説明

リニアガイド装置

【課題】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置の場合に、使用状態に応じて、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにする。
【解決手段】スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面のクラウニング傾斜角度θ1を、前記弾性変形量が小さい方の転動面のクラウニング傾斜角度θ2より大きく形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リニアガイド装置は、案内レールとスライダ(「ベアリング」とも称される。)と複数個の転動体とを備えている。案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面(転動体がボールの場合には転動溝)を有する。スライダには、転動通路と平行に延びる戻し通路が形成され、スライダの両端に、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路が形成されている。
【0003】
転動体が前記転動通路を荷重を受けた状態で転動することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動する。転動通路を出た転動体は、一方の方向転換路を通って戻し通路に入り、他方の方向転換路から再度、転動通路に入る。すなわち、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成されている。方向転換路と戻し通路内で、転動体は荷重を受けない状態で移動している。
【0004】
つまり、転動体は、転動通路内で弾性変形状態にあり、方向転換路と戻し通路内では弾性変形していない。このように、方向転換路から転動通路に入る時点で転動体が急に変形することに起因して、スライダに振動が生じる。この振動を抑制するために、図10に示すように、スライダ1の転動面11の長手方向両端(方向転換路12との接続部分)にクラウニング13を設けることが行われている。
【0005】
これにより、スライダ1の転動面11と案内レール2の転動面21とで形成される転動通路の、転動体3の径方向に対応する寸法を、最端部で転動体の直径より大きくし(K1)、所定の範囲で通常の寸法K2(転動体に付与する荷重に応じて設定された寸法)まで変化させている。このクラウニング13に伴うスライダ1の転動面11の寸法差D(クラウニング13の接触角方向落ち量)を、通常は、転動体3の弾性変形量δに安全率αをかけた値(D=α・δ)に設定している。
【0006】
特許文献1には、クラウニングの端部に面取り部を形成し、クラウニング有効長さ(クラウニングの荷重を受ける部分の長さ)Leと転動体の直径Daとの関係をLe/Da≧1に設定することや、円弧形状クラウニングの半径Rcと転動体の直径Daとの関係をRc/Da≧500に設定すること等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−138193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リニアガイド装置は、一般に、案内レールとスライダとのガタを無くし、剛性を向上させる目的で、予圧をかけて使用される。前記循環経路を二対4列有するリニアガイド装置には、案内レールにおける上下の転動面間の距離Aをスライダにおける上下の転動面間の距離Bよりも大きく設定した自動調心設計(DF設計)と、AをBより小さく設定した高剛性設計(DB設計)がある。
【0009】
DF設計によるDF接触構造のリニアガイド装置の場合、スライダ上部に圧縮荷重が作用する際には上側の転動面で荷重を支持し、引張荷重が作用する際には下側の転動面で荷重を支持することになる。DB設計によるDB接触構造のリニアガイド装置の場合、スライダ上部に圧縮荷重が作用する際には下側の転動面で荷重を支持し、引張荷重が作用する際には上側の転動面で荷重を支持することになる。
このように、設計方法や荷重方向の違いにより、上下の転動面で転動体の変形量が異なる。よって、上下の転動面で同じクラウニングが設けてあると、転動体の変形量が小さい方ではクラウニング有効長が短くなって、十分なクラウニング効果が得られない恐れがある。
【0010】
このような循環経路を二対4列有するリニアガイド装置の場合でも、従来技術では上下の転動面で同じクラウニングを設けており、特許文献1にも、上下の転動面で別々のクラウニングを設けることを示唆する記載はない。
この発明の課題は、転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置の場合に、使用状態に応じて、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、この発明のリニアガイド装置は、案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、前記循環経路を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、前記循環経路を二対4列有し、前記スライダの4列の転動面の方向転換路との接続部分にクラウニングが形成され、前記スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面のクラウニング傾斜度が、前記弾性変形量が小さい方の転動面のクラウニング傾斜度より大きく形成されていることを特徴とする。
【0012】
この発明のリニアガイド装置によれば、前記スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面のクラウニング傾斜度が、前記弾性変形量が小さい方の転動面のクラウニング傾斜度より大きく形成されているため、前記弾性変形量が大きい方と小さい方で、クラウニング有効長の差を小さくすることができる。よって、使用状態に応じて、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにできる。
【0013】
前記スライダの上下の転動面に形成されたクラウニングの長さが同じであると、研削加工で上下のクラウニングを同時に形成する際に送りを一緒に行うことができるため、生産効率が高くなるという点で好ましい。
前記スライダの上下の転動面に形成されたクラウニングのうち、クラウニング傾斜度が大きい方の接触角方向落ち量(D1)が、クラウニング傾斜度が小さい方の接触角方向落ち量(D2)より大きく、その70倍以下である(D2<D1≦70・D2)と、DF接触構造およびDB接触構造で圧縮荷重および引張荷重のいずれの場合でも、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにできる。
【発明の効果】
【0014】
この発明のリニアガイド装置によれば、転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置であるが、使用状態に応じて、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明の実施形態のリニアガイド装置における、スライダの上下の転動面でのクラウニングを説明する図である。
【図2】この発明の比較例に相当するリニアガイド装置における、スライダの上下の転動面でのクラウニングを説明する図である。
【図3】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DF接触構造のボールガイドを、予圧Z1(微予圧)で圧縮荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図4】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DF接触構造のボールガイドを、予圧Z1(微予圧)で引張荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図5】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DF接触構造のボールガイドを、予圧Z3(中予圧)で圧縮荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図6】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DF接触構造のボールガイドを、予圧Z3(中予圧)で引張荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図7】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DB接触構造のロールガイドを、予圧Z3(中予圧)で圧縮荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図8】転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、DB接触構造のロールガイドを、予圧Z3(中予圧)で引張荷重で使用した場合の、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した結果を示すグラフである。
【図9】この発明を円弧状のクラウニングに適用した場合を説明する図である。
【図10】クラウニングについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1は、この実施形態のリニアガイド装置における、スライダの上下の転動面でのクラウニングを説明する図である。スライダ1の転動面11と案内レール2の転動面21により、転動体3が荷重を受けた状態で転動する転動通路が形成されている。転動面11の方向転換路12との接続部分にクラウニング13が形成されている。
【0017】
図1(a)および(b)に示すように、この実施形態では、スライダ1の上下の転動面11のうち、使用状態でクラウニング部(クラウニング13が形成されている部分)以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が大きい方のクラウニング傾斜角度(クラウニング傾斜度)θ1を、前記弾性変形量が小さい方のクラウニング傾斜角度(クラウニング傾斜度)θ2より大きく形成した。
【0018】
図1(a)が、クラウニング部(クラウニング13が形成されている部分)以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が大きい方を示す。クラウニング傾斜角度:θ1、接触角方向落ち量:D1、弾性変形量:δ1、クラウニング長さ:L1、クラウニング有効長:Le1とする。図1(b)が、クラウニング部以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が小さい方を示す。クラウニング傾斜角度:θ2、接触角方向落ち量:D2、弾性変形量:δ2、クラウニング長さ:L2、クラウニング有効長:Le2とする。
図1では、(a)のクラウニング傾斜角度θ1を(b)のクラウニング傾斜角度θ2より大きく形成したため、クラウニング有効長を上下の転動面で同程度(Le1≒Le2)とすることができる。これにより、上下の転動面11で同程度のクラウニング効果が得られるようにできる。
【0019】
図2は、上下の転動面11でクラウニング傾斜角度を同じに(θ1=θ2)した比較例である。図2(a)が、クラウニング部(クラウニング13が形成されている部分)以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が大きい方を、図2(b)が、クラウニング部以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が小さい方を示す。
図2では、(a)のクラウニング傾斜角度θ1と(b)のクラウニング傾斜角度θ2が同じであるため、クラウニング有効長が(b)で(a)より短く(Le1>Le2)なる。これにより、上下の転動面11でのクラウニング効果に差が出る。
【0020】
次に、転動体の循環経路を二対4列有するリニアガイド装置として、日本精工(株)製のボールガイドNo. 35(呼び番号:LH35)およびローラガイドNo. 35(呼び番号:RA35)を用意し、DF接触構造かDB接触構造か、圧縮荷重か引張荷重か、予圧が予圧記号Z1(微予圧)かZ3(中予圧)かの各条件で、上下の転動面での転動体の弾性変形量を測定した。その結果を図3〜8にグラフで示す。
【0021】
上側の転動面での転動体の弾性変形量をδ1、下側の転動面での転動体の弾性変形量をδ2で示す。また、δ1とδ2のうち、数値が大きい方を分子、小さい方を分母とした弾性変形量の比(δ1/δ2またはδ2/δ1)を各グラフに示す。
これらのグラフから分かるように、δ1/δ2およびδ2/δ1は1以上70以下の範囲にある。また、クラウニングの接触角方向落ち量Dは安全率αと弾性変形量δを用いてD=α・δである。
【0022】
よって、スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面の接触角方向落ち量(D1)を、前記弾性変形量が小さい方の転動面の接触角方向落ち量(D2)より大きく、その70倍以下にする(D2<D1≦70・D2)ことで、DF接触構造およびDB接触構造で圧縮荷重および引張荷重のいずれの場合でも、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにすることができる。
【0023】
すなわち、スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面のクラウニング傾斜角度を、前記弾性変形量が小さい方の転動面のクラウニング傾斜角度より大きく形成し、クラウニング傾斜角度が大きい方の接触角方向落ち量(D1)を、クラウニング傾斜角度が小さい方の接触角方向落ち量(D2)より大きく、その70倍以下にする(D2<D1≦70・D2)ことで、DF接触構造およびDB接触構造で圧縮荷重および引張荷重のいずれの場合でも、上下の転動面で同程度のクラウニング効果が得られるようにすることができる。
この実施形態では直線状のクラウニング13について説明しているが、この発明は、図9に示すような円弧状のクラウニング13Aの場合にも適用できる。
【0024】
円弧状のクラウニング13Aの場合には、通常、スライダ本体10のエンドキャップ側の端面10a側に面取り部14が形成されている。そして、この場合は、クラウニング開始点Pと、円弧状のクラウニング13Aを延長した仮想線のスライダ本体10の端面10aとの交点Qと、を直線hで結び、この直線hとスライダ1の転動面11の延長線とがなす角度(クラウニング傾斜角度)θ11,θ21の比較で、クラウニング傾斜度を比較することができる。
なお、面取り部14は、この例のように直線状であってもよいし、クラウニング13Aより曲率半径が小さい円弧状であってもよい。
【0025】
図9(a)が、クラウニング部(クラウニング13Aが形成されている部分)以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が大きい方を示し、図9(b)が、クラウニング部以外の転動通路内での転動体3の弾性変形量が小さい方を示す。図9では、(a)のクラウニング傾斜角度θ11を(b)のクラウニング傾斜角度θ21より大きく形成したため、クラウニング有効長を上下の転動面で同程度(Le1≒Le2)とすることができる。これにより、上下の転動面11で同程度のクラウニング効果が得られるようにできる。
【符号の説明】
【0026】
1 スライダ
10 スライダ本体
10a スライダ本体のエンドキャップ側の端面
11 スライダの転動面
12 方向転換路
13 クラウニング
13A 円弧状のクラウニング
14 面取り部
2 案内レール
21 案内レールの転動面
3 転動体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
案内レールと、スライダと、複数個の転動体と、を備え、
案内レールおよびスライダは、互いに対向配置されて転動体の転動通路を形成する転動面を有し、
スライダは、さらに、転動体の戻し通路と、前記戻し通路と前記転動通路とを連通させる方向転換路を有し、
前記転動通路、戻し通路、および方向転換路で転動体の循環経路が構成され、
前記循環経路を転動体が循環することにより、案内レールおよびスライダの一方が他方に対して相対的に直線運動するリニアガイド装置において、
前記循環経路を二対4列有し、
前記スライダの4列の転動面の方向転換路との接続部分にクラウニングが形成され、
前記スライダの上下の転動面のうち、使用状態でクラウニング部以外の転動通路内での転動体の弾性変形量が大きい方の転動面のクラウニング傾斜度が、前記弾性変形量が小さい方の転動面のクラウニング傾斜度より大きく形成されていることを特徴とするリニアガイド装置。
【請求項2】
前記スライダの上下の転動面に形成されたクラウニングの長さが同じである請求項1記載のリニアガイド装置。
【請求項3】
前記スライダの上下の転動面に形成されたクラウニングのうち、クラウニング傾斜度が大きい方の接触角方向落ち量は、クラウニング傾斜度が小さい方の接触角方向落ち量より大きく、その70倍以下である請求項2記載のリニアガイド装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−219835(P2012−219835A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83067(P2011−83067)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】