説明

リチウムイオン蓄電デバイスの製造方法

【課題】製造プロセスを追加することなく簡便にプレドープを実施し、安全性を損なうことなく、エネルギー密度向上とサイクル特性向上を達成すること。
【解決手段】
リチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極18と、合金系負極活物質を有する負極12と、を備えたリチウムイオン蓄電デバイス10の製造方法であって、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高くした。既存の活物質材料、すなわち、プレドープを行うための特別な製造過程を施していない活物質材料を用いて充電電位をコントロールするのみで正極から負極12へプレドープを行うことができる。従って、プレドープのために第3極を設けることなく、製造コストを低減させつつ安全にプレドープを行うことができ、エネルギー密度の低下も抑制できる。さらに、充電電位をコントロールすることで、サイクル特性の劣化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極を備えたリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や携帯型情報通信関連機器等の多岐の分野にわたり、リチウムイオン二次電池等のリチウムイオン蓄電デバイスが使用されている。このようなリチウムイオン蓄電デバイスにおいて、負極活物質の不可逆容量分を補う等の目的で予め負極にリチウムイオンをドープする垂直プレドープ法が知られている。
【0003】
垂直プレドープ法は、例えば、特許文献1に記載されている。垂直プレドープ法では、正極、負極の他に、正極や負極にリチウムイオンを供給するための第3極を用いて、集電体に設けられた貫通孔からリチウムイオンを集電体に直交するように通過させて正極や負極に供給する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4126157号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のように垂直プレドープ法では、正極、負極以外にリチウム極等の第3極を用いる必要があるために、プレドープを行わない従来のリチウムイオン蓄電デバイスよりも製造工程が複雑になり、時間とコストが必要となる。また、第3極を構成する材料として金属リチウムを使用するため、プレドープ後に金属リチウムが微粉として残留する可能性があり、安全性に影響を及ぼす。さらに、プレドープ型の蓄電デバイスの場合、第3極はプレドープ完了後に不要となるため、第3極がない場合と比べるとエネルギー密度的に不利である。
【0006】
本発明は、製造プロセスを追加することなく簡便にプレドープを実施し、安全性を損なうことなく、エネルギー密度向上とサイクル特性向上を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明にかかるリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法は、リチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極と、合金系負極活物質を有する負極と、を備えたリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法であって、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高くしたことを特徴とする。
【0008】
このように、本発明では、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高くする、すなわち、充電電位を制御するだけで、第3極を用いることなく正極から負極へのプレドープを行うことができる。より詳細には、1サイクル目の充電電位を高くすることで、負極へのプレドープを確実に行いつつ、2サイクル目の充電電位(以降のサイクルの充電電位)を低下させることで、サイクル特性を良好に保つことができる。特に、充電電位を1サイクル目の電位のまま高く設定した状態でサイクルを行うと電解液の分解(セル膨れ)や活物質の崩壊などの原因でサイクル劣化が生じ、一方で、1サイクル目の充電を低い充電電位で行い、移行のサイクルも低い充電電位のままで行うと、合金系材料のSOC0%近傍を利用することになり、負極の劣化を促進させる。これに対して、本発明では、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高くすることでこのような不具合を防止することができるものである。
【0009】
また、正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%〜167%であることが好ましい。すなわち、充電容量に電位依存性がある材料を正極活物質として用い、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高く設定することで、充電電位差分の容量が負極へ受け渡される。この充電電位差分の容量が負極へのプレドープ容量となるが、この容量を規定する。
【0010】
更に、正極の1サイクル目の充電電位(vs.Li/Li)は、4.4V以上であることが好ましく、特に、4.4v以上で4.6v以下であることが好ましい。また、この場合、2サイクル目の充電電位は1サイクル目の充電電位に対して、93〜98%程度であることが好ましい。
【0011】
また、正極活物質が第1の活物質と第2の活物質とを含み、第1の活物質は4.4V未満の容量が第2の活物質よりも大きく、第2の活物質は4.4V以上の容量が第1の活物質よりも大きくすることが好ましい。これにより、正極活物質に対して、4.4V以上の高充電電位側においてプレドープに必要な大きな容量を有し、4.4V未満の低充電電位側においても大きな容量を有するという理想的な化学的性質を与えることができる。
【0012】
更に、負極活物質の使用領域が全容量の4〜80%であることが好ましく、特に、10〜70%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、既存の活物質材料、すなわち、プレドープを行うための特別な製造過程を施していない活物質材料を用いて充電電位をコントロールするのみで正極から負極へプレドープを行うことができる。従って、プレドープのために第3極を設けることなく、製造コストを低減させつつ安全にプレドープを行うことができる。また、第3極を設ける必要がないので、エネルギー密度の低下を抑制できる。さらに、充電電位をコントロールする(特に2サイクル目以降の充電電位を低くする)ことで、サイクル特性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例における蓄電デバイス内部を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態にかかるリチウムイオン蓄電デバイス10の内部を模式的示した図である。本実施の形態にかかるリチウムイオン蓄電デバイス10は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な正極活物質を有する正極18と、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な負極活物質を有する負極12と、正極18と負極12間を満たす非水電解液(図示せず)とを備え、正極18と負極12との間におけるリチウムイオンの移動により充放電を行い、放電時に電流を取り出すことができるデバイスである。
【0016】
正極18と負極12とはフィルム状のセパレータ25を介して積層されており、セパレータ25には非水電解液が浸透している。正極と負極とが複数ある場合には、正極18と負極12とが交互に積層される。また、平板上に積層される積層型の電極ユニットや積層したものを捲回した捲回型の電極ユニットのいずれでも本実施の形態に適用できる。
【0017】
ここで、「ドープ」とは、吸蔵・挿入の他に吸着・担持等も含む概念であり、「脱ドープ」とはその逆の概念である。例えば、リチウムイオン蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池やリチウムイオンキャパシタ等が含まれる。
【0018】
本実施形態において、負極12は、Cu箔等の金属基板からなり外部回路と接続のためのリード24が設けられた集電体14と、集電体14の片面または両面に設けられた負極活物質層16とから構成される。負極活物質層16は、負極活物質、バインダー、及び導電助剤をNMP等の溶媒を用いてスラリーにし、塗布・乾燥させて形成される。
【0019】
負極活物質は、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な物質であって、金属材料、その他リチウムイオンを吸蔵可能な炭素材料や金属材料や合金材料や酸化物、又はこれらの混合物が用いられる。負極活物質の粒径は0.1〜30μmであることが好ましい。金属材料としては例えばシリコンやスズが挙げられる。合金材料としては例えばシリコン合金やスズ合金が挙げられる。酸化物としては例えば酸化シリコン、酸化スズ、酸化チタンが挙げられる。炭素材料としては例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、ポリアセン系有機半導体等が挙げられる。これらの材料を混合して用いても良い。本発明では、シリコン元素やスズ元素等を含む合金系負極を有する蓄電デバイスに対し特に効果的である。
【0020】
本実施形態において、正極18は、Al箔等の金属基板からなり外部回路と接続のためのリード26が設けられた集電体20と、集電体20の片面または両面に設けられた正極活物質層22とから構成される。正極活物質層22は、正極活物質、バインダー、及び導電助剤をNMP等の溶媒を用いてスラリーにし、塗布・乾燥させて形成される。
【0021】
本実施の形態では、正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%〜167%となるように、正極活物質の種類、量、及び充電電位が調整される。正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%〜167%とは、1サイクル目の充電容量を2サイクル目の充電容量で割った値であり、111%とは1サイクル目の充電容量を100とした場合に2サイクル目の充電容量が90に相当し、167%とは1サイクル目の充電容量を100とした場合に2サイクル目の充電容量が60に相当する。
【0022】
1サイクル目の充電とは、蓄電デバイスを組み上げた後に初めて充電(リチウムイオンを正極側から放出し負極側に挿入すること)を行うことをいう(初回充電)。1サイクル目の放電とは、上記初期充電の後に初めて放電(リチウムイオンを負極側から放出し正極側に挿入すること)を行うことをいう(初回放電)。1サイクル目の充電と放電を1セットで1サイクルという。
【0023】
本実施の形態にかかる正極活物質は、高電位側に大きな容量を有することが好ましい。
【0024】
本実施の形態では、1サイクル目の高い充電電位から2サイクル目の低い(通常使用する)充電電位の差に相当する容量(リチウムイオン量)が負極活物質へプレドープされることとなる。なお、プレドープとは、1サイクル目の充電の前に予め負極にリチウムイオンをドープすることを意味し、負極活物質の不可逆容量分を負極外部から補う際や、負極活物質の使用領域(SOC)の下限を所望の値に調整する際に用いられる手法である。プレドープは40℃以下の環境下が行われることが好ましい。40℃以下という低温の環境下では、プレドープ時の電解液からのガス発生や、SEI被膜(固体電解質被膜)の形成が回避される。これにより、プレドープが均一に行われる。
【0025】
本実施の形態においては、プレドープのみの充電工程は設けておらず、1サイクル目の充電初期にプレドープ分が負極へ充電される。よって、本実施の形態にかかる正極活物質においては、高電位側においてプレドープに必要な量だけ容量を有している必要がある。高い充電電位にも低い(通常使用する)充電電位にも大きな容量がある正極活物質が理想的であるが、現在知られている正極活物質でそのようなものは少ない。よって、本実施の形態では、単一の正極活物質でもよいし、複数種類の正極活物質を混合して所望の充放電特性を得るようにしてもよい。例えば、正極の1サイクル目の充電電位は4.4V以上、2サイクル目以降の充電電位は4.4V未満であることが好ましい。
【0026】
正極活物質としては、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能なリチウム含有化合物であって、酸化物、リン酸塩、窒化物、有機物、硫化物(有機硫黄、無機硫黄を含む)、金属錯体、導電性高分子、金属等を用いることができる。特にリチウム放出量の大きい正極活物質が好ましく、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO等の遷移金属酸化物やリン酸塩、アルコキシド材料、フェノキシド材料、ポリピロール材料、アントラセン材料、ポリアニリン材料、チオエーテル材料、チオフェン材料、チオール材料、スルフラン材料、プルスルフラン材料、チオラート材料、ジチアゾール材料、ジスルフィド材料、ポリチオフェン材料等の有機化合物や硫化物や導電性高分子、またはリチウムを予め付与した無機硫黄などを使用することができる。正極活物質の粒径は0.1〜30μmであることが好ましい。
【0027】
本実施の形態に用いられる電解液は、高電圧でも電気分解を起こさないという点、リチウムイオンが安定に存在できるという点から、非水電解液であり、一般的なリチウム塩を電解質とし、これを溶媒に溶解した電解液を使用する。電解質や溶媒は特に制限されるものではないが、例えば、電解質としては、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiB(C、CHSOLi、CFSOLi、(CSONLi、(CFSONLi等やこれらの混合物を用いることができる。これらの電解質は単独使用しても、複数種類を併用してもよい。本実施の形態では、LiPFやLiBFが特に好ましく使用される。さらに、非水電解液の溶媒としては、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(MEC)等の鎖状カーボネート、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート、アセトニトリル(AN)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、1,3-シオキソラン(DOXL)、ジメチルスホキシド(DMSO)、スルホラン(SL)、プロピオニトリル(PN)等の比較的分子量の小さい溶媒、又はこれらの混合物を使用することができる。本実施の形態の電解液における溶媒は鎖状カーボネートと環状カーボネートの混合物であると好ましい。2種類以上の鎖状カーボネートや2種類以上の環状カーボネートを用い多混合物であってもよい。また、必要に応じて溶媒にはフルオロエチレンカーボネート(FEC)等が添加される。
【0028】
本実施の形態では、負極活物質の使用領域が、全容量の4〜80%であることが好ましい。負極活物質の使用領域が全容量の4〜80%であれば、サイクル特性が向上する。負極活物質の使用領域が全容量の10〜70%であることがさらに好ましい。4%未満、80%超の領域では電極へのダメージが大きく、サイクル特性が低下する。負極活物質の使用領域とは、正負極が組み合わされたセルからエネルギーを取り出すために行う充電末端と放電末端の間のSOC(State Of Charge)領域のことであり、1サイクル目の充電容量がこれにあたる。負極活物質の全容量とは、充放電可能な最大の容量のことであり、0%から100%のSOC領域のことである。負極活物質の使用領域は、プレドープ量と正極の可逆容量でコントロールすることができる。すなわち、負極へのプレドープ量で負極活物質の使用領域の下限値を規定でき、それに加えて正極の可逆容量で負極活物質の使用領域の上限値を規定することができる。
【0029】
正極活物質は不可逆容量を有しており、この不可逆容量はリチウムイオンを負極へ一旦放出し、その後受け取ることができない容量であるので、負極へのプレドープ容量とおおよそ等しくなる。つまり、正極活物質の不可逆容量を調整することで負極へのプレドープ量を規定することができる。なお、正極活物質の不可逆容量は正極の充電電位に応じて変化するため、本実施の形態では、正極の1サイクル目の充電容量と2サイクル目の充電容量の比率を正極の不可逆容量に準ずる指標として用いている。よって、正極の1サイクル目の充電容量と2サイクル目の充電容量の比率で間接的にプレドープ量を表している。
【0030】
本実施の形態では、正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%〜167%となるように、正極活物質の種類および量が調整される。正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%とは、1サイクル目の充電容量を100とした場合に2サイクル目の充電容量が90に相当し、167%とは1サイクル目の充電容量を100とした場合に2サイクル目の充電容量が60に相当する。
【0031】
以上のように、本実施の形態によれば、充電容量に電位依存性がある材料を正極活物質として用い、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高く設定することで、充電電位差分の容量が負極へ受け渡される。この充電電位差分の容量が負極へのプレドープ容量となる。
【0032】
しかし、充電電位を高く設定したままサイクルを行うと電解液の分解(セル膨れ)や活物質の崩壊などの原因でサイクル劣化が生じる。また、充電電位を低いままでサイクルを行うと、合金系材料のSOC0%近傍を利用することになり、負極の劣化を促進させる。
【0033】
そこで、1サイクル目で電位差を利用したプレドープを行い、その後充電電位を低く設定することで、正極活物質、特に合金系の活物質材料の劣化を促進させることなく、かつ安定に正極を使用し続けることができる。これにより、サイクル特性を向上させることができる。
【0034】
また、1サイクル目の充電電位や正極活物質の不可逆容量をコントロールすることで、任意のプレドープ状態を作ることができ、エネルギー密度、サイクル特性、安全性、および出力特性等を最適化することができる。任意のプレドープ状態を作るために正極活物質が本来有している不可逆容量分や高電位サイトを利用することで、金属リチウム極などの第3極のセル内への導入や正極の可逆容量分を使用することによる目付け増などの重量増が抑制されるためセルのエネルギー密度が向上する。また、正極の可逆容量と負極の可逆容量が最大限に使用でき、材料のポテンシャルを余すことなく発揮することができることもセルのエネルギー密度向上に寄与する。さらにセル設計(正負極の組合せ)により、プレドープ量および可逆容量を任意に調整ができるため、負極の最適なSOC領域を利用することができ、コスト増に繋がる特殊な操作なしにサイクル特性向上に貢献できる。
【0035】
また、耐久性が飛躍的に向上するという効果に加えて、プレドープ工程が極めて簡単でかつ短時間で完了するという生産性の面で優れた効果が得られる。
【0036】
さらに、本実施の形態にかかる蓄電デバイスでは、対向する電極からリチウムイオンが移動するため、プレドープ時の電解液からのガス発生や、SEIの形成が回避され、リチウムイオンの正負極へのプレドープが均一に行われるという品質面での効果も得られる。
【0037】
また、短時間での処理により、電極の電解液による含浸も均一に行われ、負極へのリチウム金属析出の可能性も低下することになる。プレドープの均一化とリチウム析出の可能性低下により、蓄電デバイスの歩留まりが飛躍的に改善され、工業的に重要な利益が得られる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(1)正極の作製
正極活物質としてLiCoOを80重量部とLiMnOを10重量部、バインダーとしてPVdFを5重量部、導電助剤としてカーボンブラックを5重量部を秤量し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)100重量部を用いて正極スラリーを調製した。Al箔集電体(塗工部分26×40mm、厚み10μm、リード接続用の凸状タブ部あり)上に、正極スラリーをドクターブレード法により塗布、乾燥後、プレスにより、厚み150μmの正極活物質層を形成した。正極活物質層の目付けは20mg/cmとし、負極活物質の全容量の50%となるようにした。
(2)負極の作製
負極活物質としてシリコン(アルドリッチ社製のシリコンパウダー)を粒径5μm以下に粉砕したものを70重量部、バインダーとしてポリイミドを15重量部、導電助剤としてカーボンブラックを5重量部を秤量し、NMP130重量部を用いて負極スラリーを調製した。Cu箔集電体(塗工部分24×38mm、厚み10μm、リード接続用の凸状タブ部あり)上に、負極スラリーをドクターブレード法により塗布、乾燥後、プレスにより、厚み30μmの負極活物質層を形成した。負極活物質層の目付けは10mg/cm3とした。
(3)セルの作製
正極と負極とを、それぞれの活物質層が対向するようにポリエチレンセパレータ(厚み25μm)を介して積層させた。正極集電体のタブ部にアルミニウム製のリードを溶接し、負極集電体のタブ部にニッケル製のリードを溶接した。この正極、負極からなる積層体を、アルミニウムラミネートの外装材を用いて、各リードを外部に露出させつつ電解液注入口を残して密閉融着した。電解液注入口より、リチウム塩としてLiPFを1.2M溶解したEC/DMC/FECが70:25:5の混合溶媒を用いた電解液を注入し、その後アルミニウムラミネートの外装材を完全に封止した。
(4)充放電試験
上述のように作製したセルの正極と負極のそれぞれのリードを、充放電試験装置(アスカ電子社製)の対応する端子に接続した。正極の充電電位が4.6Vとなるまで0.1Cの充電レートで初回充電を行い、初回の充電容量を測定した。その後、正極電位が3.0Vになるまで0.1Cの放電レートで初回放電を行い、初回の放電容量を測定し、1サイクル目の充放電を終了した。
【0040】
次に、正極電位が4.3Vとなるまで0.1Cの充放電レートで2サイクル目以降の充電を行い、2サイクル目の充電容量を測定した。その後、正極電位が3.0Vになるまで0.1Cの放電レートで2サイクル目の放電を行った。正極の初回充電容量は2サイクル目の充電容量の150%であった。
【0041】
以降、正極電位が3.0Vから4.3Vとなるようなセル電圧範囲で、30サイクル目まで充放電を行い、30サイクル目の放電容量を測定した。30サイクル後の容量維持率は82.7%であり、良好なサイクル特性を示すことがわかった。
【0042】
(実施例2)
初回充電電位を4.5Vとした以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。正極の初回充電容量は2サイクル目の充電容量の130%であった。30サイクル後の容量維持率は89.5%であり、良好なサイクル特性を示すことがわかった。
【0043】
(実施例3)
初回充電電位を4.4Vとした以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。正極の初回充電容量は2サイクル目の充電容量の115%であった。30サイクル後の容量維持率は89.1%であり、良好なサイクル特性を示すことがわかった。
【0044】
(比較例1)
初回充電電位を4.3Vとした以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。正極の初回充電容量は2サイクル目の充電容量の108%であった。30サイクル後の容量維持率は46.3%であり、サイクル劣化が見られた。
【0045】
(比較例2)
2サイクル目以降の充電電位を4.6Vとした以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。正極の初回充電容量は2サイクル目の充電容量の150%であった。30サイクル後の容量維持率は2.3%であり、著しいサイクル劣化が見られた。さらに、アルミニウムラミネートの外装材が膨らんでいることが目視で確認できた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
上記結果のように、初回充電電位を2サイクル目移行の充電電位よりも高くすることで、サイクル特性を大幅に向上させることができた。
【0049】
本実施例1〜3では、一例として、4.3Vまでで比較的大きい容量を持つLiCoOと、4.3Vよりも高い電位に大きな容量を持つLiMnOを混合した活物質を使用した。サイクルで使用する電圧範囲よりも高い領域に容量を有するLiMnOは、通常使用しない容量を多く持つことなり、リチウムイオン二次電池等の正極活物質としてはあまり用いられない。しかしながら、本実施例では、高電位側に多くの容量を持つ正極活物質を用いてプレドープを行うと、正極における単位重量あたりのプレドープに関与するリチウムイオン数が増加するため、従来プレドープに必要であった正極目付分を低減することができ、エネルギー密度向上が達成されている。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変更が可能である。例えば、正極の材料、負極の材料、セパレータの材料、及び電解液の種類等は、上記列挙したものに限られず請求項に記載された構成を満たす範囲で適宜変更することが可能である。また、1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高く行うようにすれば、各充電電位の値は上記実施の形態及び実施例で開示した数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0051】
10 リチウムイオン蓄電デバイス
12 負極
14 負極集電体
16 負極活物質層
18 正極
20 正極集電体
22 正極活物質層
24 リード
25 セパレータ
26 リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム含有化合物を含む正極活物質を有する正極と、合金系負極活物質を有する負極と、を備えたリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法であって、
1サイクル目の充電電位を2サイクル目以降の充電電位よりも高くしたことを特徴とするリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項2】
前記正極の1サイクル目の充電容量が2サイクル目の充電容量の111%〜167%であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項3】
正極の1サイクル目の充電電位が4.4V以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項4】
前記正極活物質が第1の活物質と第2の活物質とを含み、
前記第1の活物質は4.4V未満の容量が前記第2の活物質よりも大きく、前記第2の活物質は4.4V以上の容量が前記第1の活物質よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。
【請求項5】
前記負極活物質の使用領域が、全容量の4〜80%であることを特徴とする1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン蓄電デバイスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−212632(P2012−212632A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78615(P2011−78615)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】