リチウムイオン二次電池及び電気自動車用電源
【課題】リチウムイオン二次電池において、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高める。
【解決手段】リチウムイオン二次電池10は、負極活物質を有する負極16と、正極活物質を有する正極20と、負極16と正極20との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水電解液と、を備えている。この正極活物質は、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム化合物とC2/m構造を有するリチウムマンガン複合酸化物との混合物を含んでいる。この正極活物質は、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上である。このリン酸鉄リチウム化合物は炭素により覆われており一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下であり、リチウムマンガン複合酸化物は一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【解決手段】リチウムイオン二次電池10は、負極活物質を有する負極16と、正極活物質を有する正極20と、負極16と正極20との間に介在しリチウムイオンを伝導する非水電解液と、を備えている。この正極活物質は、オリビン構造を有するリン酸鉄リチウム化合物とC2/m構造を有するリチウムマンガン複合酸化物との混合物を含んでいる。この正極活物質は、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上である。このリン酸鉄リチウム化合物は炭素により覆われており一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下であり、リチウムマンガン複合酸化物は一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及び電気自動車用電源に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムの吸蔵・放出現象を利用したリチウム二次電池は、高電圧・高エネルギ密度が得られ小型軽量化を図ることができるので、パソコンや携帯電話等の情報通信機器の関連分野では既に実用化されている。また資源問題や環境問題から電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電源への展開が期待されている。この電池では、一般に正極活物質としてリチウム化合物、負極活物質として炭素材料を用い、有機溶媒にリチウム塩を溶かした非水系電解液と組み合わせて電池を構成している。リチウム二次電池では、充電放電を繰り返した際に、電池容量が大きいものや、電池残量をより容易に把握することができるものなどが求められている。
【0003】
このような観点から、従来、リチウム二次電池に用いられるリチウム化合物としては、リチウムニッケル複合酸化物やリチウムコバルト複合酸化物などが用いられている。また、近年、資源量の乏しいコバルトやニッケルに代わるリチウム化合物として、資源量が豊富で且つ安価であるリン酸鉄リチウム化合物(LiFePO4など)が注目されている。このリン酸鉄リチウム化合物は、コバルトやニッケルなどを含有するものに比して電池容量が小さく、電池残量の変化に伴う電位変化が小さく電池残量を把握しにくいなどの傾向にあることから、様々な改良が続けられている。例えば、オリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウム化合物とニッケルコバルトマンガンリチウム複合酸化物とを含む正極活物質を備え、電池残容量と電池電圧との関係において3.4V付近と3.7V付近とに準平坦部を有しこれらを繋ぐ変化部とを有し、変化部を跨ぐ電池電圧の変化を検出することにより充電状態を容易に検知することができるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−250299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載されたリチウムイオン二次電池では、電池残量を求めやすいが、全体的な電池容量がどのようになるのかなど、電池容量については考慮されておらず、場合によっては容量が小さいという問題があった。また、鉄、マンガン、ニッケル、コバルトの順に金属の希少性が高まるが、リン酸鉄リチウム化合物に対して添加する酸化物として、ニッケルやコバルトなど希少金属を含むものを使用するため、希少金属の使用の更なる低減が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができるリチウムイオン二次電池及び電気自動車用電源を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を用いるものとすると、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムイオン二次電池は、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
このリチウムイオン二次電池では、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができる。即ち、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを混合した正極活物質は、リン酸鉄リチウム化合物の容量とリチウムマンガン複合酸化物の容量とから計算された理論的な電池容量に比べ、高い容量を示す。このように、電池容量をより高めることができる理由は、明らかではないが、導電性の低いリチウムマンガン複合酸化物とリン酸鉄リチウム化合物とを混合することによりリチウムマンガン複合酸化物がより活性になったことなどが考えられる。このように、正極活物質に、資源的に豊富である鉄を含む化合物と、比較的に資源量の多いマンガンを含む酸化物とを用いて電池容量をより高めることができる。
【0009】
ここで、「リチウムマンガン複合酸化物」は、コバルトやニッケルなどが添加されていないものをいうものとする。なお、正極にコバルトやニッケルが含まれているのを全く除外する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含んでいる。このリチウムイオン二次電池では、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを混合物として含んでいることが好ましい。リン酸鉄リチウム化合物は、オリビン型構造を有するLiFePO4としてもよい。このリン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下であることが好ましく、80nm以上200nm以下であることがより好ましい。この粒径が50nm以上であれば結晶相を保ちやすいし、500nm以下であれば固体内でのリチウムイオンの拡散をより好適なものとすることができる。このリン酸鉄リチウム化合物はその表面に炭素が存在する、即ちその表面の少なくとも一部が炭素により覆われているものとするのが好ましい。こうすれば、より容易に導電性を高めることができる。なお、一次粒子の平均粒子径は、粉体をサンプルホルダに固定し、電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した領域内にある各一次粒子の短径と長径とを計測し、この短径と長径との平均値を1つの一次粒子の粒径とし、全粒子の平均値をいうものとする。
【0012】
この正極のリチウムマンガン複合酸化物は、例えば、LiMn2O4、LiMnO2、Li2MnO3などが挙げられるが、C2/m構造のLi2MnO3を含むものが電池容量の向上の観点から好ましい。なお、Li2MnO3は、例えば4.4V以上で充電すると電気化学的に活性となることがあり(Electrochemistry Communications 6(2004)1085-1091)、この4.4V以上での充電によりその一部が充放電に関与する構造に変化することがある。このため、「Li2MnO3を含む」とは、Li2MnO3から構造変化した組成のものをも含む、即ちLi2MnO3から多少の組成ずれを有するものをも含むものとする。このリチウムマンガン複合酸化物は、一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。この粒径が1μm以上であればマンガンイオンがイオン伝導媒体へ溶出するのを抑制することができるし、10μm以下であれば固体内でのリチウムイオンの拡散をより好適なものとすることができる。このリチウムマンガン複合酸化物は、リチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有するものとするのが好ましく、150mAh/g以上であることがより好ましく、180mAh/g以上であることが一層好ましい。初期充電量が100mAh/gでは、電池容量をより高めやすい。この初期充電量は、リチウムマンガン複合酸化物の理論容量を考慮すると、450mAh/g以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の正極は、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上であるものとしてもよい。なお、より資源量の多い材料を用いる観点からは、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が50重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が50重量%以下20重量%以上であることが好ましい。なお、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が80重量%以上であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が20重量%以下とすることもできる。あるいは、電池残量(SOC)を検出するのに必要な電位変化の領域に合わせてリン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物との配合量を設定するものとしてもよい。リン酸鉄リチウム化合物は、電池残量の変化に対して電位変化のない平坦な領域が広く、電池残量を検出しにくい特性を有している(後述図2参照)。これに対して、リチウムマンガン複合酸化物は、電池残量の変化に対して電位変化がある傾斜した領域を広く有している(後述図4参照)。このため、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物との配合量によって、電池残量の検出のしやすさを制御することもできる。ここで、電池残量の検出を容易とする文献として、特開2007−250299号公報が挙げられる。この文献によれば、オリビン型構造のLiFePO4にLiCo0.33Mn0.33Ni0.34O2を添加しており、後者は前者よりも高い電位を示すことが知られていることから、充電末期の電池残量の検出は可能であると考えられるが、放電末期での電位変化がより小さくなる傾向を示すため、放電末期での電池残量の検出は容易でないと考えられる。これに対して上記リチウムマンガン複合酸化物では、放電末期でも電位変化が十分あり、例えば、リチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有することもあり、本発明は、この文献とは、構成、作用、効果が異なると考えられる。
【0014】
正極に含まれる導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴムの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0015】
リチウムイオン二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、珪素及びチタン酸リチウムなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、黒鉛、石油系コークス、石炭系コークス、石油系ピッチの炭化物、石炭系ピッチの炭化物、フェノール樹脂,結晶セルロースなど樹脂の炭化物、及びこれらを一部炭化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維などが挙げられる。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0016】
リチウムイオン二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類として、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸エチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマー、無機固体電解質、あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0017】
リチウムイオン二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。また、支持塩として、リチウムビスオキサラトボレートなどを用いるものとしてもよい。この電解質塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水系電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0018】
リチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0019】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、例えば、本発明のリチウムイオン二次電池を複数直列に接続するなどして電気自動車等に用いる大型の電気自動車用電源などとしてもよい。リチウムイオン二次電池を作製する具体例について説明する。図1はリチウムイオン二次電池10の一例の構成を表す構成図であり、図1(a)はリチウムイオン二次電池10の組立前の断面図、図1(b)はリチウムイオン二次電池10の組立後の断面図である。リチウムイオン二次電池10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、セパレータ18と、正極20とをこの順に積層する。この正極20には、上述したリン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質が含まれている。次に、非水系電解液をキャビティ14に注入したあと、絶縁リング29を入れ、次いで絶縁性のリング22の穴に液密に固定された導電性の円柱24を正極20の上に配置し、導電性のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込む。更に、円柱24の上に絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と正極20とを加圧密着させる。このようにして、リチウムイオン二次電池10を作製することができる。なお、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの径は円柱24の径よりも大きいことから、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。このリチウムイオン二次電池10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。
【0020】
以上詳述した本実施形態のリチウムイオン二次電池10によれば、正極活物質において、鉄を含む化合物及びマンガンを含む酸化物のうち、より鉄を含む化合物の量を高めることができるため、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができる。このため、コストを低減しつつ安定して正極活物質を製造することができる。
【0021】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下には、リチウムイオン二次電池を具体的に作製した例を、実験例として説明する。
【0023】
[実験例1]
この実験例1は、正極活物質にオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムLiFePO4、負極活物質にLi金属(本城金属製)を用いて作製した電気化学セルである。このLiFePO4は、フマル酸鉄とLiH2PO4とを1:1のモル比で混合・乾燥した粉末をAr雰囲気下、700℃で12時間焼成することにより作製した。オリビン型構造を有するLiFePO4と炭素導電剤(東海カーボン製TB5500)とポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ製)の重量比が78.5/13.8/7.7となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加えた正極スラリーを作製し、アルミニウム集電体上に塗布した。120℃にて3時間以上乾燥後、ロールプレス機を用いて電極をプレスして正極を得た。なおLiFePO4は、活物質中に炭素を含有したもので一次粒子の平均粒子サイズが100nmのものを用いた。一次粒子の平均粒子径は、粉体をサンプルホルダに固定し、電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク製S−4300)を用いて観察した領域内にある各一次粒子の短径と長径とを計測し、この短径と長径との平均値を1つの一次粒子の粒径とし、全粒子の平均値を算出することにより求めた。負極は、厚み0.34mmのリチウム金属を用いた。非水系電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で30:70の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lの濃度になるように添加したものを用いた。そして、リチウムイオン二次電池用正極をセパレータを介して負極と対向させリチウムイオン二次電池10(図1参照)を作製した。この実験例1のリチウムイオン二次電池を0.4mAで5.0Vまで充電後、0.4mAで2.5Vまで放電した。その結果を図2に示す。図2は、LiFePO4正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、放電容量密度が144mAh/gであり、この144mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の領域として、0%〜10%の間で傾斜して電位が変化し、10%〜100%の間でほぼ平坦な電位(電位平坦部ともいう)の充放電曲線が得られた。
【0024】
[実験例2]
この実験例2は、正極活物質にC2/m構造のLi2MnO3を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て作製した電気化学セルである。Li2MnO3は、炭酸リチウムと炭酸マンガンとをLi:Mnのモル比が1:1となるように混合したあと、大気中、700℃で48時間焼成することにより作製した。このLi2MnO3の一次粒子の平均粒径は、5μmであった。まず、この実験例2の電気化学セルを0.4mAで5.0Vまで充電し、このLi2MnO3の充電特性を検討した。図3は、Li2MnO3電極/Li金属対極電池の充電曲線である。その結果、4.4V以上5.0V以下の間で、100mAh/g以上である280mAh/g程度の充電容量密度が得られた。また、この実験例2を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図4に示す。図4は、Li2MnO3正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、放電容量密度が182mAh/gであり、この182mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の全領域(0%〜100%)において電位は傾斜しており、電位平坦部がない充放電曲線が得られた。
【0025】
[実験例3]
この実験例3は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。LiFePO4とLi2MnO3との混合は、日陶科学製めのう乳鉢を用いて30分間十分に混合した。この実験例3を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図5に示す。図5は、LiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例3は、放電容量密度が182mAh/gであり、この182mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の50%〜60%に電位平坦部があり、0%〜50%及び60%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0026】
[実験例4]
この実験例4は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物を用いた以外は実験例3と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。この実験例4を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図6に示す。図6は、LiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例4は、放電容量密度が179mAh/gであり、この179mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の30%〜70%に電位平坦部があり、0%〜30%及び70%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0027】
[実験例5]
この実験例5は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物を用いた以外は実験例3と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。この実験例5を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図7に示す。図7は、LiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例5は、放電容量密度が176mAh/gであり、この176mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の20%〜80%に電位平坦部があり、0%〜20%及び80%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0028】
負極材料として、黒鉛、チタン酸リチウム、珪素を用いて放電曲線を測定した。まず黒鉛であるが、黒鉛とPVdFの重量比が95/5となるようにNMP溶液を加えた負極スラリーを作製し、銅集電体上に塗布した。120℃にて3時間以上乾燥後、ロールプレス機を用いて電極をプレスして負極を得た。厚み0.34mmのLi金属を対極とした。非水系電解液を実験例1と同様に作製し、リチウムイオン二次電池用負極を、セパレータを介して対極と対向させ負極と対極とに非水電解液を満たした二極セル(図1参照、但し負極16を対極、正極20を測定用の負極とした)を作製した。この二極セルを0.4mAで0Vまで充電後、0.4mAで1.5Vまで放電した。図8は、対極をLi金属とする黒鉛負極の放電曲線である。この結果、黒鉛では、ほぼ全領域の電池残量範囲に渡って、0.2V程度の電位平坦部が観測された。次にチタン酸リチウムであるが、チタン酸リチウムと炭素導電剤とPVdFの重量比が85/10/5となるようにNMP溶液を加えた負極スラリーを作製した以外は黒鉛の場合と同様にチタン酸リチウムを負極活物質とする二極セルを作製した。この二極セルを、0.4mAで1.0Vまで充電後、0.4mAで2.5Vまで放電した。図9は、対極をLi金属とするチタン酸リチウム負極の放電曲線である。この結果、チタン酸リチウムでは、ほぼ全領域の電池残量(SOC)に亘って1.6V程度の電位平坦部が観測された。次に珪素であるが、銅箔からなる負極集電体上に、スパッタリング装置(トッキ社製ロードロック式スパッタ製膜装置)を用いて、厚さ1μmの珪素を堆積させ、所定の大きさに切り取り、負極とした以外は上記黒鉛の場合と同様の工程により二極セルを作製した。この二極セルを0.4mAで0Vまで充電後、0.4mAで1.5Vまで放電した。図10は、対極をLi金属とする珪素負極の放電曲線である。この結果、珪素では、ほぼ全領域の電池残量範囲に渡って、0.5V程度の電位平坦部が観測された。これらの負極活物質の検討により、LiFePO4とLi2MnO3との混合正極と、黒鉛、チタン酸リチウム、珪素のいずれかを負極活物質として用いた負極とを組み合わせて電池を作製した場合も、負極の電位はほとんど変化しないが、正極の電位がLiFePO4とLi2MnO3との混合比に応じて変化をするので、電池残量(SOC)の検出が可能となることがわかった。
【0029】
[測定結果まとめ]
実験例1〜5の測定結果を表1に示し、LiFePO4とLi2MnO3との重量比に対する容量密度の測定値及び理論値との関係を図11に示す。表1及び図11に示したように、LiFePO4とLi2MnO3とを混合した混合正極を用いると、これらを単純に加重平均した理論容量密度よりも高い容量密度を示すことがわかった。特に、Li2MnO3の添加量が20%でしかない実験例5では、このLi2MnO3の96.7%もの容量密度を示した。このため、正極活物質中のMn量をも低減することができることがわかった。これは、オリビン型構造のリン酸鉄リチウム化合物とC2/m構造を有するリチウムマンガン複合酸化物とを混合したことによる特異的な効果であると考えられる。その詳細なメカニズムは不明であるが、Li金属対極に電気化学セルを組んで充電した場合に、4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電容量を有するというLi2MnO3をLiFePO4へ添加したことや、導電性の悪いLi2MnO3にLiFePO4を混合することで、Li2MnO3がより活性になったことなどが考えられる。また、導電性の観点から、LiFePO4の一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下の範囲にあり、Li2MnO3の一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下の範囲にあることも寄与しているものと推察された。更に、LiFePO4とLi2MnO3との混合比に応じて電位変化するSOC領域が生じるため、SOC検出が容易となる。例えば車載用電源などアプリケーションに応じて、要求される検出SOC領域は異なると考えられるので、混合比の決定には、アプリケーションの要求も考慮すればよい。
【0030】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】リチウムイオン二次電池10の一例の構成を表す構成図であり、図1(a)はリチウムイオン二次電池10の組立前の断面図、図1(b)はリチウムイオン二次電池10の組立後の断面図である。
【図2】LiFePO4正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図3】Li2MnO3電極/Li金属対極電池の充電曲線である。
【図4】Li2MnO3正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図5】LiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図6】LiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図7】LiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図8】対極をLi金属とする黒鉛負極の放電曲線である。
【図9】対極をLi金属とするチタン酸リチウム負極の放電曲線である。
【図10】対極をLi金属とする珪素負極の放電曲線である。
【図11】LiFePO4とLi2MnO3との重量比に対する容量密度の測定値及び理論値との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 リチウムイオン二次電池、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池及び電気自動車用電源に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムの吸蔵・放出現象を利用したリチウム二次電池は、高電圧・高エネルギ密度が得られ小型軽量化を図ることができるので、パソコンや携帯電話等の情報通信機器の関連分野では既に実用化されている。また資源問題や環境問題から電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される電源への展開が期待されている。この電池では、一般に正極活物質としてリチウム化合物、負極活物質として炭素材料を用い、有機溶媒にリチウム塩を溶かした非水系電解液と組み合わせて電池を構成している。リチウム二次電池では、充電放電を繰り返した際に、電池容量が大きいものや、電池残量をより容易に把握することができるものなどが求められている。
【0003】
このような観点から、従来、リチウム二次電池に用いられるリチウム化合物としては、リチウムニッケル複合酸化物やリチウムコバルト複合酸化物などが用いられている。また、近年、資源量の乏しいコバルトやニッケルに代わるリチウム化合物として、資源量が豊富で且つ安価であるリン酸鉄リチウム化合物(LiFePO4など)が注目されている。このリン酸鉄リチウム化合物は、コバルトやニッケルなどを含有するものに比して電池容量が小さく、電池残量の変化に伴う電位変化が小さく電池残量を把握しにくいなどの傾向にあることから、様々な改良が続けられている。例えば、オリビン結晶構造を有するリン酸鉄リチウム化合物とニッケルコバルトマンガンリチウム複合酸化物とを含む正極活物質を備え、電池残容量と電池電圧との関係において3.4V付近と3.7V付近とに準平坦部を有しこれらを繋ぐ変化部とを有し、変化部を跨ぐ電池電圧の変化を検出することにより充電状態を容易に検知することができるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−250299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載されたリチウムイオン二次電池では、電池残量を求めやすいが、全体的な電池容量がどのようになるのかなど、電池容量については考慮されておらず、場合によっては容量が小さいという問題があった。また、鉄、マンガン、ニッケル、コバルトの順に金属の希少性が高まるが、リン酸鉄リチウム化合物に対して添加する酸化物として、ニッケルやコバルトなど希少金属を含むものを使用するため、希少金属の使用の更なる低減が求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができるリチウムイオン二次電池及び電気自動車用電源を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を用いるものとすると、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウムイオン二次電池は、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
このリチウムイオン二次電池では、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができる。即ち、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを混合した正極活物質は、リン酸鉄リチウム化合物の容量とリチウムマンガン複合酸化物の容量とから計算された理論的な電池容量に比べ、高い容量を示す。このように、電池容量をより高めることができる理由は、明らかではないが、導電性の低いリチウムマンガン複合酸化物とリン酸鉄リチウム化合物とを混合することによりリチウムマンガン複合酸化物がより活性になったことなどが考えられる。このように、正極活物質に、資源的に豊富である鉄を含む化合物と、比較的に資源量の多いマンガンを含む酸化物とを用いて電池容量をより高めることができる。
【0009】
ここで、「リチウムマンガン複合酸化物」は、コバルトやニッケルなどが添加されていないものをいうものとする。なお、正極にコバルトやニッケルが含まれているのを全く除外する趣旨ではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含んでいる。このリチウムイオン二次電池では、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを混合物として含んでいることが好ましい。リン酸鉄リチウム化合物は、オリビン型構造を有するLiFePO4としてもよい。このリン酸鉄リチウム化合物は、一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下であることが好ましく、80nm以上200nm以下であることがより好ましい。この粒径が50nm以上であれば結晶相を保ちやすいし、500nm以下であれば固体内でのリチウムイオンの拡散をより好適なものとすることができる。このリン酸鉄リチウム化合物はその表面に炭素が存在する、即ちその表面の少なくとも一部が炭素により覆われているものとするのが好ましい。こうすれば、より容易に導電性を高めることができる。なお、一次粒子の平均粒子径は、粉体をサンプルホルダに固定し、電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した領域内にある各一次粒子の短径と長径とを計測し、この短径と長径との平均値を1つの一次粒子の粒径とし、全粒子の平均値をいうものとする。
【0012】
この正極のリチウムマンガン複合酸化物は、例えば、LiMn2O4、LiMnO2、Li2MnO3などが挙げられるが、C2/m構造のLi2MnO3を含むものが電池容量の向上の観点から好ましい。なお、Li2MnO3は、例えば4.4V以上で充電すると電気化学的に活性となることがあり(Electrochemistry Communications 6(2004)1085-1091)、この4.4V以上での充電によりその一部が充放電に関与する構造に変化することがある。このため、「Li2MnO3を含む」とは、Li2MnO3から構造変化した組成のものをも含む、即ちLi2MnO3から多少の組成ずれを有するものをも含むものとする。このリチウムマンガン複合酸化物は、一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下であることが好ましい。この粒径が1μm以上であればマンガンイオンがイオン伝導媒体へ溶出するのを抑制することができるし、10μm以下であれば固体内でのリチウムイオンの拡散をより好適なものとすることができる。このリチウムマンガン複合酸化物は、リチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有するものとするのが好ましく、150mAh/g以上であることがより好ましく、180mAh/g以上であることが一層好ましい。初期充電量が100mAh/gでは、電池容量をより高めやすい。この初期充電量は、リチウムマンガン複合酸化物の理論容量を考慮すると、450mAh/g以下であることが好ましい。
【0013】
本発明の正極は、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上であるものとしてもよい。なお、より資源量の多い材料を用いる観点からは、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が50重量%以上80重量%以下であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が50重量%以下20重量%以上であることが好ましい。なお、リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が80重量%以上であり、リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が20重量%以下とすることもできる。あるいは、電池残量(SOC)を検出するのに必要な電位変化の領域に合わせてリン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物との配合量を設定するものとしてもよい。リン酸鉄リチウム化合物は、電池残量の変化に対して電位変化のない平坦な領域が広く、電池残量を検出しにくい特性を有している(後述図2参照)。これに対して、リチウムマンガン複合酸化物は、電池残量の変化に対して電位変化がある傾斜した領域を広く有している(後述図4参照)。このため、リン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物との配合量によって、電池残量の検出のしやすさを制御することもできる。ここで、電池残量の検出を容易とする文献として、特開2007−250299号公報が挙げられる。この文献によれば、オリビン型構造のLiFePO4にLiCo0.33Mn0.33Ni0.34O2を添加しており、後者は前者よりも高い電位を示すことが知られていることから、充電末期の電池残量の検出は可能であると考えられるが、放電末期での電位変化がより小さくなる傾向を示すため、放電末期での電池残量の検出は容易でないと考えられる。これに対して上記リチウムマンガン複合酸化物では、放電末期でも電位変化が十分あり、例えば、リチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有することもあり、本発明は、この文献とは、構成、作用、効果が異なると考えられる。
【0014】
正極に含まれる導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラックなどのカーボンブラック、ニードルコークスなどの無定形炭素などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴムの水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0015】
リチウムイオン二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム金属、リチウム合金などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、珪素及びチタン酸リチウムなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。炭素質材料は、特に限定されるものではないが、黒鉛、石油系コークス、石炭系コークス、石油系ピッチの炭化物、石炭系ピッチの炭化物、フェノール樹脂,結晶セルロースなど樹脂の炭化物、及びこれらを一部炭化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維などが挙げられる。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼などの箔を用いることができる。
【0016】
リチウムイオン二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類として、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸エチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフランなどのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマー、無機固体電解質、あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0017】
リチウムイオン二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。また、支持塩として、リチウムビスオキサラトボレートなどを用いるものとしてもよい。この電解質塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水系電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0018】
リチウムイオン二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウムイオン二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0019】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、例えば、本発明のリチウムイオン二次電池を複数直列に接続するなどして電気自動車等に用いる大型の電気自動車用電源などとしてもよい。リチウムイオン二次電池を作製する具体例について説明する。図1はリチウムイオン二次電池10の一例の構成を表す構成図であり、図1(a)はリチウムイオン二次電池10の組立前の断面図、図1(b)はリチウムイオン二次電池10の組立後の断面図である。リチウムイオン二次電池10を組み立てるにあたり、まず、外周面にねじ溝が刻まれたステンレス製の円筒基体12の上面中央に設けられたキャビティ14に、負極16と、セパレータ18と、正極20とをこの順に積層する。この正極20には、上述したリン酸鉄リチウム化合物とリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質が含まれている。次に、非水系電解液をキャビティ14に注入したあと、絶縁リング29を入れ、次いで絶縁性のリング22の穴に液密に固定された導電性の円柱24を正極20の上に配置し、導電性のコップ状の蓋26を円筒基体12にねじ込む。更に、円柱24の上に絶縁用樹脂リング27を配置し、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの内周面に刻まれたねじ溝に貫通孔25aを持つ加圧ボルト25をねじ込み、負極16とセパレータ18と正極20とを加圧密着させる。このようにして、リチウムイオン二次電池10を作製することができる。なお、蓋26の上面中央に設けられた開口26aの径は円柱24の径よりも大きいことから、蓋26と円柱24とは非接触な状態となっている。また、キャビティ14の周辺にはパッキン28が配置されているため、キャビティ14内に注入された電解液が外部に漏れることはない。このリチウムイオン二次電池10では、蓋26と加圧ボルト25と円筒基体12とが負極16と一体化されて全体が負極側となり、円柱24が正極20と一体化されると共に負極16と絶縁されているため正極側となる。
【0020】
以上詳述した本実施形態のリチウムイオン二次電池10によれば、正極活物質において、鉄を含む化合物及びマンガンを含む酸化物のうち、より鉄を含む化合物の量を高めることができるため、より資源量の多い材料を正極活物質として用いると共に、電池容量をより高めることができる。このため、コストを低減しつつ安定して正極活物質を製造することができる。
【0021】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0022】
以下には、リチウムイオン二次電池を具体的に作製した例を、実験例として説明する。
【0023】
[実験例1]
この実験例1は、正極活物質にオリビン型構造を有するリン酸鉄リチウムLiFePO4、負極活物質にLi金属(本城金属製)を用いて作製した電気化学セルである。このLiFePO4は、フマル酸鉄とLiH2PO4とを1:1のモル比で混合・乾燥した粉末をAr雰囲気下、700℃で12時間焼成することにより作製した。オリビン型構造を有するLiFePO4と炭素導電剤(東海カーボン製TB5500)とポリフッ化ビニリデン(PVdF、クレハ製)の重量比が78.5/13.8/7.7となるようにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液を加えた正極スラリーを作製し、アルミニウム集電体上に塗布した。120℃にて3時間以上乾燥後、ロールプレス機を用いて電極をプレスして正極を得た。なおLiFePO4は、活物質中に炭素を含有したもので一次粒子の平均粒子サイズが100nmのものを用いた。一次粒子の平均粒子径は、粉体をサンプルホルダに固定し、電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク製S−4300)を用いて観察した領域内にある各一次粒子の短径と長径とを計測し、この短径と長径との平均値を1つの一次粒子の粒径とし、全粒子の平均値を算出することにより求めた。負極は、厚み0.34mmのリチウム金属を用いた。非水系電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で30:70の割合で混合した非水溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1mol/Lの濃度になるように添加したものを用いた。そして、リチウムイオン二次電池用正極をセパレータを介して負極と対向させリチウムイオン二次電池10(図1参照)を作製した。この実験例1のリチウムイオン二次電池を0.4mAで5.0Vまで充電後、0.4mAで2.5Vまで放電した。その結果を図2に示す。図2は、LiFePO4正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、放電容量密度が144mAh/gであり、この144mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の領域として、0%〜10%の間で傾斜して電位が変化し、10%〜100%の間でほぼ平坦な電位(電位平坦部ともいう)の充放電曲線が得られた。
【0024】
[実験例2]
この実験例2は、正極活物質にC2/m構造のLi2MnO3を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て作製した電気化学セルである。Li2MnO3は、炭酸リチウムと炭酸マンガンとをLi:Mnのモル比が1:1となるように混合したあと、大気中、700℃で48時間焼成することにより作製した。このLi2MnO3の一次粒子の平均粒径は、5μmであった。まず、この実験例2の電気化学セルを0.4mAで5.0Vまで充電し、このLi2MnO3の充電特性を検討した。図3は、Li2MnO3電極/Li金属対極電池の充電曲線である。その結果、4.4V以上5.0V以下の間で、100mAh/g以上である280mAh/g程度の充電容量密度が得られた。また、この実験例2を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図4に示す。図4は、Li2MnO3正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、放電容量密度が182mAh/gであり、この182mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の全領域(0%〜100%)において電位は傾斜しており、電位平坦部がない充放電曲線が得られた。
【0025】
[実験例3]
この実験例3は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物を用いた以外は実験例1と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。LiFePO4とLi2MnO3との混合は、日陶科学製めのう乳鉢を用いて30分間十分に混合した。この実験例3を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図5に示す。図5は、LiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例3は、放電容量密度が182mAh/gであり、この182mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の50%〜60%に電位平坦部があり、0%〜50%及び60%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0026】
[実験例4]
この実験例4は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物を用いた以外は実験例3と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。この実験例4を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図6に示す。図6は、LiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例4は、放電容量密度が179mAh/gであり、この179mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の30%〜70%に電位平坦部があり、0%〜30%及び70%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0027】
[実験例5]
この実験例5は、正極活物質に重量比でLiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物を用いた以外は実験例3と同様の工程を経て作成した電気化学セルである。この実験例5を実験例1と同様の条件で充電及び放電を行い放電曲線を測定した。その結果を図7に示す。図7は、LiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。この結果であるが、実験例5は、放電容量密度が176mAh/gであり、この176mAh/gを100%とする電池残量(SOC)の20%〜80%に電位平坦部があり、0%〜20%及び80%〜100%の領域は傾斜している充放電曲線が得られた。
【0028】
負極材料として、黒鉛、チタン酸リチウム、珪素を用いて放電曲線を測定した。まず黒鉛であるが、黒鉛とPVdFの重量比が95/5となるようにNMP溶液を加えた負極スラリーを作製し、銅集電体上に塗布した。120℃にて3時間以上乾燥後、ロールプレス機を用いて電極をプレスして負極を得た。厚み0.34mmのLi金属を対極とした。非水系電解液を実験例1と同様に作製し、リチウムイオン二次電池用負極を、セパレータを介して対極と対向させ負極と対極とに非水電解液を満たした二極セル(図1参照、但し負極16を対極、正極20を測定用の負極とした)を作製した。この二極セルを0.4mAで0Vまで充電後、0.4mAで1.5Vまで放電した。図8は、対極をLi金属とする黒鉛負極の放電曲線である。この結果、黒鉛では、ほぼ全領域の電池残量範囲に渡って、0.2V程度の電位平坦部が観測された。次にチタン酸リチウムであるが、チタン酸リチウムと炭素導電剤とPVdFの重量比が85/10/5となるようにNMP溶液を加えた負極スラリーを作製した以外は黒鉛の場合と同様にチタン酸リチウムを負極活物質とする二極セルを作製した。この二極セルを、0.4mAで1.0Vまで充電後、0.4mAで2.5Vまで放電した。図9は、対極をLi金属とするチタン酸リチウム負極の放電曲線である。この結果、チタン酸リチウムでは、ほぼ全領域の電池残量(SOC)に亘って1.6V程度の電位平坦部が観測された。次に珪素であるが、銅箔からなる負極集電体上に、スパッタリング装置(トッキ社製ロードロック式スパッタ製膜装置)を用いて、厚さ1μmの珪素を堆積させ、所定の大きさに切り取り、負極とした以外は上記黒鉛の場合と同様の工程により二極セルを作製した。この二極セルを0.4mAで0Vまで充電後、0.4mAで1.5Vまで放電した。図10は、対極をLi金属とする珪素負極の放電曲線である。この結果、珪素では、ほぼ全領域の電池残量範囲に渡って、0.5V程度の電位平坦部が観測された。これらの負極活物質の検討により、LiFePO4とLi2MnO3との混合正極と、黒鉛、チタン酸リチウム、珪素のいずれかを負極活物質として用いた負極とを組み合わせて電池を作製した場合も、負極の電位はほとんど変化しないが、正極の電位がLiFePO4とLi2MnO3との混合比に応じて変化をするので、電池残量(SOC)の検出が可能となることがわかった。
【0029】
[測定結果まとめ]
実験例1〜5の測定結果を表1に示し、LiFePO4とLi2MnO3との重量比に対する容量密度の測定値及び理論値との関係を図11に示す。表1及び図11に示したように、LiFePO4とLi2MnO3とを混合した混合正極を用いると、これらを単純に加重平均した理論容量密度よりも高い容量密度を示すことがわかった。特に、Li2MnO3の添加量が20%でしかない実験例5では、このLi2MnO3の96.7%もの容量密度を示した。このため、正極活物質中のMn量をも低減することができることがわかった。これは、オリビン型構造のリン酸鉄リチウム化合物とC2/m構造を有するリチウムマンガン複合酸化物とを混合したことによる特異的な効果であると考えられる。その詳細なメカニズムは不明であるが、Li金属対極に電気化学セルを組んで充電した場合に、4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電容量を有するというLi2MnO3をLiFePO4へ添加したことや、導電性の悪いLi2MnO3にLiFePO4を混合することで、Li2MnO3がより活性になったことなどが考えられる。また、導電性の観点から、LiFePO4の一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下の範囲にあり、Li2MnO3の一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下の範囲にあることも寄与しているものと推察された。更に、LiFePO4とLi2MnO3との混合比に応じて電位変化するSOC領域が生じるため、SOC検出が容易となる。例えば車載用電源などアプリケーションに応じて、要求される検出SOC領域は異なると考えられるので、混合比の決定には、アプリケーションの要求も考慮すればよい。
【0030】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】リチウムイオン二次電池10の一例の構成を表す構成図であり、図1(a)はリチウムイオン二次電池10の組立前の断面図、図1(b)はリチウムイオン二次電池10の組立後の断面図である。
【図2】LiFePO4正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図3】Li2MnO3電極/Li金属対極電池の充電曲線である。
【図4】Li2MnO3正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図5】LiFePO4:Li2MnO3=20:80の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図6】LiFePO4:Li2MnO3=50:50の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図7】LiFePO4:Li2MnO3=80:20の混合物の正極/Li金属負極電池の放電曲線である。
【図8】対極をLi金属とする黒鉛負極の放電曲線である。
【図9】対極をLi金属とするチタン酸リチウム負極の放電曲線である。
【図10】対極をLi金属とする珪素負極の放電曲線である。
【図11】LiFePO4とLi2MnO3との重量比に対する容量密度の測定値及び理論値との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0032】
10 リチウムイオン二次電池、12 円筒基体、14 キャビティ、16 負極、18 セパレータ、20 正極、22 リング、24 円柱、25 加圧ボルト、25a 貫通孔、26 蓋、26a 開口、27 絶縁用樹脂リング、28 パッキン、29 絶縁リング。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムマンガン複合酸化物は、Li2MnO3を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極は、前記正極活物質の前記リチウムマンガン複合酸化物がリチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極は、前記リチウムマンガン複合酸化物の一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、前記リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の表面に炭素が存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極は、前記負極活物質としてリチウム金属、炭素、珪素及びチタン酸リチウムのうち少なくとも1つを含んでいる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を備えた、電気自動車用電源。
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリン酸鉄リチウム化合物とリチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウムマンガン複合酸化物とを含む正極活物質を有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記リチウムマンガン複合酸化物は、Li2MnO3を含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極は、前記正極活物質の前記リチウムマンガン複合酸化物がリチウム金属を対極とした電気化学セルとして充電したときに4.4V以上5.0V以下の間で100mAh/g以上の初期充電量を有する、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の一次粒子の平均粒径が50nm以上500nm以下である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記正極は、前記リチウムマンガン複合酸化物の一次粒子の平均粒径が1μm以上10μm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の重量割合が20重量%以上80重量%以下であり、前記リチウムマンガン複合酸化物の重量割合が80重量%以下20重量%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記正極は、前記リン酸鉄リチウム化合物の表面に炭素が存在する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
前記負極は、前記負極活物質としてリチウム金属、炭素、珪素及びチタン酸リチウムのうち少なくとも1つを含んでいる、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池を備えた、電気自動車用電源。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−245808(P2009−245808A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−92211(P2008−92211)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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