説明

リボ核酸化合物の製造方法

【課題】リボースの2’位の水酸基に、2−シアノエトキシメチル(CEM)基を選択的かつ効率的に導入できるリボ核酸化合物の製造方法を提供。
【解決手段】次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物を製造する方法において、ヨウ素と酸の存在下、次の一般式(1)で表されるリボ核酸化合物に次の一般式(2)で表されるモノチオアセタール化合物を反応させることによって、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物を製造する。


式(1)、(2)及び(3)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表し、Rはアルキル又はアリールを表し、Aはケイ素置換基を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3’位の水酸基と5’位の水酸基がケイ素置換基で保護され、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基が保護されていないリボ核酸化合物において、リボースの2’位の水酸基に、例えば、2−シアノエトキシメチル(CEM)基を選択的かつ効率的に導入できるリボ核酸化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
オリゴリボ核酸(オリゴRNA)は、遺伝子解析のRNAプローブ、RNA医薬品素材(アンチセンスRNA、リボザイム、RNAiを利用した遺伝子発現制御)、人工酵素、アプタマーとして有用である。
オリゴRNAの製造方法としては、ホスホロアミダイト法という固相合成法が広く知られている。かかるホスホロアミダイト法は、リボースの3’位の水酸基がホスホロアミダイト化されたリボ核酸化合物(いわゆるホスホロアミダイト化合物)を用いて、複数の核酸モノマー化合物を縮合しオリゴマー化していくものである。
【0003】
現在、該ホスホロアミダイト法で用いうる様々なホスホロアミダイト化合物が知られているが、その中で2’位の水酸基が2−シアノエトキシメチル(CEM)基等で保護されたホスホロアミダイト化合物が知られている(特許文献1及び非特許文献1)。かかるホスホロアミダイト化合物は、特許文献1によれば、3’位と5’位の水酸基がケイ素置換基で保護された状態で、トリフルオロメタンスルホン酸等の酸及びN−ヨードスクシンイミド(NIS)等の酸化剤(硫黄原子をハロゲン化するための試薬)の存在下、モノチオアセタール化合物(アルキル化剤)をリボ核酸化合物と反応させ、リボースの2’位の水酸基にCEM基等を導入する工程を経て製造される。
【0004】
上記のようなCEM基導入工程は、非常に反応性の高い酸化剤と非常に強い酸とを同時に使用するという過酷な反応条件で行われるものであるため、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基が適当な基により保護又は置換されていなければ、リボースの2’位の水酸基にCEM基が導入されるとともに、該アミノ基又はヒドロキシ基にもCEM基が導入されてしまうおそれがある。したがって、リボースの2’位の水酸基にCEM基を導入する前に、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基を上記反応条件の影響を受け難い基、例えば、アセチル、ベンゾイル、フェノキシアセチルで代表されるアシルで保護した後、当該CEM基導入工程を実施するのが一般的である。
【0005】
【特許文献1】国際公報WO2006/022323 A1パンフレット
【非特許文献1】大木ら,ORGANIC LETTERS,Vol.7,3477(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、主として、3’位の水酸基と5’位の水酸基がケイ素置換基で保護され、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基が保護されていないリボ核酸化合物において、リボースの2’位の水酸基に、例えば、2−シアノエトキシメチル(CEM)基を選択的かつ効率的に導入できるリボ核酸化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明として、例えば、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物を製造する方法において、ヨウ素と酸の存在下、次の一般式(1)で表されるリボ核酸化合物に次の一般式(2)で表されるモノチオアセタール化合物を反応させることを特徴とする、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物の製造方法を挙げることができる。
【化1】

式(1)、(2)及び(3)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表し、Rはアルキル又はアリールを表し、Aは次の一般式(4a)又は(4b)で表されるケイ素置換基を表す。
【化2】

式(4a)及び(4b)中、Rはアルキルを表す。
【0008】
Bの「保護基を有しない核酸塩基」としては、例えば、アミノ基又はヒドロキシ基を有しているプリン塩基又はピリミジン塩基を挙げることができる。好ましくは、例えば、2位、6位、8位の炭素原子のうち少なくとも1つにアミノ基又はヒドロキシ基を有しているプリン塩基又は2位、4位、5位、6位の炭素原子の少なくとも1つにアミノ基又はヒドロキシ基を有しているピリミジン塩基を挙げることができる。
また、具体的に、「2位、6位、8位の炭素原子のうち少なくとも1つにアミノ基又はヒドロキシ基を有しているプリン塩基」としては、例えば、2−アミノプリン、6−アミノプリン、8−アミノプリン、2,6−ジアミノプリン、2,6,8−トリアミノプリン、6,8−ジアミノプリン、6−アミノ−2−ヒドロキシプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシプリン、8−アミノ−6−ヒドロキシプリン、6−アミノ−8−ヒドロキシプリン、6−ヒドロキシプリン、2,6−ジヒドロキシプリン又はそれらの互変異性体を挙げることができる。
Bの「2位、4位、5位、6位の炭素原子のうち少なくとも1つにアミノ基又はヒドロキシ基を有しているピリミジン塩基」としては、例えば、4−アミノピリミジン−2−オン、4,5−ジアミノピリミジン−2−オン、4,6−ジアミノピリミジン−2−オン、5−アミノピリミジン−2,4−ジオン、6−アミノピリミジン−2,4−ジオン、5−アミノピリミジン−2−オン、6−アミノピリミジン−2−オン、2,4−ジヒドロキシピリミジン又はそれらの互変異性体を挙げることができる。
Bの「修飾体」とは、アミノ基又はヒドロキシ基を有しているプリン塩基又はピリミジン塩基のアミノ基及びヒドロキシ基以外の置換可能な任意の位置において置換基を有している核酸塩基であり、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アシル、アルキル、アリールアルキル、アルコキシ、アルコキシアルキル、ヒドロキシ、カルボキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが任意の位置に1〜3個置換されているものをいう。
Bの「修飾体」に係る「ハロゲン」としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。
Bの「修飾体」に係る「アシル」としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜6のアルカノイル、炭素数7〜13のアロイルを挙げることができる。具体的には、例えば、ホルミル、アセチル、n−プロピオニル、イソプロピオニル、n−ブチリル、イソブチリル、tert−ブチリル、バレリル、ヘキサノイル、ベンゾイル、ナフトイル、レブリニルを挙げることができる。
Bの「修飾体」に係る「アルキル」としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜5のアルキルを挙げることができる。具体的には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチルを挙げることができる。当該アルキルは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが任意の位置に1〜3個置換されていてもよい。
Bの「修飾体」に係る「アリールアルキル」、「アルコキシアルキル」及び「アルキルスルホニル」の「アルキル」部分は、上記の「アルキル」と同じものを挙げることができる。
Bの「修飾体」に係る「アルコキシ」としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜4のアルコキシを挙げることができる。具体的には、例えば、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシを挙げることができる。なかでも炭素数1〜3の該アルコキシが好ましく、とりわけメトキシが好ましい。
Bの「修飾体」に係る「アルコキシアルキル」の「アルコキシ」部分は、上記の「アルコキシ」と同じものを挙げることができる。
Bの「修飾体」に係る「アリールアルキル」の「アリール」としては、例えば、炭素数6〜12のアリールを挙げることができる。具体的には、例えば、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、ビフェニルを挙げることができる。当該アリールは置換されていてもよく、かかる置換基としては、例えば、ハロゲン、アルキル、アルコキシ、シアノ、ニトロを挙げることができ、これらが任意の位置に1〜3個置換されていてもよい。
Bの「修飾体」に係る「アルキル」、「アリール」の置換基である「ハロゲン」、「アルキル」及び「アルコキシ」としては、各々上記と同じものを挙げることができる。
WGに係る「電子吸引性基」は、当業者に自明であり、特に制限されないが、例えば、シアノ、ニトロ、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、ハロゲンを挙げることができる。なかでも、シアノが好ましい。
WGに係る「アルキルスルホニル」の「アルキル」部分としては、前記Bの修飾体に係る「アルキル」と同じものを挙げることができる。
WGに係る「アリールスルホニル」の「アリール」部分としては、前記Bの修飾体に係る「アリール」と同じものを挙げることができる。
に係る「アルキル」、「アリール」としては、前記Bの修飾体に係る「アルキル」、「アリール」と同じものを挙げることができる。

モノチオアセタール化合物(2)の具体例としては、2−シアノエチル メチルチオメチルエーテルを挙げることができる。

に係る「アルキル」としては、例えば、直鎖状又は分枝鎖状の炭素数1〜5のアルキルを挙げることができる。具体的には、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチルを挙げることができる。
【0009】
また、本発明として、
1)ヨウ素と酸の存在下、次の一般式(1)で表されるリボ核酸化合物に次の一般式(2)で表されるモノチオアセタール化合物を反応させ、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物を製造する工程、及び
2)リボ核酸化合物(3)のケイ素置換基Aを除去する工程を含む、次の一般式(5)で表されるリボ核酸化合物の製造方法も挙げることができる。
【化3】

式(1)、(2)、(3)及び(5)中、A、B、R、WGは前記と同義である。
【0010】
本発明によれば、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基が保護されていないリボ核酸化合物において、リボースの2’位の水酸基に中性条件で脱離可能な前記一般式(6)で表される置換基を選択的かつ効率的に導入することができる。
【化4】

式(6)中、WGは前記と同義である。
また、リボ核酸化合物(3)及び(5)は、公知の方法(例えば、Bulletin of the Chemical Society of Japan,Vol.7,2437−2442(1988))により、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基にアシルだけでなく、従来のCEM基導入工程において製造することが困難であった保護基又は置換基を導入することができる。したがって、リボ核酸化合物(3)及び(5)は、任意の置換基又は保護基が核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基に導入されたホスホロアミダイト化合物を合成するための中間体として有用である。
【0011】
ここで、本発明において「オリゴRNA」とは、オリゴ核酸の構成モノマーとして少なくとも1つはリボ核酸(RNA)を含有するオリゴ核酸をいう。
【0012】
リボ核酸化合物(3)及び(5)の具体例としては、次の1〜6の化合物を挙げることができる。

1. 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジン
2. 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジン
3. 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシン
4. 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシン
5. 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシン
6. 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシン
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に示す製法において、原料が反応に影響を及ぼす置換基(例えば、ヒドロキシ(但し、核酸塩基部のヒドロキシ基を除く)、アミノ(但し、核酸塩基部のアミノ基を除く)、カルボキシ)を有する場合は、原料をあらかじめ公知の方法に従い、適当な保護基で保護した後に反応を行う。保護基は、最終的に、接触還元、アルカリ処理、酸処理などの公知の方法に従い脱離することができる。
【0015】
I.リボ核酸化合物(3)の製法
モノチオアセタール化合物(2)は、公知の方法(例えば、国際公開公報WO2006/022323A1パンフレット)により製造することができる。
本製法は、ヨウ素と酸存在下、市販品として入手可能な又は文献記載の方法に従い合成可能なリボ核酸化合物(1)に、モノチオアセタール化合物(2)を作用させることにより実施することができる。
本製法で使用する「ヨウ素」の量は、リボ核酸化合物(1)に対して、モル比で0.8倍量〜20倍量の範囲内が適当であり、好ましくは等倍量〜15倍量の範囲内である。反応温度は、−100℃〜20℃の範囲内が適当であり、好ましくは、−80℃〜10℃の範囲内であり、より好ましくは、−45℃〜5℃の範囲内である。反応時間は、使用する原料の種類、反応温度等によって異なるが、通常5分間〜5時間の範囲内が適当である。
本製法で使用しうる「モノチオアセタール化合物(2)」の使用量は、リボ核酸化合物(1)に対して、モル比で0.8倍量〜5倍量の範囲内が適当であり、好ましくは等倍量〜2倍量の範囲内である。
酸としては、リボースの2’位の水酸基へのアルキル化反応を活性化することができ、また核酸塩基部と塩を形成することができる程度の酸性度を有する有機酸であれば特に限定されない。例えば、このような酸として、トリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体又はトリフルオロメタンスルホン酸と三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体との混合酸を挙げることができる。かかる「酸」の使用量は、リボ核酸化合物(1)に対して、モル比で0.01倍量〜10倍量の範囲内が適当であり、好ましくは0.1倍量〜5倍量の範囲内である。トリフルオロメタンスルホン酸とメタンスルホン三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体との混合酸の場合、トリフルオロメタンスルホン酸が三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体に対して、モル比で0.01倍量〜0.9倍量の範囲内が適当であり、好ましくは0.1倍量〜50倍量の範囲内、より好ましくは、等倍量〜20倍量の範囲内である。
本製法で使用しうる溶媒は、反応に関与しなければ特に限定されないが、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン(以下、「THF」という。)、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド又はこれらの任意の混合溶媒を挙げることができる。特に、THFが好ましい。

II.リボ核酸化合物(5)の製法
リボ核酸化合物(5)は、公知化合物又は容易に製造可能な中間体から、例えば、次の工程1)及び工程2)を含む工程を実施することにより製造することができる。
以下、詳細に説明する。
【0016】
工程1)
本工程1)は、ヨウ素と酸存在下、市販品として入手可能な又は文献記載の方法に従い合成可能なリボ核酸化合物(1)に、モノチオアセタール化合物(2)を作用させることにより実施することができる。詳細は、前述Iの製法と同じである。
【0017】
工程2)
本工程2)は、工程1)において製造されるリボ核酸化合物(3)を適当な溶媒に溶解し、ケイ素置換基Aを脱離するための試薬を作用させることによって、リボ核酸化合物(5)を製造する工程である。
本工程2)で使用しうる「ケイ素置換基Aを脱離するための試薬」としては、例えば、テトラブチルアンモニウムフルオリド、アミンとフッ化水素酸との塩又は適当な溶媒中においてアミンとフッ化水素酸とを任意の比で混合したものを挙げることができる。
また、場合によっては、アミンとフッ化水素酸との塩又は適当な溶媒中においてアミンとフッ化水素酸とを任意の比で混合したものに、さらに適当な酸を添加した混合試薬を使用して本工程2)を実施することもできる。その時に使用することができる酸としては、例えば、酢酸、塩酸、硫酸を挙げることができる。かかる酸の使用量としては、アミンに対して、モル比で0.01倍量〜10倍量の範囲内が適当であり、好ましくは0.1倍量〜5倍量の範囲内である。
本工程2)で使用しうる溶媒としては、例えば、THF、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノール、トルエン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド又はこれらの任意の混合溶媒を挙げることができる。特に、THFが好ましい。
本工程2)で使用しうる「ケイ素置換基Aを脱離するための試薬」の使用量としては、リボ核酸化合物(3)の種類、用いるケイ素置換基Aを脱離するための試薬、使用する溶媒等によって異なるが、リボ核酸化合物(3)に対して、モル比で等倍量〜10倍量の範囲内が適当であり、好ましくは1.2倍量〜1.5倍量の範囲内である。
反応温度は、0℃〜80℃の範囲内が適当である。反応時間は、リボ核酸化合物の種類、用いるケイ素置換基Aを脱離するための試薬、使用する溶媒、反応温度等によって異なるが、通常30分間〜10時間の範囲内が適当である。
反応終了後、そのまま又は反応混合物に適量の水を加えて冷却することにより、化合物(5)を得ることができる。添加する水の使用量としては、使用する溶媒に対して、容量比で0.05倍量〜5倍量の範囲内が適当であり、好ましくは0.06倍量〜等倍量の範囲内であり、より好ましくは0.07倍量〜0.1倍量の範囲内である。
本工程2)で使用しうる「アミンとフッ化水素酸との塩」としては、具体的には、アンモニウムフルオリド、トリメチルアミンヒドロフルオリド、トリメチルアミンジヒドロフルオリド、トリメチルアミントリスヒドロフルオリド、トリメチルアミンテトラヒドロフルオリド、トリメチルアミンペンタヒドロフルオリド、トリメチルアミンヘキサヒドロフルオリド、トリエチルアミンヒドロフルオリド、トリエチルアミンジヒドロフルオリド、トリエチルアミントリスヒドロフルオリド、トリエチルアミンテトラヒドロフルオリド、トリエチルアミン26ヒドロフルオリド、キヌクリジントリスヒドロフルオリド、トリエチレンジアミンテトラヒドロフルオリド等を挙げることができる(例えば、Journal Molecular Structure,193,247(1989)、Pol.J.Chem,67(2),281(1993)、Chem。Europ.J.,4(6),1043(1998)、J.Fluorine.Chem.,118(1−2),123,(2002)を参照)。とりわけ、アンモニウムフルオリド、トリエチルアミントリスヒドロフルオリドが好ましい。
また、本工程2)で使用しうる「適当な溶媒中においてアミンとフッ化水素酸とを任意の比で混合したもの」としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、トリエチルアミン、キヌクリジン、トリエチレンジアミン等のアミンとフッ化水素酸とを、適当な溶媒中(例えば、THF、アセトニトリル、メタノール、イソプロパノール、トルエン)、例えば、1:1〜1:30(アミン:フッ化水素酸)の混合比(モル比)で混合したものを挙げることができる。

このようにして、製造されるリボ核酸化合物(3)又は(5)は、それ自体公知の手段、例えば、濃縮、液性変換、転溶、溶媒抽出、結晶化、再結晶、分留、クロマトグラフィー等により分離精製することができる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例を揚げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらのみに限定されない。
【0019】
実施例1 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)シチジン971mg(2mmol)をTHF2mLに懸濁し、アルゴン雰囲気下0℃で撹拌しながらトリフルオロメタンスルホン酸18μL(0.2mmol)、ヨウ素3.05g(12mmol)、メチルチオメチル 2−シアノエチルエーテル394mg(3mmol)を順に加えた。1時間後、反応液を飽和炭酸水素ナトリウム水および飽和チオ硫酸ナトリウム水の混液に加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。これをアセトニトリルに溶解し、ヘキサンで分液し洗浄した後、溶媒を留去した。残渣を酢酸エチルに溶解しヘキサンを加え1晩放置した。析出した沈殿をろ取し、3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジンを得た(669mg,59%)。

H−NMR(DMSO−d6):δ 0.95−1.10(m,28H);2.75−2.81(m,2H);3.77(t,2H,J=6.1Hz);3.91(m,1H);4.00−4.22(m,4H);4.97(dd,2H,J=47.46,6.6Hz);5.60(s,1H);5.70(d,1H,J=7.5Hz);7.20−25(brd,2H);7.70(d,1H,J=7.3Hz)
13C−NMR(DMSO−d6):δ 11.93;12.24;12.37;12.59;16.63;16.67;16.77;16.83;17.01;17.09;17.16;17.27;17.90;59.40;62.20;67.62;77.69;80.69;88.90;93.12;93.46;118.99;139.20;154.70;165.74
ESI−Mass: m/z 569[M+H]
【0020】
実施例2 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)シチジン398mg(0.7mmol)をTHF2mLに溶解し、トリエチルアミントリスヒドロフルオリド137μg(0.84mmol)を加えて、45℃で2時間攪拌した。室温に冷やし、反応液にヘキサン3mLを加え、得られた懸濁液を1時間攪拌した。15分間静置した後、上澄み液を除き、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製し、目的化合物を得た(233g、99%)。

H−NMR(DMSO−d6):δ 2.49−2.75(m,2H);3.46−3.75(m,4H);3.84(m,1H);4.00−4.08(m,2H);4.75−4.85(dd,2H,J=22.41,6.8Hz);5.16(brs,1H);5.23(brs,1H)5.73(d,1H,J=7.5Hz);5.84(d,1H,J=3.6Hz);7.12−7.23(brd,2H);7.90(d,1H,J=7.5Hz)
13C−NMR(DMSO−d6):δ 17.92;60.02;62.21;68.00;78.55;84.03;87.53;93.52;93.97;119.16;140.92;155.18;165.57
ESI−Mass: m/z 327[M+H]
【0021】
実施例3 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)アデノシン255mg(0.5mmol)をTHF1mLに溶解し、−40℃で三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体13μL(0.1mmol)、トリフルオロメタンスルホン酸111μL(1.3mmol)、ヨウ素761mg(3.0mmol)を加えた。5分後、メチルチオメチル 2−シアノエチルエーテル90μL(0.8mmol)を加え、反応温度を45分かけて−10℃まで昇温させながら攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水および飽和チオ硫酸ナトリウム水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシンを得た(262mg,88%)。

H−NMR(DMSO−d6):δ 1.01−1.04(28H,m),2.75(2H,t,J=6.0Hz),3.70−3.81(2H,m),3.91−4.10(3H,m),4.70(1H,d,J=4.9Hz),4.91−4.99(3H,m),6.02(1H,s),7.34(2H,brs),8.07(1H,s),8.18(1H,s)
ESI−Mass: m/z 593[M+H]
【0022】
実施例4 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)アデノシン400mg(0.7mmol)をTHF1.6mLに溶解し、トリエチルアミントリスヒドロフルオリド162mg(1.0mmol)のTHF溶液(0.5mL)を加えて、45℃で2時間攪拌した。反応液にヘキサン0.5mLを加え、得られた懸濁液を4℃で1時間攪拌した。15分間静置した後、上澄み液を除き、残渣をヘキサンで洗浄した。残渣をメタノールに溶解した。析出した沈殿物をろ取し、目的化合物を得た(199mg、85%)。

H−NMR(DMSO−d6):δ 2.44−2.65(2H,m),3.36−3.72(4H,m),4.00(1H,d,J=3.4Hz),4.34(1H,d,J=3.4Hz),4.67−4.74(3H,m),5.41(1H,d,J=4.7Hz),5.46(1H,dd,J=4.7and6.6Hz),6.04(1H,d,J=6.0Hz),7.35(2H,brs),8.15(1H,s),8.39(1H,s)
ESI−Mass: m/z 351[M+H]
【0023】
実施例5 3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)グアノシン263mg(0.5mmol)をTHF2mLに懸濁し、−40℃トリフルオロメタンスルホン酸133μL(1.5mmol)、ヨウ素1.27g(5.0mmol)を加えた。5分後、メチルチオメチル 2−シアノエチルエーテル90μL(0.8mmol)を加え、反応温度を30分かけて−15℃まで昇温させながら攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水および飽和チオ硫酸ナトリウム水を加え、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシンを得た(41%)。

H−NMR(DMSO−d6):δ 1.07−1.12(28H,m),2.81(2H,t,J=6.0Hz),3.76−3.88(2H,m),3.98−4.22(3H,m),4.45(1H,d,J=5.1Hz),4.53(1H,dd,J=4.9and8.7Hz),4.99(1H,d,J=6.8Hz),5.03(1H,d,んsjJ=6.8Hz),5.86(1H,s),6.50(2H,brs),7.78(1H,s),10.76(1H,brs)
ESI−Mass: m/z 609[M+H]
【0024】
実施例6 2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシン

3’,5’−O−(テトライソプロピルジシロキサン−1,3−ジイル)−2’−O−(2−シアノエトキシメチル)グアノシン326mg(0.5mmol)をTHF1.5mLに溶解し、トリエチルアミントリスヒドロフルオリド129mg(0.8mmol)のTHF溶液(0.4mL)を加えて、45℃で2時間攪拌した。反応懸濁液にエタノール2.5mLを加え、室温で4時間攪拌した。析出した沈殿物をろ取して、目的化合物を得た(188mg、95%)。

H−NMR(DO):δ 2.58(1H,dd,J=5.0and7.1Hz),2.61(1H,dd,J=5.0and7.1Hz),3.62(1H,dd,J=2.9and7.1Hz),3.65(1H,dd,J=3.0and5.1Hz),3.85(1H,dd,J=3.9and12.8Hz),3.90(1H,dd,J=3.0and12.8Hz),4.28(1H,dd,J=3.1and6.5Hz),4.53(1H,dd,J=2.9and5.2Hz),4.81−4.89(3H,m),6.03(1H,d,J=6.7Hz),8.04(1H,s)
ESI−Mass: m/z 367 [M+H]
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば、核酸塩基部のアミノ基又はヒドロキシ基が保護されていないリボ核酸化合物において、リボースの2’位の水酸基に中性条件下で脱離可能な2−シアノエトキシメチル(CEM)基等を選択的かつ効率的に導入することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヨウ素と酸の存在下、次の一般式(1)で表されるリボ核酸化合物に次の一般式(2)で表されるモノチオアセタール化合物を反応させることを特徴とする、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物の製造方法。
【化1】

式(1)、(2)及び(3)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表し、Rはアルキル又はアリールを表し、Aは次の一般式(4a)又は(4b)で表されるケイ素置換基を表す。
【化2】

式(4a)及び(4b)中、Rはアルキルを表す。
【請求項2】
酸がトリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体又はトリフルオロメタンスルホン酸と三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体との混合酸である、請求項1記載のリボ核酸化合物(3)の製造方法。
【請求項3】
がメチルである、請求項1又は2のいずれかに記載のリボ核酸化合物(3)の製造方法。
【請求項4】
WGがシアノである、請求項1〜3のいずれかに記載のリボ核酸化合物(3)の製造方法。
【請求項5】
1)ヨウ素と酸の存在下、次の一般式(1)で表されるリボ核酸化合物に次の一般式(2)で表されるモノチオアセタール化合物を反応させ、次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物を製造する工程、及び
2)リボ核酸化合物(3)のケイ素置換基Aを除去する工程を含む、次の一般式(5)で表されるリボ核酸化合物の製造方法。
【化3】

式(1)、(2)、(3)及び(5)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表し、Rはアルキル又はアリールを表し、Aは次の一般式(4a)又は(4b)で表されるケイ素置換基を表す。
【化4】

式(4a)及び(4b)中、Rはアルキルを表す。
【請求項6】
酸がトリフルオロメタンスルホン酸、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体又はトリフルオロメタンスルホン酸と三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体との混合酸である、請求項5記載のリボ核酸化合物(5)の製造方法。
【請求項7】
がメチルである、請求項5又は6のいずれかに記載のリボ核酸化合物(5)の製造方法。
【請求項8】
WGがシアノである、請求項5〜7のいずれかに記載のリボ核酸化合物(5)の製造方法。
【請求項9】
次の一般式(3)で表されるリボ核酸化合物。
【化5】

[式(3)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表し、Aは次の一般式(4a)又は(4b)で表されるケイ素置換基を表す。
【化6】

式(4a)及び(4b)中、Rはアルキルを表す。]
【請求項10】
WGがシアノである、請求項9記載のリボ核酸化合物(3)。
【請求項11】
次の一般式(5)で表されるリボ核酸化合物。
【化7】

[式(5)中、Bは保護基を有しない核酸塩基又はその修飾体を表し、WGは電子吸引性基を表す。]
【請求項12】
WGがシアノである、請求項11記載のリボ核酸化合物(5)。

【公開番号】特開2008−174524(P2008−174524A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−11813(P2007−11813)
【出願日】平成19年1月22日(2007.1.22)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 機能性RNAプロジェクト委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【出願人】(000006770)ヤマサ醤油株式会社 (56)
【Fターム(参考)】