説明

リチウム電池

【課題】負極表面の電解液との反応が抑制され、低温環境下での放電初期の電圧降下が確実に抑制されるリチウム電池を提供する。
【解決手段】リチウム電池は、リチウムを含む負極と、正極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、電解液とを備え、負極は、その表面の少なくとも一部に、炭素材を保持する保持材からなる炭素材含有層を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムを含む負極を用いたリチウム電池に関し、特にリチウム電池の低温での大電流放電特性の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、リチウム電池は、起電力が高く、高エネルギー密度を有するため、携帯機器等の電子機器の主電源やメモリーバックアップ用電源に広く用いられている。リチウム電池の正極活物質には、一般に二酸化マンガンなどの金属酸化物や、フッ化黒鉛が用いられている。特にフッ化黒鉛を用いたリチウム一次電池は二酸化マンガンを用いたリチウム一次電池と比べて、長期貯蔵性や高温環境下での安定性に優れ、使用温度範囲が広い。
【0003】
近年、携帯機器等の電子機器の小型化、軽量化、および高性能化に伴い、電池性能のさらなる改善が求められている。特に車載用電子機器の主電源やメモリーバックアップ用電源に用いる場合、約−40℃の低温から約125℃の高温までの広い温度範囲で、十分な放電特性を発揮することが要求される。リチウム一次電池は、大電流放電時に、放電初期に電圧が降下した後、緩やかに電圧が上昇するという特性を示す。
【0004】
ところで、リチウム電池の負極(活物質)には、リチウムまたはリチウム合金が用いられる。通常、リチウムを含む負極表面には、種々の成分による皮膜が存在し、この皮膜により放電特性が変わる。低温環境下で放電すると、この被膜が抵抗成分となり、放電初期において負極の分極(過電圧)が増大することにより電圧降下が増大する場合がある。特に、正極にフッ化黒鉛を用いた場合、正極に由来するフッ素により負極表面には絶縁体であるLiF皮膜が形成されるため、放電時の分極が大幅に増大する場合がある。特に0℃以下の低温度環境下では、LiF皮膜の存在により大電流放電時の放電初期の電圧降下が顕著となる。
【0005】
上記放電初期の電圧降下を抑制する方法としては、例えば、特許文献1では、負極(リチウム金属またはリチウム合金)の表面に炭素質粉末の層を形成することが提案されている。これにより、負極表面の電解液との反応を抑制することが可能となる。このため、不活性なリチウムの増加が抑制され、サイクル特性およびパルス放電特性を改善することが可能となる。上記リチウム金属またはリチウム合金の表面への炭素質粉末の層の形成は、以下に示す方法により行われる。リチウム金属またはリチウム合金箔に接触して回転する表面絶縁性のドラムを帯電させて、その表面に一定厚みの炭素質粉末層を形成しながら炭素質粉末層をリチウム金属またはリチウム合金箔の表面に転写させる。転写した後の炭素質粉末層をプレスローラにてリチウム金属またはリチウム合金箔に圧着接合させる。
【特許文献1】特開平11−135116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、炭素質粉末は凝集しやすいため、一定厚みの炭素質粉末からなる薄層を負極表面に制御よく直接形成することは困難である。また、電池の製造時に炭素質粉末が飛散しやすい。さらに、負極表面に形成される層は炭素質粉末のみからなるため、電解液の注液時に炭素質粉末が負極表面から電解液中へ離散しやすい。
上記の点から、特許文献1記載の方法では、炭素質粉末による低温環境下での大電流放電時の放電初期の電圧降下の抑制効果が確実にかつ安定して得られないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の問題を解決するために、負極表面の電解液との反応が抑制され、低温環境下での放電初期の電圧降下が確実に抑制されるリチウム電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、リチウムを含む負極と、正極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、電解液とを備えたリチウム電池であって、前記負極は、その表面の少なくとも一部に、炭素材および前記炭素材を保持する保持材からなる炭素材含有層を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、予め炭素材を保持した保持材からなる炭素材含有層が負極表面に配されるため、炭素材を含む均一な薄い層を負極表面に確実に形成することができる。炭素材は保持材に保持されるため、電池組立工程時に炭素材の粉末が飛散せず、電解液の注液時に炭素材は電解液中に分散しない。負極表面において、炭素材により良好な電子伝導性が確保される。負極表面に炭素材含有層が接するため、負極の電解液との反応を防ぐことができ、低温での大電流放電時の放電初期の電圧降下を抑制することができる。
【0010】
保持材に繊維材を用いることにより、優れたLiイオン伝導性が得られる。正極にフッ化黒鉛を用いた場合、負極表面に形成されるLiF皮膜の形成が抑制されるため、0℃以下の低温での大電流放電時の放電初期の電圧降下を大幅に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、リチウムを含む負極と、正極と、前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、電解液とを備え、前記負極は、その表面の少なくとも一部に、炭素材および前記炭素材を保持する保持材からなる炭素材含有層を有するリチウム電池に関する。
【0012】
これにより、予め炭素材を保持した保持材からなる炭素材含有層が負極表面に配されるため、炭素材を含む均一な薄い層を負極表面に確実に形成することができる。炭素材は保持材により保持されるため、電池組立工程時に炭素材の粉末が飛散せず、電解液の注液時に炭素材は電解液中に分散しない。負極表面において、炭素材により良好な電子伝導性が確保される。
【0013】
負極表面に炭素材含有層が接するため、負極の電解液との反応を防ぐことができ、低温での大電流放電時の放電初期の電圧降下を抑制することができる。特に、正極にフッ化黒鉛を用いた場合、負極表面に形成されるLiF皮膜の形成が抑制されるため、0℃以下の低温での大電流放電時の放電初期の電圧降下を大幅に抑制することができる。上記のように、保持材により炭素材が負極表面に保持されるため、優れた低温大電流放電特性を有する電池が確実に得られる。このため、電池を量産した場合でも電池特性は安定し、電池の信頼性が向上する。
【0014】
炭素材含有層中の炭素材含有量は、0.02mg/cm2〜0.7mg/cm2であるのが好ましい。この炭素材含有量は、炭素材含有層の単位面積あたりに存在する炭素材の重量である。この場合、負極表面におけるLiFのような絶縁皮膜の形成が大幅に抑制され、負極表面において良好な電子伝導性を確保することができる。炭素材含有層中の炭素材含有量が0.02mg/cm2未満であると、均一な炭素材含有層を形成することが困難となり、LiF等の皮膜の形成を十分に抑制できない。炭素材含有層中の炭素材含有量が0.7mg/cm2を超えると、炭素材含有層に保持される電解液量が多くなり、電池全体として必要な電解液量が増加する。このため、電池容量に寄与する正極や負極の活物質量を減らす必要があり、電池容量が減少する。
【0015】
炭素材含有層は、負極におけるセパレータとの対向面上、すなわち負極とセパレータとの間に配されていればよい。炭素材含有層は、例えば、厚み0.1μm〜40μmである。
負極表面において優れたイオン伝導性が得られるため、保持材には、繊維材を用いるのが好ましい。
保持材の炭素材保持性および炭素材の負極表面との接触状態の観点から、繊維材が不織布であり、炭素材が炭素粒子であるのが好ましい。すなわち、炭素材含有層は、粒子状の炭素材を担持した不織布からなるのが好ましい。不織布は、例えば、目付重量20g/m2〜60g/m2および厚み0.08mm〜0.50mmである。粒子状の炭素材は、例えば、粒径5nm〜8μmである。炭素材にはカーボンブラックまたは黒鉛を用いるのが好ましい。カーボンブラックおよび黒鉛は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0016】
炭素粒子を担持した不織布は、例えば、炭素粒子の分散液を不織布に塗布、または不織布を炭素粒子の分散液に浸漬することにより得られる。これにより、均一かつ薄い炭素材含有層を容易に形成することができ、また、電池組立工程時に炭素粉末の飛散を防止できる。負極表面に炭素粉末のみの層を形成する場合に生じる炭素粒子の凝集や炭素粉末の飛散がない。
炭素材の分散媒は、炭素材と反応せず、炭素材を分散できれば何でもよい。分散媒は、炭素材を不織布に充填した後に乾燥により容易に除去できるよう、ある程度低沸点であるのが好ましい。例えば、エチルアルコールやイソプロピルアルコールなどのアルコール類、またはジメトキシエタンが好ましい。
【0017】
炭素材の不織布への結着性を向上させるために炭素粒子の分散媒に結着助剤を加えてもよい。結着助剤としては、炭素材を不織布に強固に保持させることができ、かつ炭素材および負極と反応しないものであれば何でもよい。例えば、スチレンブタジエン系ゴム、ポリアクリル酸、アクリル−スチレン樹脂(アクリル基およびスチレン基を有する樹脂)が用いられる。また、これ以外に、炭素粒子をカーボンナノファイバーのような導電性を有する繊維材に保持させたものを不織布に担持してもよい。
結着助剤を用いる場合、例えば、分散媒と水との混合液に、炭素粉末と結着助剤を加えて分散させたものを、不織布に塗布または浸漬することにより、不織布に炭素粒子および結着助剤が担持された炭素材含有層が得られる。
不織布の材料は、特に限定されないが、結着助剤の分散媒に水が使用されている場合が多いため、融点が100℃以上であるポリプロピレンやポリフェニレンサルファイド製の不織布を用いるのが好ましい。
【0018】
容易に入手でき、良好なイオン透過性を有するため、保持材にはセパレータと同じ材料(例えば、不織布)を用いるのが好ましい。さらに、炭素材含有層はセパレータの少なくとも一部と一体化されているのが好ましい。炭素材含有層はセパレータと一体化されているため、電池組立工程において炭素材含有層を配置する工程を新たに設ける必要がなく、従来の電池組立工程を変更せずに使用することができる。
炭素材含有層をセパレータの少なくとも一部と一体化させるには、例えば、保持材にセパレータと同じ不織布を用い、不織布の片面に、炭素材の分散液を塗布して炭素材を担持させればよい。これにより、保持材において、炭素材を塗布した側が炭素材含有層となり、炭素材を塗布しない側がセパレータの少なくとも一部となる。
【0019】
電解液には、例えば非水溶媒と、非水溶媒に溶解する支持塩とからなる非水電解液が用いられる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、またはLiN(CF3SO2)(C49SO2)が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。非水溶媒には、公知の種々の非水溶媒を用いることができる。例えば、γ−ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、またはジオキソランが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、幅広い温度範囲で安定であり、支持塩を溶かし易いため、γ−ブチロラクトンが好ましい。また、非水溶媒にγ−ブチロラクトンを用いる場合、支持塩にはLiBF4を用いるのが好ましい。
【0020】
正極は、例えば正極活物質、導電材、および結着剤を含む。正極活物質には、例えば二酸化マンガンなどの金属酸化物、またはフッ化黒鉛が用いられる。これらを単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。長期信頼性、安全性、および高温安定性に優れていることから、正極活物質にフッ化黒鉛を用いるのが好ましい。フッ化黒鉛としては、一般式:CFx(0.9≦x≦1.1)で表される化合物を用いることが好ましい。フッ化黒鉛は、例えば、石油コークスまたは人造黒鉛をフッ素化して得られる。
【0021】
正極用導電材としては、使用される電極材料の充放電時の電位範囲において化学変化を起こさない電子伝導体であればよい。例えば、グラファイト類、カーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維、または有機導電性材料が挙げられ、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
正極中への導電材の添加量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質100重量部あたり5〜30重量部である。
【0022】
正極用結着剤としては、使用される電極材料の充放電時の電位範囲において化学変化を起こさない公知の材料を用いればよい。例えば、フッ素系樹脂、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、ポリアクリル酸、またはポリフッ化ビニリデンが挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、正極中への結着剤の添加量は、特に限定されないが、例えば、正極活物質100重量部あたり3〜15重量部である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。
《実施例1》
以下の手順で、本発明のリチウム電池として図1に示すコイン型電池を作製した。
【0024】
(1)炭素材含有層の作製
炭素材としてのアセチレンブラック粉末(一次粒子の平均粒径35nm)(デンカブラック、電気化学工業(株)製)、および結着助剤としてのカーボンナノファイバー(CNF-T、(株)ジェムコ製)に、水とエタノールを加えて十分に混合した。この混合物を、予め重量を測定した厚み80μmのフープ状のポリフェニレンサルファイド製の不織布(平目付重量45g/m2、厚み0.40mm)の片面に塗布し、60℃で6時間乾燥した。その後、重量を測定し、負極5と同じ直径15.0mmの円形に打ち抜いて、複合部材7を得た。このとき、炭素材含有層中の炭素材量は、炭素材含有層の単位面積当たり0.02mg/cm2とした。この複合部材7において、炭素材を塗布した側が炭素材含有層となり、炭素材を塗布しない側がセパレータの一部となる。
【0025】
(2)正極の作製
石油コークスをフッ素化し、正極活物質としてフッ化黒鉛(CF1.05)を得た。このフッ化黒鉛、導電材としてアセチレンブラック、および結着剤としてスチレンブタジエンゴム(SBR)を100:15:6の重量比で混合した。この混合物に、水とイソプロピルアルコールを加え、十分に混練し、正極合剤を得た。得られた正極合剤を100℃で乾燥した後、所定の金型と油圧プレス機を用いてペレット状に加圧成型した。このペレットを100℃で24時間乾燥し、正極4を得た。
【0026】
(3)電池の組立て
ステンレス鋼製の正極ケース1の内底面に、正極3を配置し、さらに正極3上にセパレータ6を配置した。その後、所定量の電解液を注入して、正極3とセパレータ6に電解液を含浸させた。セパレータ6には、正極3、負極5、および複合部材7よりも大きい直径17.6mmの円形に打ち抜いたポリフェニレンサルファイド製不織布を用いた。非水電解液には、γ‐ブチロラクトンにテトラフルオロ硼酸リチウムを1mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。続いて、複合部材7を、炭素材を塗布した側と反対側が正極3に対向するよう載置した。
【0027】
ステンレス鋼製の負極ケース2の内面に負極5を圧着した。負極5には、厚み300μmのフープ状のリチウム金属板を直径15.0mmの円形に打ち抜いて、ペレット状としたものを用いた。負極5が圧着された負極ケース2を、負極5と正極4が対向するように正極ケース1に装着し、正極ケース1の開口端部を、ガスケット3を介して負極ケース2の周縁部にかしめつけ、正極ケース1の開口部を封口した。このようにしてコイン型電池(外径20mm、高さ1.6mm)を作製した。電池作製は、露点−50℃以下のドライエア中で行った。
【0028】
《実施例2》
炭素材含有層中の炭素材量を炭素材含有層の単位面積あたり0.2mg/cm2とした以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0029】
《実施例3》
炭素材含有層中の炭素材量を炭素材含有層の単位面積あたり0.7mg/cm2とした以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0030】
《実施例4》
炭素材含有層中の炭素材量を炭素材含有層中の単位面積あたり1.7mg/cm2とした以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0031】
《実施例5》
炭素材としての黒鉛粉末(平均粒径5μm)(J−CPB、日本黒鉛工業(株)製)、および結着助剤としてのアクリル−スチレン樹脂に、水およびイソプロピルアルコールを加えて、十分に混合した。この混合物を、予め重量を測定した厚み80μmのフープ状のポリフェニレンサルファイド製の不織布の片面に塗布し、60℃で6時間乾燥した。その後、重量を測定し、負極5と同じ直径15.0mmの円形に打ち抜いて、炭素材含有層およびセパレータの一部からなる複合部材を得た。このとき、炭素材含有層中の炭素材量は、炭素材含有層の単位面積当たり0.2mg/cm2とした。
実施例1の複合部材の代わりに、この複合部材を用いた以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0032】
《実施例6》
炭素材としてのアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業(株)製)、および結着助剤としてのカーボンナノファイバー(CNF-T、(株)ジェムコ製)に、水およびエタノールを加えて、十分に混合した。この混合液中に、予め重量を測定した厚み80μmのフープ状のポリフェニレンスルフィド製不織布を浸漬した後、60℃で6時間乾燥した。その後、重量を測定し、負極5と同じ直径15.0mmの円形に打ち抜いて、炭素材含有層を得た。このとき、炭素材含有層中の炭素材量は、炭素材含有層の単位面積あたり0.5mg/cm2とした。
実施例1の複合部材の代わりに、この炭素材含有層を用いた以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0033】
《実施例7》
炭素材としてのアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業(株)製)、および結着助剤としてのカーボンナノファイバー(CNF-T、(株)ジェムコ製)に、水とエタノールを加えて十分に混合した。この混合物を、予め重量を測定した厚み130μmのフープ状のポリフェニレンサルファイド製の不織布の片面に塗布し、60℃で6時間乾燥した。その後、重量を測定し、直径17.6mmの円形に打ち抜いて、炭素材含有層およびセパレータからなる複合部材を得た。このとき、炭素材含有層中の炭素材量は、炭素材含有層の単位面積当たり0.2mg/cm2とした。
実施例1の複合部材の代わりに、この複合部材を用い、セパレータ6を使用しない以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0034】
《比較例1》
複合部材の代わりに、厚み80μmのフープ状のポリフェニレンサルファイド製の不織布を直径15.0mmの円形に打ち抜いたものを用いた以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。
【0035】
《比較例2》
負極活物質としての厚み300μmのフープ状のリチウム金属に、リチウム金属の面積あたり0.3mg/cm2のアセチレンブラック(デンカブラック、電気化学工業(株)製)を圧着した後、これを直径15.0mmの円形に打ち抜いて、ペレット状とし、表面にアセチレンブラック層を有する負極5を得た。
実施例1の負極の代わりに、この負極を用い、複合部材を用いない以外、実施例1と同様の方法により電池を作製した。電池作製においてアセチレンブラックが飛散した。
【0036】
[評価]
上記の各実施例および比較例の電池を、3個ずつ作製し、以下の評価を行った。
(A)初期特性の評価
作製直後の各電池について、1mAの定電流で20分間予備放電した。さらに、60℃で1日間エージングし、開回路電圧(OCV)が安定した後、20℃および−10℃でOCVおよび交流インピーダンスを測定した。これらの測定には、(株)東洋テクニカ製のSI1286エレクトロケミカルインターフェースおよびSI1260インピーダンス/ゲインーフェイズアナライザーを用いた。
交流インピーダンスの測定条件は、交流電圧10mVおよび周波数106Hz〜10-1Hzとした。そして、交流インピーダンス測定で得られた結果に基づいて1kHzの電池内部抵抗を求めた。
【0037】
(B)低温大電流放電特性の評価
作製直後の各電池を60℃で1日間エージングした後、−10℃の環境下でパルス放電し、低温での大電流放電特性を評価した。具体的には、1mAで10秒間定電流放電した後、60秒間休止するパターンを200サイクル繰り返し、各サイクルにおけるパルス放電時の電圧の経時変化を測定し、200サイクルまでパルス放電した際の閉路電圧の最低値を求めた。
上記評価結果を表1に示す。表1中における、各電池のOCV値、電池の1kHzの内部抵抗値、およびパルス放電時の閉路電圧の最低値は、それぞれ電池3個の平均値を示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すように、いずれの電池も、20℃において、OCVが3V以上であり、電池内部抵抗(1kHz)が1〜30Ωであり、初期特性は良好であった。本発明の実施例1〜7の電池では、比較例1の電池に比べて、電池内部抵抗が低く、パルス放電時の閉路電圧の最低値が高いことがわかった。
また、炭素粉末のみを負極表面に配置した比較例2では、各実施例の電池とほぼ同等のパルス放電時の閉路電圧の最低値が得られた。しかし、比較例2の電池では、電池作製中に周囲へのアセチレンブラックの飛散がみられ、高信頼性の電池を安定して量産することは困難である。
本実施例では、炭素粒子を担持した不織布を負極表面に配置しているため、比較例2の電池の場合のような電池製造時における炭素粉末の飛散もなく、製造方法を大幅に変更することなく、高信頼性の電池が得られる。
【0040】
ここで、実施例2および比較例1の電池を20℃で交流インピーダンス測定した結果を図2に示し、実施例2および比較例1の電池を−10℃で交流インピーダンス測定した結果を図3に示す。
図2および3中のコール・コールプロットにおいて形成される円弧は電荷移動抵抗を表し、円弧が大きい程、抵抗が大きいことを示す。本発明の実施例2の電池は、比較例1の電池と比べて、円弧が小さい。このことから、実施例2の電池は、比較例1の電池と比べて、内部抵抗が小さいと考えられる。
【0041】
実施例2の電池では、負極表面に炭素材含有層が配されているため、負極表面において、炭素粒子により負極表面の電子伝導性が確保され、不織布により負極表面におけるLiイオンの伝導性が確保される。さらに、負極表面に炭素粒子が接し、負極表面の電解液との反応が抑制され、LiF生成が抑制される。これらの理由により、−10℃でのパルス放電特性が向上したと考えられる。
【0042】
実施例2の電池は、比較例1の電池に比べて、低温領域での温度変化に対するインピーダンスの変化が小さい、つまり低温領域での温度変化に対する影響が小さいことがわかった。この点から、実施例2の電池は、比較例1の電池と比べて、低温特性に優れていることがわかった。
上記では、実施例2および比較例1の電池のインピーダンス特性を評価したが、実施例2以外の実施例の電池においても、同様のインピーダンス特性を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のリチウム電池は、携帯機器や情報機器等の電子機器の電源、車載用電子機器の主電源、またはメモリーバックアップ用電源として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施例におけるコイン型電池の概略縦断面図である。
【図2】本発明の実施例2および従来の比較例1の電池の20℃での交流インピーダンス測定で得られたインピーダンス特性図である。
【図3】本発明の実施例2および従来の比較例1の電池の−10℃での交流インピーダンス測定で得られたインピーダンス特性図である。
【符号の説明】
【0045】
1 正極ケース
2 負極ケース
3 ガスケット
4 正極
5 負極
6 セパレータ
7 複合部材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを含む負極と、
正極と、
前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、
電解液とを備えたリチウム電池であって、
前記負極は、その表面の少なくとも一部に、炭素材および前記炭素材を保持する保持材からなる炭素材含有層を有することを特徴とするリチウム電池。
【請求項2】
前記保持材は、繊維材である請求項1記載のリチウム電池。
【請求項3】
前記炭素材は、前記炭素材含有層の単位面積当たりの重量が0.02mg/cm2〜0.7mg/cm2である請求項1記載のリチウム電池。
【請求項4】
前記繊維材は不織布であり、前記炭素材は炭素粒子である請求項2記載のリチウム電池。
【請求項5】
前記炭素材含有層は、炭素粒子の分散液を不織布に塗布、または不織布を炭素粒子の分散液に浸漬することにより得られる請求項4記載のリチウム電池。
【請求項6】
前記保持材は前記セパレータと同じ材料からなり、前記炭素材含有層と前記セパレータの少なくとも一部とが一体化されている請求項1記載のリチウム電池。
【請求項7】
前記炭素材はカーボンブラックまたは黒鉛である請求項1記載のリチウム電池。
【請求項8】
前記正極はフッ化黒鉛を含む請求項1記載のリチウム電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−140648(P2009−140648A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313518(P2007−313518)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】