説明

リングレーザジャイロ

【課題】ロックイン現象の影響による誤差の積算を抑圧するとともに、角速度情報から振動角速度信号を容易に除去可能なリングレーザジャイロを提供すること。
【解決手段】少なくとも、レーザ光発振用のキャビティと、レーザ光の光路を形成する3個以上のミラーと、周期信号を発生する周期信号発生手段と、ランダム性を有する不定調信号を発生する不定調信号発生手段と、周期信号発生手段によって発生された周期信号に従ってキャビティを回転振動させる回転振動発生手段と、不定調信号発生手段によって発生された不定調信号に従って少なくとも1個以上のミラーを駆動制御することが可能な可動ミラー制御手段と、レーザ光の光路の長さを制御する光路長制御手段とを備えたリングレーザジャイロとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度計測などに用いられるリングレーザジャイロに関する。
【背景技術】
【0002】
図7を参照して、従来技術におけるリングレーザジャイロ(B)の動作原理の概要を説明する。リングレーザジャイロは、閉じた光路内に発振させた対向方向の2つのレーザ光、即ち、右回りのレーザ光と左回りのレーザ光との周波数の差が、慣性空間に対する光路の回転角速度の関数として表現されることを利用して、角速度を計測するものである。
【0003】
リングレーザジャイロ(B)は、図示しない公知の電圧印加手段によって電圧を印加される。この電圧の印加によって、レーザ光発振用のキャビティ(1)、1個のレーザ光反射用ミラー(2)、2個のレーザ光反射用ミラー(30)からなる閉じた光路(4)に、左回りのレーザ光(5)および右回りのレーザ光(6)が発振する。レーザ光反射用ミラー(2)は、レーザ光の透過が可能なものである。フォトディテクタ(9)は、レーザ光反射用ミラー(2)を透過したレーザ光の光強度を検知し、この検知結果をレーザ光強度信号として出力する。光路長制御信号発生部(15)は、このレーザ光強度信号に基づき、レーザ光の光強度を一定に保つように2個のレーザ光反射ミラー(30)を駆動制御するために要する光路長制御信号を発生する。第1ミラー駆動制御部(16a)および第2ミラー駆動制御部(16b)はそれぞれ、光路長制御信号発生部(15)によって発生された光路長制御信号に従い、2個のレーザ光反射ミラー(30)を駆動制御し、結果、光路(4)の光路長は一定になるように制御されることとなる。
【0004】
発振した左回りのレーザ光(5)および右回りのレーザ光(6)は、レーザ光反射用ミラー(2)から射出し、リングレーザジャイロ(B)の直角プリズム(7)の作用によって干渉させられ、リングレーザジャイロ(B)のフォトセンサ(8)に干渉縞を形成する。
【0005】
リングレーザジャイロ(B)のフォトセンサ(8)によって検知された干渉縞の情報(移動方向や速さなど)は、リングレーザジャイロ(B)の信号処理部(11)に入力され、角速度情報へと変換される。信号処理部(11)によって出力された角速度情報は、リングレーザジャイロ(B)のバイアス信号除去部(12)の入力となる。
【0006】
ところで、リングレーザジャイロにおいて、実用上問題になる現象の一つに、ロックイン現象と呼ばれる低角速度に対する不感現象がある。つまり、ロックイン現象は、入力角速度が微小な領域で、左右回りのレーザ光の周波数が同一になってしまい(差が無くなってしまい)角速度を検出できなくなる現象である。このロックイン現象を原理的に無くすことは不可能である。そのため、リングレーザジャイロでは、レーザ光の周回方向に振動を与えて(つまり、レーザ光の光路に周回方向の振動を与えるべく、リングレーザジャイロに物理的な回転振動を与える。)常に角速度を印加しておくことでロックイン現象による不感帯領域の滞留時間を最小限にし、ロックイン現象の影響を最小限に抑える工夫がなされている(例えば特許文献1参照。)。
【0007】
この周回方向に印加する回転振動の特性は、どのようなものであっても良い。しかし、例えばシスノイドのように一定の周期性と単一の振幅を有する関数で表される振動特性であると、計測した回転角(印加された回転振動を除去した値)に、ロックイン現象の影響による誤差が積算されてしまうことが知られている。周回方向に印加される回転振動がランダムな性質(ランダム性)を有していると、この誤差の積算は発生しない。従来のリングレーザジャイロでは、例えば、シスノイドの振動特性による回転振動に対して、ランダム性を有する変調成分を付加する等の方法で、回転振動にランダム性を与えることにより、この誤差の積算を回避していた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0008】
そこで、さらに従来技術におけるリングレーザジャイロ(B)の動作原理の説明を加える。リングレーザジャイロ(B)の周期信号発生部(13)は、適宜の周期信号(例えば上記のようなシスノイドである。)を発生し出力する。また、リングレーザジャイロ(B)のランダム信号発生部(14)は、ランダム信号を発生し出力する。このランダム信号は、例えばM系列擬似ランダムノイズである。リングレーザジャイロ(B)の信号加算部(17)は、周期信号発生部(13)によって出力された周期信号およびランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号を加算して出力する。
【0009】
リングレーザジャイロ(B)の回転振動発生部(10)は、信号加算部(17)によって出力された加算信号に従って動作し、リングレーザジャイロ(B)全体に回転振動を与える。このため、光路(4)の周回方向に回転振動が与えられ、結果として、レーザ光の周回方向に回転振動が与えられることになる。また、回転振動発生部(10)は、図示しないモニタ部を備えている。このモニタ部は、キャビティ(1)全体の回転振動状態(回転数や回転周期など)を検知し、この検知した回転振動状態をモニタ信号として出力する。
【0010】
信号処理部(11)によって出力された角速度情報および回転振動発生部(10)のモニタ部によって出力されたモニタ信号は、リングレーザジャイロ(B)のバイアス信号除去部(12)に入力される。バイアス信号除去部(12)は、モニタ信号を用いて、上記角速度情報から、印加された周回方向の回転振動に相当する振動角速度信号を除去し、この結果を角速度信号として出力する。この角速度信号が、リングレーザジャイロ(B)ないしリングレーザジャイロ(B)を備える機器などの運動における角速度を表すことになる。
【特許文献1】特公昭46−032310号公報
【非特許文献1】Thomas J. Hutchings and Daryll C. Stjern, "SCALE FACTOR NO-LINEARITY OF A BODY DITHER LASER GYRO", IEEE, 1978, pp.549-555.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、従来のリングレーザジャイロでは、ロックイン現象の影響による誤差の積算を回避するために、周回方向に印加される回転振動に、ランダム性を有する変調成分を付加する等の方法で、周回方向に印加される回転振動にランダム性を持たせていた。
【0012】
ランダム性を有する周回方向の回転振動は、角速度の入力であり、閉じた光路内で発振する右回りのレーザ光と左回りのレーザ光との周波数差として検知されて、角速度情報に含まれることになる。この意図的に印加されたランダム性を有する周回方向の回転振動は、計測すべき運動と全く関係の無いものであるので、角速度情報から、この回転振動に相当する角速度信号(振動角速度信号)を除去する必要がある。しかし、この振動角速度信号は、計測すべき運動に相当する角速度信号と何ら区別の無いものである。そこで、ハードウェアないしソフトウェア技術を用いて、印加したランダム性を有する周回方向の回転振動の信号などを基に、角速度情報から振動角速度信号を除去していた。
【0013】
従来のリングレーザジャイロで用いられている、周回方向の回転振動印加の方法では、回転振動にランダム性を有する変調成分が付加されている。このように周回方向の回転振動にランダム性が付加されているため、印加された周回方向の回転振動に相当する振動角速度信号を除去する際に、ランダム性を有する変調成分の影響を完全に除去することが複雑あるいは困難であった。この場合、完全に除去できなかった成分は、リングレーザジャイロの角速度信号に含まれることになるから、誤差としてリングレーザジャイロの精度を悪化させる要因となっていた。特に、ランダム性を有する変調成分が完全除去できない場合は、リングレーザジャイロの出力信号(角速度信号)のノイズとなり、リングレーザジャイロのランダムウォーク性能等を悪化させる要因にもなっていた。
【0014】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記問題点に鑑み、ロックイン現象の影響による誤差の積算を抑圧するとともに、角速度信号から振動角速度信号を容易に除去可能なリングレーザジャイロを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明は、少なくとも、レーザ光発振用のキャビティと、レーザ光の光路を形成する3個以上のミラーと、周期信号を発生する周期信号発生手段と、ランダム性を有する信号(以下、「不定調信号」という。)を発生する不定調信号発生手段と、周期信号発生手段によって発生された周期信号に従ってキャビティを回転振動させる回転振動発生手段と、不定調信号発生手段によって発生された不定調信号に従って少なくとも1個以上のミラーを駆動制御することが可能な可動ミラー制御手段と、レーザ光の光路の長さを制御する光路長制御手段とを備えたリングレーザジャイロとする。
このように、キャビティは周期信号に従って回転振動が与えられ、少なくとも1個以上のミラーが、ロックイン現象の影響による誤差の積算の抑圧に要する不定調信号に従って駆動制御される。
【0016】
また、レーザ光の光強度を検出するレーザ光強度検出手段と、レーザ光強度検出手段によって検出されたレーザ光の光強度をおよそ一定に保つようにミラーを駆動制御するための制御信号を発生する光路長制御信号発生手段も備えるとし、光路長制御手段が、光路長制御信号発生手段によって発生された制御信号に従って、上記不定調信号に従って駆動制御されるミラー以外の少なくとも1個のミラーを駆動制御するものとしてもよい。
このように、レーザ光の光強度をおよそ一定に保つように、不定調信号に従って駆動制御されるミラー以外のミラーを駆動制御することで、レーザ光の光路長を一定に保つような制御がなされる。
【0017】
また、光路長制御手段は、可動ミラー制御手段がミラーの駆動制御に用いる不定調信号の逆位相の信号(逆位相信号)に従って、可動ミラー制御手段によって駆動制御されるミラー以外のミラーを駆動制御するものであり、光路長制御手段によって駆動制御されるミラーの数は、可動ミラー制御手段によって駆動制御されるミラーの数と同じであるとしてもよい。
このように、可動ミラー制御手段によって駆動制御されるミラーに加え、このミラー以外のミラーを逆位相信号に従って駆動制御することで、可動ミラー制御手段がミラーを駆動制御することによる光路長変化を除去し、光路長を一定に保つような制御がなされる。
【0018】
さらに、レーザ光の光強度を検出するレーザ光強度検出手段と、レーザ光強度検出手段によって検出されたレーザ光の光強度をおよそ一定に保つようにミラーを駆動制御するための制御信号を発生する光路長制御信号発生手段も備えるとし、光路長制御信号発生手段によって発生された制御信号が、可動ミラー制御手段がミラーの駆動制御に用いる不定調信号および光路長制御手段がミラーの駆動制御に用いる逆位相信号の少なくともいずれかに加算されるとしてもよい。
このように、レーザ光の光強度をおよそ一定に保つようにミラーを駆動制御するための制御信号を、不定調信号と逆位相信号のいずれか一方に、あるいは不定調信号と逆位相信号の両方に加算した加算信号に従って、可動ミラー制御手段および/または光路長制御手段がミラーを駆動制御することで、ミラーの駆動制御以外の原因に基づく光路長変化に対して、光路長を一定に保つような制御がなされる。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、ロックイン現象の影響による誤差の積算の抑圧に要する不定調信号をキャビティの回転振動に用いる周期信号に付加しないので、振動角速度信号に不定調信号が含まれることがない。従って、角速度情報から振動角速度信号を容易に除去することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、第1実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)の模式図である。
【0021】
図1に示すリングレーザジャイロ(A)は、図示しない電圧印加手段によって電圧を印加される。この電圧の印加によって、レーザ光発振用のキャビティ(1)、1個のレーザ光反射用ミラー(2)、2個のレーザ光反射用可動ミラー(31)(32)からなる閉じた光路(4)に、左回りのレーザ光(5)および右回りのレーザ光(6)が発振する。レーザ光反射用ミラー(2)は、レーザ光の透過が可能なものとなっている。2個のレーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の動作の詳細については後述する。
【0022】
発振した左回りのレーザ光(5)および右回りのレーザ光(6)は、レーザ光反射用ミラー(2)から射出し、リングレーザジャイロ(A)の直角プリズム(7)の作用によって干渉させられ、リングレーザジャイロ(A)のフォトセンサ(8)に干渉縞を形成する。より具体的には、レーザ光反射用ミラー(2)から射出した右回りのレーザ光(6)の光路が、直角プリズム(7)およびレーザ光反射用ミラー(2)によって屈曲されて、レーザ光反射用ミラー(2)から射出した左回りのレーザ光(5)とレーザ光反射用ミラー(2)から射出した右回りのレーザ光(6)とが干渉する。
【0023】
リングレーザジャイロ(A)のフォトセンサ(8)によって検知された干渉縞の情報(移動方向や速さなど)は、リングレーザジャイロ(A)の信号処理部(11)に入力され、角速度情報へと変換される。信号処理部(11)によって出力された角速度情報は、リングレーザジャイロ(A)のバイアス信号除去部(12)の入力となる。
【0024】
リングレーザジャイロ(A)の周期信号発生部(13)は、適宜の周期信号を発生し出力する。この周期信号は、例えばシスノイドのような、一定の周期性と単一の振幅を有する関数で表される振動特性のものでよい。周期信号発生部(13)によって出力された周期信号は、リングレーザジャイロ(A)の回転振動発生部(10)の入力となる。
【0025】
リングレーザジャイロ(A)の回転振動発生部(10)は、周期信号発生部(13)によって出力された周期信号に従って動作し、リングレーザジャイロ(A)全体に回転振動を与える。このため、光路(4)の周回方向に回転振動が与えられ、結果として、レーザ光の周回方向に回転振動が与えられることになる。また、回転振動発生部(10)は、図示しないモニタ部を備えている。このモニタ部は、キャビティ(1)全体の回転振動状態(位置や回転速度など)を検知し、この検知した回転振動状態をモニタ信号として出力する。
【0026】
信号処理部(11)によって出力された角速度情報、周期信号発生部(13)によって出力された周期信号および回転振動発生部(10)のモニタ部によって出力されたモニタ信号は、リングレーザジャイロ(A)のバイアス信号除去部(12)に入力される。バイアス信号除去部(12)は、周期信号およびモニタ信号の両方もしくは一方を用いて、角速度情報から、印加された周回方向の回転振動に相当する振動角速度信号を除去し、この結果を角速度信号として出力する。この角速度信号が、リングレーザジャイロ(A)ないしリングレーザジャイロ(A)を備える機器などの運動における角速度を表すことになる。
【0027】
図1および上記説明では、フォトセンサ(8)によって出力された干渉縞情報を、信号処理部(11)によって角速度情報に変換してから、バイアス信号除去部(12)によって振動角速度信号を除去するとした。しかし、このような処理手順に限定されるものではなく、例えば、干渉縞情報から回転振動に基づく成分を除去し、次いで、この除去後の干渉縞情報を角速度信号に変換するようにしても良い。
【0028】
回転振動発生部(10)によって光路(4)に与えられる回転振動は、周期振動発生部(13)によって発生出力される、例えばシスノイドのような、一定の周期性と単一の振幅を有する関数で表される振動特性のものである。従って、バイアス信号除去部(12)による回転振動に相当する振動角速度信号の除去は、容易かつ正確に実行処理される。
【0029】
次に、2個のレーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置制御方法の詳細を、図3を参照して説明する。
【0030】
リングレーザジャイロ(A)のランダム信号発生部(14)は、ランダム性を有する信号(不定調信号)を発生し出力する。この不定調信号は、例えばM系列擬似ランダムノイズのようなランダム信号とする。ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号は、リングレーザジャイロ(A)の第1ミラー駆動制御部(16a)の入力となる。
【0031】
リングレーザジャイロ(A)の第1ミラー駆動制御部(16a)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号に従い、レーザ光反射用可動ミラー(31)の位置を制御する。このことによって、レーザ光反射用ミラー(2)、各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)によって形成されるレーザ光の散乱状態がランダムに変化するので、ロックイン現象の影響による角速度信号への誤差を抑えることができる。なお、ランダム信号発生部(14)の代わりに変調信号発生装置を用いて、変調信号発生装置が出力したランダム性を有する信号(変調成分)に従って、レーザ光反射用可動ミラー(31)の位置に変調をかけるように制御しても良い。
【0032】
また、リングレーザジャイロ(A)のフォトディテクタ(9)は、レーザ光反射用ミラー(2)から射出した右回りのレーザ光(6)のレーザ光強度を検知し、この検知結果をレーザ光強度信号として出力する。このレーザ光強度信号は、光路長制御信号発生部(15)の入力となる。
【0033】
光路長制御信号発生部(15)は、レーザ光強度信号に基づき、フォトディテクタ(9)によって検知されるレーザ光(6)のレーザ光強度が一定となるように(例えばレーザ光強度が最大となるように)レーザ光反射用可動ミラー(32)を駆動制御するために要する光路長制御信号を生成して出力する。この光路長制御信号は、第2ミラー駆動制御部(16b)の入力となる。
【0034】
第1ミラー駆動制御部(16a)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号に従い、2個のレーザ光反射用可動ミラーのうち、一方のレーザ光反射用可動ミラー(31)の位置をランダムに駆動制御する(ステップS1)。
このため、光路(4)の光路長は変化し、フォトディテクタ(9)によって検知されるレーザ光(6)のレーザ光強度も変化する。
【0035】
第2ミラー駆動制御部(16b)は、光路長制御信号発生部(15)によって出力された光路長制御信号に従い、他方のレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を駆動制御する(ステップS2)。このレーザ光強度が常に一定となるようにレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置制御をすることで(つまり、ステップS1とステップS2の処理が繰り返される。)、結果として、光路(4)の光路長はおよそ一定に保たれる。
【0036】
レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の構造を、レーザ光反射用可動ミラー(32)を例にして図6に示す。レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)は、従来技術をもって実現されるので、ここでは、構造の概要を示すことにする。
レーザ光反射用可動ミラー(32)は、オプティカルコンタクト法によってキャビティ(1)に固着される。また、レーザ光反射用可動ミラー(32)の固着面とは反対側に圧電素子(80)が固着される。なお、レーザ光反射用可動ミラー(32)と圧電素子(80)とは全面固着されず、一部固着されない面部がある。圧電素子(80)は、図示しない公知の電圧印加手段によって電圧を印加されたりあるいは印加が停止されるなどして伸縮するものである。圧電素子(80)は、レーザ光反射用可動ミラー(32)と固着される部分によって可動制限されるため、この伸縮によって、固着されない部分で撓む動作をする。また、この圧電素子(80)は、撓み動作をする部分でレーザ光反射用可動ミラー(32)の鏡面部(321)が固着されている。そのため、鏡面部(321)は、圧電素子(80)の伸縮・撓みに共動することで、キャビティ(1)に対する遠近方向に動くこととなる。なお、鏡面部(321)の表面(レーザ光を反射する面)は、誘電体多層膜で被覆されている。
つまり、レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置の駆動制御は、これらのミラーの鏡面部の位置を駆動制御することで実現される。なお、レーザ光の光路に変化を与えることが可能であればよいので、ここで説明したレーザ光反射用可動ミラーの構造や制御方法に限定されるものではない。
【0037】
この方法によれば、レーザ光反射用可動ミラー(31)の位置変化による閉じた光路(4)の光路長変化は、レーザ光反射用可動ミラー(32)の位置変化により相殺され、光路(4)の光路長はおよそ一定に保たれる。その結果、閉じた光路(4)の光路長をおよそ一定になるように保ったまま、レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置をランダムに変化させることができ、レーザ光反射用ミラー(2)、各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)によるレーザ光の散乱状態がランダムに変化するので、ロックイン現象の影響による角速度信号への誤差を抑えることができる。
【0038】
また、レーザ光反射用可動ミラー(32)は、フォトディテクタ(9)によって検知されるレーザ光強度が常に一定になるように位置制御されるため、外乱(例えば温度等)による閉じた光路(4)の光路長変化に対しても、光路(4)の光路長をおよそ一定に保つように同時に制御されることになる。
【0039】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態である図1に示すリングレーザジャイロ(A)において、レーザ光反射用可動ミラーの動作処理方法を変更した実施形態である。図2は、第2実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)の模式図である。第2実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)の各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置制御方法の詳細を、図4を参照して説明する。なお、第1実施形態である図1に示すリングレーザジャイロ(A)と共通する構成要素には同一符号を与えて説明を略する。
【0040】
第1ミラー駆動制御部(16a)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号に従い、2個のレーザ光反射用可動ミラーのうち、一方のレーザ光反射用可動ミラー(31)の位置をランダムに駆動制御する(ステップS3)。
【0041】
第2ミラー駆動制御部(16b)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号の符号を反転した(逆位相の)信号に従い、他方のレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を駆動制御する(ステップS4)。
【0042】
この結果、レーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)は、閉じた光路(4)の光路長の伸縮に対してお互いに反対向きに動作する。即ち、例えば、一方のレーザ光反射用可動ミラーが光路(4)の光路長を短縮するように位置制御されると、他方のレーザ光反射用可動ミラーは、光路(4)の光路長を伸長するように位置制御されるのである。このため、閉じた光路(4)の光路長を変化させることなく、各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置が変化し、レーザ光反射用ミラー(2)、各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)によるレーザ光の散乱状態がランダムに変化することとなって、ロックイン現象の影響による角速度信号への誤差を抑えることができる。
【0043】
<第2実施形態の変形例>
次に、第2実施形態の変形例を説明する。第2実施形態の変形例は、第2実施形態におけるレーザ光反射用可動ミラーの動作処理方法を変更した実施形態である。第2実施形態の変形例におけるリングレーザジャイロ(A)の各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)の位置制御方法の詳細を、図5(a)(b)を参照して説明する。
【0044】
上記のランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号に基づく位置制御に対して、第1ミラー駆動制御部(16a)および第2ミラー駆動制御部(16b)はそれぞれ、光路長制御信号発生部(15)によって出力された光路長制御信号に基づき、フォトディテクタ(9)によって検知されるレーザ光(6)のレーザ光強度が一定となるように、レーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を同一方向に駆動するような制御を加える。
【0045】
具体的には、第1信号加算部(18a)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号および光路長制御信号発生部(15)によって出力された光路長制御信号を加算して出力する(ステップS5)。第1ミラー駆動制御部(16a)は、第1信号加算部(18a)によって出力された加算信号に従い、レーザ光反射用可動ミラー(31)の位置を駆動制御する(ステップS6)。他方、第2信号加算部(18b)は、ランダム信号発生部(14)によって出力されたランダム信号の符号を反転した(逆位相の)信号および光路長制御信号発生部(15)によって出力された光路長制御信号を加算して出力する(ステップS7)。第2ミラー駆動制御部(16b)は、第2信号加算部(18b)によって出力された加算信号に従い、レーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を駆動制御する(ステップS8)。
【0046】
このようにレーザ光強度が常に一定となるようにレーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置制御をすることで、光路(4)の光路長はおよそ一定に保たれ、外乱(例えば温度等)による閉じた光路(4)の光路長変化に対しても、光路(4)の光路長をおよそ一定に保つように同時に制御されることになる。
【0047】
なお、この第2実施形態の変形例では、光路長制御信号発生部(15)によって出力された光路長制御信号を、ランダム信号およびランダム信号の逆位相の信号(逆位相信号)それぞれに加算するとしたが、光路長制御信号をランダム信号または逆位相信号のいずれか一方のみに加算するとしてもよい。つまり、第1ミラー駆動制御部(16a)は、ランダム信号に従ってレーザ光反射用可動ミラー(31)の位置を駆動制御し、第2ミラー駆動制御部(16b)は、第2信号加算部(18b)によって出力された加算信号に従い、レーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を駆動制御するのである。あるいは、第1ミラー駆動制御部(16a)は、第1信号加算部(18a)によって出力された加算信号に従ってレーザ光反射用可動ミラー(31)の位置を駆動制御し、第2ミラー駆動制御部(16b)は、逆位相信号に従ってレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を駆動制御するのである。
【0048】
なお、このようにいずれか一方のレーザ光反射用可動ミラーを光路長制御信号にも基づいて駆動制御する場合と、既述のように両方のレーザ光反射用可動ミラーを光路長制御信号にも基づいて駆動制御する場合とでは、光路長制御信号に拠るレーザ光反射用可動ミラーの駆動変位量が異なることに留意しなければならない。
例えば、本実施形態のようにレーザ光反射用可動ミラーが2個の場合を例にとると、いずれか一方のレーザ光反射用可動ミラーを光路長制御信号にも基づいて駆動制御する場合におけるそのレーザ光反射用可動ミラーの駆動変位量を無単位表記で「2」とすれば、両方のレーザ光反射用可動ミラーを光路長制御信号にも基づいて駆動制御する場合における両レーザ光反射用可動ミラーの駆動変位量は同じく無単位表記でそれぞれ「1」となる。つまり、レーザ光強度が一定となるように光路長変化を補償するための(光路長制御信号に拠る)制御量は、光路長制御信号にも基づいて駆動制御するレーザ光反射用可動ミラーの個数に係わらないので、その制御量は、光路長制御信号にも基づいて駆動制御するレーザ光反射用可動ミラーの個数に応じて適宜に配分されることになる。従って、各レーザ光反射用可動ミラーの光路長制御信号に拠る駆動変位量は異なるものとしてもよい。
【0049】
ところで、レーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を閉じた光路(4)の光路長が変化しないように動かすと、レーザ光反射用ミラー(2)、各レーザ光反射用可動ミラー(31)(32)による散乱が最小な状態となり、ロックインレベルが最良となるポイントが存在する。従来技術におけるリングレーザジャイロにおいては、このポイントにレーザ光反射用ミラーを位置付ける手法が用いられていた。
【0050】
一方、本発明では、レーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置をランダムに変動させてしまうため、このロックインが最良となる位置に、レーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)を固定することはできない。しかし、本発明では、上記最良ポイントの周辺でレーザ光反射用可動ミラー(31)およびレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置を変動させることで、ロックイン現象の影響による角速度信号への誤差の積算を抑えるとともに、ロックインレベルが良い領域でリングレーザジャイロ(A)を運用することが可能となる。
【0051】
上記各実施形態では、リングレーザジャイロ(A)をトライアングル型とし、レーザ光反射用ミラーを、1個の固定のレーザ光反射用ミラー(2)、2個の可動のレーザ光反射用可動ミラー(31)(32)で構成した。
本発明においては、上記各実施形態の如き形態に限定されるものではなく、リングレーザジャイロ(A)を多角形型とすることもできる。例えば四角形型とし、レーザ光反射用ミラーを、2個の固定のレーザ光反射用ミラー、2個の可動のレーザ光反射用可動ミラーで構成するとしてもよい。なお、この場合、レーザ光反射用ミラーを、1個の固定のレーザ光反射用ミラー、3個の可動のレーザ光反射用可動ミラーで構成するとしてもよいが、リングレーザジャイロを小型軽量化する観点から、可動部分を少なくすることが好適と云える。
【0052】
また、閉じた光路(4)の光路長をレーザ光反射用可動ミラー(32)以外の手段でおよそ一定に制御する場合、可動ミラーの数は1個でも良い。
【0053】
以上説明したように、本発明のリングレーザジャイロでは、閉じた光路を形成するレーザ光反射用ミラーおよびレーザ光反射用可動ミラーによるレーザ光の散乱状態が一定にならないように、レーザ光反射用可動ミラーの位置を不定調信号を用いて制御する。このことによって、光路の周回方向に印加される回転振動に用いる周期信号に不定調信号を付加することなく、ロックイン現象の影響による角速度信号への誤差の積算を抑えることができる。
【0054】
そして、光路の周回方向に印加される回転振動に用いる周期信号に不定調信号が付加されないので、光路の周回方向に印加した回転振動に相当する振動角速度信号に不定調信号に基づく影響が含まれない。従って、角速度情報から振動角速度信号を、ハードウェアないしソフトウェア技術を用いて容易に除去することができる。つまり、光路の周回方向に印加した回転振動の影響を排除した安定した計測を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、例えば角速度、角度の計測や方位計測、ジャイロコンパス、慣性航法装置などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】第1実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)の模式図。
【図2】第2実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)の模式図。
【図3】第1実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)のレーザ光反射用可動ミラーの位置制御処理フロー。
【図4】第2実施形態におけるリングレーザジャイロ(A)のレーザ光反射用可動ミラーの位置制御処理フロー。
【図5】(a)第2実施形態の変形例におけるリングレーザジャイロ(A)のレーザ光反射用可動ミラー(31)の位置制御処理フロー。(b)第2実施形態の変形例におけるリングレーザジャイロ(A)のレーザ光反射用可動ミラー(32)の位置制御処理フロー。
【図6】レーザ光反射用可動ミラーの構造概略図。
【図7】従来技術におけるリングレーザジャイロ(B)の模式図。
【符号の説明】
【0057】
1 キャビティ
2 レーザ光反射用ミラー
31 レーザ光反射用可動ミラー
32 レーザ光反射用可動ミラー
4 光路
5 左回りに発振するレーザ光
6 右回りに発振するレーザ光
7 直角プリズム
8 フォトセンサ
9 フォトディテクタ
10 回転振動発生部
11 信号処理部
12 バイアス信号除去部
13 周期信号発生部
14 ランダム信号発生部
15 光路長制御信号発生部
16a 第1ミラー駆動制御部
16b 第2ミラー駆動制御部
18a 第1信号加算部
18b 第2信号加算部
80 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、
レーザ光発振用のキャビティと、
レーザ光の光路を形成する3個以上のミラーと、
周期信号を発生する周期信号発生手段と、
ランダム性を有する信号(以下、「不定調信号」という。)を発生する不定調信号発生手段と、
周期信号発生手段によって発生された周期信号に従ってキャビティを回転振動させる回転振動発生手段と、
不定調信号発生手段によって発生された不定調信号に従って少なくとも1個以上のミラーを駆動制御することが可能な可動ミラー制御手段と、
レーザ光の光路の長さを制御する光路長制御手段と
を備えたことを特徴とするリングレーザジャイロ。
【請求項2】
レーザ光の光強度を検出するレーザ光強度検出手段と、
レーザ光強度検出手段によって検出されたレーザ光の光強度をおよそ一定に保つようにミラーを駆動制御するための制御信号を発生する光路長制御信号発生手段と
を備え、
上記光路長制御手段が、
光路長制御信号発生手段によって発生された制御信号に従って、上記不定調信号に従って駆動制御されるミラー以外の少なくとも1個のミラーを駆動制御するものである
ことを特徴とする請求項1に記載のリングレーザジャイロ。
【請求項3】
上記光路長制御手段は、
上記可動ミラー制御手段がミラーの駆動制御に用いる不定調信号の逆位相の信号(逆位相信号)に従って、上記可動ミラー制御手段によって駆動制御されるミラー以外のミラーを駆動制御するものであり、
光路長制御手段によって駆動制御されるミラーの数は、上記可動ミラー制御手段によって駆動制御されるミラーの数と同じである
ことを特徴とする請求項1に記載のリングレーザジャイロ。
【請求項4】
レーザ光の光強度を検出するレーザ光強度検出手段と、
レーザ光強度検出手段によって検出されたレーザ光の光強度をおよそ一定に保つようにミラーを駆動制御するための制御信号を発生する光路長制御信号発生手段と
を備え、
光路長制御信号発生手段によって発生された制御信号が、上記可動ミラー制御手段がミラーの駆動制御に用いる不定調信号および上記光路長制御手段がミラーの駆動制御に用いる逆位相信号の少なくともいずれかに加算される
ことを特徴とする請求項3に記載のリングレーザジャイロ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−93551(P2007−93551A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286866(P2005−286866)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】