説明

リチウム充電式バッテリ用高電圧薄層カソード材料及びその製法

【課題】
【解決手段】
式Li[Li(1−2x)/3Mn(2−x)3Ni(x−y)]O、ここで、0<x<0.5、0<y0.25、x>yであり、MはCa、Cu、Mg、Znからの1又はそれ以上の2価カチオンである、を有する高電圧、高エネルギリチウム充電式バッテリに特に適した層間カソード材料。この材料の製法も提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式リチウムバッテリでの使用に好適な層間カソード材料に関する。より具体的には、本発明はこのようなバッテリ用の層状(又は薄層)リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料に関する。
【0002】
リチウムイオンバッテリは、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、及び電気自動車からエネルギバックアップシステムの使用に至るまでの、様々なコンテキストにおける用途に対して非常に技術的関心が高まっている。現時点において最も広く利用されているのは、携帯用電子機器である。
【0003】
リチウムイオンバッテリは、2つのリチウム層間電極(アノード及びカソード)及びイオン導電性電解質から成る。好ましいカソード材料は、高い電位とリチウムとの関係を有し、構造的完全性を失うことなくリチウムイオンを可逆的に挿入し、電解質との反応を誘起しないものでなければならない。リチウムイオンバッテリカソードの候補材料は、一般的にはリシア化遷移金属酸化物である。最も工業的に使用されるカソード材料は、式LiCoO及びLiCoNi1−x(x<0.3)で記載され、適度な容量及び良好なサイクル性を提供する。しかし、これらの化合物に関連するコスト及び安全事項(特に、リチウム低含量での不安定性に対する傾向)は実際よりも低くなる。従って、LiCoNi1−xカソード材料に対する代替物を見つけるための多くの研究が行われている。
【0004】
1つの広く研究された種は、LiMn及びその誘導体であり、スピネルとしても知られている。残念なことに、これらの材料は、電解質内へMn2+溶解してしまい、室温より上でのサイクリング又は保存時に急速な容量ロスを起こす。他の元素(例えば、Li、Mg、Zn、又はAl)によってMnの一部を置換すると、より大きい安定性を有する化合物ができるが、初期可逆容量が大幅に低減してしまう。
【0005】
提案されており、LiCoNi1−xと同じ層状構造を有するもう一つの代替物質は、LiMnO及びその誘導体であり、ここではMnが安定化用カチオンで部分的に置換される。Bruce他に付与された米国特許第6,214,493号は、この点について、脱リシア時に本質的に不安定な材料である薄層LiMnOは、別の金属がMnの少数部分を置換するときに、構造崩壊の影響を受けにくいことを開示している。この安定化用元素は、いずれの金属であってもよいが、最も一般的には、Co、Al、及びFeを含むその+3酸化状態の遷移金属である。Bruceによって教示されている更なる精製は、「過剰」リチウム(すなわち、y>1)を添加してその格子を強化することである。
【0006】
第WO03/015198A2号(Dahn他)として公開された特許協力条約出願第PCT/US02/24684号は、式Li[M1−bMn]O、ここで、0y<1、0<b<1であり、MはNi、Co又はFeである、を有し、層状O3結晶構造が維持されている(Li[M1/3Mn2/3]Oと一致している)材料を記載している。スピネル及びLi[M1−bMn]Oと同じように、この材料は、4.3Vに充電するとき、130mAh/gの容量を達成するのに対して、4.5V以上の充電は、225mAh/gを越える容量をもたらすことが記載されている。
【0007】
また、LiMnO(Li[Li1/3Mn2/3]O)及びその構造誘導体も研究された。従って、Solid State Ionics、no.117、pp.257〜263(1997)においてNumata他は、Co化合物の層状構造を有するLiCoO及びLiMnOの安定化バッテリ活性固容体について述べている。また、他の参考文献には、LiMnOから誘導され、式Li[Li(2−x)/3Mn(2−x)/3Ni]Oを有する層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料が記載されている。例えば、Lu他によるElectrochemical and Solid State Letters、vol.4、no.11、ppA191〜A1094(2001)、Lu他によるJournal of the Electrochemical Society、vol.149、no.6、ppA778〜A791(2002)、及びShin他によるJournal of Power Source 112、pp634〜A638(2002)参照。
【0008】
より最近では、欧州特許第1 189 296 A2号は、Ni2+の部分をCo3+と置換することが、親LMN族又はLiMO端成分より大きな速度容量を有する層間化合物を生成するというPaulsenによる発見に関する。MnNi及びCoMnNi系列の双方は、4.2Vより上で有意な容量を有するが、これは、有機電解質溶媒(ポリマを含む)と両立しない電圧領域である。このような上昇電位で、電流が、溶媒分子をイオン種に電気化学的に分解することによって生じ、特にプロトンを生成し、カソードから遷移金属の幾つかを分解することが出来る。電解質からの分解された種及び分子部分は、実質的に電極(一般的にアノード)に蓄積し、リチウムイオン輸送を妨げ、電池容量を低減する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、先行技術の層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料と本発明による2つの変性層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料、この比較合成物は、比較例3及び例1及び5に記載されている、の放電容量プロファイルをグラフで示す。
【0010】
本発明は、単数又は複数の選択された追加金属元素を一般式Li[Li(1−2x)/3Mn(2−x)/3Ni]Oを有する材料にドーピングすることが、これらの材料の電気化学的性能を改良するという発見に基づく。
【0011】
例えば、図1は、本発明によるCuドープで得られる利益の概要を提供しており、このドーピングによって、一般式Li[Li(1−2x)/3CuMn(2−x)/3Nix−y]Oによる材料が生成される。以下の例証においてより完全に記載されているように(より具体的には比較例3参照)、上記のLu他の教示に従って、ベースライン化合物、Li1.11Mn0.56Ni0.33を製造した。関連するCuドープ材料(Li1.17Cu0.05Mn0.58Ni0.33、例1)を、本発明に従って同様に製造すると、最大容量は、ベースライン化合物で観察される容量から20%下がるが、容量フェードは半分であった(すなわち、有効な操作寿命は2倍になった)。しかし、2つの焼成ステップで、同じ銅ドープ層状マンガンニッケル酸化物を形成すること(例5)は、ベースライン化合物で観察されたものより容量を20%増加させ、フェードの改善点はそのままにしている。我々は、先行技術の方法によって製造されたベースラインLMN材料の2度目の加熱は、容量/フェード結果にはほとんど変化をもたらさないと断定した。また、Cuドープ種の一度の1000℃反応は、図1の二重焼成プロットと同等の容量/サイクル数曲線となった。
【0012】
従って、一の態様では、本発明は、式Li[Li(1−2x)/3CuMn(2−x)/3Nix−y]O、ここで、0<x<0.5、0<y0.25、x>yの有益なカソード材料を提供しており、ここで、MはCa、Cu、Mg、Znのうちの1又はそれ以上の2価カチオンである。安定化用カチオンM2+(Cu2+の例外を除いて)は、蓄電中はM2+がカソード酸化に関与しないことを担保するために、作動バッテリに5Vより大きい酸化電位を有する。Mの酸化状態が増加することは、好ましい結晶構造を変形又は破壊することがあり、Liを挿入する材料の能力を低減する。4.5Vより上で、Cu2+が酸化してCu3+になり、従って電解質を酸化するというよりもむしろカソードを通って電子が流れるようにして、電子伝導率をサポートするイオンを提供する。
【0013】
第2の関連する態様において、本発明は、Ca、Cu、Mg及びZnの2価カチオンを1つ又はそれ以上を組み込んだ変性層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料を製造する方法であって、リチウム、マンガン、ニッケルの先駆物質塩、酸化物又はその両者と組み込まれた単数又は複数の元素との緊密混合物を形成するステップと、次いで、この混合物を約950℃又はそれ以上の温度に1回又はそれ以上、又は950℃未満の温度に少なくとも2回当てるステップとを具える方法を提供する。
【0014】
本発明の変性層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料の開発の背景として、層状リチウムマンガンニッケル酸化物(LMNs)は、LiMn及びその誘導体より分解に対して一般的により安定であるが、アノードについて報告している少量の分解したMnでさえ、この材料を使用する電池の容量を有意に低減する。この干渉は、アノードへのMn2+の挿入、従ってLiアクセスの阻止と、固体電解質界面相にMn2+塩わ沈殿させるという2つのメカニズムから生じることがあり、このことはアノードへ、及びアノードからのLi移動を制限する。微量成分の酸(特に共通するLiPFを含有する市販の液体電解質)によって触媒される不均化反応
2Mn3+→Mnsoln2++Mncrys4+
によって、Mn2+が製造される。従って、Mn3+の存在を最小にすることは、主な目的である。
【0015】
反応体の不完全な混合に起因して、固相反応が完全なものにすることが困難であることは公知である。前述のLMN化合物の合成に際しては、水に溶解するステップが要求される:金属イオンは、800℃の最小反応温度以上でさえ、原子レベルでの完全な混合を行うのに十分な移動性がない。更に、LiO(熱分解されたLi塩からの)はフラックスであり、熱い反応混合物のカチオンにおける移動を促進する。従って、Li:金属のより高い比率は、この生成物全体へのカチオンのランダムな分配を促進する。このような化学的に穏やかに製造した結果、Ni3+及びMn3+の形成をもたらすMnが豊富なドメイン又はNiが豊富なドメインなしで、均一化合物が生成される。
【0016】
一見して、主題のLMN化合物中にNi3+及びMn3+が存在する:LiNi3+及びLiMn3+Mn4+の双方とも、安定な化合物である。Ni3+の酸化電位はMn4+の酸化電位より大きいが、800℃又はそれ以上の反応温度で、平衡式
Ni3++Mn3+←→Ni2++Mn4+
の平衡は、右側の状態である。従って、カチオンの完全な原子的混合は、検出出来るMn3+がない生成物を生み出す。
【0017】
前述の手順を用いた場合でさえ、バッテリが作動する(フェード)間の容量のロスは、公知のLi[Li(1−2x)/3Mn(2−x)/3Ni]O種について問題となる。例えば、カソードの酸化還元作用中に形成された過渡的なMn3+から、カソード材料からMnが浸出する可能性がある。更に、カソード材料の結晶格子の転位又はゆがみは、層間チャンネルを収縮させ、Liイオンの挿入(放電)を低減させる。
【0018】
Liイオンバッテリの他の問題は、特に4V以上で作動するときに、電解質溶媒(液体又はポリマ)が電気化学的に劣化することである。カソードを充電(脱リシア)するにつれて、最小抵抗パスに溶媒破壊が生じるまで、伝導度は低減し、帯電した有機フラグメント(プロトンを含む)を生成する。このようにして生成された微量酸は、カソード材料を化学的作用を及ぼして、アニオン種はアノードに移行し、イオン抵抗性コーティングを形成する。どちらの発生も、セル特性を低減させる。
【0019】
1つ又はそれ以上の安定化用付加金属(M)を導入して一連のLi[Li(1−2x)/3CuMn(2−x)/3Nix−y]Oを形成することにより、このような作用を本発明の教示に従って緩和することが出来る。好ましい付加金属は、バッテリの動作に対して標準的なレドックスサイクルに関与しない2価カチオンである。すなわち、付加金属酸化及び還元電位は、カソード電圧範囲外にあり、安定化用カチオンは、一定の電荷を維持する。酸化状態を変化させること無しに、この付加金属は、一定のイオン半径を維持し、Li[Li(1−2x)/3CuMn(2−x)/3Nix−y]Oの柱として働いて構造破壊を防止する。例外はCuであるが、Cu+2及びCu+3は非常に近いイオン半径を有する。好ましくは、選択された付加金属は、0.50〜0.70nmの範囲のイオン半径を有し、サイクルの間、LMN結晶格子の構造的なゆがみの発生を防止する(表1参照)。
【0020】
表1

【0021】
本発明の変性LMNsは、上記の一般式によって特徴付けられるものである。ここで、0<x<0.5、0<y0.25、x>yであり、MはCa、Cu、Mg、Znから選択された1又はそれ以上の2価カチオンである。より好ましくは、0.10.4、0<y0.15及びx>yである。本発明による最も好ましい強化LMNsは、0.150.35及び0.020.1のCu変性剤を具える。
【0022】
この発明の薄層カソード材料を製造する3つの一般的な方法には、固体状態から作る方法、溶液/ゲルから作る方法、及び融解させて作る方法がある。第1に材料は、他の出発物質の存在下で約1100℃以下で酸化物に熱分解するいずれかの酸化物又は塩である。このような塩には、限定されないが、炭酸塩、水酸化物、硝酸化物、カルボン酸塩、シュウ酸塩、及びキレート剤に結合した種が挙げられる。固体状態の調製の重要な特徴は、工程の簡便さであり:一般的には、材料を混合又は共にミリングして反応体粒子を密接に混合させる。次いで、この混合物を800〜1100℃で数時間焼成する。相純(phase−pure)生成物を促進するために、混合金属酸化物を再ミリング又は粉砕して粒度を低減し、再び800〜1100℃に加熱するようにしてもよい。
【0023】
より好ましいのは、出発物質が、水又はアルコール等の適切な溶媒に可溶性であることを要件とする溶液又はゲルタイプ生成物の材料の調製である。これらの塩は、一般的に硝酸塩又はカルボン酸塩であり、これらの元素は、溶解によって確実に分子レベルで混合される。全部の塩の単一の溶液中にある場合は、溶媒が蒸発して、残留する固体材料は800〜1100℃で反応する。全部の溶媒が分解しない場合は、NHOH、有機アミン又は配位ポリマ等のゲル化剤を溶液に添加し、乾燥工程中に分離することを防止出来る。得られたスラリをろ過(全部の金属が沈殿物中で結合している場合)又は乾燥させて、溶媒を除去するようにしてもよい。乾燥させた塩又はゲルは、一般的に250〜500℃の予熱ステップに進み、微量のゲル化剤及び塩残留物を伴うほとんど非晶質の酸化物を残す。最後に、残留固体を800〜1100℃で反応させる。ほぼ950℃以下の反応については、単相生成物を達成するために中間ミリング及び第2焼成ステップが通常必要である。
【0024】
溶融プロセスが最も好ましい。これは、硝酸塩又はカルボン酸塩等の低融点塩を用いて、これらを混合又は共にボールミリングして200〜500℃に加熱する。この温度での反応体の溶融状態が、溶液に見られるものに相当する成分の密接な混合を促進する。次いで、キルン温度を上げて800〜1100℃で反応を完了する。ここでも、反応温度が約950℃よりも高い場合は、第2焼成ステップが一般的に必要である。
【0025】
好ましくは、上記の方法によって生成される最終生成物を粉砕又はミリングして、より小さい粒度を生じさせることは、当業者は理解される。バッテリ作動中のカソード材料の性能を最適にするには、メジアン径が10μm以下であることが望ましく、3μm以下がより望ましい。この動作に通常使用されるサイズを超えた粒子の小部分は、一般的に空気分級によって除去される。
【0026】
更に、十分に混合したLi、Mn、Ni、及びその他の(付加金属M)塩の反応物も、所望の純度のカソード材料に成ることを当業者は認識している。上記の製造方法は、相純(X線回折による)生成物を生むが、本発明の範囲は、これらの特定の方法に限定されない。900℃の反応温度は、単相LMN種を生むが1000℃の最も好ましい反応温度は、容量フェードがより低い高結晶生成物を生成する。
【0027】
発明性のあるLi[Li(1−2x)/3CuMn(2−x)/3Nix−y]O化合物中の単酸化状態(従って、固定イオン半径)にあるMg又はZn等の付加金属Mは、Li抽出又は挿入する間に構造分解しにくい結晶格子を生む。より大きい又は可変の半径を有するCa又はCu等のその他の付加金属は、それぞれ、層間チャンネルを拡大し、又はイオン導電度を上げることによって容量を強化する:これらの材料は、電解質溶媒又はポリマを減成することなく、4.2〜5V電位へのアクセスを提供する。本発明のLMNsは、上記の一般式によって特徴付けられるものであり、ここで、0<x<0.5、0<y0.25、x>yであり、MはCa、Cu、Mg、及びZnの1つ又は任意の組み合わせである。好ましくは、0.10.4及び00.15、及びx>yである。最も好ましくは、本発明によるLMNsが、0.150.35、及び0.020.1のCu+2安定化剤を具えることである。最も好ましい調製は、300mAh/gを越える容量を有し、約1.3Wh/gの理論有効エネルギを生成する。このような挿入カソード材料を組み込んだバッテリは、比較的低い容量フェード及び著しく高いエネルギアウトプットによって特徴付けられ、2.5〜4.6V又はそれ以上の範囲及び35℃で動作する。
【0028】
本発明による変性LMNsは、あらゆるリチウム充電式バッテリに有益であり、このようなバッテリは一般的に、(電子電荷をキャリ又はモニタするコンテナ及び部分を除いて)カソード、電解質、セパレータ及びアノードを具える。幾つかの例では、電解質及びセパレータは同一である。
【0029】
カソードは、Liイオンを可逆的に挿入するために、本明細書に記載された安定化LMN材料を具え、一般的には1種又はそれ以上の導電性助剤、典型的にカーボンブラック、グラファイト、又は単数又は複数のLi塩を有するカーボンブラックとグラファイトの双方を、更に具え、高分子接着剤を使用して元の寸法を保証する。導電性を強化し、微量水分を除去し、又は加工処理を容易にするのに、微粉状セラミック金属酸化物をカソード内に組み込んでもよい。好ましくは、接着剤及びLi塩は、4.5V以上の動作電圧で安定するこれらの種から選択される。本発明の変性LMNsを使用するカソード組成物は一般的に、約75〜約95重量%の変性LMN材料、約3〜約10重量%の接着剤、及び約2〜約15重量%の導電性助剤を含有することが好ましい。
【0030】
電解質は、電極間のLiイオンの移動を容易にし、1つ又はそれ以上のイオン導電性助剤を伴った溶媒又はポリマ、若しくは溶媒及び/又はポリマの混合物を具える。溶媒はバッテリの動作範囲(0.0〜5.0V対Li)を越えて安定でなければならず、極性有機液体、ポリマ、又は室温溶融塩(イオン性液体としても知られている)から選択される。一般的にカソード中に混合されるものと同じである1つ又はそれ以上のLi塩を、イオン性導電性助剤として添加する。また、セラミック金属酸化物が、カソードにおけるように、導電性を強化し、水分を除去し、又は加工処理を容易にするために存在してもよく、微量酸を中和する材料を添加するようにしてもよい。電解質組成は、約25重量%の溶媒と75%の導電性助剤から95%の溶媒と5%の導電性助剤まで、幅広く変動することが出来る。
【0031】
セパレータを使用して電解質を分離しており、これによって短絡を防止する。工業的例はCelgard(登録商標)であり、これは電解質溶液によって湿った状態である不活性微少孔ポリマであり、従って、電解質間でのLiイオン移動が可能である。上述したようにポリマ状又はゲル状電解質と称される寸法的に安定した電解質もセパレータとして機能し、従って、この場合、電解質とセパレータは一つであり、同一のものである。
【0032】
アノードはリチウム金属又はリチウムの合金、或いはLiイオンを可逆的に受ける層間材料及び高分子接着剤の混合物を具えてもよい。一般的に、この後者のアノード材料は部分的に、又は完体の黒鉛化炭素であり、接着剤は、低電圧での還元に対して安定性を求めて選択される。この出願に好適なアノード材料のもう一つのクラスは、金属酸化物、カーバイド、硝酸塩、又はリン酸塩であり、Li金属と比較して低電圧(<1.5V)で、リチウムイオンを可逆的に挿入することが出来る。
【0033】
第1の態様において、本発明を特徴付ける種々の方法による安定化用付加金属を伴う及び伴わずに調製した薄層リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料の以下の例を参照することによって、本発明をより完全に理解することが出来る。
【0034】
比較例1:Li1.06Mn0.53Ni0.42
66.24gのMn(NO・4HO(Fluka Chemie AG)、60.58gのNi(NO・6HO(Fluka Chemie AG)及び200mlの脱イオン水から成る溶液を調整し、全ての金属硝酸化物が溶解するまで攪拌した。この溶液を、金属水酸化物の完全な沈殿を担保するために、化学量論的に過剰な塩基を含有する連続的に攪拌されたLiOH溶液に滴下した。得られた沈殿物をろ過して脱イオン水で洗浄し、180℃で乾燥させた。40.13gの乾燥金属水酸化物固体に、20.76gのLiOH・HO(FMCリチウム)を加え、前記固体を混合器で均密に混合した。この混合物を480℃で3時間加熱することによって酸化物に分解し、次いで、炉の外で急速に冷却した。次いで、この固体をボールミルで粉砕し、900℃で5時間焼成して、再び室温まで急速に冷却し、Li1.06Mn0.53Ni0.42を得た。
【0035】
比較例2:Li1.06Mn0.53Ni0.42
比較例1と同様に、7207.2gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、6500.0gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)及び10Lの脱イオン水から成る溶液を調整した。例1の場合のように、連続的に攪拌されたLiOH溶液に金属硝酸溶液を15ml/minで添加した。得られた沈殿物及び溶液をデカントし、清脱イオン水でスラリにしてろ過し、脱イオン水で洗浄し、180℃で乾燥した。4472.0gの乾燥金属水酸化物を2311.9gのLiOH・HOとレッチェミリングした(Retsch)。比較例1と同様に、この混合物を反応させた。生成物、Li1.06Mn0.53Ni0.42をジェットミルで粉砕して分級し、粗い粒子を除去した。
【0036】
比較例3:Li1.11Mn0.56Ni0.33
比較例1の手順に従って、140.53gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、96.84gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び450mlの脱イオン水から成る溶液から77.3gの乾燥金属水酸化物粉末を得た。この粉末を44.90gのLiOH・HOとレッチェミリングした(Retsch)。比較例1と同様に、この混合物を反応させて、Li1.11Mn0.566Ni0.33を生成した。
【0037】
比較例4:Li1.20Mn0.60Ni0.20
比較例1と同様に、124.92gのCHCOLi・2HO(Aldrich)、50.27gの(CHCONi・4HO(Aldrich)、148.54gの(CHCOMn・4HO(Aldrich)、及び1500mlの脱イオンHOを調整した。この金属酢酸溶液を連続的に攪拌した2Mのグリコール酸(Aldrich、工業等級)溶液に滴下した。この混合物のpHをNHOH(Mallinckrodt)を添加することによって7.0に調整した。ゲルができるまで、溶媒を蒸発させて除去した。このゲルを、480℃で3時間分解させ、有機物を除去して900℃で5時間反応させ、Li1.20Mn0.60Ni0.20を生成した。
【0038】
比較例5:Li1.11Mn0.56Ni0.33
140.53gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、96.84gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び400mlのCHOH(Aldrich)を500mlの氷酢酸(CHCOH)(Baker)に溶解した41.00gのLiCO(FMCリチウム)と化合させた。得られた溶液をロータリ蒸発器で乾燥してゲルを生成し、次いで比較例1の方法に従って反応させ、Li1.11Mn0.56Ni0.33を生成した。
【0039】
例1:Li1.17Cu0.05Mn0.58Ni0.33
比較例1の手順に従って、12.08gのCu(NO・3HO(Alfa Aesar)、147.35gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、58.16gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び475mlの脱イオン水から成る溶液から69.6gの乾燥金属水酸化物を得た。この粉末を45.23gのLiOH・HO(FMCリチウム)と混合した。比較例1の方法に従って、この混合物を反応させ、Li1.17Cu0.05Mn0.58Ni0.33を生成した。
【0040】
例2:Li1.06Cu0.17Mn0.53Ni0.25
比較例1の手順に従って、40.35gのCu(NO・3HO(Alfa Aesar)、133.45gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、72.70gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び500mlの脱イオン水から成る溶液から81.9gの乾燥金属水酸化物を得た。この粉末を44.90gのLiOH・HO(FMCリチウム)とレッチェミリングし(Retsch)、比較例1の方法に従って、この混合物を反応させ、Li1.06Cu0.17Mn0.53Ni0.25形成した。
【0041】
例3a、3b、3c:Li1.235Cu0.020Mn0.627Ni0.100
337.9gのLiCO(FMCリチウム)を1.0Lの脱イオンHOでスラリにし、550.3gの氷酢酸(CHCOOH)(EM Science)と溶解させた。追加5.0Lの脱イオンHOを酢酸溶液に添加し、29.5gの(CHCOCu・HO(Alfa Aesar)、1,121.4gの(CHCOMn・4HO(Shepard Chemical)、及び182.7gの(CHCONi・4HO(Shepard Chemical)を加えた。攪拌後前記塩を溶解するまで、前記溶液をろ過し、吸い込み温度380℃、吐き出し温度111℃のNiro Mobil Minorロータリ噴霧器を使用して噴霧乾燥した。375℃で3時間加熱することによってこの噴霧乾燥塩を酸化物に分解し、次いで、この酸化物を均一にレッチェミリングし(Retsch)、3つの部分に分離した。これらの3つの粉末部分を900、1000又は1100℃で5時間、順に焼成してゆっくり冷却し、Li1.235Cu0.020Mn0.627Ni0.100を生成した(それぞれ、例3a、3b、3c)。
【0042】
例4:Li1.17Mn0.53Ni0.25Zn0.05
比較例1の手順に続いて、14.87gのZn(NO・4HO(Alfa Aesar)、147.35gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、58.16gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び425mlの脱イオン水から70.7gの乾燥金属水酸化物を得た。この粉末を44.1gのLiOH・HO(FMCリチウム)と混合した。この混合物を反応させ、Li1.17Mn0.53Ni0.25Zn0.05を生成した。
【0043】
例5:Li1.17Cu0.05Mn0.58Ni0.20
比較例1の手順に従って、6.04gのCu(NO・3HO(Alfa Aesar)、73.68gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、29.1gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び475mlの脱イオン水から成る溶液を調整した。4MのLiOH溶液及び金属硝酸塩溶液を、始めから150mlの脱イオン水を含んでいる連続的に攪拌されているビーカに同時に滴下した。反応物の流れを制御することによって、得られたスラリをpH10に維持した。比較例1に従って、水酸化物沈殿物を処理した。37.1gの乾燥金属水酸化物を24.13gのLiOH・HO(FMCリチウム)と混合し、5時間で900℃に加熱することによって反応させ、乳鉢と乳棒で磨りつぶし、5時間900℃に再加熱して、Li1.17Cu0.05Mn0.58Ni0.20を生成した。
【0044】
例6:Li1.25Ca0.025Mn0.625Ni0.10
156.9gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、29.6gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)、及び5.96gのCa(NO・HO(Alfa Aesar)を含有する水溶液を、攪拌した4MのLiOH溶液(450ml脱イオンHO中75.5gのLiOH・HO(20%過剰、FMCリチウム))に一滴ずつ添加して淡褐色スラリを得た。この固体をろ過によって回収し、脱イオンHOで2回洗浄して180℃で夜通し乾燥した(収量62.7g)。この固体に49.8gのLiOH・HO(FMCリチウム)を添加して、この混合物をミリングしてから480℃で3時間加熱した。前記混合物を再回収し、900℃で10時間反応させて室温に急冷し、Li1.25Ca0.025Mn0.625Ni0.10を生成した。
【0045】
例7:Li1.267Cu0.025Mn0.633Ni0.075
190.5gの(CHCOMn・4HO(Shepard Chemical)、23.1gの(CHCONi・4HO(Shepard Chemical)、(CHCOCu・4HO(Alfa Aesar)及び57.5gのLiCO(FMCリチウム)を乳鉢と乳棒で一緒に磨りつぶした。この混合物を80℃で1時間乾燥し、次いで、緩やかに加熱して(0.6℃/分)360℃にし、有機物を分解した。前記生成物、多色粉末、をレッチェミリングし(Retsch)、900℃で5時間加熱し、周囲温度に緩やかに冷却し、Li1.267Cu0.025Mn0.633Ni0.075を生成した。
【0046】
例8:Li1.3Mg0.025Mn0.65Ni0.025
155.3gのMn(NO・4HO(Alfa Aesar)、6.9gのNi(NO・6HO(Alfa Aesar)及び6.1gのMg(NO・HO(Alfa Aesar)を含有する水溶液を、攪拌した4MのLiOH溶液(450ml脱イオンHO中67.1gのLiOH・HO(20%過剰、FMCリチウム))に滴下して淡褐色スラリを得た。この固体をろ過して脱イオンHOで2回洗浄し、180℃で夜通し乾燥した。この固体に45.5gのLiOH・HO(FMCリチウム)を添加して、この混合物をミリングしてから480℃で3時間加熱し、前記水酸化物を分解した。この混合物を乳鉢及び乳棒で磨りつぶし、900℃で5時間反応させて、室温に緩やかに冷却し、Li1.3Mg0.025Mn0.65Ni0.025を得た。
【0047】
次の表は、カソード材料の最大容量及び長期フェードを示したものであり、その調製は上記の例に記載されている。この試験を行うために、Liホイルアノードと、エチレンカルボネートとジメチルカルボネートの等重量の混合物中に溶解した1MのLiPFを具える電解質と、導電性助剤として30重量%のカーボンブラックと、バインダとして5重量%のポリフッ化ビニリデン(PVDF)と、65重量%の特定カソード活性材料を含有するカソードディスクと、を有するコイン形電池を構成した。これらの全部のコイン形電池を2.5〜4.6Vに渡って55℃でC/7の比率でサイクルした。
【0048】
表2

【0049】
表2に示された結果と一致して、本発明によるカソード活性物質は、好ましくは、30℃で2.5〜4.6Vの範囲に渡って、1サイクル当たり、フェード<0.05%で160mAh/g容量を提供するものとして特徴付けられる(例8)。より好ましい材料は、35℃で1サイクル当たりフェード<0.1%で160mAh/gを越える(例3a及び3b)が、本発明による最も好ましい変性LMNは、>40℃で1サイクル当たりフェード<0.125%で300mAh/gを生成する(例5)。全て、2.5−4.6Vのチャージ−ディスチャージの範囲内にある。短い動作寿命に渡って最大容量を要求する用途には、例6が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Li[Li(1−2x)/3Mn(2−x)3Ni(x−y)]O、ここで、0<x<0.5、0<y0.25、x>yであり、Mは1又はそれ以上の2価カチオンである、を有することを特徴とする層間カソード材料。
【請求項2】
請求項1記載のカソード材料において、MがCa、Cu、Mg及びZnのうちの1つ又はそれ以上であることを特徴とするカソード材料。
【請求項3】
請求項2記載のカソード材料において、0.10.4及び00.15であることを特徴とするカソード材料。
【請求項4】
請求項3記載のカソード材料において、Mが銅であり、0.150.35、及び0.020.1であることを特徴とするカソード材料。
【請求項5】
請求項1記載のカソード材料が、2.5〜4.6V及び30℃の動作範囲に渡る、1サイクル当たり>160mAh/gの重量容量及び<0.05%の容量フェードによって更に特徴付けられるカソード材料。
【請求項6】
請求項1記載のカソード材料が、2.5〜4.6V及び35℃の動作範囲に渡る、1サイクル当たり>250mAh/gの重量容量及び<0.10%の容量フェードによって更に特徴付けられるカソード材料。
【請求項7】
請求項1記載のカソード材料が、2.5〜4.6V及び40℃の動作範囲に渡る、1サイクル当たり>300mAh/gの重量容量及び<0.125%の容量フェードによって更に特徴付けられるカソード材料。
【請求項8】
請求項1記載のカソード材料を組み込むことを特徴とするバッテリ。
【請求項9】
Ca、Cu、Mg及びZnの2価カチオンのうちの1つ又はそれ以上を組み込む改良層状リチウムマンガンニッケル酸化物カソード材料を製造する方法において、リチウム、マンガン、ニッケル、及び単数又は複数の組み込まれた元素の先駆物質塩、酸化物又はその両者との緊密混合物を形成するステップと、次いで、前記混合物を約950℃又はそれ以上の温度に1回又はそれ以上、又は950℃未満の温度に少なくとも2回当てて、これによって、単数又は複数の前記組み込まれた元素を含む相純層状リチウムマンガンニッケル酸化物を形成するステップとを具えることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、先駆物質塩又は酸化物の混合物を950℃から1050℃の間の温度の1回の加熱ステップで反応させることを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−516583(P2007−516583A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−546998(P2006−546998)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2004/038073
【国際公開番号】WO2005/067077
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(500002799)トロノックス エルエルシー (17)
【Fターム(参考)】