説明

リニアインダクションモータ駆動システム

【課題】吸引力を監視し、過大な吸引力の発生を抑えることで、安全性の高いリニアインダクションモータ駆動システムを提供する。
【解決手段】電気車202の車上側に、可変電圧、可変周波数の交流を出力する電力変換装置と、電力変換装置から電力を供給され、リニアインダクションモータの一次回路となるコイル巻線とを搭載し、地上側に、リニアインダクションモータの二次導体となるリアクションプレート203を設け、リニアインダクションモータにより電気車を駆動するリニアインダクションモータ109の駆動システムにおいて、電気車の車上側に、吸引力を演算する制御器と、吸引力の演算結果が設定された値を下回るように制御する吸引力監視制御器111を設けた。吸引力を演算する制御器は、リニアインダクションモータ109に加える電圧、電流、周波数から吸引力を演算した結果に応じて、リニアインダクションモータに加える電圧、電流、周波数を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニアインダクションモータ駆動システムに関し、特に可変電圧、可変周波数の交流を出力する電力変換装置によって、ベクトル制御を用いてリニアインダクションモータを駆動させる電気車のリニアインダクションモータの駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアインダクションモータ電気車は、図2のようにリニアインダクションモータ109の一次回路であるコイルを車両202に搭載し、鉄系の磁性材料212と、磁性材料212の上に設置したアルミニウム、銅等の非磁性導体211とを組み合わせた二次回路であるリアクションプレート203を2条のレール204間に敷設し、リニアインダクションモータ109の一次回路コイルに三相交流を与えて移動磁界を発生させると、この磁界は、二次回路であるリアクションプレート203の鉄系の磁性材料212上に設置したアルミニウム、銅等の非磁性導体211を貫通し、非磁性導体211に渦電流が発生し、渦電流によって電磁力(推力)が発生し、電気車は走行できる。
【0003】
同時に、リニアインダクションモータ109と二次回路であるリアクションプレート203の鉄系の磁性材料212間に吸引力210、及び反発力が発生するが、この力は電車の推進には寄与しない。
【0004】
このリニアインダクションモータ電気車は、従来の電気車のように駆動輪に備える回転式の電動機が不要になることから、電気車の低床化が図れ、また電気車を小形にすることで断面積の小さいトンネルを走行することができる等の長所がある。
【0005】
リニアインダクションモータ109を駆動する制御方法は、特許文献1、2に開示されている通り、推力を制御しやすいことから、ベクトル制御が提案されている。
【特許文献1】特開2000−23316号公報
【特許文献2】特開2001−28808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の例では図3に示すように、リニアインダクションモータ109とリアクションプレート203の鉄系の磁性材料212間で過大な吸引力210が発生すると、リアクションプレート203が過大な力でリニアインダクションモータ109に吸引されリアクションプレート203が損傷する恐れがあった。
【0007】
また、リニアインダクションモータ109と鉄系の磁性材料212間で過大な吸引力210が発生すると、リアクションプレート203を支えている締結装置206及び枕木209に損傷を与える恐れがあった。
【0008】
また、リニアインダクションモータ109と鉄系の磁性材料212間で過大な吸引力210が発生すると、リアクションプレート203の形状が凸に変化し、リニアインダクションモータ109とリアクションプレート203の隙間が無くなるため、リアクションプレート203がリニアモータ201と接触し、リニアインダクションモータ109とリアクションプレート203が損傷する恐れがあった。
【0009】
また、リニアインダクションモータ109とリアクションプレート203の間で過大な吸引力が発生すると、走行抵抗が大きくなる為、加速度が低下する課題があった。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解決するために、吸引力210を監視し、過大な吸引力の発生を抑えることで、安全性の高いリニアインダクションモータ電気車システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。リニアインダクションモータ電気車の駆動システムに、吸引力を演算する吸引力監視制御器を備え、リニアインダクションモータに加える電圧、インバータ周波数、滑り周波数から吸引力を演算し、予め設定された値を超えたら、リニアインダクションモータに加える電圧、滑り周波数を補正する指令を出し、吸引力の演算値が設定された値を下回るように制御する。
【0012】
すなわち、本発明は、電気車の車上側に、可変電圧、可変周波数の交流を出力する電力変換装置と、該電力変換装置から電力を供給され、リニアインダクションモータの一次回路となるコイル巻線とを搭載し、地上側に、前記リニアインダクションモータの二次導体となるリアクションプレートを設け、前記リニアインダクションモータにより電気車を駆動するリニアインダクションモータの駆動システムにおいて、前記電気車の車上側に、前記コイル巻線と前記リアクションプレート間の吸引力を演算する制御器と、前記吸引力の演算結果が設定された値を下回るように制御する吸引力監視制御器を設けたリニアインダクションモータ駆動システムである。
【0013】
また、本発明は、前記吸引力を演算する制御器は、前記リニアインダクションモータに加える電圧、電流、周波数から前記吸引力を演算した結果に応じて、前記リニアインダクションモータに加える電圧、電流、周波数を補正する手段を有するリニアインダクションモータ駆動システムである。
【0014】
そして、本発明は、前記吸引力監視制御器は、前記リニアインダクションモータに加える電圧、滑り周波数から前記吸引力を演算し、その演算結果に応じて、前記リニアインダクションモータに加える電圧を減少させ、滑り周波数を増加させるように補正する指令を出し、前記吸引力の演算値が設定された値を下回るように制御するリニアインダクションモータ駆動システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、リニアインダクションモータとリアクションプレートの鉄系の磁性材料間で発生する過大な吸引力を抑えることで、リアクションプレートの変形と損傷、リアクションプレートを固定する締結装置及び枕木の損傷、リニアインダクションモータの損傷、電気車の加速度の低下を防止することができるリニアインダクションモータ電気車システムを提供できる。
【0016】
また、リアクションプレート、及び締結装置等の地上設備の損傷を抑えることで、地上設備のメンテナンス作業の低減となる交通システムを提供できるという効果もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のニアインダクションモータ駆動システムの実施例について、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0018】
実施例1について、図1を用いて説明する。リニアインダクションモータ109の制御は、電流指令発生器101、電流制御器102、電圧ベクトル演算部103、PWM制御器104、滑り周波数演算部107、推力電流演算部112、インバータ周波数演算部113の構成からなるベクトル制御に、本実施例の吸引力監視制御器111を備えている。
【0019】
次に、実施例1における制御信号の流れについて、以下に説明する。電流指令発生器101は、リニアインダクションモータ109に与える励磁電流指令値Id*と推力電流指令Iq*を出力する。電圧ベクトル演算部103は、励磁電流指令Id*と推力電流指令Iq*を受け、リニアインダクションモータ109のモータ定数を用いて、ベクトル演算し、リニアインダクションモータに加える電圧指令変調率Vcと偏角δを出力する。前記電圧指令変調率Vcは、吸引力監視制御器111で補正され、補正後の電圧指令変調率補正後値Vc”をPWM制御器104に入力される。
【0020】
PWM制御器104は、吸引力監視制御器111からの電圧指令補正後値Vc”と電圧ベクトル演算部103からの偏角δ、インバータ周波数演算部113からのインバータ周波数Finvを受け、PWM変換し、リニアインダクションモータ109を駆動する為のインバータ主回路部106を制御し、リニアインダクションモータ109を駆動させる。
【0021】
推力電流検出演算部112と電流制御器102は、リニアインダクションモータ109の制御性能を向上させるために、推力電流をフィードバックする機能となっている。推力電流演算部112は、モータ電流検出器115からモータ電流IMを受け、推力電流検出値Iqを電流制御器102に出力する。電流制御器102は、推力電流指令Iq*と推力電流検出値Iqを比較し、指令値と検出値に差が無いように制御している。
【0022】
PWM制御器104に必要なインバータ周波数Finvは、滑り周波数演算部107で電流指令発生器101からの励磁電流指令Id*と、電流制御器102からの推力電流指令Id*から滑り周波数Fsを演算し、前記滑り周波数Fsを吸引力監視制御器111で補正し、前記滑り周波数補正後値Fs”と駆動輪110に取り付けられた速度検出器110から出力されるロータ周波数Frを加算器114で加算し、生成する。
【0023】
本実施例の特徴である吸引力監視制御器111は、直流電圧を入力するフィルタコンデンサ電圧Ecfとインバータ周波数演算部113からインバータ周波数Finvを受け、リニアインダクションモータ109に加える電圧指令変調率Vcと滑り周波数Fsを補正し、電圧指令変調率補正後値Vc”と滑り周波数補正後Fs”を出力する。
【0024】
次に、実施例1において、リニアインダクションモータ109とリニアプレート203の鉄系の磁性材料212間で発生する吸引力210の演算方法について説明する。
【0025】
リニアインダクションモータ109とリニアプレート203の鉄系の磁性材料212間で発生する吸引力210は、(吸引力∝Φ/Fs)の関係である。また、磁束Φは(磁束Φ∝V/Finv)の関係がある。つまり、吸引力は式(1)に示す関係式の通り、電圧指令V、インバータ周波数Finv、滑り周波数Fsから大きさを演算することができる。
吸引力∝Φ/Fs∝(V/Finv)/Fs・・・・・・・式(1)
【0026】
電圧指令Vは、式(2)に示す関係式の通り、フィルタコンデンサ電圧Ecfと電圧指令変調率Vcから算出できる。
V=√6/π×Ecf×Vc・・・・・・・・・・式(2)
上記式(1)、式(2)の演算式を用いることで、リニアインダクションモータ109とリニアプレート203の鉄系の磁性材料212間で発生する吸引力210の大きさを、フィルタコンデンサ電圧Ecf、電圧指令変調率Vc、インバータ周波数Finv、滑り周波数Fsから演算することができる。
【0027】
本実施例では、この上記演算式を吸引力監視制御器111に備えることで、吸引力210の大きさを演算することができる。
【0028】
例えば、吸引力210が一定値を超えた場合、電圧指令変調率Vcを下げることで磁束Φを低下させ、吸引力210を抑えることができる。
【0029】
しかしながら、電圧指令変調率Vcを低下させると、推力は式(3)の式からわかる通り、電圧指令V、インバータ周波数Finv、滑り周波数Fsと比例関係であり、推力が低下し、電気車の性能が低下する。
推力∝ΦFs∝(V/Finv)Fs・・・・・・・式(3)
【0030】
そこで、電圧指令変調率Vcを下げたと同時に、推力を維持するためには、滑り周波数Fsを上げる制御を行う。
【0031】
このように、上記考え方に基づいて、電圧指令変調率Vcと滑り周波数Fsを補正することで、過大な吸引力210の発生を抑え、推力の低下を抑えることができる。
【0032】
次に、上記考えに基づいて、吸引力210を演算している吸引力監視制御器111の制御について、図4の制御ブロック図を用いて説明する。
【0033】
吸引力監視制御器111は、フィルタコンデンサ電圧Ecf、インバータ周波数Finv、を受け、リニアインダクションモータ109に加える電圧指令変調率Vcと滑り周波数Fs補正し、吸引力210を抑え、推力を維持することができる。吸引力監視制御器111の吸引力補正ブロック410は(V/Finv)/Fsの関係から吸引力210を演算し、予め設定した値を超えた場合、吸引力210が大きいと判断し、電圧指令変調率補正値Vc´と滑り周波数補正値Fs´を出力する。前記電圧指令変調率補正値Vc’は、減算器411で電圧指令変調率Vcから電圧指令変調率補正値Vc’を減算し、電圧指令変調率補正値Vc”をPWM制御器104へ出力する。前記滑り周波数補正値Fs’は、加算器412で滑り周波数Fsと滑り周波数補正値Fs’を加算し、滑り周波数補正後値Fs”をインバータ周波数演算器113へ出力する。
【0034】
次に、本実施例の吸引力監視制御器111の動作について、図5の制御フローチャートを用いて説明する。
(1)吸引力監視制御器111の吸引力補正ブロック410で電圧指令V、インバータ周波数Finv、滑り周波数Fsから吸引力210を演算する。
(2)吸引力補正ブロック410で予め設定した値を超えてない場合、吸引力210が小さいと推定し、電圧指令変調率Vcと滑り周波数Fsの補正は不要と判断し、電圧指令変調率補正値Vc’と滑り周波数補正値Fs’は0を出力する。
(3)吸引力補正ブロック410で予め設定した値を超えた場合、吸引力210が大きいと推定し、吸引力210を下げるために電圧指令変調率補正値Vc’を出力し、電圧指令変調率Vcを下げる。
(4)電圧指令変調率Vcを下がることで、吸引力210が下がる。
(5)電圧指令変調率Vcが下がった分、推力が低下するため、滑り周波数補正値Fs’を滑り周波数Fsに加算し、推力を維持する。
【0035】
以上の実施例により、リニアインダクションモータ109とリアクションプレート203の鉄系の磁性材料212間で発生する吸引力210が過大になった場合、直流電圧を入力するフィルタコンデンサ電圧Ecf、電圧指令変調率Vc、インバータ周波数Finv、滑り周波数Fsから吸引力210を演算し、過大な吸引力の発生を抑えることで、リアクションプレート203の損傷、リアクションプレート203を固定する締結装置206及び枕木209の損傷、リニアインダクションモータ109の損傷、電気車の加速度の低下を防止することができるリニアインダクションモータ電気車システムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例における方法を説明したブロック図である。
【図2】リニアインダクションモータ電気車の断面図である。
【図3】従来の技術の課題を説明図である。
【図4】実施例における吸引力監視制御器の制御ブロック図である。
【図5】実施例における吸引力監視制御器の制御フローチャートである。
【符号の説明】
【0037】
101:電流指令発生器
102:電流制御器
103:電圧ベクトル演算部
104:PWM制御器
105:高圧電源入力部
106:インバータ主回路部
107:滑り周波数演算部
108:駆動輪
109:リニアインダクションモータ
110:速度検出器
111:吸引力監視制御器
112:推力電流検出演算部
113:インバータ周波数演算部
114:加算器
115:モータ電流検出器
202:車両
203:リアクションプレート
204:レール
206:締結装置
207:ボルト
208:ギャップ
209:枕木
210:吸引力
211:非磁性導体
212:磁性材料
410:吸引力補正ブロック
411:減算器
412:加算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気車の車上側に、可変電圧、可変周波数の交流を出力する電力変換装置と、該電力変換装置から電力を供給され、リニアインダクションモータの一次回路となるコイル巻線とを搭載し、地上側に、前記リニアインダクションモータの二次導体となるリアクションプレートを設け、前記リニアインダクションモータにより電気車を駆動するリニアインダクションモータの駆動システムにおいて、
前記電気車の車上側に、前記コイル巻線と前記リアクションプレート間の吸引力を演算する制御器と、前記吸引力の演算結果が設定された値を下回るように制御する吸引力監視制御器を設けたことを特徴とするリニアインダクションモータ駆動システム。
【請求項2】
請求項1記載のリニアインダクションモータ駆動システムにおいて、
前記吸引力を演算する制御器は、前記リニアインダクションモータに加える電圧、電流、周波数から前記吸引力を演算した結果に応じて、前記リニアインダクションモータに加える電圧、電流、周波数を補正する手段を有することを特徴とするリニアインダクションモータ駆動システム。
【請求項3】
請求項1のリニアインダクションモータ駆動システムにおいて、
前記吸引力監視制御器は、前記リニアインダクションモータに加える電圧、滑り周波数から前記吸引力を演算し、その演算結果に応じて、前記リニアインダクションモータに加える電圧を減少させ、滑り周波数を増加させるように補正する指令を出し、前記吸引力の演算値が設定された値を下回るように制御することを特徴とするリニアインダクションモータ駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−228438(P2008−228438A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−62500(P2007−62500)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】