説明

リレー

【課題】製造時や使用時に高温環境に置かれても可動接点並びに固定接点の電気抵抗の増大を抑えるとともに接点同士が固着することを防ぐ。
【解決手段】固定接点14は、相手方との接触面を含む先端部14aが白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成され、可動接点39は、相手方との接触面を含む先端部39aが金又は金合金で形成されている。故に、白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金からなる固定接点14の先端部14aは陽極接合時の高温環境を経た後でも高い硬度が維持できるため、接点同士の固着を防ぐことができ、また、金又は金合金からなる可動接点39の先端部39aには絶縁性皮膜が形成され難いため、製造時や使用時に高温環境に置かれても接点の電気抵抗が増大することを抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一表面に固定接点が形成されたガラス基板と、固定接点が形成されている前記表面側でガラス基板に陽極接合される半導体基板と、半導体基板におけるガラス基板との対向面に形成されて固定接点と接離自在に接触する可動接点とを備えたリレーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一表面に固定接点が形成されたガラス基板と、固定接点が形成されている前記表面側でガラス基板に陽極接合される半導体基板と、半導体基板におけるガラス基板との対向面に形成されて固定接点と接離自在に接触する可動接点とを備えたリレーとして、電磁石装置の電磁力を利用してアーマチュアを駆動し接点を開閉するようにしたマイクロリレーが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載されているマイクロリレーは、ガラス基板を加工してなるボディと、電磁石装置と、シリコン基板のような半導体基板を半導体微細加工プロセスにより加工することで形成されるアーマチュアブロックと、ガラス基板を加工してなるカバーとを備える。アーマチュアブロックは矩形枠状のフレーム部と、複数の支持ばねを介してフレーム部に揺動自在に支持されたアーマチュアとを有し、アーマチュアブロックを両側から挟むようにしてフレーム部をボディ及びカバーに陽極接合することでマイクロリレーが構成されている。ここで、陽極接合とは重ね合わせた基板を加熱してガラス側を軟化させると同時にシリコン側を陽極として両者の間に高電圧を印加することで電気的二重層を発生させ
、静電引力により基板同士を接合する接合方法であって、可動イオンを含むガラスとシリコン基板を密着接合する方法として一般的に用いられている。
【特許文献1】特開2005−50768号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のマイクロリレーにおける可動接点及び固定接点は、一般的な接点材料(例えば、金、ニッケル、銅、クロムなどの合金)で形成されていたが、アーマチュアブロックとボディ及びカバーとの陽極接合時に加熱(通常は400℃以上)されることで両接点の接触面が酸化してしまい、電気抵抗が増大してしまうという問題があった。さらに、接点材料にAu−Co合金を使用している場合、電気抵抗の増大に伴ってコバルトが接点表面に析出して酸化膜(絶縁性皮膜)を形成し、しかも、上述のようなマイクロリレーでは接点圧が元々低いために接点表面に形成された絶縁性皮膜を突き破ることが困難であるから、接触信頼性が低下するという問題もあった。一方、電気抵抗を低減するために接点表面における金の含有率を高くすると、陽極接合時の加熱により硬度が低下してしまうために接点同士が固着(スティッキング)する虞があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造時や使用時に高温環境に置かれても可動接点並びに固定接点の電気抵抗の増大を抑えるとともに接点同士が固着することを防ぐことができるリレーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、一表面に固定接点が形成されたガラス基板と、固定接点が形成されている前記表面側でガラス基板に陽極接合される半導体基板と、半導体基板におけるガラス基板との対向面に形成されて固定接点と接離自在に接触する可動接点とを備えたリレーにおいて、固定接点並びに可動接点の一方は、相手方との接触面を含む先端部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成され、固定接点並びに可動接点の他方は、相手方との接触面を含む先端部が金又は金合金で形成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、固定接点又は可動接点のうちで先端部が金又は金合金で形成されている接点は、先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される金属製の下地部と、先端部と下地部の間に介装されて下地部を形成する金属材料の拡散を防止する拡散阻止部とを有することを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、先端部を形成する金合金がAu−Ni合金又はAu−Pd合金であることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1〜3の何れかの発明において、先端部を形成する白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金がロジウム、ルテニウム、白金の何れか若しくはこれらの合金であることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1〜4の何れかの発明において、固定接点又は可動接点のうちで先端部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成されている接点は、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金あるいは当該3種類のうちの少なくとも2種類を積層したものの何れかからなり先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される下地部と、先端部と下地部との間に介装されて両者の密着性を高めるストライク部とを有することを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1〜5の何れかの発明において、固定接点又は可動接点のうちで先端部が金又は金合金で形成されている接点は、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金あるいは当該3種類のうちの少なくとも2種類を積層したものの何れかからなり先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される下地部と、先端部と下地部の間に介装されて下地部を形成する金属材料の拡散を防止する拡散阻止部とを有することを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項2又は6の発明において、拡散阻止部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金若しくはNi−Bで形成されていることを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1〜7の何れかの発明において、先端部を形成する白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金は、硫黄の含有率が1原子パーセント以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金からなる接点の先端部は陽極接合時の高温環境を経た後でも高い硬度が維持できるため、接点同士の固着を防ぐことができ、また、金又は金合金からなる接点の先端部には絶縁性皮膜が形成され難いため、製造時や使用時に高温環境に置かれても接点の電気抵抗が増大することを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図1〜図9を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本実施形態のリレーは、シリコン基板をマイクロマシニング技術により加工して形成されるアーマチュア30、アーマチュア30により変位可能な可動接点39、可動接点39と接離する固定接点14を、ボディ1とカバー4とアーマチュアブロック3で構成される密閉空間に収納し、電磁石装置2の電磁力でアーマチュア30を駆動するものである。ボディ1は矩形板状のガラス基板からなり、厚み方向の一面側において長手方向の両端部それぞれに各一対の固定接点14が設けられている。アーマチュアブロック3は、ボディ1の上記一表面側に固着される枠状(矩形枠状)のフレーム部31と、フレーム部31の内側に配置されて4本の支持ばね部32を介してフレーム部31に揺動自在に支持され、電磁石装置2が発生する電磁力により駆動されるアーマチュア30と、アーマチュア30にそれぞれ2本の接圧ばね部35を介して支持されそれぞれ可動接点39が設けられた2つの可動接点基台部34とを有する。また、カバー4は矩形板状のガラス基板からなり、アーマチュアブロック3におけるボディ1とは反対側で周部がフレーム部31に固着される。
【0017】
電磁石装置2はヨーク20に巻回されたコイル22,22への励磁電流に応じて磁束を発生するものである。ヨーク20は、2つのコイル22,22が直接巻回される細長の矩形板状のコイル巻回部20aと、コイル巻回部20aの長手方向の両端部それぞれからアーマチュア30に近づく向きに延設されコイル22,22への励磁電流に応じて互いの先端面が異極に励磁される一対の脚片20b,20bと、ヨーク20の両脚片20b,20bの間でコイル巻回部20aの長手方向の中央部に重ねて配置された矩形板状の永久磁石21と、細長の矩形板状であってヨーク20のコイル巻回部20aにおける永久磁石21との対向面とは反対側でコイル巻回部20aと直交するようにコイル巻回部20aに固着されるプリント基板23とを備えている。なお、ヨーク20は、電磁軟鉄などの鉄板を曲げ加工あるいは鋳造加工することにより形成されており、両脚片20b,20bの断面が矩形状に形成されている。
【0018】
永久磁石21は、コイル巻回部20aとの重ね方向(厚み方向)の両面それぞれの磁極面が異極に着磁されており、一方の磁極面がヨーク20のコイル巻回部20aに当接し、他方の磁極面がヨーク20の両脚片20b,20bの先端面と同一平面上に位置するように厚み寸法を設定してある。
【0019】
また、各コイル22,22はそれぞれ、永久磁石21とヨーク20の脚片20b,20bとによって長軸方向(つまり、コイル巻回部20aの長手方向)への移動が規制される。プリント基板23は、絶縁基板23aの一表面における長手方向の両端部に導電パターン23bが形成されており、各導電パターン23bにおいて円形状に形成された部位が外部接続用電極を構成し、矩形状に形成された部位がコイル接続部を構成している。ここにおいて、コイル接続部には、コイル22,22の端末が接続されるが、コイル22,22は、外部接続用電極間に電源を接続してコイル22,22へ励磁電流を流したときにヨーク20の両脚片20b,20bの先端面が互いに異なる磁極となるように接続されている。なお、各導電パターン23bにおける外部接続用電極には、導電性材料(例えば、Au,Ag,Cu,半田など)からなるバンプ24が適宜固着されるが、バンプ24を固着する代わりに、ボンディングワイヤをボンディングしてもよい。
【0020】
ボディ1は耐熱ガラスにより形成されており、外周形状が矩形状であって、中央部には厚み方向に貫通し電磁石装置2を収納する収納孔16が貫設され、四隅の各近傍と長手方向両端部の中央付近には厚み方向に貫通するスルーホール10が貫設されている。また、ボディ1の厚み方向の両面であって各スルーホール10それぞれの周縁にはランド12が形成されている。ここに、ボディ1の厚み方向において重なるランド12同士はスルーホール10の内周面を導電性材料(例えば、Cu,Cr,Ti,Pt,Co,Ni,Au,あるいはこれらの合金など)でめっきしてなるめっき層10aにより電気的に接続されている。また、ボディ1の厚み方向の他表面側の各ランド12にはバンプ13が適宜固着されており、バンプ13をランド12に固着することによって、ボディ1の上記他表面側ではスルーホール10の開口面がバンプ13により覆われる。スルーホール10の開口面は円形状であって、ボディ1の上記一表面には、それぞれスルーホール10の開口面を閉塞する導電パターン18が設けられている。
【0021】
また、上述の各一対の固定接点14は、ボディ1の長手方向の両端部においてボディ1の短手方向に離間して形成された2つのスルーホール10の間で上記短手方向に並設されており、上記短手方向両端のスルーホール10の周縁に形成されたランド12と導電パターン18を介して電気的に接続されている。さらに、ボディ1の長手方向両端部における固定接点14の近傍には、上記短手方向に沿った幅細形状であって中央のスルーホール10の周縁に形成されたランド12と接続された接地用導電パターン18’が設けられており、中央のスルーホール10も接地用導電パターン18’によって閉塞されている。
【0022】
また、収納孔16の開口面は十字状であって、ボディ1の上記一表面側には、収納孔16を閉塞するシリコン薄膜からなる蓋体17が固着されている。すなわち、電磁石装置2は、ヨーク20の両脚片20b,20cの各先端面が蓋体17と対向する形で収納孔16に挿入される。なお、本実施形態では、収納孔16の内周面と蓋体17とで囲まれる空間が電磁石装置2を収納する収納部を構成しており、電磁石装置2は、永久磁石21がボディ1の厚み寸法内でアーマチュア30とヨーク20とにより形成される磁路中に設けられ、プリント基板23における絶縁基板23aの表面がボディ1の上記他表面と略面一となっている。
【0023】
アーマチュアブロック3は、シリコン基板からなる半導体基板を半導体微細加工プロセスにより加工することによって、上述の矩形枠状のフレーム部31と、上述の4本の支持ばね部32と、フレーム部31の内側に配置されアーマチュア30の一部を構成する矩形板状の可動基台部30aと、上述の4本の接圧ばね35と、上述の2つの可動接点基台部34とを形成してあり、可動基台部30aと、可動基台部30aにおけるボディ1との対向面に固着された磁性体(例えば、軟鉄、電磁ステンレス、パーマロイなど)からなる矩形板状の磁性体部30bとでアーマチュア30を構成している。したがって、アーマチュア30が4本の支持ばね部32を介してフレーム部31に揺動自在に支持されている。なお、可動基台部30aはフレーム部31よりも薄肉であり、アーマチュア30の厚み寸法は、アーマチュアブロック3とボディ1とを固着した状態においてアーマチュア30の磁性体部30bと蓋体17との間に所定のギャップが形成されるように設定されている。
【0024】
上述の支持ばね部32は、可動基台部30aの短手方向の両側面側で可動基台部30aの長手方向に離間して2箇所に形成されている。各支持ばね部32は、一端部がフレーム部31に連続一体に連結され他端部が可動基台部30aに連続一体に連結されている。なお、各支持ばね部32は、平面形状において上記一端部と上記他端部との間の部位を同一面内で蛇行した形状に形成することにより長さ寸法を長くしてあり、アーマチュア30が揺動する際に各支持ばね部32にかかる応力を分散させることができ、各支持ばね部32が破損するのを防止することができる。
【0025】
また、可動基台部30aは、短手方向の両側縁の中央部から矩形状の突片36が連続一体に延設され、フレーム部31の内周面において突片36に対応する部位からも矩形状の突片37が連続一体に延設されている。すなわち、可動基台部30aから延設された突片36とフレーム部31から延設された突片37とは互いの先端面同士が対向している。ここに、可動基台部30aから延設された各突片36の先端面には凸部36aが形成されており、フレーム部31から延設された各突片37の先端面には、凸部36aが入り込む凹部37aが形成されている。したがって、凸部36aが凹部37aの内周面に当接することでフレーム部31の厚み方向に直交する面内におけるアーマチュア30の移動が規制される。なお、アーマチュア30の同一の側縁側に配設される2つの支持ばね部32は、突片36の両側に位置している。
【0026】
また各突片36におけるボディ1との対向面には支点突起40がそれぞれ突設されており、これら一対の支点突起40を設けることでアーマチュア30の揺動動作をより安定させることができる。なお、ボディ1に当接する支点突起40の先端部には、摩耗や割れあるいは欠けなどを低減するために、金属薄膜からなる保護膜41が形成されている。
【0027】
また、アーマチュアブロック3は、アーマチュア30の長手方向においてアーマチュア30の両端部とフレーム部31との間にそれぞれ可動接点基台部34が配置されており、各可動接点基台部34におけるボディ1との対向面に導電性材料からなる可動接点39が固着されている。ここに、可動接点基台部34は上述の2本の接圧ばね部35を介して可動基台部30aに支持されている。なお、可動基台部30aは上述のように矩形板状に形成されており、磁性体部30bの変位量を制限するストッパ部33が四隅それぞれから連続一体に延設されており、接圧ばね部35の平面形状は、ストッパ部33の外周縁の3辺に沿ったコ字状に形成されている。このストッパ部33は、ボディ1の上記一表面と接触することにより磁性体部30bの変位量を制限する。なお、アーマチュアブロック3は、上述の説明から分かるように、フレーム部31、可動基台部30a、支持ばね部32、可動接点保持部34、接圧ばね部35が上述の半導体基板の一部により構成されている。また、カバー4は耐熱ガラスにより構成されており、アーマチュアブロック3との対向面にアーマチュア30の揺動空間を確保する凹所(図示せず)が形成されている。
【0028】
次に、本実施形態のリレーの製造方法について簡単に説明する。
【0029】
本実施形態のリレーの製造にあたっては、半導体基板たるシリコン基板をリソグラフィ技術、エッチング技術などの半導体微細加工プロセス(マイクロマシンニング技術)により加工してフレーム部31、支持ばね部32、接圧ばね部35、可動接点基台部34、アーマチュア30の一部を構成する可動基台部30aを形成した後で可動基台部30aにおいてボディ1側となる一面に磁性体からなる磁性体部30bを固着し且つ可動接点基台部34に可動接点39を固着することでアーマチュアブロック3を形成するアーマチュアブロック形成工程と、アーマチュアブロック形成工程にて形成したアーマチュアブロック3とボディ1およびカバー4を陽極接合により固着することでボディ1とカバー4とアーマチュアブロック3のフレーム部31とで囲まれる空間を密封する密封工程と、密封工程の後でボディ1の収納部に電磁石装置2を収納してボディ1に固定する電磁石装置配設工程とを備えている。
【0030】
ここにおいて、ボディ1の形成にあたっては、ボディ1となるガラス基板において収納部に対応する部位に厚み方向に貫通する収納孔16を形成するとともにガラス基板の四隅近傍並びに長手方向両端部の中央に厚み方向に貫通するスルーホール10を形成した後、ボディ1の一表面側に導電材料を部分的にめっきすることでランド12、固定接点14、導電パターン18,18’、めっき層10aを一体に形成してから、上記ガラス基板において固定接点14を設けた側の表面に収納孔16を覆う薄膜(例えば、シリコン薄膜、ガラス薄膜など)を固着し、当該薄膜をパターニングすることによって収納孔16の開口面を閉塞する蓋体17を形成すればよい。なお、収納孔16はエッチング法やサンドブラスト法などにより形成すればよい。
【0031】
また、カバー4の形成にあたっては、カバー4となるガラス基板においてエッチング法やサンドブラスト法などにより凹所を形成すればよい。そして、アーマチュアブロック3のフレーム部31にボディ1及びカバー4を陽極接合することでボディ1とカバー4とフレーム部31とで構成される空間を密閉すれば、本実施形態のリレーが完成する。
【0032】
以下、本実施形態のリレーの動作について説明する。
【0033】
本実施形態のリレーでは、コイル22,22への通電が行われると、磁化の向きに応じて磁性体部30bの長手方向の一端部がヨーク20の一方の脚片20bに吸引されてアーマチュア30が揺動しアーマチュア30の一端側の可動接点基台部34に固着された可動接点39が対向する一対の固定接点14,14に所定の接点圧で接触する。この状態で通電を停止しても、永久磁石21の発生する磁束により、吸引力が維持され、そのままの状態が保持される。
【0034】
また、コイル22,22への通電方向を逆向きにすると、アーマチュア30の磁性体部30bがヨーク20の他方の脚片20bに吸引されてアーマチュア30が揺動しアーマチュア30の他端側の可動接点基台部34に保持された可動接点39が対向する一対の固定接点14,14に所定の接点圧で接触する。この状態で通電を停止しても、永久磁石21の発生する磁束により、吸引力が維持され、そのままの状態が保持される。
【0035】
次に、本発明の要旨である固定接点14並びに可動接点39の構造について説明する。固定接点14は、図1に示すように白金族元素の金属(特に、ロジウム、ルテニウム、白金の何れかが望ましい。)又は白金族元素を含む合金で形成された先端部14aと、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金(例えば、Au−Ni合金)あるいは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の金属を積層したものの何れかからなる下地部14bと、先端部14aと下地部14bの間に介装されて両者の密着性を高めるストライク部14cとを積層したような多層構造を有している。但し、下地部14bとガラス基板(ボディ1)との間には金めっき層14eを介してクロムめっき層14dが形成されており、クロムが金や銀に比較してガラス基板との密着性に優れることから、クロムめっき層14dによってボディ1と下地部14bとの密着性を高めることができる。また、ストライク部14cは下地部14bの表面に金をストライクめっきすることによって形成されるものであって、先端部14aを形成するロジウム等の白金族元素の金属又はその合金と下地部14bとの密着性を高める機能を有している。なお、2種類の金属(例えば、金とニッケル)を積層して下地部14bを形成する場合、大部分をニッケルで形成して先端部14aに最も近い表層部分のみに金を積層した構造(例えば、金とニッケルの比率が1:9程度)とすることが材料コストを削減する上で望ましい。
【0036】
ここで、リレーに用いられる一般的な接点の構造は、例えば、接触面から順に金、ニッケル、銅、クロムの各金属を積層したような構造となっているが、既に説明したように本発明に係るリレーではアーマチュアブロック3のフレーム部31にカバー4を陽極接合する際にリフロー炉の温度(おおよそ200℃)よりも十分に高い高温環境(例えば、400℃)に長時間(例えば、1時間)晒されることから、加熱によって各金属が拡散し且つ酸化され、接触面から順に酸化ニッケル−酸化銅−金の合金、銅−金の合金、銅−クロムの合金を積層したような構造となり、接点の電気抵抗が増大するとともに硬度が低下して導通不良や接点同士の固着(スティッキング)などの不具合が生じる虞がある。
【0037】
そこで本発明者らは、製造プロセスや使用状態で高温環境に長時間晒された場合でも電気抵抗の増大による導通不良や固着などが起こらない接点材料を種々検討し、固定接点14の先端部14aを白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成すれば、上述の導通不良やスティッキングなどの不具合の発生が防止できることを見いだした。すなわち、接触面を含む先端部14aを相対的に硬い金属である白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成することによってスティッキングが防止でき、しかも、白金族元素は酸化し難いから酸化膜(絶縁性皮膜)が形成されず、電気抵抗の増大による導通不良が防止できる。
【0038】
一方、可動接点39についても固定接点14と事情は同じであるから、本来ならば固定接点14と同一構造、すなわち、少なくとも固定接点14と接触する先端部分を白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成することが望ましい。しかしながら、固定接点14と可動接点39の接触面の接点材料が同一であると、固定接点14と可動接点39が接離を繰り返すうちに両者の間で接点材料の金属が転移して接触不良を起こす可能性がある。そこで本実施形態では、固定接点14との接触面を含む可動接点39の先端部を金又は金合金で形成することにより、可動接点39の電気抵抗を増大させずに固定接点14との接離に伴う金属の転移を防止している。
【0039】
すなわち可動接点39は、図1に示すように金又は金合金(例えば、Au−Ni合金やAu−Pd合金)で形成された先端部39aと、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金(例えば、Au−Ni合金)あるいは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の金属を積層したものの何れかからなる下地部39bと、先端部39aと下地部39bの間に介装されて下地部39bを形成する金属材料(銀又はニッケル又は金)の先端部39aへの拡散を防止する拡散阻止部39cとを積層したような多層構造を有している。但し、下地部39bとシリコン基板(可動接点基台部34)との間には、固定接点14と同様に金めっき層39eを介してクロムめっき層39dが形成されており、クロムが金や銀に比較して半導体基板との密着性にも優れることから、クロムめっき層39dによって可動接点基台部34と下地部39bとの密着性を高めることができる。また、金めっき層39eの表面を粗面とし、いわゆるアンカー効果によって下地部39bとの密着性向上を図っている。なお、先端部39aを金単体で形成すると十分な硬さが得にくく固着等が発生する虞があるため、最低でも10%程度の金以外の硬い金属(例えば、ニッケルや鉛)を含有する金合金で形成することが望ましい。一方、ニッケルや鉛などの金以外の金属単体では先端部39aの表面に酸化膜(絶縁性被膜)が形成されて接触抵抗が増大してしまう虞があるので、酸化されない金を最低でも10%程度含有する必要がある。したがって、先端部39aを金合金で形成する場合、金と金以外の硬い金属との合金比率は1:9〜9:1の範囲に設定することが望ましい。
【0040】
ここで、拡散阻止部39cは白金族元素の金属(例えば、白金)若しくはNi−Bで形成されており、特にアーマチュアブロック3のフレーム部31にカバー4を陽極接合する際の下地部39bを形成する金属(銀又はニッケル又は金)の拡散を阻止している。つまり、拡散阻止部39cがない場合、下地部39bを形成する金属が拡散して先端部39aを形成する金属と合金化し、先端部39aの硬度が低下したり、先端部39a表面に酸化膜(絶縁性皮膜)が形成されて接触信頼性が低下する虞があるが、上述のように拡散阻止部39cを先端部39aと下地部39bとの間に介装することで先端部39aの硬度低下や絶縁性皮膜形成による接触信頼性低下を防止することができる。特に本実施形態のようなリレーでは、その構造上、固定接点14と可動接点39の接触圧が非常に小さいために表面に形成された絶縁性皮膜を突き破ることが困難であるから、先端部39aの表面に酸化膜(絶縁性皮膜)が形成されるのを防ぐ効果が大きいと言える。なお、拡散阻止部39cをNi−Bで形成すれば、白金族元素の金属で形成する場合に比較して材料費が安価であり、また製造プロセスの時間が相対的に短いからコストダウンが図れるという利点がある。なお、拡散阻止部39cをNi−Bで形成する場合、ニッケルの含有率が低くなるほど拡散阻止性能が低下するので、少なくとも80at%(原子パーセント)以上は必要であり、したがって、拡散阻止部39cをNi−Bで形成する場合、NiとBとの合金比率は80%:20%〜95%:5%の範囲に設定することが望ましい。
【0041】
ところで、金属をめっきする際に応力緩和用の添加物として硫黄が添加される場合があるが、先端部14aを形成する白金族元素の金属又はその合金に硫黄を添加すると、陽極接合時に先端部14a表面に絶縁性皮膜である硫化膜が形成されて電気抵抗が増大してしまう虞がある。従って、先端部14aを形成する白金族元素の金属又はその合金には添加物として含まれる硫黄が少ない(例えば、硫黄の含有率が1原子パーセント以下)ことが望ましい。
【0042】
なお、金の硬度(ビッカース硬度)が約70Hvであるのに対し、Au−Ni合金の硬度が約160Hv、Au−Pd合金の硬度が約300Hvであるから、スティッキングを防止するためには、金よりもAu−Ni合金、さらにAu−Ni合金よりもAu−Pd合金で先端部14aを形成する方が望ましいと言える。また、上述した固定接点14の構造と可動接点39の構造とを相互に入れ替えても同様の効果を奏することはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態における固定接点及び可動接点を示す断面図である。
【図2】同上の分解斜視図である。
【図3】同上におけるボディを示し、(a)は正面図、(b)は同図(a)のX−X’線断面矢視図である。
【図4】同上の背面斜視図である。
【図5】(a)は同上におけるアーマチュアブロックの正面図、(b)は同上におけるアーマチュアブロックの背面図である。
【図6】同上におけるアーマチュアブロックの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 ボディ(ガラス基板)
14 固定接点
14a 先端部(白金族元素の金属又はその合金)
14b 下地部
14c ストライク部(金)
34 可動接点基台部(シリコン基板)
39 可動接点
39a 先端部(金又は金合金)
39b 下地部
39c 拡散阻止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面に固定接点が形成されたガラス基板と、固定接点が形成されている前記表面側でガラス基板に陽極接合される半導体基板と、半導体基板におけるガラス基板との対向面に形成されて固定接点と接離自在に接触する可動接点とを備えたリレーにおいて、
固定接点並びに可動接点の一方は、相手方との接触面を含む先端部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成され、固定接点並びに可動接点の他方は、相手方との接触面を含む先端部が金又は金合金で形成されていることを特徴とするリレー。
【請求項2】
固定接点又は可動接点のうちで先端部が金又は金合金で形成されている接点は、先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される金属製の下地部と、先端部と下地部の間に介装されて下地部を形成する金属材料の拡散を防止する拡散阻止部とを有することを特徴とする請求項1記載のリレー。
【請求項3】
先端部を形成する金合金がAu−Ni合金又はAu−Pd合金であることを特徴とする請求項2記載のリレー。
【請求項4】
先端部を形成する白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金がロジウム、ルテニウム、白金の何れか若しくはこれらの合金であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のリレー。
【請求項5】
固定接点又は可動接点のうちで先端部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金で形成されている接点は、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金あるいは当該3種類のうちの少なくとも2種類を積層したものの何れかからなり先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される下地部と、先端部と下地部との間に介装されて両者の密着性を高めるストライク部とを有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のリレー。
【請求項6】
固定接点又は可動接点のうちで先端部が金又は金合金で形成されている接点は、銀又はニッケル又は金若しくは当該3種類の金属のうち少なくとも2種類の合金あるいは当該3種類のうちの少なくとも2種類を積層したものの何れかからなり先端部とガラス基板又は半導体基板との間に介装される下地部と、先端部と下地部の間に介装されて下地部を形成する金属材料の拡散を防止する拡散阻止部とを有することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のリレー。
【請求項7】
拡散阻止部が白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金若しくはNi−Bで形成されていることを特徴とする請求項2又は6記載のリレー。
【請求項8】
先端部を形成する白金族元素の金属又は白金族元素を含む合金は、硫黄の含有率が1原子パーセント以下であることを特徴とする請求項1〜7の何れかに記載のリレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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