説明

リリーフ弁構造

【課題】エンジンの低・中・高の各回転領域でオイルの吐出圧及び流量をそれぞれ最適な状態に適切に制御・切り替えを行うことができるリリーフ弁構造とすること。
【解決手段】弁頭部62と外周側部61との間を連通する弁流路が形成されたリリーフ弁6と、弁ハウジング3と、弁通路31と連通するリリーフ流入部2と、弁ハウジング3に形成されると共にリリーフ弁6の移動により弁流路と連通する第1排出部4と,弁頭部62が通過することによって開口する第2排出部5とからなること。リリーフ作動時において、弁流路と第1排出部4との連通は、弁頭部62が第2排出部5を通過する動作開始よりも先行されると共に、その連通のみはエンジンが中回転時で行われ、弁頭部62が第2排出部5を通過する動作開始はエンジンの高回転時に行われ、エンジンの中回転から高回転への遷移領域ではリリーフは行われない回転数領域を有すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用エンジン等のオイルポンプにおいて、エンジンの低・中・高の各回転領域でオイルの吐出圧及び流量をそれぞれ最適な状態に適切に制御・切り替えを行うことができるリリーフ弁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のエンジンで運転を行うと、オイルポンプを介してエンジンに潤滑オイルが供給される。多くのオイルポンプには圧力制御を行うためのリリーフ弁が装着されている。そのリリーフ弁装置は、オイルポンプ内で供給オイルが高圧となったときに、機器に悪影響を与えないためにオイルを別のルートに逃がして、オイルの圧力を一定にならしめるものである。
【0003】
しかし、そのリリーフ動作によって、高圧から一挙に圧力が低下して、オイルの供給量が定量とならず、脈動したり、気泡が生じたりして、その結果、振動が発生し、オイル供給先の機器に悪影響を及ぼしかねない。そのために、リリーフ弁装置には、急激なる圧力低下を生じさせないようにするために、リリーフ弁からの戻しオイルの量を初期には少しずつ行わせるようにする工夫が施されている場合もある。
【0004】
さらに、近年、オイルポンプに対して、より細かい制御が求められるようになってきている。例えば、ある回転数領域では、高効率化を図るために吐出圧と流量を低減させながらも、別のある回転数領域では潤滑を確保するためにより多くの吐出圧と流量を確保したいといった場合である。このような特性を必要とするのは、以下に記載することによるものである。すなわち、冬等の寒い季節では、エンジンが作動していない間にエンジンオイルが冷えてしまう。
【0005】
そのため、オイルは、粘度が高くなり、したがって、この状態でエンジンを始動すると、オイルポンプの吐出圧は高くなる。そして、エンジンオイルが冷えている状態でエンジンを最高回転数まで回転させた時が最もオイルポンプの吐出圧が高いものとなる。このような状況において、あまりにも吐出圧が高くなると、オイルフィルターや配管系に負担がかかり、且つ無駄な仕事量が最も増えてしまうため、前述した機器類においては、悪影響が及ぼされることになる。
【0006】
しかし、従来のリリーフ構造においては、吐出圧が一旦、所定値を超えて、リリーフバルブが既に開弁してしまっている回転数領域の場合では、そこから更なる開弁による吐出圧の抑制は一般的に不可能である。なお、リリーフバルブの奥には、リリーフバルブが円滑に軸方向移動できるためにエア抜き穴が形成されている。リリーフバルブ奥の容量は、リリーフバルブの軸方向の移動により大きく変化する。
【0007】
エア抜き穴からエアが吸入排出されることで、スムースにリリーフバルブは軸方向に移動できる。すなわち、リリーフバルブの奥の空間はいわゆる密室であり、外部と呼吸できる穴がないとリリーフバルブの奥の空間の体積は変動できないものである。ちなみにエア抜き穴の外部はオイルパンになっているので、吸入排出するものがエアであろうとオイルであろうと大差は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実用新案登録第2543058号
【特許文献2】特開平5−195742号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記リリーフバルブ単体機構で吐出圧制御(いわゆる無駄仕事削減による高効率化及び吐出圧確保による潤滑性、信頼性の確保の両立)を図っている先行文献として以下の特許文献1、特許文献2が挙げられる。一般に吐出圧を多段階に増減させるような制御を行う場合には、バルブ通路の側面に複数の開口部を設ける構造としたものが多い。そして、吐出圧の増減によりリリーフバルブが軸方向に移動することで、バルブ通路の側面の開口に着目すると、開口数が増減するために、リリーフする開口面積が増減し、これによってオイルのリリーフが増減し、吐出圧を増減させることが可能となる。
【0010】
また、既に述べたことであるがオイルポンプにおいて吐出圧と吐出流量は、ポンプの回転数に略比例する。しかし、エンジン系として見たときの必要オイル圧力と必要オイル流量は、おおまかに言えば、回転数に対しておおよそ対数関数的に増加していく傾向にある。(回転数が増加するほど必要とするオイルの増加率は減少する傾向)つまり回転数を基準としてポンプの吐出圧とエンジン系が必要とする圧力を比較すると、回転数が大きいほどポンプ供給圧とエンジン系が必要とする圧力の乖離が大きくなっていく。
【0011】
以上の現象より、リリーフさせる開口面積(リリーフさせるオイル量及び圧力)は回転数の増加に伴い徐々に増加させる制御が好ましいことが分かる。また実際の動作としてはリリーフバルブは吐出圧の上昇に伴い、徐々にスプリングが縮んでいくためリリーフバルブは奥に引っ込んでいく。その結果としてバルブ通路の側面に設けられたリリーフ開口部が開口される貫通孔数が増えていく。上述のように回転数が上がるに伴い、リリーフさせるオイル圧をより一層増加させる(さほど吐出圧を増加させない)制御を行うことで無駄仕事が削減出来る。
【0012】
そのためには、バルブ通路の側面に設けられたリリーフ開口部は、奥に行くほど開口面積を大きくする必要がある。奥に行くほどリリーフ開口部の開口面積を大きくすることで、回転数が上がるに伴い、リリーフさせるオイル圧力をより一層増加させることが可能となる。つまり、吐出圧の上昇抑制例えば開口面積が大きい方のリリーフ開口部をバルブ通路の手前に配置すると、さほどオイルをリリーフさせる必要の無い中回転領域で、先に開口面積が大きい方のリリーフ開口部からオイルがリリーフしてしまい、大量のオイルがリリーフしてしまうため、吐出圧不足により潤滑不足になってしまう。
【0013】
ところで、オイルポンプに対して、ある回転数領域だけは潤滑性、信頼性確保のためにオイル圧力を必要とする場合、中回転領域で一旦開弁したリリーフバルブを、それより高いある中〜高回転領域では再度閉弁させてオイル圧力を確保する必要がある。中回転領域よりも高い中〜高回転領域ではリリーフバルブはより高い吐出圧により更に奥に引っ込んだ状態となっている。そのため中回転領域で開弁しているリリーフバルブより”手前”の特許文献1の第1リリーフ通路3や”手前”の特許文献2の第1リリーフ孔3aをそのままの状態では閉弁させることができない。
【0014】
そのため、特許文献1ではピストン状の弁体7、特許文献2ではスリーブ7がそれぞれ設置され、中〜高回転領域でちょうど手前の第1リリーフ通路3や手前の第1リリーフ孔3aを塞ぐ構造となっている。つまり、一旦開弁した特許文献1の第1リリーフ通路3や特許文献2の第1リリーフ孔3aを、それより回転数の高い領域で再度ふさぐために特別の部材、特許文献1ではピストン状の弁体7、特許文献2ではスリーブ7を必要としていた。
【0015】
また中回転領域で一旦,開弁したリリーフ開口部を中〜高回転領域で再び閉弁させるためリリーフバルブには穴が設けられている。例えば特許文献1では第1弁孔7B、特許文献2ではスリーブ孔7aであり、この穴がリリーフ開口部に対して開弁したり閉弁したりすることで吐出圧の制御を行っている。またアイドリングを含む低回転領域では回転数が低いため吐出圧も低く、リリーフバルブからオイルはリリーフされないのでリリーフ開口部は全て閉弁している。
【0016】
その後、吐出圧の増加に従いリリーフバルブは奥に引っ込んで行き、開弁したり閉弁したりするものであるから、特許文献1,2は共に、リリーフバルブに設けられている穴は低回転領域では必ず1番手前にあるリリーフ開口部よりも更に手前にある構造となっている。このような構成であるため、以下のような問題が存在する。一般にオイルは、リリーフ開口部からリリーフされるが、リリーフバルブに設けられている貫通孔がリリーフ開口部よりも軸方向手前に位置していると、リリーフバルブに設けられている貫通孔から滲み出したオイルがリリーフバルブとバルブ通路の間の摺動面に達せず、リリーフ開口部から排出されてしまい、リリーフバルブの摺動性が悪くなる。
【0017】
リリーフバルブに設けられている穴から滲み出したオイルがそれより奥にあるリリーフ開口部から排出されてしまい、リリーフバルブの裏側(奥側)までオイルが到達しない。オイルがリリーフバルブ奥側に到達しにくくなるためリリーフバルブの奥側のオイル圧力が低くなる。そのため、設計値以上にリリーフバルブ奥にあるスプリングが縮んでしまい、長期に亘るとスプリングがへたり、その耐久性が低くなる。
【0018】
さらに、中〜高回転領域で再びリリーフ開口部を閉弁させるためには、さらに特別な部材を必要とする。本発明の目的(技術的課題)は、車両用エンジン等のオイルポンプにおいて、エンジンの低・中・高の各回転領域でオイルの吐出圧及び流量をそれぞれ最適な状態に適切に制御・切り替えが正確且つ確実にできるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
そこで、発明者は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、請求項1の発明を、弁頭部と外周側部との間を連通する弁流路が形成されたリリーフ弁と、該リリーフ弁を収めた弁通路が形成された弁ハウジングと、前記弁通路の軸方向一端側に形成されると共に該弁通路と連通するリリーフ流入部と、前記弁ハウジングに形成されると共に前記リリーフ弁の移動により前記弁流路と連通する第1排出部と、該第1排出部よりも前記リリーフ流入部側寄りに位置すると共に前記弁頭部が通過することによって開口する第2排出部とからなり、リリーフ作動時において、前記弁流路の外周側部開口と前記第1排出部との連通は、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始よりも先行されると共に、その連通のみはエンジンが中回転時で行われ、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始はエンジンの高回転時に行われ、エンジンの中回転から高回転への遷移領域ではリリーフは行われない回転数領域を有するリリーフ弁構造としたことにより、上記課題を解決した。
【0020】
請求項2の発明を、請求項1において、前記リリーフ弁の初期状態において前記弁流路の外周側部開口と前記第1排出部との最短間隔は、前記弁頭部と前記第2排出部の最短間隔よりも小なることとし、且つ前記第1排出部と前記第2排出部との最長間隔は、前記弁頭部と前記外周側部開口の前記弁頭部に最も近い部分の間隔よりも小なるリリーフ弁構造としたことにより、上記課題を解決した。
【0021】
請求項3の発明を、請求項1又は2のいずれか1項の記載において、前記弁流路の外周側部開口は、前記外周側部の周方向に沿って形成された外周溝としてなるリリーフ弁構造としたことにより、上記課題を解決した。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明では、第2排出部は前記第1排出部よりも前記リリーフ流入部側寄りに位置させたことによって、前記第1排出部がリリーフ弁のオイル圧力が作用する摺動方向の奥側に位置するものであり、弁流路から外周側部開口に滲み出るオイルが潤滑剤の役目をなし、リリーフ弁の弁通路内における摺動動作をより一層円滑にでき、よってリリーフバルブの耐久性・信頼性が向上する。
【0023】
さらに、リリーフ弁には弁流路が形成され、弁頭部からオイルが流入して、弁流路内にわずかずつにオイルが供給され続けるため、リリーフバルブ奥側にオイルが存在する状態となり、オイルがダンバとなり過度のスプリングの収縮が阻止され、スプリングのへたりが抑制され、もってスプリングの耐久性が向上する。
【0024】
本発明におけるリリーフ弁の構成では、エンジンの低回転領域では、第1排出部及び第2排出部のいずれも閉鎖された状態とすることができ、オイルのリリーフが行われない。エンジンの中回転領域では、第1排出部とリリーフ弁の外周側部開口のみが連通可能となり、第1排出部からのみオイルのリリーフが行われる。さらにエンジンの高回転領域では、リリーフ弁が弁通路内を摺動し、弁頭部が第2排出部を通過することによって、前記第2排出部からオイルのリリーフが行われる。
【0025】
このように、オイルの温度による粘度及びエンジンの回転数に応じて、オイルのリリーフを適正な状態に制御することができ、エンジンの回転数に応じた適正な吐出圧と、オイルの流量にすることができる。特に、エンジンの中回転から高回転への遷移領域におけるオイルの吐出量及び圧力を必要とする領域で、吐出量及び圧力を最も適正な状態にすることができる。
【0026】
請求項2の発明では、リリーフ作動時において、前記弁流路の外周側部開口と前記第1排出部との連通は、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始よりも先行されると共に、その連通のみはエンジンが中回転時で行われ、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始はエンジンの高回転時に行われ、エンジンの中回転から高回転への遷移領域ではリリーフは行われない動作を確実に行うことができる。
【0027】
請求項3の発明では、前記弁流路の外周側部開口は、前記外周側部の周方向に沿って形成された外周溝部としたことにより、リリーフ弁の取付角度によらずリリーフ弁の弁流路と第1排出部との連通をより一層確実にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】(A)は本発明のリリーフ構造を備えたポンプボディの平面図、(B)はリリーフ構造の拡大横断平面図、(C)はリリーフ構造の拡大縦断側面図である。
【図2】(A)はリリーフ構造の要部拡大横断平面図、(B)は弁ハウジングの一部断面にした要部拡大平面図、(C)は弁ハウジングの要部拡大横断平面図である。
【図3】(A)は図1のXa−Xa矢視断面図、(B)は図1のXb−Xb矢視断面図、(C)は図1のXc−Xc矢視断面図、(D)はリリーフ弁の縦断側面図、(E)はリリーフ弁の斜視図である。
【図4】(A)は弁ハウジングの要部横断平面図、(B)は(A)の要部平面図である。
【図5】(A)はリリーフ動作における初期状態の作用図、(B)はリリーフ動作における低回転領域の作用図、(C)はリリーフ動作における低回転領域〜中回転領域の作用図である。
【図6】(A)はリリーフ動作における中回転領域の作用図、(B)はリリーフ動作における中回転領域〜高回転領域の作用図、(C)はリリーフ動作における高回転領域の作用図である。
【図7】(A)最長間隔Scが間隔Uよりも小さい場合におけるリリーフ弁動作において外周側部開口が第1排出部と連通してオイルが第1排出部に送り出される状態の拡大図、(B)はリリーフ動作において第1排出部及び第2排出部が共に閉鎖状態となる拡大図、(C)は弁頭部が第2排出部を通過する動作を開始して第2排出部がリリーフ動作可能となる状態の拡大図である。
【図8】本発明の特性を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。ポンプボディ1は、図示されないポンプカバーと共に構成されている。ポンプボディ1の内部にはロータ室11が形成されている。具体的には、前記ポンプボディ1に凹部が形成され、該ポンプボディ1にポンプカバーを固着したときにその凹部が、偏平円筒中空のロータ室11として構成されている。該ロータ室11内に内歯を設けたアウターロータ91と外歯を設けたインナーロータ92とが互いに歯合しつつ偏心して内装されている。アウターロータ91とインナーロータ92は、図1において想像線(2点鎖線)にて開示されている。
【0030】
そのアウターロータ91とインナーロータ92は具体的には、インナーロータ92の歯がトロコイド曲線に従って形成されている。そして、インナーロータ92の歯がアウターロータ91の歯数よりも一枚少なく、インナーロータ92が一回転するとアウターロータ91は、一歯分遅れて回転するように構成されている。
【0031】
また、インナーロータ92は、何れの回転角度であっても常にインナーロータ92の歯先がアウターロータ91の歯先又は歯底に接触し、インナーロータ92の隣接する歯先とアウターロータ91との間に複数の空隙部が形成され、それぞれの空隙部が1回転中に、大きくなったり、小さくなったりして吸入ポート12からオイルの吸入を行い、吐出ポート13からオイルを吐出して機器へ循環させるものである。
【0032】
次に、リリーフ弁装置は、図1(B),(C)及び図2等に示すように、弁ハウジング3とリリーフ弁6とから構成される。前記弁ハウジング3には、リリーフ弁6が摺動する弁通路31が形成され、その内部をリリーフ弁6が摺動する。その弁ハウジング3とリリーフ流入部2とは一体的に形成され、且つ該リリーフ流入部2と前記弁通路31とが連通している。具体的には、前記弁通路31の軸方向一端が前記リリーフ流入部2と連通する構造である。前記弁ハウジング3は、前記ポンプボディ1内の所定位置に略円筒形状に膨出形成されたものである(図3参照)。
【0033】
前記吐出ポート13には、分岐路13aが形成され、該分岐路13aと前記リリーフ流入部2とが連通している(図1,図2等参照)。そして、前記吐出ポート13内の吐出オイルに高圧が生じたときには、分岐路13aからリリーフ流入部2を介して前記弁通路31内に流体が送り込まれ、前記リリーフ弁6を軸方向に沿って押圧移動させ、リリーフ動作を行わせるものである。
【0034】
前記リリーフ流入部2の内径と弁通路31の内径は異なり、該弁通路31とリリーフ流入部2との間には、両直径の差による段差が形成され、この段差部分が弁通路31側におけるリリーフ弁6のリリーフ流入部2との連通箇所におけるリリーフ流入閉鎖面33となる〔図2(A),(B)参照〕。
【0035】
また、該リリーフ流入閉鎖面33の位置は、すなわち前記リリーフ流入部2と前記弁通路31との境目は、弁通路31の始端部31aと称するものであり、弁通路31の基準位置とし、リリーフ弁6の頭部が前記リリーフ流入閉鎖面33に当接した状態をリリーフ弁6の初期状態とする〔図1(B),(C)及び図2(A)参照〕。
【0036】
前記弁ハウジング3の軸方向の略中間位置には、図1に示すように、第1排出部4及び第2排出部5が軸方向においてそれぞれ異なる位置に形成されている。前記弁通路31の略中間位置は、通路方向両端付近を除いた範囲を全て含むものとする。前記第1排出部4及び第2排出部5は、前記弁通路31の内部と外部とを連通する部位であり、前記第2排出部5は前記第1排出部4よりも前記リリーフ流入部2側寄り、すなわち前記リリーフ流入閉鎖面33寄りに位置して形成されている(図4参照)。
【0037】
第1排出部4は、前記弁ハウジング3に前記弁通路31の内部と外部とを連通する小径の貫通孔として形成されたものである。また第1排出部4の孔の直径は、後述するリリーフ弁6の外周側部開口63aの溝幅に等しい(略等しいも含む)。また前記第1排出部4は、前記弁ハウジング3に対して斜め方向に沿って形成されている〔図3(A)参照〕。
【0038】
前記第2排出部5は、弁通路31の通路方向において、前記リリーフ流入部2側寄りの位置に形成される〔図1(A),図2(B),図3(C),図4等参照)。その第2排出部5は、小開口部51と大開口部52とから構成され、小開口部51が大開口部52よりも前記リリーフ流入部2側寄りに形成されている(図4参照)。
【0039】
第2排出部5は、弁ハウジング3の軸方向に直交する方向,即ち幅方向に適宜の間隔をおいて2つが略左右対称的な配列をして形成されている〔図4(B)参照〕。その両第2排出部5,5との間は、弁通路31に一体的に形成された残存肉部53となっており、該残存肉部53が前記弁通路31の一部と連続し、第2排出部5箇所におけるリリーフ弁6の移動動作のガイド保持部の役目をなしている。
【0040】
また、前記残存肉部53に沿って小開口部51が形成されることで、第2排出部5箇所の弁ハウジング3の剛性が維持でき,強度上好ましい。また、残存肉部53は、前記リリーフ弁6の第2排出部5を通過移動する際のガイドの役目をなすものである。すなわちリリーフ弁6が第2排出部5の小開口部51から大開口部52へ移動し、リリーフオイルの排出が開始されると、前記弁ハウジング3内のリリーフ弁6はオイルの流れ及びその圧力等により大開口部52側に向かって傾く(倒れる)傾向がある。
【0041】
ところがリリーフ弁6は、前記残存肉部53に当接し、小開口部51側から大開口部52側へ移動するときに倒れこむ状態を確実に抑制するガイドとしての役目をなすので、大開口部52を比較的大きく設定しても該大開口部52とのかじりを確実に防止できる。前記大開口部52は、略長方形状の開口部位として形成されたものである。
【0042】
また、前記小開口部51は、前記大開口部52に比較して小さく形成されたものである〔図4(B)参照〕。該大開口部52は、前記弁ハウジング3の幅方向両側箇所で、該弁ハウジング3の頂部32a側から底部32b箇所に向かって形成されている〔図3(C)参照〕。
【0043】
リリーフ弁6は、図3(D),(E)に示すように、外周側部61と弁頭部62とから 構成され、該弁頭部62は、頭頂部62aの外周縁に斜面部62bが形成されている。前記外周側部61は、前記弁通路31の内周面に対して略密接状態で且つ円滑に摺動することができるようになっている。
【0044】
その弁ハウジング3内に収納されたリリーフ弁6は、前記弁通路31に装着されたスプリング7により常時、弁通路31のリリーフ流入部2側寄りに弾性的に付勢され、そのリリーフ弁6の弁頭部62は、前記弁通路31のリリーフ流入閉鎖面33に当接している(図1,図2参照)。
【0045】
前記リリーフ弁6の軸方向において、前記弁頭部62とは反対側にスプリング支持軸部64が形成され、該スプリング支持軸部64に前記スプリング7が支持される。さらに具体的には、弁頭部62の斜面部62bがリリーフ流入閉鎖面33に当接している。これによって、リリーフは非動作状態にある。
【0046】
前記リリーフ弁6の弁頭部62の外周に斜面部62bを形成することにより、オイルに混入した異物をその斜面部62bにより第2排出部5より一気に押し流すことができる。前記頭頂部62aと斜面部62bによって略裁頭円錐形状が構成される。前記弁頭部62の頭頂部62aから外周側部61の間に亘って弁流路63が形成されている。該弁流路63は、リリーフ弁6内部では、前記弁頭部62から軸方向に沿って水平流路63cが形成され、該水平流路63cを中心として該水平流路63cに直交する垂直流路63dが形成されている。
【0047】
そして、前記水平流路63cは、弁頭部62に形成された頭部開口63bと連通し、前記垂直流路63dは、外周側部61の外周側部開口63aに連通し、このような構成によって前記頭部開口63bと外周側部開口63aは連通する構造である。前記外周側部61には、前記外周側部開口63aは、前記外周側部61を周方向に沿って外周溝として形成されたものである。すなわち前記垂直流路63dの開口孔を通過する溝が外周側部61の周方向に沿って形成されたものであり、前記垂直流路63dの開口は、外周溝とした前記外周側部開口63aの溝底部に位置している〔図2(C),図3(E)参照〕。
【0048】
前記水平流路63cと前記垂直流路63dを通して送り出されたオイルは、前記外周溝とした外周側部開口63aに流れ出し、リリーフ弁6が弁通路31内を摺動して、前記外周側部開口63aが前記第1排出部4と連通した状態でオイルが該第1排出部4に送り出される〔図5(C),図7(A)参照〕。
【0049】
前記スプリング7は、長手方向の一端が前記リリーフ弁6の後部側に装着され、他端側が弁通路31に装着された押え部材8によって、固定される〔図1(B),(C)参照〕。リリーフ弁6の外周側部開口63aは、前記弁ハウジング3に形成された第1排出部4の位置に到達した状態で、弁流路63と第1排出部4とが連通する〔図5(C),図7(A)参照〕。
【0050】
リリーフ弁6は、初期状態すなわち前記弁頭部62が前記弁通路31のリリーフ流入閉鎖面33に当接した状態において、前記弁流路63の外周側部開口63aと前記第1排出部4との軸方向における最短間隔Saは、前記弁頭部62と前記第2排出部5との軸方向における最短間隔Sbよりも小さくなる構成となっている(図2参照)。
すなわち、

である。
【0051】
ここで、外周側部開口63aと第1排出部4の最短間隔Saとは、外周側部開口63aの開口縁で且つ軸方向に沿って前記第1排出部4に最も近い部分と、前記第1排出部4の開口縁で且つ軸方向に沿って前記外周側部開口63aに最も近い部分との間隔において、最も短くなる間隔のことである。
【0052】
また、最短間隔Sbとは、前記第2排出部5の開口縁で且つ軸方向に沿って前記弁頭部62に最も近い部分と、該弁頭部62との間隔において、最も短くなる間隔のことであり、具体的には、前記第2排出部5と、前記斜面部62bと外周側部61との境界6k位置との間隔となる(図2参照)。
【0053】
このように、前記リリーフ弁6の初期状態において前記弁流路63の外周側部開口63aと前記第1排出部4との最短間隔Saを、前記弁頭部62と前記第2排出部5の最短間隔Sbよりも小さくすることで、リリーフ弁6の摺動によって、まず最初に外周側部開口63aと第1排出部4とが連通しリリーフ可能となる〔図7(A)参照〕。その次に弁頭部62が第2排出部5を通過する動作を開始して、第2排出部5がリリーフ動作可能となる〔図7(C)参照〕。
【0054】
さらに、前記斜面部62bと前記外周側部61との境界6k位置と、前記外周側部開口63aの前記弁頭部62側に最も近い縁部分との間を間隔Uとすると、前記第1排出部4と前記第2排出部5との最長間隔Scは、前記間隔Uよりも小さくなるように構成されている(図4参照)。
すなわち、

となる。
【0055】
ここで、最長間隔Scとは、第1排出部4の開口縁で且つ軸方向に沿って前記第2排出部5から最も遠く離れた部分と、第2排出部5の開口縁で且つ軸方向に沿って前記第1排出部4から最も遠く離れた部分との間隔である。すなわち、前記第1排出部4と前記第2排出部5との最も遠くなる(又は最も長くなる)縁部分同士の間隔のことである〔図4(B)参照〕。
【0056】
前述した最短間隔Sb>最短間隔Saの条件に、最長間隔Sc<間隔Uの条件が加わることによって、前記リリーフ弁6が初期状態(第1排出部4及び第2排出部5共に閉鎖状態)から弁通路31を摺動するにしたがって、最初に外周側部開口63aが第1排出部4に連通し、該第1排出部4にてリリーフ可能となる〔図7(A)参照〕。
【0057】
次にリリーフ弁6が摺動を続けると、第1排出部4及び第2排出部5が共に閉鎖状態となり〔図7(B)参照〕、さらにリリーフ弁6が摺動を続けることによって、弁頭部62が第2排出部5を通過し、該第2排出部5を介して弁通路31は内部と外部とが連通状態となり〔図7(C)参照〕、リリーフ動作を開始することができる。上記条件では、第1排出部4と第2排出部5とが同時期に、リリーフ動作が可能となることはない。
【0058】
次に、本発明におけるリリーフ動作について説明する。本発明におけるオイルポンプは、図示しないエンジンの回転が伝達されて作動する。エンジン停止時及び低回転時でリリーフの作動が不用な場合には、リリーフ弁6は、弁頭部62がリリーフ流入閉鎖面33に当接している(初期状態)〔図5(A)参照〕。さらに、前記リリーフ弁6の外周側部開口63aの位置は、前記リリーフ流入閉鎖面33側から軸方向に沿って第2排出部5と第1排出部4との間に存在している。また、第1排出部4及び第2排出部5は、リリーフ弁6によって閉鎖されている。
【0059】
まず、エンジンの始動にて、低回転領域では、オイルの圧力は、リリーフ弁6は僅かに摺動するが、前記第1排出部4及び第2排出部5は、閉鎖されているので、リリーフ動作が生じない〔図5(B)参照〕。エンジンの低回転〜中回転に亘る遷移領域では、吐出ポート13からの吐出圧が上昇し、オイルが弁頭部62を押圧して、リリーフ弁6の摺動を開始させる。
【0060】
該リリーフ弁6の摺動によって、外周側部開口63aが第1排出部4の位置に到達し、外周側部開口63aと第1排出部4とが連通する。オイルは、リリーフ弁6の弁流路63から外周側部開口63aと第1排出部4を介して第1回目のリリーフが行われる〔図5(C)参照〕。前記外周側部開口63aと第1排出部4とが連通状態のとき、第2排出部5は、まだ閉鎖された状態にある。したがって、吐出圧の上昇率は緩くなり、吐出圧の急激な上昇は行わない。エンジンの中回転領域では第1排出部4と外周側部開口63aとが位置において完全に一致している〔図6(A)参照〕。
【0061】
次に、エンジンの中回転領域から高回転領域の遷移領域においては、前記リリーフ弁6は、さらに摺動して、前記外周側部開口63aが第1排出部4から離れる。すなわち、前記外周側部開口63aと第1排出部4との連通が解除され、該第1排出部4は閉鎖され、第1排出部4によるリリーフは停止する〔図6(B)参照〕。また、この領域において第2排出部5は、閉鎖された状態である。したがって中回転領域では、オイルは全くリリーフされない。したがって、吐出圧の上昇率は高くなり、吐出圧は上昇する。図8のグラフは、前記回転数の遷移領域におけるオイル圧力の増加を示している。
【0062】
次に、エンジンの高回転領域では、リリーフ弁6がさらに摺動して、弁頭部62が第2排出部5に到達し、第2回目のリリーフが行われる〔図6(C)参照〕。このときには、前記第1排出部4は閉鎖されている。第2回目のリリーフは、弁頭部62と第2排出部5との間によって行われるものであり、前述したように小開口部51と大開口部52とから構成されたもので、リリーフによるオイルの戻し量は多くなり、吐出圧の上昇率は緩やかとなり、吐出圧はエンジンの回転数増加によって緩やかに上昇する。
【0063】
前記弁頭部62の位置が第2排出部5の小開口部51に通過を開始すると、その小開口部51からオイルが徐々にリリーフされる。このとき小開口部51におけるリリーフ量は僅かである。さらに、リリーフ弁6が高圧力により押圧されると、リリーフ弁6は移動し、弁頭部62は大開口部52に達して、オイルのリリーフ量は増加する。このように、リリーフするオイルは、小開口部51から大開口部52にわたってリリーフ量が増加する。
【0064】
図8のグラフは、エンジンの低回転から中回転でのリリーフによって、オイルの圧力上昇が緩く変化し、上昇率が小さくなっていることを示す。さらに中回転から高回転における遷移領域で前記第1排出部4及び前記第2排出部5からのリリーフが行なわれず、高いオイル圧力の上昇が示されている。特に吐出圧力と吐出量の増加を必要とする前記遷移領域でオイルの吐出圧が増加し、オイルの流量を十分に確保することができることを示している。
【符号の説明】
【0065】
2…リリーフ流入部、3…弁ハウジング、31…弁通路、4…第1排出部、
5…第2排出部、6…リリーフ弁、62…弁頭部、61…外周側部、63…弁流路、
63a…外周側部開口、Sa…最短間隔、Sb…最短間隔、Sc…最長間隔、U…間隔。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁頭部と外周側部との間を連通する弁流路が形成されたリリーフ弁と、該リリーフ弁を収めた弁通路が形成された弁ハウジングと、前記弁通路の軸方向一端側に形成されると共に該弁通路と連通するリリーフ流入部と、前記弁ハウジングに形成されると共に前記リリーフ弁の移動により前記弁流路と連通する第1排出部と、該第1排出部よりも前記リリーフ流入部側寄りに位置すると共に前記弁頭部が通過することによって開口する第2排出部とからなり、リリーフ作動時において、前記弁流路の外周側部開口と前記第1排出部との連通は、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始よりも先行されると共に、その連通のみはエンジンが中回転時で行われ、前記弁頭部が前記第2排出部を通過する動作開始はエンジンの高回転時に行われ、エンジンの中回転から高回転への遷移領域ではリリーフは行われない回転数領域を有することを特徴とするリリーフ弁構造。
【請求項2】
請求項1において、前記リリーフ弁の初期状態において前記弁流路の外周側部開口と前記第1排出部との最短間隔は、前記弁頭部と前記第2排出部の最短間隔よりも小なることとし、且つ前記第1排出部と前記第2排出部との最長間隔は、前記弁頭部と前記外周側部開口の前記弁頭部に最も近い部分の間隔よりも小なることを特徴とするリリーフ弁構造。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか1項の記載において、前記弁流路の外周側部開口は、前記外周側部の周方向に沿って形成された外周溝としてなることを特徴とするリリーフ弁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−211694(P2012−211694A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110852(P2012−110852)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2009−189977(P2009−189977)の分割
【原出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000144810)株式会社山田製作所 (183)
【Fターム(参考)】