mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0054】
(実施例6)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1600mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量500mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0055】
(実施例7)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1600mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量550mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0056】
(実施例8)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1800mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量300mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0057】
(実施例9)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1800mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量600mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0058】
(実施例10)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1900mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量700mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0059】
(実施例11)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1100mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量50mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0060】
(実施例12)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1800mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量50mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0061】
(比較例1)
正極活物質層の上に金属リチウムの蒸着を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0062】
(比較例2)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1100mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量100mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0063】
(比較例3)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1200mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量300mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0064】
(比較例4)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1400mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量400mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0065】
(比較例5)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1400mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量500mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0066】
(比較例6)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1600mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量700mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0067】
(比較例7)
形成した負極活物質層の重量を活物質容量1800mAhに相当する重量とし、正極活物質層の上に活物質容量50mAhに相当する重量の金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0068】
(比較例8)
正極活物質層の上ではなく負極活物質層の上に金属リチウムを蒸着したこと以外は、実施例1と同様に実施した。得られた5個のリチウムイオン二次電池における、初回放電容量及びサイクル特性の評価結果のそれぞれの平均値を、表1に示す。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示した実施例1〜12及び比較例1〜8の評価結果によると、以下のことが分かる。すなわち、リチウムイオン二次電池において、正極にリチウムを担持された上で、Ca/Ccを1.1以上とすることにより、特に初回放電容量が著しく改善する。この初回放電容量の改善効果は、Ca/Ccが大きいほど大きくなり、Ca/Ccが1.2以上1.9以下の範囲で顕著である。また、Ca/(Cc+CLi)を1.0より大きくすることにより、特に45℃100サイクル後のサイクル特性を維持しつつ、同時に初回放電容量の改善もみられる。この初回放電容量の改善効果は、Ca/(Cc+CLi)が1.01以上1.6以下の範囲で顕著である。
【0071】
一方、比較例1のように、Ca/Ccが1.1以上でCa/(Cc+CLi)が1より大きくても、正極にリチウムが担持されていない場合には、初回放電容量が小さい。また、比較例2〜7のようにCa/(Cc+CLi)が1.0以下の場合、45℃100サイクル後のサイクル特性が低下する。これは、負極上に余剰なリチウムが析出して、充放電サイクル特性が著しく低下するためと考えられる。比較例8では、リチウムの担持量などから算出される条件は所定の要件を満たしており、評価結果の向上が確認されたものの、リチウム蒸着後の負極が湾曲し、各実施例と比較して電池組み立て時の作業性が低下した。
【0072】
以上のように、本実施形態によれば、45℃100サイクル後のサイクル特性や電池組み立て時の作業性を損なうことなく、リチウムイオン二次電池の初期特性、ひいてはエネルギー密度において、従来のリチウムイオン二次電池よりも優れた特性を得ることができる。
【0073】
なお、上記説明は、本実施形態に係る場合の効果について説明するためのものであって、これによって特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或いは特許請求の範囲を減縮するものではない。また、本実施形態の各部の構成は、上記の形態に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、電気自動車におけるエネルギー回生用途、エンジン駆動、太陽電池との組合せによる蓄電用途、産業機器の非常用電源、民生機器の駆動など、リチウムイオン二次電池を適用し得る製品に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 負極活物質層
2 負極集電体
3 正極活物質層
4 正極集電体
5 セパレータ
6 負極端子
7 正極端子
8 外装体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極及び負極を備えたリチウムイオン二次電池であって、
前記負極は、負極活物質としての単体ケイ素、及び負極バインダーを含有し、
前記正極にはリチウムが担持されており、
金属リチウムに対して電位0.02Vに達したときの前記負極の初回充電容量をCa(mAh)とし、金属リチウムに対して電位4.3Vに達したときのリチウム担持前の正極の初回充電容量をCc(mAh)とし、前記正極に担持されているリチウムの容量をCLi(mAh)としたとき、下記式(1)及び(2):
1.1≦Ca/Cc (1)
1.0<Ca/(Cc+CLi) (2)
を満たすことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
1.2≦Ca/Cc≦1.9を満たすことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
1.01≦Ca/(Cc+CLi)≦1.6を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記負極が、負極活物質としてのケイ素化合物をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記ケイ素化合物が、酸化シリコンであることを特徴とする請求項4に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極バインダーが、熱硬化性を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極は、正極活物質としてリチウム遷移金属酸化物を含有する層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記リチウム遷移金属酸化物が、ニッケルを含むことを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載されたリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記式(1)及び(2)を満たすように、前記リチウム担持前の正極及び前記負極の電極重量、並びに前記正極に担持させるリチウムの重量を制御することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項10】
前記正極は正極活物質を含有する層を有し、前記正極活物質を含有する層の上にリチウムを蒸着させることで、前記正極にリチウムを担持させることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−124057(P2012−124057A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274758(P2010−274758)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】