説明

リチウムイオン伝導性固体電解質およびその製造方法

【課題】従来のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが有する、熱的安定性が低いという問題を解決し、リチウムイオン伝導性が高く、原ガラスの熱的安定性が高く、かつ容易に成形可能なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを提供すること。
【解決手段】ガラスセラミックス中(原ガラス中)の特定の成分の量を特定の範囲に限定することであり、具体的には酸化物基準の質量%で、ZrO成分を0.5%〜2.5%の範囲で含有させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン伝導率が高く、熱的にも化学的にも安定で、製造が容易なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年におけるエレクトロニクスの進歩は著しく、電子機器の小型化、軽量化、高性能化が急速に進んでいる。そこでこれらの機器用電源として、高エネルギー密度で長寿命の電池の開発が強く望まれており、中でもリチウムイオン電池への期待は日々大きいものとなっている。
【0003】
リチウムイオン電池の電解質材料として、特許文献1および特許文献2に開示されるリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが公知である。リチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは特定組成の原ガラスを熱処理することによってガラスの内部に結晶を析出させて得られるため、内部に気孔がほぼ存在せず、気孔がイオン伝導を阻害するということがないので、リチウムイオン伝導性の酸化物セラミックスと比較してイオン伝導性に優れているという特徴を有している。しかしながら、特許文献1に開示されているガラスセラミックスはその原ガラスの熱的な安定性が低いという問題を有しており、高いリチウムイオン伝導度を得つつも、原ガラスの熱的な安定性高くすることは困難であった。原ガラスの熱的な安定性が低いと、溶融ガラスを成形型にキャストして、成形する際にガラスに割れが生じやすくなり、ガラス成形時の熱的な管理を非常に厳格に行わなければならず、製造コストが高くなるという問題がある。また、熱的な安定性が低いとガラス成形時に失透が生じ易くなるという問題も生じる。ガラス成形時に生じる失透はその後の熱処理(結晶化)処理において所望の結晶を均一に析出させることが困難となり、高いリチウムイオン伝導度が得られないという結果となる。ガラス成形時に割れや失透を生じさせないためには原ガラスの成形時の熱的な条件を厳格に管理し、かつガラス成型時に溶融ガラスに与える衝撃をなるべく与えない様に、溶融ガラスの流出速度や流出条件等も厳格に管理する必要があった。
【0004】
また、特許文献2においては、ガラスの熱的安定性を向上させるために、M’23成分(但し、M’はIn,Fe,Cr,Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの中から選ばれる1種または2種以上)を加え、ガラスの熱的な安定性の評価に用いられるTx−Tgが大きく向上させることに成功しているが、工業的に低コストで量産できるだけの熱的安定性を得るには至っていない。また上記M’成分を有する原料は市場での流通価格が高く、これらの成分によって上記熱的安定性を得ることは好ましくない。
【0005】
【特許文献1】特開平11−157872号公報
【特許文献2】特開2000−34134号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題に鑑み、本発明は高いリチウムイオン伝導性が高く、原ガラスの熱的安定性が高く、容易に成形可能なリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、ガラスセラミックス中(原ガラス中)の特定の成分の量を特定の範囲に限定することによって、原ガラスの熱的安定性が高くなり、リチウムイオン伝導性が高いリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスが得られることを見いだし、この発明を完成したものであり、その具体的な構成は以下の通りである。
【0008】
(構成1)
酸化物基準の質量%で、ZrO成分を0.5%〜2.5%含有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成2)
原ガラスの結晶化開始温度をTx[℃]、原ガラスのガラス転移点をTg[℃]とする時、Tx−Tgの値が70℃以上160℃以下であることを特徴とする構成1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成3)
Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶相を含有する構成1または2に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成4)
酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種
の各成分を含有する構成1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成5)
酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する構成1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成6)
25℃におけるリチウムイオン伝導度が5.0×10−5S・cm−1以上であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
(構成7)
構成1から6に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを用いたことを特徴とする、リチウム電池用固体電解質。
(構成8)
厚さが0.5μm〜1000μmである構成7に記載のリチウム電池用固体電解質。
(構成9)
構成7または8に記載のリチウム電池用固体電解質を用いた電池。
(構成10)
酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
ZrO成分が 0.5%〜2.5%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種
の各成分を含有する原ガラスを溶融する工程と、
前記溶融した原ガラスを成形する工程と、
成形した原ガラスを熱処理によって
Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶相を析出させる結晶化工程と、
を有するガラスセラミックスの製造方法。
(構成11)
前記原ガラスは酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する構成10に記載のガラスセラミックスの製造方法。
(構成12)
構成10または11のいずれかで得られたガラスセラミックスを研削する工程と研磨する工程とを有するリチウム電池用固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原ガラスの熱的安定性が飛躍的に高まるため、原ガラスの溶融ガラスを成形型にキャストする場合にも幅広い温度条件下で安定して原ガラスを成形することが可能となる。また、溶融ガラスに与えられる衝撃もある程度まで許容されるので、溶融ガラスの流出速度や流出条件等も厳格に管理する必要がなくなる。そして、その後に熱処理(結晶化)して得られたガラスセラミックスのリチウムイオン伝導度は高い値を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明について詳細に説明する。本発明のガラスセラミックスの組成は、酸化物基準の質量%で表示し得る。ここで、「酸化物基準」とは、本発明の結晶化ガラスの構成成分の原料として使用される酸化物、硝酸塩等が溶融時にすべて分解され酸化物へ変化すると仮定して、結晶化ガラス中に含有される各成分の組成を表記する方法であり、「酸化物基準の質量%」とは、この生成酸化物の質量の総和を100質量%として、結晶化ガラス中に含有される各成分の量を表記することをいう。
また、上記酸化物基準によって表わされたガラスセラミックスの組成と、その原ガラスの組成は同様である。
以下ガラスセラミックスの組成を上記のように限定した理由について述べる。本明細書においては特に明記しない限り、ガラスセラミックスの組成を酸化物基準の質量%で表記する。
【0011】
本発明者はZrO成分の範囲を0.5%〜2.5%に特に限定することにより、原ガラスの安定性を飛躍的に高くすることが可能となり、かつ高いリチウムイオン伝導度を得ることが可能となることを見いだした。ZrO成分が0.5%未満である場合、結晶化の核が減少してしまうため、高いイオン伝導度を得るために必要な結晶化温度が高くなってしまう。結晶化温度を上げることによりイオン伝導度を高くすることは可能であるが、同時に結晶成長が進み過ぎてしまうため、クラックや内部の気孔の発生につながってしまう。2.5%を超える場合にガラスが溶けにくくなってしまい、より高い溶解温度が必要となる。また失透性が高く、ガラス化しにくくなってしまうため安定なガラス製造ができなくなってしまう。ZrO成分の下限は緻密で高いイオン伝導性を得る必要があるため、0.7%とすることがより好ましく、0.9%とすることが最も好ましい。また、上限値は失透性が高くなってしまうため、2.1%とすることがより好ましく、2%とすることが最も好ましい。
一般的にガラスの熱的な安定性の評価はTx[℃](ガラスの結晶化温度)とTg[℃](ガラスの転移温度)との差であるTx−Tgの値で評価され、この値が大きいほどガラスの熱的な安定性が良好となる。上記の構成により本発明のガラスセラミックスは原ガラスの熱的安定性が大幅に向上し、Tx−Tgの値が70℃以上であり、リチウムイオン伝導性は若干劣るものの最大で160℃の値を得ることができる。リチウムイオン伝導度なども考慮した総合的により好ましい態様においても72℃以上、最も好ましい態様においては74℃以上の値を得ることができる。
【0012】
本発明のガラスセラミックスはLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)の結晶相を含有することが好ましい。この結晶相を含有することにより、高いリチウムイオン伝導度を得られやすくなる。
【0013】
LiO成分はLiイオンキャリアを提供し,リチウムイオン伝導性をもたらすのに有用な成分である。LiO成分の下限は良好なリチウムイオン伝導度を得るために、3.5%以上であることが好ましく、3.7%であることがより好ましく、3.9%であることが最も好ましい。またLiO成分の上限は失透性が高くなってしまうため、5.0%以下であることが好ましく、4.8%以下であることがより好ましく、4.6%以下であることが最も好ましい。
【0014】
成分はガラスの形成に有用な成分であり,また上記結晶相の構成成分でもある。この成分の含有量が50%未満の場合には、ガラスの溶解温度が高くなってしまい、結果としてガラス化しにくくなってしまう。ガラス化しにくくなると熱間でのガラスの成形が難しく、特に大きなバルク状(例えば 200cm以上)のガラスを得る事が困難となりやすい。そのため含有量の下限値は50%以上であることが好ましく、50.5%以上であることがより好ましく、51%以上であることが最も好ましい。また、含有量が55%を越えると、熱処理(結晶化)において前記の結晶相がガラスから析出しにくく、所望の特性が得られにくくなるので、含有量の上限値は55%以下が好ましく、54.5%以下がより好ましく、54%以下が最も好ましい。
また、ガラスフォーマーであるPO成分の量に対して、ZrO成分の量が少ないと結晶化時の核生成が良好に生じず、微細な結晶ではなく大きな結晶となってしまい、イオン伝導度も緻密性も低くなってしまう。そのため、PO成分とZrO成分の質量%の比PO/ZrOの値は、25以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましく、35以上であることが最も好ましい。
O成分の量に対して、ZrO成分の量が多すぎると、ガラスの融点が上がり、かつガラス成形時に失透が生じやすくなってしまう。そのため、PO成分とZrO成分の質量%の比PO/ZrOの値は、100以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、75以下であることが最も好ましい。
【0015】
GeO成分はガラスの形成に有用な成分であり、またリチウムイオン伝導性の結晶相の構成成分になりうる成分である。この成分の含有量が10%未満の場合にはガラス化しにくくなり、上記の結晶相が析出しにくくなり高いリチウムイオン伝導性を得にくくなるため、含有量の下限値は10%以上であることが好ましく、11%以上であることがより好ましく、11.5%以上であることが最も好ましい。また、含有量が30%を超えるとイオン伝導性と耐久性が低くなってのため、含有量の上限値は30%以下が好ましく、28%以下がより好ましく、26%以下が最も好ましい。
【0016】
TiO成分はガラスの形成に有用な成分であり、またリチウムイオン伝導性の結晶相の構成成分になりうる成分である。この成分の含有量が8%未満の場合にはガラス化しにくくなり、上記の結晶相が析出しにくくなり高いリチムイオン伝導性を得にくくなるため、含有量の下限値は8%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましく、10%以上であることが最も好ましい。また、含有量が22%を超えると失透性が高くなってのため、含有量の上限値は22%以下が好ましく、21%以下がより好ましく、20%以下が最も好ましい。
【0017】
成分(但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種)は、原ガラスの熱的な安定をより高めることができると同時に、Al3+および/またはGa3+イオンが前記結晶相に固溶し、リチウムイオン伝導率向上にも効果があるため、含有量の下限値は5%以上であることが好ましく、6%以上であることがより好ましく、7%以上であることが最も好ましい。しかしその量が12%を超えると、かえってガラスの熱的な安定性が悪くなりガラスセラミックスの伝導率も低下してしまうため、含有量の上限値は12%以下にすることが好ましく、11%以下がより好ましく、10%以下が最も好ましい。
【0018】
SiO成分は、原ガラスの溶融性および熱的な安定性を高めることができると同時に、Si4+イオンが前記結晶相に固溶し、リチウムイオン伝導率の向上にも寄与するので任意に含有させることができる。しかしその量が2.5%を超えると、結晶化時にクラックが入り易くなってしまうため、リチウムイオン伝導率が低下してしまう。そのため、リチウムイオン伝導性を良好に維持するためには2.5%以下にすることが好ましく、2.2%以下にすることがより好ましく、2%以下にすることは最も好ましい。
【0019】
M’成分は(但し、M’はIn,Fe,Cr,Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの中から選ばれる1種または2種以上)ガラスの溶融性および熱的な安定性を高める効果があるので合計で5%まで含有させることができるが、これらの成分は市場で流通する原料の価格が非常に高価であるので、実質的に含有させないことが好ましい。
【0020】
また、ガラスの溶融性を更に向上するためにB,As,Sb,Ta,CdO,PbO,MgO,CaO,SrO,BaO,ZnO等を添加することも可能であるが、それらの量は3%以下に制限すべきである。これらを3%を越えて添加すると、伝導率が添加量に伴って著しく低下してしまう。
【0021】
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスは、以下の方法により製造することができる。すなわち、各出発原料を所定量秤量し、均一に混合した後、白金るつぼに入れて電気炉で加熱溶解する。1200〜1400℃に温度を上げ、その温度で2時間以上保持し溶解する。その後、溶融ガラスを鉄板上にキャストし、板状のガラスを作製する。こうして得られたガラスを、600〜1000℃で1〜24時間熱処理(結晶化)する。
【0022】
以上の工程により、Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)を主結晶相とする、リチウムイオン伝導率の高いガラスセラミックスが得られる。
【0023】
なお,次のような工程を用いてもほぼ同じ結果が得られる。すなわち、各出発原料を所定量秤量し、均一に混合した後、白金るつぼに入れて電気炉で加熱溶解する。1200〜1400℃に温度を上げ、その温度で2時間以上保持し溶解する。その後、この溶融体を水冷することによってガラスを作製する。こうして得られたガラスをボールミルで粉砕後,篩いを通して,ガラス粉末を得る。更にガラス粉末をプレス成形し,電気炉に入れて800〜1000℃で加熱することにより上記の結晶相を主結晶相とする、リチウムイオン伝導度の高いガラスセラミックスが得られる。
【0024】
本発明のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスのリチウムイオン伝導度は5.0×10−5S・cm−1以上であり、より好ましくは8.0×10−5S・cm−1以上、最も好ましくは1.0×10−4S・cm−1以上の値を得ることができる。
【0025】
また、上記の方法で得られたガラスセラミックスを、リチウムイオン二次電池やリチウム一次電池等のリチウム電池用固体電解質として使用するためには、作製する電池の大きさに合わせて加工すれば良い。例えば形状として薄板状に加工すれば良く、通常ガラスやガラスセラミックスで使用される公知の研削方法、研磨方法を用いればよい。
【0026】
リチウム電池用の固体電解質として使用する場合、その厚みの下限値は電池用途として必要な機械的強度を得るために0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が最も好ましい。また、厚みの上限値はリチウムイオン伝導性を良好にするために1000μm以下が好ましく、500μm以下がより好ましく、300μm以下が最も好ましい。
【0027】
上記のリチウム電池用の固体電解質の両側に正極材料及び負極材料を配置し、さらに公知の集電体を配置し、公知の方法でパッケージングすることにより、リチウム一次電池またはリチウムイオン二次電池等の電池を得る事ができる。
【0028】
本発明のリチウム一次電池の正極材料には、リチウムの吸蔵が可能な遷移金属化合物や炭素材料を用いることができる。例えば、マンガン,コバルト,ニッケル,バナジウム,ニオブ、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種を含む遷移金属酸化物等や、グラファイトやカーボン等を使用することができる。
【0029】
また、このリチウム一次電池の負極材料には、金属リチウムや、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金などリチウムの放出が可能な合金等を使用することができる。
【0030】
本発明のリチウム二次電池の正極材料に使用する活物質としては、リチウムの吸蔵,放出が可能な遷移金属化合物を用いることができ、例えば、マンガン,コバルト,ニッケル,バナジウム,ニオブ、モリブデン、チタンから選ばれる少なくとも1種を含む遷移金属酸化物等を使用することができる。
【0031】
また、このリチウム二次電池において、その負極材料に使用する活物質としては、金属リチウムやリチウム−アルミニウム合金、リチウム−インジウム合金などリチウムの吸蔵、放出が可能な合金、チタンやバナジウムなどの遷移金属酸化物及び黒鉛などのカーボン系の材料を使用することが好ましい。
【0032】
正極および負極には、固体電解質に含有されるガラスセラミックスと同じものを添加するとイオン伝導が付与されるため、より好ましい。これらが同じものであると電解質と電極材に含まれるイオン移動機構が統一されるため、電解質―電極間のイオン移動がスムーズに行え、より高出力・高容量の電池が提供できる。
【0033】
また、本発明の固体電解質はリチウム−空気電池の電解質として好適に用いることが出来る。例えば、負極をリチウム金属とし、本発明の固体電解質を配し、多孔質の炭素系材料を正極とすることでリチウム−空気電池を得る事ができる。
【実施例】
【0034】
以下、本発明に係るガラスセラミックス、これを用いたリチウムイオン二次電池およびリチウム一次電池について、具体的な実施例を挙げて説明する。なお、本発明は下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0035】
[実施例1〜4および比較例1〜3]
原料として日本化学工業株式会社製のHPO、Al(PO、LiCO、株式会社ニッチツ製のSiO、堺化学工業株式会社製のTiO、住友金属鉱山製のGeO、日本電工製のZrOを使用した。これらを酸化物換算の質量%で表1に記載の組成になるように秤量して均一に混合した後に、白金ポットに入れ、電気炉中1350℃の温度で撹拌しながら3時間加熱・熔解してガラス融液を得た。その後、ガラス融液をポットに取り付けた白金製のパイプから加熱しながら、300℃に加熱したINCONEL600製(INCONELは登録商標)の金属の型に流し込んだ。その後ガラスの表面温度が600℃以下になるまで放冷し、その後550℃に加熱した電気炉中に入れ、室温まで徐冷することにより、熱的な歪を取り除いたガラスブロックを作製した。
【0036】
成形時の金型温度を種々変えて実験したところ、実施例1〜4では200℃〜400℃の間の温度でガラスブロックを取得することが可能であった。200℃以下では成形後に電気炉に入れると少し割れが生じ、また400℃以上では、底面では少し失透しやすく、乳白が見られることがあった。比較例1では、実施例1〜4と同様な成形性であったが、高いリチウムイオン伝導度が得られなかった。比較例2では200℃以下では非常に割れ易く、また350℃以上の温度で底面の失透がみられ、実施例1〜4と比較して、成形可能な温度範囲が狭かった。比較例3では、金型温度に関わらず、失透のないガラスの取得はできなかった。
【0037】
得られたガラスを、約0.5mm程度まで砕き、NETSZCH製の熱分析装置STA−409を用いて、ガラス転移点(Tx)および結晶化開始温度(Tg)の測定を行ない、ガラスの安定性をしめすTx−Tg[℃]の値を求めた。このとき、失透してガラスが得られなかったものは測定を行なわなかった。
【0038】
得られたガラスブロックを切断し、Φ25.7mm、厚み1mmのディスク状に加工し、アルミナ製のセッターに挟み、890℃にて12時間熱処理を行ない、結晶化処理を行なった。
結晶化後のガラスセラミックスは、Φ25.4mm、厚み1mmであった。このディスク状のガラスセラミックスの両面を研削研磨して、Φ25.4mm、厚み0.25mmのガラスセラミックスを得た。
【0039】
サンユー電子製のクイックコーターを用い、金をターゲットとしてガラスセラミックスの両面にスパッタを行ない、金電極を取り付けた。ソーラートロン社製のインピーダンスアナライザーSI−1260を用い交流二端子法による複素インピーダンス測定により25℃におけるリチウムイオン伝導度を算出した。また、フィリップス社製の粉末X線回折測定装置を用いてガラスセラミックスに析出した結晶を同定したところ、いずれのガラスセラミックスもLi1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Ga)が主結晶相であることが確認された。
【0040】
表1に実施例1〜4と比較例1〜3の組成と、測定したTx−Tg(℃)の測定値、25℃におけるリチウムイオン伝導度の測定値の結果を示す。
また、図1に実施例1の粉末X線回折パターンを示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜4の組成のように、本発明のガラスセラミックスは、In,Fe,Cr,Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu等市場で流通する原料の価格が非常に高価な成分を実質的に含有させなくとも、Tx−Tgが70℃以上であり、ガラスを安定して製造することができ、かつ結晶化後のイオン伝導度も1×10−4Scm−1以上と高い値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の粉末X線回析パターンを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、ZrO成分を0.5%〜2.5%含有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項2】
原ガラスの結晶化開始温度をTx[℃]、原ガラスのガラス転移点をTg[℃]とする時、Tx−Tgの値が70℃以上160℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項3】
Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶相を含有する請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種
の各成分を含有する請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項6】
25℃におけるリチウムイオン伝導度が5.0×10−5S・cm−1以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックス。
【請求項7】
請求項1から6に記載のリチウムイオン伝導性ガラスセラミックスを用いたことを特徴とする、リチウム電池用固体電解質。
【請求項8】
厚さが0.5μm〜1000μmである請求項7に記載のリチウム電池用固体電解質。
【請求項9】
請求項7または8に記載のリチウム電池用固体電解質を用いた電池。
【請求項10】
酸化物基準の質量%で、
LiO 3.5%〜5.0%
50%〜55%、
GeO 10%〜30%
TiO 8%〜22%、
ZrO成分が 0.5%〜2.5%、
5%〜12%、但し、M=Al,Gaの中から選ばれる1種または2種
の各成分を含有する原ガラスを溶融する工程と、
前記溶融した原ガラスを成形する工程と、
成形した原ガラスを熱処理によって
Li1+X+Z(Ge1−YTi2−X3−ZSi12(0<X≦0.6,0.2≦Y<0.8,0≦Z≦0.5、M=Al、Gaの中から選ばれる1種または2種)の結晶相を析出させる結晶化工程と、
を有するガラスセラミックスの製造方法。
【請求項11】
前記原ガラスは酸化物基準の質量%で、
SiO 0%〜2.5%、
の成分を含有する請求項10に記載のガラスセラミックスの製造方法。
【請求項12】
請求項10または11のいずれかで得られたガラスセラミックスを研削する工程と研磨する工程とを有するリチウム電池用固体電解質の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−227474(P2009−227474A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−71178(P2008−71178)
【出願日】平成20年3月19日(2008.3.19)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】