説明

リチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法

【課題】大出力を可能にするとともに、内部短絡した場合に、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果の高いリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法を得る。
【解決手段】電極活物質を有する正極および負極(11)と、電解質を保持するセパレータ(12)と、セパレータに対して正極および負極の少なくともいずれか一方の電極を接合するために用いられ、金属酸化物微粒子を含む接着性樹脂層とを有し、接着性樹脂層は、多角形状に並べられた杭形部(1)の連続集合体(5)で構成され、連続する多角形状のそれぞれは、杭形部によって囲われて形成され、接着性樹脂層が形成されていない空間部(2)を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極とセパレータを接着したリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法に関するものであり、特に、内部短絡した場合に、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果を高めることのできるリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、より大容量で大型のものが求められ、電気自動車、スマートグリッド、あるいは太陽電池などと組み合わせた家庭用の電源などに用いられ始めている。
【0003】
リチウムイオン電池は、高いエネルギー密度を有していて、電解液に有機溶媒を用いているので、点火源があれば、あるいは高温になれば発火するおそれがある。たとえば、外部から釘などが差し込まれて短絡した場合、あるいは過充電などによって負極に金属リチウムが析出し、析出した金属リチウムを安定化しているSEI(Solid Electrolyte Interface)層が破れた場合は、内部短絡や大量の熱の発生によって発火になるおそれがある。
【0004】
過充電などによって負極に析出する金属リチウムは、負極とセパレータとの間の隙間などに生じやすいという性質がある。そこで、電極(特に負極)とセパレータを接着する技術が適用されるようになった。
【0005】
電極とセパレータとを接着した従来のリチウムイオン電池としては、本願と同一出願人によって出願されたものがある(例えば、特許文献1の実施例1および第2図参照)。
【0006】
この特許文献1は、平均径0.01μmのアルミナ粉末とポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと称す)をN−メチルピロリドン(以下、NMPと称す)に溶解分散させてセパレータに塗布し、厚さ10μm以下の接着層を形成し、電極と接合し乾燥して接着している。負極だけでなく、正極までもセパレータと接着した場合には、リチウムイオン電池を、より強固なものとすることができる。
【0007】
また、接着層にアルミナなどの金属酸化物微粒子を介在させると、内部短絡した場合にも、セパレータを熱収縮させることなく形を保ち、内部短絡の広がりを防ぐ効果が得られる。しかしながら、セパレータに比べて気孔率が低くなることから、内部抵抗の増大につながり、大電流を流すことが難しかった。
【0008】
この改善策として、本願と同一出願人によって出願された別の従来技術がある(例えば、特許文献2の第2図参照)。この特許文献2は、接着性樹脂をセパレータにドット状に塗布して電極と接着する方法である。
【0009】
また、ドット状の接着層を設ける別の改善策を示した従来技術もある(例えば、特許文献3の実施例1参照)。この特許文献3は、平均径0.4μmアルミナ粉末とPVDFをアセトンに溶解分散させて、セパレータに塗布して乾燥し、厚さ3μmの金属酸化物層を形成する。その後、さらにスチレン−ブタジエンゴムが溶解された溶液を、インクジェットで点噴霧し、乾燥させて、ドットの間隔5mm、ドットの平均厚さ0.5μmのドットパターン層を形成し、電極との間にドット状の接着層を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開99−036981号公報(実施例1および第2図)
【特許文献2】国際公開99−048163号公報(第2図)
【特許文献3】特表2011−512005号公報(実施例1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
特許文献2は、ドット状の接着を用いているため、内部短絡した場合に、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果が著しく小さくなるという問題点があった。そして、セパレータの熱収縮の広がりを防止できなければ、負極と正極が直接大きな面積で接触することになり、大電流が流れて、熱暴走が起こるおそれがある。
【0012】
また、特許文献3は、金属酸化物層の構成材料としては、特許文献1と同じであり、さらにドット状に接着力の強化を図ったに過ぎない。したがって、特許文献1と同様に、セパレータに比べて気孔率が低くなることから、内部抵抗の増大につながり、大電流を流すことが難しいという問題点があった。
【0013】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、大出力を可能にするとともに、内部短絡した場合に、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果の高いリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るリチウムイオン電池は、電極活物質を有する正極および負極と、電解質を保持するセパレータと、セパレータに対して正極および負極の少なくともいずれか一方の電極を接合するために用いられ、金属酸化物微粒子を含む接着性樹脂層とを有して構成されるリチウムイオン電池において、接着性樹脂層は、多角形状に並べられた杭形部の連続集合体で構成され、連続する多角形状のそれぞれは、杭形部によって囲われて形成され、接着性樹脂層が形成されていない空間部を有するものである。
【0015】
また、本発明に係るリチウムイオン電池の製造方法は、正極および負極の少なくともいずれかの電極、またはセパレータに、グラビア印刷により連続集合体が構成された接着性樹脂層を形成する第1工程と、セパレータと電極とを接着して乾燥させる第2工程とを備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法によれば、多角形状に並べられた杭形部の連続集合体を有する接着性樹脂層を構成し、連続する多角形状が杭形部によって囲われた空間部を形成することで、杭形部によって囲われた空間部では金属酸化物微粒子が含まれていないため大出力を可能にし、内部短絡した際にも、セパレータが熱収縮する範囲が、空間部に限られるため、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果の高いリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池の製造方法を示す模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池を示す平面模式図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池の製造方法を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態3におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に示す本発明の説明においては、リチウムイオン電池の負極にセパレータを接着する場合についての実施の形態を記載するが、負極と共に正極をセパレータに接着してもよく、正極、負極の両方をセパレータに接着することで、正極と負極のずれが完全に抑制され、リチウム電池の形状が固定されるので、温度や外部圧力に対して強く、より安定性が高められる効果がある。
【0019】
以下、本発明のリチウムイオン電池およびリチウムイオン電池の製造方法の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。なお、図中、同一符号は、同一または相当部分を示す。
【0020】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。具体的には、長尺の短冊状の負極とセパレータの接着一体化ロールと、その接着一体化ロールの中の杭形部の連続集合体および空間部の拡大模式図とを示している。すなわち、この図1においては、長尺の短冊状の負極とセパレータの接着一体化ロール10を示しており、すでに接着一体化が終わった状態のロールの一部を引き出してみた状態を示している。
【0021】
図1における各符号は、次のものを示している。1は杭形部、2は空間部、3は隙間部、4は空間部の最大直径W、5は多角形状に並べられた杭形部の連続集合体、6aは中央部の全面接着部、6bは端部の全面接着部、8は負極および全面接着部が塗布されていない銅箔の集電箔部分で、電流端子に加工される部分である。また、9はスリッターを用いて、長尺の短冊状の負極とセパレータの接着一体化ロール10を2つに分断するスリット部、13は負極とセパレータの接着一体化ロールのロール巻き芯である。
【0022】
すなわち、図1の構成では、2種類の全面接着部6a、6bが設けられており、これらの全面接着部によって平行する2辺に囲まれた領域内のそれぞれに、連続集合体5が設けられている。また、図1に示すように、6つの杭形部1によって構成された六角形の中心を通して対向する頂点間の距離のことを最大直径Wとしている。
【0023】
多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5、中央部の全面接着部6a、端部の全面接着部6bは、後述する図2で示されている負極11とセパレータ12との間に介在しているので、本来上からは見えない。ただし、この図1では、分かりやすくするために、破線ではなく、実線で表に現している。以降に示す図3や他の実施の形態で示す図4、図6でも同様である。
【0024】
負極11は、幅300mm、厚さ15μmの電解銅箔の上に、ロールコータを用いて、粒子径5μmの黒鉛粒子とSBR(スチレン・ブチレンゴム)をバインダーとする水系のペーストを用いて、220mmの幅で100mの長さで厚さ80μmの厚さで形成されている。セパレータ12としては、230mmの幅で厚さ20μmのロール状のポリエチレン・ポリプロピレン三層セパレータを用いている。
【0025】
また、杭形部1の乾燥後の厚さは5μm、幅は1mmである。空間部の最大直径4は、10mmで、グラビアロールを用いて塗工される。隙間部3の大きさは1mmである。さらに、中央部の全面接着部6aの幅は10mm、端部の全面接着部6bの幅は9mmであり、負極よりも6mm、セパレータよりも1mmほど外側にはみ出して塗工されている。
【0026】
ここで、杭形部1と全面接着部6a、6bは、同時にグラビアロールで塗布することができるが、杭形部1と中央部の全面接着部6aは、グラビアロールで塗布し、端部の全面接着部6bは、ロールコータで塗工するなど、塗り分けてもよい。
【0027】
杭形部1と全面接着部6a、6bに用いる金属酸化物微粒子と接着性樹脂を含むペーストには同じものを用いることができる。たとえば、平均粒径0.01μmのアルミナ粉末(デグサ製)を10重量%と、PVDF(エムファントムケムジャパン製)を10重量%とをN−メチルピロリドンに溶解分散させたものを用いることができる。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池の製造方法を示す模式図である。具体的には、セパレータ12側に多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5を塗工して、負極11と接着させる製造方法を図示している。この図2には、2つの工程として、グラビアロール工程21および接着ホットロール工程22が示されている。また、負極11は、銅箔の両面に負極11を塗工した負極ロール11aとして、ロール状で供給され、セパレータ12もロール状で供給されている。
【0029】
図2における具体的な製造手順は、以下のようになる。銅箔の両面に負極11を塗工した負極ロール11aから負極11を引き出す。一方、セパレータ12の片面には、グラビアロール工程21により多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5が塗工される。そして、連続集合体5が塗工されたそれぞれのセパレータ12を、引き出された負極11の両面に貼り付けて、接着ホットロール工程22により接着して乾燥させる。
【0030】
乾燥温度としては、80℃程度でよい。接着、乾燥後に、ロール状に巻き取れば、長尺の短冊状の負極11とセパレータ12の接着一体化ロール10が製造できる。巻き取りも含めた全ての工程がロール状で行われるので、量産化が容易にできる。
【0031】
図3は、本発明の実施の形態1におけるリチウムイオン電池を示す平面模式図である。負極11および全面接着部6が塗布されていない銅箔の集電箔部分8を巻回して形成した負極端子部31aに、負極電流端子部32aおよび負極電流端子33aを超音波溶接している。同様にして形成された正極端子部31bに、正極電流端子部32bおよび正極電流端子33bを超音波溶接している。そして、アルミニウムもしくはステンレスで構成された容器30から、電流端子33a、33bを取り出す。
【0032】
正極については、たとえば、厚さ35μmのアルミニウム集電箔の両面に、平均粒径8μmのLiCoO291重量%と黒鉛粉末6重量%とPVDF3重量%をN−メチルピロリドンに分散させたものをペーストとして塗布乾燥プレスしたもの(正極の厚さは、80μm)を用いることができる。
【0033】
この図3に示したリチウムイオン電池は、負極11とセパレータ12の接着一体化ロール10と正極ロールを重ねて巻回装置を用いて巻回することで構成されるが、正極ロールを重ねて巻回する際に、正極ロール側に、多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5を塗布してセパレータ12側に接着乾燥してもよい。そうすれば、より形状安定性に優れた強固なリチウムイオン電池が得られる。
【0034】
あるいは、図2の製造工程で、セパレータの片側だけでなく、セパレータの両側に多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5を塗布して、負極と正極を同時に接着乾燥してもよい。
【0035】
また、図3のリチウムイオン電池には、リチウム塩として六フッ化リン酸リチウム、有機溶媒としてエチレンカーボネートと1,2−ジメトキシエタンの混合溶媒を用いて、電極およびセパレータ内部に真空含浸して容器30を封止する。
【0036】
電極とセパレータとを、金属酸化物微粒子を介在させて接着した従来のリチウムイオン電池に比べて、本実施の形態1のリチウム電池は、短時間で電解液を負極11に浸透させることができる。これは、隙間部3を通じて、電解液が自由に移動できるためである。
【0037】
電極(11)とセパレータ12の接着層は、気孔率がセパレータ12および負極11よりも低くなっており、しかも、金属酸化物微粒子が0.01μmと小さいので、気孔の大きさも小さく、電解液の浸透速度が極めて遅くなる。これが、電極(11)とセパレータ12の接着層の欠点であり、リチウムイオン電池が大型になるほど深刻な問題になる。
【0038】
しかしながら、本発明の構成によれば、隙間部3を通じて、電解液が自由に移動し、杭形部1の下側の負極11にも速やかに電解液を浸透させることができ、これが、本発明の大きな効果の1つである。
【0039】
なお、中央部の全面接着部6aと端部の全面接着部6bについては、電解液の浸透が遅くなるが、これらの部位は、図3に示すように、巻回セルの両端に位置するので、電解液が最初に浸透してくる位置にあり、全体としての浸透時間に大きな影響を及ぼすほどではない。
【0040】
図3のリチウムイオン電池の出力性能を調べたところ、3kW/kgの出力密度が得られ、内部抵抗も1mΩ以下と低く、大きな出力が得られることが確認できた。これは、杭形部1の金属酸化物層によって邪魔されることなく、空間部2によって、大きな出力が得られるためであり、リチウムイオンは、空間部2から杭形部1の下の負極11に回りこんで、杭形部1の下の負極11も同様に高出力で充放電できる。
【0041】
次に、満充電状態で、太さ3mmの鉄くぎを、釘刺し試験機を用いて中央部に刺した後、完全放電した上で、ドライボックス内で分解調査した。その結果、内部短絡による高温化に起因するセパレータ12の融着は、最大直径W=10mmの空間部2にとどまっており、ちょうど、杭形部1のところで、溶融が停止していて、隙間部3を通じて、隣接する空間部2には波及していないことが確認できた。これにより、本発明の効果が確認できた。
【0042】
以上のように、実施の形態1によれば、多角形状に並べられた杭形部の連続集合体を有する接着性樹脂層を構成し、連続する多角形状が杭形部によって囲われた空間部を形成している。このような構成により、杭形部によって囲われた空間部では金属酸化物微粒子が含まれていないため、大出力が可能となる。さらに、内部短絡した際にも、セパレータが熱収縮する範囲が、空間部に限られるため、セパレータの熱収縮の広がりを防止する効果を高めることが可能となる。
【0043】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。具体的には、長尺の短冊状の負極とセパレータの接着一体化ロールと、その接着一体化ロールの中の杭形部の連続集合体および空間部の拡大模式図とを示している。
【0044】
先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、本実施の形態2における図4の構成は、杭形部1によって構成される多角形の形状が、六角形ではなく三角形になっている点が異なっている。さらに、幅5mmの斜め方向の全面接着部7aが新たに追加して形成されている。ここで、空間部2の最大直径Wは5mmであり、隙間部3の大きさは0.5mmである。
【0045】
すなわち、図4の構成では、3種類の全面接着部6a、6b、7aが設けられており、これらの全面接着部によって3辺が囲まれた領域内のそれぞれに、連続集合体5が設けられている。また、図4に示すように、3つの杭形部1によって構成された三角形の高さのことを最大直径Wとしている。
【0046】
ここで、新たに設けられている斜め方向の全面接着部7aは、万一、内部短絡によって隙間部3を通って、セパレータ12の熱収縮が伝播しても、その伝播を食い止める働きをする。斜め方向の全面接着部7aでは、内部抵抗が高くなり、また、電解液の浸透も遅くなるが、全体の面積から比べるとわずかであり、大きな影響は及ぼさない。
【0047】
また、連続集合体5は、3本の杭形部1で囲われた三角形状の集合体となっているため、先の実施の形態1のように6本の杭形部1で囲われた六角形状の集合体に比べると、隙間部3が多いこととなる。従って、多少ではあるが、セパレータ12の熱収縮が隙間部3を通じて伝播しやすい。しかしながら、斜め方向の全面接着部7aによって、大きな伝播を食い止めることができる。
【0048】
また、本実施の形態2における連続集合体5は、3本の杭形部1で囲われた三角形状の集合体であるため、斜め方向の全面接着部7aと形状をマッチングさせ、余分な隙間部3や空間を生じさせないことが可能となる。さらに、三角形状の集合体は、先の実施の形態1における六角形状の集合体に比べて、模様が極めて単純であり、グラビア印刷での型の制作を安価にすることができる。もちろん、斜め方向の全面接着部7aもグラビア印刷での型で簡単に制作できる。
【0049】
なお、図4の構成は、先の実施の形態1における図2の製造工程を用いて製造することができるが、セパレータ12への塗工ではなく、負極11の両面への塗工で製造することもできる。図5は、本発明の実施の形態2におけるリチウムイオン電池の製造方法を示す模式図である。
【0050】
具体的には、セパレータ12側ではなく、負極11の両面へ多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体5を塗工して、上下2つのセパレータ12と接着させる製造方法を図示している。すなわち、図5では、セパレータ12に連続集合体5を塗工するグラビアロール工程21の代わりに、負極11の両面へ連続集合体5を塗工する両面グラビア塗工工程23が用いられている。このような図5に示した製法によっても、先の実施の形態1と同様にして、長尺の短冊状の負極11とセパレータ12の接着一体化ロール10を制作することができる。
【0051】
以上のように、実施の形態2によれば、連続集合体が3本の杭形部で囲われた三角形状の集合体で構成されるとともに、斜め方向の全面接着部をさらに備えて構成されている。この斜め方向の全面接着部の働きにより、セパレータの熱収縮が隙間部を通じて伝播することを食い止めることができる。
【0052】
すなわち、斜め方向の全面接着部、中央部の全面接着部、もしくは端部の全面接着部によって3辺が囲われた領域に連続集合体が設けられているので、リチウム電池がより強固に形状固定され、セパレータの熱収縮の伝播を確実にとめることができる。
【0053】
さらに、三角形状という極めて単純な模様として杭形部を配置し、その配置とマッチングさせて斜め方向の全面接着部を設けることで、グラビア印刷での型の制作を安価にすることが可能となる。
【0054】
実施の形態3.
図6は、本発明の実施の形態3におけるリチウムイオン電池の構造を示す説明図である。具体的には、長尺の短冊状の負極とセパレータの接着一体化ロールと、その接着一体化ロールの中の杭形部の連続集合体および空間部の拡大模式図とを示している。
【0055】
先の実施の形態2における図4の構成と比較すると、本実施の形態3における図6の構成は、杭形部1によって構成される多角形の形状が、三角形ではなく四角形になっている点が異なっている。さらに、斜め方向の全面接着部7aの代わりに、横方向の厚さ5mmの横方向の全面接着部7bが新たに追加して形成されている。ここで、空間部の最大直径Wは7mmであり、隙間部3の大きさは1.5mmである。
【0056】
すなわち、図6の構成では、3種類の全面接着部6a、6b、7bが設けられており、これらの全面接着部によって4辺が囲まれた領域内のそれぞれに、連続集合体5が設けられている。また、図6に示すように、4つの杭形部1によって構成された四角形の、対向する杭形部1間の距離のことを最大直径Wとしている。
【0057】
ここで、新たに設けられている横方向の全面接着部7bは、先の実施の形態2における斜め方向の全面接着部7aと同様に、万一、内部短絡によって隙間部3を通って、セパレータ12の熱収縮が伝播しても、その伝播を食い止める働きをする。横方向の全面接着部7bでは、内部抵抗が高くなり、また、電解液の浸透も遅くなるが、全体の面積から比べるとわずかであり、大きな影響は及ぼさない。
【0058】
さらに、横方向の全面接着部7bを用いる利点は、長尺の短冊状の負極11とセパレータ12の接着一体化ロール10を単セル単位で切断する場合に、この横方向の全面接着部7bの上で切断することができる点にある。このような切断ができることで、多角形状に並べられた杭形部1の連続集合体を、巻回セルの巻き始め、巻き終わり部分を含めて、四角形状に並べられた杭形部の連続集合体の4辺を横方向の全面接着部7b、中央部の全面接着部6a、もしくは端部の全面接着部6bによって囲うことができる。この結果、リチウム電池がより強固に形状固定され、セパレータの熱収縮の伝播を確実に止めることができる。
【0059】
電極の端部や巻き始め、巻き終わりは、形状が不安定になりやすく、対極との接触のリスクの高い部位である。そこで、このような部位を全面接着部6a、6b、7bで保護することによって、より安定性の高いリチウムイオン電池を得ることができる。
【0060】
以上のように、実施の形態3によれば、連続集合体が4本の杭形部で囲われた四角形状の集合体で構成されるとともに、横方向の全面接着部をさらに備えて構成されている。この横方向の全面接着部の働きにより、セパレータの熱収縮が隙間部を通じて伝播することを食い止めることができる。
【0061】
すなわち、横方向の全面接着部、中央部の全面接着部、もしくは端部の全面接着部によって4辺が囲われた領域に連続集合体が設けられているので、リチウム電池がより強固に形状固定され、セパレータの熱収縮の伝播を確実にとめることができる。
【0062】
さらに、四角形状として杭形部を配置し、その配置とマッチングさせて横方向の全面接着部を設けることで、単セル単位で切断する場合に、横方向の全面接着部上で切断することができる。この結果、電極の端部や巻き始め、巻き終わりで形状を安定化させることが可能となる。
【0063】
なお、上述した実施の形態1〜3における寸法や形状関係について、適切な条件を以下にまとめて示す。
空間部2の最大直径Wについては、1mm以上、10mm以下が望ましい。1mmを下回ると、杭形部1が突起状になることもあって、平坦性が保てず、セパレータ12と電極(11)との密着性が悪化する。一方、10mmを超えると、セパレータ12の熱収縮の伝播の影響が横方向だけでなく、巻回している隣接電極にも及ぶようになるので、望ましくない。
【0064】
また、杭形部1が互いに隣接する間の隙間部3としては、0.1mm以上、2mm以下が望ましい、0.1mmを下回ると、電解液の移動が困難になり、電解液の浸透が遅くなる。一方、2mmを超えると、セパレータ12の熱収縮の伝播の影響が、横方向に広がるおそれがある。
【0065】
また、杭形部1の幅としては、0.1mm以上、5mm以下が望ましい。0.1mmを下回ると、セパレータと電極との接着力が著しく弱くなる。一方、5mmを超えると、電解液の回りこみが難しくなり、電解液の浸透が遅くなり、内部抵抗が増大する。
【0066】
また、略長方形状をした杭形部1の軸方向の先端部は、凸になっていることが望ましい。凸にすることで、セパレータの熱収縮の伝播が、より制限され、より起こりにくくなる。また、グラビア印刷が容易になる。
【0067】
また、上述した実施の形態1〜3では、金属酸化物微粒子としてアルミナを用いた例を示したが、シリカや酸化チタンなど他の金属酸化物微粒子を用いてもよく、同様の効果が得られる。
【0068】
また、上述した実施の形態1〜3では、接着性樹脂として、PVDFを用いた例を示したが、SBR(スチレン・ブチレンゴム)やアクリル系ゴムバインダーを用いてもよく、同様の効果が得られる。
【0069】
また、上述した実施の形態1〜3では、多角形状として、正六角形、正三角形、正四角形(正方形)の3つのパターンを示したが、これに限らず、長方形、二等辺三角形、五角形、八角形などの多角形であってもよく、同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0070】
1 杭形部、2 空間部、3 隙間部、4 最大直径W、5 連続集合体、6a 中央部の全面接着部、6b 端部の全面接着部、7a 斜め方向の全面接着部、7b 横方向の全面接着部、8 集電箔部分、9 スリット部、10 接着一体化ロール、11 負極、11a 負極ロール、12 セパレータ、13 ロール巻き芯、21 グラビアロール工程、22 接着ホットロール工程、23 両面グラビア塗工工程、30容器、31a 負極端子部、32a 負極電流端子部、33a 負極電流端子、31b 正極端子部、32b 正極電流端子部、33b 正極電流端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を有する正極および負極と、
電解質を保持するセパレータと、
前記セパレータに対して前記正極および前記負極の少なくともいずれか一方の電極を接合するために用いられ、金属酸化物微粒子を含む接着性樹脂層と
を有して構成されるリチウムイオン電池において、
前記接着性樹脂層は、多角形状に並べられた杭形部の連続集合体で構成され、
連続する前記多角形状のそれぞれは、前記杭形部によって囲われて形成され、前記接着性樹脂層が形成されていない空間部を有する
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン電池において、
前記接着性樹脂層は、前記空間部を含まない領域に形成された全面接着部を有し、前記連続集合体の少なくとも2辺が前記全面接着部によって囲われている
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン電池において、
前記接着性樹脂層は、前記連続集合体を構成する多角形状が3本の杭形部で囲われた三角形状で形成されており、前記連続集合体の3辺が前記全面接着部によって囲われている
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項4】
請求項2に記載のリチウムイオン電池において、
前記接着性樹脂層は、前記連続集合体を構成する多角形状が4本の杭形部で囲われた四角形状で形成されており、前記連続集合体の4辺が前記全面接着部によって囲われている
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池において、
前記空間部は、最大直径が1mm以上、10mm以下で形成される
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池において、
前記杭形部は、隣接する杭形部との間に0.1mm以上、2mm以下の隙間部を有する
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池において、
前記杭形部は、幅が0.1mm以上、5mm以下で形成される
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池において、
前記杭形部は、軸方向の先端が凸状になっている
ことを特徴とするリチウムイオン電池。
【請求項9】
請求項1に記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記正極および前記負極の少なくともいずれかの電極、または前記セパレータに、グラビア印刷により前記連続集合体が構成された前記接着性樹脂層を形成する第1工程と、
前記セパレータと前記電極とを接着して乾燥させる第2工程と
を有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載のリチウムイオン電池の製造方法において、
前記第1工程は、前記連続集合体を形成する際に、前記空間部を含まない領域に、前記連続集合体の少なくとも2辺を囲うように全面接着部を形成し、
前記第2工程による接着、乾燥後に、前記全面接着部の上を切断する第3工程
をさらに有することを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載のリチウムイオン電池の製造方法において、
前記電極および前記セパレータのそれぞれは、長尺の短冊状で形成され、
前記第1工程は、長尺方向の両端および中央の3箇所に前記全面接着部を形成し、
前記第3工程は、中央に形成された前記全面接着部の上をスリットして、2つの長尺の短冊状に分割する
ことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−26081(P2013−26081A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161178(P2011−161178)
【出願日】平成23年7月22日(2011.7.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】