リニアゲージ
【課題】リニアゲージ内にダスト等の異物が進入することを防止できるリニアゲージを提供すること。
【解決手段】リニアゲージ100の外筒11の開口端部11aには、パッキン材10が装着されている。パッキン材10は、リング部10aと、このリング部10aの内周側に設けられた複数の内周側凸部10bと、リング部10aの外周側に設けられた複数の外周側凸部10cとを有する。リング部10aの内周側凸部10bは、軸体3のスプライン溝3aの形状に対応する形状を有し、そのスプライン溝3a内に嵌まり、スプライン溝3aに接触している。これにより、異物が本体内に進入することを防止することができ、また、スプライン溝3a上に異物がたまった場合でも、例えば軸体3の動作時に、内周側凸部10bによりその異物をスプライン溝3aから掻き出すように除去することができる。
【解決手段】リニアゲージ100の外筒11の開口端部11aには、パッキン材10が装着されている。パッキン材10は、リング部10aと、このリング部10aの内周側に設けられた複数の内周側凸部10bと、リング部10aの外周側に設けられた複数の外周側凸部10cとを有する。リング部10aの内周側凸部10bは、軸体3のスプライン溝3aの形状に対応する形状を有し、そのスプライン溝3a内に嵌まり、スプライン溝3aに接触している。これにより、異物が本体内に進入することを防止することができ、また、スプライン溝3a上に異物がたまった場合でも、例えば軸体3の動作時に、内周側凸部10bによりその異物をスプライン溝3aから掻き出すように除去することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向にスライドする軸体を備え、その軸体の軸方向の変位を測定するリニアゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールスプライン構造が応用されたリニアゲージが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたリニアゲージ(リニアスケール)は、スプライン軸と、外筒と、ボールと、スプライン軸及び外筒の間に配置されボール保持する保持器とを備えている。これにより、リニアスケールの幅方向のサイズを小さくしながらもスプライン軸がその軸中心に回転することが抑制される(特許文献1の明細書段落[0012]記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−117060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたリニアスケールでは、ボールスプライン構造が採用されていることから、スプライン軸には軸方向にボール転走溝が形成されている。したがって、そのボール転走溝を介して、外部からリニアスケール内にダスト等の異物が進入するおそれがある。その場合、センサやスケールに異物が付着することにより、センシングの精度が劣化する。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、リニアゲージ内にダスト等の異物が進入することを防止できるリニアゲージを提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、軸体の摺動抵抗を低減することができるリニアゲージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るリニアゲージは、軸体と、スケールと、本体と、センサと、パッキン材とを具備する。
前記軸体は、スプライン溝を有する。
前記スケールは、前記軸体に設けられている。
前記本体は、開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する。
前記センサは、前記本体内に配置され、前記スケールを読み取る。
前記パッキン材は、前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられている。
【0008】
リニアゲージにボールスプラインが採用されることにより、軸体のスプライン溝を介して異物が進入しようとする。しかし、パッキン材の凸部がスプライン溝に接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体から露出する部分のスプライン溝上に異物がたまった場合でも、凸部によりその異物をスプライン溝から掻き出すように除去することができる。
【0009】
前記パッキン材の前記凸部と前記スプライン溝との接触は、一点接触である。これにより、凸部とスプライン溝との接触が複数点接触である場合に比べ、凸部とスプライン溝との摩擦抵抗を減らすことができ、その結果、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0010】
前記本体のボールスプライン軸受構造のボールと、前記スプライン溝との接触は、一点接触である。これにより、ボールとスプライン溝との接触が複数点接触である場合に比べ、それらの摩擦抵抗を減らすことができ、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0011】
また、ボールと、後述する本体の外筒の内周面に設けられたスプライン溝との接触は、一点接触とすることも可能である。これにより、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0012】
前記本体は、内周面と、前記内周面に形成された内周スプライン溝とを有する外筒を有する。その場合、前記本体の前記ボールスプライン軸受構造は、ボールと、ホルダーとを有する。ホルダーは、前記ボールの直径より小さい肉厚を有し、前記軸体の前記スプライン溝と前記外筒の前記内周スプライン溝との間に前記ボールを配置させるように、前記ボールを保持する。
【0013】
本体の外筒にスプライン溝が設けられることにより、少なくともボールスプライン軸受構造が設けられる部分の外筒の外径を小さくすることができ、リニアゲージの小型化を実現することができる。
【0014】
前記リニアゲージは、前記本体内に設けられた、前記軸体を流体圧により駆動するためのシリンダ機構をさらに具備する。本発明では、本体内のスペースに余裕ができるので、本体内にシリンダ機構を設けることができる。特に、パッキン材により本体内が封止されることにより、シリンダ機構の駆動時の流体圧の圧力損失を低減でき、圧力の伝達効率が向上する。パッキン材が設けられることにより、上記した異物の進入防止の効果の上、この圧力損失の低減という相乗効果が発揮される。
【0015】
前記リニアゲージは、前記本体と一体成形により形成された、前記センサが設置された設置部をさらに具備する。これにより、リニアゲージの部品点数が減り、リニアゲージの小型化を実現することができる。また、センシング領域の剛性も向上する。
【0016】
前記本体は、第1の肉厚を有する第1の部分と、第1の肉厚より厚い第2の肉厚を有する第2の部分とを有する。ユーザは、本体を締め付けて所定の設置場所に固定するための固定具を用いて、リニアゲージを所定の姿勢で所定の設置場所に設置する。このとき、肉厚部分である第2の部分が設けられることにより、第2の部分の剛性を第1の部分より高めることができる。例えば、ユーザは、第2の部分を固定具で締め付けても、第2の部分で本体が変形する等の問題を解消することができる。
【0017】
また、例えばリニアゲージにボールスプラインが採用されることにより、回転防止用のピン等、別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。したがって、本体内のスペースに余裕ができ、本体の外径を従来品のものより大きくすることなく、肉厚が厚い第2の部分を本体に形成することができる。
【0018】
前記第2の部分は、前記第1の部分より前記開口端部側に設けられている。このように、肉厚部分である第2の部分ができるだけ、軸体が動作する側である開口端部側に設けられることにより、リニアゲージの設置状態(固定状態)を安定させることができる。
【0019】
本発明の他の形態に係るリニアゲージは、軸体と、本体と、スケールと、センサと、パッキン材とを具備する。
前記軸体は、スプライン溝を有する。
前記本体は、開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する。
前記スケールは、前記本体内に配置されている。
前記センサは、前記軸体に設けられ、前記スケールを読み取る。
前記パッキン材は、前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられている。
【0020】
本発明では、スケールが本体内で固定され、軸体とともに動くセンサによりそのスケールが読み取られる。本発明でも、上記発明と同様に、パッキン材の凸部がスプライン溝に接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体から露出する部分のスプライン溝上に異物がたまった場合でも、凸部によりその異物をスプライン溝から掻き出すように除去することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によれば、リニアゲージ内にダスト等の異物が進入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【図2】このリニアゲージに搭載されるボールスプライン構造を示す斜視図である。
【図3】その軸方向に垂直な面での断面図である。
【図4】参考例に係るボールスプラインの構造を示す断面図である。
【図5】外筒の開口端部付近の拡大断面図である。
【図6】外筒の開口端部からパッキン材が外れた状態を示す斜視図である。
【図7】パッキン材を示す斜視図である。
【図8】パッキン材を示す正面図である。
【図9】本発明者が、軸体の摺動抵抗を実験により測定した結果を示す表である。
【図10】本発明の他の実施形態に係るリニアゲージの開口端部付近を示す断面図である。
【図11】本発明のさらに別の実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【0025】
リニアゲージ100は、軸体3と、ボールスプライン軸受構造20により軸体3の長手方向である軸方向に軸体3がスライドするように軸体3を支持する本体1とを備える。本体1は、外筒11と、外筒11に取り付けられたカバーケース12とを有し、外筒11にボールスプライン軸受構造20が設けられている。軸体3は、本体1の外筒11の開口端部11aを介して、本体1に対して伸縮するようにスライドするようになっている。
【0026】
軸体3の一端部にはスケール4が設けられている。スケール4は、カバーケース12内に配置されており、スケール台4aと、スケール台4aに微細なピッチでパターンが刻まれて構成された位置情報とを有している。本体1内の、スケール台4aに対面する位置にはセンサ5が配置されている。センサ5は、本体1に対して固定されており、例えば外筒11と一体的に設けられた設置部11bに設置されている。例えば設置部11bは、外筒11と一体成形により形成されている。センサ5の検出面とスケール台4aの表面とのギャップは、約20μm±5μmに設定されている。軸体3がスライドすることにより、センサ5がスケール4(上記位置情報)を読み取るようになっている。センサ5は、フレキシブルプリント基板6及びコネクタ7を介して電気ケーブル8に接続されている。
【0027】
センサ5としては、典型的には磁気式が用いられるが、光学式または静電式等が用いられてもよい。
【0028】
本実施形態では、上記のように、センサ5の設置部11bは本体1の外筒11と一体成形により形成されている。これにより、リニアゲージ100の部品点数が減り、リニアゲージ100の小型化を実現することができる。また、センシング領域の剛性も向上する。
【0029】
また、スケール台4aの、軸方向に垂直な断面の形状は、D字状となっている。したがって、そのスケール台4aの加工は容易であり、そのスケール台4aの表面上に位置情報を形成しやすいというメリットがある。
【0030】
また本実施形態では、センサ5の検出面とスケール台4aの表面の間の領域、すなわちセンシング領域が、実質的に軸体3と同軸上に配置されているため、アッベ誤差を少なくし、検出精度を高めることができる。
図2は、このリニアゲージ100に搭載されるボールスプライン構造を示す斜視図である。図3は、その軸方向に垂直な面での断面図である。
【0031】
軸体3は、その軸方向に形成されたスプライン溝3aを有する。図3に示すように、例えばスプライン溝3aは合計4本形成されている。例えば、各スプライン溝3aの、軸体3の外周面上の周方向での配置の角度間隔は、図3において上の2つについて60〜70°であり、下の2つも同様である。あるいは、これら4つのスプライン溝3aは、90°に円周方向に均等な間隔で設けられていてもよい。なお、スプライン溝3aは、3本設けられていてもよいし、180度間隔で2本設けられていてもよい。スプライン溝3aが2本または4本のように偶数となる場合、図3に示すように上下対象(または左右対称)となるので、スプライン溝3aを形成するときの軸体3の加工精度が向上する。
【0032】
ボールスプライン軸受構造20は、ボール21と、これらのボール21を保持する筒形状のホルダー22とを有する。ホルダー22は、外筒11の内周面に固定されている。ホルダー22には、軸体3のスプライン溝3aに対応するように軸方向に沿って複数の貫通穴22aが形成されている。これらの貫通穴22a内にボール21が回転自在にそれぞれ配置されている。
【0033】
外筒11の内周面にも、軸体3のスプライン溝3aに対向する位置に内周スプライン溝11cが形成されている。ホルダー22の肉厚t1は、ボール21の直径t2より小さく形成されている。具体的には、ボール21の直径t2は、ボール21が貫通穴22a内に配置された状態で、軸体3のスプライン溝3aと外筒11の内周スプライン溝11cとに接触するような値に設定されている。典型的には、ホルダー22の肉厚t1は、0.3〜0.7mmであり、ボール21の直径t2は、1mmとされる。外筒11の外径は、例えば8mmとされている。
【0034】
このように、本体1の外筒11の内周面に内周スプライン溝11cが形成されることにより、少なくともボールスプライン軸受構造20が設けられる部分の外筒11の外径を小さくすることができる。その結果、リニアゲージ100の小型化を実現することができる。
【0035】
図3の点Aで示すように、ボールスプライン軸受構造20のボール21と、軸体3のスプライン溝3aとの接触は、一点接触とされている。また、それらボール21と、外筒11の内周スプライン溝11cとの接触も一点接触(点B)とされている。つまり、これらのボール21はそれぞれ二点接触とされる。これにより、例えば図4に示すように、一般的なボールスプラインの4点接触に比べ、軸体3の摺動抵抗を減らすことができる。
【0036】
軸体3の摺動抵抗が小さいほど、軸体3がスムーズに動くので、例えば後述するエアシリンダ機構25のエア圧力は大きいものを必要としない。したがって、エアシリンダ機構25の駆動エネルギーを低減でき、また、軸体3の先端部に設けられた接触子9が、図示しない測定対象物に接触するときの測定対象物の変形量を最小限に抑制することができる。
【0037】
軸体3及びボールスプライン軸受構造20により構成されるボールスプラインの材質は、例えば、鉄、ステンレス、その他の合金でもよいし、あるいは樹脂でもよい。
【0038】
このように、リニアゲージ100にボールスプラインが採用されることにより、軸体3の軸方向を中心としてトルクが軸体3に加えられても、軸体3の回転を防止することができる。軸体3の回転が防止されることにより、スケール台4aの面と、センサ5の検出面との距離が一定に維持されながら、軸体3がスライド可能となる。したがって、センサ5の検出精度が低下することがない。
【0039】
軸方向を中心としてトルクが軸体3に加えられるときの典型例として、ユーザが接触子9を交換するときなどの、接触子9の着脱時が挙げられる。例えば、軸体3の先端部と接触子9との着脱がネジ式の場合、その着脱時に軸体3に大きな回転力が加えられる。
【0040】
また、本実施形態に係るリニアゲージ100では、ボールスプラインが採用されることにより、例えば従来のリニアゲージに設けられていた別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。この回転防止機構は、図示しないが、例えばケース等に軸方向に長い形状に形成された長孔と、軸体に設けられその長孔に係合するピンとで構成される。しかし、このような従来の回転防止機構では、軸体をスライドさせるために、ピンがその長孔の長手方向でスライドする必要があるため、ピンと長孔との隙間が形成される必要がある。したがって、軸体が回転方向に動く、つまりガタつくので、これがセンサの検出精度の低下の原因となる。また、このような回転防止機構では、軸方向に垂直な方向の部品の形成や加工が必要になり、製造の手間やコストがかかっていた。またそのような軸方向に垂直方向の加工が多くなることにより、リニアゲージの剛性が低いという問題もあった。
【0041】
外筒11の、ボールスプライン軸受構造20が設けられる側とは反対側には、軸体3を駆動するためのエアシリンダ機構25が設けられている。エアシリンダ機構25では、外筒11内で軸体3に固定されたカラー26が移動可能に設けられており、カラー26と外筒11の端部11dとの間には、バネ27が接続されている。ボールスプラインが採用されることにより、上記同様に、本体1内のスペースに余裕ができるので、従来品のようにエアにより伸縮するベローズ等を設ける代わりに、本体1と一体となったエアシリンダ機構25を設けることができる。これによりリニアゲージ100を小型化することができる。
【0042】
図5は、外筒11の開口端部11a付近の拡大断面図である。外筒11の開口端部11aには、パッキン材10が装着されている。図6は、その外筒11の開口端部11aからパッキン材10が外れた状態を示す斜視図である。図7は、パッキン材10を示す斜視図であり、図8は、パッキン材10の正面図である。
【0043】
パッキン材10は、リング部10aと、このリング部10aの内周側に設けられた複数の内周側凸部10bと、リング部10aの外周側に設けられた複数の外周側凸部10cとを有する。リング部10aの内周側凸部10bは、軸体3のスプライン溝3aの形状に対応する形状を有し、そのスプライン溝3a内に嵌まり、スプライン溝3aに接触している。外周側凸部10cは、例えば内周側凸部10bより軸方向に長い形状であって外筒11の内周スプライン溝11cの形状に対応する形状を有する。外周側凸部10cは、その内周スプライン溝11c内に嵌まり、内周スプライン溝11cに接触している。図5に示すように、外周側凸部10cは、リング部10aから外筒11の内部へ、つまりボールスプライン軸受構造20側へ延びるように形成されている。
【0044】
パッキン材10の内周側凸部10bは、軸方向に垂直な面に対して傾くようにリング部10aに設けられている。その傾きの方向は、内周側凸部10bの端部が軸体3の先端部へ向くような方向である。
【0045】
内周側凸部10b及び外周側凸部10cは、そのスプライン溝3a及び内周スプライン溝11cの個数分それぞれ設けられ、例えば4つずつ設けられている。
【0046】
図6に示すように、外筒11内の開口端部11a付近には、フランジ部11eが形成されている。パッキン材10のリング部10aがそのフランジ部11eに当接することで、パッキン材10が位置決めされている。なお、外筒11とパッキン材10との固定を確実にするために、図5に示すように、リング状の固定部材15がパッキン材10に隣接して配置されている。固定部材15は、パッキン材10の位置より、軸体3の先端部側に配置される。
【0047】
パッキン材10の材料としては、ニトリルゴム、シリコン樹脂、あるいはジュラコン(POM)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0048】
リニアゲージ100にボールスプラインが採用されることにより、軸体3のスプライン溝3aを介して異物が進入しようとする。しかし、本実施形態では、パッキン材10の内周側凸部10bがスプライン溝3aに接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体1から露出する部分のスプライン溝3a上に異物がたまった場合でも、例えば軸体3の動作時に、内周側凸部10bによりその異物をスプライン溝3aから掻き出すように除去することができる。
【0049】
特に、パッキン材10の内周側凸部10bは、軸方向に垂直な面に対して傾くようにリング部10aに設けられている。これにより、より効果的に異物の本体1への進入を防止することができる。
【0050】
本実施形態に係るパッキン材10により、本体1内が気密に近い状態に封止される。これにより、エアシリンダ機構25の駆動時の筒内の領域28(図1参照)のエアの圧力損失を低減でき、圧力の伝達効率が向上する。つまり、パッキン材10が設けられることにより、上記した異物の進入防止の効果の上、この圧力損失の低減という相乗効果が発揮される。
【0051】
パッキン材10についても、ボールスプライン軸受構造20のボール21と同様に一点接触とすることができる。すなわち、パッキン材10の内周側凸部10bと軸体3のスプライン溝3aとの接触は、一点接触とすることができる。これにより、内周側凸部10bとスプライン溝3aとの接触が複数点接触である場合に比べ、内周側凸部10bとスプライン溝3aとの摩擦抵抗を減らすことができ、その結果、軸体3の摺動抵抗を減らすことができる。
【0052】
また、パッキン材10が設けられることにより、本体1からの軸体3の抜けが抑制される。
【0053】
次に、以上のように構成されたリニアゲージ100の動作を説明する。
【0054】
図1中、リニアゲージ100の左側に図示しない測定対象物が配置される。エアシリンダ機構25において、領域28内のエアが減圧されることにより、カラー26がバネ27の弾性力に抗して図1中右側に移動し、これにより軸体3が本体1内に後退するように移動する。一方、領域28のエアの減圧状態が解除されることにより、バネ27の戻り力によって本体1から軸体3が進出して元の位置に戻る。これにより、測定対象物の位置や変位量が自動測定される。
【0055】
図9は、本発明者が、軸体3の摺動抵抗を実験により測定した結果を示す表である。この表に示すように、5回とも、0.07Nあるいは0.06Nより小さい値を実現している。
【0056】
図10は、本発明の他の実施形態に係るリニアゲージの開口端部付近を示す断面図である。
【0057】
本実施形態に係るリニアゲージ200では、本体51の外筒61の、軸体3が挿通される開口端部61a側に、第2の部分としての肉厚部61bが設けられている。第1の部分としての、外筒11の肉厚部61b以外の部分は、その肉厚部61bの肉厚より薄くなっている。肉厚部61bの肉厚は、例えば2mm以上に設定することができる。
【0058】
ユーザは、本体51を締め付けて所定の設置場所に固定するための固定具を用いて、リニアゲージ200を所定の姿勢で所定の設置場所に設置する。このとき、外筒61に肉厚部61bが設けられることにより、肉厚部61bの剛性を他の部分より高めることができる。これにより、ユーザは、肉厚部61bを固定具で締め付けても、肉厚部61bで外筒61が変形する等の問題を解消することができる。
【0059】
また、固定具が取り付けられる肉厚部61bが、できるだけ軸体3が動作する側である開口端部61aに近い位置に設けられることにより、軸体3の動作時にリニアゲージ200の設置状態(固定状態)を安定させることができる。
【0060】
リニアゲージ200にボールスプラインが採用されることにより、回転防止用のピン等、別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。したがって、本体51内のスペースに余裕ができ、本体51の外径を従来品のものより大きくすることなく、肉厚部61bを本体51に形成することができる。
【0061】
図11は、本発明のさらに別の実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【0062】
本実施形態に係るリニアゲージ300は、エア押し出しタイプのものである。例えば、上記実施形態に係るリニアゲージ300と比べ、軸体3に固定されたカラー26が外筒11内で反対側に配置されている。つまり、図10に示した静止状態(非動作状態)では、カラー26は、外筒11の、開口端部11aとは反対側の端部に配置されている。このようなリニアゲージ300では、カラー26の図中右側から本体1の領域28内にエアが供給され、そのエア圧力によりカラー26が押圧されることにより、バネ27の弾性力に抗して軸体3が図中左側へスライドする。
【0063】
このリニアゲージ300の開口端部11aにも、上記実施形態と同様に、パッキン材10及び固定部材15が装着されている。
【0064】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0065】
上記実施形態では、センサ5が本体1内で固定して配置され、軸体3に設けられたスケール4が移動する構成であった。しかし、スケール4が本体1内で固定して配置され、軸体3に設けられたセンサ5が移動するような構成であってもよい。
【0066】
パッキン材10の内周側凸部10bは、その端部が軸体3の先端部側へ向くような方向に傾いているが、その傾きは必須ではない。
【0067】
上記実施形態では、本体1の外筒11に内周スプライン溝11cが設けられていたが、内周スプライン溝11cはなくてよい。この場合は、外筒11の外径が上記実施形態のものより大きくなる。
【0068】
上記実施形態に係るエアシリンダ機構25に代えて、他の流体を用いたものが用いられてもよい。他の流体とは、例えばヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスが挙げられる。あるいは、他の流体とは、ガスに限られず、オイル等の液体であってもよい。
【0069】
上記実施形態において、エアシリンダ機構25等はなくてもよい。また、設置部11bが外筒11と一体成形により形成されている形態等も必須の要素ではない。
【0070】
上記実施形態では、固定部材15が設けられる構成とした。しかし、パッキン材10または開口端部11aの内周面の形状により、パッキン材10が開口端部11aに確実に固定されれば、固定部材15は設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1、51…本体
3…軸体
3a…スプライン溝
4…スケール
5…センサ
10…パッキン材
10b…内周側凸部
11、61…外筒
11a、61a…開口端部
11b…設置部
11c…内周スプライン溝
20…ボールスプライン軸受構造
21…ボール
22…ホルダー
25…エアシリンダ機構
61b…肉厚部
100、200、300…リニアゲージ
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向にスライドする軸体を備え、その軸体の軸方向の変位を測定するリニアゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボールスプライン構造が応用されたリニアゲージが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたリニアゲージ(リニアスケール)は、スプライン軸と、外筒と、ボールと、スプライン軸及び外筒の間に配置されボール保持する保持器とを備えている。これにより、リニアスケールの幅方向のサイズを小さくしながらもスプライン軸がその軸中心に回転することが抑制される(特許文献1の明細書段落[0012]記載)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−117060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたリニアスケールでは、ボールスプライン構造が採用されていることから、スプライン軸には軸方向にボール転走溝が形成されている。したがって、そのボール転走溝を介して、外部からリニアスケール内にダスト等の異物が進入するおそれがある。その場合、センサやスケールに異物が付着することにより、センシングの精度が劣化する。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、リニアゲージ内にダスト等の異物が進入することを防止できるリニアゲージを提供することにある。
【0006】
本発明の別の目的は、軸体の摺動抵抗を低減することができるリニアゲージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るリニアゲージは、軸体と、スケールと、本体と、センサと、パッキン材とを具備する。
前記軸体は、スプライン溝を有する。
前記スケールは、前記軸体に設けられている。
前記本体は、開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する。
前記センサは、前記本体内に配置され、前記スケールを読み取る。
前記パッキン材は、前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられている。
【0008】
リニアゲージにボールスプラインが採用されることにより、軸体のスプライン溝を介して異物が進入しようとする。しかし、パッキン材の凸部がスプライン溝に接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体から露出する部分のスプライン溝上に異物がたまった場合でも、凸部によりその異物をスプライン溝から掻き出すように除去することができる。
【0009】
前記パッキン材の前記凸部と前記スプライン溝との接触は、一点接触である。これにより、凸部とスプライン溝との接触が複数点接触である場合に比べ、凸部とスプライン溝との摩擦抵抗を減らすことができ、その結果、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0010】
前記本体のボールスプライン軸受構造のボールと、前記スプライン溝との接触は、一点接触である。これにより、ボールとスプライン溝との接触が複数点接触である場合に比べ、それらの摩擦抵抗を減らすことができ、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0011】
また、ボールと、後述する本体の外筒の内周面に設けられたスプライン溝との接触は、一点接触とすることも可能である。これにより、軸体の摺動抵抗を減らすことができる。
【0012】
前記本体は、内周面と、前記内周面に形成された内周スプライン溝とを有する外筒を有する。その場合、前記本体の前記ボールスプライン軸受構造は、ボールと、ホルダーとを有する。ホルダーは、前記ボールの直径より小さい肉厚を有し、前記軸体の前記スプライン溝と前記外筒の前記内周スプライン溝との間に前記ボールを配置させるように、前記ボールを保持する。
【0013】
本体の外筒にスプライン溝が設けられることにより、少なくともボールスプライン軸受構造が設けられる部分の外筒の外径を小さくすることができ、リニアゲージの小型化を実現することができる。
【0014】
前記リニアゲージは、前記本体内に設けられた、前記軸体を流体圧により駆動するためのシリンダ機構をさらに具備する。本発明では、本体内のスペースに余裕ができるので、本体内にシリンダ機構を設けることができる。特に、パッキン材により本体内が封止されることにより、シリンダ機構の駆動時の流体圧の圧力損失を低減でき、圧力の伝達効率が向上する。パッキン材が設けられることにより、上記した異物の進入防止の効果の上、この圧力損失の低減という相乗効果が発揮される。
【0015】
前記リニアゲージは、前記本体と一体成形により形成された、前記センサが設置された設置部をさらに具備する。これにより、リニアゲージの部品点数が減り、リニアゲージの小型化を実現することができる。また、センシング領域の剛性も向上する。
【0016】
前記本体は、第1の肉厚を有する第1の部分と、第1の肉厚より厚い第2の肉厚を有する第2の部分とを有する。ユーザは、本体を締め付けて所定の設置場所に固定するための固定具を用いて、リニアゲージを所定の姿勢で所定の設置場所に設置する。このとき、肉厚部分である第2の部分が設けられることにより、第2の部分の剛性を第1の部分より高めることができる。例えば、ユーザは、第2の部分を固定具で締め付けても、第2の部分で本体が変形する等の問題を解消することができる。
【0017】
また、例えばリニアゲージにボールスプラインが採用されることにより、回転防止用のピン等、別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。したがって、本体内のスペースに余裕ができ、本体の外径を従来品のものより大きくすることなく、肉厚が厚い第2の部分を本体に形成することができる。
【0018】
前記第2の部分は、前記第1の部分より前記開口端部側に設けられている。このように、肉厚部分である第2の部分ができるだけ、軸体が動作する側である開口端部側に設けられることにより、リニアゲージの設置状態(固定状態)を安定させることができる。
【0019】
本発明の他の形態に係るリニアゲージは、軸体と、本体と、スケールと、センサと、パッキン材とを具備する。
前記軸体は、スプライン溝を有する。
前記本体は、開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する。
前記スケールは、前記本体内に配置されている。
前記センサは、前記軸体に設けられ、前記スケールを読み取る。
前記パッキン材は、前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられている。
【0020】
本発明では、スケールが本体内で固定され、軸体とともに動くセンサによりそのスケールが読み取られる。本発明でも、上記発明と同様に、パッキン材の凸部がスプライン溝に接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体から露出する部分のスプライン溝上に異物がたまった場合でも、凸部によりその異物をスプライン溝から掻き出すように除去することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上、本発明によれば、リニアゲージ内にダスト等の異物が進入することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【図2】このリニアゲージに搭載されるボールスプライン構造を示す斜視図である。
【図3】その軸方向に垂直な面での断面図である。
【図4】参考例に係るボールスプラインの構造を示す断面図である。
【図5】外筒の開口端部付近の拡大断面図である。
【図6】外筒の開口端部からパッキン材が外れた状態を示す斜視図である。
【図7】パッキン材を示す斜視図である。
【図8】パッキン材を示す正面図である。
【図9】本発明者が、軸体の摺動抵抗を実験により測定した結果を示す表である。
【図10】本発明の他の実施形態に係るリニアゲージの開口端部付近を示す断面図である。
【図11】本発明のさらに別の実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【0025】
リニアゲージ100は、軸体3と、ボールスプライン軸受構造20により軸体3の長手方向である軸方向に軸体3がスライドするように軸体3を支持する本体1とを備える。本体1は、外筒11と、外筒11に取り付けられたカバーケース12とを有し、外筒11にボールスプライン軸受構造20が設けられている。軸体3は、本体1の外筒11の開口端部11aを介して、本体1に対して伸縮するようにスライドするようになっている。
【0026】
軸体3の一端部にはスケール4が設けられている。スケール4は、カバーケース12内に配置されており、スケール台4aと、スケール台4aに微細なピッチでパターンが刻まれて構成された位置情報とを有している。本体1内の、スケール台4aに対面する位置にはセンサ5が配置されている。センサ5は、本体1に対して固定されており、例えば外筒11と一体的に設けられた設置部11bに設置されている。例えば設置部11bは、外筒11と一体成形により形成されている。センサ5の検出面とスケール台4aの表面とのギャップは、約20μm±5μmに設定されている。軸体3がスライドすることにより、センサ5がスケール4(上記位置情報)を読み取るようになっている。センサ5は、フレキシブルプリント基板6及びコネクタ7を介して電気ケーブル8に接続されている。
【0027】
センサ5としては、典型的には磁気式が用いられるが、光学式または静電式等が用いられてもよい。
【0028】
本実施形態では、上記のように、センサ5の設置部11bは本体1の外筒11と一体成形により形成されている。これにより、リニアゲージ100の部品点数が減り、リニアゲージ100の小型化を実現することができる。また、センシング領域の剛性も向上する。
【0029】
また、スケール台4aの、軸方向に垂直な断面の形状は、D字状となっている。したがって、そのスケール台4aの加工は容易であり、そのスケール台4aの表面上に位置情報を形成しやすいというメリットがある。
【0030】
また本実施形態では、センサ5の検出面とスケール台4aの表面の間の領域、すなわちセンシング領域が、実質的に軸体3と同軸上に配置されているため、アッベ誤差を少なくし、検出精度を高めることができる。
図2は、このリニアゲージ100に搭載されるボールスプライン構造を示す斜視図である。図3は、その軸方向に垂直な面での断面図である。
【0031】
軸体3は、その軸方向に形成されたスプライン溝3aを有する。図3に示すように、例えばスプライン溝3aは合計4本形成されている。例えば、各スプライン溝3aの、軸体3の外周面上の周方向での配置の角度間隔は、図3において上の2つについて60〜70°であり、下の2つも同様である。あるいは、これら4つのスプライン溝3aは、90°に円周方向に均等な間隔で設けられていてもよい。なお、スプライン溝3aは、3本設けられていてもよいし、180度間隔で2本設けられていてもよい。スプライン溝3aが2本または4本のように偶数となる場合、図3に示すように上下対象(または左右対称)となるので、スプライン溝3aを形成するときの軸体3の加工精度が向上する。
【0032】
ボールスプライン軸受構造20は、ボール21と、これらのボール21を保持する筒形状のホルダー22とを有する。ホルダー22は、外筒11の内周面に固定されている。ホルダー22には、軸体3のスプライン溝3aに対応するように軸方向に沿って複数の貫通穴22aが形成されている。これらの貫通穴22a内にボール21が回転自在にそれぞれ配置されている。
【0033】
外筒11の内周面にも、軸体3のスプライン溝3aに対向する位置に内周スプライン溝11cが形成されている。ホルダー22の肉厚t1は、ボール21の直径t2より小さく形成されている。具体的には、ボール21の直径t2は、ボール21が貫通穴22a内に配置された状態で、軸体3のスプライン溝3aと外筒11の内周スプライン溝11cとに接触するような値に設定されている。典型的には、ホルダー22の肉厚t1は、0.3〜0.7mmであり、ボール21の直径t2は、1mmとされる。外筒11の外径は、例えば8mmとされている。
【0034】
このように、本体1の外筒11の内周面に内周スプライン溝11cが形成されることにより、少なくともボールスプライン軸受構造20が設けられる部分の外筒11の外径を小さくすることができる。その結果、リニアゲージ100の小型化を実現することができる。
【0035】
図3の点Aで示すように、ボールスプライン軸受構造20のボール21と、軸体3のスプライン溝3aとの接触は、一点接触とされている。また、それらボール21と、外筒11の内周スプライン溝11cとの接触も一点接触(点B)とされている。つまり、これらのボール21はそれぞれ二点接触とされる。これにより、例えば図4に示すように、一般的なボールスプラインの4点接触に比べ、軸体3の摺動抵抗を減らすことができる。
【0036】
軸体3の摺動抵抗が小さいほど、軸体3がスムーズに動くので、例えば後述するエアシリンダ機構25のエア圧力は大きいものを必要としない。したがって、エアシリンダ機構25の駆動エネルギーを低減でき、また、軸体3の先端部に設けられた接触子9が、図示しない測定対象物に接触するときの測定対象物の変形量を最小限に抑制することができる。
【0037】
軸体3及びボールスプライン軸受構造20により構成されるボールスプラインの材質は、例えば、鉄、ステンレス、その他の合金でもよいし、あるいは樹脂でもよい。
【0038】
このように、リニアゲージ100にボールスプラインが採用されることにより、軸体3の軸方向を中心としてトルクが軸体3に加えられても、軸体3の回転を防止することができる。軸体3の回転が防止されることにより、スケール台4aの面と、センサ5の検出面との距離が一定に維持されながら、軸体3がスライド可能となる。したがって、センサ5の検出精度が低下することがない。
【0039】
軸方向を中心としてトルクが軸体3に加えられるときの典型例として、ユーザが接触子9を交換するときなどの、接触子9の着脱時が挙げられる。例えば、軸体3の先端部と接触子9との着脱がネジ式の場合、その着脱時に軸体3に大きな回転力が加えられる。
【0040】
また、本実施形態に係るリニアゲージ100では、ボールスプラインが採用されることにより、例えば従来のリニアゲージに設けられていた別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。この回転防止機構は、図示しないが、例えばケース等に軸方向に長い形状に形成された長孔と、軸体に設けられその長孔に係合するピンとで構成される。しかし、このような従来の回転防止機構では、軸体をスライドさせるために、ピンがその長孔の長手方向でスライドする必要があるため、ピンと長孔との隙間が形成される必要がある。したがって、軸体が回転方向に動く、つまりガタつくので、これがセンサの検出精度の低下の原因となる。また、このような回転防止機構では、軸方向に垂直な方向の部品の形成や加工が必要になり、製造の手間やコストがかかっていた。またそのような軸方向に垂直方向の加工が多くなることにより、リニアゲージの剛性が低いという問題もあった。
【0041】
外筒11の、ボールスプライン軸受構造20が設けられる側とは反対側には、軸体3を駆動するためのエアシリンダ機構25が設けられている。エアシリンダ機構25では、外筒11内で軸体3に固定されたカラー26が移動可能に設けられており、カラー26と外筒11の端部11dとの間には、バネ27が接続されている。ボールスプラインが採用されることにより、上記同様に、本体1内のスペースに余裕ができるので、従来品のようにエアにより伸縮するベローズ等を設ける代わりに、本体1と一体となったエアシリンダ機構25を設けることができる。これによりリニアゲージ100を小型化することができる。
【0042】
図5は、外筒11の開口端部11a付近の拡大断面図である。外筒11の開口端部11aには、パッキン材10が装着されている。図6は、その外筒11の開口端部11aからパッキン材10が外れた状態を示す斜視図である。図7は、パッキン材10を示す斜視図であり、図8は、パッキン材10の正面図である。
【0043】
パッキン材10は、リング部10aと、このリング部10aの内周側に設けられた複数の内周側凸部10bと、リング部10aの外周側に設けられた複数の外周側凸部10cとを有する。リング部10aの内周側凸部10bは、軸体3のスプライン溝3aの形状に対応する形状を有し、そのスプライン溝3a内に嵌まり、スプライン溝3aに接触している。外周側凸部10cは、例えば内周側凸部10bより軸方向に長い形状であって外筒11の内周スプライン溝11cの形状に対応する形状を有する。外周側凸部10cは、その内周スプライン溝11c内に嵌まり、内周スプライン溝11cに接触している。図5に示すように、外周側凸部10cは、リング部10aから外筒11の内部へ、つまりボールスプライン軸受構造20側へ延びるように形成されている。
【0044】
パッキン材10の内周側凸部10bは、軸方向に垂直な面に対して傾くようにリング部10aに設けられている。その傾きの方向は、内周側凸部10bの端部が軸体3の先端部へ向くような方向である。
【0045】
内周側凸部10b及び外周側凸部10cは、そのスプライン溝3a及び内周スプライン溝11cの個数分それぞれ設けられ、例えば4つずつ設けられている。
【0046】
図6に示すように、外筒11内の開口端部11a付近には、フランジ部11eが形成されている。パッキン材10のリング部10aがそのフランジ部11eに当接することで、パッキン材10が位置決めされている。なお、外筒11とパッキン材10との固定を確実にするために、図5に示すように、リング状の固定部材15がパッキン材10に隣接して配置されている。固定部材15は、パッキン材10の位置より、軸体3の先端部側に配置される。
【0047】
パッキン材10の材料としては、ニトリルゴム、シリコン樹脂、あるいはジュラコン(POM)等が挙げられるが、これらに限られない。
【0048】
リニアゲージ100にボールスプラインが採用されることにより、軸体3のスプライン溝3aを介して異物が進入しようとする。しかし、本実施形態では、パッキン材10の内周側凸部10bがスプライン溝3aに接触することにより、その異物の進入を防止することができる。また、例えば、本体1から露出する部分のスプライン溝3a上に異物がたまった場合でも、例えば軸体3の動作時に、内周側凸部10bによりその異物をスプライン溝3aから掻き出すように除去することができる。
【0049】
特に、パッキン材10の内周側凸部10bは、軸方向に垂直な面に対して傾くようにリング部10aに設けられている。これにより、より効果的に異物の本体1への進入を防止することができる。
【0050】
本実施形態に係るパッキン材10により、本体1内が気密に近い状態に封止される。これにより、エアシリンダ機構25の駆動時の筒内の領域28(図1参照)のエアの圧力損失を低減でき、圧力の伝達効率が向上する。つまり、パッキン材10が設けられることにより、上記した異物の進入防止の効果の上、この圧力損失の低減という相乗効果が発揮される。
【0051】
パッキン材10についても、ボールスプライン軸受構造20のボール21と同様に一点接触とすることができる。すなわち、パッキン材10の内周側凸部10bと軸体3のスプライン溝3aとの接触は、一点接触とすることができる。これにより、内周側凸部10bとスプライン溝3aとの接触が複数点接触である場合に比べ、内周側凸部10bとスプライン溝3aとの摩擦抵抗を減らすことができ、その結果、軸体3の摺動抵抗を減らすことができる。
【0052】
また、パッキン材10が設けられることにより、本体1からの軸体3の抜けが抑制される。
【0053】
次に、以上のように構成されたリニアゲージ100の動作を説明する。
【0054】
図1中、リニアゲージ100の左側に図示しない測定対象物が配置される。エアシリンダ機構25において、領域28内のエアが減圧されることにより、カラー26がバネ27の弾性力に抗して図1中右側に移動し、これにより軸体3が本体1内に後退するように移動する。一方、領域28のエアの減圧状態が解除されることにより、バネ27の戻り力によって本体1から軸体3が進出して元の位置に戻る。これにより、測定対象物の位置や変位量が自動測定される。
【0055】
図9は、本発明者が、軸体3の摺動抵抗を実験により測定した結果を示す表である。この表に示すように、5回とも、0.07Nあるいは0.06Nより小さい値を実現している。
【0056】
図10は、本発明の他の実施形態に係るリニアゲージの開口端部付近を示す断面図である。
【0057】
本実施形態に係るリニアゲージ200では、本体51の外筒61の、軸体3が挿通される開口端部61a側に、第2の部分としての肉厚部61bが設けられている。第1の部分としての、外筒11の肉厚部61b以外の部分は、その肉厚部61bの肉厚より薄くなっている。肉厚部61bの肉厚は、例えば2mm以上に設定することができる。
【0058】
ユーザは、本体51を締め付けて所定の設置場所に固定するための固定具を用いて、リニアゲージ200を所定の姿勢で所定の設置場所に設置する。このとき、外筒61に肉厚部61bが設けられることにより、肉厚部61bの剛性を他の部分より高めることができる。これにより、ユーザは、肉厚部61bを固定具で締め付けても、肉厚部61bで外筒61が変形する等の問題を解消することができる。
【0059】
また、固定具が取り付けられる肉厚部61bが、できるだけ軸体3が動作する側である開口端部61aに近い位置に設けられることにより、軸体3の動作時にリニアゲージ200の設置状態(固定状態)を安定させることができる。
【0060】
リニアゲージ200にボールスプラインが採用されることにより、回転防止用のピン等、別途の回転防止機構を設ける必要がなくなる。したがって、本体51内のスペースに余裕ができ、本体51の外径を従来品のものより大きくすることなく、肉厚部61bを本体51に形成することができる。
【0061】
図11は、本発明のさらに別の実施形態に係るリニアゲージを示す断面図である。
【0062】
本実施形態に係るリニアゲージ300は、エア押し出しタイプのものである。例えば、上記実施形態に係るリニアゲージ300と比べ、軸体3に固定されたカラー26が外筒11内で反対側に配置されている。つまり、図10に示した静止状態(非動作状態)では、カラー26は、外筒11の、開口端部11aとは反対側の端部に配置されている。このようなリニアゲージ300では、カラー26の図中右側から本体1の領域28内にエアが供給され、そのエア圧力によりカラー26が押圧されることにより、バネ27の弾性力に抗して軸体3が図中左側へスライドする。
【0063】
このリニアゲージ300の開口端部11aにも、上記実施形態と同様に、パッキン材10及び固定部材15が装着されている。
【0064】
本発明に係る実施形態は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態が考えられる。
【0065】
上記実施形態では、センサ5が本体1内で固定して配置され、軸体3に設けられたスケール4が移動する構成であった。しかし、スケール4が本体1内で固定して配置され、軸体3に設けられたセンサ5が移動するような構成であってもよい。
【0066】
パッキン材10の内周側凸部10bは、その端部が軸体3の先端部側へ向くような方向に傾いているが、その傾きは必須ではない。
【0067】
上記実施形態では、本体1の外筒11に内周スプライン溝11cが設けられていたが、内周スプライン溝11cはなくてよい。この場合は、外筒11の外径が上記実施形態のものより大きくなる。
【0068】
上記実施形態に係るエアシリンダ機構25に代えて、他の流体を用いたものが用いられてもよい。他の流体とは、例えばヘリウム、アルゴン、窒素等の不活性ガスが挙げられる。あるいは、他の流体とは、ガスに限られず、オイル等の液体であってもよい。
【0069】
上記実施形態において、エアシリンダ機構25等はなくてもよい。また、設置部11bが外筒11と一体成形により形成されている形態等も必須の要素ではない。
【0070】
上記実施形態では、固定部材15が設けられる構成とした。しかし、パッキン材10または開口端部11aの内周面の形状により、パッキン材10が開口端部11aに確実に固定されれば、固定部材15は設けられていなくてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1、51…本体
3…軸体
3a…スプライン溝
4…スケール
5…センサ
10…パッキン材
10b…内周側凸部
11、61…外筒
11a、61a…開口端部
11b…設置部
11c…内周スプライン溝
20…ボールスプライン軸受構造
21…ボール
22…ホルダー
25…エアシリンダ機構
61b…肉厚部
100、200、300…リニアゲージ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプライン溝を有する軸体と、
前記軸体に設けられたスケールと、
開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する本体と、
前記本体内に配置され、前記スケールを読み取るセンサと、
前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられたパッキン材と
を具備するリニアゲージ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記パッキン材の前記凸部と前記スプライン溝との接触は、一点接触であるリニアゲージ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体のボールスプライン軸受構造のボールと、前記スプライン溝との接触は、一点接触であるリニアゲージ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体は、内周面と、前記内周面に形成された内周スプライン溝とを有する外筒を有し、
前記本体の前記ボールスプライン軸受構造は、
ボールと、
前記ボールの直径より小さい肉厚を有し、前記軸体の前記スプライン溝と前記外筒の前記内周スプライン溝との間に前記ボールを配置させるように、前記ボールを保持するホルダーと
を有するリニアゲージ。
【請求項5】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体内に設けられ、前記軸体を流体圧により駆動するためのシリンダ機構をさらに具備するリニアゲージ。
【請求項6】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体と一体成形により形成され、前記センサが設置された設置部をさらに具備するリニアゲージ。
【請求項7】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体は、
第1の肉厚を有する第1の部分と、
第1の肉厚より厚い第2の肉厚を有する第2の部分と
を有するリニアゲージ。
【請求項8】
請求項5に記載のリニアゲージであって、
前記第2の部分は、前記第1の部分より前記開口端部側に設けられているリニアゲージ。
【請求項9】
スプライン溝を有する軸体と、
開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する本体と、
前記本体内に配置されたスケールと、
前記軸体に設けられ、前記スケールを読み取るセンサと、
前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられたパッキン材と
を具備するリニアゲージ。
【請求項1】
スプライン溝を有する軸体と、
前記軸体に設けられたスケールと、
開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する本体と、
前記本体内に配置され、前記スケールを読み取るセンサと、
前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられたパッキン材と
を具備するリニアゲージ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記パッキン材の前記凸部と前記スプライン溝との接触は、一点接触であるリニアゲージ。
【請求項3】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体のボールスプライン軸受構造のボールと、前記スプライン溝との接触は、一点接触であるリニアゲージ。
【請求項4】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体は、内周面と、前記内周面に形成された内周スプライン溝とを有する外筒を有し、
前記本体の前記ボールスプライン軸受構造は、
ボールと、
前記ボールの直径より小さい肉厚を有し、前記軸体の前記スプライン溝と前記外筒の前記内周スプライン溝との間に前記ボールを配置させるように、前記ボールを保持するホルダーと
を有するリニアゲージ。
【請求項5】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体内に設けられ、前記軸体を流体圧により駆動するためのシリンダ機構をさらに具備するリニアゲージ。
【請求項6】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体と一体成形により形成され、前記センサが設置された設置部をさらに具備するリニアゲージ。
【請求項7】
請求項1に記載のリニアゲージであって、
前記本体は、
第1の肉厚を有する第1の部分と、
第1の肉厚より厚い第2の肉厚を有する第2の部分と
を有するリニアゲージ。
【請求項8】
請求項5に記載のリニアゲージであって、
前記第2の部分は、前記第1の部分より前記開口端部側に設けられているリニアゲージ。
【請求項9】
スプライン溝を有する軸体と、
開口端部と、ボールスプライン軸受構造とを有し、前記ボールスプライン軸受構造により、前記軸体が前記開口端部の開口を介してスライドするように前記軸体を支持する本体と、
前記本体内に配置されたスケールと、
前記軸体に設けられ、前記スケールを読み取るセンサと、
前記スプライン溝に接触する凸部を有し、前記本体の前記開口端部に設けられたパッキン材と
を具備するリニアゲージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−53046(P2011−53046A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201370(P2009−201370)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(310017828)株式会社マグネスケール (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(310017828)株式会社マグネスケール (1)
【Fターム(参考)】
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