説明

リチウムニッケル複合酸化物の製造方法

【課題】工業的規模の量産においても、リチウム二次電池用正極活物質として用いたとき、十分な充放電特性が得られるリチウムニッケル複合酸化物を安定して提供する。
【解決手段】炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにする乾燥工程と、450〜650℃の酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で乾燥後の前記混合物を拡散反応させる反応工程と、反応工程を経た前記混合物を焼結させる焼結工程を具備する製造方法によって得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法、特に、リチウム二次電池用正極活物質として好適なリチウムニッケル複合酸化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン等の小型電子機器の急速な拡大とともに、充放電可能な電源として、リチウム二次電池の需要が急激に伸びている。リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウムコバルト複合酸化物とともにリチウムニッケル複合酸化物が広く用いられている。
【0003】
リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物と比べると低コストで、高容量の電池が得られるという利点がある。リチウムニッケル複合酸化物は、通常、リチウム化合物とニッケル化合物を混合焼成して製造されているが、製造条件により充放電特性が異なり、十分な充放電特性を得ることが難しいという問題点がある。また、リチウムコバルト複合酸化物に比べて、リチウムニッケル複合酸化物は、その分解温度が低いため、合成時の温度が上げられず、合成時の焼成時間がリチウムコバルト複合酸化物に比べて長くなり、生産性が悪いという問題点もある。
【0004】
これまで、各種元素を添加したニッケル複合酸化物と水酸化リチウムを混合し焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物を合成するという製造方法に関して、多数の提案がなされている。
【0005】
例えば、特開平8−222220号公報には、コバルト塩とニッケル塩との混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、コバルトとニッケルの水酸化物を共沈させることによって、コバルトとニッケルの複合水酸化物を得た後、水酸化リチウムなどのリチウム化合物と混合し、酸素中において、550℃、20時間で1段目の焼成をした後、600〜800℃、2時間で2段目の焼成を行う、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
【0006】
また、特開2002−170562号公報には、共沈法で作製したニッケル複合酸化物とリチウム化合物とを混合して、大気あるいは酸素雰囲気下で、480〜850℃、10時間程度で焼成するか、480〜630℃、15〜40時間で焼成後、解砕を行い、さらに同雰囲気下で700〜850℃、3〜10時間で焼成を行なう、リチウム二次電池用正極材料の製造方法が記載されている。
【0007】
さらに、特開平10−214624号公報には、構成元素の塩を水に溶解させて塩濃度を調節した複合金属塩水溶液、金属イオンと錯塩を形成する水溶性の錯化剤、および水酸化リチウム水溶液をそれぞれ反応槽に連続供給して複合金属錯塩を生成させ、この錯塩を水酸化リチウムにより分解してリチウム共沈複合金属塩を析出させ、粒子形状が略球状であるリチウム共沈複合金属塩を合成する第一工程、合成したリチウム共沈複合金属塩を200〜500℃の還元性雰囲気中で分解し、リチウム共沈前駆酸化物を合成する分解還元の第二工程、酸化雰囲気で焼成する酸化焼結の第三工程からなる、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
【0008】
これらの公報には、原料組成、焼成温度範囲や焼成時間などが規定されているものの、量産を考慮した製造条件については開示がなされておらず、これらを参照するだけでは、工業的規模で生産された正極活物質において、安定した充放電特性が得られないという問
題がある。
【0009】
一方、特開2000−173599号公報には、ニッケル複合水酸化物と水酸化リチウムの混合物を連続的に流動させながら水酸化リチウムの溶融温度以下で加熱し、脱水処理を行った後、静置状態で焼成することにより、リチウム含有複合酸化物を合成するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が記載されている。
【0010】
かかる脱水処理は、ロータリーキルンを用いて、空気雰囲気下、300℃〜400℃で行われる。かかる脱水処理により、合成過程において原料中の結晶水の蒸発に伴い混合物中に空隙が発生し、反応が不均一となることを防止し、嵩密度および混合度合いの向上により、優れた充放電特性を示すリチウム含有複合酸化物を、高い量産性で得ることができると記載されている。しかしながら、実際の工業的規模の量産において、十分な充放電特性を持ったリチウム二次電池用正極活物質を安定して製造できるまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−222220号公報
【特許文献2】特開2002−170562号公報
【特許文献3】特開平10−214624号公報
【特許文献4】特開2000−173599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来技術の問題点に鑑み、工業的規模の量産においても、リチウム二次電池用正極活物質として用いたとき、十分な充放電特性が得られるリチウムニッケル複合酸化物を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、リチウムニッケル複合酸化物の製造方法について、鋭意検討した結果、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物との混合物を、特定量以下の炭酸ガスを含有する雰囲気中で乾燥させ、ニッケル複合酸化物とリチウム化合物との混合物の水分含有率を特定量以下に制御すること、およびリチウムニッケル複合酸化物の合成反応と焼結の過程の分離が可能であり、焼結前に前記混合物を十分に拡散反応させることにより、十分な充放電特性を有するリチウムニッケル複合酸化物を短時間の焼成で得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法に係る。
【0015】
特に、本発明では、炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにする乾燥工程と、450〜650℃の酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で乾燥後の前記混合物を拡散反応させる反応工程と、反応工程を経た前記混合物を焼結させる焼成工程を具備することを特徴とする。
前記乾燥は、40℃〜200℃の温度で行うことが好ましい。
【0016】
本発明は、特に、その組成が、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、C
oまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を製造する際に、好適に適用される。
【0017】
本発明においては、前記焼成を、酸素含有量が60容量%以上である雰囲気中、650℃〜800℃で行うことが好ましい。
【0018】
また、前記反応工程における拡散反応の時間が0.5時間以上であることが好ましい。
【0019】
さらに、前記水酸化リチウムが水酸化リチウム1水和物であることことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、工業的規模の量産においても、結晶性が良好で十分な充放電特性を持ったリチウムニッケル複合酸化物を安定して得ることができる。かかるリチウムニッケル複合酸化物により、優れた電池特性を有するリチウム二次電池を高い生産性で製造することが可能になるため、本発明の工業的利用価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係るリチウムニッケル複合酸化物の製造方法は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の混合物を焼成するリチウムニッケル複合酸化物の製造方法において、炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにする乾燥工程と、450〜650℃の酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で乾燥後の前記混合物を拡散反応させる反応工程と、反応工程を経た前記混合物を焼結させる焼結工程を具備することを特徴とする。以下にその理由を述べる。
【0022】
リチウムニッケル複合酸化物の工業生産には、一般的にプッシャー炉やローラーハース炉などのように、連続的に焼成可能な炉を使用する。これらの炉は、原料であるニッケル複合酸化物と水酸化リチウムの混合物(以下、単に「混合物」と記載する場合がある。)を、セラミック容器に充填して、その容器を、所定の温度および所定の雰囲気に調節された炉の中で搬送して、最適な熱履歴と雰囲気を与え、合成反応を行わせる構造となっている。前記混合物の搬送中に焼成炉の内部では、100℃付近において混合物中の水酸化リチウムの結晶水の蒸発、450℃から化学式(化1)に示す反応および焼結が順次生じている。
【0023】
このような合成反応においては、混合物中への酸素の拡散が重要な役割を担っている。すなわち、酸素の拡散が不足すると、化学式(化1)の反応が進行せず、リチウムニッケル複合酸化物の合成不足が発生し、電池材料として使用可能な結晶成長が行われず、電池容量の低下など、電池性能が劣化する。
【0024】
このため、炉内には、合成反応に必要な酸素を供給するために酸素ガス供給パイプが設置され、また、混合物に含まれる結晶水の蒸発や反応によって生成する水蒸気の排気のための煙突もしくは排気管が取り付けられている。さらに、炉内には、原料の上部および下部にヒーターが設置され、所定の温度プロファイルを形成するようにヒーターの出力を制御している。
【0025】
(化1)
2NiO+2LiOH+1/2O2→2LiNiO2+H2
水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との反応は、上述のように450℃付近から開始するが、水酸化リチウムの融点は460℃付近であり、水酸化リチウムが溶融しながら、ニッケル複合酸化物と反応することとなる。
【0026】
したがって、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の反応は、混合物の昇温にしたがっ
て進行するが、セラミック容器の底部へ十分な酸素拡散が行われない場合、未反応の溶融した水酸化リチウムがセラミック容器と反応して、実質的にニッケル複合酸化物と化合する水酸化リチウム量が不足し、生成したリチウムニッケル複合酸化物中に電池反応を阻害する結晶が混入し、電池性能の低下を招く。
【0027】
さらに、水酸化リチウムと反応しない容器を使用した場合でも、焼成温度に到達した時点で、まだ未反応の水酸化リチウムとニッケル複合酸化物が存在し、かつ、酸素が不足している場合、化学式(化2)の副反応が発生して、生成するリチウムニッケル複合酸化物結晶中に、電池反応時にリチウムイオンの移動を妨げる異相が生じ、電池性能の劣化を招く。
【0028】
(化2)
8NiO+2LiOH+1/2O2→Li2Ni810+H2
特に、工業的規模でリチウムニッケル複合酸化物の製造を行なう場合、生産性の向上が重要な課題であり、前述のような構造の炉において生産性を向上させる手立てとしては、炉の通過時間を短縮したり、あるいは、セラミック容器に充填する混合物量を多くするという方法が採られる。このような場合においては、リチウムニッケル複合酸化物の合成時間の不足とともに上記結晶水の蒸発および反応により生成する水蒸気の分圧が高いと、混合物内が正圧状態になり、混合物中の酸素が追い出され、混合物中への酸素拡散を阻害される。特に、セラミック容器の底部への酸素の供給が不足し、前述のような問題が多く発生する。
【0029】
したがって、工業的規模の量産において、上記の問題を解決するためには、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度までの温度域で、セラミック容器の底部まで酸素拡散を十分に行わせて、セラミック容器内の混合物を均一に反応させることが重要である。
【0030】
さらに、水蒸気により次のような問題が生じる。上記混合物から発生した水蒸気は、炉内に供給する雰囲気ガスとともに排気筒から排出されるが、水蒸気が排気筒に到達しても、排気筒の開口の寸法によっては、全ての水蒸気が排気されず、排気されなかった水蒸気は、再度、炉内を循環することになる。このような水蒸気の循環流が、充填された混合物の表面に到達すると混合物を汚染する。特に、水蒸気は搬出口側に向かって流れるため、焼成の終わった製品を汚染することになり、リチウムニッケル複合酸化物の電池性能を劣化させる。また、水蒸気の発生は、リチウムニッケル複合酸化物の焼結にも影響する。
【0031】
リチウムニッケル複合酸化物が良好な電池性能を示すためには、適度な粒径と良好な結晶性が必要であるが、混合物中での水蒸気発生量が多いと合成反応にかかる時間が長くなるため、同じ焼成時間では、合成後に進行する焼結に掛けられる時間が短くなり、十分な焼結ができない。
【0032】
このような問題に対して、混合物の層厚を薄くして発生する水蒸気量を抑制する方法がある。また、混合物層外への水蒸気の拡散は、混合物の厚さの二乗に比例するため、層厚を薄くすると速やかに混合物内の水蒸気を外部に排出できる効果もある。しかし、層厚を薄くすると生産効率が悪化する。このため、混合物を多段積みにして生産効率を改善することが考えられるが、そのためには、多段積みにする工程を追加したり、炉の内容積を大きくする必要がある。さらに、積み方によっては、下に積まれた混合物から水蒸気が十分に排気されないという問題がある。
【0033】
また、別の方法として、焼成時間を長くするため、連続焼成炉においては炉を長くする、あるいは搬送速度を落とすことが考えられる。しかし、この方法では生産効率が悪くなるという問題がある。したがって、これらの方法は、いずれの場合も、生産性が低下する
ため、工業的規模の量産においては採用できるものではない。
【0034】
以上のことから、水酸化リチウム中の結晶水や吸着水を乾燥により除去するのみではなく、化学式(化1)の反応により発生する大量の水蒸気を除去し、焼結時における水蒸気の影響を十分に抑制する必要がある。このため、連続焼成炉中における焼成過程で、混合物の脱水、合成反応および焼結を全て行い、リチウムニッケル複合酸化物を製造することは困難である。
【0035】
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、従来の焼成を、混合物を脱水する乾燥工程と、酸素雰囲気中で前記混合物を拡散反応させる反応工程と、反応工程を経た前記混合物を焼結させる焼結工程を分離するものである。工業的規模の量産に際して、工程の分離を行うことにより、充放電特性に優れたリチウムニッケル複合水酸化物からなるリチウム二次電池用正極活物質を効率的製造することが可能となる。
【0036】
上記製造工程においては、まず、混合物中の水酸化リチウムの結晶水や吸着水を、乾燥により十分に除去する必要がある。さらに、乾燥中は、雰囲気中の炭酸ガス濃度を制御して、炭酸リチウムの生成を阻止する必要がある。水酸化リチウムは、炭酸ガスと反応して容易に炭酸リチウムを生成する。混合物を乾燥する際に炭酸リチウムが生成されると、焼成時において、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が阻害され、得られたリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質として用いたときのリチウム二次電池における電池容量が低下してしまう。
【0037】
本発明では、前記反応工程の前に、乾燥工程を設けて、該乾燥後の水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を、真空中200℃で8時間保持した場合に、保持前の混合物に対する保持後の混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにしている。また、かかる乾燥工程において、雰囲気中の炭酸ガスの濃度を、炭酸ガス分圧が10Pa以下となるように制御して、炭酸リチウムの生成を抑制している。
【0038】
前記質量減少率が5質量%を超えると、焼成時に、水酸化リチウムからの水蒸気の放出が多くなり、混合物中への酸素拡散が阻害され、正極活物質として用いられたときの電池容量が低下する。また、質量減少率が5質量%を超えるような水分が混合物中に存在する場合、上述のような水蒸気の発生による問題が生じる。
【0039】
また、雰囲気中の炭酸ガスの濃度を、炭酸ガス分圧が10Paを越えると、乾燥する際の炭酸リチウムの生成を十分に抑制することができない。
【0040】
本発明では、さらに、従来の焼成中に行われていた前記反応工程と前記焼結工程を分離することを特徴としている。従来においては、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応と焼結は同時に進行するものと考えられてきた。本発明者は、焼成中の上記合成反応について、焼成過程においてサンプリングした試料の断面走査イオン像(SIM)観察やX線回折(XRD)測定により鋭意調査した結果、上記合成反応は瞬時に起こることを突き止め、合成反応と焼結を分離して行うことが可能であることを見出した。
【0041】
すなわち、450℃以上で水酸化リチウムとニッケル複合酸化物が接触すると、化学式(化1)の合成反応は瞬時に起こり、特に、460℃付近で水酸化リチウムが溶融するとニッケル複合酸化物全体に接触するため、全体における反応が速やかに進行し、リチウムニッケル複合酸化物が生成する。その後、焼結により、リチウムがリチウムニッケル複合酸化物内の所定のサイトに移動して良好な結晶性が得られるとともに適度な粒径に成長して、密度が上がり電池性能が向上する。
【0042】
このため、上記合成反応と焼結を分離して、例えば、合成反応時の層厚を薄くして水蒸気の排出を促進させても、合成反応は短時間で完了するため、前記反応工程においては、大量の混合物を効率よく安定して処理することができる。一方、焼結工程においては、電池性能を良好なものとするために焼結に十分な時間を掛けても、水蒸気の発生がないため、焼結時の層厚を厚くすることが可能であり、生産性を大幅に改善することができる。また、水蒸気による汚染がなく、電池性能の劣化を防ぐことができる。
【0043】
本発明においては、正極活物質として充放電特性に優れたリチウムニッケル複合酸化物を得るために、上記の乾燥工程を設けることと反応工程と焼結工程を分離することに特徴を有するが、かかる特性を有するリチウムニッケル複合酸化物を、工業的規模の量産において製造するためには、得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成、原料となるニッケル複合酸化物の製造工程、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物の混合工程、および該混合物の乾燥工程、反応工程、焼結工程について、以下の通り、留意する必要がある。この点、工程ごとに説明する。
【0044】
[リチウムニッケル複合酸化物の組成]
本発明に係る製造方法により、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の組成は、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるものであることが好ましい。
【0045】
リチウムニッケル複合酸化物としては、各種組成の複合酸化物が提案されているが、前記一般式で表されるリチウムニッケル複合酸化物は、電池特性に優れており好ましく、さらに、本発明に係る製造方法を適用することにより、工業的規模での製造においても、十分な充放電特性を有するものとすることができる。
【0046】
ここで、一般式のM元素は、CoまたはMnであり、yが0.05未満であると、サイクル特性の改善が十分でない場合があり、yが0.35を超えると、電池容量が低下することがある。
【0047】
また、一般式のN元素は、AlまたはTiであり、Zが0.005未満では、熱安定性の改善効果が十分でない場合があり、Zが0.05を超えると、電池容量が低下することがある。
【0048】
[ニッケル複合酸化物の製造工程]
本発明において、水酸化リチウムと混合されるニッケル複合酸化物は、特に限定されるものではなく、ニッケルおよび添加元素の化合物を酸化焙焼することで得られる。
【0049】
化合物としては、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩などが用いられるが、処理の容易さから、水酸化物を用いることが好ましく、添加元素が固溶したニッケル複合水酸化物を用いることが好ましい。ニッケル複合水酸化物は、通常の方法で得られるものでよく、組成が均一であり、適度な粒径である粒子が得られる方法としては、共沈法が好ましく用いられる。
【0050】
以下、共沈法によって得られるニッケル複合水酸化物を用いた場合を例として説明する。ニッケル複合水酸化物は、ニッケル塩と添加元素の塩との混合水溶液を、pH制御のためのアルカリ水溶液とともに、撹拌しながら反応槽に添加することで、ニッケルと添加元素を共沈させて、得られる。このとき、反応槽の温度とpHを調整することで、ニッケル複合水酸化物の粒径を制御することができる。また、粒径制御を容易にするために、錯化剤を混合水溶液およびアルカリ水溶液とともに添加してもよい。
【0051】
ニッケル塩と添加元素の塩としては、それぞれ、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが、通常用いられる。アルカリ水溶液としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液を用いることが一般的である。また、錯化剤としては、アンモニアなどが用いられる。
【0052】
その後、共沈させたニッケル複合水酸化物を、ろ過、洗浄、乾燥した後、酸化焙焼することでニッケル複合酸化物が得られる。
【0053】
酸化焙焼の条件は、空気中600〜900℃とする。600℃未満では、ニッケル複合酸化物を原料として使用したリチウムニッケル複合酸化物の比表面積が増加し、電池を製造する工程中での劣化が起こりやすくなり、電池の容量が低下する。900℃を超えると、ニッケル複合酸化物の比表面積が低下し、リチウムとの反応性が低下し、生成したリチウムニッケル複合酸化物の容量が低下する。
【0054】
ニッケル複合酸化物の組成は、最終的に得ようとするリチウムニッケル複合酸化物の組成から決定すればよい。前記一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるリチウムニッケル複合酸化物を得るためには、一般式:Ni(1-y-z)MyNzO(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるニッケル複合酸化物を用いることが好ましい。
【0055】
ここで、添加元素は、酸化焙焼により、ニッケル酸化物に固溶する。したがって、例えば、M元素およびN元素をニッケルと共沈させ、あるいは、M元素含有のニッケル水酸化物表面にN元素の水酸化物を湿式中和法により析出させ、得られたニッケル複合水酸化物を酸化焙焼することにより、M元素およびN元素のいずれもが固溶しているニッケル複合酸化物が得られる。
【0056】
ただし、N元素は上記ニッケル複合酸化物に固溶させる必要はなく、例えば、M元素をニッケルと共沈させ、得られたM元素含有のニッケル水酸化物を酸化焙焼することにより、M元素が固溶しているニッケル酸化物を得て、その後、ニッケル酸化物とN元素の酸化物を混合することにより、ニッケル複合酸化物を得てもよい。
【0057】
すなわち、M元素については、酸化物として混合した場合、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との反応により生成したリチウムニッケル複合酸化物中への拡散が困難であるため、予め、原料であるニッケル複合酸化物中に固溶されていることが好ましい。
【0058】
一方、組成式のN元素については、酸化物として混合した場合であっても、前述の反応中のリチウムニッケル複合酸化物中への拡散が容易であるため、共沈後の酸化焙焼により、ニッケル酸化物中へ均一に固溶させることが困難な場合には、酸化物として混合する。N元素を酸化物として混合する場合、組成を均一にするため、湿式中和法あるいは乾式法により、ニッケル複合酸化物表面へN元素の酸化物を付着させることが好ましい。
【0059】
さらに、複数の種類のN元素を添加する場合、上記添加方法を組み合わせることにより、すなわち、一方を酸化焙焼により固溶させ、他方の酸化物を混合することにより、ニッケル複合酸化物を得てもよい。
【0060】
なお、本明細書においては、かかるM元素あるいはN元素が固溶しているニッケル酸化物とN元素の酸化物の混合物についても、ニッケル複合酸化物として定義されるものとする。
【0061】
また、ニッケル複合酸化物の粒径は、5〜20μmとすることが好ましい。粒径が5μm未満であると、嵩高く充填性が低下し、20μmを超えると、電池とした時に、電解質との反応性が低下するため、好ましくない。
【0062】
このようなニッケル複合酸化物を用いることで、得られたリチウムニッケル複合酸化物の電池特性を良好なものとすることができる。
【0063】
[ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムとの混合]
焼成工程の前に、上記のニッケル複合酸化物と、水酸化リチウムとを混合して、混合物を得る。水酸化リチウムとしては、原料の反応性、入手性、安定性を考慮して、水酸化リチウム一水和物を用いることが好ましい。
【0064】
ニッケル複合酸化物と混合する水酸化リチウムの量は、得られるリチウムニッケル複合酸化物が、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されるものとなるようにすることが好ましい。
【0065】
ここで、水酸化リチウムの混合量が少なく、xが0.9未満になると、電池性能を発揮するために必要なリチウムニッケル複合酸化物結晶の層状構造が十分発達せず、電池性能が悪化する。また、xが1.1を超えると、余剰のリチウムが、本来入るべきでない結晶中の位置に入ることで、結晶構造を歪め、電池性能を悪化させる。
【0066】
混合方法としては、通常用いられる方法でよく、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムを固体状のまま各種粉体混合機で混合する方法、あるいは水酸化リチウムを水溶液としてニッケル複合酸化物と混合した後、乾燥する方法などが提案されている。
【0067】
いずれの方法を用いてもよいが、固体状のまま混合する方法が容易であり、ニッケル複合酸化物と水酸化リチウムとを、シェーカーなどを用いてニッケル複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
【0068】
[乾燥工程]
乾燥工程は、混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、その質量減少率が5質量%以下となるようにするものである。そして、かかる乾燥工程における雰囲気を、炭酸ガス分圧が10Pa以下となるようにしている。これにより、リチウムニッケル複合酸化物の生成を阻害する炭酸リチウムの生成が抑制されることとなる。
【0069】
かかる雰囲気は、炭酸ガス分圧が10Pa以下であれば特に限定されるものではないが、酸化ニッケルが還元されない非還元性雰囲気が好ましく、炭酸ガス分圧が10Pa以下の空気あるいは窒素雰囲気とするか、もしくは、真空雰囲気とすることがより好ましい。炭酸ガス分圧が10Pa以下の空気あるいは窒素は、空気あるいは窒素を酸化カルシウムなどの炭酸ガス吸着剤に通すことで、容易に得られる。
【0070】
かかる乾燥工程は、水酸化リチウムとニッケル複合酸化物とについて、個別に行って、乾燥後に混合することことも可能であるが、乾燥後の水酸化リチウムは不安定で、混合物中のリチウムとニッケルの質量比が変動しやすいため、混合物について乾燥を行うことが好ましい。
【0071】
混合物の乾燥温度としては、40〜200℃の範囲とすることが好ましい。40℃未満では、水酸化リチウムの結晶水の脱水が十分に行われない場合がある。一方、200℃を
超えても、水酸化リチウムの結晶水の脱水に効果がないばかりか、乾燥後の冷却に時間がかかり、工業的生産性が悪化してしまう。
【0072】
乾燥時間は、特に限定されるものではないが、乾燥する混合物の質量、混合物中の水酸化リチウムの状態、乾燥温度を考慮して、真空中200℃で8時間保持した場合における質量減少率が5質量%以下となるように決定する必要がある。乾燥時間が短時間過ぎる場合には、かかる質量減少率が5質量%以下とならない場合がある。
【0073】
また、乾燥に用いる炉は、雰囲気を制御でき、発生した水蒸気を排出できる各種の炉であれば、特に制限されるものではないが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましい。
【0074】
かかる質量減少率の測定により、乾燥後の混合物中の水酸化リチウムにおける結晶水や吸着水の除去状態を評価することができる。質量減少率の測定は、通常の真空乾燥器を用いて容易に行なうことができる。保持前に予め乾燥後の混合物の質量を測定しておき、混合物を真空中200℃で8時間保持した後、再度、質量を測定して、保持前の質量に対する保持後の質量減少率を求めることができる。
【0075】
なお、実際の操業においては、各操業条件における質量減少率を求めておき、本発明において規定する質量減少率となるように、乾燥工程における各条件を設定すればよい。
【0076】
[反応工程]
反応工程は、450〜650℃の酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で乾燥後の前記混合物を拡散反応させる工程である。
【0077】
焼結時の雰囲気は、酸素を十分に供給するため、酸素濃度を80容量%以上、好ましくは酸素雰囲気とする。酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合することが好ましい。80容量%未満では、酸素分圧が不足し、混合物中への酸素拡散が十分でなく、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が十分に進行しない。
【0078】
また、雰囲気ガスの供給量は、反応させる混合物の量、合成反応の温度および時間、工程で用いる反応炉により変動するが、上記化学式(化1)に示す反応により生成する水蒸気の除去が十分に可能な量とする。雰囲気ガスの供給量が十分でない場合、上記水蒸気による影響のため、未反応の水酸化リチウムおよびニッケル複合酸化物が残り、後工程である焼結工程で電池性能の劣化させる異相が生成されることがある。
【0079】
本発明においては、前工程である乾燥工程により混合物が脱水されているため、反応工程における水蒸気発生量は安定しており、事前の試験で雰囲気ガスの供給量を容易に求めることが可能であり、同条件であれば安定した合成反応とすることが可能である。なお、通常の条件における雰囲気ガスの供給量は、混合物1kgに対して0.5〜1L/分とすることが好ましい。
【0080】
反応温度としては、450〜650℃であり、水酸化リチウムが溶融する500〜650℃とすることが好ましく、反応を速やかに進行させるためには、550〜650℃とすることがより好ましい。450℃未満では、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が進行しない。一方、650℃を超えると、前記合成反応とともに焼結も同時に起こるため、上記化学式(化2)の副反応による異相が生じ、最終的に得られるリチウムニッケル複合酸化物の電池性能が低下する。
【0081】
反応時間は、特に限定されるものではなく、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が
十分に進行する時間とすればよいが、0.5時間以上とすることが好ましい。反応時間が0.5時間未満の場合、例えば、セラミック容器に充填した混合物では内部まで酸素が拡散せず、未反応の水酸化リチウムおよびニッケル複合酸化物が残存することがある。一方、上記十分な水蒸気の除去が行われた場合においては、反応によって発生した水蒸気を完全に原料の外に除去させる時間も含めて反応時間は12時間とすれば十分である。
【0082】
反応に用いる炉は、雰囲気が制御できる各種の炉が使用可能であるが、排気ガスが発生することがない電気炉を用いることが好ましく、発生した水蒸気の除去が可能な排気装置が付属しているものがより好ましい。
【0083】
[焼結工程]
焼結工程は、反応工程を経た前記混合物を焼結させる工程である。前記反応工程により生成したリチウムニッケル複合酸化物を焼結することにより、結晶性を良好なものとすることができる。
【0084】
焼結時の雰囲気は、酸素を十分に供給するため、酸素濃度を60容量%以上とすることが好ましく、酸素は、窒素あるいは不活性ガスと混合することが好ましい。60容量%未満では、酸素分圧が不足し、生成したリチウムニッケル複合酸化物が不安定となり、リチウムニッケル複合酸化物の焼結が十分に進行しないことがある。
【0085】
また、焼結温度としては、650〜800℃とすることが好ましい。650℃未満では、得られるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が十分でなく、電池性能に悪影響を与えることがある。また、800℃を超えると、得られるリチウムニッケル複合酸化物が分解を開始し、正極活物質として用いたときの電池反応時に、リチウムイオンの移動を妨げる結晶が混入し始め、電池性能の低下を招くことがある。
【0086】
このとき、本発明においては、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が完了しているため、水酸化リチウムの溶融温度から焼成温度まで温度域、すなわち、450℃〜650℃の反応温度範囲における昇温時間の採り方は、合成反応に対して特に考慮する必要がなく、焼結が不均一とならない範囲で速やかに昇温することができる。
【0087】
焼結時間は、特に限定されるものではなく、焼結するリチウムニッケル複合酸化物の質量と焼結温度を考慮して、リチウムニッケル複合酸化物の焼結が十分に行なわれる時間とすればよい。本発明においては、反応工程と焼結工程を分離しているため、大量のリチウムニッケル複合酸化物を、従来より短時間で処理することができ、生産性を大幅に向上させることができる。
【実施例】
【0088】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0089】
本発明においては、リチウムニッケル複合酸化物の良否をその結晶性、すなわち、リチウムサイトにおけるリチウム席占有率(以下、単にリチウム席占有率と記載する。)によって評価した。リチウムニッケル複合酸化物における評価方法は、下記の通りである。
【0090】
[リチウム席占有率の測定]
得られたリチウムニッケル複合酸化物について、Cu−Kα線を用いたX線回折装置(株式会社リガク製、形式RAD−γVB)を使用してX線回折測定を行った。得られたX線回折パターンについて、リートベルト解析を行い、リチウム席占有率を求めた。リートベルト解析は、解析用ソフトウェア「RIETAN94」(フリーウェア)を用いた。
[金属成分組成の分析]
ICP分析法により求めた。
【0091】
(実施例1)
共沈法により得たニッケル複合水酸化物を、空気中700℃で酸化焙焼して、コバルトとアルミニウムが固溶しているニッケル複合酸化物(Ni0.81Co0.15Al0.042)を得た。得られたニッケル複合酸化物50kgと、水酸化リチウム一水和物(LiOH・H2O)28.57kgを、攪拌混合機(株式会社徳寿工作所製、ジュリアミキサーJM75型)を使用して十分に混合して、混合物を得た。
【0092】
得られた混合物5kgを、炭酸ガス分圧が0.1Paの酸素雰囲気中100℃で、24時間で乾燥した(乾燥工程)。乾燥後の混合物100gを、真空乾燥を用いて200℃で8時間保持した後、再度、質量を測定し、保持前に対する保持後の質量減少率を求めたところ、0.1質量%であった。なお、乾燥時の真空度は−99kPa以上であった。
【0093】
次に、乾燥後の混合物を、バッチ式電気炉を用いて酸素雰囲気中650℃で8時間保持することにより反応させた(反応工程)。なお、反応中は、酸素ガスを混合物1kgに対して1L/分供給した。
【0094】
反応工程後の混合物を、内寸が縦275mm×横275mm×高さ95mmであるシリカアルミナ製のセラミック容器に、3kg充填した。その際の混合物の容器内での層厚は45mmであった。
【0095】
セラミック容器に充填した混合物を、雰囲気が酸素70容量%−窒素に保持された炉(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製、ローラハースキルン)で焼結させた。焼成時の温度パターンは、常温から750℃までを直線的に昇温後、750℃で10時間保持した(焼結工程)。
【0096】
焼結した後、冷却し、ピンミル(ホソカワミクロン株式会社製、250C型)で塊砕後、目開き50μmで篩い、リチウムニッケル複合酸化物を得た。
【0097】
得られたリチウムニッケル複合酸化物について、成分組成分析およびリチウム席占有率測定を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(実施例2)
実施例1と同様にして得られた混合物5kgを、炭酸ガス分圧が1Paの酸素雰囲気中100℃で、24時間で乾燥した(乾燥工程)。乾燥後の混合物100gを、真空乾燥を用いて200℃で8時間保持した後、再度、質量を測定し、保持前に対する保持後の質量減少率を求めたところ、1質量%であった。なお、乾燥時の真空度は−99kPa以上であった。
【0099】
次に、乾燥後の混合物を、バッチ式電気炉を用いて酸素濃度が80容量%に保持された雰囲気中500℃で10時間保持することにより反応させた(反応工程)。なお、反応中は、酸素ガスを混合物1kgに対して1L/分供給した。
反応工程後の混合物を、内寸が縦275mm×横275mm×高さ95mmであるシリカアルミナ製のセラミック容器に、3kg充填した。その際の混合物の容器内での層厚は45mmであった。
【0100】
セラミック容器に充填した混合物を、雰囲気が酸素70容量%−窒素に保持された炉(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製、ローラハースキルン)で焼結させた。焼成時の
温度パターンは、常温から750℃までを直線的に昇温後、750℃で10時間保持した(焼結工程)。
【0101】
焼結した後、冷却し、ピンミル(ホソカワミクロン株式会社製、250C型)で塊砕後、目開き50μmで篩い、リチウムニッケル複合酸化物を得た。
得られたリチウムニッケル複合酸化物について、成分組成分析およびリチウム席占有率測定を行った。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)
反応工程において酸素濃度が80容量%に保持された雰囲気中450℃で12時間保持することにより反応させた以外は実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物について、成分組成分析およびリチウム席占有率測定を行った。結果を表1に示す。
【0103】
(比較例1)
乾燥工程および反応工程を行わず、焼結工程をおこなったこと、焼結工程における炉内の温度パターンを、室温から500℃までを2時間、500℃から750℃までを6時間、750℃の保持温度領域を8時間(合計16時間焼成)となるように設定したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得るとともに評価した。結果を表1に示す。
【0104】
(比較例2)
反応工程において400℃で6時間保持した以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得るとともに評価した。結果を表1に示す。
【0105】
(比較例3)
反応工程において700℃で6時間保持した以外は、実施例1と同様にしてリチウムニッケル複合酸化物を得るとともに評価した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
[評価]
実施例1は、乾燥工程、反応工程および焼結工程を分離して、本発明の範囲内の条件で製造されたため、単相でのリチウム席占有率が高いリチウムニッケル複合酸化物が得られている。
【0108】
一方、比較例1は、乾燥工程および反応工程が行われなかったため、リチウム席占有率が低く、セラミック容器内の層の上下でリチウム席占有率に差が見られた。また、比較例2は、反応温度が低いため、反応工程では反応がほとんど進まず、後の焼結工程で反応が進行した。その際発生した水蒸気が反応を阻害し、焼結が十分でないため、リチウム席占有率が低くなっているとともにセラミック容器内の層の上下でリチウム席占有率に差が見られた。
【0109】
比較例3では、反応温度が高いため、反応工程では反応とともに焼結が進行し、反応によって発生した水蒸気が混合物の外に拡散しにくくなり、水蒸気が蓄積してしまい反応を阻害した。このため、リチウム席占有率が低くなっているとともにセラミック容器内の層の上下でリチウム席占有率に差が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化リチウムとニッケル複合酸化物との混合物を焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物を製造する方法において、炭酸ガス分圧が10Pa以下の雰囲気中で前記混合物を乾燥させて、真空中200℃で8時間保持した場合に、該混合物の質量減少率が5質量%以下となるようにする乾燥工程と、450〜650℃の酸素濃度80容量%以上の雰囲気中で乾燥後の前記混合物を拡散反応させる反応工程と、反応工程を経た前記混合物を焼結させる焼結工程を具備することを特徴とするリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥を40〜200℃の温度で行うことを特徴とする請求項1に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記リチウムニッケル複合酸化物の組成が、一般式:LixNi(1-y-z)yz2(式中、Mは、CoまたはMnを示し、Nは、AlまたはTiを示す。さらに、0.9≦x≦1.1、0.05≦y≦0.35、0.005≦z≦0.05である。)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記焼結を、酸素含有量が60容量%以上である雰囲気中、650℃〜800℃で行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記反応工程における拡散反応の時間が0.5時間以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記水酸化リチウムが水酸化リチウム1水和物であることを特徴とする請求項4または5に記載のリチウムニッケル複合酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2011−173773(P2011−173773A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40358(P2010−40358)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】