説明

リチウムイオン二次電池用電極活物質、リチウムイオン二次電池用電極体およびリチウムイオン二次電池

【課題】出力やサイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池の製造に好適に用いることにできるリチウムイオン二次電池用電極活物質を提供すること、また、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質を用いて製造されるリチウムイオン二次電池用電極体、リチウムイオン二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明の電極活物質1は、LiCoOで構成された母粒子11と、LiTiOで構成された被覆層12とを有することを特徴とする。被覆層12の厚さは10nm以上100nm以下であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極活物質、リチウムイオン二次電池用電極体お
よびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、軽量で高容量であるばかりでなく、適当な正極活物質と組
み合わせることで高い電圧が得られるため、携帯電子機器、カメラ、時計、電動工具、ハ
イブリッド自動車用バッテリー等に広く応用されている。
正極活物質としては、LiMn、LiMnO、LiCoO、LiCo1−x
Ni、LiNiO等が知られており、中でも、高い充放電電圧と充放電容量の観
点から、LiCoOが好ましい。
【0003】
しかしながら、リチウムの持つ高い活性と有機電解液が用いられていることから、短絡
時の発火等の危険性が懸念されため、リチウム電池の設計においては安全性の確保が大き
な課題となる。
脱電解液化の試みとしてはゲルポリマー電解質を用いたリチウムポリマー電池やセラミ
ック電解質を採用したリチウムイオン電池が開発されている(例えば、特許文献1参照)
。特に、セラミック電解質を採用すると、電池反応によって電解質中を移動するイオンを
リチウムイオンのみとすることができ副反応がほとんど無く、可燃性の有機溶液を含まず
、さらにシール部材、液封止構造が簡略化可能または不要となり、リチウムイオン二次電
池の小型・薄型化が可能となる。
【0004】
セラミック電解質を用いたリチウムイオン二次電池の製造においては、セラミック電解
質粉を電極活物質とともに圧粉成型する方法がある。
しかし、このような方法では、セラミック電解質粉と電極活物質粉との界面や、セラミ
ック電解質粉同士の界面での接触が不十分となり、電池出力が十分に得られないだけでな
く、充放電サイクルに伴う体積変化によってその界面接触が不安定となりサイクル寿命が
劣化する。
【0005】
上記のような問題を解消するために、圧粉成型体を加熱し、焼結させることが考えられ
るが、一般に、セラミック電解質に用いられるセラミックは融点が高い(例えば、千数百
℃)ため、焼結に高温を必要とし、焼結時にセラミック電解質と電極活物質との間で相互
反応が生じてしまい、セラミック電解質や電極活物質が変質し、イオン伝導度や電極性能
の劣化が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−277997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、出力やサイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池の製造に好適に
用いることにできるリチウムイオン二次電池用電極活物質を提供すること、また、前記リ
チウムイオン二次電池用電極活物質を用いて製造されるリチウムイオン二次電池用電極体
、リチウムイオン二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明のリチウムイオン二次電池用電極活物質は、LiCoOで構成された母粒子と
、LiTiOで構成された被覆層とを有することを特徴とする。
このリチウムイオン二次電池用電極活物質によれば、LiCoO母粒子が熱的に安定
なLiTiO(融点1520℃ないし1564℃)で被覆されているので、LiCo
の融点である1100℃までの温度での焼成を施してもLiCoO母粒子が変質す
ることが無い。このため、セラミック電解質を電解質に用いたリチウムイオン二次電池を
高い温度での焼成により製造する際に、LiCoO母粒子が変質することがなく、出力
やサイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池の製造に好適に用いることができるリチ
ウムイオン二次電池用電極活物質を提供することができる。
【0009】
また、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質においては、前記被覆層の厚さが10
nm以上100nm以下であるのが好ましい。
このようにすれば、絶縁物であるLiTiOで構成された被覆層がLiCoO
粒子の変質を十分に抑制できるだけでなく、電池動作時にLiCoO母粒子表面におい
て生じる電子やリチウムイオンの授受を大きく妨げない。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用電極体は、前記リチウムイオン二次電池用電極活物
質と、セラミック電解質とを含む電極合材層と、集電極と、から構成され、前記集電極が
前記電極合材層の一方の側に、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質の一部を当接さ
せて設けられたことを特徴とする。
このリチウムイオン二次電池用電極体においては、前記リチウムイオン二次電池用電極
活物質とセラミック電解質とを含む電極合材層を含む。このように、電極活物質とセラミ
ック電解質の両方を含む電極合材層を形成することによって、セラミック電解質と電極活
物質との間のリチウムイオンの授受を速やかに行うことができる。
【0011】
このような電極合材層における電極活物質とセラミック電解質の分布は特に定められる
ものではないが、例えば、電極合材層の中で電極活物質とセラミック電解質のそれぞれが
単層をなして積層されている分布形態でもよいし、電極活物質とセラミック電解質のそれ
ぞれが粒子として混合されている分布形態でも良い。
また、このリチウムイオン二次電池用電極体においては、集電極が電極合材層の一方の
側に電極活物質の一部がそれと当接するように設けられている。これにより電池動作時の
電極活物質と集電極との間の電子授受が速やかに行われることが可能になる。
【0012】
また、このリチウムイオン二次電池用電極体は、前記電極合材層が焼結によって製造さ
れたことを特徴とする。
前記電極合材層においては、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質におけるLiC
oO母粒子は熱的に安定なLiTiO被覆層を介してセラミック電解質と接触する
。これにより、この電極合材層を焼成する際に、LiCoO母粒子とセラミック電解質
とが直接接触することがなく、両者を変質させることなく、LiCoOが融解する11
00℃以下の温度での焼成が可能となる。
【0013】
この様な高い温度での焼成によって、活物質粒子同士、セラミック電解質粒子同士、お
よび活物質粒子とセラミック電解質粒子との間の連結(焼結)を進行させることができる
ので、リチウムイオン二次電池用活物質粒子同士、セラミック電解質粒子同士、およびリ
チウムイオン二次電池用活物質粒子とセラミック電解質粒子との間の接触を十分なものと
することができ、電池動作時における活物質から集電極への電子伝導と、活物質からセラ
ミック電解質へのリチウムイオン電導とを円滑にし、本電極体を用いたリチウムイオン二
次電池の電池出力を十分に優れたものとすることができるとともに、サイクル寿命を特に
優れたものとすることができる。
【0014】
また、このリチウムイオン二次電池用電極体において、前記セラミック電解質は、ペロ
ブスカイト型チタン酸リチウムランタンで構成されるのが好ましい。
これにより、セラミック電解質とLiTiOとの相互反応は1200℃以上の温度
まで抑制でき、1100℃以下の温度での前記電極合材層の焼結が確実なものとなり、本
電極体を用いたリチウムイオン二次電池の電池出力を十分に優れたものとすることができ
るとともに、サイクル寿命を特に優れたものとすることができる。
さらに、ペロブスカイト型チタン酸リチウムランタンは、高いリチウムイオン電導度(
1.5×10−3S/cm)を有するため、セラミック電解質と電極活物質との間のリチ
ウムイオンの授受を速やかに行うことが可能となり、本電極体を用いたリチウムイオン二
次電池の出力を向上させることができる。
【0015】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記リチウムイオン二次電池用電極体を正極に用
いたことを特徴とする。
これにより、電池電圧の高い、出力やサイクル寿命に優れた、リチウムイオン二次電池
を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の電極活物質の構成を説明するための模式的な断面図である。
【図2】本発明の電極体の構成の一形態を説明するための模式的な断面図である。
【図3】本発明の電極体の構成の別の一形態を説明するための模式的な断面図である。
【図4】本発明のリチウムイオン二次電池の構成の一形態を説明するための模式的な断面図である。
【図5】本発明のリチウムイオン二次電池の構成の他の一形態を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
《リチウムイオン二次電池用電極活物質》
まず、本発明のリチウムイオン二次電池用電極活物質(以下、単に「電極活物質」とも
いう)について詳細に説明する。
このリチウムイオン二次電池用電極活物質によれば、LiCoO母粒子が熱的に安定
なLiTiO(融点1520℃ないし1564℃)で被覆されているので、LiCo
の融点である1100℃までの温度での焼成を施してもLiCoO母粒子が変質す
ることが無い。
【0018】
図1は、本発明の電極活物質の構成を説明するための模式的な断面図である。
電極活物質1は、LiCoOで構成された母粒子11と、LiTiOで構成され
た被覆層12とを有するものである。電極活物質1がこのような構成を有することにより
、電極活物質1をセラミック電解質とともに焼結する際に、これらの間で、好ましくない
相互反応が生じることを確実に防止することができ、セラミック電解質や電極活物質の変
質が原因となるイオン伝導度や電極性能の劣化等を確実に防止することができる。したが
って、本発明の電極活物質は、出力やサイクル寿命に優れたリチウムイオン二次電池の製
造に好適に用いることができる。
【0019】
<母粒子>
電極活物質(正極活物質)1を構成する母粒子11は、LiCoOで構成されたもの
である。
LiCoOは、公知の各種電極活物質の中でも、高い充放電電圧と充放電容量の観点
から、リチウムイオン二次電池の電極活物質として有利な材料である。また、単極電位が
高い(Li電極基準で3.9V)ことから、特に正極に用いるのに好適である。
【0020】
なお、母粒子11は、主としてLiCoOで構成されたものであればよく、LiCo
以外の成分(以下、「その他の成分」という)を所定の割合で含むものであってもよ
い。この場合、母粒子11中に占めるその他の成分の割合は、1.0質量%以下であるの
が好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。これにより、LiCoOその
ものが持っている特性を十分に発揮させることができる。
【0021】
<被覆層>
上述した母粒子11は、LiTiOで構成された被覆層12により被覆されている

被覆層12を構成するLiTiOは、融点が1520℃ないし1564℃であり、
熱的な安定性が高く、特に、焼結処理のような高温環境下での安定性が高い。これにより
、電極活物質1をセラミック電解質とともに焼結する際に、母粒子11を構成するLiC
oOとセラミック電解質との間で、好ましくない相互反応を生じず、LiCoOの融
点である1100℃までの温度での焼成を施してもLiCoO母粒子が変質することが
無い。これにより電極活物質1の変質が原因となるイオン伝導度や電極性能の劣化等を確
実に防止することができる。
【0022】
被覆層12の厚さは、10nm以上100nm以下であるのが好ましい。これにより、
絶縁物であるLiTiOで構成された被覆層がLiCoO母粒子の変質を十分に抑
制できるだけでなく、電池動作時にLiCoO母粒子表面において生じる電子やリチウ
ムイオンの授受を大きく妨げない。これに対し、被覆層12の厚さが前記下限値未満であ
ると、LiCoO母粒子の変質を抑制することができない。また、被覆層12の厚さが
前記上限値を超えると、電池動作時にLiCoO母粒子表面において生じる電子やリチ
ウムイオンの授受を大きく妨げ、出力電流が得られない。
【0023】
被覆層12は、いかなる方法で形成するものであってもよいが、例えば、母粒子11と
なるべきLiCoOの粒子と被覆層12の構成材料であるLiTiOの微粒子とを
含む液体(分散液)を調製し、この液体中でLiCoOの粒子とLiTiOの微粒
子とを秒集させる方法や、気相成膜法、錯体重合法等のゾルゲル法、アルコキシド法、有
機金属分解法等が挙げられる。
【0024】
なお、被覆層12は、主としてLiTiOで構成されたものであればよく、Li
TiO以外の成分(以下、「その他の成分」という)を所定の割合で含むものであって
もよい。この場合、被覆層12中に占めるその他の成分の割合は、1.0質量%以下であ
るのが好ましく、0.5質量%以下であるのがより好ましい。これにより、上述したよう
な本発明の効果を顕著なものとすることができる。
被覆層の厚みを変えるには、例えば、分散液に母粒子を浸漬する時間を変えたり、気相
成膜法において堆積時間を変えたり、浸漬するゾルゲル液の濃度を変えたりすればよい。
【0025】
《リチウムイオン二次電池用電極体》
本発明のリチウムイオン二次電池用電極体(以下、単に「電極体」ともいう)は、上述
したような本発明の電極活物質を含む材料で構成されたものである。電極体を本発明の電
極活物質を含む材料で構成されたものとすることにより、当該電極体を、出力やサイクル
寿命に優れたリチウムイオン二次電池の製造に好適に用いることにできる。
【0026】
図2は、本発明の電極体の構成の一形態を説明するための模式的な断面図である。
また、図3は本発明の電極体の構成の別の一形態を説明するための模式的な断面図であ
る。
電極体19は、前記電極活物質21と、セラミック電解質22とを含む電極合材層23
と、集電極25と、から構成される。集電極25は電極合材層23の一方の側に、電極活
物質21の一部を当接させて設けられたことを特徴とする。
このように、電極活物質とセラミック電解質の両方を含む電極合材層を形成することに
よって、セラミック電解質と電極活物質との間のリチウムイオンの授受を速やかに行うこ
とができる。
【0027】
このような電極合材層における電極活物質とセラミック電解質の分布は特に定められる
ものではないが、図2に例示するように、電極合材層23の中で電極活物質21とセラミ
ック電解質22のそれぞれが単層をなして積層されている分布形態でもよいし、図3に例
示するように、電極合材層24の中で電極活物質21とセラミック電解質22のそれぞれ
が粒子として混合されている分布形態でも良い。
【0028】
また、この電極体19または20においては、電極合材層の一方の側に集電極が、電極
活物質の一部がそれと当接するように設けられている。これにより電池動作時の電極活物
質と集電極との間の電子授受が速やかに行われることが可能になる。
電極合材層は、例えば、特開2011−65982号公報に記載された方法で形成する
ことができる。
【0029】
セラミック電解質22としては、以下に挙げる種々の材料が使用可能である。
(1)リチウムイオン導電性を有する無機結晶、無機ガラスまたは部分結晶化ガラス
(2)LiTi(PO、Li1.30.3Ti1.7(PO[ただし
、M=Al、Sc]などのNASICON型セラミック結晶
(3)Li0.35La0.55TiOなどのペロブスカイト型チタン酸リチウムラ
ンタン結晶
(4)LiSrTiTaO、Li3xLa1/3−xTaOなどのペロブスカイ
ト型セラミック結晶
(5)Li4−xSi1−x、Li4−xGe1−xなどのチオリシ
ン結晶
(6)Li14Zn(GeOなどのリシコン結晶
(7)Liドープβ−Al結晶
(8)上記結晶を含む部分結晶化ガラス
(9)LiS−SiS−LiPO系、LiS−P系などの硫化物ガラス
(10)LiO−SiO−B系、LiO−SiO−ZrO系酸化物ガ
ラス
(11)LIPONガラス(例えば、特開2004−179158号公報参照)
(12)LiI結晶
(13)LiPO結晶
(14)Li7LaZr12などのガーネット型セラミック結晶
【0030】
本発明の電極体を構成する電極合材層23、24は、電極活物質21とセラミック電解
質22を含む材料で構成されたものであればよく、その他の成分を含むものであってもよ
い。このような成分(その他の成分)としては、例えば、導電性物質やバインダー物質等
が挙げられる。
導電性物質としては、導電率が大きい材料を用いるのが好ましい。例えば、アセチレン
ブラックやケッチェンブラックなどのカーボン粒子や耐酸化性の高い金属(合金を含む)
を用いるのが好ましい。耐酸化性の高い金属としては、焼結した後に、導電率が1×10
S/cm以上の導電率を有する金属が挙げられる。このような金属の具体例としては、
Pd、Au、Pt等の単体貴金属や、Pd、Au、およびPtよりなる群から選択される
2種以上の金属を含む合金(例えば、PtPd合金)等が挙げられる。
また、バインダー物質としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフ
ィン、ポリアミド、ポリイミド等からなる有機物質などを用いることができる。
【0031】
本発明の電極活物質(正極活物質)は、セラミック電解質に加え、上記のような導電性
物質等との反応性も低いため、イオン伝導度や電極性能の劣化等を確実に防止することが
でき、確実に、最終的に得られるリチウムイオン二次電池を出力やサイクル寿命に優れた
ものとすることができる。
集電極25の構成材料としては、例えば、Cu、Ti、Fe、Co、Ni、Zn、Al
、Ge、In、Au、Pt、AgおよびPdよりなる群から選択される単体金属や、前記
群から選択される2種以上の元素を含む合金等が挙げられる。
【0032】
また集電極25は、電極合材層23、24が焼成により製造された後に取り付けること
も出来るし、後述するように、電極合材層23、24とともに焼成することも可能である

集電極25の取り付け方法の例としては、圧着、スパッタ蒸着、真空蒸着などが挙げら
れる。
また、電極合材層23、24は焼結によって製造されることができる。
【0033】
前記電極合材層においては、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質におけるLiC
oO母粒子は熱的に安定なLiTiO被覆層を介してセラミック電解質と接触する
。これにより、この電極合材層を焼成する際に、LiCoO母粒子とセラミック電解質
とが直接接触することがなく、両者を変質させることなく、LiCoOの融点以下の温
度での焼成が可能となる。
【0034】
前記電極合材層の焼成温度は、LiCoOの融点である1100℃以下とすることが
できる。セラミック電解質とLiTiO被覆層との好ましくない相互反応が1100
℃以下で生じる場合は、その相互反応が生じる温度以下で焼成してもよい。
さらに、前記電極合材層が前記導電物質やバインダー物質を含み、これらの導電物質や
バインダー物質と、セラミック電解質あるいはLiTiO被覆層との間の好ましくな
い相互反応が生じる場合は、その相互反応が生じる温度以下で焼成してもよい。
【0035】
この様な高い温度での焼成によって、活物質粒子同士、セラミック電解質粒子同士、お
よび活物質粒子とセラミック電解質粒子との間の連結(焼結)を進行させることができる
ので、リチウムイオン二次電池用活物質粒子同士、セラミック電解質粒子同士、およびリ
チウムイオン二次電池用活物質粒子とセラミック電解質粒子との間の接触を十分なものと
することができ、電池動作時における活物質から集電極への電子伝導と、活物質からセラ
ミック電解質へのリチウムイオン電導とを円滑にし、本電極体を用いたリチウムイオン二
次電池の電池出力を十分に優れたものとすることができるとともに、サイクル寿命を特に
優れたものとすることができる。
【0036】
なお、前記セラミック電解質22は、ペロブスカイト型チタン酸リチウムランタンで構
成された場合は、セラミック電解質22と前記電極活物質21のLiTiO被覆層と
の相互反応を1200℃以上の温度まで抑制できるので、1100℃以下の温度での前記
電極合材層の焼結が確実なものなる。このため、本電極体を用いたリチウムイオン二次電
池の電池出力を十分に優れたものとすることができるとともに、サイクル寿命を特に優れ
たものとすることができる。
さらに、ペロブスカイト型チタン酸リチウムランタンは、高いリチウムイオン電導度(
1.5×10−3S/cm)を有するため、セラミック電解質と電極活物質との間のリチ
ウムイオンの授受を速やかに行うことが可能となり、本電極体を用いたリチウムイオン二
次電池の出力を向上させることができる。
【0037】
《リチウムイオン二次電池》
次に、本発明のリチウムイオン二次電池について詳細に説明する。
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したような本発明の電極体を正極に用いたこ
とを特徴とする。本発明の電極体は、単極電位の高いLiCoOを含むため、当該電極
体を正極に用いることで、電池電圧の高く、出力やサイクル寿命に優れた、リチウムイオ
ン二次電池を提供することができる。
【0038】
図4は、本発明のリチウムイオン二次電池の構成の一形態を説明するための模式的な断
面図である。
このリチウムイオン二次電池50は、前記電極体として図2に示した電極体19を正極
40に用い、これの電極合材層23上、すなわち集電極25と反対の側に、負極活物質層
31と集電極26とをこの順に積層し、負極41としたものである。
【0039】
負極活物質層31としては、リチウム金属や、Li−In合金、Li−Al合金などの
金属活物質の箔を用いることもできるし、グラファイトやカーボン粉末、またはLi
12粉末などの活物質粉末に、バインダー粒子および/または導電粒子を添加した
ものを成型したものを用いることも可能である。ここで、バインダー粒子としては、例え
ばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド等からな
る粒子が用いられ、導電粒子としては、例えばアセチレンブラックやケッチェンブラック
などのカーボン粒子が用いられる。
【0040】
また、集電極26としては、前記電極体(19、20)の集電極25と同種の材料が用
いられる。
そして、電極体19と負極活物質層31及び集電極26とが積層されて、全体が加圧成
型されて一体化されることにより、リチウムイオン二次電池50が得られる。なお、正極
40側の集電極25には正極配線層(図示せず)が接続され、負極41の集電極26には
負極配線層(図示せず)が接続される。
【0041】
また、図5に示す別の実施形態のリチウムイオン二次電池51のように、前記電極体と
して図3に示した電極体20を正極40に用いることも可能である。
さらに、リチウムイオン二次電池51のように、電解質層30を正極40と負極41と
の間に設けることもできる。こうすることで、正極40と負極41との電気的短絡を確実
に防止することが可能である。
【0042】
この電解質層30としては、前記セラミック電解質22と同じ材料またはセラミック電
解質22を構成することのできる材料から構成されるセラミック電解質、リチウムビスト
リフルオロメタンスルフォニルイミド(LiTFSI)を添加したポリエチレンオキサイ
ドなどのポリマー電解質や、六フッ化リン酸リチウムや塩素酸リチウムを炭酸エチレンや
ジエチレングリコールに溶解した飽和溶液などの有機電解液をポリプロピレン製多孔質膜
(例えば、セルガード社製2400など)に含浸させたもの、などを好適に用いることが
できる。
【0043】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、例えば、コイン型、ボタ
ン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型等、いかなる形状であってもよい。
例えば、前述した実施形態では、正極と負極をそれぞれ一層ずつ有する構成のリチウム
イオン二次電池について代表的に説明したが、リチウムイオン二次電池は、正極、セラミ
ック電解質層および負極を、それぞれ、複数層有するものであってもよい。
また、前述した実施形態では、正極と負極が平板状をなす構成について代表的に説明し
たが、リチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極とを備えた積層体を捲回した構成
を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…電極活物質 11…母粒子 12…被覆層 19、20…電極体 21…電極活物
質 22…セラミック電解質 23、24…電極合材層 25、26…集電極 30…電
解質層 31…負極活物質層 40…正極 41…負極 50、51…リチウムイオン二
次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LiCoOで構成された母粒子と、
LiTiOで構成された被覆層とを有することを特徴とするリチウムイオン二次電
池用電極活物質。
【請求項2】
前記被覆層の厚さが10nm以上100nm以下である請求項1に記載のリチウムイオ
ン二次電池用電極活物質。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用電極活物質と、
セラミック電解質とを含む電極合材層と、
集電極と、から構成されるリチウムイオン二次電池用電極体において、
前記集電極が前記電極合材層の一方の側に、前記リチウムイオン二次電池用電極活物質
の一部を当接させて設けられたことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極体。
【請求項4】
前記電極合材層が1100℃以下の温度での焼結により製造されたことを特徴とする請
求項3に記載のリチウムイオン二次電池用電極体。
【請求項5】
前記セラミックス電解質が、ペロブスカイト型チタン酸リチウムランタンである請求項
3または4に記載のリチウムイオン二次電池用電極体。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用電極体が正極または負
極として用いられていることを特徴とするリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−54926(P2013−54926A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192534(P2011−192534)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】