説明

リチウムイオン電池用電極およびこれを備えたリチウムイオン電池

【課題】初期の放電容量が高く、かつ、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が少ないリチウムイオン電池を実現するリチウムイオン電池用電極およびこれを備えたリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオン電池の作用極12は、基体14と、基体14の一方の面14aに設けられた多孔質炭素層15と、を備え、多孔質炭素層15はCNC21を含み、CNC21は、スクロース、フルフリルアルコール、石油ピッチ、フェノール樹脂およびその前駆体のいずれかを由来とするものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用電極およびこれを備えたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器やハイブリッド自動車などに用いられる電池として、二次電池の開発が進められている。
このような二次電池としては、鉛蓄電池、アルカリ蓄電池、リチウムイオン電池などが開発されているが、特に、リチウムイオン電池は、小型化、軽量化、高容量化が可能である上に、高出力、高エネルギー密度を有している点から注目され、研究開発が活発に行われている。
現在、よりエネルギー密度や出力密度が高く、寿命の長いリチウムイオン電池が研究されているが、リチウムイオン電池は、充放電の過程において電極材料の化学反応を伴うため、比較的寿命が短く、高出力を得ることが難しかった。
【0003】
そこで、これまでに、高出力の充放電を効率的に行うために、二次電池の電極の材料として、活性炭などの多孔質炭素材料の応用研究が行われている。
多孔質炭素材料としては、nmからμmレベルの空孔が形成され、その空孔が3次元的規則性を有し、かつ、その空孔がマクロ的に結晶構造を構成する配置で配列しているものが開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−262324号公報
【特許文献2】特開2006−286803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に開示されている多孔質炭素材料を、リチウムイオン電池の電極として用いた場合、その電池の初期の放電容量が低いだけでなく、充放電の繰り返しによる放電容量の減少が大きく、実用に適していなかった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、初期の放電容量が高く、かつ、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が少ないリチウムイオン電池を実現するリチウムイオン電池用電極およびこれを備えたリチウムイオン電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のリチウムイオン電池用電極は、基体と、該基体の表面に設けられた多孔質炭素層と、を備えたリチウムイオン電池用電極であって、前記多孔質炭素層はCNCを含むことを特徴とする。
【0008】
前記CNCは、スクロース、フルフリルアルコール、石油ピッチ、フェノール樹脂およびその前駆体のいずれかを由来とするものであることが好ましい。
【0009】
前記CNCの表面積は、1000m/g以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明のリチウムイオン電池用電極を作用極として備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のリチウムイオン電池用電極によれば、基体と、該基体の表面に設けられた多孔質炭素層と、を備えたリチウムイオン電池用電極であって、前記多孔質炭素層はCNCを含むので、CNCの規則的で指向性のないメソ細孔構造によりリチウムイオンの拡散・吸蔵流路が確保されるとともに、多孔質炭素層の比表面積が非常に大きくなり、多孔質炭素層には、リチウムイオンと反応し得るサイトが多数存在することになる。したがって、本発明のリチウムイオン電池用電極を備えたリチウムイオン電池は、より放電容量が大きく、かつ、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が少ないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のリチウムイオン電池の一実施形態を示す模式図である。
【図2】図1において一点鎖線αで囲んだ部分の概略拡大図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
【図3】メソポーラスシリカの製造方法を示す模式図である。
【図4】リチウムイオン電池の充放電試験装置の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の実施例において、リチウムイオン電池の定電流充放電の最初の1サイクル分を測定した結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例において、リチウムイオン電池の定電流充放電試験の結果をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用電極およびこれを備えたリチウムイオン電池の実施の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0014】
図1は、本発明のリチウムイオン電池の一実施形態を示す模式図である。図2は、図1において一点鎖線αで囲んだ部分の概略拡大図であり、(a)は斜視図、(b)は側面図である。
この実施形態のリチウムイオン電池10は、電解液を含浸しているセパレータ11と、このセパレータ11を介して対向して配置された作用極12および対極13とから概略構成されている。
なお、作用極12は、本発明のリチウムイオン電池用電極の一実施形態である。
【0015】
作用極12は、基体14と、この基体14の対極13と対向する面(以下、「一方の面」という。)14aに設けられた多孔質炭素層15とから概略構成されている。
多孔質炭素層15はカーボンナノケージ(Carbon nano cage、CNC)21を含む構成である。すなわち、基体14の一方の面14aに、CNC21を含む多孔質炭素層15が形成されている。
この作用極12では、充電時に、CNC21の間隙22に、リチウムイオン(Li)を吸着(吸蔵)し、一方、放電時に、吸着(吸蔵)したリチウムイオンを脱離(放出)する。
【0016】
CNC21は、スクロース、フルフリルアルコール、石油ピッチ、フェノール樹脂およびその前駆体(フェノール・レゾルシノールなどのフェノール類とホルムアルデヒドの混合物)のいずれかを由来とするものである。
【0017】
多孔質炭素層15の厚みは、50μm以上、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは70μm以上、90μm以下である。
多孔質炭素層15の厚みが50μm未満では、カーボン粒子(CNC21)が均一な集合体を形成できなくなり、ひび割れてしまうことがある。一方、多孔質炭素層15の厚みが100μmを超えると、電極としての抵抗が大きくなり、通電が悪くなることがある。
【0018】
作用極12は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出するものであって、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能なCNC21から形成されている。
CNC21としては、3次元的に規則的に配列した細孔を有する多孔質炭素材であり、スクロースまたはフルフリルアルコールを由来とし、図3(c)に示すような形状のものが用いられる。
【0019】
ここで、図3を参照して、CNC21の製造方法を説明する。
まず、ブロックコポリマーF127((PEO)106(PPO)70(PEO)106、PEO=Poly ethylene oxide(ポリエチレンオキサイド)、PPO=Poly propylene oxide(ポリプロピレンオキサイド))、塩酸(HCl)および水を所定の割合で混合し、30〜60℃にて攪拌し、混合物Aとする。
次いで、その混合物Aに、所定量のテトラエトキシシラン(TEOS)を加えて、30〜60℃にて、12時間〜48時間攪拌し、混合物Bを調整する。
【0020】
次いで、この混合物Bを、100〜200℃にて、12時間〜48時間静置した後、ろ過して、50〜120℃にて、12時間〜24時間乾燥し、メソポーラスシリカの前駆体を生成する。
次いで、このメソポーラスシリカの前駆体を、500〜600℃にて、8時間〜20時間焼成することにより、図3(a)に示すような形状をなす、多孔質の二酸化ケイ素からなるメソポーラスシリカ31を得る。
【0021】
得られたメソポーラスシリカ31は、粒子径が10〜40μmの不定形粒子であり、それぞれ図3(a)に示す規則的なメソ孔(メソポア)が空いている。
【0022】
また、メソポーラスシリカ31の表面積は450m/g以上であることが好ましく、より好ましくは500m/g以上であり、さらに好ましくは550m/g以上、800m/g以下である。
【0023】
次いで、このメソポーラスシリカ31と、例えば、スクロース(C122211の二糖類(ショ糖))を含むCNC材料32、または、フルフリルアルコール(C)を含むCNC材料33とを所定の割合で混合することにより、図3(b)に示すように、メソポーラスシリカ31の細孔31a内に、CNC材料32またはCNC材料33を充填する。
【0024】
CNC材料32としては、スクロース、硫酸(HSO)および水を所定の割合で混合したものが用いられる。
また、このCNC材料32を用いる場合、メソポーラスシリカ31とCNC材料32を所定の割合で混合し、80〜120℃にて、2時間〜6時間静置した後、さらに、140〜180℃にて、2時間〜6時間静置し、メソポーラスシリカ31の細孔31a内にCNC材料32を充填する。
【0025】
一方、CNC材料33としては、フルフリルアルコールとシュウ酸を所定の割合で混合したものが用いられる。
また、このCNC材料33を用いる場合、メソポーラスシリカ31とCNC材料33を所定の割合で混合し、80〜100℃にて、48時間〜96時間静置し、メソポーラスシリカ31の細孔31a内にCNC材料33を充填する。
【0026】
次いで、CNC材料32またはCNC材料33が充填されたメソポーラスシリカ31を、900〜1000℃にて、48時間〜96時間、真空炭化した後、このメソポーラスシリカ31をフッ化水素の水溶液(フッ化水素酸)に浸漬し、12時間〜24時間静置して、メソポーラスシリカ31を除去する。
その後、前記のフッ化水素の水溶液をろ過し、回収物を乾燥することにより、図3(c)に示すようなCNC21を得る。
【0027】
得られたCNC21は、粒子径が10〜40μmの不定形粒子であり、それぞれ図3(c)に示すような規則的なメソ孔(メソポア)が空いている。
【0028】
また、CNC21の表面積は1000m/g以上であることが好ましく、より好ましくは1200m/g以上であり、さらに好ましくは1500m/g以上、2000m/g以下である。
CNC21の表面積が1000m/g未満では、放電容量の初期値が低すぎたり、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が大きくなることがある。
【0029】
作用極12は、CNC21、導電剤、結合剤および溶媒を配合して、インク状の混合物を調製した後、このインク状の混合物を基体14の一方の面14aに塗布した後、乾燥して基体14の一方の面14aに多孔質炭素層15を形成し、所定の電極形状に成形することにより作製されたものである。CNC21は指向性のない細孔を有しているので、結合剤により層を形成しても、常に電解液が細孔から作用極まで拡散することができる。
基体14としては、銅箔、ニッケル箔などの金属箔や、銅メッシュ、ニッケルメッシュなどが用いられる。
【0030】
CNC21の配合割合は、多孔質炭素層15を形成する材料(CNC21、導電剤および結合剤)の全量に対して70〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは80〜95質量%である。
CNC21の配合割合が、多孔質炭素層15を形成する材料の全量に対して70質量%未満では、放電容量の初期値が低すぎたり、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が大きくなることがある。一方、CNC21の配合割合が、多孔質炭素層15を形成する材料の全量に対して95質量%を超えると、多孔質炭素層15が基体14から剥離したり、抵抗値が増大したりする。
【0031】
導電剤としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラック類が挙げられる。
また、導電剤の配合割合は、多孔質炭素層15を形成する材料(CNC21、導電剤および結合剤)の全量に対して1〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは4〜6質量%である。
【0032】
結合剤としては、ポリフッ化ビニリデン、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、フルオロオレフィンビニルエーテル共重合体架橋ポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸などが挙げられる。
また、結合剤の配合割合は、多孔質炭素層15を形成する材料(CNC21、導電剤および結合剤)の全量に対して2〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは8〜12質量%である。
【0033】
なお、溶媒としては、たとえば、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、イソホロン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、フタル酸ジメチル、エタノール、メタノール、ブタノール、水などが挙げられる。
【0034】
セパレータ11としては、絶縁材料が用いられ、例えば、ガラス繊維、シリカやアルミナの繊維やウイスカなどの無機繊維、セルロースなどの天然繊維、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステルなどの有機繊維などが挙げられる。
また、セパレータ11は、例えば、板状に成形されたものである。
【0035】
セパレータ11に含浸されている電解液は、リチウムイオンを含む有機溶媒からなり、リチウム塩を有機溶媒に溶解させることにより、調製されている。
リチウム塩としては、例えば、LiClO、LiCFSO、LiC(SOCF、LiB(C、LiCSO、LiC17SO、LiB[C(CF−3,5]、LiB(C、LiB[C(CF)−4]、LiBF、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiCFCO、LiN(CFSO
なお、上記の化学式中、[C(CF−3,5]はフェニル基の3位と5位に、[C(CF)−4]はフェニル基の4位に、それぞれ−CFが置換されているものを意味する。
【0036】
有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、プロピレンカーボネート誘導体、エチレンカーボネート、エチレンカーボネート誘導体、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソラン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジオキソラン、リン酸トリエステル、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、1,3−プロパンスルトン、4,5−ジヒドロピラン誘導体、ニトロベンゼン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン誘導体、シドノン化合物、アセトニトリル、ニトロメタン、アルコキシエタン、トルエンなどが挙げられる。これらは、単独または2種以上併用することができる。
【0037】
電解液において、リチウム塩の有機溶媒中の濃度は、0.5〜2mol/kgであることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.2mol/kgである。
また、高い耐電圧が得られるように、電解液中の水分量を、150ppm以下とすることが好ましく、より好ましくは50ppm以下とする。
【0038】
対極13は、直径10〜15mm、厚み100〜500μmのリチウム箔である。
【0039】
このリチウムイオン電池10によれば、CNC21を含む多孔質炭素層15を有する作用極12を備えたので、CNC21の規則的なメソ細孔構造がリチウムイオンの拡散を容易にするから、多孔質炭素層15の比表面積が非常に大きくなり、多孔質炭素層15には、リチウムイオンとの反応が活性なサイトが多数存在する。したがって、このリチウムイオン電池10は、より放電容量が大きく、かつ、充放電の繰り返しによる放電容量の減少割合が少ないものである。
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
図4に示す充放電試験装置を用いて、CNCを電極材料として用いた作用極を備えたリチウムイオン電池の定電流充放電試験を行った。
図4は、リチウムイオン電池の充放電試験装置の一例を示す概略断面図である。
図4において、符号40は充放電試験装置、41はセパレータ、42は作用極、43は対極、44は基体、45は多孔質炭素層、46は下枠、47は上枠、48はリチウムイオン電池、49は作用極端子、50は対極端子、51は参照電極端子をそれぞれ示している。
【0042】
セパレータ41としては、ポリプロピレンの繊維からなるものを用いた。
セパレータ41に含浸させた電解液としては、リチウム塩のLiPFを、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートからなる混合溶媒に溶解させたものを用いた。
基体44としては、銅箔を用いた。
【0043】
以下のようにして、基体44の一方の面に多孔質炭素層45を形成した。
メソポーラスカーボン(CNC)、結合剤のポリフッ化ビニリデン、および、導電剤のアセチレンブラックを、85:10:5(質量比)の割合で混合し、この混合物に、N−メチルピロリドンを加えて、インク状の混合物を調整した後、このインク状の混合物を基体44の一方の面に塗布した後、70℃にて15時間乾燥して、基体44の一方の面に、厚み82μmの多孔質炭素層45を形成した。
【0044】
対極43としては、厚み200μmのリチウム箔を用いた。
下枠46および上枠47としては、ステンレス製のものを用いた。
参照電極端子51に接続された参照電極としては、リチウム電極を用いた。
【0045】
また、以下のようにして、スクロース由来のCNC(CNCsuc)とフルフリルアルコール由来のCNC(CNCfur)を作製した。
まず、メソポーラスシリカを作製した。
ブロックコポリマーF127、濃塩酸および水を、10:21:480の質量比で混合し、45℃にて攪拌し、混合物Aを調製した。
次いで、その混合物Aに、質量比で8.6%のテトラエトキシシランを加えて、45℃にて、24時間攪拌し、混合物Bを調製した。
【0046】
次いで、この混合物Bを、150℃にて、24時間静置した後、ろ過して、100℃にて、15時間乾燥し、メソポーラスシリカの前駆体を生成した。
次いで、このメソポーラスシリカの前駆体を、550℃にて、10時間焼成することにより、メソポーラスシリカを得た。
得られたメソポーラスシリカの表面積は590m/gであった。
【0047】
CNCsucの材料としては、スクロース、硫酸(HSO)および水を、10:1:10の質量比で混合したものを用いた。
前記のメソポーラスシリカとCNCsucの材料を、1:2.1の質量比で混合し、100℃にて、4時間静置した後、さらに、160℃にて、4時間静置し、メソポーラスシリカの細孔にCNCsucの材料を充填した。
この際、CNCsucの材料をまず最終所要量の半分用いて、100℃にて4時間静置、160℃にて4時間静置という操作を順次行った後、得られた粉末に対して残り半分のCNCsucの材料を追加して再び100℃にて4時間静置、160℃にて4時間静置という操作を行った方が均一な材料が得られる。
【0048】
一方、CNCfurの材料としては、フルフリルアルコールとシュウ酸を、200:1の質量比で混合したものを用いた。
前記のメソポーラスシリカとCNCfurの材料を、1:1の質量比で混合し、90℃にて、3日間静置し、メソポーラスシリカの細孔にCNCfurの材料を充填した。
【0049】
次いで、CNCsucの材料またはCNCfurの材料が充填されたメソポーラスシリカを、950℃にて、6時間、真空炭化した後、このメソポーラスシリカをフッ化水素の水溶液に浸漬し、15時間静置して、メソポーラスシリカを除去した。
その後、前記のフッ化水素の水溶液をろ過し、回収物を乾燥することにより、CNCsucとCNCfurを得た。
【0050】
得られたCNCsucの表面積は1760m/g、CNCfurの表面積は1260m/gであった。
【0051】
下記の条件により、CNCsucまたはCNCfurを電極材料として用いた作用極42を備えたリチウムイオン電池48の定電流充放電試験を行った。
具体的には、リチウムの電位を基準として、5mV〜3Vの範囲を、電流密度100mAhg−1で10サイクル定電流充放電試験を行った。
なお、リチウムイオン電池48の定電流充放電試験において、CNCsucを電極とした場合の最初の1サイクル分の測定結果を例として図5に示す。
この定電流充放電試験の結果をまとめたものを図6に示す。
【0052】
図6の結果から、CNCsucを電極材料として用いた作用極を備えたリチウムイオン電池は、初期の放電容量が1600mAhg−1と非常に高い値を示した。また、このリチウムイオン電池は、サイクル数の増加に伴って放電容量が減少するものの、1200mAhg−1以上の高い値を維持していた。
一方、CNCfurを電極材料として用いた作用極を備えたリチウムイオン電池は、CNCsucを電極材料として用いた作用極を備えたものよりもわずかに劣るものの、放電容量が1000mAhg−1以上の高い値を示した。
【符号の説明】
【0053】
10・・・リチウムイオン電池、11・・・セパレータ、12・・・作用極、13・・・対極、14・・・基体、15・・・多孔質炭素層、21・・・カーボンナノケージ(CNC)、22・・・間隙、31・・・メソポーラスシリカ、32,33・・・CNC材料。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、該基体の表面に設けられた多孔質炭素層と、を備えたリチウムイオン電池用電極であって、
前記多孔質炭素層はCNCを含むことを特徴とするリチウムイオン電池用電極。
【請求項2】
前記CNCは、スクロース、フルフリルアルコール、石油ピッチ、フェノール樹脂およびその前駆体のいずれかを由来とするものであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項3】
前記CNCの表面積は、1000m/g以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン電池用電極。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用電極を作用極として備えたことを特徴とするリチウムイオン電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−267542(P2010−267542A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119004(P2009−119004)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】