説明

リップ付パッキン

【課題】 より長期間に亘って高圧水の漏出を防止し得る水圧プレスのシリンダ用のリップ付パッキンを提供する。
【解決手段】 シリンダ本体1の内側に着脱自在に嵌着されるリング状のパッキン本体3aと、このパッキン本体3aのラム2側に形成され、このラム2の外周面に先端部が周設して高圧水の漏出を防ぐリップ3bとからなるリップ付パッキン3の前記リップ3bの基端部であって、かつ水圧が作用する側に形成される鋭角溝部3cに鉛製リング3dを固着すれば、水圧で開かなくなったリップ3bでも鉛製リング3dの変形によって開き、またラム2の外周面の縦状掻き疵が鉛により埋められて、ラム2の外周面の面粗度が向上する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、水圧プレスのシリンダに用いられるリップ付パッキンの改善に関し、より詳しくは、シリンダからの高圧水の漏出を防止するためにリップを効果的に開かせると共に、摺動抵抗の低減を可能ならしめるようにしたリップ付パッキンの技術分野に属するものである。
【0002】
【従来の技術】大型の鍛鋼部品は、例えば、大型の水圧プレスによる鍛造によって製造されているが、このような水圧プレスは、その全体構成説明図の図3と、そのシリンダの断面図の図4と、図4のB部拡大図の図5(a)と、リップ付パッキンのリップの開き状態説明図の図5(b)とに示すように構成されている。
【0003】即ち、水圧プレス50は、上面に下金敷52が載置されるアンビルを支持する下盤51と、この下盤51に取付けられた上昇シリンダ53により上昇されると共に、下面に上金敷55が取付けられる中盤54とを備えている。そして、この中盤54の上面には、複数本のコラム56の頂部に水平に支持された上盤57に取付けられてなる複数本のシリンダ60の作動体であるラムにより圧下力が付与されるようになっている。
【0004】前記シリンダ60は同構成であって、図4に示すように、固定体であるシリンダ本体61と、作動体であるラム62とから構成されている。そして、高圧液である高圧水の水圧により前記ラム62を下方に伸長させる構成になっており、布入り合成ゴムからなる後述する構成になるリップ付パッキン63によって水封されるように構成されている。前記リップ付パッキン63は、図5(a)に示すように、前記シリンダ60のシリンダ本体61の内側に嵌着されてなるリング状のパッキン本体63aと、このパッキン本体63aのラム62側に形成され、このラム62の外周面に先端部が摺接して高圧水の漏出を防止するリップ63bとから構成されている。
【0005】さらに、前記リップ63bの基端部側であって、かつ水圧が作用(図における上側)する側に、鋭角溝部63cが形成されている。つまり、リップ63bはパッキン本体63aから斜め上向きに突出した構成になっている。なお、前記シリンダ本体61のリップ付パッキン63の奥側に配設されてなるものはグランドブッシュ64であり、またこのシリンダ本体61の開口側に配設されてなるものは、このリップ付パッキン63を締付けると共に、ラム62をガイドするブッシュとしての機能を備えたパッキン押さえ65である。
【0006】上記従来例に係るリップ付パッキン63によれば、前記シリンダ60のシリンダ本体61に高圧水が供給されると、図5(b)において破線で示すように、高圧水の水圧により前記リップ63bの先端側が下方に押されて開き、このリップ63bの先端部がラム62の外周面に押付けられるので、高圧水の漏出が防止されることとなる。
【0007】ところで、上記構成になる水圧プレスでは、鍛造作業の継続により前記シリンダ60のラム62が摩耗してラム径が2〜3mm細くなると、その度毎にサイズの大きなリップ付パッキンに交換される。そして、水圧プレスはラム径が2〜3mm摩耗するまでの間は同サイズのリップ付パッキンの交換の繰り返しによって稼働が継続されるという使われ方をするものである。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記従来例に係る水圧プレスのシリンダのリップ付パッキンは、それなりに有用であると考えられる。ところで、鍛造作業の継続によりリップ付パッキンのリップ先端部の摩耗量が大きくなると、リップ付パッキンのリップの先端部とラムの外周面との接触力が低下して高圧水が漏出することになるから、水圧プレスが使用不能になる。勿論、リップ先端部の摩耗量が少ない場合には、パッキン押さえによるリップ付パッキンの増し締めによってリップを開かせて、高圧水の漏出を防止している。
【0009】しかしながら、例えば、リップ付パッキンのリップ先端部の摩耗量が過大になると、パッキン押さえによる増し締めによってリップ付パッキンに対する締付力を大きくしてもリップは最大限を越えて開くことがないので、高圧水の漏出を防止することができなくなるだけでなく、締付力によってリップ付パッキンが破損してしまう。そのため、増し締め後に高圧水が漏出した時点を以てリップ付パッキンを交換しなければならないが、約1週間毎に交換するというように、メインテナンス間隔が比較的短いため、水圧プレスの稼働率の向上が望めないのに加えて、ランニングコストが嵩むという解決すべき課題があった。
【0010】従って、本発明の目的は、より長期間に亘って高圧水の漏出を防止することを可能ならしめるリップ付パッキンを提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、従って上記課題を解決するために、本発明の請求項1に係るリップ付パッキンが採用した手段の特徴とするところは、固定体の内側または作動体の外側に着脱自在に嵌着されるリング状のパッキン本体を備え、このパッキン本体の作動体側または固定体側に形成され、これら作動体または固定体の周面に先端部が摺接して高圧液の漏出を防ぐリップを備えてなるリップ付パッキンにおいて、前記リップの基端部であって、かつ液圧作用側の鋭角溝部に、軟質塑性金属からなる金属製リングが嵌着されると共に、この金属製リングが前記鋭角溝部に樹脂により固着されてなるところにある。
【0012】本発明の請求項2に係るリップ付パッキンが採用した手段の特徴とするところは、請求項1に記載のリップ付パッキンにおいて、前記リップは、片リップであるところにある。
【0013】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態に係るリップ付パッキンについて、その断面図の図1(a)と、その使用状態説明図の図1(b)と、ラムの外観状態説明図の図2(a)と、図2(a)のA部拡大図の図2R>2(b)とを参照しながら説明する。但し、本の実施の形態に係るリップ付パッキンは、上記従来例と同構成になる水圧プレスのシリンダに使用されるものであるから、水圧プレスの構成に係る説明は割愛する。
【0014】図1に示す符号3は、シリンダの固定体であるシリンダ本体1に嵌着されるリップ付パッキンである。このリップ付パッキン3は、図1,2に示すように、シリンダ本体1の内側開口部付近に嵌着されるリング状のパッキン本体3aと、このパッキン本体3aの作動体であるラム2側に形成され、このラム2の外周面に先端部が摺接するリップ3bとから構成されている。そして、このリップ3bの基端部側であって、かつ高圧液である高圧水の水圧が作用(図における上側)する側に、鋭角溝部3cが形成されている。つまり、前記リップ3bは基端側よりも先端側が高くなるように、斜め上向きに突出している。以上の説明から良く理解されるように、このリップ付パッキン3は従来例に係るリップ付パッキンと全く同構成になるものである。
【0015】従来例と全く同構成になるリップ付パッキン3のリップ3bの基端部に形成されてなる鋭角溝部3cには、軟質塑性金属である鉛からなる、後述する構成になる鉛製リング3dが嵌着されている。この鉛製リング3dは、所定長さに切断した鉛線材を前記鋭角溝部3cに沿わせて円形に形成したものである。そして、この鉛製リング3dが前記鋭角溝部3cから外れたりしないように、シリコン樹脂で樹脂層3eを形成することにより、前記鉛製リング3dが前記鋭角溝部3cに固着されている。
【0016】以下、上記実施の形態に係るリップ付パッキン3の作用態様を説明すると、上記従来例に係る水圧プレスのリップ付パッキンの場合には、上記のとおり、そのリップ先端部の摩耗量が大きくなると、パッキン押さえによる増し締めによってリップ付パッキンに対する締付力を大きくしてもリップは最大限を越えて開かなくなる。そのため、リップの先端部がラムの外周面に接触することができず、水封機能が発揮されるなくなって高圧水が漏出した。
【0017】しかしながら、本実施の形態に係るリップ付パッキン3によれば、図示しないパッキン押さえによって増し締めすると、図1(b)に示すように、鉛製リング3dの変形によりリップ3bが押される。そのため、このリップ3bが開いてラム2の外周面に接触するので、シリンダからの高圧水の漏出を防止することができる。勿論、図1(b)から良く理解されるように、前記鉛製リング3d自体もラム2の外周面に接触するので、この鉛製リング3dによっても水封機能が発揮されることとなる。
【0018】ところで、図2(a)に示すように、稼働の継続によりラム2の外周面の全面に亘って複数の縦状掻き疵4が生じる。従来例に係るリップ付パッキンの場合には、縦状掻き疵4によってリップ先端部の摩耗が一層促進されて加速的に寿命が短縮されたが、これらの縦状掻き疵4の何れもが、図2(b)に示すように、鉛製リング3dから削り取られた鉛5により埋められてラム2の外周面の面粗度が向上する結果、ラム2の摺動抵抗が低下する。そのため、リップ付パッキン3の寿命も大幅に延長されることとなる。
【0019】従って、水圧プレスのメインテナンス間隔の延長により、水圧プレスの稼働率の向上が可能になるのに加えて、メインテナンスコストの低減も可能になるという多大な効果を得ることができる。
【0020】因みに、従来例に係る水圧プレスのシリンダのリップ付パッキンの場合には、高圧水の漏出発生後のパッキン押さえによる増し締めにより平均7日間(1日当たり16時間稼働)程度の使用が可能であった。それに対して、本実施の形態に係るリップ付パッキン3の場合には約23日間の使用が可能であり、リップの摩耗寿命が大幅に向上することが判った。
【0021】ところで、水圧プレス用の高圧水には、鉛リング3dの摩耗により発生した微細な鉛粒が混入する。しかしながら、混入した微細な鉛粒はタンク側に配設されたサクションフィルタ等によって高圧水から除去することができるので、水ポンプや弁類の作動に何らの支障もない。また、廃水は水処理設備によって処理されるので、環境汚染の恐れもない。
【0022】以上では、軟質塑性金属が鉛である場合を例として説明したが、特に鉛に限ることなく、鉛のように軟硬度で塑性変形し得る合金、例えばPb合金、Sn合金、Zn合金等であれば採用することができるので、上記実施の形態によって軟質塑性金属の材質に限定されるものではない。また、リップ付パッキンが水圧プレスのシリンダに用いられる場合を例として説明したが、例えば上昇シリンダや垂直作動弁体の作動軸等の軸封にも用いることができるので、水圧プレスのシリンダ用の用途に限定されるものではない。
【0023】
【発明の効果】以上、詳述したように、上記従来例に係るシリンダのリップ付パッキンの場合にはリップ先端部の摩耗量が大きくなると、パッキン押さえによる増し締めによってリップ付パッキンに対する締付力を大きくしても、リップ付パッキンのリップは最大限を越えて開かなくなるために、リップの先端部がラムの外周面に接触しなくなって高圧液が漏出した。しかしながら、本発明の請求項1または2に係るリップ付パッキンによれば、パッキン押さえによりリップ付パッキンを増し締めすると、軟質塑性金属からなる金属製リングの変形によりリップが押されるために、このリップが開いて作動体または固定体の周面に接触するので、高圧液の漏出防止が可能になると共に、金属製リング自体も作動体または固定体の周面に接触し、この金属製リングによっても液封機能が発揮されるので、より効果的に高圧液の漏出を防止することができる。
【0024】また、作動体または固定体の周面には複数の縦状掻き疵が生じるが、これら縦状掻き疵の何れもが、金属製リングから削り取られた軟質塑性金属により埋められて前記作動体または固定体の面粗度が向上する結果、摺動抵抗が低下する。そのため、リップ付パッキンのリップ先端部の摩耗寿命も大幅に延長され、このリップ付パッキンを使用する機器のメインテナンス間隔の延長による装置の稼働率の向上と、メインテナンスコストの低減とが可能になるという多大な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係り、図1(a)はパッキンの断面図、図1(b)はパッキンの使用状態説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係り、図2(a)はラムの外観状態説明図、図2(b)は図2(a)のA部拡大図である。
【図3】従来例に係り、水圧プレスの全体構成説明図である。
【図4】従来例に係り、水圧プレスのシリンダの断面図である。
【図5】図5(a)は図4のB部拡大図、図5(b)はリップ付パッキンのリップの開き状態説明図である。
【符号の説明】
1…シリンダ本体
2…ラム
3…リップ付パッキン,3a…パッキン本体,3b…リップ,3c…鋭角溝部,3d…鉛製リング,3e…樹脂層
4…縦状掻き疵
5…鉛

【特許請求の範囲】
【請求項1】 固定体の内側または作動体の外側に着脱自在に嵌着されるリング状のパッキン本体を備え、このパッキン本体の作動体側または固定体側に形成され、これら作動体または固定体の周面に先端部が摺接して高圧液の漏出を防ぐリップを備えてなるリップ付パッキンにおいて、前記リップの基端部であって、かつ液圧作用側の鋭角溝部に、軟質塑性金属からなる金属製リングが嵌着されると共に、この金属製リングが前記鋭角溝部に樹脂により固着されてなることを特徴とするリップ付パッキン。
【請求項2】 前記リップは、片リップであることを特徴とする請求項1に記載のリップ付パッキン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2002−188725(P2002−188725A)
【公開日】平成14年7月5日(2002.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−387135(P2000−387135)
【出願日】平成12年12月20日(2000.12.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】